(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のグリーンシートを積層してグリーンシート積層体を得る積層工程と、前記グリーンシート積層体を焼成する焼成工程とを備える、空間部が形成された多層セラミック基板の製造方法であって、
前記積層工程は、
前記グリーンシート積層体を構成するための複数のグリーンシートを用意する第1の工程と、
前記第1の工程で用意した前記複数のグリーンシートの一部であって、前記グリーンシート積層体内で連続して配置される2枚以上のグリーンシートを重ね合わせた部分積層体について、厚み方向に第1の圧力にてプレプレスする工程と、前記第1の工程で用意した前記複数のグリーンシートの内の1枚について、厚み方向に前記第1の圧力にてプレプレスする工程と、の少なくとも一方の工程を含み、前記グリーンシート積層体を構成する全てのグリーンシートをプレプレスする第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記グリーンシート積層体を構成する全ての前記複数のグリーンシートを積層して、積層方向に第2の圧力にて本プレスを行ない、前記グリーンシート積層体を得る第3の工程と、
前記グリーンシートにおいて、該グリーンシートを厚み方向に貫通するビアホールを形成する第4の工程と、
前記ビアホールに導電性ペーストを充填する第5の工程と、
を備え、
前記第2の工程において、前記空間部を形成するための複数のグリーンシートから成る前記部分積層体をプレプレスする場合には、前記空間部を形成するための同じ形状の孔部および溝部の少なくとも一方を有するグリーンシート同士、あるいは、前記空間部を形成するための同じ形状の孔部および溝部の少なくとも一方を形成すべきグリーンシート同士を重ね合わせて、前記部分積層体を形成し、
前記第1の圧力は、前記第2の圧力以上の圧力であり、
前記第2の工程は、前記第5の工程の前に行なうことを特徴とする
多層セラミック基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.多層セラミック基板の概略構成:
図1は、本発明の一実施形態としての多層セラミック基板10の概略構成を示す断面模式図である。多層セラミック基板10は、コンピュータや通信機器等で用いられる高周波モジュールやICパッケージに用いられる回路基板であり、低温焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics)によって構成されている。多層セラミック基板10は、複数の絶縁層20が積層された多層構造を有している。
図1に示す多層セラミック基板10は、一例として8層(絶縁層20a〜20h)の絶縁層20を有しているが、絶縁層20の数は任意に設定可能である。なお、以下の説明では、多層セラミック基板10が備える絶縁層を総称するときには絶縁層20と呼び、個々の絶縁層を示すときには絶縁層20a〜20hとして区別する。
【0021】
絶縁層20は、ガラスに無機フィラーを添加した絶縁性セラミックス(低温焼成セラミックスの焼結体)から成る。用いるガラスおよび無機フィラーは、目標とする焼成温度や製造すべき基板の性質に応じて適宜選択すれば良い。ガラスとしては,例えば、ホウケイ酸系ガラス、ホウケイ酸鉛系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス等を用いることができる。無機フィラーとしては、アルミナ(Al
2O
3)、コージェライト、ムライト、マグネシア、スピネル、シリカ等を用いることができる。焼成温度を1000℃以下にするという観点から、ガラスとしてホウケイ酸系ガラスを用い、無機フィラーとしてアルミナを用いることが好ましい。
【0022】
各絶縁層20には、厚み方向に貫通するビアホール24が設けられており、各ビアホール24内にはビア導体26が配置されている。また、各絶縁層20の間および最外層の絶縁層20の表面には、配線パターンを構成する配線層22が配置されている。各層の配線層22同士は、ビア導体26を介して電気的に接続されている。
【0023】
ビア導体26は、金属粉末を含む導電性ペーストをビアホール24に充填することにより形成される。また、配線層22は、導電性ペーストを用いて絶縁層20上に所定の配線パターンを印刷することにより形成される。同時焼成法によってビア導体26、配線層22および絶縁層20を形成する場合、導電性ペースト中の金属は、絶縁層20の焼成温度よりも高融点である必要がある。導電性ペースト中に含まれる金属としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)およびそれらの合金から選択される金属を用いることができる。ビア導体26を形成するための導電性ペーストと、配線層22を形成するための導電性ペーストとの組成は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
