【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の有機分子が導電体層接合基とスペーサー部と配位結合基をこの順序で連結した分子であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
前記湿式成膜法がスピンコーティング法、スプレイコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
前記電解重合法で、第1の有機分子からなる導電体層接合層を導電体層表面に形成した基板を作用電極とし、第2の有機分子と金属イオンを溶媒に分散させた溶液に、対電極及び参照電極とともに浸漬して、電極間に電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の進展に伴い、様々なタイプの情報ディスプレイ(information display)が研究開発されている。液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイなどの発光ディスプレイに比較して、非発光ディスプレイは紙媒体に表示態様が近く、紙媒体の置き換えとなる表示媒体の有力候補である。
【0003】
これまで、非発光ディスプレイとしては、白色半球部と黒色半球部とからなる粒子を回転させて、白黒表示するタイプや、表示面側に白色粒子と黒色粒子のいずれかを移動させて白黒表示するタイプなどが開発されている。しかし、これらの表示媒体は、粒子を移動・回転させる必要があり、応答速度が遅いこと、カラー表示が困難であることなどの問題がある。
【0004】
一方、材料自体の色を変化させるエレクトロクロミックディスプレイは、高速応答の可能性とともにカラー表示の可能性があり、研究開発が進んでいる。例えば、有機/金属ハイブリッドポリマーは、酸化還元反応により、エレクトロクロミック現象を示し、応答速度、カラー表示などの問題点を解決できる可能性があることが示唆されている(特許文献1、非特許文献1)。しかし、有機/金属ハイブリッドポリマー膜の成膜方法が課題とされている。
【0005】
高分子膜の成膜方法として、交互積層(Layer by layer:以下、LBLと略記する。)法や電解重合(Electropolymerization:以下、EPと略記する。)法などがあり、これらを組み合わせた方法も報告されている。
【0006】
LBL法とは、プラスの電荷を持った物質と、マイナスの電荷を持った物質を静電気力(クーロン力)により連続的に交互に吸着して、それぞれの層を交互に積層して、薄膜を作製する方法である。
LBL法を用いて、ポリマー薄膜を作製する方法が報告されている。例えば、ターピリジン修飾した多層カーボンナノチューブとルテニウム(III)イオンとからなるLBL構造(非特許文献2)。viologenthiolで機能したカーボンナノチューブとCu
2+とからなるLBLハイブリッド薄膜(非特許文献3)、LBL法による金属−有機フレームワーク構造(非特許文献4)などがある。
【0007】
EP法とは、溶媒中にモノマーと電解質を溶解し、電極に電圧を印加して、電極上にポリマー薄膜を作製する方法である。速くて、簡単で、便利な方法である。ポリエステル繊維(3,4−ethylenedioxythiophene),polyaniline,polypyrrole、polythiopheneのような導電性ポリマー薄膜が形成されている(非特許文献5)。
【0008】
また、EP法については、phospholeとチオフェン誘導体のような共役ポリマーと金属イオンとからなる薄膜の報告がある。ビス[2−(ヒドロキシフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジニル](M
2+)(M:鉄とルテニウム)(非特許文献6)の報告がある。
LBL法又はEP法による三ルテニウムクラスターとFe
3+とからなる配位ポリマー(非特許文献7)の報告がある。
【0009】
しかし、EP法で有機/金属ハイブリッドポリマー薄膜を作製する方法はほとんど報告がない。
本発明者は、近年、EP法による有機/金属ハイブリッドポリマーの合成と薄膜形成を試みた(非特許文献8)。しかし、非常に薄く、不均一なポリマー膜しか形成できなかった。また、ポリマーはITO基板に物理吸着しているだけなので、容易に基板から離れてしまうなど接着性がかなり弱く、溶液中で、すぐにばらばらになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ITO基板のような導電体層付き基板に強固に接合可能なエレクトロクロミック膜の成膜方法、エレクトロクロミック膜及びエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板を提供することを課題とする。
【0013】
