(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記錆転換剤の、前記多価フェノール化合物の含有量が0.5〜5質量%であり、前記樹脂の含有量が1〜10質量%であり、前記有機溶剤の含有量が85〜98.5質量%である、請求項3に記載の錆転換方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<錆転換方法>>
本実施形態の錆転換方法は、鉄製の又は鉄を主成分とする鋼材の表面に赤錆層を有する赤錆鋼材において、前記赤錆を黒錆に転換する錆転換方法であって、赤錆を黒錆に転換する作用を有する液状の錆転換剤を、前記赤錆層の内部に浸透させる浸透工程と、海風雰囲気下において、浸透させた前記錆転換剤によって、前記赤錆層中の赤錆を黒錆に転換する錆転換工程と、を有する。
【0012】
前記錆転換方法によれば、海上や、陸上でも海に近い沿岸部などの、海水及び紫外線の影響が大きい場所に存在する鋼材において、錆発生の進行を十分に抑制する、十分な防錆効果が得られる。
前記錆転換方法の適用対象としては、例えば、海上又は沿岸部の各種構造物が挙げられ、より具体的には、船舶の船体、配管、タンク等をはじめとする船舶の各種構造物;橋梁等の海上建築物;沿岸部の各種設備、建築物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
水及び空気の存在下で、鉄から鉄イオン(Fe
2+)が生じ、この鉄イオンは水酸化第一鉄(Fe(OH)
2)を経由して、酸化鉄の1種であるヘマタイト(Fe
2O
3)となる。このヘマタイトは、赤鉄鉱又は酸化第二鉄等とも称され、赤錆の1種である。
一方、鉄イオン(Fe
2+)と赤錆は、還元剤の存在下で反応し、マグネタイト(Fe
3O
4)となる。このマグネタイトは、四三酸化鉄又は磁鉄鉱とも称される黒錆である。
【0014】
前記錆転換方法においては、このように、還元剤(錆転換剤)を用いて、赤錆を黒錆に転換する。すなわち、前記錆転換方法は、錆の新たな発生源である鉄イオン(Fe
2+)と、すでに発生している赤錆と、を利用して、黒錆を発生させ、さらなる錆発生の進行を抑制する。前記錆転換方法において、赤錆の黒錆への転換を海風雰囲気下において行う理由は、新たに発生した鉄イオン(Fe
2+)を利用することにある。前記錆転換方法は、このように海風雰囲気下において行うため、上述の海上又は沿岸部の各種構造物等の、海水及び紫外線の影響が大きい場所に存在する鋼材に対して適用するのに、特に優れている。これは、従来の錆転換方法とは全く相違する点である。
なお、本明細書において、「錆転換」とは、赤錆の黒錆への転換を意味する。
【0015】
また、前記錆転換方法においては、液状の錆転換剤を用い、これを赤錆層の内部に浸透させて、錆転換を行う。このようにすることで、赤錆層の深部においても錆転換が可能であり、十分な防錆効果が得られる。
本実施形態で用いる錆転換剤については、後ほど詳しく説明する。
【0016】
前記錆転換方法の適用対象である鋼材は、鉄製であるか、又は鉄を主成分とする金属であり、錆が発生し得る、鉄を含む金属材料全般である。鉄を主成分とする金属としては、例えば、鋳鉄等が挙げられる。
なお、本明細書において、「鉄を主成分とする」とは、鉄の含有量が80質量%以上であることを意味する。
【0017】
前記赤錆鋼材は、鉄製の又は鉄を主成分とする鋼材の表面に赤錆層を有するものであればよく、赤錆層の厚さは特に限定されない。
【0018】
<浸透工程>
前記浸透工程においては、赤錆を黒錆に転換する作用を有する液状の錆転換剤を、前記赤錆層の内部に浸透させる。液状の錆転換剤が赤錆鋼材の赤錆層の内部に浸透することで、赤錆鋼材の全域で、十分な防錆効果が得られる。
【0019】
[錆転換剤]
前記錆転換剤は、液状であり、赤錆を黒錆に転換する作用を有する。
錆転換剤は、例えば、−5〜40℃で、液状であることが好ましい。
錆転換剤の20℃における粘度は、0.02〜0.05Pa・sであることが好ましく、0.025〜0.04Pa・sであることがより好ましい。粘度が前記下限値以上である錆転換剤は、その調製がより容易である。錆転換剤の粘度が前記上限値以下であることで、錆転換剤は赤錆層の内部へより容易に浸透する。
錆転換剤の粘度は、例えば、回転式粘度計(クレブス粘度計)を用いて測定できる。
【0020】
(多価フェノール化合物)
前記錆転換剤は、赤錆の黒錆への転換作用を有する有効成分として、多価フェノール化合物を含有するものが好ましい。
前記多価フェノール化合物は、1個又は2個以上のベンゼン環骨格を有し、その少なくとも一部又はすべてのベンゼン環骨格が、1個あたり、2個以上の水酸基を有する化合物である。
前記多価フェノール化合物としては、例えば、タンニン酸等が挙げられる。
