(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記n型コラム領域の不純物総量と前記p型コラム領域の不純物総量の差を横軸とし、前記スーパージャンクション構造の前記第1主面側の表面を基準として、前記MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さX1を縦軸としたときに、
前記p型コラム領域の不純物総量が前記n型コラム領域の不純物総量よりも多い状態となった場合において、当該深さX1を示す曲線は、前記n型コラム領域の不純物総量と前記p型コラム領域の不純物総量との差が大きくなると所定の値に収束することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のMOSFET。
前記n型コラム領域の不純物総量が前記p型コラム領域の不純物総量と異なった状態となる場合において、前記MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの前記第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、前記MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さをa’とし、前記基準MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さをaとしたときに、
前記平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線、x=a’の直線及びx軸で囲まれた領域の面積は、前記基準平均正電荷密度ρ0(x)を表す曲線、x=aの直線及びx軸で囲まれた領域の面積と等しいことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のMOSFET。
前記MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの前記第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、前記MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの前記第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置をaとし、前記スーパージャンクション構造における、前記平均正電荷密度ρ(x)が0になる深さ位置の深さをdとしたときに、0<d<a/2を満たすことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のMOSFET。
前記半導体基体は、前記n型コラム領域及び前記p型コラム領域の表面上に形成されたp型のベース領域と、前記ベース領域の表面に形成されたn型のソース領域とをさらに有し、
前記MOSFETは、
平面的に見て前記n型コラム領域が位置する領域内において、前記半導体基体の第1主面の表面から前記ベース領域の最深部よりも深い深さ位置まで、かつ、前記ソース領域の一部が内周面に露出するように形成されたトレンチをさらに備え、
前記ゲート絶縁膜は、前記トレンチの内周面に形成されており、
前記ゲート電極は、前記ゲート絶縁膜を介して前記トレンチの内部に埋め込まれてなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のMOSFET。
前記半導体基体は、前記半導体基体の前記第1主面の表面、かつ、前記p型コラム領域の表面上の全部及び前記n型コラム領域の表面上の一部に形成されたベース領域と、前記半導体基体の前記第1主面の表面、かつ、前記n型コラム領域の表面上に前記ベース領域に隣接するように形成されたn型表面高濃度領域と、前記ベース領域の表面に形成されたn型のソース領域とをさらに有し、
前記ゲート電極は、前記ソース領域と前記n型表面高濃度領域とに挟まれた前記ベース領域の表面上に前記ゲート絶縁膜を介して形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のMOSFET。
前記MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの前記第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、深さ方向に沿った軸をx軸とし、前記ベース領域の最下面の深さ位置のx座標を−tとし、前記p型コラム領域の最下部の深さ位置のx座標をbとし、前記平均正電荷密度ρ(x)が0になる深さ位置のx座標をdとしたときに、0<t+d<(t+b)/2を満たすことを特徴とする請求項11又は12に記載のMOSFET。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実施形態1に係る電力変換回路1を示す回路図である。
【
図2】実施形態1に係るMOSFET100を示す断面図である。
【
図3】式(2)及び式(3)の定数A,B及びλについて説明するために示す模式図である。なお、
図3においては、スーパージャンクション構造117(n型コラム領域114及びp型コラム領域116)以外の構成要素の図示を省略している。なお、
図3は、
図2の一点鎖線で囲まれた領域に対応した図である。
【
図4】実施形態1に係るMOSFET100をターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、スーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)を説明するために示す模式図である。なお、
図4においては、スーパージャンクション構造117(n型コラム領域114及びp型コラム領域116)、バッファ層113以外の構成要素の図示を省略している(
図5(b)において同じ。)。
図4左側の2つの軸のうち、左側のX軸はスーパージャンクション構造の第1主面側の表面の深さ位置(ベース領域の最下面の深さ位置)を基準(X=0)としたときの深さを示す軸であり、X座標がX
0の位置はMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置であり、X座標がX
1の位置はMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置であり、X座標がX
2の位置はp型コラム領域116の最下部の深さ位置である(
図5、10及び11において同じ)。
図4左側の2つの軸のうち、右側のx軸はMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準(x=0)としたときの深さxを示す軸であり、x座標が−tの位置はベース領域118の最下面の深さ位置であり、x座標がbの位置はp型コラム領域116の最下部の深さ位置であり、x座標がaの位置はMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置である(
図5〜
図9において同じ)。
【
図5】比較例1に係るMOSFET800を説明するために示す図である。
図5(a)は比較例1に係るMOSFET800を示す断面図であり、
図5(b)は比較例1に係るMOSFET800をターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、スーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)を説明するために示す模式図である。
【
図6】比較例1に係るMOSFET800(基準MOSFET)において、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)、p型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)、スーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)(基準平均正電荷密度ρ
0(x))及び電界E(x)(E
0(x))の深さxに対する変化を表すグラフである。
図6(a)はn型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図6(b)はn型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図6(c)はスーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図6(d)はスーパージャンクション構造の所定深さ位置における電界E(x)の深さxに対する変化を表すグラフである(
図7において同じ。)。なお、
図6においては、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準(x=0)としている(
図7〜
図9において同じ。)
【
図7】実施形態1に係るMOSFET100(基準MOSFET)において、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、n型コラム領域114の所定深さ位置における幅W
n(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における幅W
p(x)、n型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)、スーパージャンクション構造117の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)(基準平均正電荷密度ρ
0(x))及び電界E(x)(E
0(x))の深さxに対する変化を表すグラフである。
【
図8】比較例1におけるn過多MOSFETにおいて、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)、p型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)、スーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)及び電界E(x)の深さxに対する変化を表すグラフである。
図8(a)はn型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図8(b)はn型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図8(c)はスーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図8(d)はスーパージャンクション構造の所定深さ位置における電界E(x)の深さxに対する変化を表すグラフである(
図9において同じ。)。なお、x座標が−t’の位置はベース領域118の最下面の深さ位置であり、x座標がb’の位置はp型コラム領域116の最下部の深さ位置であり、x座標がa’の位置はMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置である(
図9において同じ)。また、t’+b’=t+bを満たす(
図9において同じ)。
【
図9】実施形態1におけるn過多MOSFETにおいて、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、n型コラム領域114の所定深さ位置における幅W
n(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における幅W
p(x)、n型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)、スーパージャンクション構造117の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)及び電界E(x)の深さxに対する変化を表すグラフである。
【
図10】比較例1における基準MOSFET及びn過多MOSFETについて、基準平均正電荷密度ρ
0(X)、平均正電荷密度ρ(X)、及び、それぞれの電界E
0(X)、E(X)の深さXに対する変化を表すグラフである。
図10(a)は比較例1における基準MOSFET及びn過多MOSFETについて、基準平均正電荷密度ρ
0(X)及び平均正電荷密度ρ(X)の深さXに対する変化を表すグラフであり、
図10(b)は比較例1における基準MOSFET及びn過多MOSFETについて、それぞれの電界E
0(X)、E(X)の深さXに対する変化を表すグラフである。
【
図11】実施形態1における基準MOSFET及びn過多MOSFETについて、基準平均正電荷密度ρ
0(X)、平均正電荷密度ρ(X)、及び、それぞれの電界E
0(X)、E(X)の深さXに対する変化を表すグラフである。
