(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザビームの特性としては、空間光強度やエネルギーの他に、出力経時変化等の重要な特性が存在する。従来は、レーザビームの種々の特性を得るために、複数の異なる特性測定装置を用いて何回かに分けてレーザビーム特性の測定を行っていた。しかしながら、本願の発明者は、レーザビーム特性の測定を数回に分けて行うと、測定装置毎のバラツキや変動が発生するため、レーザビーム特性を正しく評価することが難しいことを見出した。すなわち、従来の方法では、同一のレーザビームを測定対象としていないために、個々の測定結果に各ビーム間の誤差と思われるズレが生じる場合があることが見出された。また、従来は、個別の測定装置による特性の測定のズレを最小にするための設定や調整に長時間を要するという問題もあった。
【0005】
なお、レーザ発振装置には、出力フィードバック制御を行うためにレーザ発振装置の内部にレーザ出力を測定している場合がある。しかし、レーザ発振装置内部におけるレーザビームと、レーザ発振装置から出力されてワークの加工等に使用されるレーザビームには、レーザビームが伝送される過程での減衰や拡散、遅れ等の影響による差異があることが一般的である。このため、レーザ発振装置の内部に設けられたセンサによる測定は、ワークの加工等に利用される最終的なレーザビームの特性の測定としては適さないものであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、レーザ発振装置から出力されたレーザビームの評価を行うレーザビーム評価装置が提供される。このレーザビーム評価装置は、レーザビームの空間光強度分布を計測する2次元光センサアレイと、レーザビームの出力経時変化を計測する光電効果型光センサと、レーザビームのエネルギーを計測するレーザパワーメータと、を備え、同一のレーザビームに関する空間光強度と出力経時変化とエネルギーとを一括計測することを特徴とする。
このレーザビーム評価装置によれば、レーザビームの3つの特性(空間光強度分布と出力経時変化とエネルギー)の測定を別々に行う必要が無く、同一のレーザビームに関するこれらの3つの特性を一括計測することが可能である。また、複数の特性測定装置の間の整合性や誤差を最小にするために行われていた個々の特性測定装置の長時間の調整作業を削減できる。
【0008】
(2)上記レーザビーム評価装置は、更に、一つのレーザビームを3つの分割レーザビームに分割するビームスプリッタを備え、前記一つのレーザビームから分割された前記3つの分割レーザビームを用いて前記空間光強度と出力経時変化とエネルギーを同時に計測するようにしてもよい。
この構成によれば、レーザビームの3つの特性(空間光強度分布と出力経時変化とエネルギー)の測定を同時に行うことができる。
【0009】
(3)上記レーザビーム評価装置は、更に、前記レーザ発振装置から出力されたレーザビームを前記2次元光センサアレイに結像する結像光学系と、光ファイバを介して前記レーザ発振装置と接続されたレーザ出射ユニットのビーム結像位置が、前記結像光学系の物体基準位置に位置決めされるように前記レーザ出射ユニットを固定する機械式マウントと、前記レーザ発振装置に接続された光ファイバの出射端が、前記結像光学系の物体基準位置に位置決めされるように前記光ファイバを固定する光ファイバアダプタと、を備え、前記機械式マウントと前記光ファイバアダプタとを交換することによって、前記レーザ出射ユニットのビーム結像位置と前記光ファイバの出射端とのいずれかを前記結像光学系の物体基準位置に位置決めすることが可能に構成されていてもよい。
この構成によれば、レーザビーム特性に問題が生じている場合に、その問題がレーザ出射ユニットに起因するか否かを容易に判定することができる。
【0010】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、レーザビーム評価装置、レーザビームの評価方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態としてのレーザビーム評価システムの構成を示す説明図である。このレーザビーム評価システムは、レーザ発振装置100と、レーザビーム評価装置200とを含んでいる。レーザビーム評価装置200は、移動可能に構成されており、レーザビーム特性の評価を行う際には、レーザ発振装置100が配置されている地点の傍にレーザビーム評価装置200が搬送される。
【0013】
レーザ発振装置100の出力端には光ファイバOPFが接続され、光ファイバOPFの末端はレーザ出射ユニット212に接続される。なお、