【0021】
前記錆転換剤が含有する前記多価フェノール化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0022】
前記錆転換剤が前記多価フェノール化合物を含有する場合、錆転換剤の多価フェノール化合物の含有量は、0.5〜5質量%であることが好ましく、0.9〜2質量%であることがより好ましい。
【0023】
(樹脂)
前記錆転換剤は、前記多価フェノール化合物以外の樹脂を含有するものが好ましい。
前記樹脂は、赤錆から黒錆へ錆転換中の赤錆層、そして、赤錆から黒錆へ錆転換後の黒錆層において、空隙部を充填して、最終的に黒錆層の構造を安定化させる。
なお、本明細書において、単なる「樹脂」との記載は、特に断りのない限り、上述の「多価フェノール化合物以外の樹脂」を意味する。
【0024】
前記樹脂は、前記多価フェノール化合物以外のものであれば、特に限定されず、硬化性及び非硬化性のいずれであってもよい。
前記樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリエステル等が挙げられる。
【0025】
前記錆転換剤が含有する前記樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0026】
前記錆転換剤が前記樹脂を含有する場合、錆転換剤の樹脂の含有量は、1〜10質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。
【0027】
(有機溶剤)
前記錆転換剤は、有機溶剤を含有するものが好ましい。有機溶剤を含有する錆転換剤は、赤錆層の内部へより容易に浸透させることが可能である。
前記有機溶剤は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0028】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール等のアルコール;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル等のエステル;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルエステル;ケロシン(炭化水素)等が挙げられる。
【0029】
前記錆転換剤が含有する前記有機溶剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0030】
前記錆転換剤が前記有機溶剤を含有する場合、錆転換剤の有機溶剤の含有量は、85〜98.5質量%であることが好ましく、93〜97.1質量%であることがより好ましい。
【0031】
前記錆転換剤は、例えば、含有する前記有機溶剤の組み合わせ及び含有量を調節することによって、その粘度等の物性を調節でき、赤錆層の内部への浸透性をより向上させることが可能である。
このような観点で好ましい錆転換剤としては、例えば、前記有機溶剤として、トルエン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル及びケロシンを含有するものが挙げられる。このように、有機溶剤の組み合わせを規定することで、錆転換剤は、赤錆層の内部への浸透性に、より優れたものとなる。
【0032】
さらに、このような錆転換剤でより好ましいものとしては、例えば、前記有機溶剤の総含有量に対する、トルエンの含有量の割合が27〜37質量%であり、シクロヘキサノンの含有量の割合が17〜27質量%であり、メチルエチルケトンの含有量の割合が5〜15質量%であり、メチルイソブチルケトンの含有量の割合が2〜8質量%であり、アセトンの含有量の割合が2〜8質量%であり、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の割合が2〜8質量%であり、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル及びケロシンの含有量の割合が、それぞれ1質量%未満であるものが挙げられる。このように、有機溶剤の総含有量に対して、ここに挙げた各有機溶剤の含有量の割合を規定することで、錆転換剤は、赤錆層の内部への浸透性に、特に優れたものとなる。ここで、「1質量%未満」とした、上述の8種の有機溶剤の含有量の割合は、有機溶剤ごとに独立して設定できる。すなわち、8種の有機溶剤の含有量の割合は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。また、これら8種の有機溶剤の含有量の割合について、その下限値は、0質量%よりも多ければ、特に限定されない。
【0033】
(他の成分)
前記錆転換剤は、前記多価フェノール化合物、樹脂及び有機溶剤のいずれにも該当しない、他の成分を含有していてもよい。
