【実施例】
【0028】
(実施例1)
口径4インチであって、炭化珪素単結晶基板の片面側(Si面)に回路が形成された厚さ300μmの半導体ウエハを用いて、以下のようにしてダイシングを行った。この半導体ウエハは、昇華再結晶法(改良レーリー法)により成長させた炭化珪素単結晶インゴットから切り出されたものを使用し、後述するラマンシフトにより求めた内部応力を表す歪み指数は0.09であった。
【0029】
先ず、この半導体ウエハについて、回路が形成された回路面と反対側の裏面をバックグラインド加工して厚さ200μmに研削し、回路面に貼られた保護テープを剥がしたところで、回路面を上にして半導体ウエハが上に凸(回路面側が凸)となるようにお椀型に反った形状を呈した。このバックグラインド後の半導体ウエハについて、触針式の粗さ計(東京精密社製 表面粗さ・輪郭形状測定機サーフコム)を用いて半導体ウエハの面内における高低差を確認したところ、ウエハの中心部付近が最も高く、ウエハの外周部付近に最も低い点が存在し、その高低差で表される反り量は240μmであった。また、内部応力を表す歪み指数は、0.01であった。なお、歪み指数は、半導体ウエハの裏面側におけるウエハ中心とエッジ(外周)から中心方向に2mm離れた外周部との2箇所について、それぞれラマン散乱光を測定し、ラマン散乱光ピークの波数の差分(ウエハ中心の値−外周部の値)を求めたものである。昇華再結晶法で製造された炭化珪素単結晶インゴットは、一般に、中心軸に対象の温度勾配環境で製造されることから、その内部応力は同心円状に分布するため、このような歪み指数によれば、ウエハの内部応力を評価することができると考えられる。
【0030】
次に、
図1に示したように、紫外線により粘着力が低下する粘着層を備えた紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製:基材PET、透明、但し総厚み280μm(粘着層厚15μmを含む)の特注品〕をバックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面(回路とは反対側の面)に貼り合せた。次いで、半導体ウエハ1の厚み方向に対して外周部からはみ出した部分を水平方向にカットし、半導体ウエハ1とは反対側に接合平坦面2aを形成して隙間充填層2とした。更に、表面に粘着層を有したダイシングテープ〔デンカ社製 ADTECS UDT-1325D:基材PET、総厚み150μm(粘着層厚25μmを含む)〕を貼り合せて、シート基材3とした。このシート基材3は、ダイシング装置のウエハテーブル4に接して表面に平坦基準面3aを形成するものであり、この平坦基準面3aと隙間充填層2の接合平坦面2aとが接合される。また、シート基材3には、半導体ウエハ1を取り囲むようにフレーム(図示外)が備え付けられており、シート基材3を介してフレームと一体にされた半導体ウエハ1は、シート基材3側をダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、下記のような条件でブレード5によりダイシングを行った。
【0031】
使用したダイシング装置は、超音波ダイシングユニットを備えたディスコ社製DAD3220であり、ポーラスチャックテーブルからなるウエハテーブル4とブレード5を有している(スピンドルタイプ:1.8kWスピンドル、シャワーノズル:深切りノズルタイプ、ブレードクーラ:標準タイプ)。また、ダイシング加工では、スピンドル回転数20,000(/min)、送り速度20(mm/s)、切り込み量はシート基材へ0.030(mm)、超音波振幅0.005(mm)、使用カットモードはDownカット、カット方法は1パスフルカット、切削水(水温)は純水(22℃)、及び、固定方法は半導体ウエハ1の回路面側(Si面)を上に向けてシート基材3側をウエハテーブル4に真空吸着させた。
【0032】
これらの条件のもと、カットとカットとの間隔であるストリート幅を6.5mmとして半導体ウエハ1をダイシングし、有効チップ数180個となるように半導体チップに分割した。ダイシング終了後、フルオート紫外線照射器を用いてダイシング後の半導体ウエハ1にシート基材3側から紫外線を照射し、積算光量が350mJ/cm
2以上となったところで隙間充填層2を形成したダイシングテープから剥離して、有効チップを含む全ての半導体チップをピックアップした。
【0033】