多層セラミック基板10には、キャビティ30および中空部34,36が形成されている。キャビティ30は、半導体LSIやチップコンデンサなどのチップ部品を実装するために多層セラミック基板10の表面に設けられた凹部であり、多層セラミック基板10の最外層(絶縁層20a)において全面が開口している。中空部34,36は、素子の実装用あるいは流体の流路として多層セラミック基板内部に設けられた空隙である。中空部34,36は、中空部34,36となる空隙が設けられた絶縁層(絶縁層20d,20eまたは絶縁層20g)に隣接して配置された一対の絶縁層(絶縁層20c,20fまたは絶縁層20f、20h)によって壁面(上面および下面)が形成されている。以下の説明では、多層セラミック基板10の表面に形成されるキャビティと、内部に形成される中空部とを合わせて、空間部と呼ぶ。
【0025】
上記空間部は、多層セラミック基板10を構成する絶縁層20に設けた孔部または溝部によって形成される。孔部とは、絶縁層20の外周から離間した閉じた外周を有する形状を指す。また、溝部とは、一部が絶縁層20の外周で開口する形状を指す。また、上記空間部は、1層の絶縁層20に設けた孔部または溝部によって形成されていてもよく、連続して配置される複数の絶縁層20において積層方向に重なる領域に設けられた孔部または溝部によって形成されていてもよい。
図1では、キャビティ30は、1層の絶縁層20aに設けた孔部によって形成されており、中空部34は、2層の絶縁層20d,20eに設けた孔部によって形成されており、中空部36は、1層の絶縁層20gに設けた溝部によって形成されている。
【0026】
B.多層セラミック基板の製造方法:
図2は、多層セラミック基板10の製造方法を示す工程図である。多層セラミック基板10を製造する際には、まず、絶縁層20を形成するための複数のグリーンシートを用意する(ステップS100)。このステップS100が、課題を解決するための手段に記載した第1の工程に相当する。
【0027】
グリーンシートは、セラミック材料(絶縁層20の原料として既述したガラスおよび無機フィラー)に、バインダ、可塑剤、および溶剤を混合したセラミックスラリーを、シート状に成形することによって作製される。バインダとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等から選択される化合物を用いることができる。可塑剤としては、例えば、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(フタル酸ジオクチル、以下、DOPとも呼ぶ)、フタル酸ジブチル等から選択される化合物を用いることができる。溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、アセトン、トルエン等から選択される化合物を用いることができる。グリーンシートの成形は、例えばドクターブレード法やカレンダーロール法により行なうことができる。
【0028】
グリーンシートを用意した後、これらのグリーンシートにビアホール24を形成する(ステップS110)。ビアホール24の形成は、例えば、パンチ加工(打ち抜き加工)、あるいはレーザによる穴あけ加工により行なうことができる。
【0029】
その後、グリーンシートにおいて、配線層22およびビア導体26となる導電性ペーストを配置する(ステップS120)。このステップS120における配線層22を形成する工程が、課題を解決するための手段に記載した第
7の工程に相当する。導電性ペーストは、既述した金属から成る粉末に、結合剤や溶剤などを混合したものである。配線層22となる導電性ペーストの配置は、例えばスクリーン印刷によって行なうことができる。ビア導体26となる導電性ペーストの配置は、例えば、穴埋め印刷によって行なうことができる。
【0030】
グリーンシートに導電性ペーストを配置した後、複数のグリーンシートをグループ分けし、同じグループに分けられたグリーンシートを積層して部分積層体を形成する(ステップS130)。ここで、グリーンシートのグループ分けとは、多層セラミック基板において隣接して配置される絶縁層となるグリーンシートであって、同じ空間部を形成するための同様の孔部および/または溝部が設けられたグリーンシート同士をまとめることをいう。ステップS130では、このようにして同じグループに分けられた複数のグリーンシート同士を、孔部および/または溝部を位置合わせしつつ、重ね合わせる。
【0031】
以下の説明では、多層セラミック基板10を構成する各絶縁層20となる各々のグリーンシートにも、絶縁層と同じ参照番号を付すこととする。