前記他の成分は、本発明の効果を損なわない範囲内において、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
【0034】
前記錆転換剤が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0035】
前記錆転換剤の前記他の成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
前記錆転換剤の前記他の成分の含有量の下限値は、特に限定されない。前記錆転換剤の前記他の成分の含有量は、0質量%以上である。
【0036】
前記錆転換剤は、前記多価フェノール化合物、樹脂及び有機溶剤を含有するものが好ましい。
このような錆転換剤においては、前記多価フェノール化合物、樹脂及び有機溶剤からなる群より選択される1種又は2種以上が、上述の含有量の条件を満たしていることが好ましい。
なかでも、より好ましい錆転換剤としては、例えば、前記多価フェノール化合物の含有量が0.5〜5質量%であり、前記樹脂の含有量が1〜10質量%であり、前記有機溶剤の含有量が85〜98.5質量%であるものが挙げられる。
そして、特に好ましい錆転換剤としては、例えば、前記多価フェノール化合物の含有量が0.5〜5質量%であり、前記樹脂の含有量が1〜10質量%であり、前記有機溶剤の含有量が85〜98.5質量%であり、前記有機溶剤の総含有量に対する、トルエンの含有量の割合が27〜37質量%であり、シクロヘキサノンの含有量の割合が17〜27質量%であり、メチルエチルケトンの含有量の割合が5〜15質量%であり、メチルイソブチルケトンの含有量の割合が2〜8質量%であり、アセトンの含有量の割合が2〜8質量%であり、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の割合が2〜8質量%であり、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル及びケロシンの含有量の割合が、それぞれ1質量%未満であるものが挙げられる。
【0037】
前記錆転換剤は、必須成分と、必要に応じて任意成分と、を配合することで製造できる。ここで、「必須成分」とは、前記多価フェノール化合物等の錆転換作用を有する有効成分である。また、「任意成分」とは、例えば、前記樹脂、有機溶剤、他の成分等である。
【0038】
配合成分を混合する方法は、特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサー、三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を使用して混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
【0039】
配合時の温度は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、例えば、10〜50℃であってもよい。
配合時間も、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、例えば、1〜60分であってもよい。
【0040】
前記錆転換剤は、上述のような方法で製造後に、そのまま前記浸透工程で使用できる。従来の防錆剤には、2種の原料を混合して使用する2液品タイプのものがあるが、前記錆転換剤は、2液品タイプではないため、前記浸透工程を簡便に行うことができる。すなわち、前記錆転換方法は、簡略化された工程で行うことができる。
【0041】
前記浸透工程においては、前記赤錆鋼材のうち、鉄製の又は鉄を主成分とする前記鋼材と、前記赤錆層と、の境界領域にまで、前記錆転換剤を浸透させることが好ましい。このように、錆転換剤を前記境界領域にまで到達させることで、より高い防錆効果が得られる。
前記境界領域とは、赤錆鋼材中の、赤錆層と、これに隣接する赤錆を有しない層と、の境界となる領域である。
例えば、錆転換剤の粘度等の物性又は使用量を調節することにより、錆転換剤を、前記界面までより容易に到達させることができる。
【0042】
前記錆転換剤の使用量は、錆転換剤の適用対象部の表面の面積1m
2あたり100〜400gであることが好ましく、150〜300gであることがより好ましい。すなわち、前記錆転換剤の使用量は、錆転換剤の適用対象部の表面に対して、100〜400g/m
2であることが好ましく、150〜300g/m
2であることがより好ましい。錆転換剤の使用量が前記下限値以上であることで、より高い防錆効果が得られる。錆転換剤の使用量が前記上限値以下であることで、錆転換剤の過剰使用が抑制される。
【0043】
