特許第6362162号(P6362162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362162
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】油脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20180712BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20180712BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20180712BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   C12P7/64ZNA
   C12N1/12 A
   C12N1/12 B
   C12N1/13
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-111565(P2014-111565)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-27287(P2015-27287A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2017年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-142173(P2013-142173)
(32)【優先日】2013年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)、藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出、高バイオマス生産に向けた高温・酸性耐性藻類の創出、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】今村 壮輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 一幾
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 泰子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 卓人
(72)【発明者】
【氏名】太田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】下嶋 美恵
(72)【発明者】
【氏名】▲蔵▼野 憲秀
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕章
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/109588(WO,A1)
【文献】 特開2013−102748(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/034648(WO,A1)
【文献】 Chlamydomonas reinhardtii(緑藻網)においてTORの不活性化がトリアシルグリセロールの蓄積に及ぼす影響について,日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2012年,Vol.35th,Page.4P-0578
【文献】 Inhibition of target of rapamycin signaling by rapamycin in the unicellular green alga Chlamydomonas reinhardtii,Plant Physiol.,2005年,Vol.139, No.4,p.1736-1749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
C12P 1/00−41/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類を培養する工程A1と、前記工程A1の後、前記微細藻類を培養してなる培養液にAZD8055を添加する工程B1と、を有することを特徴とする油脂の製造方法。
【請求項2】
前記微細藻類は、FKBP12をコードする構造遺伝子配列並びに該構造遺伝子を発現させるためのプロモーター配列およびターミネーター配列を、染色体中に有するか、または、染色体外遺伝子として有する請求項に記載の油脂の製造方法。
【請求項3】
前記FKBP12をコードする構造遺伝子配列は、ラパマイシンに対して感受性を示す生物種由来の配列である請求項に記載の油脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類、培養物、及び油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の代替燃料として、微細藻類を用いた燃料生産が提案されている。微細藻類は、高い集光能力及び炭酸固定能力を有していることから、該微細藻類を用いた燃料生産は、単位面積当たりの生産性が高い点で優れている。
【0003】