上記事情を鑑みて、試行錯誤することにより、本発明者は、一端にITO基板に強固に接続可能なアンカー部を有するモノマーを導入すれば、基板と膜の接着力を高めることができること、このモノマーの他端に金属イオンと配位結合可能な配位結合基を導入すれば、同様な配位結合基を有するモノマーを連結可能であること、金属イオン及びモノマーの供給数に応じて、ポリマー長さをいくらでも伸長させることができること、ポリマーの膜厚は連結するモノマーの数で厳密に決定することができること、連結するモノマーの数は、連結する還元された金属イオンの数で決定することができること、還元された金属イオンの数は電極近傍に形成する電気二重層領域の大きさを制御することにより決定することができること、電気二重層領域の大きさは電圧値を制御して決定することができること、また、剛直な構造を有する第1の有機分子を基板面に垂直な方向に林立させるので、密集させて形成すれば、均一な膜を形成できること、離間して形成すれば、多孔質膜を形成できることを見出した。
【0014】
実際に、第1の有機分子として4′−(4−(2−(トリエトキシシリル)ビニル)フェニル)−2,2′:6′,2′′−ターピリジン、第2の有機分子として4′4′′′′−(1,4−フェニレン)−ビス(2,2′:6′,2′′−ターピリジン)を合成し、ITO基板上で、Feイオンの電気化学的レドックス反応を利用するEP法により、成膜を試みたところ、膜厚がほぼ一定で、ITO基板に対する接着性が非常に高いFeベースの有機/金属ハイブリッドポリマー薄膜を形成でき、この膜が光スイッチング時間2s、透過率変化54%、色効率142.6cm
2C
−1のエレクトロクロミック特性を示すことを見出して、本研究を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
(1) 湿式成膜法により、基板上に形成した導電体層表面に第1の有機分子からなる導電体層接合層を形成する工程と、電解重合法により、前記導電体層接合層上に第2の有機分子と金属イオンとからなるエレクトロクロミック層を形成する工程と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック膜の成膜方法。
【0016】
(2) 前記第1の有機分子が導電体層接合基とスペーサー部と配位結合基をこの順序で連結した分子であることを特徴とする(1)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
(3) 前記第2の有機分子が配位結合基とスペーサー部と配位結合基をこの順序で連結した分子であることを特徴とする(1)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
(4) 前記導電体層接合基が−Si−(O−R)
3基であることを特徴とする(2)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
【0017】
(5) 前記配位結合基がターピリジン基であることを特徴とする(2)又は(3)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
(6) 前記スペーサー部がベンゼン骨格を有することを特徴とする(2)又は(3)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
(7) 前記湿式成膜法がスピンコーティング法、スプレイコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法のいずれかであることを特徴とする(1)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
【0018】
(8) 前記電解重合法で、第1の有機分子からなる導電体層接合層を導電体層表面に形成した基板を作用電極とし、第2の有機分子と金属イオンを溶媒に分散させた溶液に、対電極及び参照電極とともに浸漬して、電極間に電圧を印加することを特徴とする(1)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
(9) 一定電圧を印加することを特徴とする(8)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
(10) サイクリック電圧を印加することを特徴とする(8)に記載のエレクトロクロミック膜の成膜方法。
【0019】
(11) 導電体層接合層とエレクトロクロミック層とからなることを特徴とするエレクトロクロミック膜。
(12) 前記導電体層接合層が、導電体層接合基とスペーサー部と配位結合基をこの順序で連結した第1の有機分子からなる層であり、前記導電体層接合基が同一面を形成するように、第1の有機分子が配置されていることを特徴とする(11)に記載のエレクトロクロミック膜。
(13) 前記エレクトロクロミック層が、配位結合基とスペーサー部と配位結合基をこの順序で連結した第2の有機分子と金属イオンとからなる層であり、異なる第2の有機分子の配位結合基が一の金属イオンを共用して配位結合し、第2の有機分子が連結されてなることを特徴とする(11)に記載のエレクトロクロミック膜。
【0020】
(14) 前記導電体層接合基が−Si−(O−R)
3基であることを特徴とする(12)に記載のエレクトロクロミック膜。
(15) 前記配位結合基がターピリジン基であることを特徴とする(12)又は(13)に記載のエレクトロクロミック膜。
(16) 前記スペーサー部がベンゼン骨格を有することを特徴とする(12)又は(13)に記載のエレクトロクロミック膜。
【0021】
(17) 前記第1の有機分子が4′−(4−(2−(トリエトキシシリル)ビニル)フェニル)−2,2′:6′,2′′−ターピリジンであることを特徴とする(12)に記載のエレクトロクロミック膜。
