特許第6362268号(P6362268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6362268EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法及びEL活性阻害物質のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362268
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法及びEL活性阻害物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/44 20060101AFI20180712BHJP
   G01N 33/92 20060101ALI20180712BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   C12Q1/44
   G01N33/92 B
   !C12M1/34 E
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-544619(P2014-544619)
(86)(22)【出願日】2013年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2013079814
(87)【国際公開番号】WO2014069651
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-243324(P2012-243324)
(32)【優先日】2012年11月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108970
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 秀晃
(74)【代理人】
【識別番号】100113789
【弁理士】
【氏名又は名称】杉田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】小野 隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 敦子
(72)【発明者】
【氏名】紫垣 修平
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第00/007566(WO,A1)
【文献】 特表2012−517219(JP,A)
【文献】 Gematologia i trandfuzilogia,1990年,Vol. 35, No. 10,pp. 19-21
【文献】 Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.,2012年10月25日,Vol. 32,pp. 3033-3040
【文献】 J. Lipid Res.,2011年,Vol. 52,pp. 374-382
【文献】 Clin. Chem.,2012年10月15日,Vol. 58, No. 12,pp. 1656-1664
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/44
C12M 1/34
G01N 33/92
G01N 33/15
G01N 33/50
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) EL阻害剤である被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した血清または血漿中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度と、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した血清または血漿中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度を比較する工程、及び
(2) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した血清または血漿中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した血清または血漿中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度と比べて変化している場合に、被験物質をEL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬と評価する工程を含む、
EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法。
【請求項2】
(1) ホスファチジルイノシトール、被験物質及びELを接触させる工程、
(2) 被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度を、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較する工程、及び
(3) 被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較して上昇している場合に、被験物質をEL活性阻害物質として選択する工程を含む、
EL活性阻害物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
(1) ホスファチジルイノシトール、被験物質及びELを接触させる工程、
(2) 被験物質を接触させた場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度を、被験物質を接触させない場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較する工程、及び
(3) 被験物質を接触させた場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較して減少している場合に、被験物質をEL活性阻害物質として選択する工程を含む、