図1を参照すると、キャビティ30となる孔部を有するグリーンシート20aは、1枚で1つのグループを形成する。中空部34となる孔部を有するグリーンシート20d,20eは、2枚で1つのグループを形成し、中空部36となる溝部を有するグリーンシート20gは、1枚で1つのグループを形成する。空間部が形成されず連続して積層されるグリーンシート20b,20cは、2枚で1つのグループを形成し、空間部が形成されないグリーンシート20fとグリーンシート20hとは、それぞれ1枚で1つのグループを形成する。
【0032】
図3は、グループ分けされたグリーンシートの様子を示す平面図である。
図3(A)は、グリーンシート20d,20eから成る部分積層体を表わす。この部分積層体では、中空部34を形成するための孔部134が位置合わせされている。
図3(B)は、グリーンシート20gを表わす。このグリーンシート20gには、中空部36を形成するための溝部136の他に、さらに、他の中空部を形成するための溝部138が形成されている。なお、
図3では、
図1に示す断面に対応する位置を、C−C断面として示している。
【0033】
部分積層体を形成した後、グループ分けした1枚または複数のグリーンシートごとに、プレプレスを行なう(ステップS140)。このステップS140が、課題を解決するための手段に記載した第2の工程に相当する。プレプレスの工程では、後述する本プレスの工程に先立って、本プレスにおけるプレス圧以上の第1の圧力で、厚み方向(積層方向)にプレスを行なう。プレプレスは、機械的な加圧により、各々のグリーンシートの密度(セラミック材料の密度)を高める工程である。
【0034】
このようなプレス工程では、グリーンシートに含まれるバインダ(樹脂)を軟化させる必要がなく、特段の加熱を行なう必要はない。そのため、プレプレスの工程は、例えば常温(25℃)以上の温度にて行なうことができる。なお、グリーンシート中の溶剤が気化して失われると、グリーンシートがシートとしての形状を維持し難くなるため、プレプレスは、グリーンシート中の溶剤が実質的に気化しない温度にて行なうことが望ましい。そのため、プレプレスの温度は、グリーンシート中の溶剤の沸点に対して20℃以上低いことが望ましく、30℃以上低いことがより好ましく、45℃以上低いことがさらに好ましい。
【0035】
プレプレスの後、プレプレスの際のグルーブごとに、孔部および/または溝部を形成する(ステップS150)。このステップS150が、課題を解決するための手段に記載した第
6の工程に相当する。孔部および/または溝部の形成は、例えば、パンチ加工(打ち抜き加工)、あるいはレーザによる穴あけ加工により行なうことができる。このステップS150では、グループ分けしてプレプレスした1枚または複数のグリーンシートごとに、所定の位置において厚み方向に貫通する所定形状の貫通孔および/または貫通溝を形成することにより、孔部および/または溝部を形成する。
【0036】
孔部および/または溝部の形成の後、全てのグリーンシートを所定の順序で積層して、グリーンシート積層体を形成する(ステップS160)。そして、グリーンシート積層体全体に対して、既述したプレプレスにおける第1の圧力以下の第2の圧力で、厚み方向に本プレスを行なう(ステップS170)。本プレスは、例えば40〜80℃で行なうことができる。このステップS170が、課題を解決するための手段に記載した第3の工程に相当する。この本プレスの工程では、隣り合うグリーンシート同士を熱圧着によって接合するため、グリーンシートに含まれるバインダが軟化する温度に加熱しつつプレスを行なうこととしてもよい。ここで、上記本プレス時の温度、および既述したプレプレス時の温度とは、プレス機の金型の温度を指す。なお、この本プレスの工程は、グリーンシートに含まれる溶剤が気化する温度で行なうことができる。
【0037】
本プレスの後、グリーンシート積層体を焼成する(ステップS180)。焼成時の雰囲気は、特に限定されない。焼成温度は、例えば800℃〜1000℃とすることができる。ステップS180の焼成工程により、グリーンシートを焼成すると共に、ステップS120で配置した導電性ペーストを焼成して、絶縁層20と、配線層22およびビア導体26とを同時焼結することができる。
【0038】
焼成の後、仕上げ工程を行ない(ステップS190)、多層セラミック基板10を完成する。仕上げ工程とは、例えば、グリーンシート積層体の焼成により得られた焼結体を研磨切削加工によって成形する工程、焼結体の表面に露出した配線層22およびビア導体26の少なくとも一部にメッキを施す工程、焼結体の表面に露出した配線層22に電気的に接続される電極および/または抵抗体を設ける工程、あるいは、ICやチップ部品などをキャビティ30等に配置して、多層セラミック基板に形成された回路に接続する工程等を含むことができる。
【0039】
