特許第6362461号(P6362461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6362461-腐食防止方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362461
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】腐食防止方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/08 20160101AFI20180712BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C23C4/08
   C23C4/18
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-144225(P2014-144225)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-20523(P2016-20523A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501138046
【氏名又は名称】有限会社コンタミネーション・コントロール・サービス
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 豊彦
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−251845(JP,A)
【文献】 特開2002−066317(JP,A)
【文献】 実開昭61−164728(JP,U)
【文献】 特開2006−278087(JP,A)
【文献】 特開2006−332589(JP,A)
【文献】 特開2001−164354(JP,A)
【文献】 特開2007−247042(JP,A)
【文献】 特開2004−186284(JP,A)
【文献】 特開2013−147679(JP,A)
【文献】 特開平01−205061(JP,A)
【文献】 特開平01−205062(JP,A)
【文献】 特開平08−134620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食性ガスを使用する装置が具備する処理容器内の機器及び処理容器に接続される機器を構成する部材の表面にアモルファス金属からなる皮膜を形成する皮膜形成工程
前記皮膜形成工程によって部材の表面に前記皮膜を形成した後、その表面を平坦化する追加工工程、および、
前記追加工工程の後に、フッ酸水溶液もしくはフッ酸+硝酸水溶液によって、その表面を洗浄する洗浄工程を具備することを具備することを特徴とする腐食防止方法。
【請求項2】
腐食性ガスを使用する装置が、半導体製造装置、液晶製造装置、エピ基板製造装置であることを特徴とする請求項1記載の腐食防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置などに用いられる処理容器内及び処理容器に接続される機器の部材の腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2001−164354号公報)は、耐プラズマエロージョン性に優れるプラズマ処理容器内部材を開示する。この部材は、基材の表面が、アンダーコートとして形成された金属皮膜と、そのアンダーコート上の中間層として形成されたAl2O3皮膜と、その中間層上にトップコートとして形成されたY2O3溶射皮膜とからなる多層状複合層によって被覆されているもので、これによって、特許文献1に開示される発明は、一般に半導体及び液晶デバイスなどの製造プロセスでは、処理容器内でBF3やNF3のようなフッ化物、BCl3やSnCl4などの塩化物、HBrのような臭化物をはじめとする処理ガスを使用するため、処理容器内部材が著しく腐食損耗するという問題を解決しようとするものである。
【0003】
特許文献2(特開2007−247042号公報)は、強い腐食性環境下で、プラズマエッチング加工が行われる半導体加工用装置などの容器内配設部材の耐久性の向上を図ることを目的としたセラミック被覆部材を開示する。このセラミック被覆部材は、金属製又は非金属製基材の表面に、直接またはアンダーコート層を介して、周期律表IIIa族酸化物の溶射被覆からなる多孔質層を有し、その層状には、電子ビームやレーザービームなどの高エネルギーを照射処理によって形成される二次再結晶層が形成されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−164354号公報
【特許文献2】特開2007−247042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のY2O3やAl2O3などのセラミック溶射膜は、ポーラスであるため、ラジカルやハロゲンガスが基材まで到達してしまい、基材の腐食が生じたり、金属からの金属汚染が生じてしまうという不具合が生じる。また、溶射膜はポーラスなため、ガスを含有することから、脱ガスが多く、真空引きに時間がかかったり、メンテナンスを行うために大気開放をした時に含有した腐食性ガスが雰囲気を汚染してしまうという不具合が生じる。
【0006】