EL活性阻害物質のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトールを指標とする、血管内皮リパーゼ(Endothelial Lipase。以下、ELとする。)の活性測定方法に関する。具体的には、本発明は、EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法及びEL活性阻害物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ELは、Triglyceride Lipase(以下、TGLとする。)ファミリーに属するPhospholipaseである(非特許文献1)。ヒトELは500残基(NCBI Accession No. NP_006024.1)のアミノ酸からなり、マウスELも500残基のアミノ酸からなる。
TGLファミリーには、Lipoprotein Lipase(以下、LPLとする。)やHepatic Lipase(以下、HLとする。)が含まれる。
【0003】
ELは、その強いPhospholipase活性によりHDLコレステロール(以下、HDL−cとする。)の代謝に関与することがそのノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの解析から明らかとなり、血中HDL−c量を規定する因子として注目されている(非特許文献2)。冠動脈疾患(以下、CADとする。)と血中HDL−c量に負の相関関係が成立することは古くから知られている。HDL−cは抗酸化作用・抗炎症作用・コレステロール逆転送作用などを介して抗動脈硬化作用を示すとされ、低HDL−c血症はCADのリスクファクターの一つと認識されている。したがって、EL阻害剤はHDL−cの上昇を介してCAD治療薬となり、実際にELをノックアウトした病態マウスではHDL−c上昇と動脈硬化病変部位の減少が報告されている(非特許文献3)。
これらの知見は、ELの選択的阻害剤は脂質代謝異常症や動脈硬化症における治療薬としての有用性を示している。
【0004】
EL阻害剤の薬効評価試験において投薬した薬剤がどの程度、血液中でELを阻害しているかを把握することは、薬効のポテンシーを把握する上で重要事項である。しかしながら、血液中にはELと同様の活性を有するリパーゼが存在するため、血液中のEL活性を特異的に検出できるアッセイ方法を見出すことが、有望化合物の選択のための課題である。
【0005】
血液中には公知の一般的なアッセイ条件下(非特許文献4)では、ELよりも高い活性を有するリパーゼが存在し、ELの活性が正確に測定できないことから、投薬した阻害剤の血液中でのEL活性阻害率を正確に把握することは困難である。
非臨床試験においてEL活性測定に用いる血液を採取する際には、ELを血管壁から遊離、回収するために大量のヘパリンを静注する必要性があるが、臨床試験において被験者にヘパリンを大量に静注することはできない。したがって、臨床試験ではEL活性の指標となるマーカーが必要になるが、EL活性を反映できるマーカーの存在についての報告は現在までなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature Genetics、1999年、第21巻第4号、424−428ページ
【非特許文献2】TCM、2004年、第14巻第5号、202−206ページ
【非特許文献3】The Journal of Biological Chemistry、2004年、第279巻第43号、45085−45092ページ
【非特許文献4】The Journal of Clinical Investigation、2003年、第111巻第3号、347−355ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、EL以外のリパーゼも存在する非臨床・臨床試験検体から採取した試料において、ELの活性を特異的に測定することを課題とする。特に、臨床試験においては、被験者にヘパリンを大量に静注することはできないので、被験者にヘパリンを大量に静注することなくELの活性を特異的に測定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、EL活性測定系の精度、特異性向上およびEL活性のマーカーの特定という課題を解決するためには、血液中のリポタンパク質中のリン脂質の中からELに特異的な基質を見出すことが最善のストラテジーであると考えた。本発明者らは、その方針のもと、鋭意研究を重ねた結果、ホスファチジルイノシトールがEL特異的な基質となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]を提供する。
[1]ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトールを指標とする、EL活性測定方法。
[2](1) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度と、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度を比較する工程、及び
(2) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度よりも上昇している場合に、被験物質をEL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬と評価する工程を含む、
EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法。
[3](1) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール濃度と、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール濃度を比較する工程、及び
