【実施例1】
【0022】
MMNは、逸脱刺激が残りの標準刺激に対して約20%である聴覚オドボール課題で示される一連の聴覚刺激のシーケンス内の任意の識別可能な変化によって誘発させることができる。その振幅と潜時は、音の変化をどの程度判別しているかをよく示している。簡単に判別できるほど、振幅はより大きく、また、より短い潜時で誘発される。興味深いことに、MMNは、対象を意識的に識別しようとすることがない場合にも観察されることである。また、MMNは、音響刺激に対する被験者の注目なしでも誘発されることがあることも知られている。本実施例では、識別に関するMMN強度を視覚的表示物で被験者にフィードバックし、兎に角、上記視覚的標示物のサイズを大きくするように被験者に指示した。被験者はMMN応答と視覚的表示物の大きさとの対応関係を知らない。ひたすら上記視覚的表示物のサイズを拡大しようとするだけである。つまり、被験者は知覚技能訓練を行っていることに決して気付くことなく、また、音に注意を払うことが必要ではない。上記の訓練の後、知覚スキルは向上した。
【0023】
本実施例について、以下に、より詳細に説明する。
上記のNFBの下、被験者は1000Hzと1008Hzとを意識せずに識別すべく訓練された。この訓練では、80%が1000Hzの刺激で残りが1008Hzであり、誘発されるMMN応答を強めるようにした。音響刺激は、0.5秒中でランダムに与えられた。
図2(a)に実験の時系列を示す。MMN信号強度は最新の20音データについて算出する。その内容は、(標準刺激:16試行、偏奇刺激:4試行)である。算出したデータは、緑色円板で視覚的にフィードバックする。その円板の径がMMN信号強度に対応する。被験者に対する指示は、「ヘッドフォンからの音を無視して、ディスプレイ上の緑色円板をできるだけ大きくすること」である。
【0024】
1コマは、300音からなり、150秒である。1日で12コマの訓練を日課とした。被験者は、上記日課を5日間行ったが、日課ごとの間は少なくとも24時間設けた。連続した5日間ではないが、10日以上にはなっていない。緑色円板の径は、1コマの始めの20音については、固定している。これは、MMN信号を算出するために20音必要であるためである。上記の径は、0.5秒ごとに、MMNをアップデートする際についでにアップデートした。上記円板のサイズは、MMN信号の振幅の線形マッピングで決めた値である。何の値が表示されているのかについて被験者に知らされていない事については、特記する必要がある。実験目的が知覚訓練であることは、伏せられている。
【0025】
訓練の流れは、以下の様になる。但し、この課題については、発明者の研究で訓練前より成績が上がることがわかっている。
(1)まず、既存手法の場合は、以下のようになっている。
1−1:被験者に脳波計をつける。
1−2:被験者はplayやprayといった単語を聞いて、どちらかを区別できるように学習を行う。
1−3:これを行っているときのMMNをフィードバックすることで、たとえ間違っていても、脳が正しく判断し始めているかどうかを被験者に伝える。
1−3−1:このフィードバックのみではなく、MMNの大きさに従って刺激を
変えてもよい(たとえば、単語の速度を変えるとか、音の大きさを変えて、MMNが小さい場合は聞き取りやすいもの
にする等)。
1−3−2:被験者は、フィードバックされたものがMMNに対応していることを知っている。
1−4:被験者は言語学習をしていることがわかっているため、訓練と評価は同時(訓練をしたら、その評価がすぐにフィードバックされる。)
(2)これに対して、本発明の場合は、以下の様にする。
2−1:被験者に脳波計をつける。
2−2:被験者はplayやprayといった単語を聞きながら、提示されているMMNの大きさを反映した円を大きくする。
2−2−1:聞いている単語に関して、学習しようとする必要はない。
2−2−2:円の大きさがMMNに対応していることを被験者に伝える必要はない。
2−2−3:提示されるものは円である必要はなく、たとえばゲームのパラメータに対応させていてもよい。
2−3:何度か訓練をすることにより、MMNを反映した円を意図的に大きくできるようになる。
2−4:訓練をした後に、LとRの違いの聞き取り評価をする。
【0026】
音響識別能力が改善されたことを評価するために、BAD(behavioral auditory discrimination)テストを、訓練初日の前に実施した。つまり、訓練前テストである。また、毎訓練日にも訓練後に実施した。そのテストにおいては、被験者の音響識別能力を測定したが、被験者は、2つの単独音の同異について答えるものである。
図3(a)は、8人の被験者のBADテストの結果を示す。繰り返し測定の1元配置分散分析は、訓練が有効であることを示している。結果は、F(5,42)=8.40、p<0.0001である。
【0027】
任意の接近したステージにおける正確度間の事後t検定で、次のことが判明した。つまり、2つの純音の識別能力は、3日目や4日目を除き、改善された。全体的には、正確度や毎訓練日における正確度の平均は、漸近的に増加し、この傾向は次第に良くなった。結局の処、NFB訓練を通じて、最終日の正確度は、事前検定に比べて、25.45±3.09%(被験者の平均±標準誤差)改善された。
【0028】