化石燃料の代替燃料として利用可能な炭化水素類を生産する新規微細藻類として、シュードコリシスチス属株が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。シュードコリシスチス属株は、乾燥藻体重量の30%程度の炭化水素類を蓄積でき、増殖速度が速く、また、屋外開放系で他の生物の混入なく培養可能な酸性条件で培養可能(至適pH3〜4)であるため、該シュードコリシスチス属株を用いた炭化水素類の生産方法は、実用化が期待される技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4748154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、微細藻類を用いた燃料生産を商業ベースで行うためには、コスト面で問題があり、更なる改良が必要とされている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、油脂の生産性を向上させた微細藻類、該微細藻類を培養してなる培養物、及び油脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、微細藻類中のTOR(Target of Rapamycin)の酵素活性を阻害することにより、油脂の生産性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する微細藻類、培養物、及び油脂の製造方法を提供するものである。
【0008】
(1)TORの酵素活性が低下又は失活していることを特徴とする微細藻類。
(2)FKBP12をコードする構造遺伝子配列並びに該構造遺伝子を発現させるためのプロモーター配列およびターミネーター配列を、染色体中に有するか、または、染色体外遺伝子として有する前記(1)に記載の微細藻類。
(3)前記FKBP12をコードする構造遺伝子配列は、ラパマイシンに対して感受性を示す生物種由来の配列である前記(2)に記載の微細藻類。
(4)前記TORの酵素活性は、TOR阻害剤により低下又は失活している前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の微細藻類。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の微細藻類を培養してなることを特徴とする培養物。
(6)更にTOR阻害剤を含有する前記(5)に記載の培養物。
(7)微細藻類を培養する工程A1と、前記工程A1の後、前記微細藻類を培養してなる培養液にTOR阻害剤を添加する工程B1と、を有することを特徴とする油脂の製造方法。
(8)前記微細藻類は、FKBP12をコードする構造遺伝子配列並びに該構造遺伝子を発現させるためのプロモーター配列およびターミネーター配列を、染色体中に有するか、または、染色体外遺伝子として有する前記(7)に記載の油脂の製造方法。
(9)前記FKBP12をコードする構造遺伝子配列は、ラパマイシンに対して感受性を示す生物種由来の配列である前記(8)に記載の油脂の製造方法。
(10)TORの酵素活性が低下又は失活している微細藻類を培養する工程A2を有することを特徴とする油脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油脂の生産性を向上させた微細藻類、該微細藻類を培養してなる培養物、及び油脂の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ラパマイシン添加による増殖抑制能評価の結果である。
図2】実施例に用いられた発現ベクターを示す図である。
図3】ラパマイシン添加による増殖抑制能評価の結果である。
図4】ラパマイシン添加による増殖抑制能評価の結果である。
図5】ラパマイシン添加による増殖抑制能評価の結果である。
図6】ラパマイシン添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図7】ラパマイシン添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図8】ラパマイシン添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図9】ラパマイシン添加による増殖抑制能評価の結果である。
図10】ラパマイシン添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図11】TOR阻害剤添加による増殖抑制能評価の結果である。
図12】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図13】TOR阻害剤添加による増殖抑制能評価の結果である。
図14】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図15】TOR阻害剤添加による増殖抑制能評価の結果である。
図16】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図17】TOR阻害剤添加による増殖抑制能評価の結果である。
図18】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図19】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図20】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図21】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図22】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
図23】TOR阻害剤添加による油脂蓄積能評価の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<微細藻類>
