特許第6362334号(P6362334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6362334-アンモニアエンジン 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362334
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】アンモニアエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/00 20060101AFI20180712BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20180712BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20180712BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20180712BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20180712BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   F02M25/00 F
   F02D19/02 B
   F02D19/08 C
   F02B23/10 T
   F02D41/02 325K
   F02M21/02 G
   F02M21/02 301R
   F02M25/00 L
   F02M25/00 S
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-6107(P2014-6107)
(22)【出願日】2014年1月16日
(65)【公開番号】特開2015-135067(P2015-135067A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】515330111
【氏名又は名称】荒木エフマシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 信哉
(72)【発明者】
【氏名】岩井 好朗
【審査官】 家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/136151(WO,A1)
【文献】 特開2009−221086(JP,A)
【文献】 特開2009−097421(JP,A)
【文献】 特開2008−215092(JP,A)
【文献】 特開2012−117495(JP,A)
【文献】 特開平05−332152(JP,A)
【文献】 特開2004−239123(JP,A)
【文献】 特開2010−265138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 21/02 − 21/06
F02M 25/00
F02B 43/00 − 43/12
F02D 13/00 − 28/00
F02D 41/00 − 41/40
F02D 43/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの燃焼室内にアンモニアが燃料として供給されるアンモニアエンジンであって、
アンモニアを前記燃焼室内に直接供給するアンモニア供給装置と、
アンモニアと金属水素化物とを反応させて高圧の水素ガスを発生させる水素ガス生成装置と、
前記水素ガス生成装置により発生した前記高圧の水素ガスを前記燃焼室内に直接供給する水素ガス供給装置と、を備え、
前記水素ガス供給装置は、前記高圧の水素ガスを噴射する第1の噴射部を有し、
前記第1の噴射部は、前記燃焼室内で火花を発生させる点火部の近傍において、当該点火部により発生した火花に向けて前記高圧の水素ガスを噴射するように配置されており、
前記アンモニア供給装置は、アンモニアを噴射する第2の噴射部を有し、
前記第2の噴射部は、前記第1の噴射部よりも前記点火部から離れて配置され、且つ前記第1の噴射部から噴射された高圧の水素ガスに向けてアンモニアを噴射しないように配置されていることを特徴とするアンモニアエンジン。
【請求項2】
前記水素ガス生成装置で発生させる水素ガスの圧力は、前記シリンダのピストンが圧縮上死点に達したときの前記燃焼室内の圧力以上に設定されている請求項1に記載のアンモニアエンジン。
【請求項3】
前記水素ガス生成装置は、前記燃焼室内に供給するアンモニアを利用して高圧の水素ガスを発生させる請求項1又は2に記載のアンモニアエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを燃料とするアンモニアエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止などの環境保全の観点から、再生可能な燃料を用いたエンジンとして、アンモニアを燃料としたアンモニアエンジンが着目されている。しかし、このアンモニアエンジンでは、燃料であるアンモニアが難燃性であるため、アンモニアを燃え易くするための工夫が必要になる。このため、従来のアンモニアエンジンは、燃焼室に複数の点火プラグを配置し、これらの点火プラグによって複数の箇所で火花を発生させることによって、アンモニアを容易に燃焼させるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のアンモニアエンジンにあっては、燃焼室内に供給されたアンモニアの燃焼効率が依然として低いため、未だ実用化されていないのが現状である。