日々の訓練において、被験者は、音響刺激を無視する指示を受けているが、音響刺激を繰り返し聴取する事に慣れることで、訓練が音響識別能力を改善したのかもしれない。この可能性を確かめるために、新たな被験者8人に対して、対照実験を行った。その対照実験では、被験者に同じ指示を与え、頭部に電極を装着した。しかし、測定した脳波は無視し、視覚フィードバックの緑色円板のサイズは、他の被験者のNFB条件下において記録されたのと同じ手順で提示された。つまり、対照実験の被験者にはNFB条件下と同じ視覚刺激が示された。被験者はNFB条件下に参加したか対照実験条件下に参加したかについては知らない、ということを特記しておく。
【0029】
対照実験条件下の個々の被験者のBADテストを行った。結果を
図3(b)に示す。また、
図3(c)は、対照実験条件下のBADテストで有意の能力改善が見られなかったことを示している。NFB条件下と対照実験条件下とで、グループ平均での比較も行った。その結果では、NFB条件下は対照実験条件下に比べてかなり改善されている。これから分かるのは、NFB条件下における能力改善では、繰り返される音響信号から識別力を学んだものではないことである。また、
図3(c)から、繰り返される音によって学習は起こらない、ということも分かる。
【0030】
行動上の能力改善に加えて、神経活動がNFB訓練で変わったのかどうかを確かめた。これには、各訓練日のMMNを算出するための脳波を詳しく調べた。グループの平均MMN振幅と潜時を神経活動の指標とした。
図4(a)はグループ平均のMMN振幅の変化を示している。この結果から分かることは、最終日のグループの平均のMMN振幅は、初日よりもかなり高い(t(7)=2.45, p<0.05)ことである。加えて、被験者のNFB訓練中の日々のMMN最大潜時を比較した。
図4(b)は、グループ平均の日々のMMN最大潜時の最終日の値は初日に比べてかなり短い(t(7)=2.71, p<0.05)ことを示している。
【0031】
知覚学習に関して、最近の研究が示す所では、視覚野における方角の検知に対応する脳の特定の活動は、刺激や目標行動に主観認識を提示することなく、記録されたfMRIで訓練された。我々の研究結果ではこの観点をサポートするものであり、脳活動の変化が無意識であっても行動上の能力改善を引き起こす。記録されたfMRIを用いるやり方は、知覚学習に関連する脳領域位置を知るためにも、特定の知覚学習でどのように活性化されるかを知るためにも、事前に被験者の脳活動パターンを計測することが必要である。また、このように事前に脳活動パターンを計測する必要があるため、学習前であってもある程度は弁別が可能である課題を強化することしかできない。
【0032】
これに対して、本発明の学習法では、聴覚プロセスの結果誘発されるMMN応答を使うことで、特定脳活動パターンや個々の音の特性を知らない状態でも、知覚変化は訓練できる。それ故、学習前は全く弁別不可能な課題に対しても本学習法は利用できる。この、MMN信号は容易に捕捉できる。それゆえ、本発明は知覚訓練に有用な知見をもたらす。例えば、lightとrightにおいて、/l/や/r/の音に相当する脳活動パターンは明確でないが、/l/や/r/の区別で誘発される脳活動、例えばMMNは、/l/と/r/の識別を教えるものである。高価なfMRI装置に比べて、脳波装置は入手も利用も容易である。さらに、脳波装置にはいろいろな先進機能、例えば、安定なアクティブ電極、はやく被れる帽子、あるいはコンパクトな携帯用装置など、を、付加することができる。
【0033】
以前の研究では以下の点が示されている。つまりMMNは、識別の正確性と音の感覚記憶の持続性で決まる。我々の行動試験において改善が確認されたので、我々のNFB法によって識別機能が改善されたと考えるのは理にかなっている。いくつかの研究で、行動訓練を通じてMMNがより強くなっているのが示されている。これらの研究では、弁別課題の学習をしたことで,MMNの大きさが強くなっていることを示している。
【0034】
しかし、行動識別訓練の後には、刺激の変化を識別することを行動で学んだ被験者にMMNが見られるようになった。これらの結果の示す所では、行動上の音響識別能力は、脳活性を増強することのみで改善されるもので、行動上の識別訓練なしでよい。つまり、MMNを大きくするということで、無意識的にこのMMNを引き起こしている弁別課題を学習しているということを、本発明の発明者が初めて示した。
【0035】
さらに、行動上の識別訓練は困難な場合があるが、これは行動上の識別訓練様式のフィードバックが行動上の応答向けに2値(正/誤)情報に限られるためである。脳プロセスが新奇の音にどの程度近いかに関係なく、行動が誤りである場合は、“不正解”となる。そのような2値の情報は、学習プロセスの成果を適正に評価することができず、被験者が何をどう学ぶべきかを分かり辛くしてしまう。それゆえ、本発明のNFBを用いた無意識学習法は、行動訓練に比べてより強くまたより役に立つものとなる。
【0036】
被験者は、学習段階の目的に気づいたか?
最後の訓練日のBADテストの後で、被験者に円板サイズがなぜ変化したかを質問したところ、その誰の返答も、実験における音響刺激に関するものではなかった。これは、われわれの実験の目的を被験者が知らなかったことを示している。本発明のNFB法を用いた無意識学習法では、学習者に音響刺激に注意を払う事を求めず、学習者は学習の事実も知る必要が無く、無意識的に識別力を改善できる。
【0037】
これから、ビデオゲームを用いた音響知覚訓練への興味深い見方をすることができる。例えば、ビデオゲームで、なんらかのゴールを達成するなど、被験者にとって誘因になることをMMNの強度と関連付ける。この際、プレーヤーは、学習音つきのゲームを楽しむだけにする。