(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のカラー表示システムであって、入力色空間が内側色域ゾーン、拡張色域ゾーン、並びに内側色域ゾーン・拡張色域ゾーン間の色を含む遷移ゾーンに区分されており、前記メタメリズム補正変換により、入力色値に関して一群の整合出力色値に従い画定された色シフトが内側色域ゾーン内に適用され、拡張色域ゾーン内には色シフトが適用されず、且つ、内側色域ゾーン内で適用された色シフトと拡張色域ゾーンとの間の遷移ゾーンに亘り円滑な遷移がもたらされるカラー表示システム。
請求項1記載のカラー表示システムであって、メタメリズム補正変換が、複数個のパラメタを有するパラメトリック関数であり、そのパラメタが、一組の入力色値と、前記一群の標的観測者に関し平均観測者間メタメリズム不一致が軽減されるよう画定された対応する一組の出力色値とに応じ、当てはめプロセスを適用することによって画定されるカラー表示システム。
請求項1記載のカラー表示システムであって、メタメリズム補正変換が、入力色値の格子に対応する出力色値が格納された多次元ルックアップテーブルであり、当該格納された出力色値が、前記一群の標的観測者に関し平均観測者間メタメリズム不一致の軽減をもたらすカラー表示システム。
請求項1記載のカラー表示システムであって、入力カラー画像中の入力色値が標準色変換を使用し標準出力色値へと変換され、その標準色変換が、入力色値に関し画定された入力CIE測色と整合する出力CIE測色をもたらす出力色値が画定されるよう整えられており、前記出力CIE測色が、出力色値が装置原色を使用し表示されたときにもたらされる出力色スペクトラムに関しCIE標準観測者等色関数を使用し画定され、前記入力CIE測色が、入力色値が装置原色を使用し表示されたときにもたらされる入力色スペクトラムに関しCIE標準観測者等色関数を使用し画定され、メタメリズム補正変換により、標準出力色値が、前記一組の標的観測者に係る色覚特性を勘案する対応する補正出力色値へと変換されるカラー表示システム。
請求項1記載のカラー表示システムであって、前記カラー表示装置を見る観測者の人口論的構成に応じ、或いは前記カラー表示装置を見る観測者に関する適合状態に応じ、別々のメタメリズム補正変換が使用向けに選択されるカラー表示システム。
請求項1記載のカラー表示システムであって、データ処理システムが成像システム外にあり、出力カラー画像が、画像メモリ内に形成及び格納された後に、後刻表示できるよう成像システムに送られるカラー表示システム。
【背景技術】
【0002】
映画産業は、現在、古典的なフィルム式プロジェクタからディジタル/電子式映画へと移行しつつある。この傾向は3D映画の人気によって加速されつつある。周知なディジタル光投射(DLP)技術の利用に大きく依拠しつつディジタル映画投射が成熟及び成功した上でなお、更に発展してレーザ式投射に向かう見込みが背景に浮揚してきている。レーザ投射は、ディジタル映画向けであるか、ホームプロジェクション向けであるか、或いはその他のマーケット向けであるかによらず、レーザ光源のコスト及び複雑性、特に緑色及び青色スペクトル域でのそれが原因で、長きに亘り後塵を拝してきた。必要なレーザが今や成熟及びコスト競争性を増してきているため、レーザ投射に期待される潜在利益、例えばより広い色域、より鮮明、高彩度(濃厚)且つ高輝度な色、高いコントラスト、並びに低い光学系コストが、ますます現実のものとなりつつある。一例となるシステムが非特許文献1(Silverstein et al.)に記載されている。
【0003】
加えて、他の広く認識されているレーザ投射上の課題、例えばレーザスペックル視認性の低減、肉眼露出リスク又は障害潜在性を抑えるためのレーザ安全性の管理といった課題に対しても、成功裏な形態での対策が進みつつある。これらの課題が解決されるにつれ他のあまり認識されていなかった課題がますます重要になろう。例えば、レーザ等の狭帯域光源を有する画像ディスプレイでは、観測者間メタメリズム不一致の害を受け、個々の看者が大きく異なる色を知覚する可能性がある。
【0004】
色科学の分野では、互いに異なるスペクトルパワー分布を有する色刺激(color stimuli)が互いに色的に整合(match)している(等色である)と視認されることをメタメリズム(metamerism)(条件等色性)と呼ぶ。同じ広帯域スペクトルパワー分布を有する二通りの刺激はアイソマ(isomer)と呼ばれ、一般に、全ての観測者により全くの整合色として視認されよう。対するに、ある観測者にとり全く同一に見えるが、互いに異なるスペクトルパワー分布を有する二色のことを、メタマ(metamer)と呼ぶ。観測者間にスペクトル感度差があるため、ある観測者にとってのメタマが全ての観測者にとりメタマであるとは限らない。一対のメタメリック刺激(metameric stimuli)間のスペクトル差が大きいほど、発光体、物質組成、観測者又は視野におけるあらゆる変化に対し、そのメタメリックペア(metameric pair)についての色知覚が敏感になろう。
【0005】
そして、期せられる通り、名目的メタメリックペアのスペクトル差がメタメリズム不一致につながり、期待される色整合(color match)がもはや知覚されなくなるような、様々な状況がありうる。第1の例は観測者間メタメリズム不一致(ときに観測者間色知覚不一性と称される)であり、これが発生するのは、表示画像中の2個の要素或いは2個の物体の色が同一看取条件下にある二人又はそれ以上の観測者により別々なものと知覚されるときである。観測者間メタメリズム不一致が発生するのは、目の光学系、色受容体応答及び神経系内色処理が諸人間で異なるためである。別の例は発光体間メタメリズム不一致であり、これが発生するのは、ある光源下では整合する色が他の光源下では整合しないときである。例えば、日光照明下で見たとき同じ色外観(color appearane)であるなら、その反射スペクトラムが異なる2個の色パッチがそっくりに見えることがある。それでいて、蛍光照明下で見たときに、それらの色パッチが単一の観測者にとってすら別様に見えることがありうる。更に、メタメリズム不一致の諸態様には、定義上、視野サイズメタメリズム不一致及び幾何学的メタメリズム不一致が含まれる。視野サイズメタメリズム不一致が発生するのは、網膜中にある三種の錐体間の相対比率が、視野の中央から周辺にかけて変化するためである。これの例となっているのが、2°視野及び10°視野に係るCIE標準観測者(standard observer)等色関数(color matching function)に見られる差異(
図1B参照)である。その結果として、非常に小さい中心固定的領域として見たとき整合する色同士が、大きい色領域に亘り提示されたときに別様に見えることとなりうる。幾何学的メタメリズム不一致が発生しうるのは、2個の標本が、ある角度から見たら整合するけれども他の角度から見たら整合しないときである。本発明の企図からすると、観測者間メタメリズム不一致及び発光体間メタメリズム不一致が主たる注目対象である。
【0006】
メタメリズム不一致の発生を防ぐ方法の一つは、分光的色再現(spectral color reproduction)に基づくカラー成像システムを構築することである。そうしたシステムでは、アイソマの原理が基礎とされ、シーン色の相対スペクトルパワー分布が注意深く捕捉更には再現されよう。有名な例は、1891年に導入されたLippmannのツーステップ写真法であり、この方法では基本的に分光的色再現、即ち撮影されたシーンの波長スペクトラムの再生を利用し、カラー画像が生成及び看取される。しかしながら、こうしたシステムは複雑であり、ラジオメトリック的に不効率であり、且つ視野に対し敏感である。そのため、これらは広範には使用されてこなかった。
【0007】
人体の視覚系に錐体型光受容体がたった三種しか備わっていないという事実があるので、そっくりなスペクトルパワー分布を持たせることなく二種の刺激を知覚色(perceived color)において整合させ、ひいてはメタメリック色一致を発生させることができる。特に、赤色(長波長)、緑色(中波長)又は青色(短波長)の各種錐体は、広い波長域から集積又は累加されたエネルギに応答する。結果として、全波長に亘る光の組合せ方が様々に違っていても、互いに等価な受容体応答が発現する可能性がある。別のそれと対比される個々のスペクトラムに関し、三種ある錐体間の集積応答が等しいものである限り、諸刺激がメタメリック一致を呈し、観測者に同一の知覚色がもたらされることとなろう。
【0008】
カラー成像システムのなかでも最も実用的なのは、少数(典型的には三又は四種)の発色体を使用すると共に、メタメリズムの現象に依拠して所望色外観のカラー画像を生成するシステムである;このシステムでは、再現されるカラースペクトラム群が元々のカラースペクトラム群と一般に整合しないであろう。そうしたカラー成像システムにより提供される発色体の量的比率は、元々のシーン色と密に整合して見えるであろう色がもたらされるように調整される。昨今のカラー成像システムは、オリジナルと再現物との間に密な色整合がもたらされるよう、できるだけ多くの重要な色に関し且つ標準観測者又は一組(set)の観測者に対し最適化されている。
【0009】
先に提示した通り、スペクトル差にかかわらず色整合が起きるというメタメリズムの現象は不一致に陥りやすい。一般に、メタメリズムは、その光で照明される素材のスペクトル反射/透過特性に対する光源スペクトラムの相互作用と、観測者(又はカメラセンサ)のスペクトル応答とに依存する。色覚異常のない観測者間の色知覚は、光学媒質(角膜、レンズ及び眼内液)内の前網膜フィルタリング、斑状感光色素の濃度、錐体分布の差、神経系内での色処理差、並びに錐体スペクトル感度の差に依存して変動する。人間の色知覚は、年齢と共に変化することが知られており個人別に違いのある等色関数(CMF)を使用し、測ることができる。
図1Aに、“正常な”色覚を有する様々な一組の人物を対象に計測された20組の等色関数300であって、看取視野が10°である場合のものを、非特許文献2(Wyszecki and Stiles)中の表I(5.5.6)から得たデータに基づき示す。特に、
図1Aには、個別の観測者間で色感受性が大きく異なりうること、また多くの波長で5〜10%又はそれを上回る顕著な局所変動が現れることが示されている。
【0010】
国際照明委員会(CIE)では、二種の標準観測者、即ち2°1931CIE標準観測者及び10°1964CIE標準観測者について等色関数を文書規定している。
図1Bでは、そのCIE2°等色関数300a及びCIE10°等色関数300bが対照されている。注意すべきなのは、色空間(color space)の赤色、緑色及び青色部分それぞれでCIE10°等色関数300bがCIE2°等色関数300aから乖離しているが、最も大きな差が色空間の青色部分で発生していることである。特に、CIE2°等色関数300aに比べCIE10°等色関数300bでは青色(短波長)等色関数応答のピークが約10%高いことから、最大差が青色(<500nm)にて発生している。加えて、緑色(中波長)等色関数,赤色(長波長)等色関数双方が青色スペクトル域内へとクロストークしており、個別のCIE2°等色関数300a・CIE10°等色関数300b間の色応答差が、赤色及び緑色スペクトラム群のうち多くの部分内に比べ、青色において大きくなっている。特に、540nm超では青色等色関数が顕著な応答を欠き、二通りの等色関数(赤色及び緑色)だけが色標本の知覚に大きく寄与するので、これら錐体間の色差が比較的小さくなる。また、短波長“青色”錐体の存在量が、中心窩では非常に小さく且つ周辺では大きい。これらの違いは、メタメリック色知覚差が様々な看取視野サイズ毎に観測されえ且つ波長により変化しうる、という事実を反映している。
【0011】
通常の条件下、例えば日光下看取条件下で最もよくある観測者間メタメリズム不一致発生源は、1人又は複数人の観測者における色盲(即ち色覚異常)である。しかしながら、光源の又は物体の反射性のスペクトル特性が狭くより複雑になり、それらのスペクトル色多様性(spectral color diversity)が欠けるにつれ、正常な色覚を有すると認められる諸人間でさえも、顕著な観測者間メタメリズム不一致が発生しうる。
【0012】
狭帯域原色を使用するシステム(例.ディスプレイ)は、観測者間メタメリズム不一致現象の影響を最も受けやすい。このことから予見できる通り、ディジタルレーザプロジェクタ等のレーザ式ディスプレイや、狭スペクトラム原色を使用する他種ディスプレイ(例えばLED)の看者が、観測者間メタメリズム不一致を体験する可能性がある。レーザディスプレイで提供可能な拡張色域には強い期待が寄せられてきたが、現実には、その色域には、従来型フィルム式又はCRTディスプレイの色域外にあるだけでなく天然でも滅多に見られないような、多くの広色域色が含まれうる。結果として、色域境界又はその付近に存するそうした極高彩度(極濃厚)色の観測者間色知覚差は、記述又は定量化するのが困難となりうる。他方で、典型的装置の色域色、特に空色、肌色又は草緑色等の記憶色(memory color)についての観測者間色知覚差は、広帯域光源ではほとんど起こらないが、レーザ等の狭帯域光源ではより頻繁且つ劇的に起こりうる。
【0013】
ディジタル映画の場合、記憶色を孕むコンテンツをカラースイート又は映写室内で見る熟練観測者間での顕著な色知覚差は、ひどい不満につながりかねない。例えば、ある熟練観測者が、表示されている肌色がひどく緑色に見えると言っているのに、別の熟練観測者が、ひどく赤色に見えると言うことがありうる。そうしたセッティングでは、その狭帯域ディスプレイ又はレーザディスプレイを、認められた標準である広帯域ディスプレイと比較したときにも、問題が出現しうる。更に、ある集団(group)の熟練観測者が満足したとしても、より広範な観衆のなかには満足しないものが幾人かはいるであろうし、そうした経験は、狭帯域ディスプレイ技術の市場的成功に決定的な影響を及ぼす不満につながりかねない。
【0014】
観測者間メタメリズム不一致の問題を緩和する試みが既に幾通りか提案、提示されている。例えば、非特許文献3(Thornton and Hale)では、三色の狭帯域原色(Δλが約10nm半値全幅(FWHM))を有する加法混色(additive color)表示システムについて、観測者間メタメリズム不一致軽減の課題が検討されている。その著者の推奨によれば、観測者間メタメリズム不一致の影響を軽減するためには、正常人の視覚系が呈する三通りのスペクトル感度のピーク又はその付近にあり“基本波長”と呼ばれる波長(450、540及び610nm)に、それらの原色を優先的に近づけるべきである。非特許文献3では、その著者の手法でもたらされると期待される改善がどの程度かについて明らかにされていない。そのThornton基本波長原色を、
図1A中の等色関数300上に、Thornton赤色レーザ原色432、Thornton緑色レーザ原色434及びThornton青色レーザ原色436として重ねて記す。また、比較のため、前掲の非特許文献1に例示されているレーザ投射システム例に関し、赤色レーザ原色422、緑色レーザ原色424及び青色レーザ原色426を含め、典型的な一組のレーザ原色を示す。
【0015】
より最近の論文である非特許文献4(Ramanath)では、三原色を有する諸種ディスプレイに関し観測者間メタメリズム不一致が調べられている。特に、非特許文献4では、CRTディスプレイ、LCD式ディスプレイ、DLP(登録商標)式ディスプレイ、LED式ディスプレイ、CCFL(冷陰極蛍光管)式ディスプレイ及びレーザディスプレイをはじめとする諸種電子表示装置間での、観測者間メタメリズム不一致の相対発生比率が調べられている。非特許文献4で結論するところによれば、表示スペクトラムが狭まる(FWHMが小さくなる)につれ、或いは表示スペクトラム内モード数が増すにつれ、観測者間メタメリズム不一致がより頻繁に発生し、その観測者間メタメリズム不一致によってより大きな知覚色差がもたらされることとなりうる。結果としては、狭又は多モードスペクトラム群が原因でスペクトル色多様性を欠くレーザディスプレイ及びCCFLディスプレイには、観測者間メタメリズム不一致を引き起こす傾向が強くある。対するに、広帯域原色(Δλ=約60〜70nmFWHM)を有するCRTディスプレイ及びランプ式DLP(登録商標)ディスプレイには、観測者間メタメリズム不一致が発生する可能性がさほどない。スペクトル帯域幅が容易に2nm幅以下となりうるレーザディスプレイの場合、もし観測者間メタメリズム不一致が顕著に軽減されるのであれば、些少の色域縮小と引き替えにレーザ発光帯域幅を少々拡張することで、リズナブルなトレードオフがもたらされよう。しかしながら、非特許文献4で解明されたところによれば、中庸なFWHM帯域幅(Δλが約28nm)を有するスペクトル分布、例えばLED照明ディスプレイでのそれでも、顕著に知覚可能な観測者間メタメリズム不一致が発生する余地があり、そのことは、観測者間メタメリズム不一致の軽減がスペクトル帯域幅の拡張で直ちに実現されるわけではないと示唆している。
【0016】
また、非特許文献4は非特許文献3の功績上に立脚するものであり、そのスペクトルピークがThornton原色に近い原色を有する三原色ディスプレイに関し原色スペクトルパワー分布(SPD)のモデル化“理想”セット、即ち基準観測者(reference observer)が見る色と非基準観測者が見る色との差を小さくしうるようなセットを提案している。特に、非特許文献4での提案によれば、ピークパワーが450nmにあり帯域幅Δλが約49nmの青原色、ピークパワーが537nmにあり帯域幅Δλが約80nmの緑原色、並びにピークパワーが615nmにあり帯域幅Δλが約56nmの赤原色、という3個の広帯域色チャネル(color channel)又は原色(color primary)であれば、観測者間メタメリズム不一致の生じやすさが最小化されよう。しかしながら、非特許文献3及び4で併せ示唆されているところによれば、非特許文献3で示された優先的配置を呈する一方で中庸な帯域幅(例.Δλが約30nm)を呈する色スペクトラム群を有する三原色ディスプレイでもなお、観測者間に顕著なメタメリズム不一致が現れうる。このように、狭帯域三原色を有するシステムにて観測者間メタメリズム不一致を抑える途がなお明瞭でない。
【0017】
他の研究者の示唆によれば、三色超の原色又は3個超の色チャネルを使用することにより観測者メタメリズムを軽減することができる。非特許文献5(Konig et al.)には、六原色を有する画像表示システムであって、メタマの表示及び観測者間メタメリズム不一致の軽減に使用されるものが記載されている。非特許文献5が述べるところによれば、入力たる色信号を三通り(例.RGB値又はL
