【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス https://kaken.nii.ac.jp/d/p/22390051/2011/3/ja.ja.html http://kaken.nii.ac.jp/ja/help/news.html 掲載日 平成25年7月10日
【文献】
REIN D. et al,The Journal of Nutrition,2000年,vol.130, no.8 Supplement,pp.2120S-2126S
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記結合阻害成分は、LOX−1と、第V因子および第Va因子のうちの少なくとも一方のH鎖との結合を阻害する結合阻害成分であることを特徴とする請求項1に記載の抗血液凝固剤。
上記結合阻害成分は、LOX−1と第V因子および第Va因子のうちの少なくとも一方のA2ドメインとの結合を阻害する結合阻害成分であることを特徴とする請求項2に記載の抗血液凝固剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来の抗血液凝固剤では、大出血のリスクを高めずに、病的な血液凝固反応を選択的に抑制することができないという問題がある。換言すれば、正常な止血のための凝固反応を抑制せずに、血栓症等を引き起こす病的な凝固反応を選択的に抑制することができないという問題がある。
【0010】
ワーファリンも含め、上記薬剤は血液凝固系のプロテアーゼカスケードにおける最も主要なプロテアーゼを阻害する。そのため、凝固抑制能は非常に強いが、同時に大出血を起こすリスクをはらんでいる。そして、このような副作用は、薬剤の本来の作用である血液凝固抑制作用と表裏一体であるので、防ぐことが困難である。新しく開発されたトロンビン阻害剤および第Xa因子阻害剤では、ワーファリンに比べて大出血の発現率は少ないとされている(Connolly SJ, N. Engl. J. Med., 363:1875-1876, 2010; Patel MR, N. Engl. J. Med., 365:883-891, 2011; Granger CB, N. Engl. J. Med., 365:981-992, 2011)。それでもやはり、副作用を防ぐため、第Xa因子阻害剤に対する阻害剤の開発が話題になるのが実情である(Lu G, Nature Med., 19:446-451, 2013)。
【0011】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は大出血のリスクを高めずに、病的な血液凝固反応を選択的に抑制する抗血液凝固剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことにLOX−1が第V因子または第Va因子と複合体を形成し、血液凝固反応を促進するという全く新しい知見が得られた。本発明者らは、この新しい知見に基づき、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害することで、LOX−1が関与しない血液凝固カスケードを保ったまま、LOX−1が関与する血液凝固反応を選択的に抑制し得るということを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
【0013】
本発明に係る抗血液凝固剤は、上記の課題を解決するために、LOX−1と第V因子および第Va因子のうちの少なくとも一方との結合を阻害する結合阻害成分を含有することを特徴としている。
【0014】
上述のように、LOX−1の発現は、正常な血管においては非常に低く、動脈硬化巣、カテーテル傷害後の血管、炎症の血管等において高くなることが知られている。よって、LOX−1は主に、正常血管とは異なる上記病的血管および病的状態において、血液凝固反応を促進していると考えられる。
【0015】
本発明に係る抗血液凝固剤によれば、LOX−1が関与しない血液凝固カスケードを保ったまま、LOX−1が関与する血液凝固反応を選択的に抑制することができる。従って、大出血のリスクを高めずに、病的な血液凝固反応を選択的に抑制することができる。
【0016】
本発明に係る抗血液凝固剤において、上記結合阻害成分はLOX−1と第V因子および第Va因子のうちの少なくとも一方のH鎖との結合を阻害する結合阻害成分であってもよい。
【0017】
本発明に係る抗血液凝固剤において、上記結合阻害成分はLOX−1と第V因子および第Va因子のうちの少なくとも一方のA2ドメインとの結合を阻害する結合阻害成分であってもよい。
【0018】
上記結合阻害成分は抗LOX−1抗体であってもよい。
【0019】
上記結合阻害成分はポリフェノールであってもよい。
【0020】
さらに本発明は、本発明に係る抗血液凝固剤を含有することを特徴とする薬学的組成物をも包含する。
【0021】
なお、特許文献1においては、血液凝固反応の抑制について検討されておらず、LOX−1を利用すれば、診断に用いることができる抗LOX−1抗体を調製できることが開示されているに過ぎない。
【0022】
特許文献2では、血小板とLOX−1との結合に対する抗LOX−1抗体による阻害効果については確認されている。また、特許文献3では、細胞内への酸化LDLの取込みに対する抗LOX−1抗体による阻害効果、および、動脈の血栓形成に対する抑制効果等が確認されている。特許文献2および3に記載の技術は、主に血小板とLOX−1との結合に対する阻害効果に基づくものであり、抗血小板作用を示すものであると考えられる。
