(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表皮材(32)の端縁に設けられた係止用端部材(42)に係止する係止部(11)と、クッション材(30)の溝(34)内に設置されたワイヤ(36)に係止されるフック(18)が設けられ、前記表皮材(32)と前記クッション材(30)を連結する表皮材止着用クリップ(10)において、
前記フック(18)は前記係止部(11)の下方側に設けられ、前記フック(18)には、前記係止部(11)から下方に延出する延出部(18a)と、この延出部(18a)の先端から左右方向の側方に屈曲して前記係止部(11)に向けて傾斜する爪状部(18c)が設けられ、前記延出部(18a)と前記爪状部(18c)及びその先端部(18e)とでワイヤ保持空間(17)が形成され、
前記係止部(11)にガイド片(26)が設けられ、
前記ガイド片(26)は、前記係止部(11)から下方に向かって延出し、途中に折曲部(26b)が設けられて前記フック(18)の前記爪状部(18c)の先端部(18e)に向かって屈曲して延び、
前記ガイド片(26)の先端部(26d)は、前記爪状部(18c)の前記先端部(18e)に対向し、前記ワイヤ(36)が挿通される所定間隔のワイヤ挿通口(27)を開けて、前記爪状部(18c)の前記先端部(18e)よりも上方であって前記ワイヤ保持空間(17)の上方に位置するとともに、前記爪状部(18c)の前記先端部(18e)を超えて左右方向に延出し、前記フック(18)の前記延出部(18a)側に位置し、
前記ガイド片(26)と前記爪状部(18c)の、前記ワイヤ挿通口(27)に向かう部分は各々ガイド面(22,23)を形成して成ることを特徴とする表皮材止着用クリップ。
前記ガイド片(26)と前記爪状部(18c)の、各々ガイド面(22,23)の間隔は、前記ワイヤ挿通口(27)に向かって徐々に狭くなる請求項1記載の表皮材止着用クリップ。
前記フック(18)の前記爪状部(18c)は直線状の傾斜面(18f)を備え、前記傾斜面(18f)に沿って前記ガイド片(26)に向かう延長線より上方に、前記折曲部(26b)が設けられている請求項2記載の表皮材止着用クリップ。
前記ガイド片(26)は、前記係止部(11)から下方に向かうに従って前記延出部(18a)から離れる方向に延出し、前記折曲部(26b)が設けられて前記フック(18)の前記爪状部(18c)の先端部(18e)に向かって左右方向に屈曲して延びている請求項3記載の表皮材止着用クリップ。
前記フック(18)は、前記延出部(18a)の前記爪状部(18c)の延出方向と反対方向に向けて延出するフランジ部(18b)を有し、このフランジ部(18b)には、その先端が前記係止部(11)から離間する方向に傾斜して形成され、前記フランジ部(18b)の先端に前記フック(18)を前記ワイヤ(36)から外すための治具を係止する治具受け部(20)が設けられている請求項1記載の表皮材止着用クリップ。
前記係止部(11)、前記フック(18)、前記治具受け部(20)、及び前記ガイド片(26)は、合成樹脂による一体成形により形成されている請求項5記載の表皮材止着用クリップ。
【背景技術】
【0002】
従来、室内で利用される椅子や車両の座席等では、座面や背当てなど人体に触れる部分にクッション材や柔軟なパッドを設置し、その表面を表皮材で被覆したものが多用されている。このような表皮材の固定には様々な構造が採用されており、表皮材を固定しつつ外観的に隠蔽できる構造として、クッション材の溝内にワイヤを配置し、表皮材の端縁にクリップを配列し、これらのクリップをワイヤに係合させて表皮材を止着する構造が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1,2に開示されている表皮材止着用クリップは、表皮材に取り付けられた係止用端部に係着させるチャック部と、クッション材の溝内に設けられたワイヤに掛けられて係止されるフック部とを有している。前記フック部は、互いに横並び状に対向配置されたガイド片とフックとを有し、これらの間にワイヤが差し込まれることで、ガイド片がフックとの間の隙間を広げるように外側に撓み、さらに差し込むと、同隙間内に差し込まれたワイヤにフックが掛けられて係止する構成となっている。