ここで、「錆転換剤の適用対象部」とは、「錆転換剤を浸透させるための赤錆層の部位」を意味する。例えば、錆転換剤の適用対象部の表面において、赤錆が浮いていたり、赤錆の一部が脱落しているなど、前記表面が荒れている場合には、錆転換剤の適用対象部の表面の面積値としては、この表面をその上方から見下ろして平面視したときの面積値を採用すればよい。
【0044】
前記錆転換剤を前記赤錆層の内部に浸透させるためには、例えば、前記赤錆層の少なくとも表面に、前記錆転換剤を付着させればよい。
赤錆層に錆転換剤を付着させる方法は、特に限定されず、例えば、錆転換剤の適用対象物の大きさ等を考慮して、適宜選択できる。
例えば、刷毛塗りやスプレー等によって錆転換剤を塗布する塗布法は、適用対象物の大きさによらず、錆転換剤を付着させる方法として好適である。
例えば、錆転換剤に適用対象物を浸漬する浸漬法は、適用対象物の大きさが小さい場合に、錆転換剤を付着させる方法として好適である。
【0045】
前記浸透工程を行うときの温度、雰囲気等の各条件は、特に限定されない。例えば、浸透工程は、屋外で行ってもよいし、屋内で行ってもよい。
浸透工程を屋外で行う場合には、海風雰囲気下で行ってもよいし、海風雰囲気下ではない通常の大気下で行ってもよい。ただし、この場合には、赤錆層の内部への錆転換剤の浸透を阻害しないように、晴天下又は曇天下(換言すると、非降雨条件下)で浸透工程を行うことが好ましい。
浸透工程を屋内で行う場合には、温度、雰囲気を特定範囲に設定して行ってもよいし、設定せずに行ってもよい。
【0046】
なお、本明細書において、「海風雰囲気下」とは、換言すると、海風の存在が認められる空気雰囲気下であり、例えば、海上や、陸上でも海に近い沿岸部などは、海風雰囲気下にあるといえる。成分に着目すると、海風雰囲気では、そうではない雰囲気よりも、単位体積当たりの塩分濃度が高いといえる。
【0047】
前記浸透工程は、複数回行ってもよい。すなわち、本実施形態においては、前記錆転換剤を含まない前記赤錆層の内部に、錆転換剤を浸透させる初期浸透工程と、前記初期浸透工程後に、錆転換剤を含む赤錆層の内部に、さらに錆転換剤を浸透させる繰り返し浸透工程と、を有し、前記繰り返し浸透工程を1回又は2回以上行ってから、前記錆転換工程を行ってもよい。
【0048】
前記浸透工程を行う回数は、目的に応じて、適宜選択すればよいが、1〜4回であることが好ましく、1〜3回であることがより好ましい。前記回数が前記上限値以下であることで、より効率よく、十分な防錆効果が得られる。
【0049】
前記浸透工程を2回以上行う場合には、各回で浸透工程を行う方法は、すべて同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいし、一部のみ同一であってもよい。
【0050】
前記浸透工程を2回以上行う場合には、各浸透工程間の間隔は、任意に設定できる。例えば、次回の浸透工程を行うまでの時間間隔は、一例を挙げれば、20分〜24時間、20分〜12時間、及び20分〜5時間のいずれかであってもよい。
【0051】
前記浸透工程を2回以上行う場合には、各浸透工程間において、後述する錆転換工程を行ってもよい。錆転換工程が完了する前の段階であれば、目的に応じて、浸透工程を任意のタイミングで任意の回数だけ、行うことができる。
【0052】
前記浸透工程における、赤錆層内部への錆転換剤の浸透の有無は、赤錆層の錆転換剤の付着箇所を観察することで、確認できる。赤錆層の錆転換剤の付着箇所(付着面)において、液状物の残存が明確である場合には、錆転換剤は赤錆層内部へ浸透していないか、又は浸透が不十分であると判断できる。一方、液状物の残存が認められない場合には、錆転換剤は赤錆層内部へ十分に浸透していると判断できる。
後述するように、上塗り塗料の膜(上塗り塗膜)が赤錆層上に形成されている場合には、この上塗り塗膜に錆転換剤を付着させることになる。したがって、この上塗り塗膜の錆転換剤の付着箇所を、上記の場合と同様に観察すれば、赤錆層内部への錆転換剤の浸透の有無を確認できる。
【0053】
<錆転換工程>
前記錆転換工程においては、海風雰囲気下において、浸透させた前記錆転換剤によって、前記赤錆層中の赤錆を黒錆に転換する。本工程によって黒錆を生じさせることにより、錆発生の進行が抑制される。また、生じた黒錆の層が、錆発生の原因となる海風や紫外線から鋼材を保護する保護層として機能するため、錆発生の進行がより高度に抑制される。
【0054】
前記錆転換工程は、前記浸透工程によって、錆転換剤を赤錆層の内部に浸透させた赤錆鋼材を、海風雰囲気下に置くことで、行うことができる。錆転換剤と接触している赤錆は、海風雰囲気下での経時によって、黒錆に転換される。したがって、錆転換剤が赤錆層の内部に浸透した赤錆鋼材を海風雰囲気下において経時させれば、それ以外の操作を行わなくても、錆転換工程を行うことができる。
【0055】