*a
*b
*値)しか有していない成像システムでは、別々の観測者がどのようにして元々の色を知覚するかについて情報を利用できないので、あらゆる人的観測者に対し精緻に色を再現することができない。即ち、ある観測者に係る人体視覚系の色覚応答を直接的に計測し、原色をどのように最適化できるかを判別することができない。対するに、その著者の提案によれば、三色超の原色を有する多原色ディスプレイであれば、所与色表示に関し更なる自由度を導入し、個々の観測者毎に知覚上の色差を小さくすることができる。特に、非特許文献5での解明によれば、三色超の広帯域原色を有する多スペクトラムディスプレイであれば、分光的色再現によりピクセル毎に色を再現するためのスペクトル制御及び広い色域の双方を提供し、観測者間メタメリズム不一致を軽減することができる。一例として記載の多スペクトラムディスプレイでは、2個のLCDプロジェクタを使用し、相重なった像がスクリーン上に形成され、それらが相俟ち拡張色域が提供される。このディスプレイは六色の広帯域原色(Δλが約40〜100nmFWHM)を有しており、一方のプロジェクタがRGB像、他方のプロジェクタがCMY像を発現させる。
【0018】
非特許文献6(Fairchild and Wyble)では、狭帯域原色ディスプレイ例えばレーザ式ディジタル映画プロジェクタの使用中に発生し、“画像プルーフィング”中にフィルムメーカを仰天させる観測者間メタメリズム不一致について、懸念が表明されている。この文献では、約100nmのFWHM帯域幅Δλを有するガウシアンによって近似された広帯域RGB原色を有するディスプレイ、並びに約5nmのFWHM帯域幅Δλを有する狭帯域原色の第2ディスプレイに関し、色知覚差をモデル化してその差異を対照しており、またそれら原色のピーク波長が、Thorntonの基本波長(450、540及び610nm)付近となるよう選定されている。年齢及び視野に依存する色知覚差を等色関数(CMF)及びΔE
*色差によってモデル化した上で、非特許文献6では、三色の狭帯域原色しか有していないディスプレイ例えばレーザプロジェクタでの色誤差は大きすぎ、色に関し厳密なアプリケーションでは許容できなかろう、と結論づけている。そして、その著者は、より広い色域及びより高い輝度コントラストを提供可能なディスプレイを開発中のディスプレイ製造業者に対し、そうした狭帯域原色システムの開発を放棄し、分光的色再現をサポートするシステムへとその労力を振り向けるべきだと示唆している。特に、その著者は、広い色域及び高い輝度コントラストを有する新規なディスプレイでは、多く(N>3)の広帯域原色が使用されるべきだと示唆している。
【0019】
非特許文献7(Bergquist)では、観測者間メタメリズム不一致の軽減を企図する多スペクトラムディスプレイの例が提示されている。記載されているのはフィールドシーケンシャルカラーディスプレイであり、そのディスプレイ上で再現されるべき色のスペクトラムを近似すべく、それぞれ約30nmのFWHM帯域幅Δλを有するガウシアン光源例えばLED20個(N=20)の経時平均・変調アレイを備えている。非特許文献7では、このやり方により、少数組の狭帯域原色の重ね合わせを使用し色の感覚をエミュレートするのではなく物理信号の近似物を合成するスペクトル再現システムが提案されている。そして、元々のシーン及びその再現物がそっくりであることを所与観測者が見いだすであろうから(元々のスペクトラム群と再現されたスペクトラム群が基本的に同一であるから)、観測者間メタメリズム不一致が比色定量的整合(colorimetric matching)に比べ軽減される。結果として、当該観測者によるその感覚の解釈や当該観測者がシーン色に与えるであろう名称によらず、色覚異常を有する人物の多くを含め大多数の観測者間に、良好な意見一致が見いだされよう。この方法は観測者間メタメリズム不一致の軽減に資するが、撮影段階にて多くの(N≫3の)付加的色情報チャネルを必要とし(多スペクトラム撮影)、また複雑性に富む信号処理及び表示が必要となる。この付加的な複雑性のいずれも、今日の又は近い将来の撮影、処理及び表示用インフラストラクチャに対しほとんど互換的でない。
【0020】
他の手法としては、非特許文献8(Sarkar et al.)記載の通り、非特許文献2のデータを解析し、個々のCMFにより測られる色覚が統計的に類似する七通りの独特な観測者集団又は観測者範疇を識別する手法がある。その著者は、広色域ディスプレイ使用時の観測者間メタメリズム不一致軽減という目標の下で、幾つかの観測者階級のうちいずれかに整合するよう色ワークフローが調整されるような、観測者依存カラー成像方法が開発されうることを示唆している。無論、この方法の適用には、当該観測者の色覚に基づく観測者の分類が必要になる。この手法は、個人別色処理又は小規模人間集団に関してはうまく働くかもしれないが、映画観衆内に現る雑多な人間集団に対するサービスには拡張できなかろう。
【0021】
特許文献1(発明者:Hill et al.,名称:非線形コーディングを伴う多分光的色再現システム(Multispectral color reproduction system with nonlinear coding))では、多スペクトラムカメラにより捕捉された色データを改変するシステムであって、スペクトル情報を提示するのに必要な大量のデータを減らす符号化方法を使用するもの、特に観測者にとり視認可能な色情報の顕著な損失を引き起こさないものが提案されている。そのため、この文献によれば、データフレンドリな分光的色再現を、N≧4の多原色ディスプレイを使用したときの観測者間メタメリズム不一致を軽減する手段とすることができる。
【0022】
特許文献2(発明者:Miller et al.,名称:拡張色域及び複製保護を伴う四色ディジタル映画システム(Four color digital cinema system with extended color gamut and copy protection),譲受人:本願出願人)では、N≧4の狭帯域色チャネルを有していて、複製保護実現のためメタメリック整合を利用する多原色ディスプレイが開示されている。特に、この文献での提案によれば、スペクトル組成が変化しつつも同じ色がもたらされるよう毎フレームベースで様々な組合せの原色を使用することによって、画像又は画像シーケンスの諸部分の選択的レンダリングによりメタメリック整合を実現することができる。そのため、そうして改変された画像部分は、人的観測者には同様に見えうるが、投射スクリーン又はビデオスクリーンからの不法画像撮影に使用されるであろうカメラには別様に見えうる。この手法は、人間・カメラ間に発生する特殊ケースの“観測者”間メタメリズム不一致を利用し、複製保護上の所望効果を達成するものであり、人的観測者間での観測者間メタメリズム不一致の発生を軽減するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
ご理解頂けるように、別紙図面は、本発明の概念を描写することを狙うものであり、実寸に対し忠実に縮尺されているとは限らない。
【0033】
以下の記述では、通常はソフトウェアプログラムとして具現化されるであろう名辞によって本発明の諸実施形態を説明する。いわゆる当業者(本件技術分野に習熟した者)なら直ちに認識できる通り、そうしたソフトウェアの等価物はハードウェアでも構築することができる。画像操作アルゴリズム及びシステムが周知であるので、以下の記述は、特に、本発明に係る方法の一部を構成し又はそれとより直接的に連携するアルゴリズム及びシステムを指向するものとなろう。そうしたアルゴリズム及びシステムの他態様や、それにまつわる画像信号を処理例えば生成するためのハードウェア及びソフトウェアであって、本願中に具体的な図示又は説明がないものは、本件技術分野で既知のシステム、アルゴリズム、コンポーネント及び要素のなかから選ぶことができる。これから本発明に従い説明されるシステム中、本発明の実施に役立つが本願中で具体的に提示、示唆又は説明されていないソフトウェアは、既存のものか本件技術分野における通常の技量内のものである。
【0034】
本発明は、本願で説明する実施形態同士の組合せを包含する。“ある実施形態”等々が参照されている場合、そこでは本発明の実施形態のうち少なくとも1個に備わる特徴が述べられている。別々の個所で“一実施形態”、“諸実施形態”等々が参照されている場合、参照先が同じ実施形態又は実施形態群であるとは限らない;とはいえ、その旨記述されているか或いはいわゆる当業者にとり直ちに自明であるのでない限り、そうした実施形態は互いに排他的なものではない。方法等を参照する際の単数形又は複数形の使用、例えば“方法”や“諸方法”の使用によって、何かが限定されるわけではない。注記すべきことに、明示的に示されているか或いは文脈上必然であるのでない限り、本願中では、語“又は”が非排他的な意味で使用されている。
【0035】
様々な理由、例えば光効率向上、色域拡張、光源寿命延長、稼働中交換コスト低減等といった理由で、プロジェクタ及びディスプレイでは、古典的なランプ(キセノンアークランプ、タングステンハロゲンランプ、UHPランプ等)から固体光源(レーザ、LED等)への置き換えが強く促されている。最近まで、レーザ式投射システムに対する需要が満たされていなかったのは、部分的には、コンパクト、ロバスト且つ低〜中コストの可視波長レーザ技術、特に緑色及び青色についてのそれが、商品化可能な形態で出現してこなかったからである。しかしながら、最近になって青色ダイオードレーザ及びコンパクト緑色SHGレーザが出現したのに伴い、Microvision(米国ワシントン州レドモンド)等の企業による低コストレーザ式ピコプロジェクタが市場に出回るようになってきている。
【0036】
並行して、Laser Light Engines(米国ニューハンプシャー州セイラム)、Necsel(米国カリフォルニア州ミルピタス)等の企業が原型的な又は初期生産型のレーザデバイスを発表したことから、ディジタル映画投射をサポート可能なコンパクトハイパワー可視光レーザに関する同様の障害も解消され始めている。例えば、(以前はNovaluxとして知られていた)Necselによって、それぞれその光学出力パワーが3〜5ワットである緑色(532nm)や青色(465nm)のレーザアレイが販売されている。パワーがこうしたレベルであり、且つシステム効率の損失が許されるなら、大会議室又はホームシアタ向けの中庸サイズプロジェクタ(約1200ルーメン出力)を、一色当たり1個のレーザデバイスを使用し実現することができる。しかしながら、映画の場合、スクリーンサイズ及びスクリーン利得にもよるが、オンスクリーン輝度を10000〜40000ルーメンとすること、即ち40〜170ワット以上の合成光学パワー(光束)をスクリーンに入射させることが必要とされうる。現在のところ、こうしたパワーレベルは、色チャネル毎に複数個のレーザアレイを設け、その出力を光学的に結合させることによって、実現されている。
【0037】
本発明をより好適にご理解頂くには、本発明の装置及び方法を稼働させうる状況全体について説明するのが有益であろう。
図2に示すように、劇場50内観測者60達からなる観衆は、プロジェクタ100に発する成像光175で表示面190上に形成された像195を見る。その投射像は、通常、それぞれフレーム期間毎に特定の色及び輝度を呈する画像ピクセル(図示せず)の2Dアレイを有している。
図1Aに複数組の等色関数300で例示した通り、観測者60間で色知覚が異なるので、その投射像を見る際に観測者間メタメリズム不一致が発生しうる。このことが際立つのは、レーザ、LEDその他の狭帯域光源に依拠する三色の狭帯域スペクトル原色を、プロジェクタ100が使用している場合である。本発明の脈絡上、狭帯域光源とは、約30nm以下の半値全幅(FWHM)スペクトル帯域幅を有する光源のことである。同様に、広帯域光源とは、少なくとも約45nmの半値全幅(FWHM)スペクトル帯域幅を有する光源のことであり、広帯域ディスプレイのスペクトル帯域幅は一般に約45〜90nmの範囲内に属する。(約25〜50nmのスペクトル帯域幅を伴う)中間帯域幅光源を有するディスプレイでも、観測者間メタメリズム不一致の影響を軽減する本発明の方法が有益であるが、その程度は小さめとなる。メタメリズム不一致の生じやすさがスペクトル構造(例.スペクトルモード構造)の子細で左右されうるため、その中間帯域幅レンジが狭帯域幅スペクトルレンジ又は広帯域幅スペクトルレンジと部分的に重なりうる。
【0038】
模式図たる
図3には、本発明に係り三色の狭帯域原色(λ
b,λ
g,λ
r)を有するプロジェクタ100の一例構成が示されている。図中の赤色、緑色及び青色照明アセンブリ110r、110g及び110bでは、赤色、緑色及び青色レーザ光源120r、120g及び120bのうち対応するもので、赤色、緑色及び青色(RGB)原色を発生させる。このシステムは、前掲の非特許文献1に記載のものと類似している。赤色、緑色及び青色レーザ光源120r、120g及び120bは、それぞれ、1個又は複数個の光源デバイス、典型的にはマルチエミッタレーザアレイデバイスを備えうる。例えば赤色レーザ光源120rは、赤色チャネル向けの狭帯域原色(λ
r)がもたらされるよう組み合わされた、複数個(例えば12個)の半導体レーザアレイを備えうる。実施形態によっては、赤色レーザ光源120rにて、12個のレーザエミッタからなるアレイから約638nmにてそれぞれ約6ワットの光束を輻射する三菱(登録商標)ML5CP50(商品名)レーザダイオードが、複数個使用されうる。同様に、緑色レーザ光源120g及び青色レーザ光源120bにそれぞれ複数個のレーザデバイスを設けてもよい。実施形態によっては、例えば、2個のビームローから各24本のビームとしてもたらされる都合48本のビームで3〜4ワットの532nm光を定格上輻射するNECSEL−532−3000(商品名)緑色可視光アレイパッケージが、緑色レーザ光源120gにて使用されうる。同様に、実施形態によっては、2個のビームローから各24本のビームとしてもたらされるやはり都合48本のビームで3〜4ワットの465nm光を定格上輻射するNECSEL−465−3000(商品名)青色可視光アレイパッケージが、青色レーザ光源120bにて使用されうる。どちらの場合でも、個々のレーザ光源アセンブリは、レンズ、ミラー、プリズムその他のコンポーネント(図示せず)を備え、それらのコンポーネントによるレーザビーム成形及び指向性制御を通じ出射ビームのアレイが形成され、それらビームがハウジングのアパーチャから出て照明システムの残余部分に入射する構成にしうる。
【0039】
ご理解頂ける通り、現在では、各色チャネル内に複数個あるレーザアレイの出力を、自由空間光学系又はファイバ結合を使用し光学的に結合させ、システム例えば
図3のそれを形成することにより、ディジタル映画向け所要パワーレベルを低コストで実現することができる。レーザ技術は、最終的には、中庸価格且つコンパクトなレーザデバイス少数で各色を駆動しうるように進歩するかもしれない。こうした用途に適するファイバレーザも開発されるかもしれない。無論、どの手法にも、単純性、コスト、並びにレーザ不具合に対する抵抗力不足の間のトレードオフに関連する、長所及び短所がある。
【0040】
個別の色チャネルでは、レーザ光源アセンブリから出てくる光ビームが、赤色、緑色及び青色照明アセンブリ110r、110g及び110bのうち対応するものの更なる部分、例えば様々な照明レンズ145、光インテグレータ150、1個又は複数個のミラー155、更にはフィルタ、偏光アナライザ(検光子)、波長板、アパーチャその他の所要構成要素たる他の照明光学系140に行き当たる。3D投射を可能にする偏光スイッチングデバイス(図示せず)その他の光学系も、そのプロジェクタに併設することができる。
【0041】
そして、
図3に示す通り、光源アセンブリからの照明光115は、1個又は複数個のミラー155での転向により、対応する空間光変調器170上へと差し向けられる。空間光変調器170ではその指定ピクセルにより透過光に画像データが載せられ、その画像データを担持する変調成像光175が結合器160(例えばダイクロイック結合器)を使用し結合され、成像光学系180を過ぎり表示面190(例えば投射スクリーン)上に至る共通光軸185沿いを辿っていく。その表示面190は、典型的には、Lambertian拡散器を近似する白色マットスクリーンか、(例.約2.4の利得gで)細い錐状の光を後方反射する利得スクリーンである。利得を有するスクリーンは湾曲させることができ、複雑な表面構造を以て形成でき、3D投射に資する偏光を保持させることができ、また白色又は無彩色(僅かに灰色)スペクトル反射性を呈するものとすることができる。図示実施形態では結合器160に第1結合器162及び第2結合器164が備わっており、それらは、それぞれ、その波長に従い光を選択的に透過又は反射させる相応の薄膜光学被覆を有するフィルタ又はダイクロイック素子とされている。
【0042】
ご理解頂ける通り、ミラー155がその光学系の平面内にある必要はない。即ち、
図3によって少なくとも示唆される通り、緑色チャネル向け光路内のミラー155を平面外に配し、成像光学系180へと向かう成像光175が邪魔されないようにすることができる。加えて、結合器160が一対の傾斜ガラス板として示されているが、Xプリズム(商品名)、Vプリズム又はPhilips(登録商標)(若しくはプランビコン)型プリズムを含め、他例の構成を使用することができる。他の実施形態としては、ミラー155をもプリズムの形態、例えば広く使用されているTIR(全内部反射)プリズムの形態にする形態がありうる;TIRプリズムはPhilips(登録商標)プリズム及びDLP(登録商標)デバイスとしばしば併用される。
【0043】
図3では、成像光学系180が単一のレンズ素子によって象徴的に描かれている。実際には、成像光学系180は複数個のレンズ素子を有する多要素アセンブリであり、光軸185に沿いそれ自身の物面にある空間光変調器170が当該成像光学系によって像面(表示面190)へと高倍率(典型的には100倍〜400倍)で成像されるよう、成像光175を指向及び合焦させる。成像光学系180は固定焦点光学系でもズーム光学系でもよく、その全体を透過素子(例.レンズ)又は反射素子(例.成像ミラー)で構成することや、透過素子,反射素子双方を含むカタディオプトリックな光学系とすることができる。成像光学系180は、通常、変調器の像をスクリーン上に形成する投射光学系(例.複数個のレンズ素子を有する投射レンズ)を備えている。実施形態によっては、成像光学系180が、更に、中間像面に実空中像を発生させる中継光学系(例.複数個のレンズ素子を有する中継レンズ)を備えうる;その実空中像は、引き続いて投射光学系によりスクリーン上に成像される。実施形態によっては、レーザスペックルの視認性を軽減するデスペックリングデバイスが光路上に設けられよう。構成によっては、中間像面又はその付近にデスペックリングデバイスを配するのが有益である。
