(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記受信ステップが、前記伝搬したレーリ波及び表面SH波の前記第2の位置からの出射角に応じて、当該レーリ波及び表面SH波をそれぞれ異なる位置で受信することを特徴とする請求項3に記載の残留応力評価方法。
前記送出ステップが、縦波あるいは横波の単一振動子より、縦波あるいはSV波を送出することにより前記被検査試料に、前記複数種類の伝搬超音波としてレーリ波及び表面SV波を励振させる形態であり、
前記受信ステップが、励振されて伝搬したレーリ波及び表面SV波の受信を、単一の縦波あるいは横波振動子で受信することを特徴とする請求項6に記載の残留応力評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する各実施形態に共通する同一の構成部材には、同一の符号及び同一の名称を付すこととする。従って、同一の符号及び同一の名称が付された構成部材については、同じ説明を繰り返さない。
[第1実施形態]
以下に、
図1及び
図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態による残留応力評価装置1について説明すると共に、残留応力評価装置1を用いた残留応力評価方法について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態による残留応力評価装置1の概略構成を示す図である。
図2は、残留応力評価装置1の送信探触子2及び受信探触子3の概略構成を拡大して示す図である。
残留応力評価装置1は、例えば、鋼材で構成された機械部品や構造体などの被検査体(被検査試料)の表層に存在する残留応力を、当該被検査試料の表層を伝搬する超音波に基づいて評価(測定)する装置である。具体的に、残留応力評価装置1は、被検査試料の表層に超音波を伝搬させて当該伝搬した超音波の伝搬時間を測定し、この超音波の伝搬時間を用いて、被検査試料の表層に存在する残留応力を評価(測定)する。本実施形態では、被検査試料として鋼材で構成された直方体形状の測定試料Wを例示する。
【0024】
ここで、表層とは、測定試料Wの表面下(表面皮下)所定の深さ範囲の領域であり、例えば深さ数mmより浅い範囲の領域である。特に、測定試料Wの表面から超音波の波長程度の深さ域の残留応力が評価できるので、表層を、用いる超音波の波長程度の深さ域と定義してもよい。そのとき、超音波の波長は、周波数の変化によって可変(0.1mm〜数mm)であることから、表層を、深さ数mmより浅い範囲の領域と定義することが可能となる。
【0025】
図1に示すように、残留応力評価装置1は、被検査試料である測定試料Wの表面上に配置されて測定試料Wへ超音波を送出(送信)する送信探触子2と、同じく測定試料Wの表面上で送信探触子2と異なる位置に配置され、送信探触子2から送出されて測定試料Wの表層を伝搬した超音波を受信する受信探触子3とを備える。さらに、残留応力評価装置1は、送信探触子2に超音波を発生させるためのパルス発生器4と、受信探触子3が受信した超音波の信号である受信信号を採取する増幅器5,6及び波形採取装置7と、採取された受信信号に基づいて、当該受信信号に対応する超音波の伝搬経路における残留応力を評価する評価装置(評価部)8とを備える。
【0026】
まず、
図2を参照して、残留応力評価装置1の特徴的な構成である送信探触子2及び受信探触子3について詳しく説明し、パルス発生器4、増幅器5,6、波形採取装置7、及び評価装置8については後述する。
送信探触子(送信部)2は、例えば平板状の圧電素子20を超音波伝搬媒体21に装備された超音波プローブである。圧電素子20に所定電圧のパルス電圧が加えられると、当該圧電素子20の平板面から所定周波数の超音波が出力され、出力された超音波は、送信探触子2の超音波伝搬媒体21に形成された開口面である送出面(超音波送出面)22を経て外部へ送出される。
【0027】
圧電素子20は、加えられた所定電圧のパルスによって振動することで、当該圧電素子20の平板面(出力面)から所定周波数の超音波を出力する。この圧電素子20は、超音波の出力方向を、送信探触子2の超音波送出面22に対して平行でも垂直でもなく斜めに向けて斜角で配置されており、圧電素子20から出力された超音波は、超音波送出面22に垂直な方向とは異なる斜め方向に沿って、超音波送出面22から外部へ送出される。つまり、送信探触子2を、超音波送出面22を測定試料Wの表面に当接させることで測定試料Wの表面上に配置すると、超音波送出面22から送出された超音波は、測定試料Wの表面に対して平行でも垂直でもない斜め方向から入射する。
【0028】
さらに、圧電素子20は、横波の超音波を出力するものである。圧電素子20から出力される超音波に含まれる振動成分は、少なくとも、圧電素子20の出力面と超音波送出面22に対して平行に振動しつつ超音波送出面22に入射する成分(振動成分A)と、振動成分Aの振動方向に対して垂直方向に振動しつつ超音波送出面22に入射する成分(振動成分B)である。
【0029】
図1及び
図2を参照して説明を補足する。
図1及び
図2は、圧電素子20の出力面が紙面に対して垂直となるように送信探触子2を側方から見た図であり、振動成分Aは、
図1及び
図2の紙面に対して垂直な成分であり、振動成分Bは、
図1及び
図2の紙面と圧電素子20の出力面に対して平行な成分である。
圧電素子20は、このような振動成分Aと振動成分Bを含む超音波を出力し、出力された超音波は、超音波送出面22に対する圧電素子20の出力面の角度に対応した角度で斜めに超音波送出面22を通過して送信探触子2の外部に送出される。
【0030】
このように、圧電素子20は、振動成分A及び振動成分Bといった振動形態の超音波を出力するが、圧電素子20は、
図1及び
図2において送信探触子2の圧電素子20に示す2つのベクトルの方向成分に沿って振動することによって、圧電素子20の出力面と超音波送出面22に対して平行に振動する振動成分Aとして横波の水平成分であるSH波を出力し、振動成分Aの振動方向に対して垂直方向に振動する振動成分Bとして横波の垂直成分であるSV波を出力する。このように、送信探触子2の圧電素子20は、複数種類の超音波としてSH波及びSV波を送出する。
【0031】
以上のとおり、送信探触子2の圧電素子20は、超音波としてSH波及びSV波を送出する単一の第1超音波振動子である。この圧電素子20を分離されていない単一の第1超音波振動子とする構成により、圧電素子20から測定試料Wへ送出される複数種類の超音波の伝搬経路を共通化することができ、超音波の種類毎に経路が異なって伝搬距離が変動してしまうという問題を防ぐことができる。
【0032】
図1及び
