(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
屋外の地面に立設され、地面より高い位置に避難用フロアが設けられた避難用構造物と、前記避難用フロアが内側に収まる大きさの筒状側面を有し、前記筒状側面の上端部が閉鎖され下端部が開口している気密カバーと、前記地面に立設され、前記気密カバーを支持する気密カバー支持用構造物とを備え、
前記気密カバーは、金属鋼板により形成され、前記避難用フロアを上方から覆うように前記気密カバー支持用構造物に固定され、
前記筒状側面の下端部は、前記避難用フロアの床よりも低位置に位置し、
前記避難用フロアから前記筒状側面の下端部までの長さが、前記避難用フロアから前記気密カバーの床上部分の空間高さの2倍以下に設定されていることを特徴とする津波シェルタ。
【背景技術】
【0002】
従来、津波から避難するための施設等として、例えば特許文献1に開示されているように、鉄骨を略筒状に組み立てて枠体を形成し、枠体の上端部に避難用フロアを設け、枠体の内側に、地面から避難用フロアに通じる避難通路を設けた津波避難用構造物があった。図面に記載された避難用フロアは、上方に屋根が設けられ、側方が広く開放されている。
【0003】
また、特許文献2に開示されているように、天井と壁面とを有し、内部に複数階の避難用フロア(床面)を設け、津波の襲来を受ける側の壁面部分を曲面状にして津波の圧力を逃がすとともに、その曲面部分の壁面厚さが他の部分よりも厚くなっている避難設備があった。曲面部分と反対側の壁面には、人の出入口や外階段が設けられている。
【0004】
また、特許文献3に開示されているように、地面に設置されるシェルタであって、一定の空間を取り囲む気密壁によって構成され、気密壁に人の出入りする開口部が設けられ、さらに、津波によって気密壁の内部に浸水しても空気が保たれる空気室が設けられた津波シェルタがあった。この津波シェルタは、一般家屋の庭等に設置され、数人の家族を守る小型の津波シェルタと使用するのに適したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の津波避難用構造物は、構造物全体が津波に呑みこまれて水没すると、避難フロアに呼吸用の空気が確保されなくなるので、避難した人を守ることができない。特許文献2の避難設備も同様である。例えば、2011年の東日本大震災では、避難場所に指定された施設等に避難したにもかかわらず、その施設全体が大津波に水没してしまい、多くの人が犠牲になった。
【0007】
特許文献3の津波シェルタは、津波に水没しても呼吸用の空気が確保されるという利点がある。しかし、多数の住民を守るための公共の避難施設等に適用することを考えると、大型のものを新たに建設するには多額の費用がかかり、既存の施設等をこの津波シェルタの形態に改造するのも容易ではないので、広く普及させるには多くの課題がある。
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、大津波により避難用フロアが水没しても呼吸用の空気を確保することができ、安価に設置可能な津波シェルタ
と津波シェルタ用気密カバーの長さ設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、屋外の地面に立設され、地面より高い位置に避難用フロアが設けられた避難用構造物と、前記避難用フロアが内側に収まる大きさの筒状側面を有し、前記筒状側面の上端部が閉鎖され下端部が開口している気密カバーと、前記地面に立設され、前記気密カバーを支持する気密カバー支持用構造物とを備え、前記気密カバーは、
金属鋼板により形成され、前記避難用フロアを上方から覆う
ように前記気密カバー支持用構造物に固定され、
前記筒状側面の下端部は、前記避難用フロアの床よりも低位置に位置し、前記避難用フロアから前記筒状側面の下端部までの長さが、前記避難用フロアから前記気密カバーの床上部分の空間高さの2倍以下に設定されている津波シェルタである。
【0010】
さらに、前記避難用構造物が、前記気密カバー支持用構造物として兼用されていてもよい。
【0011】
また
屋外の地面に立設され、地面より高い位置に避難用フロアが設けられた避難用構造物と、前記避難用フロアが内側に収まる大きさの筒状側面を有し、前記筒状側面の上端部が閉鎖され下端部が開口している気密カバーと、前記地面に立設され、前記気密カバーを支持する気密カバー支持用構造物とを備え、前記気密カバーは、前記避難用フロアを上方から覆うように前記気密カバー支持用構造物に固定された津波シェルタ用気密カバーの長さ設定方法において、前記筒状側面の下端部は、前記避難用フロアの床よりも低位置に位置するとともに、前記筒状側面の、前記避難用フロアから前記筒状側面の下端部までの長さを、前記避難用フロアから前記気密カバーの床上部分の空間の高さの2倍以下に設定することを特徴とする津波シェルタ用気密カバーの長さ設定方法。である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の津波シェルタ
