特許第6362484号(P6362484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362484
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】半導体ウエハのダイシング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20180712BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   H01L21/78 M
   H01L21/68 N
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-179058(P2014-179058)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-54192(P2016-54192A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(72)【発明者】
【氏名】小島 清
(72)【発明者】
【氏名】阿部 耕三
【審査官】 鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−140957(JP,A)
【文献】 特開2000−077362(JP,A)
【文献】 特開平07−283179(JP,A)
【文献】 特開2012−160587(JP,A)
【文献】 特開2007−073930(JP,A)
【文献】 特開2000−315664(JP,A)
【文献】 特開2014−045144(JP,A)
【文献】 特開平10−000554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/67 −21/683
H01L 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路が形成された半導体ウエハをダイシング装置でダイシングする方法であって、
ダイシング装置のウエハテーブルに接すると共に、表面に平坦基準面を備えるシート基材と、
回路とは反対側の半導体ウエハの裏面とシート基材の平坦基準面との間に形成される隙間を埋めると共に、半導体ウエハの裏面から剥離可能な隙間充填層とを有し、
前記隙間充填層が、半導体ウエハの裏面に貼り合わされる紫外線剥離型のダイシングテープと、前記シート基材の平坦基準面に接合される接合平坦面を備えた樹脂部材とにより形成され、
前記樹脂部材が加熱により流動性を有する熱流動性樹脂により形成され、ダイシングテープ側が開放された型枠内に半導体ウエハを配置して、加熱した熱流動性樹脂を流し込み、該熱流動性樹脂を固めて液面を接合平坦面にしたものであり、
前記シート基材と前記隙間充填層とを有した状態で、シート基材側をダイシング装置のウエハテーブルに吸着させて、半導体ウエハをダイシングすることを特徴とする半導体ウエハのダイシング方法。
【請求項2】
前記シート基材が紫外線透過性能を有しており、ダイシング後の半導体ウエハにシート基材側から紫外線を照射することで、ダイシングテープと半導体ウエハとの剥離を可能にする請求項に記載の半導体ウエハのダイシング方法。
【請求項3】
前記樹脂部材が紫外線透過性性能を有する請求項1又は2に記載の半導体ウエハのダイシング方法。
【請求項4】
前記樹脂部材が、ポリ塩化ビニル又はポリメチルペテンからなる請求項1〜3のいずれかに記載の半導体ウエハのダイシング方法。
【請求項5】
前記ダイシングテープ及び前記シート基材が、それぞれポリスチレン又はポリエチレンテレフタレートを用いたものである請求項1〜4のいずれかに記載の半導体ウエハのダイシング方法。
【請求項6】
半導体ウエハを直径方向に切削して二分割した上で、ダイシングを行う請求項1〜5のいずれかに記載の半導体ウエハのダイシング方法。
【請求項7】
半導体ウエハが炭化珪素単結晶基板を用いたものである請求項1〜6のいずれかに記載の半導体ウエハのダイシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハのダイシング方法に関し、詳しくは、半導体ウエハが反りを有した状態のままでダイシングを行うことができる半導体ウエハのダイシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路が形成された半導体ウエハから半導体チップを形成するにあたり、通常、先ずは、半導体ウエハの回路面に保護テープを貼り合せて外的異物による傷や汚染を防ぎながら、回路面とは反対側の裏面を研削(バックグラインド)して、チップに求められる厚みまで半導体ウエハを薄くする。次いで、研削した面にダイシングテープを貼り合せた上で、ダイシング装置のウエハテーブル(ワークテーブル等とも呼ばれる)に吸着・固定して、ブレード等を用いて個々の半導体チップに分割する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