【0044】
好適な実施形態においては、プロジェクタ100の空間光変調器170が、Texas Instruments, Inc.(米国テキサス州ダラス)によって開発されたディジタルマイクロミラーデバイス(DMD)即ちディジタル光プロセッサ(DLP(登録商標))とされる。このDLP(登録商標)デバイスでは、ピクセル又はマイクロミラーのパルス幅変調(PWM)制御を通じ、透過光に画像データ情報を載せる。しかしながら、実施形態によっては、或いは、空間光変調器170向けに他の技術、例えば透過性液晶ディスプレイ(LCD)や反射性液晶オンシリコン(LCOS)デバイスが使用されうる;こうした技術では、通常、透過光の偏向状態を改変することでその光に画像データ情報を載せる。
【0045】
図4に、プロジェクタ100に画像データを供給するデータパス200であって本発明のメタメリズム不一致軽減方法を実行可能なものの例を、模式的に示す。画像ファイルパッケージ210は、配給用に圧縮、暗号化及びパッケージングされた一組のデータファイルとして、メモリに入った状態で劇場その他の会場へと送ることができる。その画像ファイルパッケージ210にオーディオファイル及びサブタイトルファイル、例えばDCDM(Digital Cinema Distribution Master)仕様その他のフォーマットに従い作成されたものが含まれていてもよい。これらのファイルはデータ入力インタフェース220によってアクセスされ、続いてデータ解読プロセッサ230及びデータ伸張プロセッサ235により適宜解読及び伸張される。画像プロセッサ240では、種々の処理操作を適用し表示向けにその画像データファイルを調製すること、例えば画像補正器245により画像補正、メタメリック色補正器250によりメタメリック色補正(metameric color correction)を施すことができる。画像補正器245で適用される画像補正には、均一性補正、色/色調スケール補正等の操作が含まれうる。画像プロセッサ240では、総じて、入力として与えられる相応のパラメタ及びルックアップテーブル(LUT)に応じてそこでの処理操作が実行されよう。
【0046】
こうして得られる処理済み画像はフレームバッファ260その他のプロセッサアクセシブルメモリ内に格納され、次いで画像データがそこからプロジェクタ100へと送られて表示面190へと投射される。プロジェクタ100は、諸色チャネルからの成像光同士を結合させる結合器160、並びにその成像光を表示面190上に投射する成像光学系180を備えるほか、
図4には不図示の光源を含めその他のコンポーネントを備えている(プロジェクタ100内に通常備わる他のコンポーネントの詳細については
図3を参照)。
【0047】
画像データは、変調タイミングコントローラ265により同期されつつ毎フレームベース又は毎サブフレームベースで、フレームバッファ260から空間光変調器170へと送られ、そこで毎ピクセルベースでの画像変調を受ける。実施形態によっては、こうしたデータパス200の全体又は一部がプロジェクタ100のハウジング内に配されうる。
【0048】
色域及びメタメリズム不一致を含め色知覚に関しては、各色チャネルにおけるスペクトル帯域幅及び中心又はピーク波長が重要なパラメタである。現在利用可能なレーザ技術によれば、プロジェクタ100で使用される定格プロジェクタ波長は一般に465nm、532nm及び638nmであり(
図1A中の赤色レーザ原色422、緑色レーザ原色424及び青色レーザ原色426を参照)、これらは、潜在的に最適であり前述されている450nm、540nm及び610nmのThornton原色から大きく乖離している(
図1A中のThornton赤色レーザ原色432、Thornton緑色レーザ原色434及びThornton青色レーザ原色436を参照)。
【0049】
技術により違いがあるが、個別のレーザデバイスはそのデバイスに固有の帯域幅(Δλ
2)を呈するものであり、その種のデバイスの集合体はより広い帯域幅レンジ(Δλ
1)を呈するであろう。
図3中の赤色レーザ光源120rで言えば、実施形態によっては、各々そのピーク輻射波長λが約632〜645nmのスペクトル域内、即ちΔλ
1が約13nmで典型的波長が640nmのスペクトル域内にある、複数個の赤色レーザデバイスが使用されるとき、個別レーザの典型的スペクトル帯幅Δλ
2は約2nmFWHMである。同様に、実施形態によっては、
図3中の緑色レーザ光源120gにて、個別デバイスの典型的ピーク波長が532nm、典型的FWHMスペクトル帯域幅Δλ
2が約0.2nmであり、その中心波長λが約527〜537nm(曰くΔλ
1が約6nm)の域内にある、ノバラクス拡張空胴表面発光レーザ(NECSEL(商標))型緑色レーザが使用される。同様に、実施形態によっては、
図3中の青色レーザ光源120bにて、典型的ピーク波長が465nm、典型的FWHMスペクトル帯域幅Δλ
2が約0.2nmであり、その中心波長が460〜470nm(曰くΔλ
1が約6nm)の域内にあるNECSEL(商標)青色レーザが使用される。
【0050】
図5に三通りのスペクトルパワー分布、即ちレーザ投射スペクトラムの例420、フィルムプロジェクタスペクトラムの例400、並びにディジタル映画プロジェクタスペクトラムの例410を示す。レーザ投射スペクトラム420はプロジェクタ100で使用可能な一組の代表的レーザ光源を示すものであり、赤色チャネルに対応する赤色レーザ光源120rによりもたらされる赤色レーザ原色422、緑色チャネルに対応する緑色レーザ光源120gによりもたらされる緑色レーザ原色424、並びに青色チャネルに対応する青色レーザ光源120bによりもたらされる青色レーザ原色426、に係るスペクトラム群を含んでいる(
図5に例示した一組のレーザ原色スペクトラム群は必ずしも特定色又は白色点が発生するよう強度バランスしているわけではなく、寧ろスペクトル位置を示すことを旨としている)。各色チャネルのレーザ原色スペクトラム群は複数個の個別レーザデバイスを有する照明アセンブリに係るものであり、そのFWHM帯域幅Δλ
1は一般に約5〜15nmの域内にあり、また個別のレーザデバイスはそれよりかなり狭い輻射帯域幅(例.Δλ
2が約0.2〜2nm)を有している。
【0051】
色チャネル毎に複数個のレーザデバイスが使用されることに関連する広めの帯域幅は、観測者間メタメリズム不一致,スペックル知覚双方の軽減に役立ちうる。これらの長所は引き替えに中庸色域損失をもたらす。しかしながら、実際には、この潜在的スペクトル域Δλ
1(例.約3〜7nm)に比べ、レーザにおける中心波長の統計的分布を目立って狭くすることができる。加えて、前述した通り、非特許文献4での示唆によれば、LEDにて通例な更に広いスペクトル帯域幅(Δλが約30nmFWHM)ですら、顕著な観測者間メタメリズム不一致を引き起こしうる。従って、そのピーク輻射波長に分布がある一団のレーザの使用に依拠するのでは、観測者間メタメリズム不一致の発生を満足行くほど十分に軽減することが見込めず、ことにたった三原色(即ち3個の色チャネル)しか有していないプロジェクタやディスプレイではそうである。更に、観測者60を対象に観測者間メタメリズム不一致の発生又は程度を軽減する方法は、一原色又は複数原色を有しその原色のスペクトル帯域幅Δλが約30nm以下であるディスプレイ向けに役立ちうる。
【0052】
図5上で更に対比図示されているのはフィルムプロジェクタスペクトラムの例400であり、これは、キセノンアーク灯からプリントフィルムに向かう照明光、特にUV光,IR光双方を除去すべくフィルタリングされているものを表している。フィルム式プロジェクタでは、このスペクトラムが、続いて、赤色、緑色及び青色のフィルム内色素の透過スペクトル群により局所画像コンテンツベースで変調される。図中のディジタル映画プロジェクタスペクトラム410はキセノンアーク灯光源を有する従来型プロジェクタに係るものであり、そのキセノンアーク灯光源のダイクロイック的な分割によって赤色、緑色及び青色原色、即ち相俟ってスペクトラム410を組成する原色が形成される。このディジタル映画プロジェクタスペクトラム410は、Barco(登録商標)ディジタル映画プロジェクタ、例えばモデルDP−1500プロジェクタ(商品名)によってもたらされるそれの典型である。どの原色も広帯域なスペクトラム(例.Δλが約68nmFWHM即ちΔλが約89nmFW1/e
2)を有している。これら原色それぞれの光は対応する空間光変調器へと送られ、そこでその色チャネルに係る光に画像データが載せられる。見て取れる通り、フィルムプロジェクタスペクトラム400及びディジタル映画プロジェクタスペクトラム410は、レーザプロジェクタスペクトラム420に見られるような狭いスペクトルピークを含んでいないので、観測者間メタメリズム不一致に対する高感受性の問題を被らないであろう。
【0053】
一般的な色表現手法の一つは、
図6に示すCIEx,y色度図(chromaticity diagram)320を使用する手法である。この図では、次の式
x=X/(X+Y+Z)
y=Y/(X+Y+Z) (1)
を使用しCIEXYZ三刺激値(tristimulus value)から算出可能なx,y色度座標(chromaticity coordinate)を使用し、色がプロットされている。このCIEXYZ系の理屈は、二色が同じXYZ値(及び同じ看取条件)を有しているなら、XYZ値が整合すればそれらパッチが視覚的に整合するであろう、というものである。x,y色度座標では2個の色次元しか表されないので、x,y色度座標で色を全面的に記述することはできない。特に、x,y色度座標は色の色相及び彩度に関する指標をもたらしうるが、輝度に関するどのような指標ももたらさない。通常は、知覚輝度を表すY三刺激値をx,y色度座標と併用し、x,y,Y色座標の組として色を全面的に特定する。色を表現するのによく使用される他の色空間としては、周知のCIELAB色空間及びCIELUV色空間がある。
【0054】
図6中で外側にある湾曲した境界線は“蹄鉄状”スペクトル軌跡(spectrum locus)325であり、可視光スペクトラムを構成する純粋に単色系の色群に対応している。付記されている波長から分かる通り、このスペクトル軌跡325は、左下隅にある青色から上にある緑色を通り右下隅にある赤色へと進んでいる。このスペクトル軌跡325は人体視覚系の色域の境界を表しており、人的観測者にとり可視的な色群の全域を囲んでいる。その色域境界の下部にある真っ直ぐな辺は、パープル線327又はパープル境界と呼ばれる(その上の色はスペクトル軌跡325の一部ではなく単色輻射器ではもたらされない)。
【0055】
CIEx,y色度
図320に備わる特性の一つは、二色の混合により生成される色の色度座標が、混合対象となる二色に係る色度座標同士を結ぶ直線沿いに位置することとなる、ということである。CRT、レーザプロジェクタ等の加法混色成像デバイスでは一組の原色から混合色を生成することで像を発生させるので、そうしたデバイスの色域は、CIEx,y色度
図320上で、それらの原色が頂点にある三角形で与えられよう。
図6に示す広帯域色域330は一組の広帯域原色(即ち赤原色331、緑原色332及び青原色333)に対応している。これらの原色及びそれらに係る色域は、典型的なCRTモニタ又はテレビジョンで使用される蛍光物質によってもたらされるそれの典型である。同様に、これもまた
図6に示すレーザ原色色域335は、前述した一組の典型的なレーザプロジェクタ原色(即ち赤色レーザ原色422、緑色レーザ原色424及び青色レーザ原色426)に対応している。
【0056】
察せられる通り、レーザ原色色域335及びより狭い従来型の広帯域色域330は、いずれもスペクトル軌跡325内に包含されている。人々はCRTディスプレイの使用によく慣れているので、そうしたディスプレイが有する色域に制約があることはほとんどの人に察せられない。例えば、無彩色(例.白色座標340)、空色(例.空色座標342)及び肌色(例.肌色座標346)といった重要な記憶色はレンダリングすることができるけれども、緑色は制約を受け、草緑色の多く(例.草緑色座標344)は再現されえない(昨今のLCDディスプレイで利用可能な色域は、広帯域色域330と比較可能なサイズかそれより若干大きいサイズであるが、草緑色タイプの色をレンダリングできるよう幾分シフトさせることができる)。
【0057】
推定によれば、天然シーンに実在する色の色域は、色空間全体に関する理論的最大値である約2.3百万識別可能色の約30%である。しかしながら、明度(Y)次元を無視すれば、天然に生じ知覚上異なる色は約26000色しかない。記憶色の個数はずっと少ない。記憶色とは、草、空、紅葉の色のように、人体視覚系(HVS)によって処理され記憶として銘記される色のことである。
【0058】
対するに、スペクトル軌跡325は単色的な色で構成されており、それらの色は、レーザや、アーク灯例えば狭い特定域内のスペクトラム群を輻射する水銀蒸気灯や、狭スペクトル帯通過フィルタによるフィルタリングを受ける光源のみで生成することができる。代表的なレーザ原色色域335の場合、そうした単色的な色は隅部、即ちレーザ原色(例.465nm、532nm及び638nm)がスペクトル軌跡325と交わるところで発生する。赤色、緑色及び青色レーザ原色422、424及び436に対応するそれを含め、スペクトル軌跡325に沿った知覚色は、天然にはほとんど見られず且つ記憶色ではない。最も卓越した例外は黄色であり、天然に発生する黄色のうち幾種類かはスペクトル軌跡325に非常に近いところにある。しかしながら、一般には、スペクトル軌跡325に沿ったこれら極高彩度(濃厚)で単色的な色の知覚差が観測者60間に不安を引き起こすことはほとんどないのであり、これは部分的にはそれらの色を精密に記述又は対照可能な言葉がないためである。スペクトル軌跡325のそばにあるが同軌跡の真上にはない他の色、例えば520nmスペクトル軌跡点付近にあるがごく僅かに青色又は赤色加法混色寄与分を有している緑色は、スペクトル的に不純即ち多色的である反面で、非常に高彩度(濃厚)で広色域な色でもありえ、しかも記憶色には該当しない。しかしながら、三原色の加法混色寄与分が等化する傾向を呈するにつれ、色は中央方向に移動する傾向を呈し、重要色又は広範認識色(例えばターコイズ、クランベリーレッド又はパンプキンオレンジ)、例えば空色、草緑色及び肌色等の記憶色がもたらされることとなる。そのため、広色域(例.レーザ原色色域335)を提供可能なディスプレイを見ている一団の観測者60(
図2)が、スペクトル軌跡325上又はその付近にある色を見て顕著な観測者間メタメリズム不一致を覚えることがありうる一方、広範経験色又は記憶色を見ている観測者60に強い不満が発生することはほとんどない。
【0059】
前述の通り、狭帯域原色を有するディスプレイにおける観測者間メタメリズム不一致を軽減するための従来手法は、原色についての優先的スペクトル配置を特徴とするか、多原色(N>3)ディスプレイ、とりわけN個の色チャネルで少なくとも中庸に広い帯域(≧30nm)を呈するディスプレイの使用を特徴としている。画像コンテンツを捉え、得られたデータを送信し、更にそれを表示するための多原色ディスプレイインフラストラクチャが十分に確立されていないことや、三原色レーザ式プロジェクタ及びディスプレイが迅速に発展していることから、そうした三原色(N=3)ディスプレイ向けの観測者間メタメリズム不一致軽減策が必要とされている。
【0060】
従来型ディジタル映画プロジェクタ及びレーザプロジェクタ100を見ている観測者に関し色知覚を比較解析すると、観測者間メタメリズム不一致の問題が更に明らかとなる。空色、草緑色、肌色、灰色及び白色を含む一組の標的色はその色に固有のCIEx,y色度座標を有するものとして定義されており、表1にはその色座標が対応するDCDM(Digital Cinema Initiative Distribution Master)コード値と共に示されている。
【表1】
【0061】
プロジェクタのモデル化には、
図5に示した広帯域ディジタル映画プロジェクタスペクトラム410,狭帯域レーザプロジェクタスペクトラム420双方を使用した。各標的色に係る色値は対応する光強度、即ち従来型ディジタル映画プロジェクタ及びレーザプロジェクタに係る個別の原色に関し標準観測者にふさわしい色値がもたらされるであろう光強度へと翻訳した。そして、両プロジェクタに関し得られた強度変調スペクトラム群を、一組の観測者固有(observer-specific)等色関数300を使用し、個別の色知覚毎に解析し、個別観測者それぞれに関し対応する知覚XYZ三刺激値を画定した。
【0062】
それら二種類のプロジェクタに係る知覚色間の色差値を、色度差
Δx
i=x
i,n−x
i,b
Δy
i=y
i,n−y
i,b (2)
により個別の観測者それぞれについて算出した;但し、(x
i,n,y
i,n)は狭帯域レーザプロジェクタに係る色度値であって第i観測者に係るもの、(x
i,b,y
i,b)は従来型広帯域ディジタル映画プロジェクタに係る色度値であって第i観測者に係るもの、(Δx
i,Δy
i)は第i観測者に係る色度差である(実施形態によっては、輝度知覚におけるあらゆる差を勘案するため輝度差ΔY
i=Y
i,n−Y
i,bが定義されることもある)。定義によれば、CIE標準観測者は、それらの色をもたらすスペクトル源が広帯域スペクトラム(例.410)を呈するのかそれとも狭帯域スペクトラム(例.420)を呈するのかによらず、同じCIE測色(colorimetry)XYZ入力色値(input color value)を有する色を知覚できねばならない。従って、ある特定の観測者が標準観測者と同じ態様でそれらの色を知覚したのであれば、得られる色差は0となろう。特定の観測者に係る非0の色差は、広帯域プロジェクタ及び狭帯域プロジェクタによりもたらされる定格上そっくりな色対をその観測者が見たときに発生する観測者間メタメリズム不一致に由来した、知覚色シフトの大きさ及び方向の指標を提供する。
【0063】
図7A〜
図7Dに、表1に示した白色、空色、草緑色及び肌色の標的色に関し、同順で色度差プロット350を示す。この解析で使用した一組の観測者固有等色関数には、非特許文献2のデータに基づく
