【実施例】
【0073】
以下、鋼線材を対象として、用いた場合について、実施例を比較例と共に挙げることによって、本発明のその効果とともにさらに具体的な説明をする。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0074】
(1−1)水系潤滑皮膜処理剤としての上層皮膜処理剤及び下層皮膜処理剤の製造
以下に示す各成分を表1に示す組み合わせ及び割合にて実施例1〜12及び比較例2〜17の水系潤滑皮膜処理剤として上層皮膜処理剤及び下層皮膜処理剤を調製した。実施例1〜12及び比較例3〜17の上層皮膜処理剤には液安定性を高めるため、水酸化リチウムを液中1%の濃度で加えた。なお、比較例18はリン酸塩/石鹸処理であり、伸線パウダーは使用していない。
【0075】
A.上層皮膜処理剤
<水溶性ケイ酸塩>
(A−1)メタケイ酸ナトリウム
(A−2)3号ケイ酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2 n=3)
(A−3)ケイ酸リチウム(Li
2O・nSiO
2 n=3.5)
<水溶性タングステン酸塩>
(B―1)タングステン酸アンモニウム
(B−2)タングステン酸ナトリウム
(B−3)タングステン酸カリウム
<樹脂>
(C−1)ポリビニルアルコール(平均分子量約50,000)
(C−2)イソブチレン・無水マレイン酸共重合体のナトリウム中和塩(平均分子量約165,000)
<滑剤>
(D−1)ポリエチレンワックス(平均粒子径5μm)
(D−2)エチレンビスステアリン酸アマイド
<水溶性塩>
(E−1)メタホウ酸ナトリウム
(E−2)酒石酸ナトリウム
(E−3)硫酸ナトリウム
(E−4)ピロリン酸ナトリウム
B.下層皮膜処理剤
<ジルコニウム下層皮膜>
(F)ジルコニウム化成処理剤(パルシード(登録商標)1500、日本パーカライジング(株)製)
<ジルコニウム下層皮膜以外の下層皮膜>
(G−1)2号ケイ酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2 n=2.5)
(G−2)リン酸亜鉛
【0076】
【表1】
【0077】
(1−2)皮膜分析
下層皮膜及び上層皮膜の形成処理を施したφ3.2mm×1mの試験材を、60℃に加温した2%の水酸化ナトリウム水溶液に2分浸漬し、上層皮膜を剥離した。その後、剥離に用いた水酸化ナトリウム水溶液中に含まれるケイ素とタングステンの量を誘導結合プラズマ(ICP)で測定し、タングステン/ケイ素の質量比の値を調べた。その後、60℃に加温した2%の水酸化ナトリウム水溶液に2分浸漬し、余分な上層皮膜を剥離した。剥離した試験材に対し、蛍光X線分析(XRF)を実施することでジルコニウム皮膜の膜厚を測定した。実測した値は表1に記載する。また、断面SEM分析を実施することで下層皮膜の厚さを測定し、膜厚を測定した。
【0078】
(1−3)皮膜処理
以下に皮膜処理方法を示す。なお、被処理材はφ3.2mmの鋼線材であるが、結束部における潤滑皮膜の薄膜化を再現するため、プラスチック製の結束バンドで束ねた状態で処理を行った。
【0079】
<実施例1〜12及び比較例3〜15の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード(登録商標)1500、日本パーカライジング(株)製)濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬処理 浸漬時間は皮膜量に応じて適宜調整
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(g)上層皮膜処理:(1−1)で製造した上層皮膜処理剤、温度60℃、浸漬1分
(h)乾燥:100℃、10分
【0080】
<比較例1の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)純水洗:脱イオン水、常温、浸漬30℃
(f)乾燥:100℃、10分
【0081】
<比較例2の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード(登録商標)1500、日本パーカライジング(株)製)濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬処理 浸漬時間は皮膜量に応じて適宜調整
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30℃
(g)純水洗:脱イオン水、常温、浸漬30℃
(h)乾燥:100℃、10分
【0082】
<比較例16(ケイ酸塩下層皮膜、上層皮膜処理)>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販の下地処理剤(プレパレン(登録商標)5557、日本パーカライジング(株)製)濃度2.5g/L、温度70℃、浸漬1分
(f)粗乾燥:常温、60秒
(g)上層皮膜処理:(1−1)で製造した上層皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
(h)乾燥:100℃、10分
【0083】
<比較例17(リン酸亜鉛下層皮膜、上層皮膜処理)の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド(登録商標)3696X、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬10分