【0023】
ここで、抗血小板剤は、抗血液凝固剤(抗凝固剤)とは異なるものである。具体的には、抗血小板剤は血小板の凝集を阻害し、主に動脈において白色血栓の形成を防ぐものであるのに対し、抗血液凝固剤はフィブリンの形成を阻害し、主に静脈において赤色血栓の形成を防ぐものである(フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)、"抗血小板剤"、[online]、[2013年10月15日検索]、インターネット<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E8%A1%80%E5%B0%8F%E6%9D%BF%E5%89%A4>;理化学辞典第4版、第418頁、岩波書店)。
【0024】
従って、本発明に係る抗血液凝固剤は、特許文献1〜3に記載の技術とは全く異なるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、トロンビンまたは第Xa因子を標的とする従来の抗血液凝固剤とは異なり、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害する。そのため、LOX−1が関与しない血液凝固カスケードを保ったまま、LOX−1が関与する血液凝固反応を抑制することができる。よって、大出血のリスクを高めずに、病的な血液凝固反応を選択的に抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0028】
〔本発明の抗血液凝固剤〕
本発明の抗血液凝固剤は、LOX−1と第V因子および第Va因子のうちの少なくとも一方との結合を阻害する結合阻害成分を含有することを特徴としている。
【0029】
本発明者らは、LOX−1が第V因子または第Va因子と複合体を形成し、凝固反応を促進することを初めて見出した。そして、本発明者らは、この全く新しい知見に基づき、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害することで、LOX−1が関与しない血液凝固カスケードを保ったまま、LOX−1が関与する血液凝固反応を抑制することができる抗血液凝固剤を実現できることを見出した。
【0030】
上述のようにワーファリン、トロンビン阻害剤および第Xa因子阻害剤等の従来の抗血液凝固剤では、主作用(凝固抑制)と副作用(出血)とが機能的に不可分であるため、使用にあたっては血栓症予防のメリットと出血のリスクとのバランスをとるのが困難であった。そのため、従来の抗血液凝固剤では、血栓症を予防できるが出血死を招き得るという問題が常に付きまとった。
【0031】
上記問題を防ぐためには、薬剤の用量の調節等しかなかったが、本発明によれば、従来の抗血液凝固剤とは質的に異なるアプローチが可能となり、血液凝固作用を完全には抑えずに(つまり、出血リスクを高めずに)、病的な凝固反応を抑え、血栓症を抑制することができる。
【0032】
本発明は、従来の抗血液凝固剤とは異なり、プロテアーゼまたは血液凝固因子を標的とするのではなく、これらの活性の調節分子であるLOX−1を標的としている。そのため、本発明の抗血液凝固剤によれば、凝固機能の過度の抑制は起こらず、LOX−1が病的に機能している場合にのみ抗血液凝固作用を発揮すると考えられる。
【0033】
また、第X因子またはトロンビンのノックアウトマウスは致死性であるのに対し、LOX−1ノックアウトマウスは正常に発生して成長する(Mehta et al. Circulation Research 100:1634-1642, 2007.)。このことからも、本発明の安全性を推測することができる。
【0034】
さらに、本発明の抗血液凝固剤はLOX−1を標的とするため、薬物動態の点においても、ワーファリンのように摂取食物の影響を受けず、低分子トロンビン阻害剤および第Xa因子阻害剤のように肝機能および腎機能の影響を受けることもない。また、本発明の抗血液凝固剤は、P糖タンパク質またはチトクロームP450(CYP)の基質となることもないので、薬物相互作用の可能性も少ない。
【0035】
第V因子(および第V因子が活性化されたものである第Va因子)は血液凝固因子の一種である。
図1は血液凝固系のカスケードを示す図である。抗血液凝固作用を得るためには、血液凝固系において内因性経路と外因性経路との合流地点より下流のカスケードを阻害する必要がある。第V因子(第Va因子)は、血液凝固系において内因性経路と外因性経路との合流地点(すなわち、第Xa因子)より下流で働く補酵素である。従って、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害することによって、血液凝固を抑制することができる。
【0036】
図2は、第V因子の構造を示す図である。第V因子はH鎖とL鎖とが一体となったタンパク質である。第V因子は、N末端側からA1、A2、B、A3、C1、C2のドメインに分かれており、A1ドメインおよびA2ドメインがH鎖を形成し、A3ドメイン、C1ドメインおよびC2ドメインがL鎖を形成している。第V因子が活性化されると、H鎖とL鎖とに分断され、第Va因子になる。なお、後述の実施例5に記載のように本発明者らはA2ドメインがLOX−1と結合することを明らかにした。
【0037】