図11(a)は実施形態1における基準MOSFET及びn過多MOSFETについて、基準平均正電荷密度ρ
0(X)及び平均正電荷密度ρ(X)の深さXに対する変化を表すグラフであり、
図11(b)は実施形態1における基準MOSFET及びn過多MOSFETについて、それぞれの電界E
0(X)、E(X)の深さXに対する変化を表すグラフである。
【
図12】実施形態1に係るMOSFET100において、n型コラム領域の不純物総量とp型コラム領域の不純物総量の差(チャージバランス)と、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置X
0、当該平均正電荷密度ρ(x)が0になるときの深さ位置X
m及びMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さX
1との関係を示すグラフである。
【
図13】実施形態1に係るMOSFET100及び比較例1に係るMOSFET800において、チャージバランスと、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失Eоff及びMOSFETをターンオンしたときのスイッチング損失Eоnとの関係を示すグラフである。
図13(a)は比較例1に係るMOSFET100において、チャージバランスと、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失Eоff及びMOSFETをターンオンしたときのスイッチング損失Eоnとの関係を示すグラフであり、
図13(b)は実施形態1に係るMOSFET800において、チャージバランスと、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失Eоff及びMOSFETをターンオンしたときのスイッチング損失Eоnとの関係を示すグラフである。
【
図14】比較例1に係るMOSFET800を用いた電力変換回路において、MOSFETをターンオフしたときのドレイン・ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id及びゲート・ソース間電圧Vgsの時間推移シミュレーション結果を示すグラフである。なお、
図14中、p過多は、p型コラム領域の不純物総量がn型コラム領域の不純物総量よりも10%多い場合を示し、n過多は、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量よりも10%多い場合を示し、Justは、n型コラム領域の不純物総量とp型コラム領域の不純物総量とが等しい場合を示す(
図15において同じ。)。また、電源電圧は300Vである(
図15において同じ)。
【
図15】実施形態1に係る電力変換回路1において、MOSFETをターンオフしたときのドレイン・ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id及びゲート・ソース間電圧Vgsの時間推移シミュレーション結果を示すグラフである。
【
図16】比較例1に係るMOSFET800において、ターンオフ期間中のある瞬間の空乏層の様子を示す模式図である。なお、
図16において、ソース領域の図示を省略している(
図17において同じ)。
【
図17】実施形態1に係るMOSFET100において、MOSFETをターンオフしたときのある瞬間の空乏層の様子を示す模式図である。なお、
図17は、
図16と同じタイミングの空乏層の様子を示す。
【
図18】比較例2に係るMOSFET700及び実施例に係るMOSFET100Aを示す断面図である。
図18(a)は比較例2に係るMOSFET700を示す断面図であり、
図18(b)は実施例に係るMOSFET100Aを示す断面図である。なお、
図18は模式図であり、
図19のシミュレーション結果に用いた構造の寸法及び形状を厳密に反映したものではない。
【
図19】比較例2に係るMOSFET700及び実施例に係るMOSFET100Aにおいて、MOSFETをターンオフしたときの等電位線のシミュレーション結果を示す図である。
図19(a)は比較例2に係るMOSFET700において、MOSFETをターンオフしたときの等電位線のシミュレーション結果を示す図であり、
図19(b)は実施例に係るMOSFET100Aにおいて、MOSFETをターンオフしたときの等電位線のシミュレーション結果を示す図である。なお、
図19(a)は、
図18(a)の一点鎖線で囲まれた領域に対応した図であり、
図19(b)は、
図18(b)の一点鎖線で囲まれた領域に対応した図である。また、
図19において太い黒実線は、n型コラム領域とp型コラム領域との境界を示し、黒い細実線は3Vごとに引いた等電位線を示し、白実線はキャリアが通常時の5%となる領域とそれ以外の領域との境界を示す。
【
図20】実施形態2に係るMOSFET102を説明するために示す図である。
図20(a)は実施形態2に係るMOSFET102を示す断面図であり、
図20(b)はMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、n型コラム領域114の所定深さ位置における幅W
n(x)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における幅W
p(x)の深さxに対する変化を表すグラフであり、
図20(c)はn型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)の深さxに対する変化を表すグラフである。
【
図21】実施形態3に係るMOSFET200を示す断面図である。
【
図22】実施形態4に係る電力変換回路2を示す回路図である。
【
図23】変形例1に係るMOSFET104を示す断面図である。
【
図24】変形例2に係るMOSFET106を示す断面図である。
【
図25】従来のMOSFET900を示す断面図である。なお、符号912は低抵抗半導体層を示し、符号913はバッファ層を示し、符号915はn型半導体層を示し、符号930はソース電極を示し、符号932はドレイン電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明のMOSFET及び電力変換回路について、図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、各図面は模式図であり、必ずしも実際の寸法を厳密に反映したものではない。
【0037】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る電力変換回路1の構成及び動作
実施形態1に係る電力変換回路1は、DC−DCコンバータやインバータ等の構成要素であるチョッパ回路である。実施形態1に係る電力変換回路1は、
図1に示すように、リアクトル10と、電源20と、実施形態1に係るMOSFET100と、整流素子30とを備える。
【0038】
リアクトル10は、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄えることができる受動素子である。
電源20は、リアクトル10に電流を供給する直流電源である。MOSFET100は、電源20からリアクトル10に供給する電流を制御する。具体的には、MOSFET100は、ドライブ回路(図示せず)からMOSFET100のゲート電極に印加されるクロック信号に応答してスイッチングし、オン状態になると、リアクトル10と電源20の負極との間を導通させる。MOSFET100の具体的な構成については、後述する。
整流素子30は、電源20からリアクトル10に供給する電流の整流動作を行うファスト・リカバリー・ダイオードである。具体的には、整流素子30は、ライフタイムコントロールされたpinダイオードである。
【0039】
電源20の陽極(+)は、リアクトル10の一方端12及び整流素子30のカソード電極と電気的に接続されており、電源20の負極(−)は、MOSFET100のソース電極と電気的に接続されている。また、MOSFET100のドレイン電極は、リアクトル10の他方端14及び整流素子30のアノード電極と電気的に接続されている。
【0040】
このような電力変換回路1において、MOSFET100がオン状態のときは、電源20の正極(+)からリアクトル10及びMOSFET100を経由して負極(−)に至る電流経路が形成され、当該電流経路に電流が流れる。このとき、リアクトル10には電源20の電気エネルギーが蓄積される。
そして、MOSFET100をターンオフしたときには、電源20の正極(+)からリアクトル10及びMOSFET100を経由して負極(−)に至る電流経路を流れる電流が減少し、やがて0になる。一方、リアクトル10は、自己誘導作用により、電流変化を妨げる向きに起電力を発生させる(リアクトル10に蓄積された電気エネルギーが放出される)。リアクトル10の起電力により発生した電流は整流素子30に向かい、整流素子30に順方向電流が流れる。
なお、MOSFET100を流れる電流量と整流素子30を流れる電流量の和は、リアクトル10に流れる電流量に等しい。そして、MOSFET100のスイッチング期間は短い(長く見積もっても100nsec)ため、その期間内においてリアクトル10を流れる電流量はほとんど変化しない。従って、MOSFET100を流れる電流量と整流素子30を流れる電流量の和は、オン状態、ターンオフ期間、オフ状態のいずれの場合でもほとんど変化しない。
【0041】
ところで、このような電力変換回路1において、MOSFETとして、n型コラム領域914の側壁が、第1主面側が狭いテーパ形状となっており、かつ、p型コラム領域916の側壁が、底が狭いテーパ形状となっているMOSFET(例えば、従来のMOSFET900)を用いた場合には、ゲート周辺のチャージバランスにバラツキがあると、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキが生じ易くなるという問題がある(後述する
図14参照。)。
【0042】
特に、電力変換回路として、電流臨界型PFCや電流不連続型PFC等のようにターンオフ時のスイッチング損失の影響が大きい回路を用いた場合において、MOSFETとして、n型コラム領域の側壁が、第1主面側が狭いテーパ形状となっており、かつ、p型コラム領域の側壁が、底が狭いテーパ形状となっているMOSFETを用いた場合(例えば、従来のMOSFET900を用いた場合)には、後述する
図13(b)のEoffに示すように、ターンオフしたときのチャージバランスにバラツキが生じるとスイッチング損失のバラツキが大きくなり、電力変換回路の動作に不具合が生じうる、という問題がある。
【0043】
そこで、本発明においては、MOSFETとして、下記の実施形態1に係るMOSFET100を用いる。
【0044】
2.実施形態1に係るMOSFET100の構成
実施形態1に係るMOSFET100は、
図2に示すように、半導体基体110と、トレンチ122と、ゲート電極126と、層間絶縁膜128と、ソース電極130と、ドレイン電極132とを備えるトレンチゲート型のMOSFETである。MOSFET100のドレイン・ソース間耐圧は、300V以上であり、例えば600Vである。
【0045】
半導体基体110は、n型の低抵抗半導体層112、低抵抗半導体層112上に形成され低抵抗半導体層112よりも不純物濃度が低いn型のバッファ層113、バッファ層113上に水平方向に沿って交互に配列されたn型コラム領域114及びp型コラム領域116から構成されたスーパージャンクション構造117、n型コラム領域114及びp型コラム領域116の表面上に形成されたp型のベース領域118、並びに、ベース領域118の表面に形成されたn型のソース領域120を有する。なお、バッファ層113及びn型コラム領域114は一体的に形成されており、バッファ層113とn型コラム領域114とでn型半導体層115を構成している。
【0046】
n型コラム領域114及びp型コラム領域116は、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準(x=0)として、スーパージャンクション構造における所定深さ位置の深さxを横軸とし、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)又はp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)を縦軸としたときに、当該幅W
n(x)は、上に凸の右上がりの曲線で表され、当該幅W
p(x)は、下に凸の右下がりの曲線で表される(
図7(a)参照。)。すなわち、n型コラム領域114は、断面で見ると伏せたグラスのような形状をしており、p型コラム領域116は、断面で見るとトランペットのような形状をしている。
【0047】