(18) 前記第2の有機分子が4′4′′′′−(1,4−フェニレン)−ビス(2,2′:6′,2′′−ターピリジン)であることを特徴とする(13)に記載のエレクトロクロミック膜。
【0022】
(19) 基板と、基板に形成された導電体層と、前記導電体層表面に被膜された(11)〜(18)のいずれかに記載のエレクトロクロミック膜と、を有することを特徴とするエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板。
(20) 前記導電体層がITO層又はZnO層であることを特徴とする(19)に記載のエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板。
【発明の効果】
【0023】
本発明のエレクトロクロミック膜の成膜方法は、湿式成膜法により、基板上に形成した導電体層表面に第1の有機分子からなる導電体層接合層を形成する工程と、電解重合法により、前記導電体層接合層上に第2の有機分子と金属イオンとからなるエレクトロクロミック層を形成する工程と、を有する構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合可能なエレクトロクロミック膜を容易に成膜できる。
【0024】
本発明のエレクトロクロミック膜は、導電体層接合層とエレクトロクロミック層とからなる構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合させることができる。
【0025】
本発明のエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板は、基板と、基板に形成された導電体層と、前記導電体層表面に被膜された先に記載のエレクトロクロミック膜と、を有する構成なので、導電体層に強固に接合したエレクトロクロミック膜を被膜した導電体層付き基板、例えばITO基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(エレクトロクロミック膜)
まず、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜について説明する。
図1は、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜の一例を示す概略図であって、平面図(a)と、側面図(b)、A部拡大図(c)である。
図1(a)に示すように、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、平面視略矩形状とされている。これに限られるものではなく、平面視多角形状、平面視円形状等にしてもよい。
表面は、エレクトロクロミック層14が露出されている。
【0028】
図1(b)に示すように、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、導電体層付き基板15上に形成されている。
導電体層付き基板15は、基板11上に導電体層12が形成されて構成されている。
導電体層12としては、ITO(酸化インジウムスズ)層又はZnO(酸化亜鉛)層を挙げることができる。導電体層接合層13は、これらの導電体層12に強固に接合できる。
基板11としては、ガラス基板、石英基板、プラスティック基板などを用いることができる。表示素子応用のものとしては透明基板が好ましい。
【0029】
基板11上の導電体層12表面に導電体層接合層13が形成され、導電体層接合層13上にエレクトロクロミック層14が形成されて、エレクトロクロミック膜10が形成されている。
図1(c)に示すように、導電体層12上に第1の有機分子L1が林立して密集して配置されて、導電体層接合層13が形成されている。導電体層接合層13は、第1の有機分子L1の1分子層で形成されている。
【0030】
導電体層接合層13上に第2の有機分子L2が林立して密集して配置されて、エレクトロクロミック層14が形成されている。
エレクトロクロミック層14は、第1層21と第2層22の2分子層で形成されている。しかし、これに限られるものではない。エレクトロクロミック層14は、第2の有機分子L2の1分子層から1000分子層とすることが好ましく、10分子層から500分子層とすることがより好ましく、50分子層から400分子層とすることがさらに好ましい。これにより、エレクトロクロミック特性の応答速度を早くできる。
【0031】
第1の有機分子L1それぞれに第2の有機分子L2が直立して接合され、更に第2の有機分子L2が直立して接合されており、エレクトロクロミック層14は、第2の有機分子L2の第1層21と、第2の有機分子L2の第2層22との2分子層から形成されている。
なお、エレクトロクロミック膜10は、このように密集した態様に限られるものではなく、第1の有機分子L1同士を離間して配置してもよい。この場合、伸長させた高分子鎖は丸まり、隣接する高分子鎖との間に孔を形成する。これにより、多孔質膜を形成できる。
【0032】
図2は、第1の有機分子の一例を示す図である。
図2(a)に示す第1の有機分子L1は4′−(4−(2−(トリエトキシシリル)ビニル)フェニル)−2,2′:6′,2′′−ターピリジンである。L1で示す図は、説明用のモデル構造図である。