本明細書においては、第V因子を「FV」と表記する場合もある。同様に、第Va因子を「FVa」と表記する場合もある。また、H鎖は重鎖とも言われ、本明細書においてはこれを「HC」と記載する場合もある。また、L鎖は軽鎖とも言われ、本明細書においては、これを「LC」と記載する場合もある。
【0038】
結合阻害成分が、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害するかどうかについては、実施例に記載された方法によって確認することができる。具体的には、実施例3に記載された方法によって、確認することができる。例えば、実施例3に記載された方法によって、結合阻害成分の存在下におけるLOX−1と第V因子との結合が、結合阻害成分の非存在下におけるLOX−1と第V因子との結合に比べて有意に減少していれば、結合阻害成分がLOX−1と第V因子との結合を阻害すると判断できる。LOX−1と第Va因子との結合についても同様である。
【0039】
抗血液凝固作用は、例えば実施例7〜9に記載されたCa再加血液凝固試験によって確認することができる。LOX−1および第V因子の存在下においてCa再加血液凝固試験を行い、結合阻害成分の存在下における血液凝固時間が、結合阻害成分の非存在下における血液凝固時間に比べて有意に増加していれば、結合阻害成分が抗血液凝固作用を示すと判断できる。さらに、LOX−1、第V因子および結合阻害成分の存在下における血液凝固時間が、LOX−1および結合阻害成分の非存在下における血液凝固時間と同程度であれば、結合阻害成分は出血リスクを高めないと判断できる。
【0040】
また、(i)LOX−1の非存在下であって結合阻害成分の存在下における血液凝固時間が、LOX−1および結合阻害成分の非存在下における血液凝固時間と同程度であり、且つ、(ii)LOX−1および結合阻害成分の存在下における血液凝固時間が、LOX−1の存在下であって結合阻害成分の非存在下における血液凝固時間に比べて有意に増加していれば、結合阻害成分はLOX−1が関与しない血液凝固カスケードを保ったまま、LOX−1が関与する血液凝固反応を抑制することができると判断できる。
【0041】
なお、各データについて例えばスチューデントのt検定を実施して、一方のデータがもう一方のデータに比べて危険率5%未満で有意に減少または増加していれば、「有意に減少している」または「有意に増加している」と判断できる。
【0042】
結合阻害成分としては、LOX−1に結合し、LOX−1と第V因子との結合を阻害する物質であれば、特に限定されず、例えば、抗LOX−1抗体、および、ポリフェノールが挙げられる。
【0043】
本明細書において、「抗体」とは、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
「抗体」は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。
【0045】
モノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法(例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495−497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))およびEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss,Inc.,77−96(1985))などを参照のこと)を用いれば作製され得る。
【0046】
FabおよびF(ab’)
2ならびに上記抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることが、明らかである。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)
2フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生される。あるいは、LOX−1に結合するフラグメントは、組換えDNA技術の適用または合成化学によって産生され得る。
【0047】
つまり、本発明に利用可能な抗体は、少なくとも、LOX−1を認識し、且つその活性を阻害する抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)
2フラグメント)を備えていればよく、個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgY、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明に利用可能である。
【0048】
結合阻害成分として利用できるポリフェノールとしては、例えばフラボノイド類が挙げられる。さらにフラボノイド類の例としては、プロシアニジンが挙げられる。なお、プロシアニジンはLOX−1と酸化LDLとの結合を阻害することが知られている(Nishizuka et al. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci, 87:104-113, 2011.)。ただし、実施例9に示すようにプロシアニジンが抗血液凝固作用を有することは、本発明者らによって初めて見出された。
【0049】