具体的には、スーパージャンクション構造における所定深さ位置の深さxを横軸とし、n型コラム領域114の所定深さ位置における幅W
n(x)又はp型コラム領域116の所定深さ位置における幅W
p(x)を縦軸としたときに、p型コラム領域の幅Wp(x)は、以下の式(2)
【数2】
(符号A,B,λは定数)
で表されn型コラム領域の幅Wn(x)は、以下の式(3)
【数3】
(符号A,B,λは定数)
で表される。
【0048】
ここで、上記式(2)及び式(3)の定数W、A、B及びλの意味について説明する(
図3参照。)。
Wは、W
n(x)+W
p(x)=2Wを満たす正の定数を示す。言い換えると、Wは、n型コラム領域114とp型コラム領域116の平均のピッチ幅(平均コラム幅)を示す。
また、定数Bは、深さxを無限大としたときに、p型コラム領域116の幅と平均コラム幅Wとの差分を示す。従って、p型コラム領域116の幅は、深さxを無限大としたときに平均コラム幅WよりもBだけ細くなっている。なお、n型コラム領域114とp型コラム領域116との境界線を描き、平均コラム幅Wの線との乖離を見る場合、片側の乖離幅はB/2となる。従って、両側の乖離幅を足して、合計の乖離幅はBとなる。このとき、n型コラム領域114は、平均コラム幅WよりもBだけ太くなっている。また、上記から自然に導かれるが、深さxが無限大となったときの想定において、p型コラム領域116とn型コラム領域114との差分は、2Bとなる。
また、定数Aは指数関数e
xの係数であり、x=0のときに、深さが無限大の時のp型コラム領域116の幅から広くなっている幅を示している。
さらにまた、定数λは、指数関数の減衰の速さを与える尺度である。実施形態1においては、p型コラム領域116の幅が、深さ無限大におけるp型コラム領域116の幅W−Bに漸近するときの深さの尺度を示す。同様に、n型コラム領域114の幅が、深さ無限大におけるn型コラム領域114の幅W+Bに漸近するときの深さの尺度を示す。
図3に示すように、n型コラム領域114とp型コラム領域116との境界線において、任意の深さfにおける接線をひき、この接線と、漸近線との交点をとると、交点の深さは、必ずf+λとなる。また、深さaにおける上記境界線と漸近線との乖離幅と、深さf+λにおける上記境界線と漸近線との乖離幅とを比較すると、後者の乖離幅は、前者の乖離幅の1/eとなる(約2.7分の1)。
【0049】
n型コラム領域114の不純物濃度及びp型コラム領域116の不純物濃度はいずれも深さによらず一定である。
【0050】
n型コラム領域114、p型コラム領域116、ソース領域120、トレンチ122及びゲート電極126はいずれも、平面的に見てストライプ状に形成されている。
【0051】
低抵抗半導体層112の厚さは、例えば100μm〜400μmの範囲内にあり、低抵抗半導体層112の不純物濃度は、例えば1×10
19cm
−3〜1×10
20cm
−3の範囲内にある。n型半導体層115の厚さは、例えば5μm〜120μmの範囲内にある。n型半導体層115の不純物濃度は、例えば5×10
13cm
−3〜1×10
16cm
−3の範囲内にある。p型コラム領域116の不純物濃度は、例えば5×10
13cm
−3〜1×10
16cm
−3の範囲内にある。ベース領域118の最深部の深さ位置は、例えば0.5μm〜4.0μmの範囲内にあり、ベース領域118の不純物濃度は、例えば5×10
16cm
−3〜1×10
18cm
−3の範囲内にある。ソース領域120の最深部の深さ位置は、例えば0.1μm〜0.4μmの範囲内にあり、ソース領域120の不純物濃度は、例えば5×10
19cm
−3〜2×10
20cm
−3の範囲内にある。
【0052】
トレンチ122は、平面的に見てn型コラム領域114が位置する領域内に、半導体基体110の第1主面の表面からベース領域118の最深部よりも深い深さ位置まで、ソース領域120の一部が内周面に露出するように形成されている。トレンチ122の深さは、例えば5μmである。
【0053】
ゲート電極126は、トレンチ122の内周面に形成されたゲート絶縁膜124を介してトレンチ122の内部に埋め込まれてなる。ゲート絶縁膜124は、熱酸化法により形成された厚さが例えば100nmの二酸化珪素膜からなる。ゲート電極126は、CVD法及びイオン注入法により形成された低抵抗ポリシリコンからなる。
【0054】
層間絶縁膜128は、ソース領域120の一部、ゲート絶縁膜124及びゲート電極126を覆うように形成されている。層間絶縁膜128は、CVD法により形成された厚さが例えば1000nmのPSG膜からなる。
【0055】
ソース電極130は、ベース領域118、ソース領域120の一部、及び、層間絶縁膜128を覆うように形成され、ソース領域120と電気的に接続されている。ドレイン電極132は、低抵抗半導体層112の表面上に形成されている。ソース電極130は、スパッタ法により形成された厚さが例えば4μmのアルミニウム系の金属(例えば、Al−Cu系の合金)からなる。ドレイン電極132は、Ti−Ni−Auなどの多層金属膜により形成されている。多層金属膜全体の厚さは、例えば0.5μmである。
【0056】
3.スーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)について
MOSFETをターンオフしたときの、n型コラム領域114の正電荷の電荷量及びp型コラム領域116の負電荷の電荷量を評価するために、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、スーパージャンクション構造の所定深さ位置における平均正電荷密度ρ(x)(以下、単に平均正電荷密度ρ(x)という。)を用いる。
【0057】
MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、スーパージャンクション構造117における所定深さ位置の深さ(以下、単に深さxという)をxとすると、平均正電荷密度ρ(x)は、以下の式(1)で表される。
【数1】
(式(1)中、W
n(x)は、n型コラム領域114の所定深さ位置における幅を示し、N
d(x)は、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、n型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度を示し、W
p(x)は、p型コラム領域の所定深さ位置における幅を示し、N
a(x)は、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、p型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度を示し、qは、電気素量を示し、Wは、W
n(x)+W
p(x)=2Wを満たす正の定数を示す。
図4参照。)
【0058】
ここで、n型コラム領域114の不純物濃度とp型コラム領域116の不純物濃度がそれぞれ深さによらず一定であるとすると、N
a(x)=N
d(x)=N
0となり、以下のような式(6)で表される。
【数6】
【0059】
また、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、スーパージャンクション構造117の所定深さ位置における電界E(x)(以下、単に電界E(x)という。)は、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117が空乏化したときの、n型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷(ドナー)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷(アクセプタ)から発生する電界を表したものであり、以下の式(7)で表される。
【数7】
(式(7)中、εは、半導体基体の材料(例えばシリコン)の誘電率を示す。)
【0060】
次に、実施形態1に係るMOSFET100の平均正電荷密度ρ(x)を説明するために、まず、比較例1に係るMOSFET800を説明する。
比較例1に係るMOSFET800(
図5参照。)は、基本的には実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するが、従来のMOSFET900と同様に、n型コラム領域814の側壁は、第1主面側が狭いテーパ形状となっており、p型コラム領域816の側壁は、底が狭いテーパ形状となっている点で、実施形態1に係るMOSFET100とは異なる。
【0061】
比較例1に係るMOSFET800においては、深さxを横軸とし、n型コラム領域814の所定深さ位置における幅W
n(x)又はp型コラム領域816の所定深さ位置における幅W
p(x)を縦軸としたときに、当該幅W
p(x)は、右下がりの直線で表され、当該幅W
n(x)は、右上がりの直線で表される(
図6(a)参照。)。
また、比較例1に係るMOSFET800においては、実施形態1に係るMOSFET100と同様に、n型コラム領域814の不純物濃度及びp型コラム領域816の不純物濃度は深さによらず一定である(
図6(b)参照。)。
これらのことから、比較例1に係るMOSFET800において、平均正電荷密度ρ(x)は、右上がりの直線で表される(
図6(c)参照。)。
【0062】
平均正電荷密度ρ(x)を表す直線について詳しく見ると、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、深さ方向に沿った軸をx軸とし、ベース領域の最下面の深さ位置のx座標を−tとし、p型コラム領域の最下部の深さ位置のx座標をbとし、平均正電荷密度ρ(x)が0になる深さ位置のx座標をdとし、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置のx座標をaとすると、以下の(1)〜(3)が成り立つ。
(1)d=a/2を満たす。すなわち、当該平均正電荷密度ρ(x)が0になるときの所定深さ位置の深さdは、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さaの半分の深さとなる。(すなわち、x=a/2のときの深さ位置においてチャージバランスが取れている)。
(2)x=0のときの当該平均正電荷密度ρ(0)の値が負であり、かつ、x=aのときの当該平均正電荷密度ρ(a)の値が正である。
(3)当該平均正電荷密度ρ(x)を表す直線、x=0の直線及び横軸(x軸)で囲まれた領域の面積S1は、当該平均正電荷密度ρ(x)を表す直線、x=aの直線及び横軸(x軸)で囲まれた領域の面積S2と等しい。
【0063】
また、比較例1に係るMOSFET800において、電界E(x)は、x=a/2を頂点とする下に凸の二次関数となる(
図6(d)参照。)。なお、電界E(x)が負になるということは、xが0に近づく向きに電界ベクトルが向いていることを示している。
【0064】
これに対して、実施形態1に係るMOSFET100においては、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準としたときの深さxを横軸とし、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)又はp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)を縦軸としたときに、当該幅W
n(x)は、上に凸の単調な右上がりの曲線で表され、当該幅W
p(x)は、下に凸の単調な右下がりの曲線で表される(
図7(a)参照。)。
また、実施形態1に係るMOSFET100においては、正電荷の平均密度N
d(x)と負電荷の平均密度N
a(x)は深さによらず一定である(
図7(b)参照。)。これらのことから、実施形態1に係るMOSFET100において、平均正電荷密度ρ(x)は、上に凸の単調な右上がりの曲線で表される(
図7(c)参照。)。
【0065】
平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線について詳しく見ると、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、深さ方向に沿った軸をx軸とし、ベース領域の最下面の深さ位置のx座標を−tとし、p型コラム領域の最下部の深さ位置のx座標をbとし、平均正電荷密度ρ(x)が0になる深さ位置のx座標をdとし、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置のx座標をaとすると、以下の(1)〜(4)が成り立つ。
(1)0<d<a/2を満たす。すなわち、当該平均正電荷密度ρ(x)が0になるときの所定深さ位置の深さdは、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さaの半分の深さよりも浅い(チャージバランスが取れている深さ位置が比較例1に係るMOSFET800におけるチャージバランスが取れている深さ位置よりも浅い)。