これらにおいて、バックグラインド後に保護テープを剥がす際に半導体ウエハに割れ(クラック)が生じるのを防いだり、ダイシング時の半導体チップの保護やダイシング後のピックアップ性能等を高めるために、保護テープやダイシングテープについての研究改良が重ねられている。また、ダイシングの際に半導体チップにクラックが生じたり、チッピング(欠落やカケ)が発生しないように、ブレード形状の工夫のほか(特許文献2、3等)、ハーフカットダイシングやフルカットダイシングの採用、レーザー光を用いたダイシングなど(特許文献4等)、様々なダイシング方法が開発されている。
【0004】
一方で、回路を形成する半導体ウエハとしては、例えば、シリコン、SiC、GaAs、サファイア等があるが、これらは一般に、円柱状のインゴットからワイヤーソーやブレードソー等により切り出され、ラッピング、ポリッシング等の研磨により半導体ウエハの両面が平坦化される。ところが、研磨加工によって微細な凹凸は除去されるものの、反りやうねりを完全に取り除くのは難しい。
【0005】
そこで、例えば、インゴットから切り出されたアズスライスドウエハをチャックテーブルの水平保持面に吸引保持してうねりを矯正しながら一次研削して、これを表裏両面で行って歪みを除去した後、一方の面に紫外線硬化樹脂を付与して一旦水平保持面で押圧し、この押圧力を解除してうねりの形状を復帰させた上で、紫外線硬化樹脂を硬化させて、他方の面を二次研削することで、うねりが除去されるまでアズスライスドウエハを平坦化する方法が知られている(特許文献5参照)。このように高度に平坦化された半導体ウエハを用いることで、その後の回路形成等の工程で有利になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−77362号公報
【特許文献2】特開平6−216241号公報
【特許文献3】特開平6−112310号公報
【特許文献4】特開2010−118537号公報
【特許文献5】特開2011−249652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように半導体ウエハを平坦化できたとしても、半導体チップを製造する過程でバックグラインド加工を行うと半導体ウエハが反ってしまい、とりわけ保護テープを剥がした後では反りが顕著になる。この理由については、バックグラインドによる加工歪みやインゴット製造時の内部応力等が原因になるほか、バックグラインドで半導体ウエハが薄肉化されることや、ウエハ自体の大口径化も影響しているものと考えられる。
【0008】
そして、これまでは、反りを有した半導体ウエハをダイシング装置のウエハテーブルに真空吸着するなどして、水平形状に矯正してダイシングを行っているが、その際に掛かる応力が原因で半導体ウエハにクラックが生じたり、チッピングが発生してしまうことがある。特に、炭化珪素(SiC)のように硬くてもろい材質であると、このような問題はより深刻となる。
【0009】
そこで、本発明者らは上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、ダイシング装置のウエハテーブルに吸着させるシート基材と半導体ウエハの裏面との間に隙間充填層を介在させて、シート基材と半導体ウエハとの間に形成される隙間を埋めることで、バックグラインド後に反りを有した半導体ウエハを反った状態のままでダイシングし、クラックやチッピング等の発生が抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、クラックやチッピング等の発生を抑制しながら、歩留まり良く半導体ウエハをダイシングすることができる半導体ウエハのダイシング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、回路が形成された半導体ウエハをダイシング装置でダイシングする方法であって、ダイシング装置のウエハテーブルに接すると共に、表面に平坦基準面を備えるシート基材と、回路とは反対側の半導体ウエハの裏面とシート基材の平坦基準面との間に形成される隙間を埋めると共に、半導体ウエハの裏面から剥離可能な隙間充填層とを有した状態で、シート基材側をダイシング装置のウエハテーブルに吸着させて、半導体ウエハをダイシングすることを特徴とする半導体ウエハのダイシング方法である。
【0012】
本発明は、回路が形成された回路面とは反対側である半導体ウエハの裏面をバックグラインドした後に、半導体ウエハをダイシングする方法である。バックグラインドでは、例えば、300〜500μm程度の厚みを有した半導体ウエハを100〜200μm程度まで薄肉化することもあり、バックグラインド後には、回路面を上にして半導体ウエハが上に凸となったり、回路面を上にして半導体ウエハが下に凸となるようにしながら、半導体ウエハがお椀形状のように反ってしまう。