図1A中の10°等色関数300と共に、非特許文献9に詳示があるStiles and Burchに基づく一組の2°等色関数データが含まれている。目標(aim)色度差370たるべきものはΔx=0,Δy=0であり、これは観測者間メタメリズム不一致がない場合、従って二種類のプロジェクタによってもたらされる色が観測者にとり同一色度を有するものに見えるであろう場合に対応している。プロットされたデータポイントそれぞれは、特定の観測者に係る色度差に対応している。各色度差プロット350上に示す平均色度差352は、従来型ディジタル映画プロジェクタに係る知覚色に対しレーザプロジェクタに係る知覚色が呈する平均色シフト355に対応している。総じて、10°観測者データポイントよりも2°観測者データポイントの方が原点(目標色度差370)のそばに蝟集している。
【0064】
図7A〜
図7Dに示した結果を踏まえ分かるのは、観測者毎に観測者間メタメリズム不一致特性の大規模なばらつきがあることである。しかしながら、どの場合でもデータポイントのクラウドに対する系統的バイアスがあり、このことは、仮に横並びにして見たとしたら、レーザプロジェクタでの色の方を、同一の測色(例.同一のCIEXYZ値)を有する対応する従来型ディジタル映画プロジェクタでの色に比べ、より黄色−緑色寄りにあるように見て取るという傾向を、大抵の観測者が呈するであろうと示唆している。これは、前掲の非特許文献1に記載のプロジェクタを使用し発明者が行った実験的観測の結果と符合している。このことは、レーザプロジェクタ上での表示色に対し色補正(即ち青色−マゼンタ方向色シフト)を導入して平均色シフト355に関し補償することにより、観測者間メタメリズム不一致の平均量を顕著に低減できることを示唆している。この補償では、ある観測者の応答と他の観測者の応答との間に発生する差の大きさは軽減されないであろうが、レーザプロジェクタ側知覚色と従来型ディジタル映画プロジェクタ側知覚色との間に見つかった系統的バイアスをなくすことができる。
【0065】
図8A〜
図8Dに、もともと広帯域表示装置での使用向けに調製されている画像データに色補正を適用することでそのデータを狭帯域表示装置での使用向けに整え、ひいては一群の標的観測者(a distribution of target observers)に関し平均観測者間メタメリズム不一致を軽減することができるフレームワークを示す。
【0066】
図8Aに示したのは、広帯域表示装置上での表示向けに整えられている入力色値450(R
W,G
W,B
W)を変換することで、狭帯域表示装置上での表示向けに整えられた出力色値(output color value)454(R
W,G
W,B
W)をもたらす従来型色管理方法440である。
【0067】
広帯域表示装置に係る入力装置モデル451(D
W)は、入力色値450を対応する装置非依存(device independent)色値452へと変換するのに使用されている。こうした装置モデルを形成する方法は色管理分野で周知である。典型的には、この装置非依存色値452は、標準CIE色空間例えば周知のCIEXYZ色空間又はCIELAB色空間に属するものとなろう。実施形態によっては、この入力装置モデル451に、入力色値450に適用される一組の一次元非線形関数(例.ガンマ関数)や、入力装置原色(input device color primary)を構成する色の勘案に使用される3×3蛍光体行列変換が組み込まれる。そうしたモデルは、一般に、加法混色型表示装置例えば従来型広帯域ディジタル投射システム向けによく機能する。実施形態によっては、入力装置モデル451に、他種変換要素、例えば多次元ルックアップテーブル(LUT)や、パラメトリックモデル例えば多項式関数が組み込まれうる。
【0068】
狭帯域表示装置に係る逆出力装置モデル453(D
N-1)は、狭帯域表示装置上で装置非依存色値452を発現させるのに必要な出力色値454を画定するのに使用されている。実施形態によっては、この逆出力装置モデル453に、出力装置原色を構成する色の勘案に使用される3×3逆蛍光体行列変換や、一組の一次元非線形関数(例.逆ガンマ関数)が組み込まれる。そうしたモデルは、一般に、加法混色型表示装置例えば狭帯域レーザ投射システム向けによく機能する。実施形態によっては、逆出力装置モデル453に、他種変換要素、例えば多次元ルックアップテーブル(LUT)や、パラメトリックモデル例えば多項式関数が組み込まれうる。実施形態によっては、入力装置モデル451及び逆出力装置モデル453が、ICC色管理システムで使用される周知のICC色管理プロファイルフォーマットを使用し実現される。
【0069】
実施形態によっては、入力装置モデル451及び逆出力装置モデル453の結合で複合色変換455が形成されうる。実施形態によっては、その複合色変換455がICCデバイスリンクプロファイルとして実現されうる。
【0070】
図8Bに示したのは、本発明の一実施形態に係りメタメリズム補正変換(metamerism correction transform)460が組み込まれている色補正方法442である。そのメタメリズム補正変換460は、装置非依存色値452を変換して補正済装置非依存色値461(X
C,Y
C,Z
C)を画定するのに使用されている。後述の通り、このメタメリズム補正変換460は、(例えば逆色シフトを適用し
図7A〜
図7D中の平均色シフト355を補償することにより)一群の標的観測者に係る平均観測者間メタメリズム不一致を軽減できるように工夫されている。
【0071】
補正済装置非依存色値461は逆出力装置モデル453を使用し変換され、それにより補正出力色値(corrected output color value)462(R
NC,G
NC,B
NC)が画定されている。実施形態によっては、入力装置モデル451、メタメリズム補正変換460及び逆出力装置モデル453の結合で複合メタメリズム補正変換463が形成されうる。
【0072】
図8Cに示したのは、本発明の別の実施形態に係りメタメリズム補正変換465が組み込まれている色補正方法444である。この例では、従来型色色管理プロセス(例.
図8Aに示した色管理方法440)を使用し出力色値454が画定されている。そして、メタメリズム補正変換465を使用することでその出力色値454に対し相応の調整が施され、それにより補正出力色値462が画定されている。実施形態によっては、入力装置モデル451、逆出力装置モデル453及びメタメリズム補正変換465の結合で複合メタメリズム補正変換466が形成されうる。
【0073】
実施形態によっては、特定の表示装置に係る色符号化ではなく装置非依存色符号化にて、表示システム(例.
図2中のプロジェクタ100)に像がもたらされうる。例えば、ディジタル映画は一般に、DCDMディジタル映画仕様によって規定されているディジタル符号化三刺激値の形態で配給される。その場合、色変換を使用し、入力ディジタル画像データが、当該特定のプロジェクタにふさわしい形態へと変換される。
図8Dに示したのは本発明の一実施形態であり、入力画像データが装置非依存色値452(XYZ)として受け取られている。従来型広帯域表示装置を使用し像を投射する際には、広帯域表示装置向けの逆出力装置モデル456(D
W-1)を適用する従来型色管理方法446を使用し、広帯域表示装置上に装置非依存色値452を発現させるのに必要な出力色値457が画定される。狭帯域表示装置を使用し像を投射する際には、本発明に従い色補正方法448、即ち
図8Bを参照し前述した通りメタメリズム補正変換460及び逆出力装置モデル453を使用し相応の補正出力色値462を画定する方法が適用される。
【0074】
図9Aに、入力色500(例.画像ピクセルに係るピクセル色)向けにメタメリズム補正530を画定し、一組の標的観測者に係る平均観測者間メタメリズム不一致を軽減する知覚色シフト画定方法の例540を示す。そのメタメリズム補正530は、一組の広帯域原色502(例.
図5のディジタル映画プロジェクタスペクトラム410に示されている原色)を使用し従来型広帯域表示システム上に表示された像と、一組の狭帯域原色504(例.
図5のレーザプロジェクタスペクトラム420に示されている赤色レーザ原色422、緑色レーザ原色424及び青色レーザ原色426)を使用し狭帯域表示システム上に表示された像と、の間の観測者間メタメリズム不一致を補正するものである。この方法は、
図8B中のメタメリズム補正変換460或いは
図8C中のメタメリズム補正変換465を定めるプロセスで使用することができる。
【0075】
この例示的実施形態では、入力色500が一組のCIEXYZ三刺激値により表されている。しかしながら、他の実施形態では、入力色500があらゆる相応な色空間、例えば装置依存(device dependent)色空間で表されうる(例.
図8A〜
図8C中の装置依存入力色値450)。
【0076】
広帯域スペクトラム画定ステップ552は、入力色500に対応する広帯域スペクトラム508を画定するのに使用されている。入力色が装置非依存色空間例えばCIEXYZに従い特定される実施形態では、広帯域スペクトラム画定ステップ552にて、当該特定された入力色500を発現させるのに必要な広帯域原色502それぞれの強さが画定される。同様に、狭帯域スペクトラム画定ステップ510は、入力色500に対応する狭帯域スペクトラム512を画定するのに使用されている。これら広帯域スペクトラム508及び狭帯域スペクトラム512は、整合するCIE測色を呈するであろうし、従ってCIE標準観測者のそれと厳密に整合する等色関数(CMF)を有する観測者に関し整合することとなろう。しかしながら、
図7A〜
図7Dをもとに説明した通り、その場合でも、観測者間メタメリズム不一致が原因となり、一群の実在観測者が広帯域スペクトラム508を狭帯域スペクトラム512に対しシフトした色を有するものとして知覚しうることが分かっている。
【0077】
相応なメタメリズム補正530を画定するため、平均観測者間メタメリズム不一致軽減の対象たる標的観測者が一組定義される。好適な実施形態では、前記一組の標的観測者の視覚応答が描像されるよう一組の標的観測者等色関数514が特定される;但しCMFs
iを第i標的観測者に係る一組の等色関数とする。実施形態によっては、前述した等色関数、即ち非特許文献2にある前述の一組の10°等色関数300並びにStiles and Burch由来の前述の一組の2°等色関数のうち、一方又は双方が、前記一組の標的観測者を定義するのに使用されうる。実施形態によっては、或いは、標的観衆を代表する特定の人物群が、前記一組の標的観測者として使用すべく特定されうる。場合によっては、システム性能を個人向けに最適化(パーソナライズ)し、一特定人物に係る観測者間メタメリズム効果を軽減することができるよう、当該特定人物が前記一組の標的観測者とされうる。例えば、その表示システムが家庭環境にて使用されるのであれば、そのシステムの性能を、家主向け、或いはその家庭の家族等向けにパーソナライズすればよい。実施形態によっては、複数の標的観測者に係る等色関数を平均化することで、前記一組の標的観測者の代表である“平均観測者”に対応した一組の等色関数が画定されうる。この場合、平均化等色関数だけを前記一組の標的観測者等色関数514とすることができる。
【0078】
知覚色画定ステップ516は、各標的観測者に関し広帯域スペクトラム508に対応する標的観測者知覚広帯域色518(XYZ
W,i)を画定するのに使用されている。好適な実施形態では、この知覚色画定ステップ516にて、次の式
【数1】
を使用し三刺激値(XYZ
W,i)が画定される;但し、S
W(λ)は広帯域スペクトラム508、
【数2】
は第i標的観測者に係る標的観測者等色関数、(X
W,i,Y
W,i,Z
W,i)は標的観測者知覚広帯域色518に係る三刺激値である。同様に、知覚色画定ステップ520は、各標的観測者に関し狭帯域スペクトラム512に対応する標的観測者知覚狭帯域色522(XYZ
N,i)を画定するのに使用されている。
【0079】
一般には、観測者間メタメリズム不一致があるため、どのような特定の標的観測者に関しても、標的観測者知覚広帯域色518は標的観測者知覚狭帯域色522と整合しないであろう。知覚色シフト画定ステップ524は、各標的観測者に関し標的観測者知覚色シフト526を画定するのに使用されている。実施形態によっては、この標的観測者知覚色シフト526が、標的観測者知覚広帯域色518に係る三刺激値と標的観測者知覚狭帯域色522に係る三刺激値との間の差
ΔX
i=X
N,i−X
W,i
ΔY
i=Z
N,i−Z
W,i
ΔZ
i=Z
N,i−Z
W,i (4)
として表される;但し、(X
N,i,Y
N,i,Z
N,i)は標的観測者知覚狭帯域色522に係る三刺激値、(ΔX
i,ΔY
i,ΔZ
i)は第i標的観測者に係る標的観測者知覚色シフト526である。
【0080】
実施形態によっては、或いは、標的観測者知覚色シフト526が、三刺激値の差に加え他の何らかの色空間を使用し表されうる。例えば、三刺激値は周知の等式を使用し色度値(x,y,Y)、L
*a
*b
*値又はL
*u
*v
*値に換算でき、標的観測者知覚色シフト526はその色空間を基準に画定することができる(例.ΔE
*)。色空間内で基準白色点を基準に色値が画定される実施形態の場合(例.L
*a
*b
*又はL
*u
*v
*)、特定の白色スペクトラム(例.広帯域原色502に係るある特定の白色点に係る白色スペクトラム)に対応するよう白色点を相応に定義することができる。
【0081】
メタメリズム補正画定ステップ528では、標的観測者知覚色シフト526に応じ相応なメタメリズム補正530が画定される。好適な実施形態では、標的観測者知覚色シフト526の平均に抗するようメタメリズム補正530
【数3】
が画定される;但し、Nは標的観測者の人数、(C
X,C
Y,C
Z)はメタメリズム補正530である。
【0082】
図9Bは整合色画定方法545を示すフローチャートであり、ここには他の実施形態に従い狭帯域原色504に係る相応なメタメリズム補正530を画定する別手法が示されている。この例では、入力色550が広帯域表示装置向けの制御値(RGB
W)、即ち対応する広帯域原色502の強さを制御するのに使用される制御値によって特定されている。
【0083】
広帯域スペクトラム画定ステップ552では、その入力色550に対応する広帯域スペクトラム508が画定される。総じて、広帯域スペクトラム画定ステップ552では、その入力色550に係る制御値によって特定される荷重を使用し、広帯域原色502に係るスペクトラム群の加重結合を形成することで、その広帯域スペクトラムが画定される。
【0084】
図9Aをもとに説明した通り、知覚色画定ステップ516では、対応する標的観測者等色関数514に応じ前記一組の標的観測者に係る標的観測者知覚広帯域色518が画定される。
【0085】
整合色画定ステップ554では、各標的観測者に関し整合出力色556が画定される。好適な実施形態では、対応する標的観測者知覚広帯域色518に整合するものと標的観測者が知覚するはずの狭帯域スペクトラムをもたらすであろう狭帯域表示装置に係る一組の補正済狭帯域制御値(RGB
NC,i)によって、整合出力色556が特定される。その狭帯域スペクトラムは、狭帯域制御値によって特定される荷重を使用し、狭帯域原色504に係るスペクトラム群の加重結合を形成することで画定される。標的観測者が一般にCIE標準観測者とは異なる等色関数を有するという事実を反映し、入力色540に係るCIE測色と整合出力色556に係るCIE測色は一般に互いに異なるものとなろう。そのCIE測色における差異の程度は、色に依存するのが普通であろうし、また
図9Aの知覚色シフト画定方法540を参照し説明した標的観測者知覚色シフト526に密に関連したものとなろう。
【0086】
好適な実施形態では、整合色画定ステップ554にて、標的観測者等色関数514に応じ整合出力色556が画定される。実施形態によっては、対応する標的観測者知覚狭帯域色(XYZ
N,i)が標的観測者知覚広帯域色518(XYZ
W,i)に対し所定公差(例.0.00001)の範囲内で等しくなるまで、非線形最適化法を使用し狭帯域原色504の量が反復調整されうる。実施形態によっては、或いは、一組ある標的観測者等色関数514毎に狭帯域原色504に関し蛍光体行列が画定されうる。一組の等色関数及び一組の原色スペクトラム群が与えられているもとで蛍光体行列を画定する方法は、本件技術分野で周知である。ひとたび画定されたら、それら蛍光体行列を使用し、標的観測者知覚広帯域色518と整合するであろう整合出力色556を直に画定することができる。
【0087】
実施形態によっては、或いは、整合色画定ステップ554が、前記一組の標的観測者を使用した視覚整合実験を実行することにより実行されうる。その入力色550を有する第1色パッチを広帯域原色502を使用しスクリーン上に表示させればよい。第2色パッチを狭帯域原色504を使用しそのスクリーン上に表示させればよい。標的観測者が第2色パッチを第1色パッチと視覚的に整合するものと知覚するまで、その標的観測者に狭帯域原色504の量を調整させうるような、ユーザ制御を行えばよい。得られた狭帯域原色504の量は、整合出力色556を定めるのに使用される。この方法は、例えば、配給用コンテンツの準備に際し彩色者や映画のカメラマン・撮影監督が実行できよう。
【0088】
そして、メタメリズム補正画定ステップ558は、メタメリズム補正530を画定するのに使用されている。メタメリズム補正530は多様な形態で表すことができる。例えば、
図8Cの色補正方法444を使用し、出力色値454にオフセットを加算すること(R
N=R
NC+C
R,G
N=G
NC+C
G,B
NC=B
N+C
B)により観測者間メタメリズム不一致補正が行われる場合、特定の入力色550に係るオフセット(ΔR,ΔG,ΔB)を、平均観測者固有オフセット
【数4】
を画定することで画定することができる;但し、(ΔR
i,ΔG
i,ΔB
i)は第i標的観測者に係り
ΔR
i=R
NC,iーR
N
ΔG
i=G
NC,iーG
N
ΔB
i=B
NC,iーB
N (7)
によって与えられる観測者固有オフセット、
【数5】
は平均オフセットである。この要領で画定されたオフセットは観測者固有オフセットの重心に対応している。実施形態によっては、観測者固有オフセット同士を結合するのに別種の中心傾向尺度が使用されうる。例えば、観測者固有オフセットの幾何平均を画定してもよいし、メディアンオフセットを画定してもよいし、或いは加重平均プロセスを使用し一部の標的観測者に他の標的観測者よりも高い荷重を与えてもよい。
【0089】
メタメリズム補正530は、個々の実施形態で観測者間メタメリズム不一致補正の実行に使用される方法(例.