本発明の微細藻類は、TORの酵素活性が低下又は失活していることを特徴とする。
本発明に用いられる微細藻類としては、特に限定されず、ほぼ全ての藻類を用いることができる。係る藻類としては、シュードコリシスチス エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea;以下、P.ellipsoideaともいう。)、ボトリオコッカス ブラウニー(Botryococcus braunii)、シアニディオシゾン メロラエ(Cyanidioschyzon merolae;以下、C.merolaeともいう。)、クラミドモナス レインハードチイ(Chlamydomonas reinhardtii;以下、C.reinhardtiiともいう。)等が挙げられる。
また、本発明に用いられる微細藻類株としては、シュードコリシスチス エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)N1株やシュードコリシスチス エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)Obi株等が挙げられる。
【0012】
TOR(Target of Rapamycin)とは、細胞内シグナル伝達に関与するセリンスレオニンキナーゼである。TORは、抗生物質ラパマイシンの標的タンパク質として同定され、インスリンや他の成長因子、栄養・エネルギー状態、酸化還元状態など細胞内外の環境情報を統合し、転写、翻訳等を通じて、それらに応じた細胞のサイズ、分裂、生存などの調節に中心的な役割を果たすと考えられている。
実施例において後述するように、本発明者らは、微細藻類中のTORの酵素活性を阻害することにより、油脂の蓄積を向上できることを見出した。
【0013】
TORの酵素活性を低下又は失活させる方法としては、TORをコードする微細藻類の染色体DNAの少なくとも一部の塩基を置換又は欠損させる方法、該染色体DNAに挿入配列を組み込み、フレームシフトを引き起こさせる方法、TORのドミナントネガティブ型を一過的又は安定的に微細藻類に発現させる方法等が挙げられる。
また、TORの酵素活性阻害剤を微細藻類の培養液に添加する方法も挙げられる。TORの酵素活性阻害剤としては、上述したラパマイシンの他、ATP競合阻害剤であるTorin1(Thoreen CC,et.al., J. Biol. Chem. (2009)Vol. 20, pp.8023−32.参照)、AZD8055(Chresta CM, et.al., Cancer Res.(2010)Vol.70, pp.288−98.参照)等が挙げられる。
これらの方法によりTORの酵素活性を、低下又は失活させることができる。操作が簡便である点から、TORの酵素活性は、TOR阻害剤により低下又は失活していることが好ましい。
【0014】
微細藻類の染色体DNAを欠損させる方法としては、相同組換えを利用した方法が挙げられる。相同組換えを利用した方法としては、微細藻類の染色体DNA上において欠損させたい遺伝子又はDNAの両外側に存在するDNA断片の間に選択マーカーを連結し、該微細藻類内では自律複製できない薬剤耐性遺伝子等を有するプラスミドDNAと連結した相同組換え用プラスミドを用いる方法が挙げられる。
また、微細藻類の染色体DNA上において欠損させたい遺伝子又はDNAの両外側に存在するDNA断片の間に選択マーカーを連結したDNA断片をPCR法にて増幅する方法も挙げられる。該相同組換え用プラスミドを適当な制限酵素で処理して線状にしたDNA断片、またはPCR法で増幅したDNA断片を常法により微細藻類内に導入した後、薬剤耐性や栄養要求性を指標にして、相同組換えによって染色体DNA上に該相同組換え用プラスミドが組込まれた形質転換株が選択される。
【0015】
また、微細藻類の染色体DNAを欠損させる他の方法としては、トランスポゾンでランダムに遺伝子を挿入させ、遺伝子挿入された群の中から、目的の遺伝子に挿入が起こった株の選抜をする方法が挙げられる。また、選択マーカーをもった外来遺伝子を細胞内に導入し、それがランダムに(非相同組換え)ゲノムに挿入されることにより、トランスポゾンと同様に遺伝子の欠損を起こした株を得る方法も挙げられる。
【0016】
微細藻類に遺伝子を導入する方法としては、粒子衝撃、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ポリエチレングリコール、リポフェクション、吸着、感染およびプロトプラスト融合等が挙げられる。具体的には、組換え用プラスミドを、指数増殖期の間の微細藻類に導入する方法が好ましい。また、エレクトロポレーションによる宿主細胞への遺伝子導入の前にプロテアーゼ活性を有する酵素で前処理する方法も挙げられる。
【0017】
以下、本発明の微細藻類の好ましい実施形態について説明するが、これらの実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために一例として説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
[第1実施形態]
本実施形態に用いられる宿主微細藻類としては、C.merolae等のラパマイシン非感受性のものが挙げられる。C.merolaeは、高温強酸性の温泉等、真核生物としては最も極限的な環境の一つに生息する単細胞紅藻である。また、C.merolaeは、全ゲノムの塩基配列が決定されており、イントロンを数か所しか有していない。更に、核遺伝子のノックアウトが可能であり、遺伝子の重複性が低いことから植物研究のモデル生物として考えられている。