【0013】
そこで、本発明のダイシング方法では、ダイシング装置のウエハテーブルに接すると共に、その表面に平坦基準面を備えるシート基材と、半導体ウエハの回路面とは反対側の裏面とシート基材の平坦基準面との間に形成される隙間を埋める隙間充填層とを備えるようにして、半導体ウエハが反りを有した状態でダイシングを行う。すなわち、反りはあるものの、応力がない状態でダイシングすることにより、クラックやチッピングを防止するものである。
【0014】
このうち、隙間充填層については、半導体ウエハの反りに由来して形成されるシート基材との間の隙間を少なくとも埋めると共に、ダイシング後に半導体ウエハの裏面から剥離可能であることが必要である。このような隙間充填層を得る好適な手段としては次のような方法が挙げられる。
【0015】
すなわち、第一の例としては、バックグラインドした半導体ウエハの裏面に貼り合わされるダイシングテープにより形成されて、このダイシングテープが、シート基材の平坦基準面に接合される接合平坦面を備えるようにして隙間充填層とする。これに用いるダイシングテープは特に制限はなく、公知のものを使用することができ、例えば、紫外線を照射することで粘着層の粘着力が低下して剥離を可能にする紫外線剥離型(紫外線硬化型等とも呼ばれる)のダイシングテープ等を挙げることができる。このような、紫外線剥離型のダイシングテープであれば、シート基材が紫外線透過性能を有するようにすることで、ダイシング後の半導体ウエハにシート基材側から紫外線を照射して、簡便かつ確実に半導体ウエハからの剥離が可能になる。なお、ダイシングテープの貼り付けには、公知の貼り付け装置を用いることができ、その際、バックグラインド工程で使用した回路面の保護テープを残したままであってもよく、保護テープを剥がした上で半導体ウエハにダイシングテープを貼り合せるようにしてもよい。
【0016】
この第一の例においては、半導体ウエハの反り量を超える厚みを有したダイシングテープを貼り合せて、半導体ウエハとは反対側をカット(切断)して接合平坦面を形成する。すなわち、ダイシングテープを貼り合せて、シート基材側に余った部分をカットすれば、接合平坦面を形成することができる。そのため、このような手段により隙間充填層を得るには、ダイシングテープを複数枚貼り合せるようにしてもよいが、半導体ウエハの反りが比較的小さい場合、例えば反り量が250μm以下であって、かつ、300〜400μm程度の比較的厚い市販のダイシングテープを用いるような場合に適している。なお、半導体ウエハの反り量とは、ウエハ面内における高低差(最も高い点と最も低い点との差)を表すものとする。
【0017】
また、第二の例としては、バックグラインドした半導体ウエハの裏面に貼り合わされるダイシングテープと、シート基材の平坦基準面に接合される接合平坦面を備えた樹脂部材とを用いて隙間充填層を形成する。ダイシングテープについては第一の例で説明したものと同様であるが、100〜200μm程度の比較的薄い市販のダイシングテープを用いることができる。一方の樹脂部材は、ダイシングテープのみでは埋められない隙間に対応させるものであり、例えば、別途樹脂テープ等を貼り合せて接合平坦面を形成してもよいが、好適には、加熱により流動性を有する熱流動性樹脂を用いるようにするのがよい。すなわち、ダイシングテープ側が開放された型枠内に半導体ウエハを配置し、加熱して流動性を有する熱可塑性樹脂等のような熱流動性樹脂を流し込み、熱流動性樹脂の液面を水平面にしながら室温まで冷まして固めることで、液面側を接合平坦面にして隙間充填層を形成することができる。この第二の例については、半導体ウエハの反りが比較的大きい場合、例えば反り量が250μmを超えるようなときには、このような熱流動性樹脂を用いながら隙間充填層を形成するのが適している。
【0018】
この第二の例では、回路面を上にして半導体ウエハが上に凸となるような反りを有する場合には、ダイシングテープ側が凹面をなすため、この凹面内に熱流動性樹脂を流し込み、少なくとも半導体ウエハの最も低い点まで熱流動性樹脂が充填されるようにしてすればよい。一方、回路面を上にして半導体ウエハが下に凸となるような反りを有する場合には、ダイシングテープ側が凸面をなすため、この凸面の全てが熱流動性樹脂で覆われるようにする。なお、熱流動性樹脂の接合平坦面を形成する際には、熱流動性樹脂を単独で固めるようにしてもよく、或いは、後述するシート基材の平坦基準面と重ね合せて互いに接合させるようにしてもよい。
【0019】
