特許第6362502号(P6362502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362502
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】海島型複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
   D01F8/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-202694(P2014-202694)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69770(P2016-69770A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森江 健吾
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−028016(JP,A)
【文献】 特開昭60−039413(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047572(US,A1)
【文献】 特開2008−190053(JP,A)
【文献】 特開2004−277911(JP,A)
【文献】 特開平11−222726(JP,A)
【文献】 特開平01−280042(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/123586(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00− 8/18
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレートを海部とし、繊維長手方向に連続した下記一般式に示すポリエーテルブロックアミド共重合物を島部とし、島部の数が、5個以上、40個以下であり、海/島横断面積比率が30/70〜95/5の海島型複合繊維。
[化1]
HO−(CO−PA−CO−O−PE−O)n−H
[式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。]
【請求項2】
海部のポリエチレンテレフタレートが未変性ポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の海島型複合繊維。
【請求項3】
海部のポリエチレンテレフタレートがポリアルキレングリコール共重合ポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の海島型複合繊維。
【請求項4】
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレートを海部とし、下記一般式に示すポリエーテルブロックアミド共重合物のみを島部とし、島部の数が5個以上、40個以下の海島口金を用いて溶融紡糸する、島部の数が、5個以上、40個以下であり、海/島横断面積比率が30/70〜95/5である海島型複合繊維の製造方法。
[化2]
HO−(CO−PA−CO−O−PE−O)n−H
[式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸放湿性および制電性を有する海島型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系の繊維形成樹脂からなる繊維は糸強度、染色性、加工性、耐薬品性、耐熱性に優れ、衣料用途や産業資材用途に幅広く使用されている。しかし、ポリエステル繊維は合成繊維の中でも特に吸湿性に乏しく、衣料として用いた際に発汗及び衣服内湿度の上昇によるべたつき、乾燥した環境での静電気による不快感がある。
この不快感を解消するために、例えば、親水ポリマーを練り込んだ制電繊維とすることが挙げられるが、繊維中に存在する親水ポリマーの吸湿率は少なく、吸放湿性を示すとは言い難く、さらに低湿状態では十分な制電性が得られていない。
また、制電性繊維として導電カーボンブラックを練り込んだ合成繊維が開発されている。しかし、導電カーボンブラックを練り込んだ場合、繊維の色はほぼ黒色に限定され、染色性に優れる合成繊維の意匠性が激しく損なわれる。また、白色導電材を練り込んだ合成繊維は優れた制電性と繊維の白度を両立しているが、白色導電材は高価であり、製造コストが高くなってしまう。さらにこれらの繊維は吸湿性を示さない。
そこで、特許文献1、2には、ポリエステル繊維に吸湿性を付与させるためにポリエステルを鞘とし、吸水率の高いポリエーテルとポリアミドの共重合物を芯とした芯鞘複合繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−361616号公報
【特許文献2】特開2010−189773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら鞘をポリエステルとした場合、高温高圧で熱水に曝される染色の際に、芯部の吸水による芯鞘剥離や繊維のクラックが生じたり、そのことにより芯部が脱落し、付与された吸湿性や制電性が劣化する。
したがって本発明は、上記課題を克服し、染色での吸湿成分の脱落を最小限に抑え、高圧染色後にも優れた吸放湿性および制電性を有する繊維を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレートを海部とし、繊維長手方向に連続した下記一般式に示すポリエーテルブロックアミド共重合物を島部とし、島部の数が、5個以上、40個以下であり、海/島横断面積比率が30/70〜95/5の海島型複合繊維を第1の要旨とする。
[化1]
HO−(CO−PA−CO−O−PE−O)n−H
[式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。]
また上記の海島型複合繊維において、海部のポリエチレンテレフタレートが未変性ポリエチレンテレフタレートであるものを第2の要旨とする。