【0019】
本実施形態の微細藻類は、FKBP12をコードする構造遺伝子配列並びに該構造遺伝子を発現させるためのプロモーター配列およびターミネーター配列を、染色体中に有するか、または、染色体外遺伝子として有する。
FKBP12は、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼに属するタンパク質である。ラパマイシンは、FKBP12に結合して複合体を形成し、該複合体がTORに結合して3重複合体を形成することによりTORの酵素活性を阻害する。本実施形態の微細藻類に用いられるC.merolaeは、ラパマイシンに非感受性を示すが、FKBP12を高発現させることにより、ラパマイシンに対して感受性を示すようになる。
【0020】
FKBP12をコードする構造遺伝子としては、特に限定されず、ヒト由来の遺伝子であっても酵母由来の遺伝子であってもよく、Saccharomyces cerevisiae由来の遺伝子が好ましい。ここで、FKBP12をコードする構造遺伝子としては、cDNAであってもgenomicDNAであってもよい。
また、FKBP12をコードする構造遺伝子配列は、ラパマイシンに対して感受性を示す生物種由来の配列であることが好ましい。
【0021】
酵母FKBP12とヒトFKBP12のアミノ酸配列の相同性(アミノ酸配列の同一性)は、50〜60%であることから、本実施形態に用いられるFKBP12をコードする構造遺伝子は、以下の(a)〜(d)のいずれか一つのDNAからなり、かつ、ラパマイシンと複合体を形成して、TORの酵素活性を阻害するタンパク質をコードするものが好ましい。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1〜数個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなるDNA、
(c)配列番号1で表される塩基配列と相同性(塩基配列の同一性)が30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である塩基配列からなるDNA、又は、
(d)配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列からなるDNA
【0022】
更に、本実施形態に用いられるFKBP12をコードする構造遺伝子は、以下の(e)又は(f)のタンパク質をコードする遺伝子がより好ましい。
(e)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(f)(e)のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ラパマイシンと複合体を形成して、TORの酵素活性を阻害するタンパク質
【0023】
プロモーター配列およびターミネーター配列としては、チューブリン、アクチン、ルビスコ、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35S、アグロバクテリウムNOSなどが挙げられる。
本実施形態の微細藻類において、FKBP12を発現させる方法としては、一過的に過剰発現させる方法、安定的に過剰発現させる方法が挙げられ、後述する[油脂の製造方法]において取扱いが用意であることから、安定的に過剰発現させる方法が好ましい。
【0024】
本実施形態の微細藻類は、FKBP12を発現しているため、ラパマイシンに対して感受性を示す。そして、ラパマイシンを培養液に添加することにより、微細藻類中のTORの酵素活性が低下又は失活し、本実施形態の微細藻類中に油脂が蓄積する。
【0025】
[第2実施形態]
本実施形態に用いられる微細藻類としては、C.reinhardtii等のラパマイシン感受性のものが挙げられる。ラパマイシンを培養液に添加することにより、微細藻類中のTORの酵素活性が低下又は失活し、本実施形態の微細藻類中に油脂が蓄積する。
更に、ラパマイシンの他、ATP競合阻害剤を用いることができる。ヒトTOR(mammalian target of rapamycin;mTOR)を標的とするATP競合阻害剤は、抗癌剤としての研究開発が進められており、mTORに対する強力な阻害活性と他のキナーゼに対する選択性を有するものが開発されている。係るATP競合阻害剤としては、Torin1、AZD8055等が挙げられる。これらATP競合阻害剤を用いることにより、本実施形態中の微細藻類のTOR活性が強力にかつ選択的に抑制されるため、油脂が効率良く蓄積する。
【0026】
[第3実施形態]
本実施形態に用いられる微細藻類としては、P.ellipsoideaが挙げられ、P.ellipsoideaN1株やP.ellipsoideaObi株が好ましい。P.ellipsoideaは、増殖速度が速いため油脂の生産に優れている(特許第4748154号公報参照)。
第2実施形態と同様、本実施形態においても、ATP競合阻害剤を用いることができる。本実施形態によれば、油脂の生産にすぐれた微細藻類を用いて、TORを強力にかつ選択的に阻害することにより油脂を効率よく蓄積させることができる。
【0027】
<培養物>
本発明の培養物は、上述した本発明の微細藻類を培養してなるものである、該培養物は、微細藻類に遺伝的操作が加えられておらず、TORの活性が低下又は失活していない場合には、更にTOR阻害剤を含有することが好ましい。
【0028】
<油脂の製造方法>