【0004】
このようなガイド片を有する表皮材止着用クリップの一例を
図10に示す。
図10に示す表皮材止着用クリップ1は、表皮材に取り付けられた係止用端部に係着させる一対の係止爪からなる係止部2と、クッション材の溝内に設けられたワイヤ6に掛けられて係止されるフック3と、フック3の横並び状に対向配置されたガイド片4を有している。フック3は、図面下方に延出する延出部3aと、延出部3aの先端から図面左方向に屈曲して、わずかに上方に向くように傾斜する爪状部3cと、爪状部3cの延出方向と反対方向(
図10の右方向)に向けて延出するフランジ部3bを有している。フランジ部3bは、その先端が下方に向くように傾斜し、フランジ部3bの先端にはフック3をワイヤ6から外すための治具を係止する治具受け部5が設けられている。ガイド片4は、湾曲して図面下方に延出しフック3の爪状部3cの側方を通過してフランジ部3bの下端部とほぼ同じ位置の側方に達している。表皮材止着用クリップ1は、ガイド片4とフック3の間にワイヤ6が挿し込まれることで、ガイド片4がフック3との間の隙間を広げるように外側に撓み、さらに差し込むと、隙間内にさしこまれたワイヤ6にフック3が掛けられて係止されるものである。
【0005】
その他に、ワイヤにフックが掛けられて係止する構成として、特許文献3に示すものがあり、これは、フックの上部に設けられた開口部に、弾性変形可能な片持ち状の閉鎖片が設けられたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術の
図10に示す表皮材止着用クリップ1は、係止するためにワイヤ6に近づける際に傾いていると、ガイド片4がフック3の下方に延出しているため、
図10に示すように、ワイヤ6がガイド片4の外側に出て、フック3にかからない場合があった。このような場合、フック3の姿勢を直して再度挿入する必要があり、フック3の係止作業が面倒なものであった。さらに、フック3にワイヤ6を入れる範囲が狭く、正確に入れるために周囲のクッション材等を押し広げて変形させ、ワイヤ6が見えるようにする必要があり、強い力で作業を行わなければならず、作業が容易ではなかった。特に、表皮材止着用クリップ1を指で押してワイヤ6に掛けようとすると、
図10に示すようにガイド片4が下方に下がるように傾きやすく、ワイヤ6がガイド片4の外側に位置することが多くなり、ワイヤ6がフック3に係合しにくいものであった。
【0008】
特許文献1,2に開示された表皮材止着用クリップも同様に、ガイド片が長く延出しているため、ワイヤにかけにくいものである。
【0009】
また、特許文献3に開示されたフック部材は、フックの上部に開口部が設けられているため、ワイヤの係止と解除を行うためにフックをワイヤの下方まで押し下げなければならず、力が必要であり使いにくいものである。さらに、開口部は閉鎖片で閉鎖されているため、ワイヤを外す際は閉鎖片を開いた状態で保持しながら操作するため、作業しにくいものである。
【0010】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な操作でクッション材内等にあるワイヤに係止することができ、作業効率が良好な表皮材止着用クリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、表皮材の端縁に設けられた係止用端部材に係止する係止部と、クッション材の溝内に設置されたワイヤに係止されるフックが設けられ、前記表皮材と前記クッション材を連結する表皮材止着用クリップであって、前記フックは前記係止部の下方側に設けられ、前記フックには、前記係止部から下方に延出する延出部と、この延出部の先端から側方に屈曲して前記係止部に向けて傾斜する爪状部が設けられ、前記係止部にガイド片が設けられ、前記ガイド片は、前記係止部から下方に向かって延出し、途中に折曲部が設けられて前記フックの前記爪状部の先端部に向かって屈曲して延び、前記ガイド片の先端部は、前記爪状部の前記先端部に対向する位置に、前記ワイヤが挿通される所定間隔のワイヤ挿通口を開けて達し、前記ガイド片と前記爪状部の、前記ワイヤ挿通口に向かう部分は各々ガイド面を形成して成る表皮材止着用クリップである。