図8B〜
図8Dを参照して説明した諸方法)に依り、ふさわしいあらゆる他形態へと変換されうる。
図9A及び
図9Bに示した方法から分かるのは、特定の入力色500,550に関し相応なメタメリズム補正530がどのように画定されうるかである。これらの方法を複数色の入力色500,550について反復することにより、メタメリズム補正変換460,465(
図8B〜
図8D)を形成することができる。
【0090】
メタメリズム補正変換460,465の形成に使用する前記一組の入力色は、特定用途にとり重要な色の範囲に亘る一組の色とするのが望ましい。場合によっては、当該一組の入力色に重要な記憶色、例えば表1に示したそれを含める。場合によっては、当該一組の入力色に、大抵の人間言語に存する11基本色名、即ち白色、黒色、灰色、赤色、緑色、青色、黄色、茶色、紫色、橙色及び桃色を表す一組の色が含まれうる。加えて、画像解析アルゴリズム例えばk−平均クラスタリングアルゴリズムを使用し一山(collection)のマルチメディアコンテンツを解析することで頻発色範疇を画定することができ、判明したクラスタを当該一組の入力色に含めることができる。実施形態によっては、また、観衆の嗜好に基づき、或いは特定の状況例えば標準化色標的での校正又はプルーフィングで有用な他の条件に基づき、色のリストが選択されうる。そうした方法によれば、一山の補正済色を拡張することができる。
【0091】
場合によっては、前記一組の入力色に、広帯域原色表示装置の広帯域色域330を系統的に標本化して得られる入力色の格子が含まれうる。特定の画像コンテンツに関し、特定の広色域色を含む投射固有入力色であって、そのコンテンツの想定“外見”を実現する上で重要なものを、提供することも有益でありうる。
【0092】
実施形態によっては、メタメリズム補正変換460,465が、複数個のパラメタを有するパラメトリック関数とされる(例.多次元多項式、或いは一連の行列及び1−D LUTを規定するパラメタ群)。この場合、一組の様々な入力色に関しメタメリズム補正を画定することができ、また数学的当てはめプロセス(例.周知の最小自乗回帰プロセス)を使用し、前記一組の入力色500,550及びそれに対応する一組のメタメリズム補正530又は出力色556を当てはめることによって、そのパラメトリック関数に係るパラメタを画定することができる。
【0093】
実施形態によっては、或いは、メタメリズム補正変換460,465が、入力色値の格子に対応する出力色値(又はメタメリズム補正値)を保持する多次元LUTとされる。この場合、入力色値の格子を入力色500,550として使用すること、並びに保持される出力色値を本発明に従い(例えば
図9A及び
図9Bに示した方法のうち一つを使用し)画定することができる。或いは、滑らかな関数を前記一組の入力色500,550及びそれに対応する一組のメタメリズム補正530又は出力色556に当てはめるべく当てはめプロセスを適用することにより、その多次元LUT内に保持される値を画定することができる。例えば、特許文献3(発明者:D’Errico,名称:スムージングにより補強された最小自乗ルックアップテーブルを有するカラー画像再現装置(Color image reproduction apparatus having a least squares look-up table augmented by smoothing),譲受人:本願出願人)では、最小自乗当てはめプロセスを使用し滑らかな多次元LUTを得る方法が教示されている。
【0094】
図9Aの知覚色シフト画定方法540を使用しメタメリズム補正530が画定される場合を考えてみよう。一組ある入力色500は、広帯域原色502に係る入力色値の格子に対応して評価することができる。
図10Aに示す知覚色シフトプロット560には、色空間のマゼンタ領域内にある入力色500(
図9A)に係る標的観測者知覚色シフト526(
図9A)に対応する一組の標的観測者色ベクトル565が含まれている。図中の入力色座標562は、入力色500のL
*a
*b
*色であって1931CIE2°等色関数300a(
図1B)を使用し画定されている色に対応しており、CIE標準観測者がこの色をどのように見るかを示している。標的観測者色ベクトル565の尾部は、標的観測者等色関数514(
図9A)を使用し画定された標的観測者知覚広帯域色518(
図9A)に対応している(その算出に使用された標的観測者等色関数514は非特許文献2にある前述した一組の10°等色関数300(
図1A)である)。標的観測者色ベクトル565の頭部(鏃記号で示されている部分)は、標的観測者等色関数514を使用し画定された標的観測者知覚狭帯域色522(
図9A)に対応している。
【0095】
図10Aから看取できる通り、広帯域原色及び狭帯域原色を使用しもたらされた色を標的観測者が知覚する形態には有意量のばらつきがあるが、少数の例外を除き大略一致しているのは、狭帯域色の知覚が黄色−緑色方向(即ち負a
*正b
*方向)にシフトしていることである。注目されるのは、標的観測者の多数とは大きく異なる色シフトを有する局外色ベクトル564が幾つか存在することである。実施形態によっては、画定されたメタメリズム補正530にバイアスがかかることを避けるため、前記一組の標的観測者から、あらゆる局外標的観測者を除くことが望まれうる。図中の平均色ベクトル568は、標的観測者色ベクトル565の平均的な大きさ及び方向に対応している(平均色ベクトル568の位置は明瞭化のため前記一組の標的観測者色ベクトル565からずらされている)。看取できる通り、標的観測者色ベクトル565の尾部及び頭部はいずれも入力色座標562に対しシフトしており、このことは、標的観測者等色関数514のいずれもが標準的1931CIE2°等色関数300a(
図1B)にあまり近くないことを示している。
【0096】
前述の通り、実施形態によっては、メタメリズム補正530が、前記一組の標的観測者に関し画定された色シフトの平均に関し画定されることも、或いは標的観測者等色関数514の平均に対応する一組の結合(combined)等色関数を有する“平均観測者”に関し画定されることもありうる。図中の平均観測者色ベクトル566は、その平均観測者に関し画定された色シフトに対応している。看取できる通り、平均観測者色ベクトル566の大きさ及び方向は、標的観測者色ベクトル565に見られる全体的な傾向と符合している。多くの場合、当該一組の標的観測者に関し画定された色シフトを平均し平均色ベクトル568を画定することでも、或いは結合“平均観測者”等色関数を使用し平均観測者色ベクトル566を画定することでも、類似した結果が得られうることが分かっている。
【0097】
図10Bに示したのは、こうした要領で画定された平均知覚色シフト(average percieved color shift)を表す一組の色ベクトル575を含むCIELAB色空間内知覚色シフトプロットの例570であり、ここではそれらベクトルの頭部が鏃記号を使用し示されている。それら色ベクトル575の尾部は入力色500に対応しており、またその色ベクトル575の大きさ及び方向は標的観測者知覚色シフト526(
図9A)の平均に対応している。この例で使用した広帯域原色502はBarco(登録商標)モデルDP−1500ディジタル映画プロジェクタ(商品名)に係るそれであり、狭帯域原色504は465、532及び637nmの波長を有するレーザ原色であった。
【0098】
更に参照用に示されているのは、空色座標342、草緑色座標344及び肌色座標346により表される幾通りかの記憶色である。これらの記憶色に関しては顕著な知覚色シフト(即ち空色では約4.4ΔE
*、草緑色では約2.1ΔE
*、肌色では約2.0ΔE
*)が観測された。高彩度緑色では約3〜4ΔE
*、高彩度青色では約4〜6ΔE
*、高彩度マゼンタ/菫色では約4〜9ΔE
*というように、多くの高彩度(濃厚)色については更に劇的な色シフトが観測された。多くの低彩度赤色、黄色及び緑色を含め、他の多くの色に関し画定された色差はより中庸なもの(約1〜1.5ΔE
*)であった。
【0099】
見ての如く、色ベクトル575で示される色シフトは総じて左上を向いており、このことは、知覚色のシフトが黄色−緑色方向に向かっていることを表している。色ベクトル575の大きさは総じて色空間の負b
*部分で大きめであり、このことは、知覚色シフトが色に依存していること、並びに他領域に比べシアン−青色−マゼンタ領域で大きいことを表している。こうした知覚色シフトを補償しひいては観測者間メタメリズム不一致の平均量を軽減するためには、メタメリズム補正530に関し色依存補償色シフトを規定すればよい。好適な実施形態では、当該色依存補償色シフトが、色ベクトル575と同じ大きさで逆方向(即ち大略青色−マゼンタ方向)を向いたシフトとされよう。
【0100】
図10Cに、
図10Aの知覚色シフトプロット570に対応する知覚色差プロット580を示す。図中の標的色域585は、その内にある色全てを広帯域原色502,狭帯域原色504双方を使用し確実にもたらせるようにするため、広帯域原色502(
図9A)を使用しもたらされうる色の範囲よりも僅かに小さくするのが望ましい。標的色域585内に示されている一連の色差輪郭線590は、
図10A中の知覚色シフトに関し色ベクトル575の平均的な大きさをa
*及びb
*の関数として表したものである。看取できる通り、知覚色シフトの大きさは色に依存しており、約1ΔE
*〜5ΔE
*の範囲に亘っている。
【0101】
図10A〜
図10Cで併せ示される通り、観測者間メタメリズム不一致に由来する色知覚上の色依存差異は、一色又は複数色の狭帯域原色504を有するプロジェクタ100によって表示されるべき入力画像色に対する色依存補償色シフトを孕むメタメリズム補正530(
図9A)を適用することによって、観測者60達からなる観衆に関し平均的に軽減することができる。それら補償色シフトは青色、菫色及びマゼンタに関し最大となり、多くの緑色に関しても大きくなろうが、多くの赤色、黄色及び橙色に関してはほとんど大きくなりえない(恐らくは不要)であろう。そして、こうした補償色シフトの適用には、
図8A〜
図8Dを参照して説明したものを含め、多様な手段を使用することができる。
【0102】
前述の通り、標的観測者等色関数514(この例では非特許文献2にある一組の10°等色関数300(
図1A))のいずれも標準1931CIE2°等色関数300a(
図1B)にあまり近くないという事実を反映し、
図10A中の標的観測者色ベクトル565の尾部及び頭部のいずれも入力色座標562に対しシフトしていない。これは、視野の違い(2°対10°)があるので大して意外ではない。DCIディジタル映画仕様が1931CIE測色系を基礎としているためディジタル映画アプリケーション向けに1931CIE2°等色関数300aが常用されているが、場合によっては、1964CIE10°等色関数300b(
図1B)に基づくメタメリズム補正算出に依拠することを考慮した方がよいかもしれない。例えば、看者からスクリーンまでの距離、看取対象コンテンツのコントラスト及びそのコンテンツの視野角次第では、看者の注意により2°視野よりかなり広い視野が知覚されることもしばしばである。従って、場合によっては1964CIE10°等色関数300bが相応な指標を呈することとなりうる。
【0103】
図1Bに示した1931CIE2°等色関数300a及び1964CIE10°等色関数300bをより詳細に検討すると重要な相違点が浮かび上がる。注目されるのは、波長スペクトラムの赤色、緑色及び青色領域でCIE10°等色関数300bがCIE2°等色関数300aから隔たること、しかし最大の相違が青色領域で発生することである。特に、看取できるように、CIE2°等色関数300aに比べCIE10°等色関数300bに関しての方が短波長等色関数が約10%高くピークしている。加えて、看取できる通り、長波長等色関数のメインローブの左縁位置が各CIE2°等色関数300a・CIE10°等色関数300b間でずれている。等色関数におけるこれらの差異は異なるメタメリック特性をもたらすこととなろう。
【0104】
更に、見ての通り、中波長等色関数及び長波長等色関数と比較し、短波長等色関数は、スペクトル的に約2倍狭い(青色に関しては55nmFWHMであるのに対し、緑色に関しては110nm、赤色に関しては90nm)のと同時に、高利得である(1931等色関数に関しては約1.68倍、1964等色関数に関しては約2倍の感度)。言い換えれば、短波長(青色)等色関数スロープ感度がかなりかなり高いので、狭帯域青原色のスペクトラム群或いは観測者等色関数における、小さなばらつきによって、他の領域に比べ短波長領域にて、大きな知覚差が引き起こされうる。実のところ、このモデリングは、短波長等色関数における小変化が、中波長等色関数又は長波長等色関数における変化に比べ、知覚色シフトに対し約2倍寄与することを表している。短波長(青色)錐体に係る利得が比較的高いことは、赤色錐体及び緑色錐体が卓越していて青色錐体が少なく、網膜錐体の約5%のみが短波長(青色)バラエティであることを恐らく補える。総じて、青色の人的知覚は、解像度、フリッカ感度その他の多様な物差しでみて、赤色コンテンツ及び緑色画像コンテンツに関するそれに劣っている。
【0105】
また、
図1Aに示した等色関数300に対する更なる検討で分かる通り、多々ある青系色の知覚が三通りの等色関数全ての応答に依存する一方、多々ある緑色及び赤色の知覚に関しては、短波長等色関数の応答があまり重きをなさない。色知覚は、色覚の対立モデルによって示される如く差分機構と見なすことができる。特に、“青み”の感覚は、中(M)波長錐体及び長(L)波長錐体の合計を上回る短(S)波長錐体の寄与[S>L+M]として記述することができる。この脈絡にて等色関数300が示唆しているのは、三種類ある錐体全てに関し観測者間に顕著な錐体応答ばらつきがあるため様々な青色光知覚が発生しうる一方、540nm超での赤色光知覚及び緑色光知覚に関しては、基本的に二種類の錐体応答が関わるのみであるため、それらが呈する知覚色差ばらつきが小さめになりうる、ということである。
【0106】
図11Aに、
図10Aに示したそれに類する標的観測者色ベクトル565を示す;但し、ここでは1964CIE10°等色関数300b(
図1B)を基準にした入力色500(
図9A)がもたらされるよう広帯域スペクトラム508(
図9A)及び狭帯域スペクトラム512(
図9A)を画定した。
図10Aと同様、算出に使用された標的観測者等色関数514は、非特許文献2にある前述した一組の10°等色関数300(
図1A)であった。
【0107】
図10Aとの比較で分かる通り、
図11Aでは、標的観測者等色関数514が標準1964CIE10°等色関数300bにより近いという事実を反映し、標的観測者色ベクトル565の尾部及び頭部が入力色座標562寄りにシフトしている。しかしながら、看取できる通り、大抵の標的観測者がなお、同じCIE測色を有する広帯域色に対する狭帯域色の同様な黄色−緑色方向色シフトを観測している。従って、この場合に画定されるメタメリズム補正530(
図9A)は、
図10Aに示したデータを使用し画定されるそれと同様のものになろう。
図11Bに、
図10Cに示したそれに類する知覚色差プロット580を示す;但し、その色知覚差は、1964CIE10°等色関数300bに対し整合する入力色に関し算出した。看取できる通り、知覚色差の平均的な大きさは幾分小さめであるが、観測者間メタメリズム不一致に起因する有意量の平均知覚色差がなお存在している。最大の色知覚差はここでもマゼンタで現れている。従って、確かなのは、色依存色知覚差により描像されるところの観測者間メタメリズム不一致が、CIE標準観測者が基準として使用されるか否かにかかわらず現れる、ということである。
【0108】
メタメリズム補正530を画定するのに使用される特定の一組の標準観測者等色関数(300a又は300b)及び特定の一組の標的観測者等色関数514がどのようなものになるかは用途に依存しうる。1931CIE測色系に従い入力色が特定される場合は、一般に、1931CIE2°等色関数300aを使用し、比色定量的に整合する色を画定するのがよかろう。最適な一組の標的観測者等色関数514は標的観衆に依存しうる。実施形態によっては、標準観測者及び標的観測者の様々な組合せを使用し幾通りかのメタメリズム補正が画定されうるし、一組の観測者を使用しその結果を評価することで所要補正量が選定されうる。例えば、人的等色関数は観測者の加齢と共に(例.眼水晶体の黄化により)変化しうるので、人口構成的に広い幾組かの標的観測者等色関数514及び年齢によってフィルタリング(例.28歳以下、55歳以上)された他のそれらを使用することが、妥当となりうる。従って、例えば、標的観測者の人口構成代表的サブグループ例えば若者に関し幾組かの標的観測者等色関数514を開発し、専らそうした観衆により看取されるコンテンツを表示する際に使用することができる。また例えば、映画等価看取条件向けに最適化された一組の標的観測者等色関数514を計測し又は組み上げることによって、看取距離、視野サイズ等の特性を勘案することもできる。
【0109】
これらの計算は、
図1Aに示した定格レーザ原色(即ち637nmの赤色レーザ原色422、532nmの緑色レーザ原色424及び465nmの青色レーザ原色426)を使用し実行した。また、それらの解析は、
図1Aに示した別の原色たるThornton原色(即ち610nmのThornton赤色レーザ原色432、530nmのThornton緑色レーザ原色434及び450nmのThornton青色レーザ原色436)を使用し反復もした。
図1Aから看取できる通り、Thornton緑色レーザ原色434と定格緑色レーザ原色424はよく似た色であるが(530nm対532nm)、Thornton青色レーザ原色436,Thornton赤色レーザ原色432のどちらも例中の青色レーザ原色426,赤色レーザ原色422に対し短波長寄りにシフトしている(同順に450nm対465nm及び610nm対637nm)。Thornton原色は、定格原色に比べ、正常な人体視覚系に三通りあるスペクトル感度のピークに対しより至近に整列しているが、等色関数における観測者ばらつきの最大差若しくはピーク又はそのそばに比較的揃ってもいる。結果として、Thornton原色を使用した狭帯域原色504に関する解析から判明したのは、色知覚差が
図10Bのそれと同じ全般傾向に従いつつも、その程度が約2〜3倍大きいことである。このことが示唆しているのは、Thornton原色を使用すると実際のところ観測者間メタメリズム不一致が大きくなろう、ということである。
【0110】
前述の方法で画定されるメタメリズム補正530の基礎には、互いに異なる組の原色を使用し表示される比色定量整合色間の標的観測者知覚色シフト526(
図9A)を画定するプロセス、或いは広帯域入力色550と整合する狭帯域整合出力色556(
図9B)を画定するプロセスがある。これらのプロセスを適用できるのは、広帯域原色502,狭帯域原色504双方の色域内にある入力色500及び550のみである。
【0111】
狭帯域色域(例.