前記錆転換工程を行う時間は、錆転換が十分に進行する限り特に限定されず、本工程を行う環境や、本工程の適用対象物の種類等を考慮して、適宜選択できる。通常は、錆転換工程を行う時間は、60〜180日であることが好ましく、60〜150日であることがより好ましい。
【0056】
従来の方法で、黒錆層を保護層として利用するときに、赤錆から黒錆への錆転換に要する時間は、通常、1年以上程度である。したがって、前記錆転換工程の時間は、このような従来の所要時間よりも顕著に短い。すなわち、前記錆転換方法は、極めて短時間でその効果を奏する点で、顕著に優れている。
【0057】
前記錆転換工程は、海風雰囲気下とすることができれば、例えば、屋外で行ってもよいし、屋内で行ってもよい。
【0058】
<他の工程>
前記錆転換方法は、前記浸透工程及び錆転換工程以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、他の工程を有していてもよい。
例えば、浸透工程において、前記錆転換剤を内部に浸透させる前記赤錆層は、表面の一部の赤錆を除去する等のケレン処理(例えば、JIS Z 0103を参照)を行っていないものであってよいが、このようなケレン処理を行ったものであってもよい。
【0059】
ケレン処理には、例えば、その程度に応じて、ケレン1種処理、ケレン2種処理及びケレン3種処理等がある。これらケレン処理においては、ケレン1種処理、ケレン2種処理、ケレン3種処理の順に、錆の除去の程度が高い。例えば、ケレン1種処理では、サンドブラスト、グリットブラスト又はショットブラスト等の器具を用い、錆を完全に除去する。ケレン2種処理では、動力工具、ディスクサンダー又はワイヤブラシ等の器具を用いて、錆を除去する。ケレン3種処理では、動力工具、手動工具又はスクレーパー等の器具を用いて、浮き錆を除去する。
【0060】
前記錆転換方法においては、前記浸透工程の前に、赤錆層のケレン処理をいずれも行わなくても(ケレン1種処理、ケレン2種処理、ケレン3種処理、及びこれら以外のケレン処理のすべてを行わなくても)よいし、ケレン3種処理等の、軽度のケレン処理を行ってもよい。
すなわち、前記錆転換方法としては、前記浸透工程の前に、赤錆層のケレン処理を行う工程を有しないか、又は赤錆層の軽度のケレン処理を行う工程を有するものが挙げられる。前記錆転換方法においては、前記錆転換剤の、赤錆層の内部への浸透性が高いため、赤錆層のケレン処理を全く行わないか、又は赤錆層の軽度のケレン処理を行う程度であっても、十分な防錆効果が得られる。例えば、好ましい前記錆転換方法としては、前記浸透工程の前に、赤錆層のケレン処理を行わないか、又はケレン3種処理を行うものが挙げられる。
【0061】
鋼材は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の樹脂成分を含有する上塗り塗料で塗装されていることがある(本明細書においては、このような鋼材を「上塗り鋼材」と称することがある)。このような上塗り鋼材においては、主に、上塗り塗料の塗膜(本明細書においては、「上塗り塗膜」と称することがある)よりも内側で錆が発生する。このような上塗り鋼材において、十分な防錆効果を得るために、従来は、上塗り塗膜を剥がす上塗り塗膜剥離工程を行い、赤錆層を露出させてから、防錆剤を赤錆層に塗布していた。
【0062】
これに対して、前記錆転換方法をこのような上塗り鋼材に適用する場合には、前記浸透工程の前に、上塗り塗膜を剥がす上塗り塗膜剥離工程を行ってもよいし、行わなくてもよい。
すなわち、前記錆転換方法としては、前記浸透工程の前に、上塗り塗膜を剥がす上塗り塗膜剥離工程を有するものと、有しないものと、が挙げられる。
前記錆転換剤は、上塗り塗膜への浸透性も高く、上塗り塗膜に付着させると、上塗り塗膜を透過して、上塗り塗膜よりも深部の赤錆層に容易に到達する。したがって、前記錆転換方法においては、上塗り鋼材の上塗り塗膜を剥がさなくても、十分な防錆効果が得られる。
【0063】
前記塗膜剥離工程は、例えば、上述のケレン処理の場合と同様の方法により、行うことができる。
【0064】
また、前記錆転換方法を上記のような上塗り鋼材に適用する場合には、前記浸透工程の前に、上塗り塗膜の1箇所又は2箇所以上に、上塗り塗膜をその厚さ方向において貫通する貫通孔を形成してもよい。すなわち、前記錆転換方法としては、前記浸透工程の前に、上塗り塗膜の1箇所又は2箇所以上に、上塗り塗膜をその厚さ方向において貫通する貫通孔を形成する工程(貫通孔形成工程)を有するものが挙げられる。上塗り塗膜に前記貫通孔を形成することにより、前記貫通孔を形成しなかった場合よりも、上塗り塗膜を介してより容易に赤錆層に前記錆転換剤を浸透させることができる。
【0065】