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(g)上層皮膜処理:(1−1)で製造した上層皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
(h)乾燥:100℃、10分
【0084】
<比較例18(リン酸塩/石鹸処理)の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド(登録商標)3696X、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬10分
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(g)石鹸処理:市販の反応石鹸潤滑剤(パルーブ(登録商標)235、日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、温度85℃、浸漬3分
(h)乾燥:100℃、10分
(i)乾燥皮膜量:10g/m
2
【0085】
(1−4)評価試験
(1−4−1)加工性(伸線性)試験
φ3.2mm×20mの試験材をφ2.76のダイスを通して引抜くことで伸線加工を行った。乾式潤滑剤として松浦工業(株)のミサイルC40を使用した。材料が引抜かれる直前のダイスボックス内に乾式潤滑剤を入れ、材料に自然付着するようにした。伸線後の試験材の焼付きと潤滑皮膜の残存量から評価を行った。
評価基準
◎:焼付きがなく、金属光沢が認められない。全体的に皮膜が多く残存している。
○:焼付きはなく、金属光沢も認められないが◎より残存皮膜がやや少ない。
△:焼付きはないが、皮膜残存量がやや少なく、一部で金属光沢が認められる。
▲:焼付きはないが、多数の部位で金属光沢が認められる。
×:焼付きが発生した。
【0086】
(1−4−2)耐食性(長期防錆性)試験
上記伸線性試験を行った線材を夏場に開放雰囲気で屋内に2週間または4ヶ月間曝露して錆の発生具合を観察した。発錆面積が大きいほど耐食性に劣ると判断した。
評価基準
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる(錆面積5%未満)
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる(錆面積5%以上15%未満)
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等(錆面積15%以上25%未満)
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る(錆面積25%以上35%未満)
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る(錆面積35%以上)
【0087】
試験結果を表2に示す。実施例はどれも皮膜が多く残っており、加工性が良好であり、耐食性も良好な結果となった。比較例1は本発明と同様の上層皮膜及び下層皮膜を使用していない水準であるが、伸線時に焼付きが発生した。比較例2はジルコニウム皮膜のみで試験した水準であるが、比較例1と同様に焼付きが発生したため加工性は不十分であり、耐食性も不十分であった。比較例3、4はジルコニウム皮膜の膜厚を本発明の範囲外で使用したものである。ジルコニウム皮膜の膜厚が薄すぎる比較例3では耐食性が低下し、ジルコニウム皮膜の膜厚が厚すぎる比較例4では加工性が低下する傾向にあった。比較例5〜12はケイ素とタングステンの質量比率を本発明の範囲外に設定したものであるが、伸線後の皮膜残存量が少ないため加工性が劣り、耐食性も劣っていた。比較例13〜15は水溶性無機塩として水溶性ケイ酸塩、水溶性タングステン酸塩以外の成分を含有させたものであるが、伸線後の皮膜残存量が少ないため加工性が劣り、耐食性も劣っていた。比較例16は下層皮膜として水溶性ケイ酸塩の皮膜を塗布したものであるが、実施例ほど高い耐食性を得ることができなかった。比較例17は下層皮膜としてリン酸塩の皮膜を形成させたものである。加工性、耐食性は実施例と同等レベルであるが、この皮膜はリンを含有しているため、前述したようなボルト等の浸リンの問題があるため好ましくない。比較例18のリン酸塩皮膜に反応石けん処理を行ったものは、比較例17と同様にボルト等の浸リンの問題もあり、リン酸塩皮膜は好ましくない。浸リンに関しては比較例12、13のように水溶性塩としてリン酸塩を含んだ場合も同様である。
また、材料同士を結束バンドで束ねて、束ねた部分で水系潤滑皮膜が薄くなってしまった場合にでも高い耐食性を付与することができる。
【0088】
【表2】
【0089】
鋼線を対象としての、実施例を比較例と共に挙げることによって、本発明のその効果と共にさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0090】
(2−1)水系潤滑皮膜処理剤としての上層皮膜処理剤物及び下層皮膜処理剤の製造
以下に示す各成分を表3に示す組み合わせ及び割合にて実施例13〜29および比較例19〜35の上層皮膜処理剤及び下層皮膜処理剤を調製した。なお、比較例36はリン酸塩/石鹸処理である。
【0091】
A.上層皮膜処理剤
<水溶性ケイ酸塩>
(A−1)メタケイ酸ナトリウム
(A−2)3号ケイ酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2 n=3)
