特許第6362224号(P6362224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6362224-表面改質方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362224
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/18 20060101AFI20180712BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20180712BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20180712BHJP
   C08F 2/40 20060101ALI20180712BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C08J7/18CEY
   C08J7/12 CCEY
   C08F2/48
   C08F2/40
   C08F2/00 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-93935(P2016-93935)
(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公開番号】特開2017-203057(P2017-203057A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年10月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】干場 隆志
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 智和
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−501028(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/203668(WO,A1)
【文献】 特表2003−513132(JP,A)
【文献】 特開2014−214226(JP,A)
【文献】 特表2013−534404(JP,A)
【文献】 特表2015−527428(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 71/04
C08J 7/00− 7/02
7/12− 7/18
C08F 2/00− 2/60
C08F251/00−283/00
283/02−289/00
291/00−297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の表面に重合開始点を形成する工程1と、
前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、前記熱可塑性樹脂の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する工程2とを含む医療用具の製造方法であって、
前記親水性モノマーは、アルコキシアルキルアクリレートであり、
前記医療用具は、医療・医用基盤、フィルター、流路又はチューブである医療用具の製造方法。
【請求項2】
光重合開始剤の存在下で300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、熱可塑性樹脂の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する工程Iを含む医療用具の製造方法であって、
前記親水性モノマーは、アルコキシアルキルアクリレートであり、
前記医療用具は、医療・医用基盤、フィルター、流路又はチューブである医療用具の製造方法。
【請求項3】
前記工程1は、前記熱可塑性樹脂の表面に光重合開始剤を吸着させ、又は更に300〜400nmのUV光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させるものである請求項1記載の医療用具の製造方法。
【請求項4】
前記光重合開始剤は、ベンゾフェノン系化合物及び/又はチオキサントン系化合物である請求項3記載の医療用具の製造方法。
【請求項5】
親水性モノマー含有液が投入された反応容器又は反応筒に不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気に置換してラジカル重合を行う請求項1〜4のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
【請求項6】
前記アルコキシアルキルアクリレートは、2−メトキシエチルアクリレートである請求項1〜5のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
【請求項7】
重合禁止剤を含む親水性モノマー含有液を用い、該重合禁止剤の存在下でラジカル重合を行う請求項1〜6のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、及びスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液及び体液中のタンパク質や細胞に対する低接着性だけでなく、がん細胞等の特定細胞に対する選択的吸着性・接着性を付与する表面改質方法、並びに、該改質方法により得られる改質された表面を少なくとも一部に有する医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブなどの表面改質体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療・医用分野などにおいて使用される医療・医用基盤(検査基板、検査チップ、検査器具等)、フィルター、流路、チューブ等は、使用時に体内・体外で血液や体液に接することに起因して、それらの表面に血液や体液中のタンパク質や細胞が接着、吸着し、本来の機能が損なわれるという問題がある。一方、がん細胞等の特定の細胞は、捕捉して診断・診療に役立てるため、選択的に吸着させて回収するという要請もあるが、選択的に吸着させることが難しいという問題もある。