前記浸透工程の回数によらず、前記浸透工程後は、例えば、赤錆層に浸透していないものなど、余剰の錆転換剤を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。例えば、浸透工程を2回以上行う場合には、各浸透工程間において、前記乾燥工程を行ってもよい。
錆転換剤の乾燥は、公知の方法で行えばよく、例えば、加熱乾燥及び常温乾燥のいずれであってもよい。常温乾燥の場合、例えば、海風雰囲気下で乾燥させてもよいし、海風雰囲気下ではない通常の大気下で乾燥させてもよい。加熱乾燥の場合、加熱温度は、例えば、40〜70℃であってもよいが、これは一例に過ぎない。
【0066】
前記錆転換方法においては、前記浸透工程又は錆転換工程の後に、赤錆層、赤錆から黒錆へ錆転換中の赤錆層、又は、赤錆から黒錆へ錆転換後の黒錆層の上部に、上塗り塗膜を形成してもよい。すなわち、前記錆転換方法としては、前記浸透工程又は錆転換工程の後に、赤錆層、赤錆から黒錆へ錆転換中の赤錆層、又は、赤錆から黒錆へ錆転換後の黒錆層の上部に、上塗り塗膜を形成する工程(上塗り塗膜形成工程)を有するものが挙げられる。このように上塗り塗膜を形成することで、より高い防錆効果が得られることがある。
上塗り塗膜の形成は、公知の方法で行うことができる。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の樹脂成分を含有する上塗り塗料を、前記浸透工程又は錆転換工程後の、赤錆層、赤錆から黒錆へ錆転換中の赤錆層、又は、赤錆から黒錆へ錆転換後の黒錆層の上部に、塗工し、乾燥させることで、上塗り塗膜を形成できる。
【0067】
前記上塗り塗料の使用量は、上塗り塗料の種類等を考慮して、適宜調節すればよく、特に限定されない。通常は、上塗り塗料の使用量は、上塗り塗料の適用対象部の表面の面積1m
2あたり、100〜400gであることが好ましい。すなわち、上塗り塗料の使用量は、上塗り塗料の適用対象部の表面に対して、100〜400g/m
2であることが好ましい。上塗り塗料の使用量が前記下限値以上であることで、より高い防錆効果が得られる。上塗り塗料の使用量が前記上限値以下であることで、上塗り塗料の過剰使用が抑制される。
【0068】
ここで、「上塗り塗料の適用対象部」とは、上述の「赤錆鋼材における錆転換剤の付着箇所」を意味し、通常は、赤錆層の表面、又は赤錆層上に予め形成されていた上塗り塗膜の表面、を意味する。
例えば、上塗り塗料の適用対象部の表面が荒れている場合には、上塗り塗料の適用対象部の表面の面積値としては、この表面をその上方から見下ろして平面視したときの面積値を採用すればよい。
【0069】
前記錆転換工程における、錆転換の有無は、赤錆鋼材における、錆転換剤の付着箇所を観察することで、確認できる。
【0070】
例えば、錆転換剤の付着箇所が、上塗り塗膜が形成されていない赤錆層である場合には、錆転換剤の付着箇所(付着面)が、赤色(赤錆の色)から黒色(黒錆の色)に変色していれば、錆転換が十分に進行していると判断できる。一方、このように変色していなければ、錆転換が進行していないか、又は錆転換の進行が不十分であると判断できる。さらに、錆転換が十分に進行していれば、錆転換剤の付着箇所においては、さらに長時間経過しても、新たな赤錆の発生が抑制されるため、黒錆の色を反映したままである。一方、錆転換が進行していないか、又は錆転換の進行が不十分であれば、錆転換剤の付着箇所においては、さらに長時間経過すると、新たな赤錆が発生するため、赤錆の色を反映したままであるか、黒錆の色を反映した領域があったとしても、赤錆の色を反映して変色してしまう。
【0071】
一方、錆転換剤の付着箇所が、赤錆層上に形成された上塗り塗膜である場合には、この上塗り塗膜の浮きが認められれば、錆転換が進行していないか、又は錆転換の進行が不十分であると判断できる。これは、新たな赤錆の発生に伴い、赤錆層自体に浮き等の構造変化が発生するためである。一方、このように上塗り塗膜の浮きが認められなければ、錆転換が十分に進行していると判断できる。さらに、錆転換が十分に進行していれば、錆転換剤の付着箇所とその近傍領域では、さらに長時間経過しても、新たな赤錆の発生が抑制されるため、上塗り塗膜の浮きが認められない状態のままとなる。一方、錆転換が進行していないか、又は錆転換の進行が不十分であれば、錆転換剤の付着箇所である上塗り塗膜においては、さらに長時間経過すると、新たな赤錆の発生に起因して、浮きが大規模になる。さらに、場合によっては、上塗り塗膜の部分崩壊によって、赤錆層が露出することもある。
錆転換剤の付着箇所が、赤錆層上に形成された上塗り塗膜である場合には、このように上塗り塗膜を観察することで、錆転換の有無を確認できるが、上塗り塗膜を剥がして、上塗り塗膜よりも下の層を、先の説明のように直接観察することでも、錆転換の有無を確認できる。
【実施例】