本発明の抗血液凝固剤に含有される結合阻害成分の量は、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害する作用が奏されるために十分な量であれば特に限定されるものではなく、結合阻害成分の精製度、剤型、または摂取方法等を考慮して適宜決定することができる。例えば、結合阻害成分の含有割合は、抗血液凝固剤の50%(w/w)以上であることが好ましく、80%(w/w)以上であることがより好ましく、100%(w/w)であることがさらに好ましい。
【0050】
〔本発明の薬学的組成物〕
本発明の薬学的組成物は、上述の本発明の抗血液凝固剤を含有することを特徴としている。本発明の薬学的組成物によれば、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害することで、LOX−1が関与しない血液凝固カスケードを保ったまま、LOX−1が関与する血液凝固反応を抑制することができるため、血栓症の防止に奏効することが期待される。
【0051】
本発明の薬学的組成物は、LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害する活性を損なわない限りにおいて、薬学的に許容される、抗血液凝固剤以外の他の成分(例えば、薬学的に受容可能なキャリア等)をさらに含有してもよい。
【0052】
ここで、上記「薬学的に受容可能なキャリア」について以下に説明する。本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」(以下、単に「キャリア」ともいう)とは、医薬、または動物薬のような農薬を製造するときに、処方を補助することを目的として用いられる物質であって、結合阻害成分に有害な影響を与えないものをいう。さらに、本発明にかかる薬学的組成物を受容した個体において毒性が無く、且つキャリア自体は有害な抗体の産生を誘導しないものが意図される。
【0053】
上記キャリアとしては、製剤素材として使用可能な各種有機または無機のキャリア物質が用いられ、後述する薬学的組成物の投与形態および剤型に応じて適宜選択することができる。例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等;防腐剤;抗酸化剤;安定剤;矯味矯臭剤等として配合されるが、本発明はこれらに限定されない。
【0054】
上記「賦形剤」としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロース等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0055】
上記「滑沢剤」としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ワックス、タルク、コロイドシリカ等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0056】
上記「結合剤」としては、例えば、α化デンプン、メチルセルロース、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0057】
上記「崩壊剤」としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0058】
上記「溶剤」としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、トリカプリリン等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0059】
上記「溶解補助剤」としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0060】
上記「懸濁剤」としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0061】
上記「等張化剤」としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0062】
上記「緩衝剤」としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0063】
上記「無痛化剤」としては、例えば、ベンジルアルコール等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0064】
上記「防腐剤」としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0065】
上記「抗酸化剤」としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸等を挙げることができるが、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0066】
また、上記安定剤、矯味矯臭剤としては、製薬分野において通常用いられるものであれば特に限定されるものではない。
【0067】
本発明にかかる薬学的組成物の投与形態としては、経口的に投与するものであっても、非経口的に、静脈内、直腸内、腹腔内、筋肉内、または皮下に投与するものであってもよく、製剤形態に応じた適当な投与経路で投与することができる。なお、本明細書中において、上記「非経口」とは、脳室内、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、および関節内の注射および注入を含む投与の様式をいう。
【0068】