図2に示すように、上述の圧電素子20を有する送信探触子2は、超音波送出面22を測定試料Wの表面に当接させることで測定試料Wの表面上に配置されたときに、圧電素子20と超音波送出面22の間や、超音波送出面22と測定試料Wの表面の間を満たす接触媒質を供給する接触媒質供給部(図示せず)を備える。接触媒質とは、水、グリセリンペースト、油など、超音波を伝達する物質のことであり、圧電素子20から出力された超音波を測定試料Wの表面へ伝達する媒質である。
【0033】
図2を参照して、送信探触子2の動作について説明する。送信探触子2が超音波送出面22を測定試料Wの表面に当接させて測定試料Wの表面上に配置されると、送信探触子2の圧電素子20は、超音波送出面22に対する角度と同じだけ測定試料Wの表面に対して傾くように配置される。
この圧電素子20に対して後述するパルス発生器4からパルス電圧が印加されると、圧電素子20は、印加されたパルス電圧に応じた周波数のSH波(振動成分A)及びSV波(振動成分B)を含む超音波を出力する。
【0034】
圧電素子20の出力面から出力された超音波であるSH波及びSV波は、送信探触子2の超音波送出面22を経て測定試料Wの表面上の同一位置(第1の位置)へ、測定試料Wの表面に対して斜め方向に送出される。
測定試料Wの表面へ斜め方向に送出されたSH波及びSV波は、測定試料Wの表面上の同一位置(第1の位置)へ斜め方向に入射して、測定試料Wの表層に振動形態の異なる複数種類の超音波を励振する。測定試料Wの表面へ斜め方向に入射した超音波によって励振された超音波は、表面波(表面弾性波)として測定試料Wの表層を伝搬するので、以下の説明において伝搬超音波とよぶ。
【0035】
図2に示すように、測定試料Wの表面へ斜め方向に入射したSH波は、測定試料Wの表層を伝搬する伝搬超音波として、図中破線で示す表面SH波を励振する。また、測定試料Wの表面へ斜め方向に入射したSV波は、測定試料Wの表層を伝搬する伝搬超音波として、図中実線で示すレーリ波を励振する。
振動形態の異なる伝搬超音波において、レーリ波は、励振効率が高く、且つ測定試料Wの表層において低減衰で伝搬するという特徴があり、一方、表面SH波は、応力に対する感受性が高いという特長がある。このような理由から、本実施形態では、振動形態の異なる伝搬超音波としてレーリ波及び表面SH波を例示する。レーリ波及び表面SH波以外にも、目的に応じて様々な振動形態の超音波を用いることができる。
【0036】
尚、ここまでの説明で用いた、横波、縦波、SH波、SV波、表面SH波及びレーリ波など超音波の振動形態の定義は、超音波を含む振動を扱う技術分野の当業者によって認識されている定義と同じである。
以上をまとめると、送信探触子2は、被検査試料である測定試料Wの表面上に配置され、圧電素子20から該表面に対して水平でも垂直でもない斜め方向に振動形態の異なる複数種類の超音波(SH波及びSV波)を測定試料Wの表層へ送出することで、測定試料Wの表層に振動形態の異なる複数種類の伝搬超音波(表面SH波及びレーリ波)を励振する。
【0037】
このように、送信探触子2は、偏波を有する単一のせん断波であるSH波及びSV波を含む超音波を測定試料Wの表面の斜入射させることにより、レーリ波と表面SH波を同時に励振させることができるので、送信探触子2を簡易かつ安価な構成で実現することができる。
送信探触子2から送出されたSH波及びSV波によって測定試料Wの表面上の同一位置(第1の位置)で励振された伝搬超音波である表面SH波及びレーリ波は、ほぼ同一方向に向かって測定試料Wの表層を伝搬する。
【0038】
図2を参照して、受信探触子(受信部)3は、例えば平板状の圧電素子30を超音波伝搬媒体31に装備された超音波プローブである。圧電素子30は、受信探触子3の31に形成された開口面である入射面(超音波入射面)32から超音波伝搬媒体31の内部に入射した伝搬超音波を受信することで所定の電圧を発生する。この平板状の圧電素子30は、送信探触子2の圧電素子20とほぼ同様の構成を有する部材であり、伝搬超音波を受信する平板面を受信探触子3の超音波入射面32に対して平行でも垂直でもなく斜めに向けて斜角で配置されている。
【0039】
圧電素子30は、測定試料Wの表層を伝搬する複数種類の伝搬超音波を受信して所定の電圧を発生させることで、当該伝搬超音波を検出するものであり、例えば、表面SH波を受信する横波検出用の圧電素子30aと、レーリ波を受信する圧電素子30bとが積層されて分離していない単一の圧電素子30として構成されている。このような構成の圧電素子30は、表面SH波を検出する横波(送信における振動成分A)検出部とレーリ波によるSV波を検出する横波(送信における振動成分B)検出部を有する単一の圧電素子であるということもできる。
【0040】
この圧電素子30を有する受信探触子3は、送信探触子2から送出されたSH波及びSV波によって励振されて伝搬したレーリ波及び表面SH波を振動形態の異なる複数種類の伝搬超音波として受信し、受信によって発生した電圧をレーリ波及び表面SH波の検出信号として外部に出力する。具体的には、測定試料Wの表層を伝搬した伝搬超音波である表面SH波及びレーリ波は、受信探触子3の超音波入射面32から受信探触子3内へ伝搬して、超音波入射面32を向く圧電素子30の平板面に入射する。入射した表面SH波は横波検出用の圧電素子30aによって検出され、レーリ波は、SV波として同じく横波検出用の圧電素子30bによって検出される。
【0041】
以上のとおり、受信探触子3の圧電素子30は、複数種類の伝搬超音波としてレーリ波及び表面SH波を受信する単一の第1超音波振動子である。
つまり、受信探触子3の超音波入射面32を、伝搬超音波である表面SH波及びレーリ波の伝搬経路上において上述の第1の位置とは異なる第2の位置に当接させると、測定試料Wの表層を伝搬した伝搬超音波は、当該第2の位置において、超音波入射面32へ向かって測定試料Wの表面に対して平行でも垂直でもない斜め方向に入射する。これによって、受信探触子3は、表面SH波及びレーリ波などの複数種類の伝搬超音波を、測定試料Wの表面上の第2の位置から受信する。
【0042】
このとき、
図2に示すように、受信探触子3を、超音波入射面32を向く圧電素子30の平板面が伝搬超音波の伝搬方向上流側に向くように第2の位置に配置すると、受信探触子3の圧電素子30は、受信探触子3内に伝搬した伝搬超音波を効率よく受信することができる。
尚、上述の圧電素子30を有する受信探触子3は、送信探触子2と同様に、超音波入射面32を測定試料Wの表面に当接させることで測定試料Wの表面上に配置されたときに、圧電素子30と超音波入射面32の間、及び超音波入射面32と測定試料Wの表面の間を満たす接触媒質を供給する接触媒質供給部(図示せず)を備える。
【0043】
図2を参照しながら、測定試料Wの表面上における送信探触子2と受信探触子3の配置について説明する。
伝搬超音波を励振させる第1の位置と伝搬超音波を受信する第2の位置によって残留応力を測定する領域が挟まれるように、第1の位置上に送信探触子2の超音波送出面22を当接させると共に、第2の位置上に受信探触子3の超音波入射面32を当接させて送信探触子2と受信探触子3を配置する。このとき、送信探触子2は、伝搬超音波の伝搬方向が残留応力を測定する領域に向くように配置され、受信探触子3は、圧電素子30の平板面が伝搬超音波の伝搬方向上流側に向くように配置される。