図1では、図示の便宜上、光ファイバOPFの末端付近だけが太く描かれており、その他の部分は細い線で描かれているが、実際には同じ太さのファイバである。レーザ出射ユニット212は、内部にミラーやレンズなどを含む光学系を備えており、この光学系によってレーザビームを所望のビーム結像位置MLに結像する機能を有する。レーザ出射ユニット212のビーム結像位置MLにワークを配置すれば、ワークの溶接等の加工を行うことが可能である。レーザ出射ユニット212はレーザ発振装置100の周辺装置である。但し、
図1では、レーザ出射ユニット212がレーザビーム評価装置200内に固定された状態を示している。レーザ発振装置100としては、例えばYAGレーザ発振装置が使用される。但し、YAGレーザ以外の個体レーザや、CO
2レーザなどのガスレーザ、及び、半導体レーザなどの種々のレーザ発振装置を利用することが可能である。
【0014】
レーザビーム評価装置200は、レーザ出射ユニット212を固定する機械式マウント210と、光ファイバOPFを固定する光ファイバアダプタ220と、結像光学系230と、2次元光センサアレイ240と、光電効果型光センサ250と、レーザパワーメータ260と、出力波形レコーダ270と、データ解析装置280とを備えている。
【0015】
機械式マウント210は、レーザ出射ユニット212をレーザビーム評価装置200内の基盤202の予め決められた位置に固定する固定部214を有している。光ファイバアダプタ220は、光ファイバを固定するアダプタ部222と、アダプタ部222をレーザビーム評価装置200内の基盤202の予め決められた位置に固定する固定部224とを有している。光ファイバアダプタ220に固定される光ファイバとしては、通常は、レーザ出射ユニット212から取り外された光ファイバOPFがそのまま使用される。これらの機械式マウント210と光ファイバアダプタ220とを交換することによって、レーザ出射ユニット212のビーム結像位置MLと、光ファイバOPFの出射端とのうちのいずれか一方を、結像光学系230の物体基準位置OPに位置決めすることが可能である。この点については更に後述する。
【0016】
結像光学系230は、平行化レンズ232と、ビームスプリッタ234と、減光フィルタ236と、結像レンズ238とを有している。結像光学系230の物体基準位置OP以降におけるレーザビームの光路は、図示の便宜上、一点鎖線の直線で描かれている。平行化レンズ232は、結像光学系230に入射したレーザビームLB0を平行化するレンズである。なお、本実施形態において、結像光学系230の物体基準位置OPは、平行化レンズ232の物体側焦点位置に相当する。
【0017】
ビームスプリッタ234は、一つのレーザビームLB0を3つの分割レーザビームLB1,LB2,LB3に分割する機能を有する。本実施形態では、ビームスプリッタ234として、2つの主表面が互いに傾いた楔形のガラス体に誘電体を蒸着した光学素子を使用している。第1の分割レーザビームLB1は、ビームスプリッタ234の入射面234aで反射されたビームであり、減光フィルタ236と結像レンズ238とを通過した後に2次元光センサアレイ240に入射する。第2の分割レーザビームLB2は、ビームスプリッタ234の裏面234bで反射されたビームであり、光電効果型光センサ250に入射する。第3の分割レーザビームLB3は、ビームスプリッタ234を透過したビームであり、レーザパワーメータ260に入射する。ビームスプリッタ234の入射面234aと裏面234bの反射率及び透過率は、3つの分割レーザビームLB1,LB2,LB3がそれぞれの検出器240,250,260の感度領域に適した分光比率を有するように調整されている。具体的には、ビームスプリッタ234のガラス体の表面234aと裏面234bに、部分透過膜若しくは部分反射膜、及び/又は、反射防止膜を構成する誘電体が蒸着されている。なお、1つの光ビームを3分割する1つの楔形のビームスプリッタ234を使用する代わりに、1つの光ビームを2分割するビームスプリッタを2つ用いても良い。但し、楔形のビームスプリッタ234を使用すれば、ビームスプリッタの配置に要する空間を小さくすることができ、また、レーザビーム特性の測定に使用する3つの検出器240,250,260を比較的小さな空間内に配置できるという利点がある。
【0018】
減光フィルタ236は、第1の分割レーザビームLB1の強度を2次元光センサアレイ240の感度領域に整合させる光吸収型フィルタ群である。但し、減光フィルタ236は省略可能である。
【0019】