本発明にかかる薬学的組成物を経口的に投与する場合、かかる薬学的組成物(以下、「経口剤」ともいう)の剤型としては、例えば、粉剤、顆粒剤、錠剤、リポソーム、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤等の固形製剤や、シロップ剤等の液状製剤とすることができる。
【0069】
上記「液状製剤」は、上記キャリアとして、例えば、水;グリセロール、グリコール、ポリエチレングリコール等の有機溶媒;これらの有機溶媒と水との混合物等を用いて、製薬分野において通常用いられる方法で製造することができる。また、上記液状製剤は、さらに、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、安定剤等を含んでいてもよい。
【0070】
上記「固形製剤」は、上記キャリアとして、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤等を用いて、製薬分野において通常用いられる方法で製造することができる。
【0071】
かかる経口剤を調製する際には、目的に応じて、潤滑剤、流動性促進剤、着色剤、香料等をさらに配合してもよい。
【0072】
また、本発明にかかる薬学的組成物を非経口的に投与する場合、かかる薬学的組成物(以下、「非経口剤」ともいう)の剤型としては、例えば、注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤等とすることができる。かかる非経口剤は、製薬分野において公知の方法に従って、本発明にかかる薬学的組成物を、希釈剤(例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)に溶解または懸濁させ、目的に応じて、殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等をさらに加えることにより調製することができる。
【0073】
また、本発明にかかる薬学的組成物の一実施形態として、製薬分野において通常用いられる技術により、徐放性製剤とすることもできる。
【0074】
本発明にかかる薬学的組成物は、単独で投与されてもよいし、他の薬剤と併用して投与されてもよい。併用して投与される方法としては、例えば、他の薬剤との混合物として同時に投与されてもよいし、他の薬剤とは別の薬剤として同時にもしくは並行して投与されてもよいし、あるいは経時的に投与されてもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0075】
また、本発明にかかる薬学的組成物が1日あたりに投与される回数は特に限定されるものではない。本発明の抗血液凝固剤の投与量が、1日あたりの所要の投与量範囲内であれば、1日あたり1回の投与であってもよいし、複数回に分けて投与を行ってもよい。
【0076】
なお、本発明の薬学的組成物は、ヒトのみならず、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、およびサル等)に対しても適用可能であることは、当業者であれば容易に理解する。
【0077】
本発明の薬学的組成物中の抗血液凝固剤(または結合阻害成分)の量は、LOX−1と第V因子との結合を阻害する作用が奏されるために十分な量であれば特に限定されるものではなく、結合阻害成分の精製度、剤型、又は摂取方法や、摂取対象者の性別、年齢、体重、健康状況等を考慮して適宜決定することができる。
【0078】
LOX−1と第V因子または第Va因子との結合を阻害する活性による効果を得るために、本発明の薬学的組成物に、結合阻害成分を、例えば、摂取量が乾燥重量として成人1日当たり、1回につき10μg〜1000mg(または10μg〜500mg)となるように含有させることができる。
【0079】
とりわけ、注射剤の場合は、例えば生理食塩水または市販の注射用蒸留水等の非毒性の薬学的に許容され得る担体中に0.1μg抗体/mL担体〜10mg抗体/mL担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。
【0080】
このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg〜100mgの割合で、好ましくは50μg〜50mgの割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。
【0081】
本発明の抗血液凝固剤および薬学的組成物は、例えば、血栓症の防止が必要な患者に対して抗血液凝固療法のために使用することができる。血栓症の防止が必要な患者とは、例えば、脳梗塞急性期患者、脳梗塞ハイリスク者、PCI術後患者、心筋梗塞ハイリスク者、閉塞性動脈硬化症患者、全身性炎症反応症候群患者、播種性血管内凝固症候群患者、整形外科手術後患者が挙げられる。
【0082】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。なお、以下の実施例において、「有意に」とは、スチューデントのt検定による危険率5%未満の有意差があることを示しており、図中では有意差が存在する場合、「*」を付して示している。
【0084】
〔実施例1:血漿中のLOX−1結合タンパク質の同定〕
血漿中に含まれる、LOX−1に結合するタンパク質を同定した。
【0085】
エピトープタグ付組換えLOX−1タンパク質を、以下の方法によって調製した。まず、FreeStyle293細胞に、LOX−1プラスミド[内部にNM002543(61−273,aa)とpDisplayとFlagとを含んでいる]をトランスフェクトした。そして、培養にてFreeStyle293細胞が分泌したLOX−1タンパク質を回収し、ANTI−FLAG M2 affinity gel(Sigma−Aldrich)を用いて精製し、FLAG Peptide(Sigma−Aldrich)にて溶出して用いた。