ここで、第二の例に用いる樹脂部材について、ダイシングテープが紫外線剥離型である場合、シート基材と共に、それぞれ紫外線透過性能を有するものであるのがよい。また、熱熱流動性樹脂を用いる場合には、ダイシングテープやシート基材を形成する材料よりも融点(又は軟化点)が低いものを使用して、熱熱流動性樹脂を流し込んだ際にダイシングテープやシート基材が軟化するのを防ぐのがよい。加えて、加熱して流動性を持ったときに、表面張力が小さい方が半導体ウエハの形状に追従し易いことからより望ましい。これらの特性に関して、代表的な材料の例を表1に示している。この例で言えば、ダイシングテープやシート基材としては、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を使用し(粘着層を除く)、樹脂部材としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルペンテン(PMP)等を使用するのが適している。なお、表1中の紫外線透過率は波長350〜400nmでの値である。また、第1層はダイシングテープ、第2層は樹脂部材、第3層はシート基材をそれぞれ表す。更には、ここでは型枠を用いて熱流動性樹脂を流し込むようにしているが、予め、シート基材に加熱した熱流動性樹脂を塗布して、その上にダイシングテープ側を重ねるようにすることも可能である。
【0020】
【表1】
第1層:ダイシングテープ
第2層:樹脂部材
第3層:シート基材
PVC:ポリ塩化ビニル
PMP:ポリメチルペンテン
PE:ポリエチレン
PP:ポリプロピレン
PS:ポリスチレン
PET:ポリエチレンテレフタレート
【0021】
そして、本発明においては、隙間充填層の接合平坦面とシート基材の平坦基準面とを接合させる。これにより、半導体ウエハの反りに由来するシート基材の平坦基準面と半導体ウエハとの間に形成される隙間が、隙間充填層によって埋められた構造となり、ダイシング装置のウエハテーブルにシート基材側を吸着させることで、半導体ウエハが反りを有した状態でダイシングを行うことができる。このシート基材については、ダイシング装置のウエハテーブルに接して平坦基準面を形成することができるものであれば特に制限はないが、例えば、紫外線剥離型のダイシングテープを用いる場合には、上述したような紫外線透過性能を有したものを使用するのがよい。また、このシート基材を介して半導体ウエハとフレームとを一体にして、ダイシング装置でダイシングを行うようにしてもよい。
【0022】
また、半導体ウエハのダイシングにはブレードを用いてもよく、レーザーを用いるようにしてもよい。このうち、ブレードを用いる場合には、シート基材の半分程度の厚みまで切り込む条件とすることにより、半導体ウエハ及び隙間充填層まで含めて、一括して切り込むようにするとよい。その際、例えばシート基材への切り込み量を0.03mm前後に設定するのが望ましい。一方、レーザーダイシングを用いる場合は、半導体ウエハの形状(反り)に追従しながらダイシングができるように、例えば特開平10−554号公報等に記載された装置のように、半導体ウエハの高さを検出しながら、ブレードやレーザーのフォーカスポイントを相対的に上下に移動できる加工ヘッドを備えるようにするのがよい。
【0023】
また、本発明においては、半導体ウエハが反った状態で半導体ウエハを直径方向に切削して二分割した上で、ダイシングを行うようにすることも有効な手段である。直径方向の二分割により半導体ウエハの内部応力が開放されるため、その後にダイシングしても、半導体ウエハにクラックが入ったり、チッピングを誘起することはない。なお、二分割された半月状の半導体ウエハについては、シート基材や隙間充填層を除去した後に、従来法のように、ウエハテーブルに吸着させて水平形状に矯正しながらダイシングするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、反りを有した状態のまま半導体ウエハをダイシングすることができる。そのため、従来法のように、反りを有した半導体ウエハをウエハテーブルに吸着させて水平形状に矯正してダイシングを行う場合に比べて、クラックやチッピング等の発生を抑制することができ、半導体チップを得る上での歩留まりを向上させることができる。
【0025】
しかも、このようなダイシング方法は、炭化珪素のように硬くてもろい炭化珪素単結晶基板を用いた半導体ウエハのダイシングであったり、比較的大口径の半導体ウエハをダイシングするのに極めて適した方法であると言える。特に、炭化珪素の場合、内部応力の小さい半導体ウエハを製造しようとすると転位密度が高くなり、転位密度の低いウエハを製造しようとすると内部応力が高くなる傾向がある。また、内部応力が小さくて転位密度の低い半導体ウエハを製造しようとすると歩留が悪くなる。パワー半導体の要求する、耐圧が高く信頼性の高い半導体ウエハを歩留・生産性良く、安価で提供するためには、より転位密度の低い半導体ウエハを作ることに注力し、結果として高くなる内部応力は、本発明のようにダイシングの工夫で対応することがトータルコストの点で合理的であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例1に係る半導体ウエハのダイシング方法を模式的に説明するための断面説明図である。