以上のように構成された本実施形態の多層セラミック基板の製造方法によれば、本プレスに先立って、本プレス以上の圧力でプレプレスを行なう。このように本プレスに先立って各グリーンシートの密度を高めることにより、本プレスの後に、キャビティを形成するための孔部および中空部を形成するための溝部と積層方向に重なる領域において、グリーンシートの密度が局所的に低くなることを抑制できる。そして、焼成の際に、上記領域の収縮率が局所的に高まることを抑制できる。その結果、多層セラミック基板において、空間部の近傍でクラックや変形が生じることを抑えることができる。
【0040】
すなわち、本実施形態では、ステップS130において、隣接して配置される絶縁層となる複数のグリーンシートであって、同じ空間部を形成するための同じ形状の孔部および/または溝部を形成すべきグリーンシート同士をまとめて部分積層体を形成して、プレプレスによって全体を一様に高密度化している。そのため、その後さらにステップS170でグリーンシート積層体全体に対して本プレスを行なっても、孔部および/または溝部に起因して面圧が不均一になること、およびグリーンシートにおける密度が局所的に低くなることを抑制できる。
【0041】
なお、
図2とは異なり、プレプレスに先立って個々のグリーンシートについて孔部および/または溝部を形成し、その後、同じ空間部を形成するための同じ形状の孔部および/または溝部を有するグリーンシート同士を位置合わせしつつ積層して部分積層体を形成して、プレプレスを行なってもよい(例えば、後述する
図5参照)。このような構成としても、プレプレスの対象となる部分積層体を構成するグリーンシートの形状(孔部および/または溝部の形状、および位置)が同じであるため、プレプレス時には一様にグリーンシートの密度を高めることができる。そのため、その後の本プレスの工程の後に、孔部および/または溝部に起因してグリーンシートにおける密度が局所的に低くなることを抑制できる。
【0042】
なお、プレプレスの対象が、1枚のグリーンシートか部分積層体かに関わらず、本実施形態のように孔部および/または溝部の形成に先立ってプレプレスを行なう場合には、孔部および/または溝部に起因して孔部および/または溝部の近傍でプレプレス時にグリーンシートが変形することを抑制できるという観点から好ましい。
【0043】
なお、本実施形態のステップS130では、同じ部分積層体を構成する複数のグリーンシートにおいて、ビアホール24の位置は積層方向に一致していてもよく、不一致であってもよい。いずれの場合であっても、空間部を形成するための孔部および/または溝部に起因するプレス時の面圧の不均一に起因する不都合を抑える同様の効果が得られる。
【0044】
さらに、本実施形態では、隣接して配置される絶縁層となる複数のグリーンシートから成る部分積層体ごとにプレプレスを行なうため、各グリーンシートを1枚ずつプレプレスする場合に比べて、プレプレスに係る製造工程を簡素化することができる。ただし、各グリーンシートを1枚ずつプレプレスしても、本プレスに先立ってグリーンシート全体の密度を高めることによる同様の効果を得ることができる。また、各グリーンシートを1枚ずつプレプレスする場合には、プレプレスの工程の後に、各グリーンシートについて配線層22となる導電性ペーストを配置する工程を行なってもよい(例えば、後述する
図4参照)。
【0045】
ステップS130でグリーンシートをグループ分けしてプレプレスする場合に、各グループにおけるプレプレスの圧力(第1の圧力)は、全て同じである必要はない。例えば、孔部および/または溝部の存在以外の何らかの要因により焼成後の多層セラミック基板で部分的に反りが発生する可能性がある場合には、グループごとにプレプレスの圧力(グリーンシートの密度)を異ならせることにより、グループごとに内部応力を異ならせ、上記反りを抑制することとしてもよい。
【0046】
また、本実施形態によれば、本プレスに先立って本プレス以上の圧力でプレプレスすることにより、グリーンシートに設けた孔部および/または溝部に起因するグリーンシートの密度の不均一を抑えているため、プレス時の面圧を均一化するために、孔部および/または溝部内に、焼失性のシート等を配置する必要がない。そのため、焼成後に、焼失性のシートに起因するカーボンが空間内に残留する等の不都合を抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態では、ステップS120で配線層22を形成した後に、ステップS150において孔部および/または溝部を形成している。そのため、所定の絶縁層20の表面において配線パターン中で空間部が開口する場合には、空間部の開口の際まで確実に配線層22を設けることができる。また、配線層22を形成した後に孔部および/または溝部を形成することにより、孔部および/または溝部が、配線層22を形成する工程(印刷工程)において邪魔になることがない。
【0048】