【0072】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
海上で船舶を120日間運用し、この間、大きさが50mm×100mm×7mmの鉄板を、甲板上に複数枚載置し、海風雰囲気下に晒すことによって経時させた。
次いで、引き続きこの船舶上において、この経時保存によって赤錆が発生した鉄板を試験片(以下、「試験片(T1)」と称することがある)として用い、この試験片(T1)の赤錆化している面の全面に、赤錆を落とすことなくそのまま錆転換剤(L1)を塗布し、錆転換剤(L1)を赤錆層に浸透させた(初期浸透工程)。このときの錆転換剤(L1)の塗布量は、試験片(T1)の赤錆化している面の面積1m
2あたり200g(すなわち200g/m
2)とした。さらに、もう一度、同じ方法で錆転換剤(L1)を試験片(T1)に塗布した(繰り返し浸透工程)。この間、1回目の塗布から2回目の塗布までの間隔(初期浸透工程と繰り返し浸透工程との間の時間間隔)は、各試験片(T1)において、30分〜2時間の時間内に収まるようにした。なお、これら2回の錆転換剤(L1)の塗布は、晴天又は曇天下で行った。
【0074】
ここで用いた錆転換剤(L1)の含有成分を以下に示す。
錆転換剤(L1):
本実施例で用いた錆転換剤(L1)において、タンニン酸の含有量は1質量%であり、前記多価フェノール化合物以外の樹脂の含有量は3質量%であり、有機溶剤の含有量は96質量%であり、
前記有機溶剤の総含有量に対する、トルエンの含有量の割合は35.42質量%であり、シクロヘキサノンの含有量の割合は25質量%であり、メチルエチルケトンの含有量の割合は13.33質量%であり、メチルイソブチルケトンの含有量の割合は6.25質量%であり、アセトンの含有量の割合は6.25質量%であり、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の割合は6.25質量%であり、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル及びケロシンの含有量の割合は、それぞれ0.9375質量%である。
前記多価フェノール化合物以外の樹脂は、エポキシ樹脂である。
【0075】
次いで、この錆転換剤(L1)を2回塗布後の試験片(T1)を、さらに船舶で海風雰囲気下に約90日間晒すことによって経時させ、試験片(以下、「試験片(T2)」と称することがある)を作製した。試験片(T2)は、見かけ上、赤錆の痕跡が消え、黒色に変色していた。試験片(T1)及び試験片(T2)の撮像データを
図1に示す。
【0076】
試験片(T2)の表面部分を削り取り、黒色粉末を得た。
別途、前記船舶の船体から、錆転換剤(L1)を未使用で、自然発生した黒錆(以下、「黒錆現場品」と称することがある)を採取した。
ティッシュペーパーを被せることで静電気の影響を排除した磁石を、これら黒色粉末及び黒錆現場品に近付けたところ、これら黒色粉末及び黒錆現場品は、磁石に強く引き付けられた。
以上により、試験片(T2)から得られた黒色粉末は、その履歴も考慮し、強磁性体の黒錆(マグネタイト)であることが確認された。
【0077】
一方、試験片(T1)の表面部分を削り取り、赤色粉末を得た。
この赤色粉末について、上記の黒色粉末の場合と同様に、ティッシュペーパーを被せた磁石を近付けたところ、この赤色粉末は、磁石に引き付けられなかった。これにより、試験片(T1)の表面を覆っているのは、常磁性体の赤錆(ヘマタイト)であることが裏付けられた。
【0078】
以上により、錆転換剤(L1)によって、赤錆が黒錆に転換されたことを確認できた。
【0079】
[試験例1]
長さ10cm、内径1cmの充填部を有するガラス製カラムを用い、その充填部の下開口部に綿を詰めた。
次いで、前記充填部に、酸化第二鉄(Fe
2O
3)の粉末(3g)を、2cmの高さだけ充填した。
次いで、充填部内の酸化第二鉄層の最上部の表面に、錆転換剤(L1)(1.5mL)を均一に載せて、5分静置した。そして、直ちに、充填部内の酸化第二鉄層における、錆転換剤(L1)の到達箇所を目視で確認したところ、最上部の表面から4mm下の箇所であった。すなわち、5分の静置により、錆転換剤(L1)は、酸化第二鉄層の最上部の表面から、4mmの深さまで浸透した。
以上により、錆転換剤(L1)は、赤錆層に対して良好な浸透性を有し、鉄製の又は鉄を主成分とする鋼材と、赤錆層と、の境界領域にまで、浸透し得ることが確認された。
【0080】
一方、錆転換剤(L1)(1.5mL)に代えて、市販品の防錆塗料「アクリ700プライマーJ」(中国塗料社製)の3質量%希釈液(1.5mL)を用いた点以外は、上記と同じ方法で、この希釈液の浸透性を確認した。その結果、この希釈液は、酸化第二鉄層の最上部の表面から、0.5mmの深さに到達したに過ぎず、これはさらに25分(合計で30分)静置しても変わらなかった。この希釈液の濃度は、防錆塗料で通常汎用される濃度であり、この防錆塗料は、赤錆層に対する浸透性に劣っていた。