図2(b)に示すように、第1の有機分子L1は、導電体層接合基41とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結してなる。
図2(a)、(b)に示すように、前記導電体層接合基としては、−Si−(O−R)
3基を挙げることができる。この接合基を備えることにより、導電体層にこの接合基をアンカーとして接合させることができ、接着力の高い膜を形成できる。
【0033】
図3は、第2の有機分子の一例を示す図である。
図3(a)に示す第2の有機分子L2は4′4′′′′−(1,4−フェニレン)−ビス(2,2′:6′,2′′−ターピリジン)である。L2で示す図は、説明用のモデル構造図である。
図3(b)に示すように、第2の有機分子L2は、配位結合基43とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結してなる。
【0034】
図2(a)、
図3(a)に示すように、前記配位結合基としてはターピリジン基を挙げることができる。金属イオンと効率よく、結合力高く、配位結合させることができる。他には、ピリジン、ビピリジン、フェナンスロリンを挙げることができる。
図2(a)、
図3(a)に示すように、スペーサー部としてはベンゼン骨格を有する構造を挙げることができる。2以上5以下のベンゼンが共役又は非共役で連結されていてもよく、ベンゼンにはC6以下のアルキル置換基が接合されていてもよい。5超のベンゼンが連結された場合には、分子を林立配置することが困難となり、好ましくない。また、C7以上のアルキル置換基を導入した場合には、立体障害のため、密集配置させることが困難となる。また、スペーサー部は、ベンゼン骨格以外に、チオフェン、カルバゾール、アルケン、アルキンなどの剛直な共役系骨格であっても良い。
【0035】
なお、
図1(c)に示すように、導電体層接合基41が同一面を形成するように、第1の有機分子が配置されて、1分子層21が形成される。導電体層接合基41が導電体層12に接合される。また、導電体層接合層13上で、第1の有機分子L1と第2の有機分子L2は金属イオン52により配位結合されて、導電体層接合層13とエレクトロクロミック層14は強固に連結される。また、第2の有機分子L2の配位結合基が一の金属イオンを共用して配位結合し、第2の有機分子L2同士が連結されて、エレクトロクロミック層14が強固に形成される。
【0036】
(エレクトロクロミック膜の成膜方法)
次に、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜の成膜方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜の成膜方法の一例を示すフローチャート図である。
図4に示すように、本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜の成膜方法は、導電体操接合層形成工程S1と、エレクトロクロミック層形成工程S2とを有する。
【0037】
(導電体操接合層形成工程S1)
図5は、導電体操接合層形成工程の一例を示す工程図である。
まず、
図5(a)に示すように、導電体層12を準備する。通常は、取り扱いの要請から、基板11上に導電体層12を形成した導電体層付き基板15を準備する。
次に、湿式成膜法により、基板11上の導電体層12表面に第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13を形成する。
【0038】
第1の有機分子L1としては、導電体層接合基41とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結した分子を用いることができる。
前記湿式成膜法としては、スピンコーティング法、スプレイコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法のいずれかの方法を挙げることができる。
【0039】
(エレクトロクロミック層形成工程S2)
エレクトロクロミック層形成は、電極間に一定電圧を印加する方法又はサイクリック電圧を印加する電解重合法により行う。
【0040】
図6は、電圧印加前の装置の一例を示す工程図である。
まず、
図6に示すように、導電体層付き基板15の導電体層12上に導電体層接合層13が形成されたものを作用電極49とし、対電極48、参照電極47とともに、容器45に満たした第2の有機分子L2と金属イオン51を溶媒50に分散させた溶液に浸漬する。溶媒には、例えば、LiClO
4のような電解質を添加することが好ましく、例えば、アセトニトリル(actronitrile:ACN)とDMSOとからなる混合溶媒又はACN溶媒を用いる。
【0041】
作用電極49、対電極48、参照電極47はそれぞれ配線46、45、44により、電源(図示略)に接続されており、電極間で所定の電圧印加可能とされている。
第2の有機分子L2としては、配位結合基43とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結した分子を用いることができる。
金属イオン51は、還元が容易可能な金属イオンであり、例えば、Fe
3+である。Fe
3+は容易にFe
2+に還元される。
【0042】