【0012】
前記ガイド片と前記爪状部の、各々ガイド面の間隔は、前記ワイヤ挿通口に向かって徐々に狭くなるように形成されている。さらに、前記ガイド片の先端部は、前記爪状部の前記先端部よりも上方に位置するものでも良い。また、前記ガイド片の前記先端部は、前記爪状部の前記先端部を超えて延出し、前記フックの前記延出部側に位置しても良い。
【0013】
前記フックの前記爪状部は、直線状の傾斜面を備え、前記傾斜面に沿って前記ガイド片に向かう延長線より上方に、前記折曲部が設けられている。さらに、前記一対のガイド面は、三角形の斜辺状の導入通路が下方に向かって広がって形成されている。
【0014】
前記ガイド片は、前記係止部から下方に向かうに従って前記延出部から離れる方向に延出し、前記折曲部が設けられて前記フックの前記爪状部の先端部に向かって屈曲して延びている。
【0015】
また、前記フックは、前記延出部の前記爪状部の延出方向と反対方向に向けて延出するフランジ部を有し、このフランジ部には、その先端が前記係止部から離間する方向に傾斜して形成され、前記フランジ部の先端に前記フックを前記ワイヤから外すための治具を係止する治具受け部が設けられている。
【0016】
前記係止部、前記フック、前記治具受け部、及び前記ガイド片は、合成樹脂による一体成形により形成されているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表皮材止着用クリップによれば、簡単な操作でクッション材内等にあるワイヤにフックを容易に係止することができ、容易で確実に表皮材をクッション材に取り付けることができる。係止作業の際に、表皮材止着用クリップを指で上から押し込んで表皮材止着用クリップが傾いても、傾いた状態で確実にワイヤをフックに掛けることができ、指で容易に係止することができ作業効率が良好である。また、ワイヤ挿通口に向かって一対のガイド面が三角形の斜辺状に導入通路が形成されているため、正確なワイヤの位置決めが不要であり、広い範囲でワイヤをガイドすることができ、確実にワイヤ挿通口にワイヤが誘導されて係止することができる。
【0018】
さらに、ガイド片の先端部が、爪状部の先端部よりも上方に位置することにより、ワイヤ挿通口までのガイド面を長くすることができ、ワイヤを挿入する際の案内が行われやすい。また、ガイド片の先端部は、爪状部の先端部を超えて延出し、フックの延出部側に位置することにより、ワイヤを爪状部にて係止する位置まで確実に案内することができ、係止状態にて、ワイヤの移動範囲を少なくでき、係止が維持されやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一実施形態の表皮材止着用クリップの斜視図である。
【
図2】この実施形態の表皮材止着用クリップの使用方法を示す斜視図である。
【
図3】この実施形態の表皮材止着用クリップの使用方法を示す正面図である。
【
図4】この実施形態の表皮材止着用クリップの使用方法を示す縦断面である。
【
図5】この実施形態の表皮材止着用クリップのワイヤへの取付方法を示す正面図である。
【
図6】この実施形態の表皮材止着用クリップのワイヤへの取付方法を示す正面図である。
【
図7】この実施形態の表皮材止着用クリップのワイヤへのその他の取付方法を示す正面図である。
【
図8】この実施形態の表皮材止着用クリップの変形例を示す正面図である。
【
図9】
図8に示す表皮材止着用クリップのワイヤへの取付方法を示す正面図である。
【
図10】従来の表皮材止着用クリップのワイヤへの取付方法を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、この表皮材止着用クリップ10の説明おいて、