結像レンズ238は、2次元光センサアレイ240の撮像面に第1の分割レーザビームLB1を結像するレンズである。結像レンズ238に関しては、そのレンズ又はレンズマウントを交換可能な機構を採用して、焦点距離が異なるレンズに交換することによって撮像倍率を調整できるように構成されていることが好ましい。この場合に、各レンズマウントを、その固定位置と撮像面位置(焦点位置)を一定とする鏡筒長さを有するように構成しておけば、レンズマウント交換前後で特別な焦点位置調整は不要であり、撮像倍率を容易に変更可能である。
【0020】
2次元光センサアレイ240は、第1の分割レーザビームLB1の空間光強度(空間プロファイル)を測定するセンサである。2次元光センサアレイ240としては、例えば、CCDセンサアレイやCMOSセンサアレイを使用することができる。2次元光センサアレイ240の出力信号は、データ解析装置280に適宜供給される。
【0021】
光電効果型光センサ250は、第2の分割レーザビームLB2の出力(光強度)の経時変化を測定するセンサである。光電効果型光センサ250としては、例えば、フォトダイオードや、フォトトランジスタ、光電管などの各種の光電効果型センサを使用することができる。特に、出力の経時変化を精度良く測定するために、高速応答型のフォトダイオードなどを使用することが好ましい。なお、通常は、レーザ発振装置100の内部にも出力フィードバック用のフォトセンサが配置されていることが多い。但し、レーザ発振装置100の内部からレーザ出射ユニット212までに至るレーザビームの光路には、光ファイバOPFなどの光学部品が多数存在するので、レーザ出射ユニット212から出射されるレーザビームの特性には、長い光路中における減衰や拡散、遅れ等が大きな影響を与えている可能性がある。従って、レーザ出射ユニット212(又は光ファイバOPF)の出射端におけるレーザビームLB0の強度が適切か否かを、レーザ発振装置100の内部に設けられた出力フィードバック用フォトセンサで測定することは不可能である。この意味では、結像光学系230の内部の光路は、光ファイバを含まないことが好ましい。光電効果型光センサ250の出力は、出力波形レコーダ270に供給される。出力波形レコーダ270は、光電効果型光センサ250の出力信号を記録する記録計である。記録された出力信号は、出力波形レコーダ270からデータ解析装置280に適宜供給される。
【0022】
レーザパワーメータ260は、第3の分割レーザビームLB3のエネルギーを測定するための出力熱量計である。本実施形態において、レーザ発振装置100はパルス発振によりレーザビームLB0を発振する。この場合に、レーザパワーメータ260としては、1パルス分の分割レーザビームLB3のエネルギーを精密に測定できるように、応答が十分に高速であるものを使用することが好ましく、例えば焦電効果型のレーザパワーメータを使用することが好ましい。レーザパワーメータ260の出力信号は、データ解析装置280に適宜供給される。
【0023】
3つの検出器240,250,260に入射する3つの分割レーザビームLB1,LB2,LB3の光強度の比率は、予め精密に測定されて較正されていることが好ましい。
【0024】
図2は、
図1に示した状態から、機械式マウント210を光ファイバアダプタ220に交換した状態を示している。この状態では、光ファイバOPFの出射端OPFeが、結像光学系230の物体基準位置OPに位置決めされる。このように、本実施形態では、機械式マウント210と光ファイバアダプタ220とを交換することによって、レーザ出射ユニット212のビーム結像位置ML(
図1)と、光ファイバOPFの出射端OPFe(
図2)とのいずれか一方を、結像光学系230の物体基準位置OPに容易に位置決めすることが可能である。このように構成した理由は、レーザ出射ユニット212に問題があるか否かを容易に判断できるようにするためである。すなわち、3つの検出器240,250,260で検出されたレーザビーム特性に何らかの問題がある場合に、
図1の状態におけるレーザビーム特性と
図2の状態におけるレーザビーム特性とを比較することによって、レーザ出射ユニット212に問題があるか否かを判定することが可能である。例えば、
図1の状態で発生していた問題が
図2の状態で解消した場合には、レーザ出射ユニット212に問題があるものと判定できる。一方、
図1の状態で発生していた問題が
図2の状態でも解消しない場合には、光ファイバOPF又はレーザ発振装置100に問題があるものと判定できる。更に、
図2の状態において、光ファイバOPFを新しい光ファイバに交換してレーザビーム特性を測定しても依然として問題が解消されない場合には、レーザ発振装置100自体に問題があるものと判定できる。
【0025】
図3は、2次元光センサアレイ240で測定されるレーザビームの空間プロファイル(空間光強度分布)を示している。