【0044】
このような配置によって、第1の位置と第2の位置は、残留応力を測定する領域の大きさに対応する距離Lだけ離れることとなり、伝搬超音波である表面SH波及びレーリ波は、共に距離Lだけ測定試料Wの表層を伝搬する。
つまり、上述のように配置された送信探触子2と受信探触子3を用いることで、振動形態の異なる複数の超音波を、共に同じ距離Lだけ伝搬させることができる。第1の位置と第2の位置の距離Lに限らず、送信探触子2の圧電素子から、第1の位置と第2の位置を経て受信探触子3の圧電素子までの超音波の伝搬距離は、超音波の振動形態によらず同じ距離となる。
【0045】
続いて、
図1を参照して、上述の送信探触子2及び受信探触子3を駆動して測定試料Wの表層の残留応力を評価するための他の構成について説明する。
パルス発生器4は、送信探触子2に接続されており、送信探触子2の圧電素子20へ所定電圧の電圧信号(パルス信号)を印加することで当該圧電素子20に超音波を発生させると共に、当該電圧信号と同時に、超音波の発生時期を知らせるトリガ信号を、後述する波形採取装置7へ出力する。
【0046】
増幅器5,6は、受信探触子3に接続されたアンプであり、受信探触子3の圧電素子30が出力した検出信号の強度を増幅し後述する波形採取装置7へ出力するものである。増幅器5は、圧電素子30bが出力したレーリ波の検出信号を増幅して波形採取装置7へ出力し、増幅器6は、圧電素子30aが出力した表面SH波の検出信号を増幅して波形採取装置7へ出力する。
【0047】
波形採取装置7は、パルス発生器4から出力されたトリガ信号を受信すると共に、増幅器5,6から出力されたレーリ波及びSH波の検出信号を受信して当該検出信号の波形を採取する。このとき、トリガ信号の受信は、送信探触子2の圧電素子20が超音波を出力したタイミングであるとみなすことができ、レーリ波及びSH波の検出信号の受信は、受信探触子3の圧電素子30がレーリ波及びSH波を受信した(レーリ波及びSH波が受信探触子3に到達した)タイミングであるとみなすことができる。
【0048】
そこで、波形採取装置7は、トリガ信号の受信からレーリ波の検出信号の受信までの時間を計測してレーリ波の伝搬時間T
Rを算出すると共に、トリガ信号の受信から表面SH波の検出信号の受信までの時間を計測して表面SH波の伝搬時間T
Sを算出する。波形採取装置7は、これら算出したレーリ波の伝搬時間T
Rと表面SH波の伝搬時間T
Sを後述する評価装置8へ出力する。
【0049】
評価装置8は、波形採取装置7から出力されたレーリ波の伝搬時間T
Rと表面SH波の伝搬時間T
Sを取得して、取得した伝搬時間T
Rと伝搬時間T
Sに基づいて、伝搬超音波であるレーリ波及び表面SH波が伝搬した測定試料Wの表層に存在する残留応力を評価する。
まず、測定試料Wの表層に存在する残留応力を評価するための基本的な考え方を説明し、その後に、評価装置8が行う残留応力の評価の方法を説明する。
【0050】
レーリ波の伝搬時間T
Rは、レーリ波の伝搬距離である距離L、残留応力が存在しない測定試料Wにおけるレーリ波の音速V
R、測定試料Wにおけるレーリ波に対する音弾性係数C
R、レーリ波の伝搬経路に存在する応力(残留応力)σを用いて表現することができる。下の式(1)は、レーリ波の伝搬時間T
Rを、伝搬距離L、音速V
R、音弾性係数C
R、及び残留応力σを用いて表現する関係式の一例である。
【0051】
【数1】
式(1)において、レーリ波の伝搬時間T
Rは、波形採取装置7から取得することができ、レーリ波の伝搬距離Lは、送信探触子2が配置された第1の位置から受信探触子3が配置された第2の位置までの距離として取得することができる。
【0052】
ここで、上述の波形採取装置7によって伝搬時間T
Rを算出したときのレーリ波の伝搬経路は、送信探触子2の圧電素子20から第1の位置及び第2の位置を経由して受信探触子3の圧電素子30までであり、第1の位置から第2の位置までの距離Lと完全には一致しない。つまり、レーリ波の伝搬距離は、距離Lの前後に、送信探触子2の圧電素子20から測定試料Wの表面までの距離と測定試料Wの表面から受信探触子3の圧電素子30までの距離、言い換えれば送信探触子2内の伝搬距離と受信探触子3内の伝搬距離を加えたものである。従って、距離Lの前後に存在する、送信探触子2内及び受信探触子3内の伝搬距離を加味して伝搬時間T
Rを補正すれば、より正確な伝搬時間T
Rを算出することができる。
【0053】
残留応力が存在しない測定試料Wにおけるレーリ波の音速V
Rは、残留応力が存在しない測定試料Wを用意して予め測定することができる値である。測定試料Wにおけるレーリ波に対する音弾性係数C
Rは、測定試料Wの物性値であるので、予め取得することができる値である。
このように、伝搬時間T
R、伝搬距離L、音速V
R、及び音弾性係数C
Rを取得することができるので、式(1)などを用いれば、レーリ波の伝搬経路に存在する残留応力σを求める(評価する)ことができる。
【0054】
表面SH波の伝搬時間T
Sも、レーリ波の伝搬時間T
Rと同様に、表面SH波の伝搬距離である距離L、残留応力が存在しない測定試料Wにおける表面SH波の音速V
S、測定試料Wにおける表面SH波に対する音弾性係数C
S、表面SH波の伝搬経路に存在する応力(残留応力)σを用いて、下の式(2)に例示する関係式のように表現することができる。
【0055】
【数2】
この式(2)においても、伝搬時間T
S、伝搬距離L、音速V
S、及び音弾性係数C
Sを取得することができるので、表面SH波の伝搬経路に存在する残留応力σを求める(評価する)ことができる。
【0056】
上述の式(1)又は式(2)を用いれば、レーリ波及び表面SH波の何れかを用いて測定試料Wの表層に存在する残留応力を評価することが可能である。しかし、送信探触子2及び受信探触子3を配置したときに、第1の位置から第2の位置までの距離Lを正確に取得することは困難であるため、距離Lは常に測定誤差を含む可能性がある。この距離Lは、測定試料Wの表面に対する傾きやリフト量など、送信探触子2及び受信探触子3の測定試料Wに対する接触状態にも影響を受けるが、この不安定な接触状態を常に一定に保つことは難しいので、距離Lの誤差を排除することは非常に困難である。
【0057】
従って、レーリ波及び表面SH波の何れか、つまり、一つの振動形態の超音波のみを用いて正確に残留応力を評価することは非常に困難であり、残留応力の評価において、誤差を含む可能性があり正確に取得することが困難な距離Lを排除することが望まれる。
上述の送信探触子2と受信探触子3を備える残留応力評価装置1では、振動形態の異なる複数種類の超音波であるレーリ波及び表面SH波の伝搬経路が共通(同一)であるので、第1の位置から第2の位置までの距離Lが同じ値をとる。