(A−3)ケイ酸リチウム(Li
2O・nSiO
2 n=3.5)
<水溶性タングステン酸塩>
(B―1)タングステン酸アンモニウム
(B−2)タングステン酸ナトリウム
(B−3)タングステン酸カリウム
<樹脂>
(C−1)ポリビニルアルコール(平均分子量約50,000)
(C−2)イソブチレン・無水マレイン酸共重合体のナトリウム中和塩(平均分子量約165,000)
(C−3)カルボキシメチルセルロースナトリウム(平均分子量約30,000)
(C−4)水系ノニオン性ウレタン樹脂エマルジョン
<滑剤>
(D−1)アニオン性ポリエチレンワックス(平均粒子径5μm)
(D−2)エチレンビスステアリン酸アマイド
(D−3)ステアリン酸カルシウム
(D−4)ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン(平均粒子径0.2μm)
<水溶性塩>
(E−1)メタホウ酸ナトリウム
(E−2)酒石酸ナトリウム
(E−3)硫酸ナトリウム
(E−4)ピロリン酸ナトリウム
B.下層皮膜処理剤
<ジルコニウム下層皮膜>
(F)ジルコニウム化成処理剤(パルシード(登録商標)1500、日本パーカライジング(株)製)
<ジルコニウム下層皮膜以外の下層皮膜>
(G−1)2号ケイ酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2 n=2.5)
(G−2)リン酸亜鉛
【0092】
【表3】
【0093】
(2−2)皮膜分析
SPCC−SD材に下層皮膜及び上層皮膜の形成処理を行い、直接蛍光X線分析(XRF)で表面のケイ素とタングステンの量を測定し、タングステン/ケイ素の質量比の値を調べた。その後、60℃に加温した2%の水酸化ナトリウム水溶液に2分浸漬し、上層皮膜を剥離した。上層皮膜を剥離した試験材に対し、蛍光X線分析(XRF)を実施することでジルコニウム皮膜の膜厚を測定した。実測した値は表3に記載する。XRFから測定された膜厚は、断面SEM分析を実施することで直接ジルコニウム皮膜の厚さを測定した結果と整合している。
【0094】
(2−3)皮膜処理
<実施例13〜29及び比較例20〜33の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)E6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(c)酸洗:17.5%塩酸、常温、浸漬20分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e)下層皮膜処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード(登録商標)1500、日本パーカライジング(株)製)濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬処理 浸漬時間は皮膜量に応じて適宜調整
(f)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(g)中和:市販の中和剤(プレパレン(登録商標)27、日本パーカライジング(株)製)
(h)上層皮膜処理:(2−1)で製造した上層皮膜処理剤、温度60℃、浸漬1分
(i)乾燥:100℃、10分
【0095】
<比較例19の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸 濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード(登録商標)1500、日本パーカライジング(株)製)濃度50g/L、温度45℃、pH4.0、浸漬処理、浸漬時間は皮膜量に応じて適宜調整
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30℃
(g)純水洗:脱イオン水、常温、浸漬30℃
(h)乾燥:100℃、10分
【0096】
<比較例34(ケイ酸塩下層皮膜、上層皮膜処理)>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販の下地処理剤(プレパレン(登録商標)5557、日本パーカライジング(株)製)濃度2.5g/L、温度70℃、浸漬1分
(f)粗乾燥:常温、60秒
(g)上層皮膜処理:(2−1)で製造した上層皮膜処理剤、温度60℃、浸漬1分
(h)乾燥:100℃、10分
【0097】
<比較例35(リン酸亜鉛下層皮膜、上層皮膜処理)の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)下層皮膜処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド(登録商標)3696X、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬10分
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(g)上層皮膜処理:(2−1)で製造した上層皮膜処理剤、温度60℃、浸漬1分
(h)乾燥:100℃、10分
【0098】