以下、本発明の炭化水素類の製造方法の好ましい実施形態について説明するが、これらの実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために一例として説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0029】
[第1実施形態]
本実施形態の油脂の製造方法は、微細藻類を培養する工程A1と、前記工程A1の後、前記微細藻類を培養してなる培養液にTOR阻害剤を添加する工程B1と、を有する。
本実施形態における培養対象の微細藻類としては、特に限定されないが、ラパマイシン感受性のものが好ましい。
【0030】
先ず、工程A1において、微細藻類を培養する。微細藻類の培養するための培地としては、各種栄養塩、微量金属塩、ビタミン等を含む公知の淡水産微細藻類用の培地、海産微細藻類用の培地が挙げられる。また、既知の淡水産微細藻類用の培地をベースに作成した寒天平板培地も利用可能である。
栄養塩としては、NaNO、KNO、NHCl、(NHSO、尿素等の窒素源;KHPO、KHPO、グリセロリン酸ナトリウム等のリン源が挙げられる。
微量金属としては、鉄、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛等が挙げられ、ビタミンとしてはビタミンB1、ビタミンB12等が挙げられる。
また、工程A1において、微細藻類の培養条件として、通気条件で二酸化炭素の供給とともに攪拌を行うことが好ましい。その際、蛍光灯で12時間の光照射、12時間の暗条件などの明暗サイクルをつけた光照射、又は、連続光照射して、静置、振盪又は空気通気培養することが好ましい。また、増殖促進の観点から、空気中へ二酸化炭素を1〜5%程度付加しながら培養することが好ましい。
更に、微細藻類の増殖に悪影響を与えない範囲内であれば特に制限はされないが、例えばC.merolaeにおいては、培養液のpHを2〜3とすることが好ましく、培養温度を、42℃にすることが好ましく、;P.ellipsoideaにおいては、培養液のpHを3〜4とすることが好ましく、培養温度を、25℃にすることが好ましく、;C.reinhardtiiにおいては、培養液のpHを5.5〜8.5とすることが好ましく、培養温度を、25℃にすることが好ましい。
【0031】
次いで、工程B1において、微細藻類を培養してなる培養液にTOR阻害剤を添加する。用いられるTOR阻害剤としては、特に限定されず、ラパマイシンであっても、ATP競合阻害剤であってもよい。TOR阻害剤の添加量としては、特に限定されないが、増殖阻害が10%〜70%引き起こされる程度の添加量が好ましく、20%〜60%引き起こされる程度の添加量がより好ましく、50%引き起こされる程度の添加量が特に好ましい。
工程B1を経て、微細藻類中に油脂が蓄積される。
【0032】
以上のような条件で培養すると、培養開始から6〜8日程度で、油脂が採取できる。
本実施形態によれば、生産性良く油脂を製造できる。
更に、本実施形態によれば、培養を窒素欠乏条件下で行わずとも油脂を製造することができるため、従来の油脂製造方法において必要であった窒素欠乏条件下の培養工程を省略できる。従って、本実施形態の油脂製造方法は、コスト面においても優れている。
【0033】
生産された油脂は培養藻体から採取できる。フレンチプレスやホモジナイザーなどの一般的な方法により細胞を破砕してからn−ヘキサンなどの有機溶媒によって抽出する方法や、細胞をガラス繊維等のフィルター上に回収し、乾燥させてから、有機溶媒などによって抽出する方法が挙げられる。また、細胞を遠心分離で回収し、凍結乾燥して粉末化し、その粉末から有機溶媒で抽出する方法も挙げられる。抽出後の溶媒を、減圧又は常圧下で、また加温又は常温で揮散させることにより目的の油脂が得られる。
【0034】
微細藻類中に蓄積する油脂は、脂肪酸がグリセロールとエステル結合した化合物である。係る油脂としては、アシルグリセリドが好ましく、トリアシルグリセリドがより好ましい。例えばこれら油脂をメタノールでメチルエステル化し、従来のディーゼル燃料と同品質な燃料(Biodiesel fuel)へと変換して用いることができる。。
【0035】
[第2実施形態]
本実施形態の油脂の製造方法は、FKBP12をコードする構造遺伝子配列並びに該構造遺伝子を発現させるためのプロモーター配列およびターミネーター配列を、染色体中に有するか、または、染色体外遺伝子として有する微細藻類を用いる方法である。本実施形態において、FKBP12をコードする構造遺伝子配列は、ラパマイシンに対して感受性を示す生物種由来の配列であることが好ましい。
本実施形態に用いられる宿主微細藻類としては、C.merolae等のラパマイシン非感受性のものが挙げられる。微細藻類の第1実施形態で述べたように、FKBP12を発現させることにより、ラパマイシン非感受性微細藻類は、ラパマイシンに対して感受性を示す。そして、ラパマイシンを培養液に添加することにより、微細藻類中のTORの酵素活性が低下又は失活し、微細藻類中に油脂が蓄積する。
他の構成については、第1実施形態の油脂の製造方法と同様であるためその説明を省略する。
【0036】
[第3実施形態]
本実施形態の油脂の製造方法は、TORの酵素活性が低下又は失活している微細藻類を培養する工程A2を有する。
本実施形態においては、TORをコードする微細藻類の染色体DNAの少なくとも一部の塩基を置換又は欠損させた変異体;TORをコードする微細藻類の染色体DNAに挿入配列を組み込み、フレームシフトを引き起こさせた変異体;TORのドミナントネガティブ型を一過的又は安定的に微細藻類に過剰発現させた形質転換体等を用いることが好ましい。