(2)x=0のときの当該平均正電荷密度ρ(0)の値が負であり、かつ、x=aのときの当該平均正電荷密度ρ(a)の値が正である。
(3)当該平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線、x=0の直線及び横軸(x軸)で囲まれた領域の面積S3は、当該平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線、x=aの直線及び横軸(x軸)で囲まれた領域の面積S4と等しい。
(4)0<t+d<(t+b)/2を満たす。
【0066】
また、電界E(x)は、x=dを頂点とする下に凸の関数となる(
図7(d)参照。)。このとき、x<dのとき、電界E(x)は急激に減少し、x>dのとき、電界E(x)は緩やかに増加する。
【0067】
4.チャージバランスのバラツキとスイッチング特性との関係について
(1)チャージバランスのバラツキと平均正電荷密度ρ(x)のずれについて
実施形態1に係るMOSFETにおける、チャージバランスのバラツキとスイッチング特性との関係について説明するために、まず、実施形態1に係るMOSFETのチャージバランスにバラツキが生じた場合の平均正電荷密度ρ(x)のずれについて説明する。このために、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が等しく、チャージバランスにバラツキが生じていない基準MOSFETと、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が等しく、チャージバランスにバラツキが生じn過多になったMOSFET(n過多MOSFET)とを比較する。
【0068】
(1−1)比較例1における基準MOSFETについて
比較例1における基準MOSFETは、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が比較例1に係るMOSFET800と等しく、かつ、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しく、チャージバランスが取れているMOSFETである(
図6参照。)。
具体的には、比較例1に係る基準MOSFETは、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が比較例1に係るMOSFET800と等しく、かつ、p型コラム領域のp型不純物の濃度勾配及びn型コラム領域のn型不純物の濃度勾配が比較例1に係るMOSFET800と等しく、かつ、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しくなるようにp型コラム領域の不純物濃度を調整した(n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しいため不純物濃度を調整しない場合も含む)構成のMOSFETである。
なお、基準MOSFETの平均正電荷密度を基準平均正電荷密度ρ
0(x)で表す。
【0069】
(1−2)比較例1におけるn過多MOSFETについて
比較例1におけるn過多MOSFETは、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が比較例1に係るMOSFET800と等しく、かつ、n型コラム領域114の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量よりも大きくなるように構成されたMOSFETである(
図8参照。)。
【0070】
比較例1におけるn過多MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における幅Wn(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における幅Wn(x)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度Na(x)は、比較例1に係る基準MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における幅Wn(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における幅Wn(x)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度Na(x)と同じである(
図8(a)及び
図8(b)参照。)。一方、比較例1におけるn過多MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度Nd(x)は、比較例1における基準MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度Nd(x)よりも大きくなっている。
【0071】
比較例1におけるn過多MOSFETにおいては、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量よりも大きくなっているため、比較例1における基準MOSFETとは空乏層の伸び方が異なる。すなわち、n型コラム領域114においては、空乏層が伸び難くなり、p型コラム領域116においては、空乏層が伸び易くなる。従って、|−t’|<|−t|を満たす。
【0072】
比較例1におけるn過多MOSFETの平均正電荷密度ρ(x)及び電界E(x)は、比較例1に係る基準MOSFETの平均正電荷密度ρ(x)及び電界E(x)とよく似たグラフをしている(
図8(c)及び
図8(d)参照)。
【0073】
なお、当該n過多平均正電荷密度ρ(x)を表す直線、x=0の直線及びx軸で囲まれた領域の面積S1’は、当該n過多平均正電荷密度ρ(x)を表す直線、x=aの直線及びx軸で囲まれた領域の面積S2’と等しい。
【0074】
(1−3)実施形態1における基準MOSFETについて
実施形態1における基準MOSFETは、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が実施形態1に係るMOSFET100と等しく、かつ、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しく、チャージバランスが取れているMOSFETである(
図7参照。)。
具体的には、実施形態1における基準MOSFETは、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が実施形態1に係るMOSFET100と等しく、かつ、p型コラム領域のp型不純物の濃度勾配及びn型コラム領域のn型不純物の濃度勾配が実施形態1に係るMOSFET100と等しく、かつ、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しくなるようにp型コラム領域の不純物濃度を調整した(n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しいため不純物濃度を調整しない場合も含む)構成のMOSFETである(
図7(b)参照。)。実施形態1においては、実施形態1における基準MOSFETは、実施形態1に係るMOSFETと等しい。
なお、このときの平均正電荷密度を基準平均正電荷密度ρ
0(x)で表す。
【0075】
(1−4)実施形態1におけるn過多MOSFETについて
実施形態1におけるn過多MOSFETは、スーパージャンクション構造(p型コラム領域及びn型コラム領域)の形状が実施形態1に係るMOSFET100と等しく、かつ、n型コラム領域114の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量よりも大きくなるように構成されたMOSFETである。
【0076】
実施形態1におけるn過多MOSFETにおいては、n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量と等しくなっているため、実施形態1に係る基準MOSFETとは空乏層の伸び方が異なる。すなわち、n型コラム領域114においては、空乏層が伸び易くなり、p型コラム領域116においては、空乏層が伸び難くなる。従って、|−t’|<|−t|を満たす。
【0077】
実施形態1におけるn過多MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における幅Wn(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における幅Wn(x)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度Na(x)は、実施形態1に係る基準MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における幅Wn(x)、p型コラム領域116の所定深さ位置における幅Wn(x)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度Na(x)と同じである(
図9(a)及び
図9(b)参照。)。一方、実施形態1におけるn過多MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度Nd(x)は、実施形態1に係る基準MOSFETのn型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度Nd(x)よりも大きくなっている。
【0078】
実施形態1におけるn過多MOSFETの平均正電荷密度ρ(x)及びE(x)の曲線は、比較例1に係る基準MOSFETの平均正電荷密度ρ(x)及びE(x)とよく似た形状の曲線をしている(
図9(c)及び(d)参照。)。
【0079】
なお、当該n過多平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線、x=0の直線及びx軸で囲まれた領域の面積S3’は、当該n過多平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線、x=aの直線及びx軸で囲まれた領域の面積S4’と等しい。
【0080】
また、当該n過多平均正電荷密度ρ(x)を表す曲線、x=a’の直線及びx軸で囲まれた領域の面積S4’(
図9参照。)は、基準平均正電荷密度ρ
0(x)を表す曲線、x=aの直線及びx軸で囲まれた領域の面積S4(
図7参照。)と等しい。
【0081】
(1−5)チャージバランスのバラツキと平均正電荷密度ρ(x)のずれと関係について
次に、チャージバランスのバラツキと平均正電荷密度ρ(x)のずれとの関係について説明する。スーパージャンクション構造の第1主面側の表面を基準として、比較例1の場合及び実施形態1の場合のいずれも、n過多MOSFETにおける平均正電荷密度ρ(X)のグラフが基準平均正電荷密度ρ
0(X)のグラフよりも左側に位置する(
図10及び
図11参照。)。従って、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合に、n過多MOSFETにおける電界E(X)が最も高い点(E(X
m’))が、基準MOSFETにおける電界E(X)が最も高い点(E(X
m))よりもソース電極側に近くなる。
【0082】
比較例1におけるn過多MOSFET及び比較例1における基準MOSFETにおいて、スーパージャンクション構造の上面(ベース領域の最下面)を基準として、n過多MOSFETにおける平均正電荷密度ρ(X)の直線と基準平均正電荷密度ρ
0(X)の直線とを比較すると、ΔX
0(=|X
0−X
0’|)とΔX
m(=|X
m−X
m’|)が大きく変化せず(
図10(a)参照。)、グラフからは読み取りにくいが、ΔX
0(=|X
0−X
0’|)>ΔX
m(=|X
m−X
m’|)の関係を満たす。また、グラフよりΔX
1(=|X
1−X
1’|)はΔX
mよりも小さい。従って、ΔX
0>ΔX
m>ΔX
1の関係を満たす。
また、電界E(X)においては、ΔX
0とΔX
mとが大きく変化しないため、比較例1におけるn過多MOSFETの曲線は比較例1に係る基準MOSFETの曲線と形状がほとんど変わらず、ソース電極側に平行移動したものに近い形になっている(
図10(b)参照。)。
【0083】
これに対して、実施形態1におけるn過多MOSFET及び実施形態1における基準MOSFETにおいて、スーパージャンクション構造の上面(ベース領域の最下面)を基準として、n過多MOSFETにおける平均正電荷密度ρ(X)の曲線と基準平均正電荷密度ρ
0(X)の曲線とを比較すると、ΔX
0(=|X
0−X
0’|)<ΔX
m(=|X
m−X
m’|)の関係を満たす。また、グラフよりΔX
1(=|X
1−X