<比較例36(リン酸塩/石鹸処理)の前処理及び皮膜処理>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー(登録商標)6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(c)酸洗:塩酸、濃度17.5%、常温、浸漬10分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド(登録商標)3696X、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬7分
(f)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(g)石鹸処理:市販の反応石鹸潤滑剤(パルーブ(登録商標)235、日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、温度85℃、浸漬3分
(h)乾燥:100℃、10分
(i)乾燥皮膜量:10g/m
2
【0099】
(2−4)評価試験
(2−4−1)加工性(スパイク性)試験
鋼線の前方押し加工を想定した試験としてスパイク試験を行った。スパイク試験は特開平5−7969号の記載に準じて行った。試験後のスパイク高さと成形荷重にて潤滑性を評価した。スパイク高さが高い程、また、成形荷重が低いほど潤滑性に優れる。なお、上記文献によるとスパイク試験における面積拡大率は約10倍とされる。加工時の荷重とスパイク高さを測定することで皮膜の潤滑性を評価した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
評価基準
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る
【0100】
(2−4−2)加工性(据えこみ−ボールしごき性)試験
鋼線について、ボルトの頭部形成を想定した試験として据えこみ−ボールしごき試験を行った。据えこみ−ボールしごき試験は特開2013−215773号の記載に準じて行った。据えこみ−ボールしごき試験における面積拡大率は最大で150倍以上とされ、上記のスパイク試験と比較すると面積拡大率が非常に大きい。そのため、例えばフランジ付き六角ボルトの頭部を形成するような高い加工性が求められる加工を再現できる試験である。しごき加工面に入る焼付きの量を評価することで、皮膜の耐焼付性能を評価した。
評価用試験片:S10C球状化焼鈍材 14mmφ×32mm
ベアリングボール:10mmφ SUJ2
評価基準
しごき面全体の面積に対して、どれだけの面積が焼きついたかを評価した。
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る
【0101】
(2−4−3)耐食性(長期防錆性)評価
上記上層皮膜及び下層皮膜形成処理を行ったテストピースを夏場に開放雰囲気で屋内に2週間または4ヶ月間曝露して錆の発生具合を観察した。発錆面積が大きいほど耐食性に劣ると判断した。
テストピース: SPCC−SD 75mm×35mm×0.8mm
評価基準
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる(錆面積5%未満)
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる(錆面積5%以上15%未満)
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等(錆面積15%以上25%未満)
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る(錆面積25%以上35%未満)
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る(錆面積35%以上)
【0102】
試験結果を表4に示す。表4から明らかなように実施例は加工性(スパイク試験、ボールしごき試験)、耐食性(特に長期防錆性)が良好であった。比較例19はジルコニウム皮膜のみの皮膜であるが、加工性、耐食性が大きく劣る結果となった。比較例20、21はジルコニウム皮膜の膜厚を本発明の範囲外に設定したものである。比較例20は下層皮膜の膜厚を薄くしすぎた場合であるが、耐食性が劣る結果となった。比較例21は下層皮膜の膜厚を厚くしすぎた場合であるが、加工性が劣る結果となった。比較例22〜29はケイ素とタングステンの質量比率を本発明の範囲外に設定したものであるが、ボールしごき性と耐食性の結果が劣る傾向があった。比較例30〜33は水溶性無機塩として水溶性ケイ酸塩、水溶性タングステン酸塩以外の成分を含有させたものであるが、ボールしごき性と耐食性の結果が劣る傾向があった。比較例34は下層皮膜としてケイ酸塩の皮膜を塗布したものであるが、実施例ほど高い耐食性を得ることができなかった。比較例35は下層皮膜としてリン酸塩の皮膜を形成させたものである。加工性、耐食性は実施例と同等レベルであるが、この皮膜はリンを含有しているため、前述したようなボルト等の浸リンの問題があるため好ましくない。比較例36のリン酸塩皮膜に反応石けん処理を行ったものは、実施例よりも耐食性が劣るものであった。また、比較例35と同様にボルト等の浸リンの問題もあり、リン酸塩皮膜は好ましくない。浸リンに関しては比較例27、30のように水溶性塩としてリン酸塩を含んだ場合も同様である。
【0103】
【表4】
【0104】
以上の説明から明らかなように本発明の上層皮膜と下層皮膜を含む潤滑皮膜を有する鋼線材を用いると高い加工性と実用環境における十分な耐食性を両立することができる。したがって本発明は、産業上の利用価値が極めて大きい。