また、比較参照用として、本実施例1と同様の半導体ウエハを用いて、従来法によりダイシングを行った。すなわち、バックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面に紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製 UHP-110AT:基材PET、透明、総厚み110μm(粘着層厚10μmを含む)〕を貼り合せてフレームと一体にし、ダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、反りを矯正しながら水平形状にして上記と同様の条件でダイシングを行った。そして、本発明に係る実施例1の方法でダイシングした半導体ウエハと従来法でダイシングした比較参照用の半導体ウエハとについて、それぞれクラックの発生状況、及びチッピングの発生割合を比較した。結果は表2に示したとおりであり、従来法では、
図4に示したように、有効チップ数180個のうち6個に半導体ウエハの裏面側にチッピングが発生していたのに対して、本発明に係る実施例1の方法ではチッピングは発生しなかった。また、クラックについては、いずれの方法でも発生していなかった。
【0034】
【表2】
【0035】
(実施例2)
実施例1と同様に、昇華再結晶法(改良レーリー法)を用いて製造された口径4インチ、厚さ300μmの炭化珪素単結晶基板の片面側(Si面)に回路が形成された半導体ウエハ(歪み指数は0.15)を用いて、次のようにしてダイシングを行った。先ず、この半導体ウエハの裏面をバックグラインド加工して厚さ100μmに研削し、回路が形成された回路面に貼られた保護テープを剥がしたところで、回路面を上にして半導体ウエハが上に凸(回路面側が凸)となるようにお椀型に反った形状を呈した。このバックグラインド後の半導体ウエハについて、実施例1と同様に面内の高低差を確認したところ、ウエハの中心部付近が最も高く、ウエハの外周部付近に最も低い点が存在し、その高低差で表される反り量は510μmであった。また、バックグラインド加工後の歪み指数は0.00であった。
【0036】
次に、紫外線により粘着力が低下する粘着層を備えた紫外線剥離型のダイシングテープ10〔デンカ社製ADTECS UDT-1005M3:基材PET、透明、総厚み105μm(粘着層厚5μmを含む)〕を半導体ウエハ1の裏面(回路とは反対側の面)に貼り合せて、
図2に示したように、ダイシングテープ10側が開放された型枠6内にこの半導体ウエハ1を配置した。次いで、ダイシングテープ10側の凹面に対して、200℃に加熱して流動性を有したポリ塩化ビニル(PVC)11を流し込み、この凹面が全て熱流動性のPVC(熱流動性樹脂)で満たされるようにして半導体ウエハ1の最も低い点まで充填した。そして、熱流動性のPVCの液面を水平面となるようにして、7分間室温で放置してPVCを固めることで、液面側を接合平坦面12aにすると共に、ダイシングテープ10と熱流動性のPVC11とからなる隙間充填層12を形成した。
【0037】
次いで、隙間充填層12が形成された半導体ウエハ1を型枠6から取り外し、表面に粘着層を有したダイシングテープ〔デンカ社製 ADTECS UDT-1325D:基材PET、総厚み150μm(粘着層厚25μmを含む)〕を貼り合せて、シート基材(図示外)とした。このシート基材は、ダイシング装置のウエハテーブル4に接して表面に平坦基準面を形成するものであり、この平坦基準面と隙間充填層12の接合平坦面12aとが接合される。また、シート基材には、半導体ウエハ1を取り囲むようにフレーム(図示外)が備え付けられており、シート基材を介してフレームと一体にされた半導体ウエハ1は、シート基材側をダイシング装置のウエハテーブルに真空吸着させてダイシングされる。そして、実施例1と同様の条件により、ダイシングを行った。また、ダイシング終了後は、実施例1と同様にして隙間充填層12を半導体ウエハ1から剥離して、有効チップ180個を含む全ての半導体チップをピックアップした。
【0038】
また、比較参照用として、本実施例2と同様の半導体ウエハを用いて、従来法によりダイシングを行った。すなわち、バックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面に紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製 UHP-110BZ:基材PET、透明、総厚み110μm(粘着層厚10μmを含む)〕を貼り合せてフレームと一体にし、ダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、反りを矯正しながら水平形状にして上記と同様の条件でダイシングを行った。そして、本発明に係る実施例2の方法でダイシングした半導体ウエハと従来法でダイシングした比較参照用の半導体ウエハとについて、それぞれクラックの発生状況、及びチッピングの発生割合を比較した。結果は表3に示したとおりであり、従来法では、有効チップ数180個のうち15個に半導体ウエハの裏面側にチッピングが発生すると共に、