図2に示す互いに直交するXYZ方向を基準として、方向を示す。ここでは、X軸方向を前後方向とし、例えば、後述するクッション材30の溝34の深部にあるワイヤ36の延在方向に一致し、若しくは、表皮材32の端縁が延びる方向に一致する。さらに、後述する係止用端部材42の端縁が延びる方向に一致する。係止用端部材42をクッション材30の溝34に挿入して、ワイヤ36に係止する方向を上下方向とし、上下方向は、X軸方向と直交するZ軸方向であり、クッション材30の深さ方向と一致する。さらに、クッション材30上に張られた後述する表皮材32の面に対して垂直な方向に一致する。また、前後方向であるX軸方向、及び上下方向であるZ軸方向と直交する方向を、Y軸方向とし、左右方向と称する。この左右方向に平行な方向を側方ともいう。
【0021】
図1はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の表皮材止着用クリップ10は、合成樹脂で一体に成形されたものであり、一対の係止爪12を有し、係止爪12は互いに対向して形成されるアーム部12dを有し、アーム部12dの基端部(係止爪12の基端部でもある)は、係止爪基部14の上面14a(係止爪基部14の一面とも言う)の両側から、一体に形成され、係止爪12は上面14aから
図1において上方に突出し、上方へ行くにつれて互いの左右方向の間隔が広がるように形成されている。この係止爪12と係止爪基部14とで係止部11が形成される。係止爪12の先端部12aはそれぞれ内側、つまり互いに向かい合って近づく方向に向けて屈曲されている。先端部12aは、それぞれ係止爪基部14と対向し、かつ係止用端部材42に係止する係止面12bを有し、係止面12bは、係止爪基部14の上面14aとほぼ平行に形成されている。この一対の係止爪12と係止爪基部14とで囲まれる空間に、係止用端部材42が収容されて係止される。
【0022】
一対の係止爪12のアーム部12dの互いに対向する内側面12cには、ストッパ16が設けられている。ストッパ16は、係止爪12の互いに向き合う方向に交差するX軸方向である厚み方向の中間の位置に設けられた突条であり、係止爪12の係止面12bから始まり、内側面12cに沿って係止爪基部14の上面14aに達し、内側面12cおよび係止爪基部14の上面14aと同様に略U字形となっている。ストッパ16の厚み方向の幅は、係止面12bに近い部分が一番狭く、その下に連続する内側面12cと上面14aの境界部分が一番広く、上面14aの中心部分がその中間の幅に形成されている。
【0023】
係止爪基部14の、上面14aと反対側の下面14b(係止爪基部14の他面とも言う)には、フック18が設けられている。フック18は、下面14bの、一対の係止爪12が向かい合う方向の一方の端部に設けられ、下面14bに対してほぼ直角に下方に延出する延出部18aと、延出部18aの先端から
図3における左方向に屈曲して、係止部11に向けて傾斜する爪状部18cとを有する。爪状部18cは、係止爪基部14に向けて上方に向くように傾斜している。爪状部18cの端部は爪状部18cの下面である傾斜面18fに対してほぼ直角な平面18dで切断したような形状であり、平面18dの上端縁部は爪状部18cの先端部18eとなり、爪状部18cよりも係止爪基部14に向かって張り出すように突出し、先端が細く形成されている。延出部18aと爪状部18c及びその先端部18eとで囲まれたU字状の溝部は、後述するワイヤ36が挿通されるワイヤ保持空間17となっている。なお、
図3に示すY−Z平面視にて、傾斜面18fは直線状に限らず、下方に凸状または上方に凹状の曲面状であってもよい。
【0024】
フック18の、延出部18aの先端には、爪状部18cの延出方向と反対方向(
図3の右方向)に向けて延出するフランジ部18bを有する。フランジ部18bは、爪状部18cと反対側の先端部が下方に向くように傾斜して設けられ、先端部には、図示しない治具を受ける治具受け部20が設けられている。治具受け部20は、フランジ部18bの先端部から延出部18aに対して間隔を開けてほぼ平行に係止爪12側に延びて、先端部20aが係止爪基部14の上面14aより少し高い位置に達して、係止爪基部14の側方に位置している。治具受け部20の左右方向の厚みは、フランジ部18bに近い方が薄く、係止爪基部14に近づくにつれて厚くなり、先端部20aには、係止爪12のアーム部12dの外側面に沿って外側に広がる傾斜した面が形成されている。