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃焼効率を向上させることができるアンモニアエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための本発明のアンモニアエンジンは、シリンダの燃焼室内にアンモニアが燃料として供給されるアンモニアエンジンであって、アンモニアを前記燃焼室内に直接供給するアンモニア供給装置と、アンモニアと金属水素化物とを反応させて高圧の水素ガスを発生させる水素ガス生成装置と、前記水素ガス生成装置により発生した前記高圧の水素ガスを前記燃焼室内に直接供給する水素ガス供給装置と、を備え、前記水素ガス供給装置は、前記高圧の水素ガスを噴射する第1の噴射部を有し、前記第1の噴射部は、前記燃焼室内で火花を発生させる点火部の近傍において、当該点火部により発生した火花に向けて前記高圧の水素ガスを噴射するように配置されており、前記アンモニア供給装置は、アンモニアを噴射する第2の噴射部を有し、前記第2の噴射部は、前記第1の噴射部よりも前記点火部から離れて配置され、且つ前記第1の噴射部から噴射された高圧の水素ガスに向けてアンモニアを噴射しないように配置されていることを特徴とする。
本発明のアンモニアエンジンによれば、水素ガス生成装置により発生した高圧の水素ガスを、高圧下の燃焼室内に供給することができるため、燃焼室内のアンモニアは可燃性ガスである水素ガスとともに燃焼することで、アンモニアの燃焼効率を向上させることができる。
【0006】
また、点火部の近傍においてアンモニアを水素ガスとともに燃焼させることができるため、水素ガスを燃焼室に充満させる必要がない。その結果、アンモニアの燃焼に必要な水素ガスの供給量を低減することができる。
【0007】
前記水素ガス生成装置で発生させる水素ガスの圧力は、前記シリンダのピストンが圧縮上死点に達したときの前記燃焼室内の圧力以上に設定されているのが好ましい。
この場合、シリンダのピストンが圧縮上死点に達するときに燃焼室内に水素ガスを供給することができるため、ポンピングロスを効果的に低減することができ、アンモニアエンジンの熱効率を向上させることができる。
【0008】
前記水素ガス生成装置は、前記燃焼室内に供給するアンモニアを利用して高圧の水素ガスを発生させるのが好ましい。
この場合、高圧の水素ガスを生成するための専用のアンモニアを別途用意する必要がないので、エンジン全体の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアンモニアエンジンによれば、燃焼効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るアンモニアエンジンの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るアンモニアエンジンの構成を示す模式図である。図1において、本実施形態のアンモニアエンジンは、液体アンモニアを燃料とするエンジン本体1と、液体アンモニアを貯留するタンク2と、液体アンモニアを用いて高圧の水素ガスを発生させる水素ガス生成装置3と、生成された高圧の水素ガスをエンジン本体1に供給する水素ガス供給装置4とを備えている。
【0012】
エンジン本体1は、内部に燃焼室11aを有するシリンダ11と、燃焼室11a内に液体アンモニアを供給するアンモニア供給装置12と、燃焼室11a内に空気を供給する吸気装置13と、燃焼室11a内で火花を発生させる点火装置14と、燃焼室11a内から燃焼後の排気ガスを排出する排気装置15とを備えている。
【0013】
シリンダ11は、筒状のシリンダライナ11bと、シリンダライナ11bの上部開口を覆うシリンダヘッド11cと、シリンダライナ11b内に往復動可能に設けられたピストン11dと、ピストン11dに連結されたクランク11eとを有している。シリンダライナ11bとシリンダヘッド11cとピストン11dとによって囲まれた空間が燃焼室11aとされている。したがって、燃焼室11aは、ピストン11dが図中上側に移動することで、高圧状態に圧縮されるようになっている。また、この燃焼室11aで液体アンモニアを燃焼させてピストン11dを往復動させることで、クランク11eを回転運動させる駆動力が伝達されるようになっている。
【0014】
点火装置14は、例えば点火プラグからなり、シリンダヘッド11cの略中央部において先端部を燃焼室11a内に配置させた状態で固定されている。点火装置14の先端部には、燃焼室11a内の上側中央部で火花を発生させる点火部14aが設けられている。
【0015】
アンモニア供給装置12は、例えばインジェクタからなり、シリンダヘッド11cにおいて先端部を燃焼室11a内に配置させた状態で固定されている。アンモニア供給装置12の先端部には、燃焼室11a内に液体アンモニアを噴射する噴射部12aが設けられている。なお、アンモニア供給装置12は、噴射部12aを燃焼室11a内に配置させた状態でシリンダヘッド11cに固定されているが、これに代えて、又はこれに加えて、噴射部12aを吸気管13a内に配置させた状態で当該吸気管13aに固定されていても良い。
【0016】
吸気装置13は、一端部がシリンダヘッド11cに固定された吸気管13aと、吸気管13a内に設けられた吸気弁13bとを備えている。吸気弁13bは、図示しない駆動手段により開閉されるようになっており、吸気弁13bを開放することで吸気管13a内と燃焼室11aとが連通し、吸気管13aから燃焼室11a内に空気が供給されるようになっている。
【0017】