図3(A)はX軸上における光強度分布の例を示しており、
図3(B)はレーザビームの2次元的な光スポットの範囲を示している。なお、
図3(A),(B)の軸X,Yはレーザビームの光軸に垂直な平面の座標であり、
図3(A)の縦軸Pはレーザビームの強度(正確には出力密度[W/mm
2])である。
図3(A)に示すように、正常なレーザビームの空間プロファイルは、光スポットの中心CPにおいてピーク出力を有する。
【0026】
図4は、レーザの出力指令PCと出力波形POとレーザパワー検出値RPの3つのパラメータの経時変化の一例を示すタイミングチャートである。
図4(A)の出力指令PCは、レーザ発振装置100に与えられる指令値である。ここでは、時刻t1から時刻t2に至るまでの台形形状のパルス状の出力指令PCが例示されている。1パルスの時間(=t2−t1)は、例えば約5ミリ秒である。
図4(B)の出力波形POは、光電効果型光センサ250で測定される出力(光強度)の経時変化である。縦軸は、レーザビームの強度(単位は[W]又は[W/mm
2])である。この例では、出力指令PCに対応した適切な出力波形POが得られている。
図4(C)のレーザパワー検出値RPは、レーザパワーメータ260で測定されたエネルギーである。レーザパワー検出値RPは、レーザビームの1パルスの間に徐々に上昇する。1パルスの終了時刻t2以降におけるレーザパワー検出値RPが、1パルス分のエネルギーに相当する。
【0027】
本実施形態のレーザビーム評価装置200は、
図3(A),(B)に示した空間光強度分布と、
図4(B)に示した出力波形(出力経時変化)と、
図4(C)に示したレーザパワー検出値(エネルギー)とを同時に測定することが可能である。すなわち、同一のレーザビームLB0に関して、これらの3つの特性を同時に測定できる。従って、異なる特性測定装置で得られた特性同士の整合性や誤差を考慮することなく、レーザビーム特性が良好か否かを判定することができる。また、複数の特性測定装置の整合性や誤差を最小にするために行われていた個々の特性測定装置の長時間の調整作業を削減できる。更に、レーザビーム特性に何らかの問題がある場合に、その対策や調整を素早く実行することが可能となる。なお、本明細書において、「同一のレーザビームに関して…同時に測定する」という語句は、そのレーザビームから分割された複数の分割レーザビームを用いて測定を行う場合を含む広い意味を有している。
【0028】
図5は、レーザ出力の調整の一例を示すタイミングチャートである。
図5(A)は調整前の出力指令PC1の一例を示し、
図5(B)は調整前の出力波形P01の一例を示している。
図5(A)の出力指令PC1は
図4(A)に示したものと同じである。
図5(B)の出力波形PO1は、破線で示す望ましい出力波形POtからずれている。この望ましい出力波形POtは、
図4(B)に示した出力波形POと同じものである。
【0029】
図5(C)は調整後の出力指令PC2の一例を示し、
図5(D)は調整後の出力波形P02の一例を示している。出力指令の波形を
図5(A)から
図5(C)に変更することによって、
図5(D)に示すように出力波形PO2を望ましい出力波形POtとほぼ同じ形状に整形することが可能である。
【0030】
なお、レーザビーム特性に生じうる問題としては、レーザビームの光路内における各種の分散に起因する問題がある。例えば、光ファイバOPFには単色分散や偏光モード分散などの各種の分散が存在することが知られている。これらの各種の分散に起因して、空間光強度分布、出力波形(出力経時変化)、及びレーザエネルギーが変化し得る。本実施形態では、このような場合にも、同一のレーザビームLB0に関する空間光強度分布と出力経時変化とエネルギーとを同時に測定することができるので、異なる測定で得られた特性同士の整合性や誤差を考慮することなく、レーザビーム特性が良好か否かを直ちに判定することができる。
【0031】
・変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0032】
・変形例1:
レーザビーム評価装置の構成としては、
図1に示したもの以外の種々の構成を適用することが可能である。また、3つの分割レーザビームLB1,LB2,LB3を得るための光学系としては、
図1に示した結像光学系以外の種々の構成を採用することが可能である。
【0033】
・変形例2:
上記実施形態では、1レーザビームパルスのエネルギーを測定していたが、この代わりに、連続する所定の複数個のレーザビームパルスのエネルギーの合計を測定するようにしても良く、或いは、所定の時間内におけるレーザエネルギーの合計を測定するようにしてもよい。