図7は、電圧印加前のB部拡大図である。電圧印加前は、導電体層12上の第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13のターピリジンのような配位結合基は、溶媒50中のFe
3+のような金属イオン51と安定な配位結合を形成することができないため、第2の有機分子L2を連結することもできず、導電体層接合層13上に膜は形成されない。
【0043】
浸漬後、各電極間で所定の電圧を印加する。
図8、
図9は、電圧印加した瞬間のB部拡大図である。
図8に示すようにITO面から電子が放出される。これにより、作用電極近傍に電気二重層領域60が形成される。これにより、電気二重層領域60内の金属イオン51が還元され、還元された金属イオン52となる。例えば、Fe
3+はFe
2+とされる。
【0044】
図10は、その直後のB部拡大図である。作用電極近傍に電気二重層領域60内で還元された金属イオン52、例えば、Fe
2+が導電体層12上の第1の有機分子31からなる層13の配位結合基と配位結合する、
【0045】
図11は、更に、その直後のB部拡大図である。第1の有機分子L1からなる層13の配位結合基と配位結合した還元された金属イオン52、例えば、Fe
2+に、第2の有機分子L2の配位結合基が配位結合して、第2の有機分子L2の第1層21を形成する。
【0046】
図12は、更に、その直後のB部拡大図である。電気二重層領域60内の還元された金属イオン52、Fe
2+が、第1層21の配位結合基と結合する。
【0047】
図13は、更に、その直後のB部拡大図である。第1層21と配位結合した還元された金属イオン52、例えば、Fe
2+に、別の第2の有機分子L2の配位結合基が配位結合して、第2の有機分子L2の第2層22を形成する
【0048】
図8〜
図13までは、電圧を印加すると瞬時に行われる。
図14は、その電圧印加工程を説明する別の概略図である。電圧を印加すると、電気二重層領域により溶液中のFe
3+がFe
2+に還元され、これが第1の有機分子と第二の有機分子を連結するとともに、第2の有機分子同士も連結して、エレクトロクロミック層を瞬時に形成する。
【0049】
図15は、電圧印加後の装置の一例を示す工程図である。
以上の工程により、第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13上に第2の有機分子L2と金属イオン52とからなるエレクトロミック層14が形成され、エレクトロクロミック膜10が形成される。これにより、基板11と、基板11に形成された導電体層12と、導電体層12表面に被膜されたエレクトロクロミック膜10と、を有するエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板70が形成される。
【0050】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック10の成膜方法は、湿式成膜法により、基板11上に形成した導電体層12表面に第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13を形成する工程と、電解重合法により、導電体層接合層13上に第2の有機分子L2と金属イオン52とからなるエレクトロクロミック層14を形成する工程と、を有する構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合可能なエレクトロクロミック膜を容易に成膜できる。
【0051】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、第1の有機分子L1が導電体層接合基41とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結した分子である構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合した第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13を容易に形成できる。
【0052】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、第2の有機分子L2が配位結合基43とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結した分子である構成なので、第2の有機分子L2同士をその配位結合基で金属イオン52と配位結合して、連結した有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック層14を容易に形成できる。
【0053】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、導電体層接合基41が−Si−(O−R)
3基である構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合できる。
【0054】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、配位結合基43がターピリジン基である構成なので、金属イオンと配位結合させて、有機/金属ハイブリッドポリマーを形成できる。