図6のレーザ原色色域335)内にあり且つ広帯域色域外にある色は数多くある。従って、狭帯域原色を使用するプロジェクタ100なら、広帯域原色を使用する従来型システムでは再現できない入力色を表示できるかもしれない。結果として、メタメリズム補正変換460(
図8D)は、広帯域原色に係る色域の内側にある色及び外側にある色双方を処理できるように整えられるべきである。
【0112】
広帯域原色の色域外にある入力色に適用される色シフトは、種々の要領で画定することができる。総じて望ましいのは、入力色における小差により表示色の大きな知覚差がもたらされるという輪郭偽像を避けるべく、適用される色シフトを急変させないことである。実施形態によっては、広帯域原色の色域内にある色に関し画定されたメタメリズム補正530が、広帯域原色の色域外にある色に対し外挿されうる。関数を外挿する方法は本件技術分野で周知である。
【0113】
図12に、CIELAB色空間を過ぎる断面であって内側色域358、拡張色域ゾーン362及び遷移ゾーン360を含むものを示す。好ましくは、内側色域358を、ある特定の一組の広帯域原色502(
図9A)に対応する従来型色域とする。例えば、内側色域358を、
図6の広帯域色域330(CIELABに翻訳したもの)に対応させうる。或いは、内側色域358を、従来型色域より狭いものや広いものにしてもよい。好適な実施形態では、内側色域358内の色に適用されるべき色シフトが、適正なメタメリズム補正530が画定されるよう、
図9A及び
図9Bを参照して説明した方法等の方法を使用し画定される。
【0114】
拡張色域ゾーン362内の高彩度(濃厚)色には色シフトが適用されない。それらの色は一般に天然には現れないので、人々は、通常、その色外観に対する期待は勿論、その有差的な色知覚を記述できる言葉や指標すら有していない。そのため、そうした色に関する観測者60間の色知覚差は認容することができる。更に、これらの色は従来型システムで生成することができないので、色知覚差を補正する必要がなかろう。
【0115】
遷移ゾーン360は、好ましくは、色領域間に連続性がもたらされるよう内側色域358・拡張色域ゾーン362間に設けられる。遷移ゾーン360内では、内側色域358内の色に関し画定されたメタメリズム補正530から、拡張色域ゾーンにおける色シフト無しへと、色シフトが円滑に遷移する。こうした円滑遷移を使用することにより、入力画像中にあり互いによく似ている色同士が表示画像中で遠く隔たった色へとマッピングされる輪郭偽像が発生すること、ひいては視認上の不連続性が発生することが避けられる。その種の偽像は、ピクセルが連なり画像コンテンツ内局在物体(例.ボール)が表現される場合に特に不愉快なものになろう。そうした偽像は、色空間の青色/マゼンタ/菫色部分、即ち大きな色依存色知覚差値(ΔE
*)が見つかっている部分(
図10C及び
図11B参照)に属する色では、より発生しやすかろう。
【0116】
実施形態によっては、遷移ゾーン360が内側色域358の表面からある一定距離(例.10ΔE
*)に亘り延ばされうる。諸実施形態によっては、或いは、遷移ゾーン360の幅が、内側色域358の表面付近に適用されるメタメリズム補正530の特性に従い調整されうる。実施形態によっては、遷移ゾーンの幅が、内側色域358の表面上の対応する位置に適用される色シフトの大きさの倍数(M)になるよう設定されうる。例えば、遷移ゾーン360の幅がM×(ΔE
*)、Mが4とされうる。従って、内側色域358の表面における青色色相方向色シフトが5ΔE
*であるなら、遷移ゾーンの幅は4×5ΔE
*=20ΔE
*に設定されうる。
【0117】
図13に、入力色610に対する補償色シフトを提供することによって補正出力色660を画定するメタメリズム不一致補償方法の例600を示す。入力色610は、通常、プロジェクタ100(
図3)によって表示されるべき画像内の画像ピクセルに係る色値である。好適な実施形態では、従来型広帯域原色502(
図9A)を有するディスプレイ上で所望外観を呈するよう入力色610が特定される。
【0118】
実施形態によっては、プロジェクタ100に備わるプロジェクタ内データパス200(
図4)内にあるデータ処理システムによって(例.メタメリック色補正器250によって)、
図13のメタメリズム不一致補償方法600が実行されうる。実施形態によっては、或いは、同方法が色変換(例.
図8B中のメタメリズム補正変換460)の形成中に先立って実行され、後刻画像データに適用できるようその色変換が保存される。
【0119】
メタメリズム補正データ605は、
図9A及び
図9Bに示した方法等の方法を使用し本発明に従い、従来色域内否判定615で内側とされた色に関し画定された、相応なメタメリズム補正530(
図9A)の指標を提供している。従来色域内否判定615では、入力色610が内側色域358(
図12)内にあるか否かが判定される。もし内側色域内なら、フルメタメリズム補正適用ステップ620にて、メタメリズム補正データ605から相応のメタメリズム補正用色シフトを採用しそれを入力色610に適用することで、補正出力色660が画定される。
【0120】
フルメタメリズム補正適用ステップ620では、種々の数学的手法及び処理手法によってメタメリズム補正が適用されうる。例えば、非特許文献10には、メタメリズム補正関数を適用する方法が幾通りか数学的に記述されている。相応のメタメリズム補正を画定する方法を提供する本発明と異なり、そうしたメタメリズム補正を画定するための理論又はモデルを提案していないとはいえ、非特許文献10は、入力色データに対し色補正を適用するためのアーキテクチャを提案している。それらの方法のうち一つが加法混色補正である。非特許文献10によれば、加法混色補正がL
*a
*b
*空間内、即ち各色チャネルにおける補正が色差ベクトル(ΔL
*,Δa
*,Δb
*)として特定される空間内で実行される。非特許文献10は、また、CIEXYZ三刺激空間内で実行可能な乗算的補正を提案している。その場合、入力色の三刺激値に一組の比率が乗ぜられる。これらの方法のいずれも、本発明のメタメリズム補正を適用するのに使用することができる。
【0121】
画像コンテンツが内側色域358内の入力色610だけを含んでいるなら、補正後の画像データは、フルメタメリズム補正適用ステップ620を使用し画定されたピクセルデータのみで構成されることとなろう。これに対し、画像コンテンツが内側色域358外の入力色610を含んでいるなら、そうした色を有する画像ピクセルが更なる解析に供されうる。従来色域内否判定615にて、ある特定の入力色610が内側色域358内にないと判定されたなら、遷移ゾーン内否判定625にて、その入力色610が遷移ゾーン360(
図12)内にあるか否かが判定される。遷移ゾーン内になければ、その入力色610は拡張色域ゾーン362(
図12)内にあると仮定できる。その場合、メタメリズム補正不適用ステップ640にて、入力色610と等しくなるよう補正出力色660が設定される。
【0122】
遷移ゾーン内否判定625にて、その入力色610が遷移ゾーン360内にあると判定されたなら、部分メタメリズム補正適用ステップ630を使用し、内側色域358の表面にある対応点にてメタメリズム補正の一部が採用される。その部分メタメリズム補正は次いでその入力色610に適用され、それにより補正出力色660が画定される。遷移関数635はメタメリズム関数の相応部分、即ち遷移ゾーン360内入力色610の相対位置の関数として適用されるべき部分を特定するために使用されている。好適な実施形態では、遷移関数635により、内側色域358の表面における100%から遷移ゾーン360の外面、即ち先に定義済の遷移ゾーンの幅により与えられる外縁における0%まで、メタメリズム補正の量に直線的にテーパが付される。この要領により、補正出力色600に急変が発生しないよう連続性が担保される。
【0123】
図14に、遷移関数635(
図13)として使用可能な線形遷移関数の例670を示す。遷移関数635への入力は、その色空間の中性軸(無彩軸)から入力色までの距離である。入力色がL
*a
*b
*値により表されているのなら、半径がC
*値によって与えられる(C
*=(a
*2+b
*2)
0.5)。対応する色相及び明度における内側色域358の半径はC
*Gによって与えられ、遷移ゾーン360の外径はC
*Tによって与えられる。遷移関数635の出力は補正比率であり、その値域は0%から100%までである。実施形態によっては、或いは、遷移関数635として他種遷移関数、例えばシグモイド遷移関数675が適用されうる。
【0124】
実施形態によっては、画像コンテンツ内に局在する個別物体における視覚的色連続性を保持する上で連続性関数650が役立ちうる。例えば、画像コンテンツ解析によりディジタル画像のピクセル値を解析することで、類似する色を有する物体領域(例.赤色のボール等)を識別することができる。そして、各物体領域内で首尾一貫したメタメリックシフトが適用されるよう注意を払ってもよかろう。実施形態によっては、連続性関数650により、同じメタメリズム補正が物体領域内の全画像ピクセルに適用されるよう指定することができる。実施形態によっては、ある同じ色名によって一般に認識される色領域外への色相シフトを引き起こすメタメリズム補正が適用されないよう、連続性関数により制約を課すことができる。そうした色相シフトは、色空間の小部分を占める色相(例.黄色)に関し又は色相境界にて最も発生しやすい。
【0125】
実施形態によっては、拡張色域ゾーン362内の色にメタメリズム補正を適用しないよりは寧ろ、特定組の広帯域原色502と特定組の狭帯域原色504との間の色外観差を軽減することに依拠していない他の何らかの条件に基づきメタメリズム補正を規定することが、望ましいと認識されうる。この場合、メタメリズム補正不適用ステップ640は、所要メタメリズム補正を適用するステップで置換されうる。そして、部分メタメリズム補正適用ステップ630が、内側色域358内に適用されるメタメリズム補正と拡張色域ゾーン362内に適用されるメタメリズム補正との間の遷移に使用されうる。
【0126】
実施形態によっては、或いは、遷移ゾーン360内円滑遷移を実現できるよう、特許文献4(発明者:Ellson et al.,名称:明示制約を使用した装置間色校正及び強調方法(Method for cross-device color calibration and enhancement using explicit constraints),譲受人:本願出願人)記載の方法が使用されうる。この方法では、内側色域358内入力色を含むよう入力色の第1サブセットが、また拡張色域ゾーン362内入力色を含むよう入力色の第2サブセットが定義される。第1サブセットの入力色にはメタメリズム補正530に係る第1色変換が割り当てられ、第2サブセットの入力色には入力色を保持する第2変換が割り当てられる。入力色の第3サブセットは、第1及び第2サブセットに含まれていない入力色が含まれるように形成される。入力色の第3サブセットには、遷移ゾーン360内の入力色が含まれることとなろう。第3サブセットに属する入力色に関する色変換は、第1及び第2サブセットに割り当てられた変換との連続性が保たれるよう規定される。実施形態によっては、第3サブセットに属する入力色に関する色変換が、相応の補間法を使用し画定される。
【0127】
実施形態によっては、内側色域358全体を通じフルメタメリズム補正を適用するよりは寧ろ、局在色領域、例えば空色、肌色、草緑色、白色、灰色のような記憶色や重要な又は広く認識されている他の色の領域に対し、メタメリズム補正が選択的に適用されうる。選択的メタメリズム色補正は、与えられた作品又はフィルムでとりわけ重要なある種の標的色に適用することもできる。そして、遷移ゾーン360は、メタメリズム補正の円滑遷移が発生するよう各局在色領域の周囲で規定されうる。
【0128】
実施形態によっては、拡張色域ゾーン362に属する色にメタメリズム補正を適用しないよりは寧ろ、特定組の広帯域原色502と特定組の狭帯域原色504との間の色外観差を軽減すること以外の他の何らかの条件に基づき、メタメリズム補正を規定することが望ましいとされうる。この場合、メタメリズム補正不適用ステップ640は、所要メタメリズム補正を適用するステップで置換されうる。そして、部分メタメリズム補正適用ステップ630は、内側色域358内に適用されるメタメリズム補正と拡張色域ゾーン362内に適用されるメタメリズム補正との間の遷移に使用されうる。
【0129】
本発明の方法について説明するに当たり題材としてきたのは、広帯域原色502を有する第1ディスプレイと狭帯域原色504を使用する第2ディスプレイとの間での、観測者間メタメリズム不一致偽像の補正である。しかしながら、説明した方法は、いずれも狭帯域原色を使用する2個のディスプレイ間での観測者間メタメリズム不一致偽像の補正にも、適用することができる。例えば、第1組の狭帯域原色を使用する第1狭帯域表示システムをスタジオ又は映写室の基準システムとすること、並びに第2組の狭帯域原色を使用する第2狭帯域表示システムを映画館又は家宅への配給に採用することができる。これら表示システムがより新規な技術を容れて発達するにつれ、特定の標準的原色を有する標準又は基準システムの使用により標準配給符号化が実現されうるし、また当該使用によりアーカイブ保管が可能となりうるが、観測者間メタメリズム不一致補正を実現することなくしては、別組の原色を有するシステム上に直に表示されたとしてもそれらの色が所望外観を呈さないこととなろう。このことからご理解頂ける通り、第1組の狭帯域原色を有する特定のディスプレイによる看取向けに前もって誂えられている入力データを、第2組の狭帯域原色を有する別のディスプレイによる看取向けに整えるのに、類似プロセスを適用することができる。この場合、前述した方法における広帯域原色502を単純に第1組の狭帯域原色で置き換えればよく、また第2組の狭帯域原色を狭帯域原色504として使用すればよい。
【0130】
前述の通り、ディジタル映画画像コンテンツは、DCDMディジタル映画仕様に従い符号化されたデータファイルとして広く配給される。今日では、それらの画像が、三色の広帯域原色を有するプロジェクタ(例.
図5中のディジタル映画プロジェクタスペクトラム410で示される如くフィルタ付キセノン灯光源を使用するもの)による投射向けに最適化されている。
図4に示した通り、ファイル解読及び伸張の後は、あらゆる必要なプロジェクタ固有画像補正が画像プロセッサ240を通じ適用され、その上でそのデータが先に送られ投射に供される。例えば、これらの補正により、適宜、DLP(登録商標)又はLCOS式プロジェクタによる投射向けにその入来画像データを更に最適化することができる。しかしながら、本発明の目的下では、プロジェクタ100に、更に、観測者間メタメリズム不一致の発生軽減を狙い狭帯域原色プロジェクタによる投射向けに入来画像データを最適化すべく色再現を改変する、メタメリック色補正器250が備わりうる。例えば、メタメリック色補正器250によりCIEXYZ空間内乗算的スケーリング補正又はCIELAB加法混色補正を施し、
図7A〜
図7D、
図10A及び
図10Bに示したメタメリズム不一致起因色シフトを補償することができる。特に、補償用のメタメリズム補正530(
図9A及び
図9B)が平均知覚色シフトに適用されるように入来データを改変することができるので、観測者60(
図2)が、狭帯域投射システム上に表示された色を、従来型広帯域投射システム上にその画像が表示された場合に看取されるであろう色により近いものとして、看取する傾向を示すこととなろう。
【0131】
本発明についてここまで説明してきた通り、プロジェクタ内データパス200上にある画像プロセッサ240及びメタメリック色補正器250により、メタメリズム不一致色補正の益を受けうる画像コンテンツ又は色を特定するための画像解析、更には相応な色補正が実行される。メタメリック色補正器250では、行列、ルックアップテーブル(LUT)、パラメトリック関数若しくはアルゴリズム又はそれらの組合せを使用し、相応なメタメリズム補正530を適用することができる。メタメリック色補正器250は、また、プログラマブル論理デバイス例えばFPGAデバイスを使用し実現することができる。画像補正器245により施される通常の画質補正及びメタメリック色補正器250により施されるメタメリズム不一致軽減用画像補正の双方を含め、改変を受けた画像フレームをコンパイルできるよう、画像プロセッサ240内にメモリ又はフレームストレージを組み入れることができる。そして、もたらされた画像フレームはフレームバッファ260に送ることができる。
【0132】
或いは、メタメリズム不一致色補正を適用するデータ処理システムをコンテンツ源(例えばスタジオ、ポストハウス、撮影監督・カメラマン又は彩色者)その他の場所・配下で稼働させることができるので、事前補正済の画像データファイル又は画像データ改変ファイルを上映者に配給することができる。例えば、映画館であれホームシアタであれ他の会場であれ、狭帯域原色を有するディスプレイ上でその画像コンテンツが看取されるであろうと分かっている場合又は分かった場合に、事前色補正済画像コンテンツを提供又は事前画定することができ、またDCDMコンテンツファイルを伴うデータ又は付随メタデータファイルでそのメタメリック色補正済画像コンテンツを利用可能化又は提供することができる。
【0133】
総じて、前掲の論文のうち非特許文献5、6及び7が示唆するところによれば、観測者間メタメリズム不一致は、三色超(N>3)の定格中〜広帯域(例.30〜100nm)原色を使用するディスプレイによってのみ、効果的に軽減することができる。これに対し、本発明では、三色(N=3)の狭帯域原色を有するディスプレイに適用可能な方法であって、一組の標的観測者に係る観測者間メタメリズム不一致の平均的な大きさが軽減されるよう色依存メタメリズム補正530を画定及び適用する方法が提供される。特に、
図9A及び
図9Bに例示したメタメリズム補正モデル化方法を使用し、相応なメタメリズム補正530が算出される。そして、
図13に例示したメタメリズム不一致補償方法600を通じそれらメタメリズム補正530を適用することで、出力にて補正出力色660を適宜ピクセルワイズベースで提供することができる。但し、この方法は、色知覚にて卓越しているシフト(例.