と津波シェルタ用気密カバーの長さ設定方法は、避難用フロアが津波に水没しても、気密カバー内に呼吸用の空気が確保されるので、シンプルな構造であるが安全性が高い。また、普段は公園の展望台として使用されている構造物や、身近にあるコンクリート建造物など、既存の施設を利用することで安価に設置することができるので、公共の避難施設として広く普及させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の津波シェルタの第一実施形態の外観を示す正面図である。
【
図2】第一実施形態の津波シェルタの内部構造を示す断面図である。
【
図3】津波の高さと気密カバー内の水面の高さとの関係を説明する模式図である。
【
図4】気密カバー内の水面の高さを一定以下に保つために必要な気密カバーの倍率αを示すグラフである。
【
図5】避難用フロア内の気圧が一定以下に保たれる津波の高さを示すグラフである。
【
図6】本発明の津波シェルタの第二実施形態の外観を示す正面図である。
【
図7】第二実施形態の津波シェルタの内部構造を示す断面図である。
【
図8】第一実施形態の津波シェルタの変形例の内部構造を示す断面図である。
【
図9】第二実施形態の津波シェルタの変形例の内部構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の津波シェルタ
と津波シェルタ用気密カバーの長さ設定方法の第一実施形態について、
図1〜
図5に基づいて説明する。この実施形態の津波シェルタ10は、
図1に示すように、屋外の平坦な地面Gに立設された避難用構造物12と、避難用構造物12の上端部を覆うように位置決めされた気密カバー14と、地面Gに立設された気密カバー支持用構造物16とを備えている。
【0015】
避難用構造物12は、例えば公園等に設置されて津波避難タワー等として利用されている既存の施設であり、
図2に示すように、複数の支柱18を梁20で連結した略四角形の枠体を有している。この枠体は、支柱18の下側部分である基礎部18aが地面Gの中に埋設され、上端部に避難用フロア22の床22aが設けられている。床22aの高さは、例えば、5〜15m程度である。地面Gから避難用フロア22に通じる避難通路24は、ここでは階段24aになっており、途中に休憩用の踊り場24bが設けられている。避難通路24は、お年寄りの負担や車椅子の移動を考慮して、スロープ状に設けてもよい。
【0016】
気密カバー14は、避難用フロア22が内側に収まる大きさの四角形の筒状側面14aを有し、筒状側面14aの上端部が上蓋面14bで閉鎖され、下端部14cが開口し、開口部以外は気密状態を維持可能に形成されている。気密カバー14の素材は高強度の金属鋼板などであり、避難用フロア22を上方から覆うように位置決めされ、気密カバー支持用構造物16により支持されている。
【0017】
気密カバー支持用構造物16は、避難用構造物12の外側を囲むように設けられ、複数の支柱26を梁28で連結した略四角形の枠体を有している。この枠体は、支柱26の下側部分である基礎部26aが地面Gの中に埋設され、上端部に気密カバー14がしっかり固定されている。基礎部26aには、避難用構造物12の周りの地面Gの中に埋設された重量物30が一体に取り付けられている。重量物30としては、例えば、地面Gを掘った内側にコンクリート製の容器を形成し、この内側に土石や土砂を充填した物などが考えられる。
【0018】
重量物30は、気密カバー14が水没した時、気密カバー14が浮力によって浮き上がらないようにする働きをする。例えば、気密カバー14の上蓋面14aまで水没した場合、気密カバー14に、気密カバー14内側の容積と水の密度とを積算した大きさの浮力が加わるので、この浮力よりも大きい抗力(例えば、2〜3倍以上の抗力)を発生させる重量物30を埋設する。また、津波が押し寄せる方向が分かっていれば、重量物30の埋設位置を、津波を受ける側とその反対側の2箇所に集約するとよい。これによって、津波を受けた時、気密カバー支持用構造物16に加わる転倒モーメントに対する抗力も強くすることができる。
【0019】
次に、避難用フロア22に対する気密カバー14の高さ方向の位置決めについて説明する。気密カバー14は、