【0055】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、スペーサー部42がベンゼン骨格を有する構成なので、剛直な膜を形成できる。
【0056】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、前記湿式成膜法がスピンコーティング法、スプレイコート法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法のいずれかである構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合した第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13を容易に成膜できる。
【0057】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、前記電解重合法で、第1の有機分子L1からなる導電体層接合層13を導電体層12表面に形成した基板11を作用電極49とし、第2の有機分子L2と金属イオン51を溶媒50に分散させた溶液に、対電極48及び参照電極47とともに浸漬して、電極間に電圧を印加する構成なので、第2の有機分子L2同士をその配位結合基で金属イオン52と配位結合して、連結した有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック層14を容易に成膜できる。
【0058】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、一定電圧を印加する構成なので、有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック層14を容易に成膜できる。
【0059】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10の成膜方法は、サイクリック電圧を印加する構成なので、有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック層14を容易に成膜できる。
【0060】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、導電体層接合層13とエレクトロクロミック層14とからなる構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合させることができ、また、エレクトロクロミック表示させることができる。
【0061】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、導電体層接合層13が、導電体層接合基41とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結した第1の有機分子L1からなる層であり、導電体層接合基41が同一面を形成するように、第1の有機分子L1が配置されている構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合させることができる。
【0062】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、エレクトロクロミック層14が、配位結合基43とスペーサー部42と配位結合基43をこの順序で連結した第2の有機分子L2と金属イオン52とからなる層であり、異なる第2の有機分子L2の配位結合基43が一の金属イオン52を共用して配位結合し、第2の有機分子L2が連結されてなる構成なので、エレクトロクロミック表示させることができ、また、膜厚を制御できる。
【0063】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、導電体層接合基41が−Si−(O−R)
3基である構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合させることができる。
【0064】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、配位結合基43がターピリジン基である構成なので、金属イオンと配位結合基を配位結合させて、有機分子を連結して、有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック層を形成できる。
【0065】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、スペーサー部42がベンゼン骨格を有する構成なので、安定な膜を形成できる。
【0066】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜10は、第1の有機分子L1が4′−(4−(2−(トリエトキシシリル)ビニル)フェニル)−2,2′:6′,2′′−ターピリジンである構成なので、導電体層付き基板、例えばITO基板に強固に接合させることができる。
【0067】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜は、第2の有機分子L2が4′4′′′′−(1,4−フェニレン)−ビス(2,2′:6′,2′′−ターピリジン)である構成なので、有機/金属ハイブリッドポリマーからなるエレクトロクロミック層を形成できる。