【0058】
そこで、評価装置8は、以下の式(3)に例示するような、式(1)及び式(2)に例示される関係式を用いて距離Lを排除した関係式を用いる。
【0059】
【数3】
式(3)に例示する関係式は、残留応力σを、レーリ波の伝搬時間T
R、レーリ波の音速V
R、レーリ波による音弾性係数C
R、表面SH波の伝搬時間T
S、表面SH波の音速V
S、及び表面SH波による音弾性係数C
Sに基づいて表現する関係式の一例である。式(3)に例示するような関係式を用いれば、誤差及び超音波探触子の接触状態の影響を含みやすい距離Lを排除することができるので、距離Lに依存することなく、送信探触子2と受信探触子3の測定試料Wへの接触状態に起因する測定精度の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態の残留応力評価装置1によれば、レーリ波及び表面SH波の両方を用いて、測定試料Wの表層に存在する残留応力を高精度かつ高安定的に評価(測定)することができる。
【0060】
上述の構成を有する残留応力評価装置1の動作について説明する。
送信探触子2と受信探触子3を、残留応力を測定する領域が挟まれるように、第1の位置上に送信探触子2の超音波送出面22を当接させると共に、第2の位置上に受信探触子3の超音波入射面32を当接させて、測定試料Wの表面上に配置する。
この配置の後、パルス発生器4が、送信探触子2の圧電素子20へパルス電圧を印加し、同時にトリガ信号を波形採取装置7へ出力する。
【0061】
パルス電流が印加された送信探触子2の圧電素子20は、振動形態の異なる複数種類の超音波としてSH波とSV波を出力し、測定試料Wの表面の第1の位置へ送出する。
送出されたSH波とSV波は、測定試料Wの表面の第1の位置に入射して、測定試料Wの表層に、振動形態の異なる複数種類の伝搬超音波であるレーリ波と表面SH波を励振する。ここまでが送出ステップであり、受信ステップへ続く。
【0062】
励振されたレーリ波と表面SH波は測定試料Wの表層を伝搬し、受信探触子3の圧電素子30は、測定試料Wの表面の第2の位置からレーリ波と表面SH波を受信する。
受信探触子3の圧電素子30は、受信したレーリ波と表面SH波の検出信号を増幅器5,6へ出力する。ここまでが受信ステップであり、評価ステップへ続く。
増幅器5,6は、受信したレーリ波と表面SH波の検出信号を増幅して、波形採取装置7へ出力する。
【0063】
波形採取装置7は、パルス発生器4から受信したトリガ信号と、増幅器5,6から受信したレーリ波と表面SH波の検出信号から、受信探触子3の圧電素子30で受信されたレーリ波と表面SH波の伝搬時間である伝搬時間T
Rと伝搬時間T
Sを算出し、評価装置8へ出力する。
評価装置8は、上述の式(3)に例示される関係式を用いて、伝搬超音波の伝搬距離Lに依存することなく、伝搬超音波が伝搬した測定試料Wの表層に存在する残留応力σを求める(評価する)。ここまでが評価ステップである。
【0064】
以上の構成を有する残留応力評価装置1によれば、伝搬超音波の波長程度の深さ域において残留応力の評価が可能であるので、伝搬超音波の周波数を段階的に変化させることで、0.1〜数mmの範囲で残留応力の深さ分布を評価することができる。
また、残留応力評価装置1は、SV波及びSH波によって、測定試料Wの表面の一部に圧縮及びせん断力を同時に印加することでレーリ波と表面SH波を励振させるので、送信探触子2及び受信探触子3の位置および接触状況の変化による伝搬時間T
R及び伝搬時間T
Sへの影響を抑制することができる。
[第2実施形態]
図3及び
図4を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。
【0065】
図3は、本実施形態による残留応力評価装置10の送信探触子2及び受信探触子9の概略構成を拡大して示す図である。
図4は、残留応力評価装置10において、受信探触子9を送信探触子として採用したときの概略構成を拡大して示す図である。
本実施形態による残留応力評価装置10は、第1実施形態による残留応力評価装置1とほぼ同様の構成を有し、残留応力評価装置1の受信探触子3の代わりに受信探触子9を受信部として備えている。残留応力評価装置10において、受信探触子9以外の構成は、第1実施形態による残留応力評価装置1と同じである。
【0066】
以下、
図3を参照しながら、受信探触子9の構成について説明するが、その前に、受信探触子9の構成の前提について説明する。
上述の第1実施形態において、測定資料Wの表層を伝搬した表面SH波及びレーリ波は、測定試料Wの表面上の第2の位置から、測定試料Wの表面と超音波入射面32の接触面で屈折してSH波及びレーリ波として受信探触子3内へ伝搬する。しかしこのとき、SH波とレーリ波は、それぞれ屈折角度が異なっており、超音波入射面32から超音波振動子30までは互いに異なる経路で伝搬している。
【0067】
具体的に、SH波の伝搬方向、つまりSH波の第2の位置からの出射角度は、測定試料Wの表面と超音波入射面32の接触面に対する法線を基準としたときに、この法線に対して表面SH波の伝搬方向へ約20度傾いている。具体的に、SH波は、約20度の出射角度をもって横波のSH波として、第2の位置から受信探触子3内へ出射される。また、レーリ波の出射角度、つまりレーリ波の第2の位置からの出射角は、この法線に対してレーリ波の伝搬方向へ約50度傾いている。具体的に、レーリ波は、横波のSV波として出射される他、約50度の出射角度をもって縦波として出射される。
【0068】
このようなSH波及びレーリ波の出射角の相違は、SH波及びレーリ波が伝搬する測定試料Wが鋼であるために生じるものであり、鋼中における音速と同程度の音速を得られる金属等で測定資料Wが構成されていれば、SH波及びレーリ波の出射角は、ほぼ上述の角度となる。
そこで、
図3を参照して、受信部である受信探触子9は、第1実施形態で説明した受信探触子3とほぼ同様の構成を有しており、超音波伝搬媒体31に相当する超音波伝搬媒体91、及び超音波入射面32に相当する超音波入射面92を備え、圧電素子30の代わりに圧電素子部90を備える。
【0069】
圧電素子部90は、圧電素子30を構成する圧電素子30aに相当する圧電素子90a(第2超音波振動子)と、同じく圧電素子30bに相当する圧電素子90b(第3超音波振動子)とで構成され、圧電素子90a及び圧電素子90bは、互いに積層されておらず独立した別体の部材である。圧電素子90aは、圧電素子30aと同様にSH波を受信する横波検出用であり、圧電素子90bは、圧電素子30bと同様にレーリ波を受信する。
【0070】
このような圧電素子部90を備える受信探触子9は、圧電素子90aを、第2の位置から出射したSH波をほぼ垂直に受信するように配置し、圧電素子90bを、第2の位置から出射したレーリ波を受信するように配置している。