1’|)はΔX
mよりも大きくなる(
図11(a)参照。)。従って、ΔX
0<ΔX
m<ΔX
1の関係を満たす。また、電界E(X)においては、ΔX
0<ΔX
mとなるため、X
0<X<X
mの範囲内において、傾きが急になっている(
図11(b)参照。)。
【0084】
従って、実施形態1に係るMOSFET100は、ΔX
0(=|X
0−X
0’|)<ΔX
m(=|X
m−X
m’|)の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合であっても、第1主面側(ゲート電極側)の平均正電荷密度ρ(X)のずれが少なく、電界E(X)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域の電界E(X)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0085】
また、実施形態1におけるn過多MOSFET及び実施形態1における基準MOSFETにおいては、スーパージャンクション構造の第1主面側の表面を基準として、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さX
1の当該平均正電荷密度をρ(X
1)とし、基準MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置をX
1’の当該基準平均正電荷密度をρ
0(X
1)としたときに、ρ
0(X
1)<ρ(X
1’)を満たす。
また、スーパージャンクション構造の第1主面側の表面を基準として、n過多MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置X
0の当該平均正電荷密度をρ(X
0’)とし、基準MOSFETをターンオフして前記スーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層のうち最も深い深さ位置X
0の当該基準平均正電荷密度をρ
0(X
0)としたときに、ρ
0(X
0)>ρ(X
0’)を満たす。
【0086】
(1−6)スーパージャンクション構造の構成と平均正電荷密度ρ(x)のずれと関係について
ここで、実施形態1に係るMOSFET100が、上記したようにΔX
0(=X
0−X
0’)<ΔX
m(=X
m−X
m’)の関係を満たすことを確かめる。
p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)が以下の式(2)で表され、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)が以下の式(3)で表される。
【数2】
【数3】
【0087】
これを式変形するとp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)及びn型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)は以下の式(8)及び(9)で表される。
【数8】
【数9】
式(8)及び式(9)を式(6)へ代入し、x−λln(A/B)を改めてxと置き換え(このことはx座標を平行移動したことに相当する)、整理すると以下の式(10)となる
【数10】
一方、p型コラム領域116の不純物濃度が以下のように変動したとする(式(11))。
【数11】
(但し、|δ|<<1) ここで、δは変動幅を表す(例えば、p型コラム領域116の不純物濃度が5%増加した場合にはδ=0.05となり、p型コラム領域116の不純物濃度が5%減少した場合にはδ=−0.05となる。)。式(11)を式(1)に代入すると以下の式(12)となる。
【数12】
ここで、式(8)及び式(9)を式(11)へ代入するが、|δ|<<1であることから、exp(δ)≒1+δと近似できる。さらに、x−λln(A/B)を改めてxと置き換え、整理すると以下の式(13)になる。
【数13】
【0088】
ここで、
図11(c)及び
図11(d)からもわかるように、最大電界強度点X
mではρ(x)=0となるため、最大電界強度点はx=λδW/(2+δ)Bのときとなる。式(10)と式(13)とを比較すると、チャージバランスのバラツキが生じたときに最大電界強度点はλδW/(2+δ)Bだけソース電極側に移動していることとなる(すなわち、ΔX
m=λδW/(2+δ)Bとなる)。ここで、δ=−0.05、W=5μm、λ=10μm、N
0=3×10
15cm
−3、B=0.868μmを代入すると、最大電界強度点の移動量ΔX
m=1.48μmとなる。なお、Bの値は、ρ(X)から電界E(X)を算出し、最大電界強度E(X
m)=−2.5×10
5(V/cm)とし、E(X
0)=0、E(X
1)=0となることからこれらの式から算出した。
【0089】
また、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置は、ρ(X)が最小となる点となる。式(10)と式(13)とを比較すると、当該位置は、チャージバランスのバラツキによって(1+δ/2)B−δW/2だけソース電極側に平行移動していることになる(すなわち、ΔX
0=(1+δ/2)B−δW/2)となる。ここで上記したδ=−0.05、W=5μm等の数値を代入すると、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置の移動量ΔX
0=0.971μmとなる。
【0091】
すなわち、実施形態1に係るMOSFET100においては、Wn(x)及びWp(x)が上記式(2)及び(3)のような指数関数であり、かつ、|δ|<<1であることから、平均正電荷密度ρ(x)が以下の式(14)のような形となる。従って、チャージバランスが生じても、関数形が変わらず、かつ、チャージバランスのバラツキを平行移動の値として吸収することができる。すなわち、実施形態1に係るMOSFET100は、チャージバランスのバラツキに対して高いロバスト安定性を確保しているといえる。
【数14】
【0092】
なお、実施形態1においては、チャージバランスがn過多(n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量よりも大きくなる)になった場合を想定しているが、チャージバランスがp過多にずれた場合には、平均正電荷密度ρ(x)は基準平均正電荷密度ρ
0(x)よりも右側に位置することになり、この場合にも電界E(x)が高い領域がゲート電極に近づくことはない。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域の電界E(x)が高くなり難くなるため、ゲート電極周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなる。その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。ちなみに、この場合においても、|X
0−X
0’|<|X
m−X
m’|を満たす。
【0093】
(2)チャージバランスのバラツキとX
0、X
m及びX
1のずれについて
次に、スーパージャンクション構造の前記第1主面側の表面を基準として、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置X
0、当該平均正電荷密度ρ(x)が0になるときの深さ位置X
m及びMOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置の深さをX
1と、チャージバランスとの関係について説明する。
【0094】
n型コラム領域の不純物総量とp型コラム領域の不純物総量との差を横軸とし、スーパージャンクション構造の第1主面側の表面を基準として、深さXを縦軸としたときに、X
0及びX
mは単調に増加する直線となる(
図12参照。)。X
1は、n型コラム領域114の不純物総量とp型コラム領域116の不純物総量との差が正(+)の場合には、単調に増加する直線となり、n型コラム領域114の不純物総量とp型コラム領域116の不純物総量との差が負(−)の場合には、n型コラム領域114の不純物総量とp型コラム領域116の不純物総量との差が大きくなると所定の値に収束する。なお、所定の値とは、p型コラム領域116の底の深さの値にほぼ等しくなる。
また、n過多のとき、X
0、X
m及びX
1の順にチャージバランスが取れているときの値に対する差が大きくなっており、ΔX
0<ΔX
m<ΔX
1であることがわかる。
【0095】
(3)チャージバランスのバラツキとターンオフ時におけるスイッチングオフ損失との関係について
図13(a)に示すように、比較例1に係るMOSFET800において、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失Eоffは、Justの場合及びp過多の時は約10μJ〜15μJの範囲内に収まっているのに対して、n過多になるにつれてスイッチング損失Eоffが増加しており、n過多5%の場合には20μJ、n過多10%の場合には30μJとなる。従って、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合には、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失のバラツキが大きくなるため、電力変換回路(特に、電流臨界型PFCや電流不連続型PFC等のようにターンオフ時のスイッチング損失の影響が大きい回路)の動作に不具合が生じるおそれがある。
【0096】
これに対して、
図13(b)に示すように、実施形態1に係るMOSFET100において、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失Eоffは、Justの場合、n過多の場合及びp過多の場合の全ての場合において、10μJ〜20μJの範囲内に収まっている。従って、チャージバランスにバラツキが生じた場合であっても、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失のバラツキが大きくならないため、電力変換回路の動作に不具合が生じることを防ぐことができる。すなわち、実施形態1に係るMOSFET100は、チャージバランスのバラツキによるターンオフ時のスイッチング損失のバラツキを低減することができるMOSFETであるといえる。
【0097】
なお、MOSFETをターンオンしたときのスイッチング損失は、比較例1に係るMOSFET800における場合及び実施形態1に係るMOSFET100における場合のいずれの場合においても、Justの場合、n過多の場合及びp過多の場合の全ての場合において、ほとんど変化がない。ゲート抵抗を下げることによってMOSFETをターンオンしたときのスイッチング損失を減少させることはできるが、電力変換回路のスイッチング損失は電力変換回路の整流素子(フリーホイールダイオード等)の特性(リカバリ特性)に大きく依存することから、ターンオン時のMOSFETのスイッチング損失の影響は小さく、電力変換回路のスイッチング損失にほとんど寄与しない。
【0098】
5.ターンオフしたときのMOSFET100の動作・波形について
実施形態1に係る電力変換回路1において、MOSFET100の代わりに比較例1に係るMOSFET800を用いた場合、比較例1に係るMOSFET800は、以下のように動作する。
(1)ドレイン電流Id
n型コラム領域の不純物総量とp型コラム領域の不純物総量とが等しい場合(以下、Justの場合という)、ドレイン電流Idが減少し始めてからドレイン電流Idが最初に0となるまでの間に、一時的にドレイン電流Idが上昇する期間がわずかに出現するように動作する(ドレイン電流Idの波形にコブ波形がわずかに出現するように動作する。
図14のId(Just)参照。)。ドレイン電流Idが減少し始めてからドレイン電流Idが最初に0となるまでの間は約0.02μsec(20nsec)である。
n型コラム領域の不純物総量がp型コラム領域の不純物総量よりも大きくなるようにチャージバランスのバラツキがあった場合(以下、n過多の場合という)、ドレイン電流Idが減少し始めてからドレイン電流Idが最初に0となるまでの間に、一時的にドレイン電流Idが上昇する期間が出現するように動作する(ドレイン電流Idの波形に大きなコブ波形が出現するように動作する。
図14のId(n過多)参照。)。当該コブ波形においては、ドレイン電流IdがJustの場合よりも高い電流値まで増加し、かつ、ドレイン電流Idが0になるまでの期間がJustの場合よりも大幅に長くなる(Justの場合が約0.02μsec(20nsec)であるのに対して、n過多の場合には約0.04μsec(40nsec)である。)。
また、p型コラム領域の不純物総量がn型コラム領域の不純物総量よりも大きい場合(以下、p過多の場合という)、ドレイン電流Idは単調に減少するように動作する(ドレイン電流Idの波形にコブ波形が出現しないように動作する。