図5に示したように、ダイシング後の半導体ウエハ1にはおよそ4.0cmにわたるクラックが発生していた。それに対して、本発明に係る実施例2の方法ではチッピングの発生は1個のチップのみであり、クラックは発生していなかった。
【0039】
【表3】
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様に、昇華再結晶法(改良レーリー法)を用いて製造された口径4インチ、厚さ300μmの炭化珪素単結晶基板の片面側(C面)に回路が形成された半導体ウエハ(歪み指数は0.13)を用いて、次のようにしてダイシングを行った。先ず、この半導体ウエハの裏面をバックグラインド加工して厚さ200μmに研削し、回路が形成された回路面に貼られた保護テープを剥がしたところで、回路面を上にして半導体ウエハが下に凸(回路面側が凹)となるようにお椀型に反った形状を呈した。このバックグラインド後の半導体ウエハについて、実施例1と同様に面内の高低差を確認したところ、ウエハの中心部付近が最も高く、ウエハの外周部付近に最も低い点が存在し、その高低差で表される反り量は500μmであった。また、バックグラインド加工後の歪み指数は0.02であった。
【0041】
次に、紫外線により粘着力が低下する粘着層を備えた紫外線剥離型のダイシングテープ10〔デンカ社製ADTECS UDT-1005M3:基材PET、透明、総厚み105μm(粘着層厚5μmを含む)〕を半導体ウエハ1の裏面(回路とは反対側の面)に貼り合せて、
図3に示したように、ダイシングテープ10側が開放された型枠6内にこの半導体ウエハ1を配置した。次いで、ダイシングテープ10側の凸面に対して、240℃に加熱して流動性を有したポリメチルペンテン(PMP)11を流し込み、この凸面が全て熱流動性のPMP(熱流動性樹脂)で覆われるようにした。そして、熱流動性のPMPの液面を水平面となるようにして、5分間室温で放置してPMPを固めることで、液面側を接合平坦面12aにすると共に、ダイシングテープ10と熱流動性のPMP11とからなる隙間充填層12を形成した。
【0042】
次いで、隙間充填層12が形成された半導体ウエハ1を型枠6から取り外し、実施例2と同様にシート基材を貼り合せて、半導体ウエハ1をフレームと一体化させた。そして、シート基材側をダイシング装置のウエハテーブルに真空吸着させ、実施例1と同様の条件により、ダイシングを行った。また、ダイシング終了後は、実施例1と同様にして隙間充填層12を半導体ウエハ1から剥離して、有効チップ180個を含む全ての半導体チップをピックアップした。
【0043】
また、比較参照用として、本実施例3と同様の半導体ウエハを用いて、従来法によりダイシングを行った。すなわち、バックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面に紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製 UHP-110BZ:基材PET、透明、総厚み110μm(粘着層厚10μmを含む)〕を貼り合せてフレームと一体にし、ダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、反りを矯正しながら水平形状にして上記と同様の条件でダイシングを行った。そして、本発明に係る実施例3の方法でダイシングした半導体ウエハと従来法でダイシングした比較参照用の半導体ウエハとについて、それぞれクラックの発生状況、及びチッピングの発生割合を比較した。結果は表4に示したとおりであり、従来法では、有効チップ数180個のうち7個に半導体ウエハの裏面側にチッピングが発生すると共に、およそ3.5cmにわたるクラックが発生していた。それに対して、本発明に係る実施例3の方法ではチッピング及びクラックの発生はいずれも確認されなかった。
【0044】
【表4】
【0045】
以上のとおり、本発明によれば、クラックやチッピング等の発生を抑制することができ、従来法に比べて、歩留まり良く半導体チップが得られるようになる。