これによって、圧電素子90aは、第2の位置からの出射角が上述の法線に対して約20度傾いているSH波を受信するために、その受信面を超音波伝搬媒体91に形成された開口面である入射面(超音波入射面)92に対して約20度傾けて配置される。また、圧電素子90bは、第2の位置からの出射角が上述の法線に対して約50度傾いているレーリ波を受信するために、その受信面を入射面92に対して約50度傾けて配置される。
【0071】
さらに、圧電素子90aは、第1実施形態で説明した増幅器6に接続され、圧電素子90bは、第1実施形態で説明した増幅器5に接続される。
受信探触子9の構成をまとめると次のとおりである。
受信探触子9は、測定試料Wの表層を伝搬したレーリ波の第2の位置からの出射角に応じた位置に設けられて当該レーリ波を受信する圧電素子90b(第2超音波振動子)と、圧電素子90bとは異なる超音波振動子であって、測定試料Wの表層を伝搬した表面SH波の第2の位置からの出射角に応じた位置に設けられて当該SH波を受信する圧電素子90a(第3超音波振動子)と、を有する。
【0072】
その上で、第2超音波振動子である圧電素子90bが、レーリ波を縦波として受信し、第3超音波振動子である圧電素子90aが、SH波を横波として受信する。
上述の受信探触子9を備える残留応力評価装置10の動作について説明する。
残留応力評価装置10の動作は、第1実施形態による残留応力評価装置1の動作とほぼ同様であり、受信ステップだけが異なる。従って、本実施形態による残留応力評価装置10の動作について、受信ステップについて説明する。
【0073】
送出ステップに続く受信ステップでは、励振されたレーリ波と表面SH波は測定試料Wの表層を伝搬超音波として伝搬し、受信探触子3の圧電素子90は、伝搬したレーリ波及び表面SH波の第2の位置からの出射角に応じて設けられた圧電素子90b及び圧電素子90aによって、当該レーリ波及び表面SH波をそれぞれ異なる位置で受信する。このとき、圧電素子90bがレーリ波を縦波として検出するとともに、圧電素子90aが表面SH波を横波として検出する。
【0074】
受信探触子9の圧電素子90aは、受信した表面SH波の検出信号を増幅器6へ出力し、受信したレーリ波の検出信号を増幅器5へ出力する。ここまでが受信ステップであり、評価ステップへ続く。
本実施形態による残留応力評価装置10によれば、出射角度の分離角が約30度と大きく異なるSH波及びレーリ波を、それぞれの受信に適した位置に設けられた圧電素子90a及び圧電素子90bで受信することができる。従って、測定試料Wを伝搬した表面SH波おレーリ波を互いに干渉させることなく受信することができるので、それぞれの超音波を高いS/N比で受信することができる。
【0075】
本実施形態の最後に、
図4を参照して、本実施形態の変形例について説明する。
本実施形態の変形例として、残留応力評価装置10は、送信探触子2の代わりに、受信探触子9と同じ構成の送信探触子2aを備えてもよい。
送信探触子2aは、受信探触子9と同様に、超音波伝搬媒体91に相当する超音波伝搬媒体21a、超音波入射面92に相当する超音波入射面22a、圧電素子90aに相当する圧電素子20a及び圧電素子90bに相当する圧電素子20bを備える。送信探触子2aの圧電素子20a及び圧電素子20bに対してパルス発生器4からパルス電圧が印加されると、圧電素子20a(第5超音波振動子)は、印加されたパルス電圧に応じた周波数のSH波(振動成分A)を含む超音波を上述の第1の位置へ出力し、圧電素子20b(第4超音波振動子)は、印加されたパルス電圧に応じた周波数の縦波超音波を上述の第1の位置へ出力する。つまり、送信探触子2aは、圧電素子20aと圧電素子20bは、互いに異なる角度で超音波を送出する2つの超音波振動子を有する。
【0076】
このように、2つの圧電素子20a,20bを用いてSH波及び縦波を励振させる構成であれば、圧電素子20a,20bに印加されるパルス電圧の電圧信号レベルを個別に制御することで、圧電素子20a,20bが送出するSH波及び縦波の強度を個別に制御することができる。送出するSH波及び縦波の強度を個別に制御することで、受信探触子9が受信するSH波及びレーリ波のS/N比の最適化に有利である。
【0077】
本実施形態の残留応力評価装置10によっても、誤差及び超音波探触子の接触状態の影響を含みやすい伝搬超音波の伝搬距離Lを排除することができるので、伝搬距離Lに依存することなく、送信探触子2及び受信探触子9の測定試料Wへの接触状態に起因する測定精度の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態の残留応力評価装置10によれば、レーリ波及び表面SH波の両方を用いて、測定試料Wの表層に存在する残留応力を高精度かつ高安定的に評価(測定)することができる。
[第3実施形態]
図5〜
図7を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。以下の説明において、第1実施形態における構成要素と同じ構成要素には、同一の符号を付している。
【0078】
図5は、本実施形態による残留応力評価装置100の送信探触子200及び受信探触子300に用いられる電磁超音波センサ400(400a,400b)の概略構成を示す図である。
図6は、本実施形態による残留応力評価装置100の概略構成を示す図である。
図7は、本実施形態による送信探触子200及び受信探触子300に用いられる電磁超音波センサ400の変形例の概略構成を示す図である。
【0079】
電磁超音波センサ400は、残留応力評価装置100の送信探触子200及び受信探触子300に用いられて超音波を送信又は受信するものであるが、電磁超音波センサ400の構成を説明する前に、送信探触子200及び受信探触子300を備える残留応力評価装置100の構成について説明する。
図6を参照し、本実施形態による残留応力評価装置100は、第1実施形態と同様に、例えば、鋼材で構成された機械部品や構造体などの被検査体(被検査試料)の表層に存在する残留応力を、当該被検査試料の表層を伝搬する超音波に基づいて評価(測定)する装置である。
【0080】
図6に示すように、残留応力評価装置100は、被検査試料である測定試料Wの表面上に配置されて測定試料Wへ超音波を送出(送信)する送信探触子(送出部)200と、同じく測定試料Wの表面上で送信探触子200と異なる位置に配置され、送信探触子200から送出されて測定試料Wの表層を伝搬した超音波を受信する受信探触子(受信部)300とを備える。
【0081】
また、残留応力評価装置100は、パルス発生器と送受信アンプ(増幅器)の双方を有する送受信制御部110を備えている。パルス発生器は、送信探触子200へ供給するパルス信号を出力する。送受信アンプは、パルス発生器が出力したパルス信号を増幅して送信探触子200へ出力すると共に、受信探触子300が受信した超音波の信号である受信信号(検出信号)を採取して増幅する。
【0082】