【0086】
さらに、EDTAを用いた採血によってヒト血漿を得た。エピトープタグ付組換えLOX−1タンパク質とヒト血漿とを混合し、タグ認識抗体により免疫沈降を行った。精製したLOX−1結合タンパク質をSDS−PAGEによって展開し、銀染色を行った。その後、MS/MS解析によってアミノ酸配列を解析し、LOX−1結合タンパク質を同定した。
【0087】
図3に、LOX−1結合タンパク質をSDS−PAGEで展開した結果を示す。MS/MS解析の結果、表1に示す配列番号1〜8のアミノ酸配列が得られた。その結果、LOX−1結合タンパク質として、血液凝固因子である第V因子が含まれていることがわかった。なお、表1のP1〜8は、
図2のP1〜8に対応している。
【0088】
【表1】
【0089】
〔実施例2:表面プラズモン共鳴によるLOX−1とFVおよびFVaとの結合の親和性の評価〕
表面プラズモン共鳴によって、LOX−1タンパク質とFVおよびFVaとの結合の親和性を評価した。LOX−1タンパク質は、以下の方法によって調製した。まず、FreeStyle293細胞に、LOX−1プラスミド[内部にNM002543(61−273,aa)とpcDNA4と6×HisとIgκ secretion signalとを含んでいる]をトランスフェクトした。なお、Igκ secretion signalはpSecTag/FRT/V5−HisTOPO(Invitrogen)より得られた。そして、培養にてFreeStyle293細胞が分泌したLOX−1タンパク質を回収し、TALON Metal Affinity Resin(TAKARA)によるHis−tag精製を用いてエピトープタグ付組換えLOX−1タンパク質を調製した。FVおよびFVaはHaematologic Technologies Inc.より購入した(FVとしてはHuman Factor V:HCV−0100、FVaとしてはHuman Factor Va:HCVA−0110を用いた)。表面プラズモン共鳴はBiacore(GE Healthcare社製)を用いて行った。センサーチップにFVおよびFVaそれぞれを固相化したものを作製し、0〜400nMのLOX−1タンパク質を流速10μL/minにて流した。
【0090】
図4に得られた結果を示す。
図4(a)はFVについての結果を示しており、(i)は、縦軸にレスポンス、横軸に時間をとったセンサーグラムであり、(ii)は縦軸に平衡結合量Req、横軸に濃度をとったグラフである。これらの結果から算出した解離定数K
Dは15.25±1.28nMであった。また、
図4(b)はFVaについての結果を示しており、(i)は、縦軸にレスポンス、横軸に時間をとったセンサーグラムであり、(ii)は縦軸に平衡結合量Req、横軸に濃度をとったグラフである。これらの結果から算出した解離定数K
Dは22.14±0.12nMであった。
【0091】
この結果から、LOX−1タンパク質とFVおよびFVaとは非常に強く結合することが明らかになった。
【0092】
〔実施例3:LOX−1とFVおよびFVaとの結合に対する抗LOX−1抗体による阻害効果の評価(LOX−1固相化ELISA)〕
LOX−1とFVおよびFVaとの結合活性をELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay: 酵素免疫測定法)によって評価した。ELISAは以下のようにして行った。384ウェルプレート(Greiner社製)に5μg/mL/ウェルのLOX−1を4℃、over nightの条件で固相化した。3%BSA/10mM HEPES, 150mM NaCl,pH7.4でブロッキングを行った後、PBS(−)で2回洗浄した。上記プレートに抗LOX−1抗体、またはIgGを加えプレインキュベートを行い、PBS(−)で2回洗浄し、FVまたはFVaを加えて室温で、1時間反応させた。コントロールとして、LOX−1を固相化していないウェル、並びに、抗LOX−1抗体およびIgGのいずれも加えないウェルも作製した。なお、抗LOX−1抗体としては、HUC348(抗体1)、HUC52(抗体2)およびHUC52ヒト化抗体(抗体3)を用いた。
【0093】
LOX−1とFVおよびFVaとの結合活性の検出には、抗FVL鎖抗体、ビオチン標識抗mouse IgG抗体、Horseradish peroxidase streptavidin、および、TMB試薬を用いた。そして、450nmでの吸光度を測定した。FVaについても同様にELISAを行った。
【0094】
図5に結果を示す。LOX−1固相プレートにおいては、FVのみ、またはFVおよびIgGを加えた場合に比べて、抗LOX−1抗体を加えた場合はLOX−1とFVとの結合が有意に阻害された(危険率5%未満の有意差あり)。同様に、LOX−1とFVaとの結合も、抗LOX−1抗体によって有意に阻害された。
【0095】
〔実施例4:抗L鎖抗体および抗H鎖抗体を用いたLOX−1とFVaとの結合部位の特定〕
FVaのどの部位がLOX−1と結合しているのかをELISAによって特定した。ELISAは以下のようにして行った。384ウェルプレート(Greiner社製)に5μg/mL/ウェルのLOX−1を4℃、over nightの条件で固相化した。3%BSA/10mM HEPES, 150mM NaCl,pH7.4でブロッキングを行った後、PBS(−)で2回洗浄した。プレートにFVまたはFVaを加え、室温で、1時間反応させた。その後、抗L鎖抗体を加え、さらに2mMのCaCl