【0003】
特許文献1には、親水性モノマーを重合したポリマーを医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ表面にコーティングし、上記の問題を解決することが提案されているが、親水性であるため、コーティング層が剥がれたり、捲れたりし、耐久性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−523981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、タンパク質や細胞に対する低吸着性表面だけでなく、がん細胞等の特定細胞に対する選択的吸着性・接着性をも付与し、更に優れた耐久性の付与も可能な加硫ゴム又は熱可塑性樹脂の表面改質方法を提供することを目的とする。また、該表面改質方法により得られる改質された表面を少なくとも一部に有する医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ等の表面改質体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明は、熱可塑性樹脂を改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する工程2とを含む表面改質方法に関する。
【0007】
第2の本発明は、熱可塑性樹脂を改質対象物とする表面改質方法であって、光重合開始剤の存在下で300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する工程Iを含む表面改質方法に関する。
【0008】
前記工程1は、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させ、又は更に300〜400nmのUV光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させることが好ましい。
【0009】
前記光重合開始剤は、ベンゾフェノン系化合物及び/又はチオキサントン系化合物であることが好ましい。
【0010】
親水性モノマー含有液が投入された反応容器又は反応筒に不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気に置換してラジカル重合を行うことが好ましい。
【0011】
前記親水性モノマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロイルモルホリン、及びメタクリロイルモルホリンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
重合禁止剤を含む親水性モノマー含有液を用い、該重合禁止剤の存在下でラジカル重合を行うことが好ましい。
【0013】
前記熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、及びスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記第1、2の表面改質方法であるため、改質対象物表面に、親水性モノマーのラジカル重合による所定厚みの薄いグラフト層(親水性ポリマー鎖により形成されたグラフト層)が形成され、結果、血液及び体液中のタンパク質や細胞に対する低接着性だけでなく、がん細胞等の特定細胞に対する選択的吸着性・接着性を付与できる。また、表面に親水性を有する高分子が固定されることから、繰り返し使用に対する耐久性も付与され、該低接着性や選択的吸着性・接着性の悪化を抑制できる。従って、該方法を用いて対象物表面に所定厚みの親水性ポリマー鎖(グラフト層)を形成することにより、以上の性能に優れた医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ等の表面改質体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】チャンバー部を備えた流路の模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の本発明は、熱可塑性樹脂を改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する工程2とを含む表面改質方法である。
【0017】
工程1では、成形後の熱可塑性樹脂(改質対象物)の表面に重合開始点が形成される。例えば、前記工程1は、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させて重合開始点を形成すること、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させて更に300〜400nmのUV光を照射し、該表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させること、等により実施できる。
【0018】
改質対象物としての熱可塑性樹脂としては、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル樹脂(ポリアクリル樹脂)、シクロオレフィン樹脂(ポリシクロオレフィン)、カーボネート樹脂(ポリカーボネート)、スチレン樹脂(ポリスチレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリジメチルシロキサン、等が挙げられる。
【0019】
光重合開始剤としては、例えば、カルボニル化合物、テトラエチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、なかでも、カルボニル化合物が好ましい。
【0020】
光重合開始剤としてのカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン及びその誘導体(ベンゾフェノン系化合物)が好ましく、例えば、下記式で表されるベンゾフェノン系化合物を好適に使用できる。
【化1】