なお、例えば配線パターンが孔部および/または溝部から離間している場合や、配線層22の形成に先立って孔部および/または溝部を形成することによる上記した不都合が許容できる場合には、配線層22の形成に先立って孔部および/または溝部を形成してもよい。このような構成とすれば、例えば、孔部および/または溝部をレーザを用いた穴開け加工により行なう場合には、配線層22がレーザを反射することに起因する穴開け加工における不都合を抑えることができる。
【0049】
C.他の実施形態:
以下に、各工程の順序が
図2とは異なる他の実施形態を示す。
【0050】
図4は、第1の他の実施形態としての多層セラミック基板の製造方法を示す工程図である。
図4の製造方法によっても、
図1に示した多層セラミック基板10と同様の多層セラミック基板が製造されるため、
図1と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明は省略する。
【0051】
図4に示す多層セラミック基板の製造方法では、まず、絶縁層20を形成するための複数のグリーンシートを用意する(ステップS200)。この工程は、
図2におけるステップS100と同様の工程である。
【0052】
その後、用意したグリーンシート1枚ずつについて、プレプレスを行なう(ステップS210)。この工程は、全てのグリーンシートについて1枚ずつプレプレスを行なうことを除いては、
図2におけるステップS140と同様の工程である。
【0053】
各々のグリーンシートについてプレプレスを行なった後に、各々のグリーンシートについて、必要な箇所にビアホール24を形成すると共に、空間部を形成すべき位置に孔部および/または溝部を形成する(ステップS220)。この工程は、
図2におけるステップS110およびS150を同時に行なう工程である。ビアホールと、孔部および/または溝部の形成は、例えば、パンチ加工(打ち抜き加工)、あるいはレーザによる穴あけ加工により、同時に行なうことができる。なお、ステップS220においてビアホール24を形成する工程が、課題を解決するための手段に記載した第
4の工程に相当する。
【0054】
孔部および/または溝部とビアホールとを形成した後、各々のグリーンシートに対して、配線層22およびビア導体26となる導電性ペーストを配置する(ステップS230)。この工程は、
図2におけるステップS120と同様の工程である。なお、ステップS230においてビア導体26となる導電性ペーストを配置する工程が、課題を解決するための手段に記載した第
5の工程に相当する。
【0055】
その後、全てのグリーンシートを位置合わせしつつ所定の順序で積層してグリーンシート積層体を形成し(ステップS240)、グリーンシート積層体を本プレスし(ステップS250)、本プレスの後にグリーンシート積層体を焼成する(ステップS260)。焼結の後、仕上げ工程を行ない(ステップS270)、多層セラミック基板10を完成する。このステップS240〜S270は、
図2におけるステップS160〜S190と同様の工程である。
【0056】
図5は、第2の他の実施形態としての多層セラミック基板の製造方法を示す工程図である。
図5の製造方法によっても、
図1に示した多層セラミック基板10と同様の多層セラミック基板が製造されるため、
図1と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明は省略する。
【0057】
図5に示す多層セラミック基板の製造方法では、まず、絶縁層20を形成するための複数のグリーンシートを用意する(ステップS300)。この工程は、
図2におけるステップS100と同様の工程である。
【0058】
その後、用意したグリーンシートの各々について、配線層22となる導電性ペーストを配置する(ステップS310)。この工程は、
図2におけるステップS120において、配線層22となる導電性ペーストを配置する工程と同様の工程である。
【0059】
配線層22となる導電性ペーストを配置した後、複数のグリーンシートをグループ分けして、同じグループに分けられたグリーンシートを積層して部分積層体を形成する(ステップS320)。ステップS320では、積層方向に一致する位置に、空間部を形成するための孔部および/または溝部と、ビアホール24とが形成されるべきグリーンシートが、同じグルーブに分けられる。
【0060】
部分積層体を形成した後、グループ分けした1枚または複数のグリーンシートごとに、プレプレスを行なう(ステップS330)。この工程は、
図2におけるステップS140と同様の工程である。
【0061】
プレプレスを行なった後に、プレプレスを行なった1枚または複数のグリーンシートごとに、必要な箇所にビアホール24を形成すると共に、空間部を形成すべき位置に孔部および/または溝部を形成する(ステップS340)。この工程は、
図2におけるステップS110およびS150を同時に行なう工程であり、
図4のステップS220と同様に、パンチ加工(打ち抜き加工)、あるいはレーザによる穴あけ加工により行なうことができる。