2溶液または2mMのEDTAを加え、室温、1時間インキュベートした。そして、450nmでの吸光度を測定した。FVaは0μg/mL、0.03μg/mL、0.1μg/mL、0.3μg/mL、1μg/mLまたは3μg/mLの濃度で加えられた。また、LOX−1の代わりにコントロールとしてBSAを用いて同様の測定を行った。さらに、抗L鎖抗体の代わりに抗H鎖抗体を用いて同様の測定を行った。なお、抗L鎖抗体としてはHaematologic Technologies Inc.より購入したAnti-Human Factor V:AHV−5101、抗H鎖抗体としてはHaematologic Technologies Inc.より購入したAnti-Human Factor V:AHV−5146を用いた。
【0096】
図6にELISAによる結果を示す。
図6(a)は抗L鎖抗体およびCaCl
2溶液を加えた結果であり、
図6(b)は抗L鎖抗体およびEDTAを加えた結果である。
図6(c)は抗H鎖抗体およびCaCl
2溶液を加えた結果であり、
図6(d)は抗H鎖抗体およびEDTAを加えた結果である。
【0097】
Ca
2+が存在する場合、H鎖とL鎖とは
図2に示したように一体となっている。EDTAで処理した場合は、H鎖とL鎖との結合は消失する。抗L鎖抗体によって
図6(a)で検出されていたLOX−1とFVaとの結合が、EDTA処理を行った
図6(b)ではほとんど検出されなかった。一方、抗H鎖抗体によって
図6(c)で検出されていたLOX−1とFVaとの結合は、EDTA処理を行った
図6(d)でもほとんど変化することなく検出された。従って、LOX−1はFVaのH鎖に結合することがわかった。
【0098】
〔実施例5:LOX−1とFVのH鎖の各ドメインとの結合〕
さらにFVのH鎖のどの部位がLOX−1と結合しているのかをELISAによって特定した。FVとしては以下の方法によって調製した組換えFVを用いた。まず、FreeStyle293細胞に、FV H鎖プラスミド[内部にNM000130.4(1−709,aa)とpcDNA3.3とV5−6×HisとIgκ secretion signalとを含んでいる]、FV A1タンパク質プラスミド[内部にNM000130.4(1−303,aa)とpEF6/V5−HisとIgκ secretion signalとを含んでいる]、またはFV A2タンパク質プラスミド[内部にNM000130.4(317−656,aa)とpcDNA3.3とV5−6×HisとIgκ secretion signalとを含んでいる]をトランスフェクトした。なお、Igκ secretion signalはpSecTag/FRT/V5−HisTOPO(Invitrogen)より得られた。そして、培養にてFreeStyle293細胞が分泌したFVのH鎖、A1またはA2を回収し、TALON Metal Affinity Resin(TAKARA)でHis−tag精製を用いて調製した。
【0099】
ELISAは以下のようにして行った。384ウェルプレート(Greiner社製)に5μg/mLのLOX−1を4℃、over nightの条件で固相化した。3%BSA/10mM HEPES, 150mM NaCl,pH7.4でブロッキングを行った後、PBS(−)で2回洗浄した。プレートにFVのH鎖、FVのH鎖のA1ドメインまたはFVのH鎖のA2ドメインを0μg/mL、1μg/mL、3μg/mLまたは10μg/mL加え、室温、1時間反応させた。検出にはHorseradish peroxidase streptavidin標識抗V5抗体、TMB試薬を用いた。そして、450nmでの吸光度を測定した。コントロールとしてLOX−1の代わりにDectin−1を用いた場合についても同様に測定を行った。
【0100】
図7(a)に結果を示す。LOX−1と、FVのH鎖およびFVのH鎖のA2ドメインとの結合が検出された。LOX−1とA1ドメインとの結合は検出されなかった。従って、LOX−1はFVのH鎖のA2ドメインに結合することがわかった。
【0101】
〔実施例6:LOX−1とFVのH鎖のA2ドメインとの結合に対する抗LOX−1抗体による阻害効果〕
さらにLOX−1とFVのH鎖のA2ドメインとの結合が抗LOX−1抗体によって抑制されることをELISAによって確認した。FVとしては実施例5と同様に組換えFVを用いた。抗LOX−1抗体としては、実施例3と同様にHUC348(抗体1)、HUC52(抗体2)およびHUC52ヒト化抗体(抗体3)を用いた。
【0102】
ELISAは以下のようにして行った。384ウェルプレート(Greiner社製)に5μg/mLのLOX−1を4℃、over nightの条件で固相化した。3%BSA/10mM HEPES, 150mM NaCl,pH7.4でブロッキングを行った後、PBS(−)で2回洗浄した。上記プレートに抗LOX−1抗体、またはIgGを10μg/mL加えプレインキュベートを行い、PBS(−)で2回洗浄し、プレートにFVのH鎖を3μg/mL、FVのH鎖のA1ドメインまたはFVのH鎖のA2ドメインを10μg/mL加え、室温、1時間反応させた。検出には抗V5抗体、ビオチン標識抗mouse IgG抗体、Horseradish peroxidase streptavidin、TMB試薬を用いた。そして、450nmでの吸光度を測定した。それぞれコントロールとして、LOX−1を固相化していない場合、および、IgGおよび抗LOX−1抗体を加えない場合についても同様に測定を行った。