(式において、R〜R及びR1′〜R5′は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、1〜3級アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでもよい炭化水素基を表し、隣り合う任意の2つが互いに連結し、それらが結合している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。)
【0021】
ベンゾフェノン系化合物の具体例としては、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4′−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。なかでも、良好にポリマーブラシが得られるという点から、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノンが特に好ましい。
【0022】
光重合開始剤としては、重合速度が速い点、及び吸着及び/又は反応し易い点から、チオキサントン系化合物も好適に使用可能である。例えば、下記式で表される化合物を好適に使用できる。
【化2】
(式において、R〜R及びR6′〜R9′は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。)
【0023】
上記式で示されるチオキサントン系化合物としては、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,3−ジエチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントン、4−シクロヘキシルチオキサントン、2−ビニルチオキサントン、2,4−ジビニルチオキサントン2,4−ジフェニルチオキサントン、2−ブテニル−4−フェニルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−p−オクチルオキシフェニル−4−エチルチオキサントンなどが挙げられる。なかでも、R〜R及びR6′〜R9′のうちの1〜2個、特に2個がアルキル基により置換されているものが好ましく、2,4−Diethylthioxanthone(2,4−ジエチルチオキサントン)がより好ましい。
【0024】
ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤の改質対象物表面への吸着方法としては、例えば、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物については、対象物の改質する表面部位を、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物を有機溶媒に溶解させて得られた溶液で処理することで表面に吸着させ、必要に応じて有機溶媒を乾燥により蒸発させることにより、重合開始点が形成される。表面処理方法としては、該ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物溶液を改質対象物の表面に接触させることが可能であれば特に限定されず、例えば、該ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物溶液の塗布、吹き付け、該溶液中への浸漬などが好適である。更に、一部の表面にのみ表面改質が必要なときには、必要な一部の表面にのみ光重合開始剤を吸着させればよく、この場合には、例えば、該溶液の塗布、該溶液の吹き付けなどが好適である。前記溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、THFなどを使用できるが、改質対象物を膨潤させない点、乾燥・蒸発が早い点でアセトンが好ましい。
【0025】
また、前記のとおり、改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させた後、更に300〜400nmのUV光を照射し、該表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させることも可能であるが、この場合のUV光照射については公知の方法を採用でき、例えば、後述の工程2のUV光照射と同様の方法で実施できる。
【0026】
工程2では、工程1で形成された前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する(ポリマー鎖を成長させる)ことが行われる。
【0027】
親水性モノマーは、親水性基を有する各種モノマーを使用できる。親水性基は、例えば、アミド基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基、アミノ基、アミド基、オキシエチレン基等、公知の親水性基が挙げられる。
【0028】
親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリルアミド、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン等)、などが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2−メトキシエチルアクリレートが特に好ましい。
【0029】
なお、工程2では、親水性モノマー以外に、効果を阻害しない範囲内で他のモノマーを共重合してもよい。他のモノマーとしては、スチレン等の芳香族モノマー、酢酸ビニル、温度応答性を付与できるN−イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0030】
工程2の親水性モノマーのラジカル重合の方法としては、(1)ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物などが吸着した改質対象物の表面(外表面及び/又は内表面)に、親水性モノマー含有液を塗工(噴霧)し、UV光を照射する方法、(2)該改質対象物を親水性モノマー含有液に浸漬し、UV光を照射する方法、(3)該改質対象物(チューブ形状や流路形状等)の内部に親水性モノマー含有液を注入し、UV光を照射する方法、等により、ラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該改質対象物表面(外表面及び/又は内表面)にグラフト層を形成できる。更に前記塗工(噴霧)、浸漬、注入後に、表面に透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射することで、ラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させ、改質対象物表面に対して、ポリマーを成長させることもできる。