図4のステップS220あるいは
図5のステップS340において、パンチ加工を採用する場合には、孔部および/または溝部とビアホールとの間で共通する金型を用いることで、製造工程をより簡素化できる。
【0062】
孔部および/または溝部とビアホールとを形成した後、各々のグリーンシートに対して、ビア導体26となる導電性ペーストを配置する(ステップS350)。この工程は、
図2におけるステップS120におけるビア導体26となる導電性ペーストを配置する工程と同様の工程である。
【0063】
その後、全てのグリーンシートを位置合わせしつつ所定の順序で積層してグリーンシート積層体を形成し(ステップS360)、グリーンシート積層体を本プレスし(ステップS370)、本プレスの後にグリーンシート積層体を焼成する(ステップS380)。焼結の後、仕上げ工程を行ない(ステップS390)、多層セラミック基板10を完成する。このステップS360〜S390は、
図2におけるステップS160〜S190と同様の工程である。
【0064】
図6は、第3の他の実施形態としての多層セラミック基板の製造方法を示す工程図である。
図6の製造方法によっても、
図1に示した多層セラミック基板10と同様の多層セラミック基板が製造されるため、
図1と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明は省略する。
【0065】
図6に示す多層セラミック基板の製造方法では、まず、絶縁層20を形成するための複数のグリーンシートを用意する(ステップS400)。この工程は、
図2におけるステップS100と同様の工程である。
【0066】
その後、用意したグリーンシート1枚ずつについて、プレプレスを行なう(ステップS410)。この工程は、全てのグリーンシートについて1枚ずつプレプレスを行なうことを除いては、
図2におけるステップS140と同様の工程である。プレプレスの後に、各々のグリーンシートについて、必要な箇所にビアホール24を形成し(ステップS420)、配線層22およびビア導体26となる導電性ペーストを配置する(ステップS430)。このステップS420、S430は、それぞれ、
図2におけるステップS110、S120と同様の工程である。なお、ステップS420においてビアホール24を形成する工程が、課題を解決するための手段に記載した第
4の工程に相当し、ステップS430においてビア導体26となる導電性ペーストを配置する工程が、課題を解決するための手段に記載した第
5の工程に相当する。
【0067】
その後、グリーンシートにおける空間部を形成すべき位置に、孔部および/または溝部を形成する(ステップS440)。この工程は、個々のグリーンシートごとに行なってもよく、また、複数のグリーンシートを既述したようにグループ分けして、同じグループに分けられたグリーンシートから成る部分積層体ごとに行なってもよい。
【0068】
その後、全てのグリーンシートを位置合わせしつつ所定の順序で積層してグリーンシート積層体を形成し(ステップS450)、グリーンシート積層体を本プレスし(ステップS460)、本プレスの後にグリーンシート積層体を焼成する(ステップS470)。焼結の後、仕上げ工程を行ない(ステップS480)、多層セラミック基板10を完成する。このステップS450〜S480は、
図2におけるステップS160〜S190と同様の工程である。
【0069】
以上のように構成された第1の他の実施形態ないし第3の他の実施形態の多層セラミック基板の製造方法によれば、本プレスに先立ってプレプレスを行なうことで、既述した実施形態の製造方法と同様の効果が得られる。さらに、ビア導体26となる導電性ペーストをビアホール24内に充填する前にプレプレスを行なうため、プレプレスの際に、ビアホール24を含む領域で局所的に面圧が低くなり、密度の高まりが不十分となることを抑えられる。そのため、本プレスの後に、ビア導体となる導電性ペーストが充填されたビアホールの近傍の領域の密度が局所的に低くなることを抑制できる。そして、焼成の際に、上記領域の収縮率が局所的に高まることを抑えることができる。その結果、多層セラミック基板において、ビア導体の近傍でクラックや変形(空隙の形成)が生じることを抑えることができる。また、第1の他の実施形態および第2の他の実施形態の多層セラミック基板の製造方法によれば、ビアホール24と孔部および/または溝部とを同じ工程で形成するため、多層セラミック基板の製造工程を簡素化できる。
【0070】
さらに、第1の他の実施形態ないし第3の他の実施形態の多層セラミック基板の製造方法によれば、プレプレスの後にビアホール24を形成しているため、プレプレスの際に、空隙であるビアホール24に起因して面圧が不均一になり、グリーンシートにおける密度の高まりが局所的に不十分になることを抑制できる。なお、ビアホール24に起因する面圧の不均一が許容できる場合には、ビアホール24の形成は、プレプレスに先立って行ない、ビアホール24への導電性ペーストの充填はプレプレスの後に行なってもよい。