また、TORの遺伝子の発現をmRNAレベルで抑制し得るRNAi誘導性核酸を微細藻類に発現させた形質転換体も挙げられる。RNAi誘導性核酸とは、微細藻類細胞内に導入されることにより、RNA干渉を誘導し得る核酸を意味する。RNA干渉とは、mRNA(又はその部分配列)に相補する塩基配列を含むRNAが、当該mRNAの発現を抑制する効果をいう。
RNAi誘導性核酸が標的とするmRNAは、コーディング領域であっても、ノンコーディング領域であってもよい。
また、RNAi誘導性核酸としては、例えばsiRNAやmiRNAが挙げられる。微細藻類細胞内に導入され、siRNA と同様にRNAiを引き起こすベクターとしては、shRNA(short hairpin RNA/small hairpin RNA)発現ベクターが挙げられる。
更に、TORの活性阻害が、微細藻類の生育阻害を引き起こすおそれがある観点から、上述したRNAi誘導性核酸をconditionalに発現誘導し、TORの活性を調節することが好ましい。
他の構成については、第1実施形態の油脂の製造方法と同様であるためその説明を省略する。
本実施形態によれば、TOR阻害剤を添加せずとも上記微細藻類変異体又は形質転換体を培養するのみで油脂を製造できる。従って、本実施形態の油脂製造方法は、コスト面において更に優れている。
【実施例】
【0037】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
≪実施例1≫
[ラパマイシンによる増殖抑制効果]
24ウェルプレートの各ウェルに約1.0×10個/mLのC.merolaeを加え、終濃度0μM、0.1μM、0.5μM、1μM、5μM、10μMになるようにラパマイシンを加え、40℃60時間培養した。各ウェルの写真を図1に示す。
図1に示すように、ラパイシンを10μM用いても、0μMのウェルと緑色濃度に差が見られないことから、C.merolaeはラパマイシンに非感受性を示すことが確認された。
培養に用いた培地の組成については、Ohnuma M,et.al., Plant Cell Physiol. (2008)Vol.49,pp.117−120.の記載に従った。
【0039】
[発現ベクターの作製]
Saccharomyces cerevisiae由来のFKBP12(ScFKBP12)の5’末端にC.merolaeのAPCC(CMO250C; http://merolae.biol.s.u-tokyo.ac.jp/参照 )遺伝子のプロモーター領域を含み、3’末端にAPCC遺伝子のターミネーター領域を含んだ断片を乗り換えPCR法にて増幅した。また、ScFKBP12とAPCC遺伝子のターミネーター領域の間には、3×FLAGタグ配列を付加し、C.merolae細胞内におけるScFKBP12発現の指標のために用いた。このような断片をPCR法にて増幅する際、DNAの5’ 末端と3’末端に制限酵素EcoRIで認識される配列を人為的に付加しておき、該断片をEcoRIで消化した。一方、これとは別にpKFURACm−Gs(Imamura S,et.al., Plant Cell Physiol. (2010)Vol.51,pp.707−717.参照)を制限酵素EcoRIで消化し、アルカリフォスファターゼ処理した。この処理後、アガロース電気泳動に供し、ベクターpKFURACm−Gs断片と、上記のScFKBP12遺伝子を含む断片をアガロースゲルから切出し、ライゲーションした後、大腸菌DH5α(東洋紡社製)に導入して形質転換した。得られた形質転換体よりベクターを調製し、目的とする発現ベクターpKF−ScFKBP12(図2参照。) を取得した。制限酵素地図の作製とキャピラリーシーケンサーによる塩基配列解読から目的とするベクターであることを確認した。
【0040】
[ScFKBP12高発現株の作製]
前記pKF−ScFKBP12とその母体ベクターであるpKFURACm−Gsを、それぞれImamura S,et.al., Plant Cell Physiol. (2010)Vol.51,pp.707−717.に従い、C.merolae M4株に導入して形質転換した。その後、ウラシル非要求性を指標として形質転換体を選抜し、ScFKBP12高発現株であるF12株とコントロール株であるC12株が得られた。
【0041】
[ラパマイシンによる増殖抑制効果]
24ウェルプレートの各ウェルに約1.0×10個/mLのScFKBP12高発現株であるF12株もしくはC12株を加え、終濃度0nM、10nM、50nM、100nM、500nM、1000nMになるようにラパマイシンを加え、40℃60時間培養した。各ウェルの写真とScFKBP12高発現株の細胞濁度を図3に示す。また、ScFKBP12高発現株に終濃度500nMになるようにラパマイシンを加えて培養し、経時的に培養液の濁度及び細胞数を測定した。「細胞濁度」と「細胞数」二つの指標で観察した細胞増殖曲線の結果を図4及び図5に示す。
図3に示すように、ScFKBP12発現株においてラパイシン10nMで増殖抑制効果がみられ、500nMで完全な増殖抑制効果が観察された一方、C12株の増殖は阻害されなかった。このことから、ScFKBP12高発現株はラパマイシンに感受性を示すことが確認された。
図4及び図5に示されるように、ラパマイシン非存在下では、ScFKBP12高発現株は、C12株と比較して同様の増殖効率を示したが、ラパマイシン存在下では、増殖抑制されることが確認された。
【0042】
[油脂生産能評価]