(2) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール濃度よりも上昇している場合に、被験物質をEL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬と評価する工程を含む、
EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法。
[4](1) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のリゾホスファチジルイノシトール濃度と、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のリゾホスファチジルイノシトール濃度を比較する工程、及び
(2) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のリゾホスファチジルイノシトール濃度よりも上昇している場合に、被験物質をEL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬と評価する工程を含む、
EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法。
[5]前記試料が血液、血清または血漿である[2]〜[4]いずれかに記載の方法。
[6](1) ホスファチジルイノシトール、被験物質及びELを接触させる工程、
(2) 被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度を、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較する工程、及び
(3) 被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較して上昇している場合に、被験物質をEL活性阻害物質として選択する工程を含む、
EL活性阻害物質のスクリーニング方法。
[7]ホスファチジルイノシトールが、ホスファチジルイノシトール−リポゾーム、ホスファチジルイノシトール−HDL、ホスファチジルイノシトール−再構成HDL又はホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルである[6]記載の方法。
[8](1) ホスファチジルイノシトール、被験物質及びELを接触させる工程、
(2) 被験物質を接触させた場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度を、被験物質を接触させない場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較する工程、及び
(3) 被験物質を接触させた場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較して減少している場合に、被験物質をEL活性阻害物質として選択する工程を含む、
EL活性阻害物質のスクリーニング方法。
[9]ホスファチジルイノシトールが、ホスファチジルイノシトール−リポゾーム、ホスファチジルイノシトール−HDL、ホスファチジルイノシトール−再構成HDL又はホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルである[8]記載の方法。
[10]前記[6]〜[9]いずれかに記載の方法に使用するためのキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度を指標とした、EL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法が提供される。また、本発明により、ホスファチジルイノシトールを使用したEL活性阻害物質のスクリーニング方法およびその方法に使用するためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、マウスのプレヘパリンプラズマにマウスELを添加、無添加(None)の際のホスファチジルコリン(以下、PCともいう。)量の変化を示す。横軸はホスファチジルコリンの分子種を、縦軸はホスファチジルコリンの濃度を示す。
図2図2は、マウスのプレヘパリンプラズマにマウスELを添加、無添加(None)の際のホスファチジルエタノールアミン(以下、PEともいう。)量の変化を示す。横軸はホスファチジルエタノールアミンの分子種を、縦軸はホスファチジルエタノールアミンの濃度を示す。
図3図3は、マウスのプレヘパリンプラズマにマウスELを添加、無添加(None)の際のホスファチジルイノシトール(以下、PIともいう。)量の変化を示す。横軸はホスファチジルイノシトールの分子種を、縦軸はホスファチジルイノシトールの濃度を示す。
図4図4は、ホスファチジルイノシトールをHDLに導入したホスファチジルイノシトール−HDL(以下、PI−HDLともいう。)とHDLを基質とした際のマウスELの活性を示す。横軸は用いた基質を、縦軸は遊離脂肪酸(以下、NEFAともいう。)の量を示す。
図5図5は、PI−HDLを用いてリパーゼの既知阻害剤であるオルリスタットのマウスELに対する阻害効果を示す。横軸はオルリスタットの濃度を、縦軸は阻害率を示す。
図6図6は、PI−HDL又はHDLを基質とした際のELトランスジェニックマウスのポストヘパリンプラズマ中のEL活性及びEL以外のリパーゼ活性(以下、Non EL活性とする。)を示す。横軸は用いた基質を、縦軸はNEFAの量を示す。
図7図7は、図6のEL活性/EL以外のリパーゼ活性を、PI−HDL又はHDLそれぞれについて計算した結果を示す。縦軸はEL活性/Non EL活性を、横軸は用いた基質を示す。
図8図8は、野生型マウス(C57BL/6J系統)及びELノックアウトマウスのプレヘパリンプラズマ中のホスファチジルイノシトール濃度についての測定結果を示す。横軸はホスファチジルイノシトールの分子種を、縦軸はホスファチジルイノシトールの濃度を示す。
図9図9は、野生型マウス及びELノックアウトマウスのプレヘパリンプラズマ中のホスファチジルエタノールアミン濃度についての測定結果を示す。横軸はホスファチジルエタノールアミンの分子種を、縦軸はホスファチジルエタノールアミンの濃度を示す。