【0068】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板70は、基板11と、基板11に形成された導電体層12と、導電体層12表面に被膜されたエレクトロクロミック膜10と、を有する構成なので、導電体層に強固に接合したエレクトロクロミック膜を被膜した導電体層付き基板を提供できる。
【0069】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板70は、導電体層12がITO層又はZnO層である構成なので、導電体層に強固に接合したエレクトロクロミック膜を被膜したITO基板又はZnO層を提供できる。
【0070】
本発明の実施形態であるエレクトロクロミック膜の成膜方法、エレクトロクロミック膜及びエレクトロクロミック膜被膜導電体層付き基板は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
(CV法の電解重合法による有機/金属ハイブリッドポリマー膜の薄膜作成)
まず、ガラス基板上にITO層を形成したITO層付き基板を準備した。
次に、ITO表面に、4′−(4−(2−(トリエトキシシリル)ビニル)フェニル)−2,2′:6′,2′′−ターピリジン(L1)を分散させた溶液を塗布してから、乾燥して、L1層をITO表面に形成した基板を作製した。
図16は、作製基板の概略図である。
図16に示すように、ITO表面はL1によって完全に被覆せず、ITO表面が露出された部分を残した。
L1は、公知の合成プロセスで合成した。
【0072】
次に、LiClO
4を添加した溶媒(ACN+DMSO)中に、4′4′′′′−(1,4−フェニレン)−ビス(2,2′:6′,2′′−ターピリジン)(L2)を、FeCl
3(Fe
3+)(純度:>99.9%)と等モルで分散して、電気メッキ溶液を調製した。
L2は、全くFeCl
3(Fe
3+)との結合親和性がなく、凝集沈殿することはなく、均一な分散溶液とすることができた。
【0073】
図17は、電解重合前の電解重合工程図である。
次に、
図17に示すように、3電極システムを用い、先の基板を作用電極とし、対電極、参照電極とともに、電気メッキ溶液に浸漬した。
【0074】
次に、作用電極に対して、スキャン速度100mVs
−1、20サイクルで周期的に電圧(CV)を印加した。
図18は、電解重合(20サイクル)後の電解重合工程図である。
図18に示すように、ITO基板上に電解重合法による有機/金属ハイブリッドポリマー(Electropolymerized metallo−supramolecular polymer:以下、EP−MSPと略記する。)薄膜が作成された。
【0075】
図19は、 EP−MSP薄膜作成工程のCV測定結果を示すグラフである。
1stサイクルでは、−0.67V/0.31Vと0.73V/1.00Vの位置に2つのレドックス・ペアが出現した。
【0076】
−0.67Vの還元波は、L1と結合しているFe
3+イオンがFe
2+イオンに還元されることによるものではなく、またL2にも配位子しておらず、露出したITO表面上でFe
3+イオンがFe
2+イオンに還元されることによるものである。
一方、0.73Vの還元波は、EP−MSP薄膜内でL1またはL2が配位するFe
3+イオンがFe
2+イオンに還元されることによるものである。1stサイクルではピーク分離幅が0.27Vと狭かった。
【0077】
1stサイクルから20thサイクルに至るまで、サイクル数を挙げるに従い、一定の割合で酸化還元電位がずれていった。これは、陰電位を印加時、溶液中のFe
3+がFe
2+に電気化学的に還元され、L1とFe
2+の間で強い結合親和力が働き有機/金属ハイブリッドポリマー膜が一定の膜厚で形成されたことによると推察した。
【0078】
1stサイクルから20thサイクルへとサイクル数を増加すると、陽電位(0.73V/1.00V)のレドックス・ペアは増加し、陰電位(−0.67V/0.31V)のレドックス・ペアは減少した。これは、ITO面でEP−MSP薄膜が形成され、露出されたITO表面領域が減少したためと考察した。
【0079】
(定電位電解法(Chronoamperometry)の電解重合法による有機/金属ハイブリッドポリマー膜の薄膜作成)
次に、作用電極に対して一定の陰電圧(−1.5V)を印加する定電位電解法を用いて有機/金属ハイブリッドポリマー膜の薄膜形成をし、その薄膜の吸光度をその場測定した。
電圧印加時間は、0、100、300、500、750、1000、1500、2000、2500sとした場合について、その場測定を行った。
【0080】
図20は、2500s時の吸光度測定工程図である。
一定の陰電圧(−1.5V)を2500sの間、印加した後、電圧印加を中止し、その場で有機/金属ハイブリッドポリマー膜に照射光をあて、透過光を測定して、吸光度を測定した。
各電圧印加時間の際にも、同様にして、吸光度を測定した。
【0081】
図21は、吸光度測定結果を示すグラフである。
図21に示すように、ピーク波長λ
maxは578nmであった。578nmの吸光度は、L2とFe
2+イオンとの金属−配位子間電荷移動(metal−to−ligand charge transfer:MLCTと略記する。)効果によるものである。