ScFKBP12高発現株に終濃度500nMのラパマイシンを加えて培養し、ScFKBP12高発現株における油脂の蓄積を経時的に測定した。BODIPYで油脂を染色した結果を図6下段に示し、クロロプラストの自家蛍光写真を図6中段に示し、ScFKBP12高発現株の明視野像を図6上段に示す。同様に、ScFKBP12高発現株にDMSO添加後の油脂の蓄積を図7に示す。
図6下段に示すように、ラパマイシン添加24時間以降、油脂の蓄積が観察された。特に48時間以降の油脂の蓄積が図7下段のコントロールとしてDMSOを添加した時と比較して顕著であることが確認された。
【0043】
また、ScFKBP12高発現株におけるラパマイシン添加2日後のトリアシルグリセリド(TAG)の生産量を定量した。詳細には、ラパマイシン添加後2日後の細胞を回収し、−80度で保存した。使用する際は、細胞を凍結乾燥機で約16時間乾燥させ、脂質の抽出に供した。総脂質の抽出は、Bligh & Dyer法 (Bligh EG,et.al., Can.J.Biochem.Physiol. (1959)Vol.37,pp.911−917.) に基づき行った。
乾燥体を水、クロロホルムとメタノール (1:2(vol/vol)) で懸濁し、総脂質を抽出した。その抽出液にクロロホルムと1 %のKClを加え、懸濁後遠心分離を行った。遠心分離後は2層に分離し、総脂質を含む下層の有機溶媒層を回収した。総脂質からのTAGの分離は、薄層クロマトグラフィーにて行った。その際の展開溶媒組成液は、ヘキサン : ジエチルエーテル : 酢酸=160 : 40 : 4 (vol/vol) で行った。分離後のプレートからTAGのスポットを掻きとり、15:0脂肪酸 (pentadecanoic acid) を内部標準試料として、TAGをメタノリシス処理した。具体的には、ネジ栓付きガラス試験管内で、TAGを含むシリカゲル粉末に100μLの1 mM 15 : 0ヘキサン溶液および500μLの5 %塩化水素メタノール溶液を添加して85℃で1時間処理した。メタノリシス処理後、ヘキサンで脂肪酸メチルエステルを回収し、窒素ガスで乾燥後、60 μLのヘキサンで溶解し、そのうち3 μLをガスクロマトグラフィーに供して定量を行った。
【0044】
結果を図8に示す。図8に示すように、コントロールとしてDMSOのみを添加して2日間培養した場合と比較して、ラパマイシン添加して2日間培養することによりTAGの蓄積量が増加することが確認された。
【0045】
≪実施例2≫
[ラパマイシンによる増殖抑制効果]
6ウェルプレートの各ウェルに約3.0×10個/mLのC.reinhardtiiを加え、終濃度0nM、100nM、200nM、400nM、600nM、1000nMとなるようにラパマイシンを加え、25℃40時間培養した。各ウェルの写真及び濁度を図9に示す。
培養に用いた培地の組成については、Gorman DS,et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,. (1965)Vol.54,pp.1665−1669.の記載に従った。
図9に示すように、ラパイシンの用量依存的にC.reinhardtiiの細胞増殖が抑制されていることから、C.reinhardtiiはラパマイシンに感受性を示すことが確認された。
【0046】
[油脂生産能評価]
C.reinhardtiiに400nMのラパマイシンを加えて25℃40時間培養し、C.reinhardtiiにおける油脂の蓄積を測定した。BODIPYで油脂を染色した結果を図10に示す。
図10に示すように、400nMラパマイシン添加により、油脂の蓄積が観察された。
【0047】
[ATP競合阻害剤による増殖抑制効果1]
6ウェルプレートの各ウェルに約3.0×10個/mLのC.reinhardtiiを加え、終濃度0nM、1nM、10nM、100nM、1000nM、10000nMとなるようにTorin1(Thoreen CC,et.al., J. Biol. Chem. (2009)Vol. 20, pp.8023−32.参照)を加え、25℃100時間培養した。各ウェルの写真及び濁度を図11に示す。
図11に示すように、Torinの用量依存的にC.reinhardtiiの細胞増殖が抑制されていることから、C.reinhardtiiはTORのATP競合阻害剤であるTorin1に感受性を示すことが確認された。
【0048】
[油脂生産能評価]
C.reinhardtiiに終濃度1000nMのTorin1を加えて25℃100時間培養し、C.reinhardtiiにおける油脂の蓄積を測定した。BODIPYで油脂を染色した結果を図12に示す。
図12に示すように、2か所の異なる視野において、終濃度1000nMTorin1添加により、油脂の蓄積が観察された。
【0049】
[ATP競合阻害剤による増殖抑制効果2]
6ウェルプレートの各ウェルに約3.0×10個/mLのC.reinhardtiiを加え、終濃度0nM、1nM、10nM、100nM、1000nM、10000nMとなるようにAZD8055(Chresta CM, et.al., Cancer Res.(2010)Vol.70, pp.288−98.参照)を加え、25℃48時間培養した。各ウェルの写真及び濁度を図13に示す。
図13に示すように、AZD8055の用量依存的にC.reinhardtiiの細胞増殖が抑制されていることから、C.reinhardtiiはTORのATP競合阻害剤であるAZD8055に感受性を示すことが確認された。
【0050】
[油脂生産能評価]
C.reinhardtiiに終濃度100nMのAZD8055を加えて25℃48時間培養し、C.reinhardtiiにおける油脂の蓄積を測定した。BODIPYで油脂を染色した結果を図14に示す。