パルス発生器は、第1実施形態によるパルス発生器4に相当する構成を有し、送受信アンプを介して送信探触子200に接続されており、送信探触子200の電磁超音波センサ400aへ電流信号(パルス信号)を印加する。
送受信アンプは、送信探触子200及び受信探触子300に接続された増幅器(アンプ)であり、パルス発生器が発生させたパルス信号を増幅して送信探触子200へ出力すると共に、受信探触子300の電磁超音波センサ400bが検出した検出信号を受信して増幅し、後述する信号処理装置120へ出力する。
【0083】
つまり、送受信制御部110は、第1実施形態による波形採取装置7の構成及び動作を含んでいる。
さて、
図6に示すように信号処理装置120には、2つの電磁石電源130a,130bが接続されており、一方の電磁石電源130aは送信探触子200に接続され、他方の電磁石電源130bは受信探触子300に接続されている。電磁石電源130aは、後述する送信探触子200の電磁超音波センサ400aに用いられる電磁石に電流を供給する電源であり、電磁石電源130bは、後述する受信探触子300の電磁超音波センサ400bに用いられる電磁石に電流を供給する電源である。信号処理装置120は、電磁石電源130a,130bに対して、電磁石に電流を供給する指示であるトリガ信号を出力し、このトリガ信号を出力した時期を超音波の発生時期である送信時期として記憶する。
【0084】
残留応力評価装置100は、上述の構成を有する信号処理装置120を備えており、信号処理装置120は、超音波の発生時期を示す上述の送信時期と、受信探触子300が検出信号を受信した時期である受信時期とに基づいて、当該受信信号に対応する超音波の伝搬経路における残留応力を評価する評価装置(評価部)である。この信号処理装置120が行う残留応力の評価は、第1実施形態による評価部8が行う残留応力の評価と同様の処理である。
【0085】
次に、
図5を参照し、送信探触子200及び受信探触子300に用いられる電磁超音波センサ400(400a,400b)の構成について説明する。
図5に示すように、送信探触子200における送信センサとして用いられる電磁超音波センサ400aも、受信探触子300における受信センサとして用いられる電磁超音波センサ400bも同様の構成を有する。以下には、送信センサとして用いられる電磁超音波センサ400aの構成を説明する。
【0086】
図5に示すように、電磁超音波センサ400aは、例えば、蛇行するコイル(櫛形のコイル)410と2組の電磁石A,Bを有している。電磁超音波センサ400aは、
図5に示すように直線部と屈曲部によって蛇行するように形成されたコイル410の直線部に対して平行に磁場をかけることで、磁歪効果によって表面SH波を送信することができ、コイル410の直線部に対して垂直に磁場をかけることで、磁歪効果によってレーリ波を送信することができる。
【0087】
電磁超音波センサ400aは、コイル410の直線部が測定試料Wの表面に対してほぼ垂直となるようにコイル410を保持し、2組の電磁石A,Bのうち電磁石Aは、コイル410の直線部と平行となる方向に沿って、コイル410を挟むように配置されていて、上述の電磁石電源130aから供給される電力によって、例えば、測定試料W側がS極、反測定試料W側がN極となる。また、2組の電磁石A,Bのうち電磁石Bは、コイル410の直線部と垂直となる方向に沿って、コイル410の両端側にコイル410を挟むように配置されて、上述の電磁石電源130aから供給される電流によって、一端側がS極、他端側がN極となる。
【0088】
このような電磁超音波センサ400aは、いわゆる磁歪型の電磁超音波センサとして知られており、コイル410に通電された状態で電磁石Aに電流が供給されれば、電磁石Aから静磁場が発生して測定試料Wの表面に表面SH波が発生する。また、コイル410に通電された状態で電磁石Bに電流が供給されれば、同じく電磁石Bから静磁場が発生して測定試料Wの表面にレーリ波が発生する。
【0089】
このように、電磁超音波センサ400aを備えて構成された送信探触子200は、静磁場を発生させる電磁石A,Bを切替えることで、測定試料Wの表面に、表面SH波及びレーリ波を選択的に切替えて発生させることができる。
送信探触子200は、上述の電磁超音波センサ400aを、測定試料Wの表面に対して適切な電磁超音波の伝播を実現する位置で備えている。また、受信探触子300も、上述の電磁超音波センサ400aと同様の構成を有する電磁超音波センサ400bを、送信探触子200における位置とほぼ同じ位置で備えている。
【0090】
次に、上述の送信探触子200及び受信探触子300を備える残留応力評価装置100の動作について説明する。
残留応力を測定する領域が挟まれるように、送信探触子200を、測定試料Wの表面上で超音波を入射させる第1の位置上に配置すると共に、受信探触子300を、測定試料Wの表面上で伝搬超音波を受信する第2の位置上に配置する。
【0091】
この配置の後、送受信制御部110のパルス発生器が、送信探触子200の電磁超音波センサ400aのコイル410へパルス電流を印加する。
電磁超音波センサ400aのコイル410にパルス電流が印加された状態で、信号処理装置120は、電磁石電源130aに、表面SH波及びレーリ波のいずれかに対応するトリガ信号を出力する。信号処理装置120は、このとき同時に、受信探触子300に接続された電磁石電源130bにも同様のトリガ信号を出力し、トリガ信号を出力したタイミング(時間など)を送信時期として記憶する。
【0092】
送信探触子200の電磁石電源130aは、表面SH波に対応するトリガ信号を受信すれば電磁石Aに電流を供給し、測定試料Wの表面の第1の位置で表面SH波を発生させる。また、送信探触子200の電磁石電源130aは、レーリ波に対応するトリガ信号を受信すれば電磁石Bに電流を供給し、測定試料Wの表面の第1の位置でレーリ波を発生させる。このように、送信探触子200の電磁石電源130aは、電磁石Aまたは電磁石Bに選択的に電流を供給することで、振動形態の異なる複数種類の超音波として表面SH波及びレーリ波を第1の位置において選択的に発生させる。
【0093】
一方、受信探触子300に接続された電磁石電源130bは、表面SH波に対応するトリガ信号を受信すれば、受信探触子300の電磁超音波センサ400bの電磁石Aに電流を供給し、レーリ波に対応するトリガ信号を受信すれば電磁石Bに電流を供給することで、測定試料Wの表面の第2の位置において表面SH波またはレーリ波の受信に備える。ここまでが送出ステップであり、受信ステップへ続く。
【0094】
励振されたレーリ波または表面SH波の伝搬超音波は、測定試料Wの表層を伝搬して第2の位置から受信探触子300に入射し、受信探触子300の電磁超音波センサ400bに到達する。この伝搬超音波の受信によって、受信探触子300の電磁超音波センサ400bでは、電磁誘導の法則により、被検査体表面の振動と静磁場によりセンサコイル410に起電力が誘起され受信信号として検出される。