治具受け部20の先端部20aと係止爪基部14との間の隙間は、治具が挿入される治具挿入口21となり、その治具挿入口21から連続し、延出部18aとフランジ部18bと、治具受け部20とで囲まれて治具が挿通されるU字形の溝部19が形成されている。溝部19の底部(フック18の上面)は、治具を係止する治具保持空間25である。治具受け部20のフック18の延出部18aに対向する内側面(治具が挿通される溝部19に対向する面)には、フランジ部18bの近傍に係合突部24が設けられている。治具保持空間25は、溝部19と後述する係合突部24とで区画され、治具の係止部が係止される。係合突部24は、延出部18aに向かって三角形状に形成された突条であり、下方に向かうに従って延出部18aに近づくように突出している。つまり、係合突部24は、フランジ部18bに近い面は、治具受け部20の突出方向に対してほぼ直角に位置し、フランジ部18bと反対側の面は治具受け部20の延出方向に対して鋭角に交差している。これにより、治具が溝部19に挿入された際に、治具の一部が鈍角に交差する面を乗り越えることで係合突部24に係合する。
【0025】
一対の係止爪12のうち、治具受け部20が形成される側の係止爪12と反対側の1個には、その係止爪12と一体にガイド片26が設けられている。ガイド片26は、係止爪12の突出方向の中間付近に設けられ、係止爪12から離れるにつれて下方に向かう傾斜方向に延出し、係止爪基部14の下面14bの側方付近で第1折曲部26aが設けられ、第1折曲部26aで折り曲げられてフック18の延出部18aに対して平行に垂直方向下方に延出している。そしてフック18の爪状部18cの延出方向の延長線上に第2折曲部26bが設けられ、第2折曲部26bで折り曲げられて、延出部18aと下面14bの境界付近に向かって、第1折曲部26aの延長方向に対して90°より僅かに大きい角度で折り曲げられている。そして折り曲げられたガイド片26の先端部26dは爪状部18cの先端部18eの延長線上を越えて延出部18aに近い位置に達している。ガイド片26の第2折曲部26bと先端部26dの間には、爪状部18cの先端部18eに対向する位置に第3折曲部26cが設けられ、第3折曲部26cは係止爪基部14に近づく方へ凸となるように折り曲げられ、先端部26dはわずかに係止爪基部14から離れる方へ向かって突出している。ガイド片26の第3折曲部26cとフック18の爪状部18c先端部18eの間の隙間は、ワイヤ36が挿通されるワイヤ挿通口27となる。
【0026】
ワイヤ挿通口27は、ワイヤ36の直径よりも小さく設定されている。ガイド片26の、第2折曲部26bと第3折曲部26cの間の下側面は、ワイヤ挿通口27に向かって傾斜するガイド面22となる。爪状部18cの先端側の平面18dも、ワイヤ挿通口27に向かって傾斜するガイド面23となる。ガイド面22,23は、ワイヤ挿通口27に向かってその間隔は徐々に狭くなり、三角形の斜辺状の導入通路が形成される。また、ガイド片26の先端部26dはフック部18の先端部18eを超えて延出部18a側に位置するようにし、ガイド片26の先端部26dはワイヤ保持空間17の上方に位置する。これにより、ワイヤ36を挿入した際に、ワイヤ36をワイヤ保持空間17に円滑に案内することができる。また、係止状態にあるワイヤ36が不容易に移動することを抑制し、安定した係止を維持することができる。さらには、ガイド片26の先端部26dとフック部18の延出部18aとの間隔を、ワイヤ36の直径よりも小さく設定することで、より係止状態にあるワイヤ36の移動を抑制することができるようにもなる。
【0027】
次に、この実施形態の表皮材止着用クリップ10の使用方法について
図2〜
図7に基づいて説明する。表皮材止着用クリップ10は、
図2〜
図4に示すように、車両用の座席のクッション材30の表面の所定位置に表皮材32を張るために用いられる。ここで、クッション材30と表皮材32について説明する。クッション材30は、座席の形状に成形された発泡ポリウレタン等の合成樹脂フォーム材である。クッション材30には表皮材止着用の溝34が形成され、溝34内には、ワイヤ36が設置されている。ワイヤ36は金属製の線材であり、クッション材30の成形時にインサート成形で組み込むことができる。
【0028】