0sの吸光度は弱かった。電気メッキ溶液中でFe
2+はFeCl
3の不純物から生じるか、又は、Fe
3+から生じるしかなく、Fe
2+はほとんどないので、L2を結合させることがほとんどできなかったと推察した。一方、電圧印加時間を長くするに従い、一定の割合で吸光度は増加した。電圧印加時間を長くするに従い、L2がFe
2+で連結されてより長く直鎖状となり、L2と結合したFe
2+からのMLCT吸収による吸光度が大きくなった。
【0082】
(有機/金属ハイブリッドポリマー膜のCV)
次に、0.1MのLiClO
4/ACN溶液中、スキャン速度20mVs
−1の条件で、有機/金属ハイブリッドポリマー膜のCVを陽電位の範囲で測定した。
図22は有機/金属ハイブリッドポリマー膜のCVグラフである。
図22に示すように、830と690mV(vs.Ag/Ag
+)に酸化還元波が出現した。つまり、0.6V以上で、ポリマー鎖のFe
2+イオンはFe
3+イオンに酸化された。この酸化還元波における酸化電位と還元電位の電位差(ΔEp)は140mVであった。この値は、スピンコート等により製膜した従来の有機/金属ハイブリッドポリマーフィルムの値(27mV:非特許文献9)より著しく大きくなった。これは、ポリマー鎖が電極に対して垂直に配向するため、ポリマー鎖間の電子移動が起こりにくく、長く剛直な配位子L2を介した金属間のポリマー内電子移動が律速となったためと考えられる。
【0083】
(有機/金属ハイブリッドポリマー膜のエレクトロクロミック特性)
次に、作用電極に印加する電圧値を変化させたときの吸光度の電圧値依存性をその場観察した。電圧値は、0、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0Vとした。
図23は、吸光度の電圧値依存性測定結果を示すグラフである。
0.6V以上で電圧値を大きくするに従い、ピーク波長578nmの吸光度は徐々に減少し、1.0Vではほとんど消失した。
【0084】
図24は有機/金属ハイブリッドポリマー膜のエレクトロクロミック現象の説明図である。
電圧印加前は、EP−MSP膜の金属イオンはすべてFe
2+イオンである。電圧を0.6V印加すると、一部のFe
2+イオンはFe
3+イオンへ酸化される。電圧を1.0V印加すると、すべてのFe
2+イオンはFe
3+イオンへ酸化される。578nmの吸光度の消失は、ポリマー鎖のFe
2+イオンはFe
3+イオンへ酸化され、L1とFe
2+イオンとのMLCT効果の消失したことによる。
なお、一旦、Fe
2+イオンが有機/金属ハイブリッドポリマー膜を形成すると、Fe
3+イオンへ酸化されても、配位結合が外れ、連結が外れることはない。
【0085】
(有機/金属ハイブリッドポリマー膜のCVのスキャン速度依存性)
次に、0.1MのLiClO
4/ACN溶液中、スキャン速度10、25、50、75、100、150、200、250、300mVs
−1の条件で有機/金属ハイブリッドポリマー膜のCVを測定した。
図25は有機/金属ハイブリッドポリマー膜のCVのスキャン速度依存性を示すグラフである。
スキャン速度が大きくなるに従い、ピーク電流値は増加した。
【0086】
(有機/金属ハイブリッドポリマー膜の表面のAFM像)
次に有機/金属ハイブリッドポリマー膜の表面のAFM像を観測した。
なお、
図26は有機/金属ハイブリッドポリマー膜の表面のAFM像である。
図26(a)、(b)は、−1.5V、300sの定電圧印加の条件で形成した有機/金属ハイブリッドポリマー膜の表面のAFM像であり、
図26(c)、(d)は、−1.5V、2000sの定電圧印加の条件で形成した有機/金属ハイブリッドポリマー膜の表面のAFM像である。像中のバーの長さは500nmである。
球状ポリマーを有するファイバー状構造であった。球状ポリマーは平均直径サイズが約100nmであった。黒い影部分はポリマーの存在しない孔部であり、表面には微小な凹凸が形成されていた。
【0087】
(有機/金属ハイブリッドポリマー膜の578nmの透過率の変化)
次に、印加電圧を0Vと1.2Vとの間で10sごとに切り替えたときの有機/金属ハイブリッドポリマー膜の578nmの透過率及び電流値の変化を観測した。
図27は、エレクトロクロミック特性の再現試験結果を示すグラフである。
図27(a)は、有機/金属ハイブリッドポリマー膜の578nmの透過率の変化を示すグラフであり、
図27(b)はその場の電流変化を示すグラフである。
図27に示すように電圧に応じた電流値及び透過率はいずれもほぼ同一であり、高い再現性を示した。
この膜は、スイッチング時間2s、透過率変化54%、色効率142.6cm
2C
−1のエレクトロクロミック特性を示した。
【0088】
(比較例1)
L2がITO表面に成膜された基板の代わりに、L2を被膜しないITO基板を用いた他は、実施例1と同様にして、CV測定を行った。
【0089】
図28は、L1で被膜しないITO基板を用いた場合のCV測定結果を示すグラフである。
1stサイクルから20thサイクルに至るまでサイクル数を増加しても、陽電位範囲で増加したが、陰電位範囲のFe
3+/Fe
2+イオンのレドックス・ペアはほとんど変化しなかった。これにより、わずかなEP−MSP薄膜がITO面上で形成されたが、弱い粘着力のため、電解重合後、電気メッキ溶液中で、容易に薄膜剥離を引き起こし、膜が形成されていなかった。