このため、本発明は、半導体製造装置、液晶製造装置、エピ基板製造装置などに使用される処理容器内の機器及び処理容器に接続される機器を構成する部材の表面の腐食を防止する腐食防止方法に提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る腐食防止方法は、半導体製造装置、液晶製造装置、エピ基板製造装置のような腐食性ガスを使用する装置が具備する処理容器内の機器及び処理容器に接続される機器を構成する部材の表面にアモルファス金属からなる皮膜を形成する皮膜形成工程を具備することにある。アモルファス金属としては、Fe-Cr、Ni-Cr、Ni-Moなどがあるが、特にNiを有するものが望ましい。また、前記部材の材質としては、ステンレス、アルミ、セラミックス、ガラス、カーボン、樹脂などである。さらに、皮膜形成方法としては、溶射、スパッタが用いられる。
【0008】
処理容器内の機器としては、例えば、電極、静電チャック、フォーカスリング、ゲートバルブ、インレットフランジ、シールキャップなどがある。処理容器に接続される機器としては、例えば、真空ポンプ、圧力センサー、バルブなどがある。
【0009】
皮膜の材料としてアモルファス金属を用いることによって、耐食性が高く、かつ緻密な皮膜を形成できるので、ラジカルや腐食性ガスを含むプロセスガスが基材に到達することを防止できるために、基材の腐食がなく、金属汚染がなくなるものである。Niは金属汚染を引き起こさない。さらに脱ガスがない。
【0010】
さらに、前記皮膜形成工程によって部材の表面に前記アモルファス金属皮膜を形成した後、その表面を平坦化する追加工工程を具備することが好ましい。
【0011】
さらに、前記皮膜形成工程若しくは追加工工程の後に、その表面を洗浄する洗浄工程を具備することが望ましい。洗浄工程に用いられる洗浄液は、たとえばフッ酸(HF)水溶液やフッ酸(HF)+硝酸(HNO3)水溶液であることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体製造装置、液晶製造装置、エピ基板製造装置などに使用される処理容器内の機器及び処理容器に接続される機器を構成する部材の表面に、耐食性に優れ、かつ緻密なアモルファス金属からなる皮膜が形成されるため、基材の腐食及び金属汚染を防止できるという効果を奏することができるものである。さらに、表面を平滑化することによってさらに効果を向上させることができるものである。さらにまた、表面をフッ酸等によって洗浄することによってさらにその効果を向上させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る腐食防止方法を示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る腐食防止方法は、図1に示すように、半導体製造装置、液晶製造装置、エピ基板製造装置のようなプロセスガスを使用する装置が具備する処理容器内の機器及び処理容器に接続される機器を構成する部材の表面にアモルファス金属からなる皮膜を形成する皮膜形成工程100を具備するものである。また、前記皮膜形成工程100によって部材の表面に前記アモルファス金属の皮膜を形成した後、その表面を平坦化する追加工工程200を具備するものである。さらにまた、前記皮膜形成工程100若しくは追加工工程200の後に、その表面を洗浄する洗浄工程300を具備するものである。
【0015】
前記皮膜形成工程100は、溶射、スパッタ等によって実行されるものである。
【0016】
前記追加工工程200は、旋盤等によってシール面など面粗度が重要な箇所を平坦化する工程である。
【0017】
前記洗浄工程300は、フッ酸(HF)水溶液やフッ酸(HF)+硝酸(HNO3)水溶液が使用される。
【実施例】
【0018】
下記する表1に記載されているように、それぞれの試料は、臭化水素ガス(HBr)による腐食試験及び金属汚染試験、さらには塩化水素ガス(HCl)による腐食試験及び金属汚染試験が実施される。腐食試験の結果は、目視によって行われ、全く腐食が見えない(最良:◎)、表面に少し変化が見える(良好:○)、腐食の一歩手前のように見える(良:△)、一部に腐食が起こっている(不良:×)の4段階に分類される。また、金属汚染試験については、ウェハ上の金属汚染をICP−MSに分析し、1平方センチメートル当たりの原子量によって汚染状態を判定するもので、2×10未満の場合(最良:◎)、2×10以上5×10未満(良好:○)、5×10以上9×10未満(良:△)、1×1010以上(不良:×)の4段階に分類されるものである。
【0019】
下記する表1に記載される発明試料1は、基材としてアルミニウムを使用し、このアルミ基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200及び洗浄工程300が施されなかった試料である。この発明試料1において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であったが、金属汚染試験の結果は○であった。
【0020】
発明試料2は、基材としてアルミニウムを使用し、このアルミ基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200が施されず、洗浄工程300が施された試料である。この発明試料2において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であり、金属汚染試験の結果も◎であった。
【0021】