表皮材32は、クッション材30の表面を覆う合成樹脂シート等であり、クッション材30の溝34に対応する部位に縫合部38を有する。縫合部38は、一対の表皮材32端縁を中表となるように合わせ、係止用テープ40を重ね合わせて縫合したものである。係止用テープ40の、縫合部38と反対側の辺縁には、係止用端部材42が一体に設けられている。係止用端部材42は、合成樹脂により成形され、断面形状が略V字状で係止用テープ40の長手方向に沿って形成されている。係止用端部材42は、係止用テープ40の一方の辺縁をインサート成型することで係止用テープ40に装着される。係止用端部材42は、表皮材止着用クリップ10の一対の係止爪12の内側に嵌合される大きさであり、係止用テープ40の長手方向に沿って等間隔に係止溝44が形成されている。係止溝44は、表皮材止着用クリップ10のストッパ16が差し込まれる幅と深さに設定されている。
【0029】
クッション材30に表皮材32を張る際には、まず、表皮材32に取り付けられた係止用テープ40の係止用端部材42の任意の位置に、表皮材止着用クリップ10を取り付ける。表皮材止着用クリップ10は、係止用端部材42の長手方向に沿って複数個が互いに等間隔に取り付けられ、一対の係止爪12の間に係止用端部材42を押し込むと、一対の係止爪12が弾性変形して広がり、係止用端部材42が通過する。通過すると係止爪12の弾性変形が復元し、一対の係止爪12の先端部12aが係止用端部材42の縫合部38側の端部を覆い、係止用端部材42が一対の係止爪12間に嵌合され、抜けることがない。この時、係止用端部材42の係止溝44には、係止爪12のストッパ16が差し込まれ、表皮材止着用クリップ10は、係止用端部材42の長手方向に移動することがなく、所定の位置で止まる。
【0030】
そして、表皮材止着用クリップ10を取り付けた表皮材32の縫合部38を、目的のクッション材30の溝34に一致させ、表皮材止着用クリップ10のフック18をワイヤ36に当てて指等で押す。この時、ワイヤ36がワイヤ挿通口27に一致するように、表皮材止着用クリップ10を左右に動かすと良い。この状態で、表皮材止着用クリップ10をさらに押し込むと、ワイヤ36は爪状部18cの傾斜面18fに沿ってガイドされ、ワイヤ挿通口27側のガイド面22,23に導かれる。さらに表皮材止着用クリップ10を押してクッション材30の溝34に差し込むと、ワイヤ挿通口27に向かうガイド面22,23の導入通路にワイヤ36が位置し、ワイヤ挿通口27に誘導される。ワイヤ挿通口27はワイヤ36の直径よりも小さく、そのままではワイヤ36が通過できないが、さらにこの状態で表皮材止着用クリップ10を上方から押し付けると、ガイド片26が弾性変形してワイヤ挿通口27がワイヤ36の直径よりも広がり、ワイヤ挿通口27を通過してワイヤ保持空間17に入る。ワイヤ36が通過した後、ガイド片26の弾性変形が復元し、ワイヤ挿通口27が狭い状態に戻り、ワイヤ36が抜けることを防ぐ。これにより、表皮材止着用クリップ10がワイヤ36に係止され、表皮材止着用クリップ10に取り付けられた表皮材32は、端縁部が溝34に潜り込んだ状態で、クッション材30の表面に取り付けられる。
【0031】
また
図5に示すように、表皮材止着用クリップ10を指先に保持して取り付ける際に、ワイヤ36がワイヤ挿通口27よりも図面上の右にあり、表皮材止着用クリップ10が傾いていて、ワイヤ36がフック18のフランジ部18bに当たるときでも、表皮材止着用クリップ10を右方向に移動させることにより、ワイヤ36は、ガイド面22,23にガイドされてワイヤ挿通口27に誘導され、二点鎖線で示すワイヤ36の位置にくる。この状態で表皮材止着用クリップ10を上方から押し付けることにより、
図6に示すようにガイド片26が第2折曲部26bから係止爪基部14に近づくように弾性変形してワイヤ挿通口27が広がり、ワイヤ36がワイヤ保持空間17に入り係止される。
【0032】
また、
図7に示すようにワイヤ36がワイヤ挿通口27よりも図面上の左にある時は、ワイヤ36はガイド片26の第2折曲部26b付近に当たり、表皮材止着用クリップ10を左に移動させることによりワイヤ挿通口27付近に一致させ、上記と同様の動作でワイヤ36をワイヤ保持空間17に入れて係止することができる。