【0081】
[実施例2]
海上で運用中の船舶において、甲板上で並列配置されている2本の配管について、一方には錆転換剤(L1)を用い、他方には市販品の防錆剤「アクリ700プライマーJ」(中国塗料社製)を用いて、防錆効果を確認した。より具体的には、以下のとおりである。
一方の配管については、表面の赤錆を落とすことなく、そのまま赤錆が存在する表面に、錆転換剤(L1)を塗布し、乾燥させた。このときの錆転換剤(L1)の塗布量は、200g/m
2とした。
他方の配管については、表面をケレン処理し、赤錆の一部を除去してから、この表面に市販品の防錆剤を塗布し、乾燥させた。このときの防錆剤の塗布量は、300g/m
2とした。
両方の配管について、錆転換剤(L1)又は前記防錆剤の塗布箇所の上に、さらに、市販品の上塗り塗料「アクリ700上塗ST」(中国塗料社製)を塗布し、乾燥させた。このときの上塗り塗料の塗布量は、200g/m
2とした。
【0082】
以上により施工を完了し、以降、海上で船舶の運用を継続し、経時による、両方の配管での錆の発生の度合いを比較した。
錆転換剤(L1)又は前記防錆剤を適用する前の、これらを適用予定の両方の配管の撮像データを
図2に示す。
また、錆転換剤(L1)又は前記防錆剤を適用した両方の配管の、施工直後(経時前)の撮像データを
図3に示す。
また、錆転換剤(L1)又は前記防錆剤を適用した両方の配管の、施工後139日の段階(経時後)での撮像データを
図4に示す。
また、
図4に示す撮像データの取得時に、同時に取得した、異なる角度での両方の配管の撮像データを
図5に示す。
また、
図4に示す撮像データの取得時に、同時に取得した、異なる角度での、より高倍率での両方の配管の撮像データを
図6に示す。
【0083】
図2〜
図6(特に
図4〜
図6)から明らかなように、錆転換剤(L1)を適用した配管では、錆の発生がほぼ認められなかったのに対し、市販品の防錆剤を適用した配管では、二点鎖線で囲んだ部位に、比較的広範囲に赤錆が発生していた。特に、
図5〜
図6から明らかなように、市販品の防錆剤を適用した配管では、赤錆の発生量が多く、表面の塗膜に浮きが見られ、腐食が激しかった。
このように、錆転換剤(L1)を用いることにより、優れた防錆効果を得られることが確認された。
【0084】
[実施例3]
海上で運用中の船舶において、甲板上の構造物について、一部の領域には錆転換剤(L1)を用い、他の一部の領域には市販品の防錆剤「アクリ700プライマーJ」(中国塗料社製)を用いて、防錆効果を確認した。より具体的には、以下のとおりである。
一方の領域については、表面の赤錆を落とすことなく、そのまま赤錆が存在する表面に、錆転換剤(L1)を塗布し、乾燥させた。このときの錆転換剤(L1)の塗布量は、180g/m
2とした。
他方の領域については、表面をケレン処理し、赤錆の一部を除去してから、この表面に市販品の防錆剤を塗布し、乾燥させた。このときの防錆剤の塗布量は、290g/m
2とした。
両方の領域について、錆転換剤(L1)又は前記防錆剤の塗布箇所の上に、さらに、市販品の上塗り塗料「アクリ700上塗ST」(中国塗料社製)を塗布し、乾燥させた。このときの上塗り塗料の塗布量は、200g/m
2とした。
【0085】
以上により施工を完了し、以降、海上で船舶を120日間運用し、経時による、両方の領域での錆の発生の度合いを比較した。錆転換剤(L1)を適用した領域の、施工直後(経時前)と、施工後90日の段階(経時後)での、それぞれの撮像データを
図7に示す。
図7(a)が経時前の撮像データであり、
図7(b)が経時後の撮像データである。また、前記防錆剤を適用した領域の、施工直後(経時前)と、施工後90日の段階(経時後)での、それぞれの撮像データを
図8に示す。
図8(a)が経時前の撮像データであり、
図8(b)が経時後の撮像データである。
【0086】
図7から明らかなように、錆転換剤(L1)を適用した領域では、錆の発生が抑制されていた。これに対し、
図8から明らかなように、市販品の防錆剤を適用した領域では、おもに二点鎖線で囲んだ部位に、広範囲に赤錆が発生していた。
このように、錆転換剤(L1)を用いることにより、優れた防錆効果を得られることが確認された。
【解決手段】鉄製の又は鉄を主成分とする鋼材の表面に赤錆層を有する赤錆鋼材において、前記赤錆を黒錆に転換する錆転換方法であって、赤錆を黒錆に転換する作用を有する液状の錆転換剤を、前記赤錆層の内部に浸透させる浸透工程と、海風雰囲気下において、浸透させた前記錆転換剤によって、前記赤錆層中の赤錆を黒錆に転換する錆転換工程と、を有する、錆転換方法。