図7A〜
図7Dに例示した色知覚差プロットに見られる黄色−緑色色シフト)を主として補正するものであるので、他の観測者間メタメリズム不一致軽減手法で同方法を拡張又は補足するとよい。
【0134】
本発明のディスプレイ及びプロジェクタ100については、名目上、三原色(N=3)システムでありそれら三原色がそれぞれ狭帯域光源(例.レーザ又はLED)によってもたらされるものであるとして、説明してきた。しかしながら、いわゆる当業者にとり自明な通り、本発明の方法は、混合原色を有するディスプレイであって、原色のうち幾つかが狭帯域、他の幾つかが広帯域であるディスプレイでも、使用することができる。例えば、二色の狭帯域原色(例.赤色及び緑色)及び一色の広帯域原色(例.青色)を有する表示システムでもやはり、本発明に従い画定されたメタメリズム補正を適用することで、狭帯域原色の使用に由来する観測者間メタメリズム不一致寄与に関し補償することができる。
【0135】
この点に関する説明では、入力色が従来型広帯域ディスプレイ上での表示向けに整えられていると仮定すると共に、その説明の主眼を、観測者間メタメリズム不一致に由来する広帯域ディスプレイ・狭帯域ディスプレイ間色知覚差の軽減に置いてきた。しかしながら、観測者間メタメリズム不一致は、別組の狭帯域原色を有する2個の狭帯域ディスプレイ間の知覚色差をも引き起こしうる。例えば、入力画像は、第1組の狭帯域原色を有する狭帯域ディスプレイ上で表示できるよう最適化されうるので、第2組の狭帯域原色を有する狭帯域ディスプレイ上にその画像を表示するに当たっては、相応なメタメリック補正を適用することが望ましかろう。本発明の方法は、こうした色差に関する補償にも使用することができる。その場合、
図9A及び
図9B中の広帯域原色502を第1組の狭帯域原色で置き換え、第2組の狭帯域原色を狭帯域原色504として使用すればよい。
【0136】
また例えば、三色の広帯域原色(R
wG
wB
w)で従来型色域を規定し三色の狭帯域原色(R
nG
nB
n)で拡張色域を規定する六原色投射システムが構築されうる。稼働時には、当該三色の広帯域原色が従来型色域内の諸色を主にもたらす一方、当該三色の狭帯域原色が拡張色域の境界に亘る諸色、但し従来型広帯域色域330内の色ではない色を主にもたらす。こうした例では、狭帯域原色を使用し表示される色又は広帯域原色と狭帯域原色の組合せで表示される色を有するピクセルに関し、本願記載の色知覚差モデル化方法を使用し、知覚色差値及び対応するメタメリズム補正530を画定することができる。従来型広帯域色域330の境界付近の色に関してはスケーリングされた色補正及び遷移ゾーン360を使用することができ、それらは広帯域原色(R
wG
wB
w)によってもたらされる従来型広帯域色域330と重複させることができる。この手法には、2個の自立したプロジェクタ、即ちその光源に結構な違いがあるためその光学コンポーネントの多くに恐らく顕著な違いがある2個のプロジェクタが基本的に必要である、という短所がある。その反面で、観測者間メタメリズム不一致偽像の発生を軽減しつつ拡張色域を提供できるという長所がある。
【0137】
本発明は、三色超の狭帯域原色を有する表示システム(例.N=6のもの)にも適用することができる。その種のシステムは、ほぼ同一のコンポーネントを伴う共通の光学設計を使用しつつ、観測者60間の観測者間メタメリズム不一致が軽減されるようスペクトル色多様性を拡張するのに役立ちうる。例えば、そうした表示システムは、二種類の青色レーザ原色(例.445nm及び465nm)、二種類の緑色レーザ原色(例.532nm及び560nm)並びに二種類の赤色レーザ原色(例.632nm及び650nm)を有するものでありうる。実施形態によっては、一組の原色(例.445nm、560nm及び650nm)を使用し第1プロジェクタ100(
図4)で表示面190上に画像を表示させることができ、また第2の組の原色(例.465nm、532nm及び632nm)を使用し第2プロジェクタ100で同じ表示面190上にそれと重なる画像を表示させることができる。その結果として、スペクトル軌跡325上又はその至近にある色でなければ、両プロジェクタ100によってもたらされる原色を使用し、ピクセルに係る色をレンダリングすることができる。それら2個のプロジェクタ100の原色座標及び白色点色バランスがいずれも同一になることはなかろうから、空間光変調器170にもたらされるデータ信号は、当該2個のプロジェクタ100に係る共通の(例.青色の)色チャネル間で同一にはならない。この表示システムでは、本発明によれば、前述の色知覚差モデル化方法及びメタメリズム不一致補正方法を使用し、各プロジェクタ100によりもたらされる画像データにふさわしいメタメリズム補正530を提供することができる。
【0138】
この手法には、Infitec GmbH(独国ウルム)の投射技術のうち、相応の看取眼鏡を装着している観測者60に3D画像を提供すべく二組の原色による波長多重化を使用する技術に対する、幾ばくかの類似性がある。当該Infitec法は、左目及び右目の色帯域フィルタグラス(例.左目:赤色=629nm、緑色=532nm、青色=446nm、並びに右目:赤色=615nm、緑色=518nm、青色=432nm)と整合させるべく広帯域光源をフィルタリングすることにより、立体投射に係るチャネル分離を実現するものである。対するに、例示したN=6のレーザ原色プロジェクタは、3D画像を提供できるものではあるが、主には、本発明の方法によりメタメリズム補正530を提供しつつスペクトル色多様性を富ませることによって、狭帯域原色で観測者間メタメリズム不一致を軽減するものであるので、対処しているのは別個且つ独立な問題である。
【0139】
N=6のレーザ原色投射に関する異形としては、代わりに1個のプロジェクタ100が使用され、各空間光変調器170がその色に係る両種のレーザ光源から照明光を受け取るものがありうる。この場合、白色点バランシングが波長平均化色チャネルで基本的に機能しうる。スペクトル色多様性がなおも大きいし、たった1個のプロジェクタ100しか必要としないが、色再現の制御はより複雑になりうる。
【0140】
或いは、各色チャネルで一色当たり2個のレーザ波長をシーケンシャル時間多重化形式(例.スクローリング色)で使用すること、特にピクセル色をレンダリングすべく一フレーム期間内で両組の原色を使用することもできる。そうしたスペクトル色時間多重化はディスプレイ又はプロジェクタ100内変調能力に左右される。ディジタル映画システムの場合、その基本投射フレームレートが典型的には24fps(即ち24Hz)であり、これは41.67msのフレーム期間に対応している。フィルムプロジェクタでは、シャッタでフレームレートを事実上倍加し、2個の照明光パルスを1個のフィルムフレームに供給することにより、フリッカ知覚を軽減することができる。これに類するフレーム複製効果をディジタル又は電子プロジェクタに持たせることが可能である。
【0141】
ブランキング期間725及びフレームオン期間705を含むフレーム期間710中に1個の画像フレーム700が投射される、
図15Aのタイミング図を考えよう。ブランキング期間725はオフ状態であり、その期間中には表示面190(
図2)に光が名目上送られず、他の動作(例.画像データのローディング)が実行される。フレームオン期間705はフレーム期間710の一部であり、その期間中には、プロジェクタ100(
図2)により、画像コンテンツに応じた空間的及び時間的光強度で表示面190に成像光がもたらされる。
【0142】
現在、3D画像表示を可能とするためDMD又はDLP(登録商標)プロジェクタで通常用いられているのは“トリプルフレッシュ”投射、即ちサブフレームオン期間735を有するサブフレーム730が
図15Bに示す如く一フレーム期間710当たり6個表示される投射である。3D画像投射の場合、左目像,右目像それぞれが、一フレーム当たり3回交番する形態にてその目に提示される。2D投射の場合、実効フレームレートを144Hz(即ちサブフレーム期間を6.94ms)とし、同一のフレームコンテンツが6個のサブフレームそれぞれで提示される。各サブフレーム730内では、2D画像投射の場合であれ3D画像投射の場合であれ、ピクセルワイズベースでの時間変調又はパルス幅変調(PWM)方式を使用しDMD投射が行われ、対応するピクセルコード値に応じた画像コンテンツが提示される。通常、サブフレーム730のデューティ比は高く(約95%)、サブフレーム730間には短いブランキング期間725がある。そのブランキング期間725中には種々の周期タイミングイベント、例えば偏光スイッチング機能やDMDグローバルリセット機能を、オンスクリーン偽像を発生させることなく生起させうる。フレームオン期間705(又はサブフレームオン期間735)は、特定組の画像データが表示面190へと投射される期間を表している。
【0143】
この例では、個別のフレーム期間710中に所与投射画像ピクセルに関し必要とされる色を、奇数番目のサブフレーム730(例.1、3、5)中に第1組のレーザ原色で投射すること、並びに偶数番目のサブフレーム730(例.2、4、6)中に第2組のレーザ原色で投射することによって、生成することができる。本発明に従い画定されるメタメリズム補正530は、レーザ原色の組毎に異なるであろう。総じて、例示したこれらN=6のレーザ原色投射手法では、スペクトル色多様性が増すと共に観測者間メタメリズム不一致偽像が軽減される一方、中庸程度に色域が縮小され且つスペックル軽減が支援されるに留まる。
【0144】
また、狭帯域原色を有するプロジェクタ100の外部で適用される効果によって、スペクトル色多様性が増して観測者間メタメリズム不一致が軽減されうることにも注意されたい。特に、特許文献5(発明者:Silverstein et al.,名称:スペックル軽減をもたらす投射表示面(Projection display surface providing speckle reduction),譲受人:本願出願人)では、可視励起光波長又はその付近の波長にて可視蛍光をもたらす蛍光素材で低密度被覆された投射スクリーンが提案されている。例えば入射赤色レーザ光を使用し、その蛍光帯域幅Δλが例えば約30nmの可視赤色蛍光を引き起こすことができる。このスクリーンの主たる長所はスペックル低減に対する支援であるが、同スクリーンでもたらされるスペクトル色多様性増加もまた、その蛍光補強投射スクリーン上に投射された画像を見る観測者60での、観測者間メタメリズム不一致の発生又は程度を軽減させうる。発生する蛍光の帯域幅Δλにもよるが、こうしたレーザ式プロジェクタ100でもたらされる広色域は中庸程度にしか縮小されえない。
【0145】
これまでの説明では、スペクトル色多重の使用を含め、三色超の狭帯域原色を使用しスペクトル色多様性を増加させることによって、観測者間メタメリズム不一致を軽減する方法であって、同じ色が別組の狭帯域原色によって生成される方法を述べた。実施形態によってはスペクトル色“ディザリング”機能、即ちサブフレーム730毎に原色の組合せを変えることによって(例.サブフレーム#1:λ
b1,λ
g2,λ
r2;サブフレーム#2:λ
b2,λ
g1,λ
r2)、一フレーム期間710内で同じ色を生成することができる形態で、二組に分かれている原色を混合形態で使用する機能が付加されうる。
【0146】
より多くの原色を付加することは、狭帯域原色を有するディスプレイにおける観測者間メタメリズム不一致の発生をスペクトル多様性の増加によって軽減するのに役立ちうるが、こうしたやり方では光学設計が複雑になる。従って、三原色システムにおける観測者間メタメリズム不一致現象を軽減可能な他の策を探すことが望ましかろう。例えば、
図16に示す標的色750を巡り色ディザリングを実行することによって色多様性を実現すればよい。特に、所与標的色750に関し、ピクセルワイズベース又はピクセル群ベースでレーザ原色の強度を矢継ぎ早に変調し、標的色750を巡り近隣にある色にて表示色を“ディザリング”すればよい(本発明の脈絡では、一連の様々な状態又は色間で速やかに変化させることでばらつきを導入することを用語“ディザリング”で表すこととする)。好ましくは、前述の方法を使用し画定された補正出力色660(
図13)を標的色750とし、それを巡り色ディザリングを発生させる。色ディザリングの例は、色中心(即ち標的色750)を巡る色ディザリング軌跡760上にある一組のディザリング色762,764,766の乱数的、周期的又は非周期的変調である。それらディザリング色762,764,766は、それらの経時平均により標的色750の測色がもたらされるよう選定する。これら一連のディザリング色762,764,766を矢継ぎ早に投射すると、観測者60には標的色750に見えるであろう。この仕組みでは、一定強度の原色で標的色750を直に表示させるのに比べ表示色多様性がもたらされるので、それにより、同じ色を見ていると観測者等が認めうる蓋然性が高まることとなりうる。前述の通り、観測者間メタメリズム不一致に係る知覚色シフトの大きさは色空間の部分毎に大きく異なりうる。従って、実施形態によっては、関連する知覚色シフトの大きさに従い色空間内位置の関数として色ディザリング軌跡760のサイズを調整することが望まれうる。
【0147】
この仕組みでは、一定強度原色で標的色750を直に表示させるのに比べ表示色多様性がもたらされる。ディザリング色770を孕む広めな色空間内領域で以て個別の観測者60が刺激されるので、それら色空間内領域が少なくとも一部の観測者60間で重複することとなろうし、それにより、同じ色を見ていると観測者等が認めうる蓋然性が高まろう。経時的色ディザリングが有するこうした色知覚平均効果は、有色の画像を矢継ぎ早に投射するスクローリング色プロジェクタ、例えば赤色画像に続き緑色画像及び青色画像を投射するプロジェクタと比較しうる。そうしたプロジェクタでは、フレームリフレッシュレートが十分高ければ、観測者が、フリッカを伴う一連の有色画像ではなく、経時積分された多色画像を知覚する。対するに、経時的色ディザリングでは、単一組の狭帯域原色(λ
b,λ
g,λ
r)を有するプロジェクタ100において、継起するサブフレーム730(
図15B)にてディザリング色762、764及び766を投射することにより、特定のフレーム期間710(
図15B)内で特定の画像ピクセルに関し、指定された標的色750をアセンブルすることができる。例えば、特定の画像フレーム700(
図15A)内の所与ピクセルに関し、プロジェクタ100により、ディザリング色762を有するサブフレーム#1及び#4、ディザリング色764を有するサブフレーム#2及び#5、並びにディザリング色766を有するサブフレーム#3及び#6を提供することができる。ディザリング色762は標的色750より緑寄り、ディザリング色764は標的色750より青寄り、ディザリング色762は標的色750より赤寄りとなりうる。それでもなお、実験結果によれば、観測者60には、この種の経時的色ディザリングを以て投射された色パッチが、一定の標的色750を表示している隣の色パッチに整合・一致する色として知覚されうる。
【0148】
経時的色ディザリングは更に
図17にも示されており、そこには、スペクトル軌跡325で括られたCIEx,y色度
図320、並びに赤色レーザ原色422、緑色レーザ原色424及び青色レーザ原色426に対応するレーザ原色色域335が描かれている。この例では標的色750(
図16)が四色あり、白色標的色751、空色標的色752、草緑色標的色753及び肌色標的色754で表されている。各標的色の周りには色ディザリング軌跡760が描かれており、その軌跡上には、経時シーケンスにて提示可能でその経時平均が対応する標的色に見えるような、相異なる一組のディザリング色がある。各色ディザリング軌跡760上のディザリング色は、レーザ原色の相応な組合せによって形成されている。
【0149】
これを敷衍するため、
図18A〜
図18Dとして、
図17に示したCIEx,y色度
図320の一部分の拡大図であって、順に白色標的色751(
図14A)、空色標的色752(
図14B)、草緑色標的色753(
図14C)及び肌色標的色754(
図14D)を孕む色領域にズームインした図を示す。個別の標的色それぞれの周りにあるのは一連の色ディザリング軌跡の例771、772、773及び774であり、その軌跡上にはディザリング色770がある。
【0150】
ディザリング色770は、個別の標的色に対する色シフトの大きさ及び方向、並びにそれらディザリング色間での変調条件によって規定することができる。実施形態によっては、周知のMacAdam楕円が、ディザリング色の規定に際するベンチマークとして使用されうる。MacAdam楕円は、典型的な人的観測者にとりその楕円の中心にある色と見分けがつかない色を抱え込むような、CIEx,y色度空間内色領域を示している。特に、MacAdam楕円内諸色が中心色に対し1JND未満の違いを有する色と知覚されるのに対し、MacAdam楕円外諸色は中心色に対し1JND超の違いを呈する。実施形態によっては、個々の標的色を中心とするCIEx,y色度空間内楕円に対応する色ディザリング軌跡上に位置するようディザリング色が定義されうる;但し、その楕円の大きさ及び向きは、所望JND数の色差(例.4JND)がもたらされるようMacAdam楕円に基づき定義される。より一般には、ディザリング色770は、適宜、ΔE
*、Δa
*、Δb
*、JND又はx−yベクトル長といった種々のスケール又は単位を使用し、CIEXYZ、CIELABその他の色空間内で相応の色ディザリング軌跡を定義することによって、定義されうる。
【0151】
図18A〜
図18Dに示した色ディザリング軌跡771、772、773及び774は、様々な条件に従い定義されている。色ディザリング軌跡774は、対応する標的色を中心とし0.01のx−y色度座標空間内半径を呈する円であり、例示したディザリング色770はその円を巡り分布する点として示されている。
【0152】
円形の色ディザリング軌跡774は定義するのに好都合だが、知覚上不均一であると分かっているCIEx−y色度空間に基づき定義されるという短所を有している。好適な実施形態では、色ディザリング軌跡が、標的色に対し諸ディザリング色770が同等の視覚距離に位置することとなるよう定義される。CIELAB色空間(即ちL
*a
*b
*)は、距離の等しさが視覚的差異の等しさにほぼ対応するよう、ほぼ視覚的に均一に設計されている。実施形態によっては、色ディザリング軌跡が、CIELAB内にありその半径が指定個数のΔE
*単位である円となるよう定義されうる。ディザリング点はそれらのL
*a
*b
*座標によって定義することができ、またそれを対応する色度座標へと逆変換することができる。
図18A〜
図18D中の色ディザリング軌跡771、772及び773はこの要領で定義されていて、その色差は順に1ΔE
*、2ΔE