図2図2は、実施例2に係るダイシング方法に用いた半導体ウエハの隙間充填層を形成する様子を模式的に示した断面説明図である。
図3図3は、実施例3に係るダイシング方法に用いた半導体ウエハの隙間充填層を形成する様子を模式的に示した断面説明図である。
図4図4は、従来法により半導体ウエハをダイシングした際に発生するチッピングの様子を模式的に示した説明図である。
図5図5は、従来法により半導体ウエハをダイシングした際に発生するクラックの様子を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例の内容に制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
口径4インチであって、炭化珪素単結晶基板の片面側(Si面)に回路が形成された厚さ300μmの半導体ウエハを用いて、以下のようにしてダイシングを行った。この半導体ウエハは、昇華再結晶法(改良レーリー法)により成長させた炭化珪素単結晶インゴットから切り出されたものを使用し、後述するラマンシフトにより求めた内部応力を表す歪み指数は0.09であった。
【0029】
先ず、この半導体ウエハについて、回路が形成された回路面と反対側の裏面をバックグラインド加工して厚さ200μmに研削し、回路面に貼られた保護テープを剥がしたところで、回路面を上にして半導体ウエハが上に凸(回路面側が凸)となるようにお椀型に反った形状を呈した。このバックグラインド後の半導体ウエハについて、触針式の粗さ計(東京精密社製 表面粗さ・輪郭形状測定機サーフコム)を用いて半導体ウエハの面内における高低差を確認したところ、ウエハの中心部付近が最も高く、ウエハの外周部付近に最も低い点が存在し、その高低差で表される反り量は240μmであった。また、内部応力を表す歪み指数は、0.01であった。なお、歪み指数は、半導体ウエハの裏面側におけるウエハ中心とエッジ(外周)から中心方向に2mm離れた外周部との2箇所について、それぞれラマン散乱光を測定し、ラマン散乱光ピークの波数の差分(ウエハ中心の値−外周部の値)を求めたものである。昇華再結晶法で製造された炭化珪素単結晶インゴットは、一般に、中心軸に対象の温度勾配環境で製造されることから、その内部応力は同心円状に分布するため、このような歪み指数によれば、ウエハの内部応力を評価することができると考えられる。
【0030】
次に、図1に示したように、紫外線により粘着力が低下する粘着層を備えた紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製:基材PET、透明、但し総厚み280μm(粘着層厚15μmを含む)の特注品〕をバックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面(回路とは反対側の面)に貼り合せた。次いで、半導体ウエハ1の厚み方向に対して外周部からはみ出した部分を水平方向にカットし、半導体ウエハ1とは反対側に接合平坦面2aを形成して隙間充填層2とした。更に、表面に粘着層を有したダイシングテープ〔デンカ社製 ADTECS UDT-1325D:基材PET、総厚み150μm(粘着層厚25μmを含む)〕を貼り合せて、シート基材3とした。このシート基材3は、ダイシング装置のウエハテーブル4に接して表面に平坦基準面3aを形成するものであり、この平坦基準面3aと隙間充填層2の接合平坦面2aとが接合される。また、シート基材3には、半導体ウエハ1を取り囲むようにフレーム(図示外)が備え付けられており、シート基材3を介してフレームと一体にされた半導体ウエハ1は、シート基材3側をダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、下記のような条件でブレード5によりダイシングを行った。
【0031】
使用したダイシング装置は、超音波ダイシングユニットを備えたディスコ社製DAD3220であり、ポーラスチャックテーブルからなるウエハテーブル4とブレード5を有している(スピンドルタイプ:1.8kWスピンドル、シャワーノズル:深切りノズルタイプ、ブレードクーラ:標準タイプ)。また、ダイシング加工では、スピンドル回転数20,000(/min)、送り速度20(mm/s)、切り込み量はシート基材へ0.030(mm)、超音波振幅0.005(mm)、使用カットモードはDownカット、カット方法は1パスフルカット、切削水(水温)は純水(22℃)、及び、固定方法は半導体ウエハ1の回路面側(Si面)を上に向けてシート基材3側をウエハテーブル4に真空吸着させた。
【0032】