発明試料3は、基材としてアルミニウムを使用し、このアルミ基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200が実施されたが、洗浄工程300が施されなかった試料である。この発明試料3において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であったが、金属汚染試験の結果は△であった。
【0022】
発明試料4は、基材としてアルミニウムを使用し、このアルミ基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200及び洗浄工程300が施された試料である。この発明試料4において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であり、金属汚染試験の結果も◎であった。
【0023】
発明試料5は、基材としてステンレス鋼であるSUS316Lを使用し、このステンレス基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200及び洗浄工程300が施されなかった試料である。この発明試料5において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であったが、金属汚染試験の結果は△であった。
【0024】
発明試料6は、基材としてステンレス鋼であるSUS316Lを使用し、このステンレス基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200は施されず、洗浄工程300が施された試料である。この発明試料6において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であり、金属汚染試験の結果も◎であった。
【0025】
発明試料7は、基材としてステンレス鋼であるSUS316Lを使用し、このステンレス基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200が施されたが、洗浄工程300が施されなかった試料である。この発明試料7において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であったが、金属汚染試験の結果は△であった。
【0026】
発明試料8は、基材としたステンレス鋼であるSUS316Lを使用し、このステンレス基材の表面にNi-Cr系のアモルファス金属を溶射して皮膜(溶射膜)を形成したものであり、追加工工程200及び洗浄工程300が施された試料である。この発明試料8において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は◎であり、金属汚染試験の結果も◎であった。
【0027】
比較試料1は、基材としてアルミニウムを使用し、溶射膜を形成しなかったものであり、前記基材に洗浄工程300のみが実施された試料である。この比較試料1において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は×であり、金属汚染試験の結果も×であった。
【0028】
比較試料2は、基材としてステンレス鋼であるSUS316Lを使用し、溶射膜を形成しなかったものであり、前記基材に洗浄工程300のみが実施された試料である。この比較試料2において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は×であり、金属汚染試験の結果も×であった。
【0029】
比較試料3は、基材としてアルミアルマイトを使用し、このアルミアルマイト基材の表面にY2O3を溶射して溶射膜を形成したものであり、追加工工程200及び洗浄工程300が実施されなかった試料である。この比較試料3において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は○であり、金属汚染試験の結果は×であった。
【0030】
比較試料4は、基材としてアルミアルマイトを使用し、このアルミアルマイト基材の表面にAl2O3を溶射して溶射膜を形成したものであり、追加工工程200及び洗浄工程300が実施されなかった試料である。この比較試料4において、臭化水素ガス及び塩化水素ガスによる腐食実験の結果は○であり、金属汚染試験の結果は×であった。
【0031】
【表1】

【0032】
以上の結果から、アモルファス金属による皮膜(溶射膜)が形成された基材(アルミ若しくはステンレス鋼)が、腐食に対しては常に最良の結果を残すことが証明された。また、平滑化を行う追加工工程200を施した場合、金属汚染に対して効果が落ちるが、洗浄工程300を施すことによって金属汚染に対する能力が復活することが証明された。
【0033】
以上のことから、半導体製造装置、液晶製造装置、エピ基板製造装置などに使用される処理容器内の機器及び処理容器に接続される機器を構成する部材について、アモルファス金属による皮膜を形成することによってラジカルや腐食性ガスを有するプロセスガスよる腐食防止することができるものである。さらに、シール面等、平坦化が必要な部分については平坦化の追加工を施した後に、フッ酸水溶液や、フッ酸及び硝酸の混合水溶液などで洗浄することによって、金属汚染を復活させることができるものである。
【符号の説明】
【0034】
100 皮膜形成工程
200 追加工工程
300 洗浄工程
図1