図10図10は、EL中和抗体をカニクイザルに静脈内投与し、経時的に採取したプレヘパリンプラズマ中のHDLコレステロール濃度の、EL中和抗体投与前の濃度に対する比率を示す。横軸はEL中和抗体投与後のプレヘパリンプラズマの採取時間を、縦軸はEL中和抗体投与前の濃度に対する比率を示す。
図11図11は、EL中和抗体をカニクイザルに静脈内投与し、経時的に採取したプレヘパリンプラズマ中のホスファチジルイノシトール濃度の、EL中和抗体投与前の濃度に対する比率を示す。横軸はEL中和抗体投与後のプレヘパリンプラズマの採取時間を、縦軸はEL中和抗体投与前の濃度に対する比率を示す。
図12図12は、EL中和抗体をカニクイザルに静脈内投与し、経時的に採取したプレヘパリンプラズマ中のリゾホスファチジルイノシトール(以下、LPIともいう。)濃度の、EL中和抗体投与前の濃度に対する比率を示す。横軸はEL中和抗体投与後のプレヘパリンプラズマの採取時間を、縦軸はEL中和抗体投与前の濃度に対する比率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いる意味で用いられる。
【0013】
本発明は、一実施形態では、ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトールを指標とする、EL活性測定方法を提供する。かかる方法は、ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトールを指標とするEL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬の薬効評価方法及び、ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトールを指標とするEL活性阻害物質のスクリーニング方法を包含する。
【0014】
ホスファチジルイノシトールは、極性基にイノシトールをもつ酸性リン脂質の1つであり、PIと略記されることもある。1位、2位の脂肪酸の組み合わせの違いによって多種類の分子種が存在する。例えば、ホスファチジルイノシトールの分子種を質量分析で解析した結果から推定される分子量より、1,2位にエステル結合した脂肪酸の炭素数の合計が38、2重結合の合計が4と予測された場合、38:4という表記を行う。
【0015】
ホスファチジルコリンはレシチンとも呼ばれ、PCと略記されることもある。1位、2位のアシル基の組み合わせの違いによって多種類の分子種が存在する。例えば、ホスファチジルコリンの分子種を質量分析で解析した結果から推定される分子量より、1,2位にエステル結合した脂肪酸の炭素数の合計が36、2重結合の合計が3と予測された場合、36:3という表記を行う。
【0016】
ホスファチジルエタノールアミンは、PEと略語されることもある。1位、2位の脂肪酸の組み合わせの違いによって多種類の分子種が存在する。例えば、PEの分子種を質量分析で解析した結果から推定される分子量より、1、2位にエステル結合した脂肪酸の炭素数の合計が40、2重結合の合計が6と予測された場合、40:6という表記を行う。
【0017】
ELとは、TGLファミリーに属するPhospholipaseの一種である血管内皮リパーゼを意味する。ヒト、ウサギおよびマウスELのGenBank Accession番号は、それぞれ、Accession No. NP_006024.1、NP_001182567.1およびNP_034850.3である。
本明細書において、ELとは、前記GenBankに登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質のみならず、前記GenBankに登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質において1アミノ酸又は数アミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたタンパク質も含まれる。ただし、これらのタンパク質は、前記のGenBankに登録されているELと同等のホスホリパーゼ活性を有するものに限定される。
【0018】
EL活性が関連する疾患とは、脂質代謝異常症、高脂血症、動脈硬化、アテローム性動脈硬化、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、糖尿病、肥満及びシンドロームXを意味する。

【0019】
また、本発明は、一実施形態では、
(1) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度と、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度を比較する工程、及び
(2) 被験物質を投与した後の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を投与する前の哺乳動物より採取した試料中のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度と比べて変化している場合に、被験物質をEL活性が関連する疾患の治療または予防効果を有する医薬と評価する工程を含む、
EL活性が関連する疾患の治療又は予防効果を有する医薬の薬効評価方法を提供する。
EL活性が関連する疾患とは、脂質代謝異常症、高脂血症、動脈硬化、アテローム性動脈硬化、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、糖尿病、肥満及びシンドロームX等を意味する。
【0020】
上記方法の工程(1)では、被験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等を例示することができる。
【0021】
上記方法の工程(1)では、試料中のホスファチジルイノシトール濃度の定量は、例えば、Analytical Letters、2006年、第39巻、957−972ページを参照して質量分析により行うことができる。