【0071】
また、第2の他の実施形態および第3の他の実施形態の多層セラミック基板の製造方法によれば、空間部を形成するための孔部および/または溝部の形成を、配線層22となる導電性ペーストを配置した後に行なっている。そのため、孔部および/または溝部の際まで確実に配線層22を設けることが可能になると共に、配線層22の印刷の際に、孔部および/または溝部に起因して不都合が生じることを抑えられる。
【0072】
D.変形例:
・変形例1:
上記各実施形態では、多層セラミック基板10は、LTCC多層基板、すなわち、セラミック材料の体積の半分以上がガラスである多層基板としているが、HTCC(High Temperature Co-fired Ceramics)多層基板において本発明を適用してもよい。具体的には、セラミック材料中のガラスの含有率がより少ない多層セラミック基板、あるいは、セラミック材料中にガラス成分を実質的に含まない多層セラミック基板において、本発明を適用してもよい。
【0073】
・変形例2:
上記各実施形態では、本プレスの際に、また、プレプレスに先立って孔部および/または溝部が形成されている場合にはプレプレスの際にも、孔部および/または溝部が空間として存在する状態でプレスを行なった。これに対して、プレプレスあるいは本プレスに先立って、孔部および/または溝部内に空間充填材料を配置することとしてもよい。このような構成とすることで、プレス時のグリーンシートの変形を抑え、面圧を均一化する効果を高めることができる。なお、本プレス以上の圧力でプレプレスを行なうため、上記した空間充填材料を充填する場合であっても、空間充填材料の剛性を特に高めることなく、面圧が不均一になることに起因する不都合を十分に抑える効果を得ることが可能になる。そのため、空間充填材料に混合するカーボンの含有率を抑えること、あるいは、カーボンを混合しない空間充填材料を用いることが可能になり、焼成後の空間内におけるカーボンの残留に起因する不都合を抑制することができる。
【実施例】
【0074】
以下に本発明を適用した具体的な実施例を示すが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0075】
サンプル1〜サンプル11として、プレプレスおよび本プレスの圧力を種々に異ならせた多層セラミック基板を製造し、密度の不均一に起因するクラックや変形の発生の程度を調べた。
【0076】
[1]グリーンシートの材料:
(1)ガラス粉末:酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ホウ素(B
2O
3)を主成分とするホウケイ酸系ガラス粉末
(2)無機フィラー:アルミナ粉末(平均粒径3μm,比表面積1.8m
2/g)
(3)バインダ成分:アクリル樹脂
(4)可塑剤:DOP
(5)溶剤:メチルエチルケトン(MEK)
【0077】
[2]グリーンシートの製法:
(1)ホウケイ酸系ガラス粉末と、アルミナ粉末と、を体積比60:40となるように秤量して(総量1kg)、アルミナ製ポットに投入した。
(2)アルミナ製ポットに、さらに、アクリル樹脂(120g)と、MEKおよびDOP(所望のスラリー粘度とシート強度とを確保できる量)と、を投入した。
(3)アルミナ製ポットに投入された上記の材料を5時間混合してセラミックスラリーを得た。
(4)上記セラミックスラリーを用いて、ドクターブレード法により、厚み0.15mmのグリーンシートを作製した。
【0078】
[3]配線層用導電性ペーストの材料:
(1)銅粉末(平均粒径1.0μm)
(2)ホウケイ酸系ガラス(屈伏点700℃)
(3)エチルセルロース樹脂
(4)溶剤:ターピネオール
【0079】
[4]配線層用導電性ペーストの製法:
銅粉末100重量部に対してホウケイ酸系ガラス粉末5重量部を添加し、さらに、エチルセルロース樹脂とターピネオールとを加えて、3本ロールミルによって混練して作製した。
【0080】
[5]ビア導体用ペーストの材料:
(1)銅粉末(平均粒径2.0μm)
(2)ホウケイ酸系ガラス(屈伏点700℃)
(3)エチルセルロース樹脂
(4)溶剤:ターピネオール
【0081】
[6]ビア導体用ペーストの製法:
銅粉末100重量部に対してホウケイ酸系ガラス5重量部を添加し、さらに、エチルセルロース樹脂とターピネオールとを加えて、3本ロールミルによって混練して作製した。
【0082】
[7]多層基板の作製:
図4の製造方法に従い、6層の絶縁層20を有する多層セラミック基板であるサンプル1〜サンプル11の基板を作製した。ステップS210におけるプレプレスの圧力は、サンプル1は4.9MPa、サンプル2は9.8MPa、サンプル3は29.4MPa、サンプル4は49.0MPa、サンプル5は98.1MPa、サンプル6は117.7MPa、サンプル7は49.0PMa、サンプル8は98.1MPa、サンプル11は9.8MPaとした。また、プレプレス時の温度は、上記いずれのサンプルにおいても40℃とした。サンプル9および10は、プレプレスを行なわなかった。
【0083】
ステップS220では、全てのサンプルについて、同様の形状のビアホール、孔部、および溝部を設けた。ステップS240で全てのグリーンシートを積層する際には、孔部および溝部内に、焼失性の樹脂のみによって構成される空間充填材料を充填した。ステップS250における本プレスの圧力は、サンプル1〜6およびサンプル9は、4.9MPa、サンプル7〜8およびサンプル10〜11は、49.0MPaとした。また、本プレス時の温度は、いずれのサンプルにおいても60℃とした。ステップS260の焼成条件は、1000℃で30分とした。
【0084】
[8]空間部に係る評価:
各サンプルについて、積層方向(厚み方向)に平行な断面が露出するように研磨を行なった。この研磨は、各サンプルに形成した空間部が露出するまで続行し、露出した空間部を観察した。
【0085】
図7は、露出した空間部(キャビティ30)の様子を表わす模式図である。空間部における焼成後の欠陥は、露出した断面を100倍のマイクロスコープ(実体顕微鏡)で観察し、クラックの有無および変形の有無を目視により判断することで評価した。評価の際には、空間部が露出した位置においてクラックおよび変形が認められない場合には、クラックおよび変形が認められるまで100μm、500μmと研磨を進め、空間部の端部から最大1mmの距離まで研磨を行なった。
【0086】
クラックとは、空間部の底部の隅部(空間部の内壁面を構成するグリーンシートの積層面における、空間部で露出する領域の外周)に生じる亀裂である。具体的には、
図7に示す隅部A,Bにおける亀裂の有無を判断した。変形とは、空間部となる孔部および/または溝部を有する絶縁層に隣接する絶縁層における、空間部内に露出する積層面の変形を指す。変形の程度は、
図7に示すように、空間部の底部の隅部A,Bを結んだ直線と、変形した絶縁部の表面との距離が最も大きくなる部分の距離αにより判断した。この距離αが10μm以上のとき、空間部が変形したと判断した。なお、
図7ではキャビティの様子を示したが、中空部についても同様の評価を行なった。中空部の場合には、
図7のように底面だけでなく、上面についても隅部のクラックおよび変形の有無を判断した。
【0087】
[9]ビア導体に係る評価:
ビア導体についても同様に、各サンプルについて積層方向(厚み方向)に平行な断面が露出するように研磨を行ない、ビア導体を露出させた。
【0088】
図8は、露出したビア導体26の様子を表わす模式図である。ビア導体26における焼成後の欠陥は、露出した断面を100倍のマイクロスコープ(実体顕微鏡)で観察し、側面ボイド40の有無を目視により判断することで評価した。評価の際には、空間部の場合と同様に、ビア導体26の端部から最大1mmの距離まで研磨を行なった。
【0089】
側面ボイド40とは、ビア導体26の側面に生じる微小な空隙である。ビアホール内に充填する導電性材料はグリーンシートよりも硬いため、本プレスの際には、導電性材料が充填されたビアホールの周囲では厚み方向にプレスする力が加わり難くなり、面圧が不均一になる。
図8では、面圧の強さを下向き矢印の長さによって表わしている。
図8に示すようにビアホールの周辺の領域に加わる面圧が相対的に低くなる結果、上記領域では、密度が予め十分に高められていないと、本プレス後のグリーンシートの密度が相対的に低くなる。このように密度が低い部位では、焼成時の収縮率が高まるため、ビア導体26の側面に沿って空隙が生じ得る。
【0090】
[10]評価結果:
図9は、各サンプルにおけるプレプレスおよび本プレスの圧力と、空間部およびビア導体に係る評価結果を示す図である。
図9に示すように、本プレス以上の圧力でプレプレスを行なったサンプル1〜8では、空間部においてクラックおよび変形が認められず、また、ビア導体の周囲において側面ボイドも観察されなかった。これに対して、プレプレスを行なうことなく4.9MPaで本プレスを行なったサンプル9では、空間部において変形が認められ、ビア導体の周囲に側面ボイドが観察された。また、プレプレスを行なうことなく49.0MPaで本プレスを行なったサンプル10と、本プレスよりも低い圧力でプレプレスを行なったサンプル11では、空間部においてクラックおよび変形が認められ、ビア導体の周囲に側面ボイドが観察された。以上より、本プレス以上の圧力でプレプレスを行なうことにより、空間部およびビア導体における欠陥の発生が抑制できることが確認された。
【0091】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。