これらの条件のもと、カットとカットとの間隔であるストリート幅を6.5mmとして半導体ウエハ1をダイシングし、有効チップ数180個となるように半導体チップに分割した。ダイシング終了後、フルオート紫外線照射器を用いてダイシング後の半導体ウエハ1にシート基材3側から紫外線を照射し、積算光量が350mJ/cm2以上となったところで隙間充填層2を形成したダイシングテープから剥離して、有効チップを含む全ての半導体チップをピックアップした。
【0033】
また、比較参照用として、本実施例1と同様の半導体ウエハを用いて、従来法によりダイシングを行った。すなわち、バックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面に紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製 UHP-110AT:基材PET、透明、総厚み110μm(粘着層厚10μmを含む)〕を貼り合せてフレームと一体にし、ダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、反りを矯正しながら水平形状にして上記と同様の条件でダイシングを行った。そして、本発明に係る実施例1の方法でダイシングした半導体ウエハと従来法でダイシングした比較参照用の半導体ウエハとについて、それぞれクラックの発生状況、及びチッピングの発生割合を比較した。結果は表2に示したとおりであり、従来法では、図4に示したように、有効チップ数180個のうち6個に半導体ウエハの裏面側にチッピングが発生していたのに対して、本発明に係る実施例1の方法ではチッピングは発生しなかった。また、クラックについては、いずれの方法でも発生していなかった。
【0034】
【表2】
【0035】
(実施例2)
実施例1と同様に、昇華再結晶法(改良レーリー法)を用いて製造された口径4インチ、厚さ300μmの炭化珪素単結晶基板の片面側(Si面)に回路が形成された半導体ウエハ(歪み指数は0.15)を用いて、次のようにしてダイシングを行った。先ず、この半導体ウエハの裏面をバックグラインド加工して厚さ100μmに研削し、回路が形成された回路面に貼られた保護テープを剥がしたところで、回路面を上にして半導体ウエハが上に凸(回路面側が凸)となるようにお椀型に反った形状を呈した。このバックグラインド後の半導体ウエハについて、実施例1と同様に面内の高低差を確認したところ、ウエハの中心部付近が最も高く、ウエハの外周部付近に最も低い点が存在し、その高低差で表される反り量は510μmであった。また、バックグラインド加工後の歪み指数は0.00であった。
【0036】
次に、紫外線により粘着力が低下する粘着層を備えた紫外線剥離型のダイシングテープ10〔デンカ社製ADTECS UDT-1005M3:基材PET、透明、総厚み105μm(粘着層厚5μmを含む)〕を半導体ウエハ1の裏面(回路とは反対側の面)に貼り合せて、図2に示したように、ダイシングテープ10側が開放された型枠6内にこの半導体ウエハ1を配置した。次いで、ダイシングテープ10側の凹面に対して、200℃に加熱して流動性を有したポリ塩化ビニル(PVC)11を流し込み、この凹面が全て熱流動性のPVC(熱流動性樹脂)で満たされるようにして半導体ウエハ1の最も低い点まで充填した。そして、熱流動性のPVCの液面を水平面となるようにして、7分間室温で放置してPVCを固めることで、液面側を接合平坦面12aにすると共に、ダイシングテープ10と熱流動性のPVC11とからなる隙間充填層12を形成した。
【0037】
次いで、隙間充填層12が形成された半導体ウエハ1を型枠6から取り外し、表面に粘着層を有したダイシングテープ〔デンカ社製 ADTECS UDT-1325D:基材PET、総厚み150μm(粘着層厚25μmを含む)〕を貼り合せて、シート基材(図示外)とした。このシート基材は、ダイシング装置のウエハテーブル4に接して表面に平坦基準面を形成するものであり、この平坦基準面と隙間充填層12の接合平坦面12aとが接合される。また、シート基材には、半導体ウエハ1を取り囲むようにフレーム(図示外)が備え付けられており、シート基材を介してフレームと一体にされた半導体ウエハ1は、シート基材側をダイシング装置のウエハテーブルに真空吸着させてダイシングされる。そして、実施例1と同様の条件により、ダイシングを行った。また、ダイシング終了後は、実施例1と同様にして隙間充填層12を半導体ウエハ1から剥離して、有効チップ180個を含む全ての半導体チップをピックアップした。
【0038】