【0103】
図7(b)に結果を示す。IgGおよび抗LOX−1抗体を加えなかった場合、H鎖およびA2ドメインではFVの結合が検出された。また、IgGを加えた場合も同様にFVの結合が検出された。これに対し、抗LOX−1抗体を加えた場合、FV(H鎖およびA2ドメイン)の結合は有意に阻害された(危険率5%未満の有意差あり)。
【0104】
〔実施例7:抗LOX−1抗体による抗血液凝固作用〕
抗LOX−1抗体による抗血液凝固作用をCa再加血液凝固試験によって確認した。ガラス試験管に組換えLOX−1タンパク質を0μg/mL、0.1μg/mL、0.3μg/mL、1μg/mL、3μg/mLまたは10μg/mLの濃度で加えた。組換えLOX−1タンパク質は実施例2と同様の方法によって得られた。さらに、上記試験管にクエン酸を用いて得られたヒト血漿を加えた。その後、試験管にCa
2+を終濃度12.5mMで加えた。試験管を37℃の湯浴中でゆっくり振盪しながら、流動性を確認した。試験管を転倒しても凝固塊が落ちない状態になるまでの時間を凝固時間として測定した。また、組換えLOX−1タンパク質1μg/mLとともに、IgGまたは抗LOX−1抗体を10μg/mL加えた場合についても同様に凝固時間を測定した。さらに組換えLOX−1タンパク質を添加しなかった場合についても同様に凝固時間を測定した。抗LOX−1抗体としては、実施例3と同様にHUC348(抗体1)、HUC52(抗体2)およびHUC52ヒト化抗体(抗体3)を用いた。
【0105】
図8(a)は、IgGおよび抗LOX−1抗体を加えなかった場合の結果であり、LOX−1の濃度による凝固時間の変化を示している。添加された組換えLOX−1タンパク質の濃度依存的に凝固時間は短縮された。特に組換えLOX−1タンパク質を10μg/mL添加した場合には、0μg/mLの場合に比べて2/3の時間まで短縮された。従って、LOX−1の添加により、血液の凝固時間は有意に短縮されることがわかった(危険率5%未満の有意差あり)。
【0106】
図8(b)は、IgGまたは抗LOX−1抗体を加えた場合の結果を示している。まずIgGは、血漿単独への添加では凝固時間に影響を与えなかった。LOX−1を血漿に添加した場合は、凝固時間の短縮が見られた。LOX−1を添加した血漿に対してIgGを添加した場合は、LOX−1のみを血漿に添加した場合に比べて凝固時間の変化が見られなかった。一方、LOX−1を添加した血漿に対して抗LOX−1抗体を添加した場合は、LOX−1を添加しない場合と同等の時間まで凝固時間が戻ることが観察された。なお、LOX−1のみを血漿に添加した場合に比べて抗LOX−1抗体を添加した場合は、凝固時間が有意に増加した(危険率5%未満の有意差あり)。すなわち、抗LOX−1抗体はLOX−1に依存しない凝固反応には影響を与えないが、LOX−1によって促進される凝固反応のみを抑制することが明らかとなった。
【0107】
〔実施例8:FV欠損血漿における凝固反応〕
FV欠損血漿における凝固反応をCa再加血液凝固試験によって確認した。プラスチック試験管に組換えLOX−1タンパク質を10μg/mLの濃度で加え、固相化した。上記試験管にFVまたはFVaを1μg/mLの濃度で添加した。LOX−1タンパク質に結合していないFVおよびFVaは洗浄して除去した。さらに、上記試験管にFV欠損血漿を加えた。その後、試験管にCa
2+を終濃度12.5mMで加え、実施例7と同様に凝固時間を測定した。また、LOX−1の代わりにDectin−1を加えた場合、および、LOX−1もDectin−1も加えなかった場合についても同様に凝固時間を測定した。
【0108】
図9(a)および(b)は、FV欠損血漿における凝固反応の結果を示す図である。
図9(a)に示すように、LOX−1にFVまたはFVaを結合させた場合のみ凝固時間の短縮が見られた(危険率5%未満の有意差あり)。
図9(b)において、AはLOX−1もDectin−1も加えなかった場合、BはDectin−1を加えた場合、CはLOX−1を加えた場合に、それぞれFVを添加した結果を示している。
図9(b)からもLOX−1にFVを結合させた場合のみ凝固していることがわかる。従って、LOX−1とFVまたはFVaとの結合によって凝固反応が生じていることが明らかになった。
【0109】
〔実施例9:プロシアニジンによる抗血液凝固作用〕
プロシアニジンによる抗血液凝固作用をCa再加血液凝固試験によって確認した。ガラス試験管に組換えLOX−1タンパク質1μg/mLおよびプロシアニジン1μg/mLを加えた。その後、実施例8と同様にヒト血漿およびCa
2+を加え、凝固時間を測定した。また、プロシアニジンを加えなかった場合についても同様に凝固時間を測定した。さらに組換えLOX−1タンパク質を添加しなかった場合についても同様に凝固時間を測定した。
【0110】
図10に結果を示す。プロシアニジンは血漿単独への添加では凝固時間に影響を与えなかった。LOX−1を血漿に添加した場合は、凝固時間の短縮が見られた。LOX−1を添加した血漿に対してプロシアニジンを添加した場合は、凝固時間の短縮が抑制されることが観察された(危険率5%未満の有意差あり)。すなわち、プロシアニジンはLOX−1に依存しない凝固反応には影響を与えないが、LOX−1によって促進される凝固反応のみを抑制することが明らかとなった。