一方、試料中のリゾホスファチジルイノシトール濃度の定量は、特開2010−63470などを参照してTLC展開することにより、またはChromatographia、2010年、第72巻第7/8号、659−664ページを参照して質量分析をすることにより、測定することができる。
【0022】
上記方法の工程(1)では、被験体である哺乳動物は哺乳動物であれば種類は問わない。また、哺乳動物より採取する試料は、哺乳動物由来のサンプルであれば何でもいいが、血液、血清又は血漿が好ましい。
【0023】
上記方法の工程(2)では、被験物質投与後のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質投与前のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較される。
ホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質投与前のホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度は、被験物質投与後の測定に対し、事前に測定したホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度であっても、同時に測定したホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したホスファチジルイノシトール又はリゾホスファチジルイノシトール濃度であることが好ましい。
【0024】
上記方法の工程(1)及び(2)では、血液中等にELを遊離させる必要は一切ない。そのため、被験者から試料を採取する際には、ヘパリンを静注することは不要であるので、臨床試験における被験者にも本評価方法を使用することができるのが利点である。
【0025】
また、本発明は、一実施形態では、
(1) ホスファチジルイノシトール、被験物質及びELを接触させる工程
(2) 被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度を、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較する工程、及び
(3) 被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較して上昇している場合に、被験物質をEL活性阻害物質として選択する工程を含む、
EL活性阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0026】
上記方法の工程(1)で用いられるホスファチジルイノシトールは、ホスファチジルイノシトール−リポゾーム、ホスファチジルイノシトール−HDL、ホスファチジルイノシトール−再構成HDLおよびホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルのいずれの形態であっても、ホスファチジルイノシトールを含む形態である限り、いかなる形態であっても許容される。
【0027】
ホスファチジルイノシトール−リポゾームとは、超音波処理等の機械的操作も含めてホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールと脂質との混合体として溶液中に分散させた状態を意味する。ホスファチジルイノシトールとの混合成分として使用される脂質としては、例えば、血中に含有される脂質などをあげることができる。
ホスファチジルイノシトール−リポゾームは、The Journal of Lipid Research、1976年、第17巻第3号、239−247ページを参照して、適宜作製することができる。
【0028】
ホスファチジルイノシトール−HDLとは、ホスファチジルイノシトールとHDLを混合することにより、人為的にホスファチジルイノシトールの導入されたHDLを意味する。ホスファチジルイノシトールとの混合成分として使用されるHDLとしては、例えば、HDL、もしくはその構成物のHDL2、HDL3などを挙げることができる。
【0029】
ホスファチジルイノシトール−再構成HDLとは、ホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールと脂質の混合物をアポ蛋白と混合することにより再構成されたHDLを意味する。ホスファチジルイノシトールとの混合成分として使用される脂質としては、例えば、血中に含有される脂質などをあげることができる。ホスファチジルイノシトール−再構成HDL作製に使用されるアポ蛋白としては、例えば、血中に含有されるアポ蛋白などをあげることができる。
ホスファチジルイノシトール−再構成HDLは、The Journal of Biological Chemistry、1982年、第257巻第8号、4535−4540ページを参照して、適宜作製することができる。
【0030】
ホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルとは、界面活性剤によりホスファチジルイノシトール又はホスファチジルイノシトールと脂質との混合体として溶解させることにより形成された混合ミセルを意味する。ホスファチジルイノシトールとの混合成分として使用される脂質としては、例えば、血中に含有される脂質などをあげることができる。ホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルの作製に使用される界面活性剤としては、例えば、イオン性、非イオン性界面活性剤などをあげることができる。
ホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルは、The Journal of Biological Chemistry 1988年、第263巻第12号、5724−5731ページを参照して、適宜作製することができる。
【0031】
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が例示される。
【0032】