また、比較参照用として、本実施例2と同様の半導体ウエハを用いて、従来法によりダイシングを行った。すなわち、バックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面に紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製 UHP-110BZ:基材PET、透明、総厚み110μm(粘着層厚10μmを含む)〕を貼り合せてフレームと一体にし、ダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、反りを矯正しながら水平形状にして上記と同様の条件でダイシングを行った。そして、本発明に係る実施例2の方法でダイシングした半導体ウエハと従来法でダイシングした比較参照用の半導体ウエハとについて、それぞれクラックの発生状況、及びチッピングの発生割合を比較した。結果は表3に示したとおりであり、従来法では、有効チップ数180個のうち15個に半導体ウエハの裏面側にチッピングが発生すると共に、図5に示したように、ダイシング後の半導体ウエハ1にはおよそ4.0cmにわたるクラックが発生していた。それに対して、本発明に係る実施例2の方法ではチッピングの発生は1個のチップのみであり、クラックは発生していなかった。
【0039】
【表3】
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様に、昇華再結晶法(改良レーリー法)を用いて製造された口径4インチ、厚さ300μmの炭化珪素単結晶基板の片面側(C面)に回路が形成された半導体ウエハ(歪み指数は0.13)を用いて、次のようにしてダイシングを行った。先ず、この半導体ウエハの裏面をバックグラインド加工して厚さ200μmに研削し、回路が形成された回路面に貼られた保護テープを剥がしたところで、回路面を上にして半導体ウエハが下に凸(回路面側が凹)となるようにお椀型に反った形状を呈した。このバックグラインド後の半導体ウエハについて、実施例1と同様に面内の高低差を確認したところ、ウエハの中心部付近が最も高く、ウエハの外周部付近に最も低い点が存在し、その高低差で表される反り量は500μmであった。また、バックグラインド加工後の歪み指数は0.02であった。
【0041】
次に、紫外線により粘着力が低下する粘着層を備えた紫外線剥離型のダイシングテープ10〔デンカ社製ADTECS UDT-1005M3:基材PET、透明、総厚み105μm(粘着層厚5μmを含む)〕を半導体ウエハ1の裏面(回路とは反対側の面)に貼り合せて、図3に示したように、ダイシングテープ10側が開放された型枠6内にこの半導体ウエハ1を配置した。次いで、ダイシングテープ10側の凸面に対して、240℃に加熱して流動性を有したポリメチルペンテン(PMP)11を流し込み、この凸面が全て熱流動性のPMP(熱流動性樹脂)で覆われるようにした。そして、熱流動性のPMPの液面を水平面となるようにして、5分間室温で放置してPMPを固めることで、液面側を接合平坦面12aにすると共に、ダイシングテープ10と熱流動性のPMP11とからなる隙間充填層12を形成した。
【0042】
次いで、隙間充填層12が形成された半導体ウエハ1を型枠6から取り外し、実施例2と同様にシート基材を貼り合せて、半導体ウエハ1をフレームと一体化させた。そして、シート基材側をダイシング装置のウエハテーブルに真空吸着させ、実施例1と同様の条件により、ダイシングを行った。また、ダイシング終了後は、実施例1と同様にして隙間充填層12を半導体ウエハ1から剥離して、有効チップ180個を含む全ての半導体チップをピックアップした。
【0043】
また、比較参照用として、本実施例3と同様の半導体ウエハを用いて、従来法によりダイシングを行った。すなわち、バックグラインド後の半導体ウエハ1の裏面に紫外線剥離型のダイシングテープ〔デンカ社製 UHP-110BZ:基材PET、透明、総厚み110μm(粘着層厚10μmを含む)〕を貼り合せてフレームと一体にし、ダイシング装置のウエハテーブル4に真空吸着させて、反りを矯正しながら水平形状にして上記と同様の条件でダイシングを行った。そして、本発明に係る実施例3の方法でダイシングした半導体ウエハと従来法でダイシングした比較参照用の半導体ウエハとについて、それぞれクラックの発生状況、及びチッピングの発生割合を比較した。結果は表4に示したとおりであり、従来法では、有効チップ数180個のうち7個に半導体ウエハの裏面側にチッピングが発生すると共に、およそ3.5cmにわたるクラックが発生していた。それに対して、本発明に係る実施例3の方法ではチッピング及びクラックの発生はいずれも確認されなかった。
【0044】
【表4】
【0045】
以上のとおり、本発明によれば、クラックやチッピング等の発生を抑制することができ、従来法に比べて、歩留まり良く半導体チップが得られるようになる。
【符号の説明】
【0046】
1:半導体ウエハ、2,12:隙間充填層、2a,12a:接合平坦面、3:シート基材、3a:平坦基準面、4:ウエハテーブル、5:ブレード、6:型枠、10:ダイシングテープ、11:熱流動性樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5