*及び4ΔE
*である(1ΔE
*の色シフトは1JNDの色変化とほぼ等価であると考えうる)。
図18A〜
図18Dに示す通り、色ディザリング軌跡771、772及び773のx,y色度空間内形状はほぼ楕円であるが、円形色ディザリング軌跡774に比肩するサイズを有している。ひとたび色ディザリング軌跡が定義されたら、それらの平均で対応する標的色がもたらされるよう、色ディザリング軌跡を巡りディザリング色770を分布させればよい。
【0153】
色ディザリングプロットたる
図18A〜
図18Dを検討するに、対応する標的色を巡り配置された色ディザリング軌跡の例771、772及び773それぞれに関し、ディザリング色770を様々な形態で分布させることができる。実施形態によっては、色空間内に特定の角度間隔で(例.L
*a
*b
*空間又はx−y色度空間内に等角度間隔で)ディザリング色が配置される。例えば、標的色から見て0°、60°、120°、180°、240°及び300°の位置にディザリング色が配置されうる。或いは、ディザリング色770の選択の基礎に他の留意点を置くこと、例えば錐体コントラスト(cone contrast)色空間、対立変調(opponent modulation)色空間その他文献に記載の色空間を始め根底にある生理学的な色覚機構を表す色空間の軸に対しそれらディザリング色が平行に位置しているか否か、に置くことができる。錐体コントラスト色空間や対立変調色空間については非特許文献11に記載がある。
【0154】
実施形態によっては、原色のうち一色の量を増減することによってディザリング色を実現できるように、それらディザリング色770を分布させる。即ち、標的色(T)と比べ、僅かに赤が強い色(R
+)、僅かに緑が強い色(G
+)、僅かに青が強い色(B
+)、僅かに赤が弱い色(R
-)(シアンが強い色(C
+)に相当)、僅かに緑が弱い色(G
-)(マゼンタが強い色(M
+)に相当)、或いは僅かに青が弱い色(B
-)(黄色が強い色(Y
+)に相当)である。他の形態、例えば互いに異なるがいずれも僅かに強い赤色である二色(R
1+,R
2+)を使用する形態にしてもよい。同じことは、緑色、青色、シアン、マゼンタ又は黄色についても成り立つ。
【0155】
実施形態によっては、ディザリング色770が、標的色と同じ輝度(Y)を呈することとなるよう選定される(これには、一般に、ある原色の増加が他の原色のうち少なくとも一色の減少によって補償されるよう三原色全てを調整することが必要となろう)。実施形態によっては、明方向又は暗方向に輝度(Y)が違う色をディザリング色770に含ませ例えばR
+G
1+B
+G
2+にすることができる;但しG
1+はG
2+より明るい。この場合、ディザリング色は、その平均輝度が標的色の輝度と整合するよう選定されるべきである。
【0156】
色シフト平均化の累積結果が標的色Tと同じ三刺激値を確実に与えるようにするためには、ディザリング色770の選定に注意を払う必要がある。諸ディザリング色770が標的色から互いに等しいΔE
*単位距離にある場合、平均化で標的色Tと整合させることは容易でありうる。しかしながら、単一色集合に属するディザリング色770が互いに異なるシフト量、例えば4ΔE
*単位及び2ΔE
*単位で以て定義されることもありうる。ディザリングを受けた色の経時的色平均化で標的色に整合する色をもたらす助けとして、小規模な輝度(Y)調整を使用することができる。
【0157】
経時的色ディザリングは様々な順序、例えばR
+G
+B
+若しくはR
+B
+G
+、R
+G
+B
+R
-G
-B
-又はR
+G
+B
+T、或いはC
+M
+Y
+若しくはC
+M
+Y
+T、或いはR
1+R
2+G
1+G
2+B
1+B
2+等で適用することができる。所与色集合を使用した経時的色ディザリング例えばR
+G
+B
+は、表示面に相応な画像コンテンツが提示される限り、標的色を巡り周期的に反復し又は順序立て、R
+G
+B
+R
+G
+B
+R
+G
+B
+…と循環させることができる。
【0158】
投射実験により、経時的色ディザリングの平均化効果を評価した。特に、一組の観測者に、標的色(T)一色の第1色パッチと、一組のディザリング色770の経時シーケンス、例えば48fpsの実効レートで変調されたR
+G
+B
+又はC
+M
+Y
+を有する第2色パッチと、を見せた。ディザリング色770は、フレーム期間毎に2個の非隣接サブフレーム730(
図12B)に現れるよう経時的に循環させ、大半の観測者が認識できるフリッカのない色変化がそれによりもたらされるようにした。この実験は、広スペクトラムBarco(登録商標)ディジタル映画プロジェクタと、
図5に示したレーザプロジェクタスペクトラム420を有するレーザディジタル映画プロジェクタとで、別々に実行した。どちらの場合でも、総じて、一色の色パッチとディザリングを受けた色パッチとが色的に整合しているものと個別の観測者に認められた。このことは、ディザリング色770が標的色から4ΔE
*単位に亘りシフトしていて、互いに弁別されるのに十分な色差を個別のディザリング色770が有する場合でさえも成り立った。
【0159】
色平均化により標的色を合成する際に好適とされる色雑音の量は、その標的色Tによって変化しうる。例えば、諸実験の結果が示すところによれば、空色、白色及び灰色に関する好適色雑音量が3又は4ΔE
*単位であるのに対して、草緑色に関する好適色雑音量は5ΔE
*単位であった。それらの実験では、ちょうど三色のディザリング色770、例えばR
+G
+B
+又はC
+M
+Y
+からなる色集合を有する色ディザリング軌跡760が、近接色群を使用した標的色知覚の生成に最も効果的であるように見えた。
【0160】
観測者間メタメリズム不一致の軽減に役立てるには、ディザリング色770を標的色Tに対し視覚的に十分異ならせることで、適切な色バリエーション又は表示色多様性がもたらされるようにすべきである。即ち、色雑音又はディザリング色770の値を好ましくは3〜5ΔE
*又はそれ以上に亘り変化させ、散乱プロット(
図7A〜
図7D)上にあり大半の観測者が含まれる領域が少なくとも囲まれるようオフセットをスケーリングすればよい。
【0161】
経時的色ディザリングは様々な方法、例えばメタメリック色補正器250(
図4)を介する方法によって施すことができる。観測者間メタメリズム不一致が補正されるべき色が画定されたなら、メタメリック色補正器250にて、アルゴリズム、色依存ルックアップテーブルその他の手法(例.色ディザリング軌跡760上からの乱数的選択)を使用しオフセット色を画定し、一連の色雑音たるディザリング色770をフレーム又はサブフレームベースで提供することができる。或いは、適用される色シフト又は色変化の量(ΔE
*,Δa
*,Δb
*,JND,H,L)及び順序に関する規則によって拘束される境界付色空間内で、ディザリング色770を擬似乱数的に発生させる色雑音発生器を使用し、メタメリック色補正器250にて入来画像データ又は原画像データを改変することができる。ディザリング色770が各フレームに適用されうる一方、情報処理又は画像処理条件は、類似画像コンテンツを有する一連のフレーム(例.シーン)に係る画像データに対し、ある共通な形態の変化を適用することによって、管理されうる。
【0162】
実施形態によっては、三色の狭帯域原色又は3個の色チャネルを有するプロジェクタ100によってもたらされた像195を見る観測者60(
図2)間の観測者間メタメリズム不一致の補正又は補償が、それら二種類の手法を組み合わせて使用すること(即ち補償用メタメリズム補正530とディザリング色770での経時的色ディザリングとを共に施すこと)により実現される。他の方法、例えば前述した蛍光スクリーンを、これらの方法のうち一方又は双方と組み合わせて使用してもよい。
【0163】
ご理解頂ける通り、
図7A〜
図7Dに示した黄色−緑色シフトを画定するに当たっては、Barco(登録商標)DP−1500プロジェクタ(商品名)の、本発明を説明するための一例標準としての使用を基礎とした。しかしながら、実際には、興業関係者、例えばスタジオ、ポストプロダクションハウス、映画監督、撮影監督・カメラマン及び彩色者が、メタメリズム補正530及びディザリング色770を画定するための参照標準として、独特なディスプレイを使用することがありうる。例えば、Digital Projection Inc.(米国ジョージア州ケネソー)は、ポストプロダクションハウス及び映写室をはじめとする厳密看取条件での使用向けに、“基準シリーズ”のDLP(登録商標)式プロジェクタを提供している。予想できる通り、標準として使用するディスプレイ又はプロジェクタが異なればメタメリズム補正530及びディザリング色770も異なりうる。
【0164】
図2及び
図3によって示される通り、重点としてきたのは、レーザ式ディジタル映画プロジェクタの観測者を対象とし観測者間メタメリズム不一致の発生を軽減することである。しかしながら、ご理解頂けるように、前述の観測者間メタメリズム不一致軽減方法はより広範に適用することができる。例えば、この方法は、他市場例えば宅内、特別行事(コンサート)又は博物館(プラネタリウム)向けのレーザプロジェクタにも適用でき、また前方スクリーン投射構成のレーザプロジェクタにも後方スクリーン投射構成のレーザプロジェクタにも適用できる。この方法は、特に、狭帯域幅又は中帯域幅原色を有する投射型ディスプレイ、例えばレーザ、LED、フィルタ付LED、可視光輻射型高輝度発光ダイオード(SLED)、ランプ又はそれらの組合せを使用するディスプレイ向けに適応させうる。本発明の方法は、一部の原色又は色チャネルのみが狭又は中スペクトル帯域幅を有し他の原色は広スペクトル帯域幅を有する投射型ディスプレイにも適用できる。加えて、この方法は、バックライト付ディスプレイや、コンピュータ用モニタ、テレビジョン及びビデオゲームその他の市場に適するディスプレイをはじめ、電子ディスプレイ全般に適用することができる。経時的色ディザリング法を使用する際には、必要な経時変動がサポートされるようディスプレイを十分高速で変調できる必要がある。
【0165】
図3のプロジェクタ100は、赤色、緑色及び青色原色を有する三原色ディスプレイである。しかしながら、ご理解頂ける通り、本発明の観測者間メタメリズム不一致軽減方法は、N原色を有するディスプレイ、特に3色超(N>3)の狭帯域原色を有するディスプレイへと拡張可能である。多数例えば二十色(N=20)の原色を有するディスプレイであって本発明の方法を使用するものも実現可能だが、利用可能色域の拡張に関しては四色(N=4)又は五色(N=5)の狭帯域原色を有する多原色ディスプレイが興味深い。四色(N=4)又は五色(N=5)の狭帯域原色を有するディスプレイでは、色域を拡張することに加え、前述の通り、スペクトル色多様性を提供し観測者間メタメリズム不一致を軽減することができる。
図19に、二例の四原色(N=4)拡張色域、即ち黄色原色310を含む黄色強調広色域337並びにシアン原色312を含むシアン強調広色域338を描くCIEx,y色度
図320を示す。
【0166】
純粋な黄色を含むため、黄色強調広色域337の使用は、有意義と見なされることがしばしばである。前述の通り、天然に発生する黄色のうち幾つかは、単色系の色からなるスペクトル軌跡325の至近にある。即ち、CIEx,y色度図にある通り、黄色原色を含め四原色(N=4)のディスプレイは広い色域領域を追加するものに見えないかもしれないが、その色域領域には、他の色空間でより好適に表せる重要色が存在している。
【0167】
シアンは天然にありふれる重要色であり、多々ある広色域ディスプレイでもこの色をほとんどサポートすることができない。即ち、シアン原色312を含め四原色(N=4)を有することとなるようディスプレイを拡張し、シアン強調広色域338を提供することは、際だって有意義なことでありうる。こうした構成では、それら原色が狭帯域光源例えばレーザによる場合でさえ、四原色全てを一度に使用すること又は三原色を様々な組合せで使用することにより、標的色(T)例えばターコイズを生成するに際し、観測者間メタメリズム不一致を軽減することができる。しかしながら、補償用のメタメリズム補正530とディザリング色770での経時的色ディザリングとを提供するものを含め、本発明の方法をそうしたディスプレイで使用することにより、観測者間メタメリズム不一致の発生又は程度を更に軽減することができる。同様に、黄色原色及びシアン原色の双方を含め五原色(N=5)のディスプレイでも、本発明の方法を使用することで、色域を更に拡張し且つ観測者間メタメリズム不一致を更に軽減することができる。
【0168】
観測者間メタメリズム不一致軽減方法の選択的適用も用途依存状況に依存しうる。例えば、テレビジョン用ディスプレイが明るく一般に明環境で看取されるのに比し、映画用プロジェクタは、そのピーク輝度が一般に約2倍暗く、より暗い環境で看取される。両ディスプレイは、通常の明所視(photopic)看取条件下で可視画像を提供可能な一方、暗い(薄明視(mesopic))看取条件においても画像を提供可能である。これが特に当てはまるのは、その光レベルがしばしば薄明視域に陥りうる映画看取、例えば多くの暗いシーンで様式化されたフィルムを見るときである。そうした薄明視条件のもとでは、人体視覚系が感度向上に向け経時的に適合し、錐体感度(色感度)が極度に下がる一方で、桿体がますます重要になる。その結果、人的色知覚が通常は劇的に変化し、諸色の相対知覚輝度が、緑色光又は赤色光の知覚に比し青色光の知覚を強める青方シフトを呈する。即ち、黄色、橙色及び赤色の人的知覚があまり正確でなくなる。青色及び薄い緑色の人的知覚も影響を受けるがあまり劇的ではない。特許文献6(発明者:Kane et al.,名称:低輝度条件向け表示色外観適合(Adapting display color appearance for low luminance conditions),譲受人:本願出願人)には、低輝度条件で看取されるディスプレイを色補正し、適合シフトにさらされた人的観測者向けにより良好な色外観を提供する方法が示されている。この手法では、光レベル検知結果に基づく表示色調整及び適合の時間的推移についての解析が実行されるが、そのディスプレイが狭又は中帯域幅原色を有しているときの観測者間メタメリズム不一致に関する補正は行われない。本発明のメタメリズム不一致補償方法はこの薄明視色補正方法と組み合わせて使用することができる。例えば、看取条件がますます薄明視になるにつれ、メタメリズム補正530を修正して、薄明視看取色補正を組み入れればよい。
【0169】
再度述べることだが、本発明の例示的諸実施形態を使用し示してきた種々の解析結果は、1931CIE2°標準観測者又は1964CIE10°標準観測者を基準観測者として使用した場合のものである。加えて、20人のWS(Wyszecki and Stiles)観測者に係る10°等色関数データを使用し、一組の標的観測者を表してきた。これらのデータセットが発表されてからの数十年間に、同データは時折難じられてきたけれども、大抵は妥当視されてきたし、取って代わられてもいない。特に、1931CIE2°標準観測者がDCDM標準内で仮定基準として適切であるとはいえ、また1964CIE10°標準観測者が実際に映画看取条件向けにより適切たりうるとはいえ、現実には、完全な標準観測者モデルは開発されそうにない。恐らくは、WS観測者に取って代わりうるか又は映画看取条件向けにより適切たりうる別組の標的観測者に関し等色関数が計測されうることの方が、蓋然性が高い。一組の標的観測者たる20人のWS観測者は、年齢及び性別に関する限り穏当な人口構成を象徴するものであるが、恐らくは男性、白人及び16〜50歳の人々が強めに象徴されていた。例えば、前述の通り、眼水晶体が年齢と共に黄化するため、個人毎に違う人的等色関数は観測者年齢とある程度相関するので、より広い年齢に亘る人口構成の方が適切であろう。
【0170】
本発明の方法は、適切な代案が開発されるのであれば、別組の基準観測者等色関数で使用することができる。例えば、標的観測者の人口構成代表的サブグループ例えば若者向けに、一組の標準観測者等色関数及び一組の標的観測者等色関数を開発し、専らそうした観衆により看取されるコンテンツを表示する際にそれらを使用するとよい。また例えば、映画等価看取条件に遭遇する標的観測者に係る一組の人的等色関数の計測又は組立でも、看取距離の違いや、目に同時に入る広視野照明の併存を酌むことができる。総じて、本発明の観測者間メタメリズム不一致軽減方法では、一組又は複数組の適切な標的観測者に関し付加的な等色関数を画定する試みが功を奏しうる。
【0171】
注記すべきことに、観測者間メタメリズム不一致以外の視覚効果も狭帯域原色ディスプレイで起こりうる。特に、それらにはHelmholtz−Kohlrausch(H−K)効果及びBezold・Bruecke(B−B)効果が含まれる。H−K効果が、人間がスペクトル軌跡325付近の高彩度(濃厚)光を体験したときに発生しうる知覚上の輝度変化をいうのに対し、B−B効果は、特定波長の明るい光を見たときに人間が体験しうる知覚上の色相変化をいうものである。例えば、B−B効果が発生すると、高強度長波長赤色光(例えば660nm)が黄色に染まって見えることがある。典型的な光レベル、スクリーンに対する観衆の位置的遠さ、並びに画像の典型的な色コンテンツから見て、これらの効果は一般に映画にはほとんど影響しないであろう。原色の波長又は帯域幅もまたこれらの効果の発生に影響しうる。しかしながら、これらの効果は、見る先が高輝度ディスプレイであり、そのディスプレイにより提供される画像コンテンツが明るい高彩度(濃厚)色を伴う広い領域を有しているときに、より発生しやすいものである。そうした条件には色看取にとりさほど重要とならない傾向があるが、本発明の観測者間メタメリズム不一致軽減方法又はその変種であって、それらの効果をも補正するものを、適宜、そうした看取条件に適用することもできる。例えば、H−K効果を励起するスペクトル色を有する広い画像領域が表示中の画像コンテンツに含まれているときには、実効輝度又は表示色域を局所的に修正することにより色信号を補正することができる。
【0172】
本発明を実施するためのコンピュータプログラム製品は、1個又は複数個の固定的且つ有形的コンピュータ可読記録媒体、例えば、磁気記録媒体例えば磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク等)又は磁気テープ、光記録媒体例えば光ディスク、光テープ又は機械可読バーコード、固体電子記憶デバイス例えばランダムアクセスメモリ(RAM)又はリードオンリメモリ(ROM)その他、任意の物理デバイス又は媒体であって、本発明に係る方法を実行すべく1台又は複数台のコンピュータを制御する命令群を有するコンピュータプログラムの保存に使用されるものを含みうる。