また上記の海島型複合繊維において、海部のポリエチレンテレフタレートがポリアルキレングリコール共重合ポリエチレンテレフタレートであるものを第3の要旨とする。
また、本発明は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレートを海部とし、下記一般式に示すポリエーテルブロックアミド共重合物を島部とし、島部の数が5個以上、40個以下の海島口金を用いて溶融紡糸する、島部の数が、5個以上、40個以下で、海/島横断面積比率が30/70〜95/5の海島型複合繊維の製造方法を第4の要旨とする。
[化2]
HO−(CO−PA−CO−O−PE−O)n−H
[式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の海島型複合繊維によれば、高圧染色加工においてトラブルがなく、加工後にも優れた吸放湿性および制電性を有する繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリエチレンテレフタレートを海部とし、ポリエーテルブロックアミド共重合物を島部とした海島型複合繊維である。
【0008】
本発明において、海部は、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートのポリエチレンテレフタレートを用いる。具体的にはホモポリエチレンテレフタレートであっても、一部をポリアルキレングリコールや有機スルホン酸金属塩等他の成分で変性されたポリエチレンテレフタレートであっても良い。
特に好適な海部のポリエチレンテレフタレートとしては未変性のポリエチレンテレフタレート(ホモポリエチレンテレフタレート)、ポリアルキレングリコール共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0009】
ポリアルキレングリコールを共重合する場合の好適な例を示す。
ポリアルキレングリコールは一般式 HO(Cn2nO)mH(但し、n、mは正の整数)で表されるもので、n=2のポリエチレングリコール(以下PEGと称す)が汎用的で最も好ましい。
また、本発明に用いるポリアルキレングリコールの分子量は、50〜1000が好ましく、より好ましくは、100〜800である。
またポリアルキレングリコールの共重合量は、ポリマーに対して2〜8質量%であることが好ましく、4〜6質量%程度であることがより好ましい。
このようなポリアルキレングリコールを共重合したものであれば、ポリマーに柔軟性を付与したり、染色性を高める効果がある。
【0010】
本発明において島部に用いられるポリエーテルブロックアミド共重合物は、例えば、(1)ジアミン末端を有するポリアミド単位とジカルボン酸基末端を有するポリオキシアルキレン単位、(2)ジカルボン酸基末端を有するポリアミド単位と、ポリエーテルジオール、(3)ジカルボン酸基末端を有するポリアミド単位とジアミン末端を有するポリオキシアルキレン単位(α位とω位に2つの水酸基を有するポリオキシアルキレンのシアノエチル化および水素化によって得られる)のように、反応性末端基を有するポリアミド単位と反応性末端基を有するポリエーテル単位との共重縮合で得られる共重合物である。本発明においては(2)であることが好ましく、下記一般式にて表される。
HO−(CO−PA−CO−O−PE−O)−H
[式中、PAはポリアミド単位(ハードセグメント)、PEはポリエーテル単位(ソフトセグメント)、nは繰り返し単位を示す。]
また、ポリアミド単位としては6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン等が挙げられるが、6−ナイロン、12−ナイロンが特に好適に用いることができる。また、ポリエーテル単位としては、例えば、ポリオキシアルキレン単位、ポリエーテルジオール等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が好適に用いられる。
また、ポリアミド単位とポリエーテル単位の質量比は、好ましくは、99:1〜5:95、より好ましくは80:20〜10:90であり、この範囲であれば有効に用いることができる。
【0011】
本発明の海島型複合繊維は、島部の数が、5個以上、40個以下が好ましい。この範囲であれば、高圧染色時の繊維クラックや島部の剥離、脱離が生じにくく、糸の品質も良好で、吸湿性および制電性に優れるものとなる。島部の数は、より好ましくは、9個以上、25個以下である。
【0012】
本発明の海島型複合繊維は、海/島横断面積比率が30/70〜95/5である。この範囲外となった場合は十分な吸湿性が得られなかったり、糸強度が著しく低下する上、繊維クラックや島部の脱落が生じ、さらに製糸性も悪くなる。より好ましくは、海/島横断面積比率が、50/50〜90/10である。
【0013】
また、繊維横断面において、島の配列は特に規定されるものではないが、最外層に配列される島部が繊維表面から繊維半径の2%〜40%の距離に存在することで、島を露出させずに繊維クラックや脱落を防ぎ、かつ衣料の快適性にかかわる吸放湿速度も速くすることができるため、この範囲が好ましい。
【0014】
本発明の海島型複合繊維の太さ(総繊度)は特に限定されないが、1dtex〜100dtex程度であるのが好ましい。繊度が1dtex以上であれば、繊維化は容易であるし、100dtex以下であれば、編織物等の布帛として、柔らかな衣類の製造が可能となる。
【0015】
また、本発明の海島型複合繊維は、布帛(編織物)を形成する繊維として、どのような形態で使用されても良く、マルチフィラメント、モノフィラメント、ステープル等のいずれでもよく、また、フィラメントは仮撚り加工糸、エアー混繊糸、コアスパンヤーン等の意匠糸、カバーリング糸であってもよい。更に、ステープルは紡績糸としてもよい。
【0016】
更に、本発明の海島型複合繊維で製造される布帛の形態は特定されず、編組織は緯編、経編を問わず、それぞれの変化組織でも構わない。織組織も平織(プレーン)、綾織(ツイル)、朱子織(サテン)等、またはそれぞれの変化組織、さらにはドビーやジャガード等でも構わない。また、レースや不織布、フェルトとして利用することも可能である。