図2に示すように、下端部14cが避難用フロア22の床22aよりも低くなるように位置決めされている。気密カバー14の深さ(筒状側面14aの長さ)はD(m)であり、深さDのうちのD1が床上部分、D2が床下部分である。この床下部分を設けることによって、津波シェルタ10全体が津波Tに水没したときでも、避難用フロア22上に空気を確保することができる。なお、床下部分D2がなくても気密カバー14内の空気は逃げないので、津波シェルタ10全体が津波Tに水没しても、床上部分D1に一定の空気が確保される。
【0020】
例えば、
図3に示すように、地面Gの上方の位置に気密カバー14に固定されており、ある時、高さh1(m)の津波Tが押し寄せ、気密カバー14が水没した状況を考える。水没する前に気密カバー14内にあった空気は水没した後も残り、水の圧力P2(atm)に押されて体積が小さくなり、水面M2が下端部14cよりも高くなる。ここで、気密カバー14内の水面M2より上側の空気がある空間を空気残留部32、水面M2より下側の水がある空間を水侵入部34と称する。また、気密カバー14の深さDのうち、空気残留部32をd1(m)、水侵入部34をα・d1(αは倍率)とし、上蓋面14bの面積をSとする。
【0021】
水面M2が空気残留部32の空気を押す圧力P2は、大気圧が1atmで水深10mごとに水圧がほぼ1atmずつ増加するので、式(1)のように表わされる。ここで、h2(m)は地面Gから見た水面M2の高さである。
【0022】
【数1】
空気残留部32内の空気が水面M2を押す圧力P1(atm)は、ボイルの法則から求めることができる。津波Tに水没する前の気密カバー14内にある空気については、その圧力(P0(atm)=1)と、体積(V0=S・D)の積は、式(2)のように表わされる。
【0023】
【数2】
また、津波Tに水没した後の気密カバー14内の空気について、その圧力P1と体積V1の積は、式(3)のように表わされる。
【0024】
【数3】
したがって、式(2),(3)の右辺同士が等しいとして倍率αを求める形に展開すると、式(4)が得られる。
【0025】
【数4】
さらに、圧力P1と圧力P2は互いに釣り合って等しいことから、式(4)の圧力P1に式(1)のP2を代入し、P1,P2を消去すると、倍率αは、式(5)のように表わされる。
【0026】
【数5】
図4のグラフは、式(5)をグラフ化したもので、横軸の津波Tの高さh1に対し、水面M2の高さh2が一定の値(5m,10m,15m)を超えないために必要な倍率αを示している。例えば、避難用フロア22の床22aの高さHが5mとすると、水面M2の高さh2が5mを越えなければ、避難した人は安全である。
図4によれば、倍率α=1とすると、高さ15mの津波に水没しても、水面M2が床22aの高さ5mを超えないことが分かる。倍率α=2にすれば、高さ25mの津波に水没しても水面M2が床22aの高さ5mを超えない。したがって、
図2で説明した気密カバー14の床下部分の深さD2を、床上部分の深さD1に倍率αを掛け算した値に設定すればよく、倍率αを大きくするほど津波Tに対する安全性を高くすることができる。
【0027】
ただし、倍率αを大きくすると、気密カバー14の外形が大きくなるので、設置工事の手間が大きくなり、費用の負担も増加する。したがって、倍率αは、避難用フロア22の床22aの高さHや、想定される津波Tの高さh1を考慮して、必要十分な小さい値に設定するとよい。例えば、床22aが高い位置にある場合は、低い場合よりも相対的に倍率αを小さくできる。また、床22aが地面からかなり高い位置にある場合は、仮に倍率α=0として床下部分を設けない構造(D2=0,D=D1)にしても、一定の安全性が確保できる可能性がある。水面M2が床22aを超えて上昇したとしても、床上数十cm以上にならないのであれば、小さい子供でも立ち上って呼吸ができるからである。
【0028】
以上説明したように、津波シェルタ10は、避難用フロア22が津波Tに水没しても気密カバー14内に呼吸用の空気が確保されるので、シンプルな構造でありながら安全性が高い。また、避難用構造物12として既存の施設を利用できるので、広く普及させやすい。さらに、気密カバー14を位置決めするとき、想定される津波Tの高さ等を考慮して必要最小限の床下部分(深さα・d1)を設定することによって、安全性を確保しつつ、設置費用を抑えることができる。
【0029】
なお、避難用フロア22が津波Tに水没した場合、空気残留部32内部の気圧が大気圧(1atm)よりも高くなるので、内部にいる人の安全を考える必要がある。例えば、空気ボンベを使用して潜水する場合、潜水病の影響を考慮すると水深30m程度(水圧で約4atm)まで可能であると言われている。従って、津波Tに水没したときの空気残留部32内部の気圧について、避難した人が一般人であることから、2〜3atm以下に抑えられれば安全域であると考えられる。言い換えると、避難用フロア22の床22aの高さHが空気残留部32内での水面M2の高さh2と等しいとすれば、津波Tに水没したときの床22aが水深10〜20m以上にならなければ、空気残留部32内部の気圧が2〜3atm以下に抑えられ、避難者の安全性が確保される。