【0095】
受信探触子300の電磁超音波センサ400bは、コイル410に誘起された起電力を送受信制御部110の送受信アンプへ出力する。ここまでが受信ステップであり、評価ステップへ続く。
送受信アンプは、受信した伝搬超音波の検出信号を増幅して信号処理装置120へ出力する。
【0096】
信号処理装置120は、送受信アンプから伝搬超音波の検出信号を受信し、当該検出信号を受信したタイミング(時間など)である受信時期と、当該伝搬超音波を送信したタイミング(時間など)である上述の送信時期とに基づいて、伝搬超音波の伝搬時間を算出する。本実施形態による送信探触子200は、レーリ波と表面SH波を同時に発生させることができないので、レーリ波の伝搬時間である伝搬時間T
Rと表面SH波の伝搬時間である伝搬時間T
Sとを別々に算出し、第1実施形態で述べた方法で、伝搬超音波の伝搬距離Lに依存することなく、伝搬超音波が伝搬した測定試料Wの表層に存在する残留応力σを求める(評価する)。ここまでが評価ステップである。
【0097】
本実施形態では、表面SH波とレーリ波での伝播距離Lを同一にするため、一例として、表面SH波及びレーリ波を共に磁歪型のセンサである電磁超音波センサ400aで発生する方法を示した。しかし、
図7において電磁超音波センサ400aの変形例として示すように、レーリ波はローレンツ型のセンサでも発生可能である。
図7は、電磁超音波センサ400aの変形例である電磁超音波センサ400cの概略構成を示す図である。
【0098】
図7に示す電磁超音波センサ400cは、コイル410及び電磁石Aの配置と構成が
図5に示す電磁超音波センサ400aと同じであるが、電磁石Bの配置が異なる。電磁超音波センサ400cの電磁石Bは、コイル410の直線部によって形成される平面(コイル平面)にほぼ平行となるように、当該コイルを挟むように配置されている。電磁石Bは、上述の電磁石電源130aなどから供給される電力によって、コイル410の平面の一方側に配置された電磁石BがS極、他方側に配置された電磁石BがN極となる。
【0099】
このような構成の電磁超音波センサ400cは、電磁石Aを用いることで磁歪型によって表面SH波を発生させ、電磁石Bを用いることでローレンツ型によってレーリ波を発生させる。
磁歪型とローレンツ型を併用する上述の電磁超音波センサ400cを送信探触子200及び受信探触子300に用いても、磁歪型で発生した表面SH波の伝搬距離とローレンツ型で発生したレーリ波の伝搬距離は同じとなる。
【0100】
従って、本実施形態の残留応力評価装置100によっても、誤差及び超音波探触子の接触状態の影響を含みやすい伝搬超音波の伝搬距離Lを排除することができるので、伝搬距離Lに依存することなく、送信探触子200及び受信探触子300の測定試料Wへの接触状態に起因する測定精度の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態の残留応力評価装置100によれば、レーリ波及び表面SH波の両方を用いて、測定試料Wの表層に存在する残留応力を高精度かつ高安定的に評価(測定)することができる。
【0101】
さらに、電磁超音波センサ400a〜400c(400)は、電磁超音波センサ400を保持する送信探触子200及び受信探触子300を測定試料Wに接触させなくても表面SH波及びレーリ波の送受信を行うことができる。従って、送信探触子200及び受信探触子300を配置する第1の位置及び第2の位置が湾曲面であっても粗面であっても、測定試料Wの表層に存在する残留応力を高精度かつ高安定的に評価(測定)することができる。
【0102】
最後に、電磁超音波における受信の原理では、測定試料Wの表面の振動と電磁石からの静磁場とによって、電磁石に挟まれたコイルに誘起される電流が受信信号として検出されればよい。そのため、受信側である受信探触子300において、表面SH波とレーリ波のそれぞれの駆動形態にあわせて電磁石の配置を異ならせた二種類の受信形態を備える必要はない。従って、図示しないが、受信側である受信探触子300は、単に渦巻き型のコイル一種類のみを備えるものであってもよい。
[第4実施形態]
図8を参照しながら、本発明の第4実施形態について説明する。
【0103】
図8は、本実施形態による残留応力評価装置500の概略構成を示す図である。
本実施形態による残留応力評価装置500は、第1実施形態による残留応力評価装置1とほぼ同様の構成を有し、第1実施形態の送信探触子2の代わりに送信探触子800を送信部とし、受信探触子3の代わりに受信探触子900を受信部として備えている。本実施形態の残留応力評価装置10において、送信探触子800及び受信探触子900以外の構成は、第1実施形態による残留応力評価装置1と同じである。
【0104】
以下、
図8を参照しながら、送信探触子800及び受信探触子900の構成について説明するが、その前に、送信探触子800及び受信探触子900の構成の前提について説明する。
上述の第1実施形態において、送信探触子2から送出されたSH波及びSV波は、表面SH波及びレーリ波を励振して測定試料Wの表層を伝搬し、励振された表面SH波及びレーリ波は、受信探触子3内へ伝搬する。ところが、第1実施形態では、圧電素子30a及び圧電素子30bが積層された構成であるので、稀に相互間の電気的干渉が起きる可能性がある。また、励振された表面SH波及びレーリ波は、伝搬経路が異なるため、これら経路間での音速や伝播距離変動が、微少な測定誤差となる可能性もある。
【0105】
上述の理由により、本願発明者らは、様々な実験を行った結果、SV波が短距離であれば測定試料Wの表層を伝搬することを知見した。また、縦波においても良好な結果が得られた。
まず、本実施形態の特徴である送信探触子800の構成について、図を基に説明する。
図8を参照して、送信部である送信探触子800は、第1実施形態で説明した送信探触子2とほぼ同様の構成を有しており、超音波伝搬媒体21に相当する超音波伝搬媒体821、及び超音波送出面22に相当する超音波送出面822を備え、圧電素子20の代わりに圧電素子820を備える。
【0106】
圧電素子820は、例えば平板状であって、圧電素子20とは異なる送信振動子、すなわちSV波あるいは縦波を送出する単一の送信振動子(第6超音波振動子)である。
圧電素子820に単一の横波振動子を採用した場合、この圧電素子820に所定電圧のパルス電圧が加えられると、当該圧電素子820の平板面から所定周波数のSV波(横波SV波)が出力され、出力された横波SV波は、送信探触子800の超音波伝搬媒体821に形成された開口面である送出面(超音波送出面)822を経て外部へ送出される。
【0107】
一方、圧電素子820に単一の縦波振動子を採用した場合、この圧電素子820に所定電圧のパルス電圧が加えられると、当該圧電素子820の平板面から所定周波数の縦波が出力され、出力された縦波は、送信探触子800の超音波伝搬媒体821に形成された開口面である送出面(超音波送出面)822を経て外部へ送出される。