図14のId(p過多)参照。)。
(2)ドレイン・ソース間電圧Vds
n過多の場合、ドレイン・ソース間電圧VdsはJustの場合よりも緩やかに約350Vまで上昇し、その後、緩やかに減少して電源電圧(300V)で安定するように動作する。ドレイン・ソース間電圧Vdsが上昇し始めてから安定するまでにかかる時間はJustの場合よりも長く約0.05μsec(50nsec)である(
図14のVds(n過多)参照。)。
p過多の場合、ドレイン・ソース間電圧VdsがJustの場合よりも急激に約370Vまで増加した後、電源電圧(300V)で安定するように動作する(
図14のVds(p過多)参照。)。ドレイン・ソース間電圧Vdsが上昇してから安定するまでにかかる時間は約0.02μsec(20nsec)である。
(3)ゲート・ソース間電圧Vgs
n過多の場合、ゲート・ソース間電圧Vgsは、ミラー期間終了後に一時的に上昇する期間がわずかに出現するように動作する(
図14のVgs(n過多)参照。)。一方、Justの場合及びp過多の場合、ゲート・ソース間電圧Vgsは、ほとんど変化せず単調に減少するように動作する(
図14のVgs(p過多)及びVgs(Just)参照。)。
【0099】
上記(1)〜(3)からわかるように、比較例1に係るMOSFET800においては、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあった場合(Justがn過多になったり、p過多になったりする場合等)に、ターンオフしたときのスイッチング特性、特にドレイン電流Id及びドレイン・ソース間電圧Vdsのバラツキが大きくなる。チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合、スイッチング特性のバラツキは特に大きくなる。
【0100】
これに対して、実施形態1に係る電力変換回路1において、実施形態1に係るMOSFET100は、以下のように動作する。
(1)ドレイン電流Id
Justの場合、n過多の場合及びp過多の場合の全ての場合において、ターンオフ期間が短くなり、どの場合においても似たような波形になるように動作する(
図15の各Id参照。)。特に、n過多の場合には、ドレイン電流Idの波形にコブ波形がほとんど出現しなくなり、Justの場合及びp過多の場合の波形に近くなるように動作する。
(2)ドレイン・ソース間電圧Vds
Justの場合、n過多の場合及びp過多の場合の全ての場合において、ターンオフ期間が短くなり、どの場合においても似たような波形になるように動作する(
図15の各Vds参照。)。p過多の場合にはリンギングが発生しているが、このリンギングはスナバ回路等のリンギングを除去する機構を設けることによって小さくすることができる。
(3)ゲート・ソース間電圧Vgs
Justの場合、n過多の場合及びp過多の場合の全ての場合において、ゲート・ソース間電圧Vgsの波形にほとんど違いがないように動作する(
図15の各Vgs参照。)。
【0101】
上記(1)〜(3)からわかるように、実施形態1に係るMOSFET100においては、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキ(Justからn過多になったり、p過多になったりする等)があったときしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを小さくすることができる。
【0102】
次に、MOSFETをターンオフしたときに、実施形態1に係るMOSFET100及び比較例1に係るMOSFET800の波形が上記のような波形になる理由を説明する。
まず、比較例1に係るMOSFET800において、MOSFETをターンオフすると、p型コラム領域816(及びベース領域818)とn型コラム領域814との間のpn接合から空乏層がn型コラム領域814及びp型コラム領域816に広がる。しかしながら、比較例1に係るMOSFET800においては、(空乏層がトレンチ直下まで広がるものの)空乏層がドレイン電極側に広がり難いため、n型コラム領域814における空乏化されていない領域とゲート電極826の間隔を長くすることが難しく、帰還容量Crssを小さくすることが難しくなる(
図16参照。)。このため、ゲート電極826がn型コラム領域814の電位変化の影響を受け易く、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったときには、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを小さくすることが難しい。
【0103】
これに対して、実施形態1に係るMOSFET100においては、空乏層がドレイン電極側にも広がり易いため、n型コラム領域114における空乏化されていない領域とゲート電極126との間隔を長くし易く、帰還容量Crssを小さくすることが容易となる(
図17参照。)。このため、ゲート電極126がn型コラム領域114の電位変化の影響を受け難くすることができ、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったときには、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを小さくすることができる。
【0104】
次に、等電位線の面から上記理由を説明する。
なお、比較例2に係るMOSFET700は、ソース電極とコンタクトする部分がソース領域の最下部の深さ位置まで掘り込まれている点以外は比較例1に係るMOSFET800と同様の構成を有するMOSFETであり(
図18(a)参照。)、実施例に係るMOSFET100Aは、ソース電極とコンタクトする部分がソース領域の最下部の深さ位置まで掘り込まれている点以外は、実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するMOSFETである(
図18(b)参照。)。
【0105】
比較例2に係るMOSFET700において、MOSFETをターンオフしたときには、トレンチの底部の等電位線の間隔が狭い状態となっている(
図19(a)参照。)。これは、n型コラム領域714における空乏化されていない領域とゲート電極726との間隔が短いためである。従って、トレンチの底部付近の電位勾配が大きくなり、ゲート電極726がn型コラム領域714の電位変化の影響を受け易くなる。従って、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったときには、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを小さくすることが難しい。
【0106】
これに対して、実施例に係るMOSFET100Aにおいて、MOSFETをターンオフしたときには、トレンチ122の底部付近の等電位線の間隔が広い状態となっている(
図19(b)参照。)。これは、n型コラム領域114における空乏化されていない領域とゲート電極126との間隔が長いためである。これにより、トレンチ122の底部付近の電位勾配が小さくなり、ゲート電極126がn型コラム領域114の電位変化の影響を受け難くなる。従って、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったとしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを小さくすることができる。
【0107】
6.実施形態1に係るMOSFET100及び電力変換回路1の効果
実施形態1に係るMOSFET100及び電力変換回路1によれば、|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合であっても、第1主面側(ゲート電極側)の平均正電荷密度ρ(x)のずれが少なく、電界E(x)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域114の電界E(x)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0108】
また、実施形態1に係るMOSFET100及び電力変換回路1によれば、|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じた場合であっても、MOSFETをターンオフしたときのスイッチング損失のバラツキが大きくなり難くなるため、電力変換回路(特に、電流臨界型PFCや電流不連続型PFC等のようにターンオフ時のスイッチング損失の影響が大きい回路)の動作に不具合が生じることを防ぐことができる。
【0109】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、n型コラム領域114及びp型コラム領域116から構成されたスーパージャンクション構造117を有する半導体基体110を備えるため、従来のMOSFET900の場合と同様に、低オン抵抗、かつ、高耐圧のスイッチング素子となる。
【0110】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、x=0のときの当該平均正電荷密度ρ(0)の値が負であり、かつ、x=aのときの当該平均正電荷密度ρ(a)の値が正であるため、p型コラム領域116の底部付近の深さ位置においては、p型コラム領域116の不純物総量がn型コラム領域114の不純物総量よりも少なくなる(n過多になる)。従って、MOSFETをターンオフしたときにp型コラム領域116から発生した空乏層が第2主面側に向かって広がり難くなる。従って、リーチスルーモードのブレークダウンが発生し難く耐圧が低下し難いMOSFETとなる。
【0111】
また、実施形態1に係るMOSFET100及び電力変換回路1によれば、当該平均正電荷密度ρ(x)は、上に凸の右上がりの曲線で表されるため、ゲート周辺の深さ位置(xが0に近い領域)においては、当該平均正電荷密度ρ(x)が従来のMOSFET900よりも小さく(負側に大きく)、p型コラム領域116の負電荷の電荷量とn型コラム領域114の正電荷の電荷量との差が従来のMOSFET900よりも大きくなる。従って、(1)ゲート周辺のn型コラム領域114が従来のMOSFET900よりも空乏化されやすくなるため、ドレイン電圧が上昇してもゲート周辺のn型コラム領域114の電位が高くなり難くなる。また、(2)n型コラム領域114における空乏化されていない領域とゲート電極126との間隔が従来のMOSFET900よりも長くなり、帰還容量Crss(ゲート・ドレイン間容量Cgdと等しい)が従来のMOSFET900よりも小さくなるため、MOSFETをターンオフしたときにドレイン電圧が上昇するのに伴ってn型コラム領域114(n型コラム領域114のうちの空乏化されていない領域)の電位が上昇しても、ゲート電極126がn型コラム領域114の電位変化の影響を受け難くなる。その結果、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったとしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを従来よりも小さくすることができる。
【0112】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、当該平均正電荷密度ρ(x)は、上に凸の右上がりの曲線で表されるため、ゲート周辺の深さ位置においては、平均正電荷密度ρ(x)が小さく(負側に大きく)、p型コラム領域116の負電荷の電荷量がn型コラム領域の正電荷の電荷量よりも大きくなる。従って、当該p型コラム領域116の負電荷によってゲート周辺のホールを引き抜きやすくなり、その結果、L負荷アバランシェ破壊耐量を大きくすることができる。
【0113】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、p型コラム領域の幅Wp(x)は、以下の式(2)
【数2】
(符号A,B,λは定数。)
で表され、n型コラム領域の幅Wn(x)は、以下の式(3)
【数3】
(符号A,B,λは定数)
で表されるため、ゲート周辺の深さ位置においては、平均正電荷密度ρ(x)が小さく(負側に大きく)、p型コラム領域116の負電荷の電荷量がn型コラム領域の正電荷の電荷量よりも大きくなる。従って、当該p型コラム領域116の負電荷によってゲート周辺のホールを引き抜きやすくなり、その結果、L負荷アバランシェ破壊耐量を大きくすることができる。
【0114】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、ρ
0(X
0)>ρ(X