【0017】
かかる布帛の形態において、目付け、ゲージ等は特に規定しない。また、本発明の海島型複合繊維を100質量%で用いても良いし、他の繊維と交編、交織して用いても良い。更には天然繊維と混紡して用いても構わない。使用割合も特に規定しないが、本発明の海島型複合繊維を20質量%〜100質量%の割合で使用するのが好ましい。
【0018】
このような機能を持つ布帛を、肌着、セーター、シャツ、パンティストッキング等の衣料品、スキー、スケートフェア、ダイビングスーツ等のスポーツ衣料品、シーツ、中綿等の寝具品、食品包装材等の材料とすることにより、これらの製品に機能を持たせることができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。尚、本発明の実施例及び比較例で得られた糸の特性・評価は次に示す方法により求めた。
【0020】
<剥離・クラック有無の確認>
染色時に一般的に使用される助剤として純水1リットルに対し三洋化成工業製均染剤イオネットRAP250 1.0g、酢酸0.2mLを加え、質量増減に大きく影響する染料自体は加えずに、これを処理剤とした。
実施例及び比較例で得られた筒編生地の油剤を洗い落としたのち、質量を測定し、50倍の質量の処理剤とともにステンレスポットに密閉し、130℃の油浴中で60min処理した後、十分に水洗、風乾し、これを処理サンプルとした。
処理サンプルから糸を抜き出し、ミクロトームで繊維横断面を採取し、光学顕微鏡で撮影し、剥離およびクラックの有無を確認した。
<質量減少率>
20℃65%RHにおいての処理サンプルの平衡質量M1とし、筒編生地の油剤を洗い落とした際の平衡質量Mとして、質量減少率(%)=[(M1−M)/M]×100として質量減少率を求めた。
<制電性(摩擦耐電圧)>
JIS L 1094 1997 摩擦帯電減衰測定法にて処理サンプルの初期摩擦耐電圧及び半減期を測定した。測定条件は以下の通りである。
摩擦帯電測定:エレクトロ スタティックテスター
摩擦布:羊毛
摩擦方向:縦方向
洗濯処理:洗濯あり
温湿度:22℃ 33%RH
<吸湿率>
処理サンプルを22℃40%RHに調整された部屋に1日静置した後、質量を測定し、初期質量とした。その後に30℃90%RHに調整された恒温湿槽に入れ、12分後と24分後の質量を測定し、初期質量からの質量増加率を吸湿率とした。
<吸放湿性 吸湿率差ΔMR>
絶乾状態のときの処理サンプルの質量をM0、20℃65%RH環境での平衡質量をM1、30℃90%RH環境での平衡質量をM2とし、30℃90%RH環境での吸湿率と20℃65%RH環境での吸湿率差をΔMRとし、すなわちΔMR=[(M2−M1)/M0]×100より求めた。
【0021】
〔実施例1〕
分子量600のポリエチレングリコールを4.8質量%共重合させたポリエチレンテレフタレートを海部、ポリエーテルブロックアミド共重合物(PEBAX(登録商標) MH1657)を19個の島部とし、海島断面を形成しうる口金を用い、溶融複合紡糸を行った。各ポリマーの融点より高い温度に調整された2つのエクストルーダ―でそれぞれのポリマーを押し出し、ギアポンプで計量したのち口金内で会合し、吐出された糸条を、油剤付与ガイドを通過させ、1000m/minで回転する第1ゴデットローラーを介し、得られる糸の破断伸度が20〜60%となるよう調整された速度の第2ゴデットローラーを介し連続的に延伸し、さらにワインダーで巻き取り、繊維横断面における海/島比率が80/20である84dtex/24fの海島型複合繊維を得た(最外層に配列される島部は繊維表面から繊維半径の27%の距離)。
得られた海島型複合繊維を2本合わせ、筒編機にて筒編みし、筒編生地を得た。
【0022】
〔実施例2〕
海部をホモポリエチレンテレフタレートと変更した以外は実施例1と同様の条件で繊維横断面における海/島比率が80/20である84dtex/24fの海島型複合繊維を得た後、実施例1と同様に筒編生地を作成した。
【0023】
〔比較例1〕
口金を、同心芯鞘断面を形成しうる口金に変更した以外は実施例1と同様の条件で繊維横断面における鞘/芯比率が80/20である84dtex/24fの芯鞘型複合繊維を得た後、実施例1と同様に筒編生地を作成した。
【0024】
〔比較例2〕
口金を、同心芯鞘断面を形成しうる口金に変更した以外は実施例2と同様の条件で繊維横断面における鞘/芯比率が80/20である84dtex/24fの芯鞘型複合繊維を得た後、実施例1と同様に筒編生地を作成した。
【0025】
実施例1、2、比較例1、2の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0026】
実施例品、比較例品ともに優れた吸湿率差と制電性を有しているが、実施例1、2から得られた海島型複合繊維は海部と島部の剥離や、島部が繊維表面に露出する繊維クラックや脱落が確認されないのに対し、比較例1、2から得られた芯鞘型複合繊維は芯部と鞘部で大きく剥離が生じていた。さらに実施例から得られた繊維は12分後及び24分後の吸湿率が比較例品より大きく、実施例品は比較例品よりも吸湿速度が優れていた。
また、これらの実施例及び比較例から得た筒編生地に、通常の高圧染色処理をしたところ、実施例品は、海部と島部の剥離はなく、制電性、吸湿性とも、優れていたが、比較例品は芯鞘剥離し、制電性はあるものの実施例品より吸湿性に劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
これらのことから、本発明の海島型複合繊維は衣料として用いた際に、不快な静電気が極めて起きにくく、かつ衣服内の不快な湿度を素早く逃し、衣服内を快適な環境とすることができる。
従って、本発明の海島型複合繊維からなる布帛は、肌着、セーター、シャツ、パンティストッキング等の衣料品、スキー、スケートウェア、ダイビングスーツ等のスポーツ衣料品、シーツ、中綿等の寝具品、食品包装材等の材料に好適に使用できる。