【0031】
塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、注入方法、照射条件などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。なお、親水性モノマー含有液としては、ラジカル重合性モノマーの水溶液、光重合開始剤(ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物など)を溶解しない有機溶媒に溶解させたラジカル重合性モノマーの溶液、等を使用できる。また、親水性モノマー含有液は、4−メチルフェノールなどの公知の重合禁止剤を含むものでもよい。
【0032】
本発明では、親水性モノマー含有液の塗布後又は浸漬後に、光照射することで親水性モノマーのラジカル重合が進行するが、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどのUV照射光源を好適に利用できる。照射光量は、重合時間や反応の進行の均一性を考慮して適宜設定すればよい。また、反応容器内や反応筒内における酸素などの活性ガスによる重合阻害を防ぐために、光照射時又は光照射前において、反応容器内、反応筒内や反応液(親水性モノマー含有液)中の酸素を除くことが好ましい。そのため、反応容器内、反応筒内や反応液中に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して酸素などの活性ガスを反応系外に排出し、反応系内を不活性ガス雰囲気に置換すること、などが適宜行われている。更に、酸素などの反応阻害を防ぐために、UV照射光源をガラスやプラスチックなどの反応容器と反応液や改質対象物の間に空気層(酸素含有量が15%以上)が入らない位置に設置する、などの工夫も適宜行われる。
【0033】
紫外線の波長は、300〜400nmである。これにより、改質対象物の表面に良好にポリマー鎖(グラフト層)を形成できる。光源としては高圧水銀ランプや、365nmの中心波長を持つLED、375nmの中心波長を持つLEDなどを使用することが出来る。355〜380nmのLED光を照射することがより好ましい。特に、ベンゾフェノンの励起波長366nmに近い365nmの中心波長を持つLEDなどが効率の点から好ましい。波長が300nm未満では、改質対象物の分子を切断させて、ダメージを与える可能性があるため、300nm以上の光が好ましく、改質対象物のダメージが非常に少ないという観点から、355nm以上の光が更に好ましい。一方、400nmを超える光では、光重合開始剤が活性されにくく、重合反応が進みにくいため、400nm以下の光が好ましい。なお、LED光は波長が狭く、中心波長以外の波長が出ない点で好適であるが、水銀ランプ等でもフィルターを用いて、300nm未満の光をカットすれば、LED光と同様の効果を得ることも可能である。
【0034】
第2の本発明は、熱可塑性樹脂を改質対象物とする表面改質方法であって、光重合開始剤の存在下で300〜400nmのUV光を照射して少なくとも親水性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面に厚さ2〜100nmのグラフト層を形成する工程Iを含む表面改質方法である。具体的には、光重合開始剤を開始剤としてUV光を照射して親水性モノマーをラジカル重合させてポリマー鎖(グラフト層)を作製することで、改質対象物の表面に親水性ポリマー鎖により形成されたグラフト層を有する表面改質体を製造できる。工程Iで使用される改質対象物、光重合開始剤、親水性モノマーとしては、前記と同様のものを使用できる。
【0035】
例えば、工程Iは、改質対象物の表面に光重合開始剤及び親水性モノマーを接触させた後、300〜400nmのLED光を照射することで、該光重合開始剤から重合開始点を生じさせるとともに、該重合開始点を起点として親水性モノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させる(グラフト層を形成する)ことにより実施できる。
【0036】
工程Iの親水性モノマーのラジカル重合の方法としては、(1)改質対象物の表面に、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤を含む親水性モノマー含有液を塗工(噴霧)し、UV光を照射する方法、(2)改質対象物を光重合開始剤を含む親水性モノマー含有液に浸漬し、UV光を照射する方法、(3)改質対象物(チューブ形状や流路形状等)の内部に光重合開始剤を含む親水性モノマー含有液を注入し、UV光を照射する方法、等により、でラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、改質対象物表面(外表面及び/又は内表面)にグラフト層を形成できる。更に、前述の透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射する方法なども採用できる。なお、塗工(噴霧)溶媒、塗工(噴霧)方法、浸漬方法、注入方法、照射条件などは、前述と同様の材料及び方法を適用できる。
【0037】
工程2、工程Iで形成されるグラフト層の厚み(親水性ポリマー鎖により形成されたグラフト層の厚み)は、2〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは2〜30nmである。2nm未満であると、良好なタンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が得られない傾向がある。100nmを超えると、タンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が低下する傾向がある。
【0038】