上記方法の工程(2)では、ホスファチジルイノシトール濃度の測定は、例えば、Analytical Letters 2006年、第39巻、957−972ページを参照して質量分析を行い直接ホスファチジルイノシトール濃度を測定するか、基質であるホスファチジルイノシトールから生成されるNEFAの量を測定すること等により行う。
【0033】
上記方法の工程(3)では、被験物質を接触させた場合のホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のホスファチジルイノシトール濃度と比較される。
ホスファチジルイノシトール濃度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させないホスファチジルイノシトール濃度は、被験物質を接触させたホスファチジルイノシトール濃度の測定に対し、事前に測定したホスファチジルイノシトール濃度であっても、同時に測定したホスファチジルイノシトール濃度であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したホスファチジルイノシトール濃度であることが好ましい。
【0034】
スクリーニングによって見出されたEL活性阻害物質は、EL活性が関連する疾患、すなわち、脂質代謝異常症、高脂血症、動脈硬化、アテローム性動脈硬化、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、糖尿病、肥満及びシンドロームX等の疾患の治療または予防効果を有する。
【0035】
更に、本発明の一実施形態では、
(1) ホスファチジルイノシトール、被験物質及びELを接触させる工程
(2) 被験物質を接触させた場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度を、被験物質を接触させない場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較する工程、及び
(3) 被験物質を接触させた場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度が、被験物質を接触させない場合のリゾホスファチジルイノシトール濃度と比較して減少している場合に、被験物質をEL活性阻害物質として選択する工程を含む、
EL活性阻害物質のスクリーニング方法を提供する。
【0036】
上記方法の工程(2)では、ホスファチジルイノシトールの分解産物であるリゾホスファチジルイノシトール濃度が測定される。リゾホスファチジルイノシトール濃度の定量は、特開2010−63470などを参照してTLC展開することにより、またはChromatographia、2010年、第72巻第7/8号、659−664ページを参照して質量分析をすることにより、測定することができる。
【0037】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0038】
マウス血漿中リポタンパク質のリン脂質に対するELの基質特異性の検証
マウスELをコードするDNAをクローニングしたpcDNA−DEST40 (インビトロジェン社製) をFreestyle 293F細胞にトランスフェクションし、37℃、8%COで2日間培養した。培養液を遠心分離し、細胞を回収して、20U/mlのヘパリンを含むFreestyle 293 Expression Medium(Invitrogen社製)にて懸濁し、37℃で45分間インキュベーションした。その後、遠心分離により細胞を除去して得た上清をマウスEL酵素溶液とした。C57BL/6JマウスのプレヘパリンプラズマとマウスEL酵素溶液からなる反応溶液(9:1、v/v)を37℃で2時間インキュベーションした後、EDTA(終濃度10mM)を添加し反応を停止した。その後、Analytical Letters 2006年、第39巻、957−972ページを参照して質量分析法により、反応溶液中の各種リン脂質を定量した。反応溶液にEL酵素溶液を入れずにインキュベーションした際の各種リン脂質の変動のプロファイルと、EL酵素溶液添加時でのプロファイルとの比較より、EL添加で特異的に変動するリン脂質を検索した(図1〜3)。その結果、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンにはEL以外のリパーゼの作用が認められたが、ホスファチジルイノシトールにはELのみが活性を示すことが明らかとなった。
【実施例2】
【0039】
ホスファチジルイノシトール−HDLを基質とした、マウスEL活性測定とEL活性阻害剤の評価
クロロホルム溶媒中のホスファチジルイノシトール(Avanti Polar Lipids社製)を必要量採取し、窒素存在下で溶媒を完全に蒸発乾固した。PBSを添加後、氷上で超音波処理して調製したホスファチジルイノシトールベシクルを、ヒトHDL(Athens Research&Technology社製)と混合、4℃で24時間インキュベーションすることにより、ホスファチジルイノシトール(2.5mg/ml)をHDL(5mg/ml)に導入したホスファチジルイノシトール−HDLを作製した。マウスELをコードするDNAをクローニングしたpcDNA−DEST40(インビトロジェン社製) をFreeStyle 293F細胞にトランスフェクションし、37℃、8% COで2日間培養した。培養液を遠心分離し、細胞を回収して、20U/mlのヘパリンを含むFreeStyle 293 Expression Medium(Invitrogen)にて懸濁し、37℃で45分間インキュベーションした。その後、遠心分離により細胞を除去して得た上清をマウスEL酵素溶液とした。20mM トリス塩酸緩衝液 (pH7.5)、0.5% ウシ血清アルブミン、4mM 塩化カルシウム、150mM塩化ナトリウムで構成される反応溶液に基質としてホスファチジルイノシトール−HDLあるいはHDLを終濃度2mg/mlになるように加え、最後にマウスEL酵素溶液を添加した(全量で10μl)。37℃で2時間反応後、ELによって基質から生成されるNEFAをNEFA C−テストワコー (和光純薬工業社製) で測定し、そのNEFA量(吸光度)を酵素活性指標とした。マウスEL酵素溶液を添加しないときのNEFA量をバックグラウンド値とし、実測値よりバックグラウンド値を差し引いた値をEL活性とした(図4)。その結果、マウスELは、ホスファチジルイノシトール−HDLを基質とした方が、HDLを基質とした時よりも約2倍高い活性を示し、HDLよりも高感度の基質であることが示唆された。また、ホスファチジルイノシトール−HDLを基質とし、既知のリパーゼ阻害剤であるオルリスタットのマウスELに対する阻害活性を評価したところ、用量依存的な阻害が認められ、阻害剤評価への適用が可能であることが示された(図5)。