排気装置15は、一端部がシリンダヘッド11cに固定された排気管15aと、排気管15a内に設けられた排気弁15bとを備えている。排気弁15bは、図示しない駆動手段により開閉されるようになっており、排気弁15bを開放することで排気弁15b内と燃焼室11aとが連通し、燃焼室11a内の燃焼後の排気ガスが排気弁15bから排出されるようになっている。
【0018】
水素ガス生成装置3は、従来の水素ガス製造方法(例えば、特開2010−265138号公報)を用いたものであり、液体アンモニアと金属水素化物とを反応させて高圧の水素ガスを発生させるものである。水素ガス生成装置3は、反応容器3aと、この反応容器3aに粉末状の金属水素化物を補給する補給装置3bとを有している。
【0019】
反応容器3aは、耐圧性能の高い容器からなり、その内部には補給装置3bから多量の金属水素化物が充填される。また、反応容器3aの内部には、タンク2内の液体アンモニアが導入される。すなわち、水素ガス生成装置3は、エンジン本体1の燃焼室11a内に供給される液体アンモニアを、反応容器3aの導入する液体アンモニアとして利用している。
【0020】
反応容器3a内では、多量の金属水素化物(MH)と液体アンモニア(NH3)とが反応することで、下記化学式に示すように、高圧の水素ガスが発生する。
MH(固体)+NH3(液体)→MNH2(固体)+H2(気体)
ここで、Mは、一価の軽金属元素である。
【0021】
上記反応は、アンモニアが液体状態を維持する温度領域、つまりアンモニアの融点以上かつ沸点以下の温度領域で行われる。なお、常圧におけるアンモニアの融点は−77.7℃、沸点は−33.4℃であるので、常圧下における前記温度領域は、−77.7℃〜−33.4℃となる。しかし、上記反応に用いる液体アンモニアは、エンジン本体1の燃焼室11aにも導入されるため、常圧下の温度領域ではアンモニアの温度が低過ぎて、エンジンの燃焼効率が低下することになる。そこで、本実施形態では、アンモニアが液体状態を維持する温度領域が常温付近となるように、反応容器3a内の圧力を高めている。具体的には、アンモニアは、8atmの圧力件下では常温付近である20℃で液化するので、反応容器3a内の圧力は、8atm以上に設定されている。
【0022】
上記反応に用いられる金属水素化物としては、例えば、一価の軽金属元素の金属水素化物である水素化リチウム(LiH)、水素化ナトリウム(NaH)、又は水素化カリウム(KH)を好適に用いることができる。上記反応では、全ての金属水素化物が液体アンモニアと反応することで水素ガスが発生するようになっている。したがって、反応容器3a内に充填される金属水素化物の量を調節することにより、発生させる水素ガスの圧力を設定することができる。本実施形態では、発生させる水素ガスの圧力は、シリンダ11のピストン11dが圧縮上死点(TDC:Top Dead Center)に達したときの燃焼室11a内の圧力以上となるように設定されている。
【0023】
水素ガス供給装置4は、例えばインジェクタからなり、シリンダヘッド11cの略中央部において先端部を燃焼室11a内に配置させた状態で固定されている。水素ガス供給装置4の先端部には、点火部14aの近傍に配置された噴射部4aが設けられている。噴射部4aは、水素ガス生成装置3で発生した高圧の水素ガスを、点火部14aにより発生した火花に向けて噴射するようになっている。
【0024】
以上、本実施形態のアンモニアエンジンによれば、水素ガス生成装置3により発生した高圧の水素ガスを、高圧下の燃焼室11a内に供給することができるため、燃焼室11a内の液体アンモニアは可燃性ガスである水素ガスとともに燃焼することで、液体アンモニアの燃焼効率を向上させることができる。
【0025】
水素ガス供給装置4は、点火部14aの近傍に配置された噴射部4aから当該点火部14aで発生した火花に向けて高圧の水素ガスを噴射するため、点火部14aの近傍において液体アンモニアを水素ガスとともに燃焼させることができる。これにより、水素ガスを燃焼室11aに充満させる必要がないので、液体アンモニアの燃焼に必要な水素ガスの供給量を低減することができる。
【0026】
また、水素ガス生成装置3において発生させる水素ガスの圧力は、シリンダ11のピストン11dが圧縮上死点に達したときの燃焼室11a内の圧力以上に設定されているため、シリンダ11のピストン11dが圧縮上死点に達するときに燃焼室11a内に水素ガスを供給することができる。これにより、ポンピングロスを効果的に低減することができ、アンモニアエンジンの熱効率を向上させることができる。
【0027】
また、水素ガス生成装置3は、シリンダ11の燃焼室11a内に供給する液体アンモニアを利用して高圧の水素ガスを発生させているため、高圧の水素ガスを生成するための専用の液体アンモニアを別途用意する必要がない。これにより、エンジン全体の構成を簡素化することができる。
【0028】
上述の実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は特許請求の範囲によって規定され、そこに記載された構成と均等の範囲内のすべての変更は本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、上述の実施形態における水素ガス生成装置3は、エンジン本体1の燃焼室11a内に供給される液体アンモニアを利用しているが、専用の液体アンモニアを用いるようにしても良い。また、エンジン本体1のアンモニア供給装置12は、シリンダ11に設けられているが、吸気管13aに設けられていても良い。また、上記実施形態のアンモニアエンジンは、液体アンモニアを燃料としているが、気体アンモニアを燃料としても良い。
【符号の説明】
【0029】
3 水素ガス生成装置
4 水素ガス供給装置
4a 噴射部
11 シリンダ
11a 燃焼室
11d ピストン
14a 点火部
図1