図14に示すように、2か所の異なる視野において、100nMAZD8055添加により、油脂の蓄積が観察された。
【0051】
≪実施例3≫
[ATP競合阻害剤による増殖抑制効果1]
6ウェルプレートの各ウェルに約5.0×10個/mLのP.ellipsoideaを加え、終濃度0nM、1nM、10nM、100nM、1000nM、10000nMとなるようにTorin1を加え、25℃48時間培養した。各ウェルの写真及び濁度を図15に示す。
培養に用いた培地の組成については、Imamura S,et.al., J. Gen. Appl. Microbiol., (2012)Vol.58,pp.1−10.の記載に従った。
図15に示すように、Torinの用量依存的にP.ellipsoideaの細胞増殖が抑制されていることから、P.ellipsoideaはTORのATP競合阻害剤であるTorin1に感受性を示すことが確認された。
【0052】
[油脂生産能評価]
P.ellipsoideaに終濃度10000nMとなるようにTorin1を加えて25℃48時間培養し、P.ellipsoideaにおける油脂の蓄積を測定した。BODIPYで油脂を染色した結果を図16に示す。
図16に示すように、10000nMのTorin1添加により、油脂の蓄積が観察された。
【0053】
[ATP競合阻害剤による増殖抑制効果2]
6ウェルプレートの各ウェルに約5.0×10個/mLのP.ellipsoideaを加え、終濃度0nM、1nM、10nM、100nM、1000nM、10000nMとなるようにAZD8055を加え、25℃48時間培養した。各ウェルの写真及び濁度を図17に示す。
図17に示すように、AZD8055の用量依存的にP.ellipsoideaの細胞増殖が抑制されていることから、P.ellipsoideaはTORのATP競合阻害剤であるAZD8055に感受性を示すことが確認された。
【0054】
[油脂生産能評価]
P.ellipsoideaに1000nMのAZD8055を加えて25℃48時間培養し、P.ellipsoideaにおける油脂の蓄積を測定した。BODIPYで油脂を染色した結果を図18に示す。
図18に示すように、終濃度1000nMとなるようにAZD8055を添加することにより、油脂の蓄積が観察された。
【0055】
≪実施例4≫
[油脂生産能評価]
50mlの培地(Gorman DS,et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,. (1965)Vol.54,pp.1665−1669.参照。)を含む試験管を4つ用意し、それぞれを試験管1、試験管2、試験管3、試験管4とした。各培地にC.reinhardtiiをそれぞれ加えた後、蛍光灯で光をあてながら通気条件下、COの供給と共に25℃で攪拌することによって培養を開始した。対数増殖期に達したところで、DMSO、終濃度1.0μMのラパマイシン、終濃度1.0μMのTorin1、又は終濃度0.2μMのAZD8055を加え、25℃24時間培養し、C.reinhardtiiにおけるTAGの生産量を、実施例1に記載のガスクロマトグラフィーによる定量方法と同様の方法にて、定量した。
結果を図19に示す。図19に示すように、コントロールとしてDMSOのみを添加して1日間培養した場合と比較して、TOR阻害剤添加して1日培養することによりTAGの生産量が増加することが確認された。
【0056】
≪実施例5≫
[油脂生産能評価]
4つの200mL扁平フラスコを準備し、それぞれをフラスコ1、フラスコ2、フラスコ3、フラスコ4とした。各フラスコに窒素十分培地(Imamura S,et.al., J. Gen. Appl. Microbiol., (2012)Vol.58,pp.1−10.参照。)を入れて、P.ellipsoideaをそれぞれの培地に加えた後、蛍光灯で光をあてながら通気条件下、COの供給と共に25℃で攪拌することによって培養を開始した。培養4日後に、フラスコ1の培地を新しい窒素十分培地に交換し、フラスコ2の培地を窒素欠乏培地(窒素十分培地の組成のNaNOを等モル濃度のNaClに置換した組成の培地)に交換し、フラスコ3の培地にDMSOを添加し、フラスコ4の培地に終濃度1μMのAZD8055を加え、更に培養した。
培養4日後以降のフラスコ1〜フラスコ4の培地を経時的にサンプリングして、それぞれ遠心分離し、上澄みを除去した後、P.ellipsoideaの沈殿物を回収した。フラスコ1〜フラスコ4の培地から得られた沈殿物を凍結乾燥後に、その乾燥体の乾燥重量を測定した。
沈殿物を乾燥後、油分分析用TD-NMR(Time Domain Nuclear Magnetic Resonance、時間領域核磁気共鳴)装置を使用して、乾燥重量当たりのTAG重量比率を測定した。標準試料にオリーブ油を使用した。結果を図20に示す。図20に示すように、乾燥重量当たりのTAG重量比率は、窒素欠乏条件よりもAZD8055添加条件の方が優位に大きかった。
【0057】
また、培養液1L当たりのTAG重量を算出した結果を図21に示し、単位細胞数当たりのTAG重量を算出した結果を図22に示し、ラボスケールでのTAG生産性を算出した結果を図23に示す。ここで、ラボスケールでのTAG生産性とは、培養液1L当たりのTAG重量を、総培養日数で割った値を示す。
図21図23に示すように、どの算出方法においても、AZD8055添加条件が窒素欠乏条件より大きい値を示すことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]