図8を参照して、送信探触子800の動作について説明する。送信探触子800が超音波送出面822を測定試料Wの表面に当接させて測定試料Wの表面上に配置されると、送信探触子800の圧電素子820は、超音波送出面822に対する角度と同じだけ測定試料Wの表面に対して傾くように配置される。
【0108】
圧電素子820に単一の横波振動子を採用した場合、この圧電素子820に対してパルス発生器4からパルス電圧が印加されると、圧電素子820は、印加されたパルス電圧により、所定の周波数の横波SV波を出力する。圧電素子20の出力面から出力された横波SV波は、送信探触子800の超音波送出面822を経て測定試料Wの表面の第1の位置に対して斜め方向に送出される。
【0109】
送出された横波SV波は、測定試料Wの表面の第1の位置に対して斜め方向に入射して、測定試料Wの表層に振動形態の異なる複数種類の超音波を励振する。
図8に示すように、測定試料Wの表面へ斜め方向に入射した横波SV波は、表面SV波(
図8中の破線)とレーリ波(
図8中の実線)を同時に励振する。
一方、圧電素子820に単一の縦波振動子を採用した場合、圧電素子820は、印加されたパルス電圧により、所定の周波数の縦波を出力する。出力された縦波は、超音波送出面822を経て測定試料Wの表面の第1の位置に対して斜め方向に送出される。送出された縦波は、測定試料Wの表面の第1の位置に対して斜め方向に入射して、測定試料Wの表層に、表面SV波(
図8中の破線)とレーリ波(
図8中の実線)を同時に励振する。
【0110】
以上をまとめると、送信探触子800は、被検査試料である測定試料Wの表面上に配置され、単一の超音波(横波SV波あるいは縦波)を測定試料Wの表層へ送出することで、測定試料Wの表層に表面SV波及びレーリ波(振動形態の異なる複数種類の伝搬超音波)を同時に励振する。
次に、本実施形態の特徴である受信探触子900の構成について、図を基に説明する。
【0111】
図8を参照して、受信部である受信探触子900は、第1実施形態で説明した受信探触子3とほぼ同様の構成を有しており、超音波伝搬媒体31に相当する超音波伝搬媒体931(例えば、ポリスチレン)、及び超音波入射面32に相当する超音波入射面932を備え、圧電素子30の代わりに圧電素子930を備える。
超音波伝搬媒体931は、測定試料Wの表層を伝搬した表面SV波及びレーリ波を、横波SV波あるいは縦波に変換する。
【0112】
圧電素子930は、例えば平板状であって、圧電素子30とは異なる受信振動子、すなわち、超音波伝搬媒体931により変換された横波SV波あるいは縦波を受信する単一の受信振動子(第7超音波振動子)である。
このような圧電素子930を備える受信探触子900は、圧電素子930を、第2の位置から出射して超音波伝搬媒体931により変換された横波SV波あるいは縦波をほぼ垂直に受信するように配置している。
【0113】
図8を参照して、受信探触子900の動作について説明する。
圧電素子820に単一の横波振動子、圧電素子930に単一の縦波振動子が採用された場合、受信探触子900は、送信探触子800から送出された横波SV波によって、励振されて伝搬したレーリ波及び表面SV波を、超音波伝搬媒体931で縦波に変換して圧電素子930で縦波を受信し、縦波の検出信号として増幅器600へ出力する。
【0114】
具体的には、測定試料Wの表層を伝搬したレーリ波及び表面SV波は、受信探触子900の超音波入射面931から受信探触子900内へ伝搬して、超音波伝搬媒体931により縦波に変換されて、超音波入射面931を向く圧電素子930の平板面に入射する。入射した縦波は、単一の縦波振動子である圧電素子930によって検出される。
圧電素子820に単一の縦波振動子の採用によっても、レーリ波及び表面SV波を伝搬させることができ、また、受信においても、これら超音波を超音波伝搬媒体931における横波SV波への変換を通して、横波SV波として横波検出用の圧電素子930で検出できる。
【0115】
上述の送信探触子800及び受信探触子900を備える残留応力評価装置500の動作について説明する。なお、送信探触子800の圧電素子820に単一の横波振動子を採用し、且つ受信探触子900の圧電素子930に単一の縦波振動子を採用した場合を、例に挙げて説明する。
測定試料Wの表面上に配置された送信探触子800は、圧電素子820が出力した横波SV波を測定試料Wの表面の第1の位置に送出する。送出された横波SV波は、測定試料Wの表層に、レーリ波と表面SV波を同時に励振する。ここまでが送出ステップである。
【0116】
受信探触子900は、励振されたレーリ波と表面SV波を、超音波伝搬媒体931にて縦波に変換して、縦波を圧電素子930で受信し、縦波の検出信号を増幅器600へ出力する。ここまでが受信ステップである。なお、評価ステップ以降は、第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
一方、送信探触子800の圧電素子820に単一の縦波振動子を採用し、受信探触子900の圧電素子930に単一の横波振動子を採用した場合、圧電素子820から縦波を送出し、送出された縦波はレーリ波と表面SV波を励振し、超音波伝搬媒体931にて励振されたレーリ波と表面SV波を縦波に変換する。
【0117】
本実施形態の残留応力評価装置500によっても、誤差及び超音波探触子の接触状態の影響を含みやすい伝搬超音波の伝搬距離Lを排除することができるので、伝搬距離Lに依存することなく、送信探触子800及び受信探触子900の測定試料Wへの接触状態に起因する測定精度の劣化を抑制することができる。従って、本実施形態の残留応力評価装置500によれば、レーリ波及び表面SV波の両方を用いて、測定試料Wの表層に存在する残留応力を高精度かつ高安定的に評価(測定)することができる。また、上述した構成を有する残留応力評価装置500によれば、相互間の電気的干渉、超音波伝搬経路間での音速や伝播距離変動による微少な測定誤差を抑制することができる。
【0118】
なお、今回開示された各実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された各実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0119】
具体的に、第1実施形態による残留応力評価装置1では、送信探触子2がSH波とSV波を同時に出力して、レーリ波と表面SH波を同時に励振し、受信探触子3はレーリ波と表面SH波を同時に受信していた。しかし、送信探触子2が、SH波とSV波を同時ではなく別々に出力して、受信探触子3が、レーリ波と表面SH波を同時ではなく別々に受信しても構わない。超音波を別々に送受信しても、レーリ波と表面SH波の伝搬経路は同じであるので、上述の式(3)に従って測定試料Wの表層に存在する残留応力を評価することができる。