工程2、工程IにおけるUV光の照射時間は、好ましくは15〜250分、より好ましくは30〜200分、更に好ましくは30〜150分である。15分未満であると、良好なタンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が得られない傾向がある。250分を超えると、タンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的吸着性・接着性が低下する傾向がある。
【0039】
工程2、工程Iでは、2種以上のモノマーを同時にラジカル重合させてもよい。更に、改質対象物の表面に複数のポリマー鎖を成長させてもよい。本発明の表面改質方法は、ポリマー鎖間を架橋してもよい。この場合、ポリマー鎖間には、イオン架橋、酸素原子を有する親水性基による架橋、ヨウ素などのハロゲン基による架橋が形成されてもよい。
【0040】
熱可塑性樹脂に前記表面改質方法を適用することで、改質された表面を少なくとも一部に有する表面改質体を製造できる。具体的には、医療・医用基盤(検査基板、検査チップ、検査器具等)、フィルター、流路、チューブ等の医療用具を製造できる。改質は、少なくとも医療・医用基盤(採取した血液及び体液から特定のタンパク質や細胞(がん細胞など)を取り出し、それらを吸着する基盤など)、フィルター、流路、チューブ等の医療用具の表面における血液及び体液が接する箇所に施されていることが好ましく、表面全体に施されていてもよい。所望の性能に応じて親水性モノマーを適宜選択することで、血液及び体液中のタンパク質や細胞が表面に接着、吸着することを防止したり、がん細胞等を選択的に接着、吸着させることが可能になる。また、ポリマー鎖が固定化されているため、表面の洗浄・各種薬剤による処理を施しても剥がれない等、優れた耐久性も得られる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)の改質対象物表面にベンゾフェノンの3質量%アセトン溶液を塗布して、ベンゾフェノンを吸着させ、乾燥した。
その後、10質量%の2−メトキシエチルアクリレートの水・エタノール混合溶液(水:エタノール=1:1)の入ったガラス反応容器に浸漬し、ゴムで蓋をし、アルゴンガスを導入して120分間バブリングをし、酸素を追い出した。ガラス反応容器を回転させながら、365nmの波長を持つLED光を60分照射してラジカル重合を行い、PET表面にグラフト層を成長させ、表面改質体を得た。
【0043】
(実施例2)
LED光の照射時間を30分に変更した以外は、実施例1と同様にして表面改質体を得た。
【0044】
(実施例3)
LED光の照射時間を120分に変更した以外は、実施例1と同様にして表面改質体を得た。
【0045】
(実施例4)
LED光の照射時間を180分に変更した以外は、実施例1と同様にして表面改質体を得た。
【0046】
(実施例5)
PETに代えて、ポリシクロオレフィンを用いた以外は、実施例1と同様にして表面改質体を得た。
【0047】
(実施例6)
PETに代えて、ポリメタクリル酸メチルを用いた以外は、実施例1と同様にして表面改質体を得た。
【0048】
(実施例7)
図1に示されるチャンバー部を備えたポリシクロオレフィン製流路内にベンゾフェノンの3質量%アセトン溶液を注入して、ベンゾフェノンを吸着させ、次いで、該アセトン溶液を排出させた後、乾燥した。
その後、予め、アルゴンガスによるバブリングで、酸素を追い出した10質量%の2−メトキシエチルアクリレートの水・エタノール混合溶液(水:エタノール=1:1)を注入し、365nmの波長を持つLED光を60分照射してラジカル重合を行い、ポリシクロオレフィン表面(チャンバー内面)にグラフト層を成長させ、表面改質体を得た。
【0049】
(実施例8)
ポリシクロオレフィン製流路に代えて、同様のチャンバー部を備えたポリメタクリル酸メチル製流路を用いた以外は、実施例7と同様にして表面改質体を得た。
【0050】
(比較例1)
PETそのものを用いた。
【0051】
(比較例2)
LED光の照射時間を300分に変更した以外は、実施例1と同様にして表面改質体を得た。
【0052】
実施例、比較例で作製した表面改質体を以下の方法で評価した。
(グラフト層の厚み)
表面改質体表面に形成されたグラフト層の厚みは、グラフト層(親水性ポリマー鎖)が形成された表面改質体断面を、TEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定(撮影)した。
【0053】
(血小板吸着量)
試料(表面改質体)の表面に、血漿に血小板を混合し、血小板濃度(播種密度)を4×10cells/cmに調整した液を接触させ、37℃で1時間静置した。試料表面をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、吸着した血小板の数を数えた。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。
【0054】
(がん細胞接着量)
試料(表面改質体)の表面に、ヒト線維肉腫(HT1080:がん細胞の一種)の懸濁液(FBS、播種密度:1×10cells/cm)を接触させ、37℃で1時間静置した。試料表面をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、接着したがん細胞の数を数えた。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。
【表1】
【0055】
特定厚みのグラフト層を持つ実施例の表面改質体は、血小板の吸着量が少ない一方で、がん細胞の接着量が多く、選択性(がん細胞接着量/血小板吸着量)も10を超え、良好であった。これに対し、PET表面自体の比較例1は、がん細胞の接着量は多いものの、血小板の吸着量も多く、選択性が低かった。グラフト層厚が大きい比較例2は、血小板の吸着量がやや多く、がん細胞の接着量がやや少ないため、実施例に比べ、選択性が大きく劣っていた。よって、低血小板吸着性や高がん細胞接着性は、グラフト層の厚み(ポリマー鎖の長さ)の依存度が高く、厚すぎると、選択性が大きく低下することが明らかとなった。
【0056】
従って、グラフト層の厚みを2〜100nmの範囲内に特定することで、選択性が向上し、血液中からがん細胞を選択的に捕捉する、等の性能の付与が期待できる。
【符号の説明】
【0057】
1 医療用検査装置
11 流路部
12 チャンバー部
図1