0’)を満たすため、n型コラム領域の不純物総量が前記p型コラム領域の不純物総量と異なった状態となる場合に第1主面側(ゲート電極側)がよりp過多の状態になり易くなる。従って、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったとしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキをより一層小さくすることができる。
【0115】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、|X
m−X
m’|<|X
1−X
1’|の関係を満たすため、電界E(X)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域114の電界E(X)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0116】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、p過多になった場合において、当該深さX
1を示す曲線は、n型コラム領域の不純物総量とp型コラム領域の不純物総量との差が大きくなると所定の値に収束する。このため、p型コラム領域の底よりも深い領域に空乏層が延伸することが困難となる。従って、p型コラム領域116よりも深い領域に設けられているバッファ層113が完全に空乏化することを防ぐことができ、その結果、p過多になった場合でもL負荷アバランシェ耐量を維持することができる。なお、p型コラム領域の底よりも深い領域に空乏層が延伸し難いのは、n型領域(バッファ層113及び低抵抗半導体層112)しか存在しないためであると考えられる
【0117】
ところで、一般に、スーパージャンクション構造を有するMOSFETの設計及び製造においては、チャージバランスを変動させたときに最も耐圧が高くなる構成がチャージバランス点であり、p型コラム領域の不純物総量とn型コラム領域の不純物総量とが等しくなった構成であるとみなす。このとき、p型コラム領域及びn型コラム領域のうち、それぞれ空乏化している領域において、 不純物総量が等しくなる。
実施形態1に係るMOSFET100においても、チャージバランスを変動させ、最も耐圧が高くなる構成を見いだし、これをチャージバランス点であるとみなしている。そして、実施形態1に係るMOSFET100によれば、p過多になった場合において、当該深さX1を示す曲線は、n型コラム領域の不純物総量とp型コラム領域の不純物総量との差が大きくなると所定の値に収束することからもわかるように、実施形態1に係るMOSFET100において、チャージバランス点とみなされる構成(最も耐圧が高くなる構成)は、もともと空乏層が深めの位置に形成されている。
従って、MOSFETの製造過程において、チャージバランスがn過多にずれた場合において、空乏層の上端X
0が浅い方向に動いた場合でも、ゲート電極から空乏層の上端までの距離が十分に長いため、ゲート周辺の電界分布に影響を与え難く、ゲート周辺の電界分布が安定した状態を保つことができる。
ところで、量産における工程管理においては、所定の特性についての、流れ品のウェーハ間の推移やロット間の推移を測定することにより当該所定の特性のバラツキを測定しており、バラツキ幅が大きくなると、バラツキをジャストに戻すように管理を行う。そして、工程管理において、チャージバランスのバラツキは耐圧の低下として検知される。複数のロットの推移として、チャージバランスのn過多へのバラツキ幅が漸増したことに起因して耐圧が低下傾向を示した場合、チャージバランスをジャストに戻すように不純物ドープ工程にフィードバックする。
このとき、n過多へのバラツキ幅が漸増傾向を示した数ロットについては、デバイス内部を見ると、空乏層の形成範囲が浅い方に移動していることになるが、 上記したようにゲート周辺の電界分布は安定したままであり、チャージバランスのバラツキがスイッチング特性に強い影響は与えない。すなわち、実施形態1に係るMOSFET100によれば、通常の量産工程管理において、耐圧をモニターして、チャージバランスを管理しておけば、その管理幅の範囲内において、スイッチング特性のバラツキが大きくなることはない。つまり、実施形態1に係るMOSFET100は、静特性の管理によって、動特性(スイッチング特性)が自動的に管理される構造となっている。
【0118】
実施形態1に係るMOSFET100はトレンチゲート型のMOSFETである。このような構成とすることにより、プレーナーゲート型のMOSFETよりもゲート電極とドレイン電極が近く、ゲート周辺のn型コラム領域114の電位が上がり易いトレンチゲート型のMOSFETであっても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを従来よりも小さくすることができる。
【0119】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造117に空乏層が最も広がったときの第2主面側の空乏層の表面のうち最も浅い深さ位置をaとし、スーパージャンクション構造117における、平均正電荷密度ρ(x)が0になる深さ位置の深さをdとしたときに、0<d<a/2を満たすため(
図7参照。)、ゲート周辺の深さ位置においてp型コラム領域116の負電荷の電荷量とn型コラム領域114の正電荷の電荷量との差が大きくなり、ゲート周辺のn型コラム領域114が空乏化しやすくなるため、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったとしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキをより一層小さくすることができる。
【0120】
また、実施形態1に係るMOSFET100によれば、深さ方向に沿った軸をx軸とし、ベース領域11の最下面の深さ位置のx座標を−tとし、p型コラム領域116の最下部の深さ位置のx座標をbとし、平均正電荷密度ρ(x)が0になる深さ位置のx座標をdとしたときに、0<t+d<(t+b)/2を満たすため(
図7参照。)、このような構成とすることによっても、ゲート周辺の深さ位置においてp型コラム領域116の負電荷の電荷量とn型コラム領域114の正電荷の電荷量との差が大きくなり、ゲート周辺のn型コラム領域114が空乏化しやすくなる。その結果、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったとしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキをより一層小さくすることができる。
【0121】
実施形態1に係る電力変換回路1によれば、整流素子が、ファスト・リカバリー・ダイオードであるため、ターンオフ期間が短く、MOSFETをターンオフしたときに、ドレイン電圧に伴ってn型コラム領域114の電位が上がり難くなる。従って、ゲート電極の電位も上がり難くなり、その結果、ゲート周辺のチャージバランスのバラツキがあったとしても、ターンオフしたときのスイッチング特性のバラツキを従来よりも小さくすることができる。
【0122】
[変形例]
変形例に係るMOSFET(図示せず)は、基本的には実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するが、n型コラム領域の不純物濃度ではなく、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)及びn型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)にバラツキが生じた場合を想定している点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なる。すなわち、変形例に係るMOSFETにおいては、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)が以下の式(15)で表されるようにδだけ狭くなり、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)が以下の式(16)で表されるようδだけ広くなる。
【数15】
【数16】
このとき、平均正電荷密度ρ(x)は以下の式(17)で表される。
【数17】
【0123】
ここで、最大電界強度点X
mではρ(x)=0となるため、最大電界強度点はx=λδW/Bのときとなる。すなわち、式(10)と式(17)とを比較すると、チャージバランスのバラツキが生じたときに最大電界強度点はx=λδW/Bだけソース電極側に移動していることとなる。ここで、W=5μm、λ=10μm、N
0=3×10
15cm
−3、B=0.868μmを代入すると、最大電界強度点の移動量ΔX
m=1.44μmとなる。
【0124】
また、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置は、ρ(x)が最小となる点であるため、式(10)と式(17)とを比較すると、当該位置は、チャージバランスのバラツキによって(B+δ)だけソース電極側に平行移動していることになる。ここで上記したW=5μm等の数値を代入すると、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置の移動量ΔX
0=0.44μmとなる。
【0125】
従って、この場合でもΔX
0<ΔX
mとなる。
【0126】
このように、変形例に係るMOSFET及び電力変換回路は、n型コラム領域の不純物濃度ではなく、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)及びn型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)にバラツキが生じた場合を想定している点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なるが、実施形態1に係るMOSFET100の場合と同様に、|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合であっても、第1主面側(ゲート電極側)の平均正電荷密度ρ(x)のずれが少なく、電界E(x)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域114の電界E(x)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0127】
[実施形態2]
実施形態2に係るMOSFET102は、基本的には実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するが、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)ではなく、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を変化させた点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なる。すなわち、実施形態2に係るMOSFET102においては、深さxを横軸とし、n型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を縦軸としたときに、当該正電荷の平均密度N
d(x)は、上に凸の単調な右上がりの曲線で表され、当該負電荷の平均密度N
a(x)は、下に凸の単調な右下がりの曲線で表される(
図20(c)参照。)。なお、n型コラム領域114の幅及びp型コラム領域116の幅はいずれも、深さによらず一定である(
図20(a)及び
図20(b)参照。)。
【0128】
MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造に空乏層が最も広がったときの第1主面側の空乏層の表面のうち最も深い深さ位置を基準として、スーパージャンクション構造における所定深さ位置における深さxを横軸とし、n型コラム領域114の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)又はp型コラム領域116の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を縦軸としたときに、
n型コラム領域114の前記所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)は、以下の式(4)
【数4】
(符号A,B,λは定数)
で表され、p型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)は、以下の式(5)
【数5】
(符号A,B,λは定数)
で表される。
【0129】