【0030】
図5のグラフは、式(1)をグラフ化したもので、横軸の気密カバー14内の水面M2の高さh2に対し、水が空気残留部32の空気を押す圧力P2が一定の値(4atm,3atm,2atm,1atm)を超えない津波Tの高さh1を示している。この圧力P2は空気残留部32内部の気圧P1と等しいので、このグラフに示すように、床22aの高さH(又は高さh2)は、想定される津波Tの高さh1から10〜20mを引いた数値よりも大きい値に設定することが好ましい。
【0031】
次に、本発明の津波シェルタの第二実施形態について、
図6、
図7に基づいて説明する。ここで、上記の津波シェルタ10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。上記の津波シェルタ10は、既存の津波避難タワー等を避難構造物として利用する場合に適した構造であるが、第二実施形態の津波シェルタ36は、既存の施設を利用せず、各構成を新規に設ける場合に好適な構造である。
【0032】
津波シェルタ36は、
図6、
図7に示すように、屋外の平坦な地面Gに立設された避難用構造物12と、避難用構造物12の上端部を覆うように位置決めされた気密カバー14とを備え、避難用構造物12が、気密カバー14を支持する気密カバー支持用構造物としても使用されている。
【0033】
津波シェルタ36を建設するときは、まず地面Gの中に重量物30を埋設し、その上方に避難用構造物12を立設する。避難用構造物12は、上記と同様に、複数の支柱18を梁20で連結した略四角形の枠体を有し、支柱18の下側部分である基礎部18aが地面Gの中に埋設され、上端部に避難用フロア22の床22aが設けられている。
【0034】
気密カバー14は、避難用フロア22を上方から覆うように位置決めされ、避難用構造物12の上端部にしっかり固定されている。避難用構造物12の基礎部18aには、避難用構造物12の下方及び周囲の地面Gの中に埋設された重量物30が一体に取り付けられている。
【0035】
この津波シェルタ36によれば、上記の津波シェルタ10と同様に、高い安全性が得られる。さらに、避難用構造物12が気密カバー支持用構造物としても使用され、上記の津波シェルタ10以上にシンプルな構造なので、既存の施設を利用しないとしても、設置費用がさほど高価にならない。また、津波シェルタ36の場合、重量物30を避難用構造物38の下方にも埋設できるので、上記の津波シェルタ10の場合よりも狭い土地に設置できるという利点がある。
【0036】
なお、本発明の津波シェルタ
と津波シェルタ用気密カバーの長さ設定方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、避難用構造物や気密カバー支持用構造物の基礎部を強化することによって、重量物を省略することができる。例えば、第一実施形態の津波シェルタ10の変形例として、
図8に示すように、気密カバー支持用構造物16の基礎部26aに、長尺の摩擦抗を使用すると良い。同様に、第二実施形態の津波シェルタ36の場合も、
図9に示すように、避難用構造物12の基礎部18aに、長尺の摩擦抗を使用することができる。摩擦抗は、地面Gに対して垂直方向に設置するのが一般的であるが、場合により斜め方向に設けても良い。
【0037】
その他、避難用構造物は、屋外の地面に立設された頑丈な構造物であって、地面より高い位置に避難用フロアが設けられたものであれよく、各部の具体的な構造、形状、大きさは特に限定されない。
【0038】
気密カバーの形状は、避難用フロアを収容可能な大きさの筒状側面を有し、その上端部が水密に閉鎖された構造であればよく、筒状側面の形状は避難用フロアに合わせて円筒状、多角筒状等に変更することができる。
【0039】
気密カバー支持用構造物は、屋外の地面に立設された頑丈な構造物であって、気密カバーをしっかりと支持できるものであれよく、各部の具体的な構造、形状、大きさは特に限定されない。
【0040】
避難用構造物や気密カバー支持用構造物に一体に取り付けられた重量物の形態(材料、大きさ等)は、特に限定されず、全体が地中に埋設されたものの他、設置状況により一部又は全体が地上に設置されたものでもよい。また、摩擦杭の大きさや長さ等の形状、または構造も、避難用構造物や気密カバーの大きさに合わせて適宜設計することができるものである。