【実施例3】
【0040】
ELトランスジェニックマウスの血漿中の内因性ELの活性測定
クロロホルム溶媒中のホスファチジルイノシトール(Avanti Polar Lipids社製)を必要量採取し、窒素存在下で溶媒を完全に蒸発乾固した。PBSを添加し、氷上で超音波処理して調製したホスファチジルイノシトールベシクルを、ヒトHDL(Athens Research&Technology社製)と混合、4℃で24時間インキュベーションすることにより、ホスファチジルイノシトール(2.5mg/ml)をHDL(5mg/ml)に導入したホスファチジルイノシトール−HDLを作製した。ELトランスジェニックマウスにヘパリン(シグマアルドリッチ社製)を含む生理食塩水(大塚製薬社製)を50KU/kg尾静脈より投与し、30分後に腹部大静脈より採血して得られた血液を遠心分離後、上清を回収して内因性ELを含むプラズマを得た。100mMトリス塩酸緩衝液 (pH7.5)、5mM 塩化カルシウム、150mM塩化ナトリウムで構成される反応溶液にホスファチジルイノシトール−HDLあるいはHDLを基質として終濃度1.5mg/mlになるように加え、最後に過剰量のマウスEL中和抗体又はノーマル抗体処理後のプラズマを添加した(全量で10μl)。37℃で1時間反応後、酵素反応によって生成されたNEFAをNEFA C―テストワコー (和光純薬工業社製)で測定し、そのNEFA量(吸光度)を酵素活性指標とした。血中にあらかじめ内在するNEFA量をバックグランドとして、酵素反応時の測定値から差し引いてそれぞれの酵素活性値とした。マウスEL中和抗体存在下での酵素活性値をNon EL活性、ノーマル抗体存在下での酵素活性値からマウスEL中和抗体存在下での酵素活性値を引いた差をEL活性とした(図6)。その結果、ホスファチジルイノシトール−HDLを基質とした方がEL活性が顕在化し、ELとNon ELの活性比(EL活性/Non EL活性)は、HDLに比較してホスファチジルイノシトール−HDLを基質とした時の方が約3.5倍高いことが明らかとなった(図6、7)。
【実施例4】
【0041】
野生型マウス及びELノックアウトマウスの血漿中ホスファチジルイノシトール及びホスファチジルエタノールアミン濃度の比較
C57BL/6J系統の野生型マウス及びELノックアウトマウスから採取したプレヘパリンプラズマ中のホスファチジルイノシトールの定量を、Analytical Letters 2006年、第39巻、957−972ページを参照して質量分析により実施した(図8及び図9)。その結果、ELノックアウトマウスのプラズマ中のホスファチジルイノシトール濃度は、野生型マウスのそれよりも約1.8倍の上昇が認められたのに対し、ホスファチジルエタノールアミンの濃度は約1.1倍のみの上昇であったことから、ホスファチジルイノシトール濃度が内在性のEL活性を高感度に反映していることが示唆された。
【実施例5】
【0042】
カニクイザルにEL中和抗体を投与した際の血中HDLコレステロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール濃度の推移
カニクイザルにEL中和抗体を静脈内投与し経時的に採血したプレヘパリンプラズマ中のHDLコレステロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトールの濃度を測定した。HDLコレステロールの定量は自動分析装置で実施した(図10)。ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトールの定量は、質量分析により実施し、各分子種のトータル量として算出した(図11、12)。その結果、HDLコレステロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトールともにEL中和抗体投与後、経時的に増加し、個々のEL中和抗体投与前の初期値に比較して、EL中和抗体投与7時間後で、HDLコレステロールで1.6倍、ホスファチジルイノシトールで2.4倍、リゾホスファチジルイノシトールで2.6倍になっていた。
【実施例6】
【0043】
ホスファチジルイノシトール−リポゾーム、ホスファチジルイノシトール−再構成HDL及びホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルを基質とした、EL活性測定
ホスファチジルイノシトール−リポゾームは、The Journal of Lipid Research、1976年、第17巻第3号、239−247ページを、ホスファチジルイノシトール−再構成HDLは、The Journal of Biological Chemistry、1982年、第257巻第8号、4535−4540ページを参照して、適宜作製する。
一方、ホスファチジルイノシトール−リポゾーム又はホスファチジルイノシトール−再構成HDLを基質としたEL活性測定は、Biochemistry、2003年、第42巻第46号、13778−13785ページ等を参照して行う。
一方、ホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルは、The Journal of Biological Chemistry 1988年、第263巻第12号、5724−5731ページを参照して、適宜作製する。また、同文献を参照して、ホスファチジルイノシトール−界面活性剤混合ミセルを基質として、EL活性を測定する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12