このように、実施形態2に係るMOSFET102は、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)及びn型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)ではなく、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を変化させた点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なるが、実施形態1に係るMOSFET100の場合と同様に、|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合であっても、第1主面側(ゲート電極側)の平均正電荷密度ρ(x)のずれが少なく、電界E(x)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域114の電界E(x)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0130】
なお、実施形態2に係るMOSFET102は、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)ではなく、MOSFETをターンオフしてスーパージャンクション構造が空乏化したときの、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を変化させた点以外の点においては実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するため、実施形態1に係るMOSFET100が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0131】
[実施形態3]
実施形態3に係るMOSFET200は、基本的には実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するが、トレンチゲート型のMOSFETではなくプレーナーゲート型のMOSFETである点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なる。すなわち、実施形態3に係るMOSFET200において、半導体基体210は、
図21に示すように、半導体基体210の第1主面の表面、かつ、p型コラム領域216の表面上の全部及びn型コラム領域214の表面上の一部に形成されたベース領域218と、半導体基体210の第1主面の表面、かつ、n型コラム領域214の表面上にベース領域218に隣接するように形成されたn型表面高濃度領域219と、ベース領域218の表面に形成されたn型のソース領域220とを有し、ゲート電極236は、ソース領域220とn型表面高濃度領域219とに挟まれたベース領域218の表面上にゲート絶縁膜234を介して形成されている。なお、n型表面高濃度領域219の深さ位置は、1.0μm〜4.0μmの範囲内にあり、n型表面高濃度領域219の不純物濃度は、1×10
14cm
−3〜1×10
16cm
−3の範囲内にある。
【0132】
このように、実施形態3に係るMOSFET200は、トレンチゲート型のMOSFETではなく、プレーナーゲート型のMOSFETである点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なるが、実施形態1に係るMOSFET100の場合と同様に、|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合であっても、第1主面側(ゲート電極側)の平均正電荷密度ρ(x)のずれが少なく、電界E(x)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域114の電界E(x)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0133】
なお、実施形態3に係るMOSFET200は、トレンチゲート型のMOSFETではなく、プレーナーゲート型のMOSFETである点以外の点においては実施形態1に係るMOSFET100と同様の構成を有するため、実施形態1に係るMOSFET100が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0134】
[実施形態4]
実施形態4に係る電力変換回路2は、基本的には実施形態1に係る電力変換回路1と同様の構成を有するが、電力変換回路がフルブリッジ回路である点で実施形態1に係るMOSFET100の場合とは異なる。すなわち、実施形態4に係る電力変換回路2は、
図22に示すように、MOSFETとして、4つのMOSFET100(100a〜100d)を備え、整流素子として、各MOSFETの内蔵ダイオードを備える。
【0135】
このように、実施形態4に係る電力変換回路2は、電力変換回路がフルブリッジ回路である点で実施形態1に係る電力変換回路1の場合とは異なるが、実施形態1に係る電力変換回路1の場合と同様に、|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすため、チャージバランスにバラツキが生じn過多になった場合であっても、第1主面側(ゲート電極側)の平均正電荷密度ρ(x)のずれが少なく、電界E(x)が高い領域がゲート電極に近づき難くなる。従って、ゲート電極周辺のn型コラム領域114の電界E(x)が高くなり難くなるため、ゲート周辺のn型コラム領域の電位変化が小さくなり易くなり、その結果、ターンオフしたときのスイッチング特性にバラツキが生じ難くなる。
【0136】
また、実施形態4に係る電力変換回路2によれば、当該平均正電荷密度ρ(x)は、上に凸の右上がりの曲線で表されるため、上記したように、MOSFETをターンオフしたときにドレイン電圧が上昇するのに伴ってn型コラム領域114(n型コラム領域114のうちの空乏化されていない領域)の電位が上昇しても、ゲート電極126がn型コラム領域114の電位変化の影響を受け難くなる。このため、フォールス・ターンオン(誤オン)と呼ばれる現象が発生し難くなる。
【0137】
なお、フォールス・ターンオン(誤オン)と呼ばれる現象は、2個以上のMOSFETが接続されている回路において、どちらか一方のMOSFETがターンオンするとき、電位変化によって、もう一方のMOSFETも誤ってターンオンする現象である。
【0138】
さらにまた、実施形態4に係る電力変換回路2によれば、整流素子が、MOSFETの内蔵ダイオードであるため、別途整流素子を準備する必要がない。
【0139】
なお、実施形態4に係る電力変換回路2は、電力変換回路がフルブリッジ回路である点以外の点においては実施形態1に係る電力変換回路1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る電力変換回路1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0140】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0141】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0142】
(2)上記実施形態1及び2においては、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)、又は、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)及びp型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を指数関数としたが、本発明はこれに限定されるものではない。|X
0−X
0’|≦|X
m−X
m’|の関係を満たすのであれば、指数関数でなくてもよい。
【0143】
(3)上記実施形態1においては、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)を上に凸の単調な右上がりの曲線で表し、かつ、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
p(x)を下に凸の単調な右下がりの曲線で表したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)を、階段状(但し、階段の角の部分を結んだ線(包絡線)が上に凸の単調な右上がりの曲線になる)で表し、かつ、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
pを、階段状(但し、階段の角の部分を結んだ線(包絡線)が下に凸の単調な右下がりの曲線になる)で表してもよいし(
図23参照。)、n型コラム領域の所定深さ位置における幅W
n(x)を、凹凸を繰り返す曲線(但し、包絡線が上に凸の単調な右上がりの曲線になる)で表し、かつ、p型コラム領域の所定深さ位置における幅W
pを、凹凸を繰り返す曲線(但し、包絡線が下に凸の単調な右下がりの曲線になる)で表してもよい(
図24参照。)。
【0144】
(4)上記実施形態2においては、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)を上に凸の単調な右上がりの曲線で表したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、n型コラム領域の所定深さ位置における正電荷の平均密度N
d(x)を、階段状(但し、階段の角の部分を結んだ線が上に凸の単調な右上がりの曲線になる)で表してもよいし、凹凸を繰り返す曲線(但し、包絡線が上に凸の単調な右上がりの曲線になる)で表してもよい。
【0145】
(5)上記実施形態2においては、p型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を下に凸の単調な右下がりの曲線で表したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、p型コラム領域の所定深さ位置における負電荷の平均密度N
a(x)を、階段状(但し、階段の角の部分を結んだ線が下に凸の単調な右下がりの曲線になる)で表してもよいし、凹凸を繰り返す曲線(但し、包絡線が下に凸の単調な右下がりの曲線になる)で表してもよい。
【0146】
(6)上記各実施形態においては、n型コラム領域114、p型コラム領域116、トレンチ122、ゲート電極126を平面的に見てストライプ状に形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。n型コラム領域114、p型コラム領域116、トレンチ122、ゲート電極126を平面的に見て、円状(立体的に見て柱状)、四角形の枠状、円形の枠状又は格子状等に形成してもよい。
【0147】
(7)上記各実施形態においては、電源として、直流電源を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。電源として、交流電源を用いてもよい。
【0148】
(8)上記実施形態1〜3においては、電力変換回路として、チョッパ回路を用い、実施形態4においては、電力変換回路としてフルブリッジ回路を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。電力変換回路として、ハーフブリッジ回路、三相交流コンバータ、非絶縁型フルブリッジ回路、非絶縁型ハーフブリッジ回路、プッシュプル回路、RCC回路、フォワードコンバータ、フライバックコンバータ、PFC回路(電流臨界型PFC回路,電流不連続型PFC回路、電流連続型PFCその他のPFC回路)、その他の回路を用いてもよい。
【0149】
(9)上記実施形態1〜3においては、整流素子として、pinダイオードを用い、実施形態4においては、MOSFETの内蔵ダイオードを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。整流素子として、JBS、MPSその他のファスト・リカバリー・ダイオード、シリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオードその他のダイオードを用いてもよい。
【0150】
(10)上記実施形態4においては、整流素子として、MOSFETの内蔵ダイオードのみを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。内蔵ダイオードのリカバリ損失が大きすぎる場合は、MOSFETと並列に別途整流素子を接続してもよい。
本発明のMOSFET100は、スーパージャンクション構造117を有する半導体基体110と、半導体基体110の第1主面側にゲート絶縁膜124を介して形成されたゲート電極126とを備え、n型コラム領域114の不純物総量がp型コラム領域116の不純物総量と異なる状態における、当該平均正電荷密度ρ(x)が0になるときの深さ位置をX