【0033】
表皮材止着用クリップ10をワイヤ36から外すときは、図示しない長い棒状の治具を使用する。治具は、治具受け部20の溝部19より長く形成され、治具の先端には係止部が設けられ、係止部は治具受け部20に設けられた係合突部24の頂部と延出部18aの間隔よりも太く設けられている。治具を、クッション材30の溝34の、表皮材止着用クリップ10の治具受け部20側に差し込み、係止爪12と治具受け部20の間に差し込んで押し付ける。すると、治具の先端の係止部が治具受け部20の係合突部24に当接し、さらに押し付けると治具受け部20が弾性変形して広がり、係止部が通過すると治具受け部20の形状は復元し、係止部は係合突部24の下方の治具保持空間25に入れられて出ることがない。
【0034】
次に、治具を引き上げると、表皮材止着用クリップ10にはワイヤ36を中心に反時計回りに回転するようにモーメントが作用する。ワイヤ36は、フック18の爪状部18c先端部18eと、ガイド片26の先端部26dにガイドされてワイヤ挿通口27に位置する。この状態で、さらに表皮材止着用クリップ10を引き上げると、ワイヤ36がガイド片26の第3折曲部26c付近に当たり、先端部26dがわずかに係止爪基部14から離れる方向へ向かって突出しているため、ガイド片26が開く方向に力が作用する。これによりガイド片26の、第2折曲部26bから先端部26d側の部分が、係止爪基部14に近づくように弾性変形しワイヤ挿通口27が広げられ、やがてワイヤ36が広げられたワイヤ挿通口27を通過する。これにより、表皮材止着用クリップ10はワイヤ36から外れ、表皮材32がクッション材30から外れる。
【0035】
この実施形態の表皮材止着用クリップ10によれば、簡単な操作でクッション材30のワイヤ36に係止することができ、容易で確実に表皮材32をクッション材30に取り付けることができる。特に、表皮材止着用クリップ10を指で保持して、治具受け部20側を押してクッション材30の溝34に差し込むと、表皮材32に引っ張られる力に抗して押し下げるために表皮材止着用クリップ10全体が傾く場合がある。しかし、傾いた状態でもワイヤ挿通口27が下方を向き、ワイヤ挿通口27に向かうガイド面22とガイド面23の三角形の斜辺状の導入通路が下方に向かって広がって形成されているため、表皮材止着用クリップ10を、おおよそワイヤ挿通口27付近でワイヤ36に押し付けるだけで容易にワイヤ36に係止することができる。ワイヤ36がワイヤ挿通口27からずれていても、
図5、
図7に示すような広い範囲に押し付けて、表皮材止着用クリップ10を左右に動かすだけで、ワイヤ36はガイド面22,23に誘導されてワイヤ挿通口27に一致するため、係止作業が簡単である。さらに、正確に位置決めする必要がないため、クッション材30の溝34内で簡単に操作することができ、例えばクッション材30を押して変形させてワイヤ36が見えるようにする必要がなく、弱い力で効率よく作業を行うことができ、熟練が不要で、誰にでも簡単に取り付けることができる。また、簡単な操作で治具により表皮材止着用クリップ10をワイヤ36から外すことができ、取り外しの際の作業効率も良い。
【0036】
係止爪12にはストッパ16が設けられ、ストッパ16が係止用端部材42の係止溝44に差し込まれることにより、表皮材止着用クリップ10は所定の位置に係止され、係止用テープ40の長手方向に移動することがない。このため、表皮材32がクッション材30に対してずれることがなく、表皮材32にしわやたるみが発生せず、きれいに取り付けることができ外観が良好となる。係止用端部材42には係止溝44が等間隔に設けられていることで柔軟性が高くなり、作業が容易となる。
【0037】
また、ガイド片26は途中に第1折曲部26a、第2折曲部26b、第3折曲部26が設けられ、これによりガイド片26の長さを増すことができ、弾性変形による撓みやすさが得られるようになっている。ガイド片26は係止爪12に接続されているため、係止爪基部14に接続される場合よりも長さを増やすことができる。このため、同じ材質と同じ断面形状であってもガイド片26の弾性変形が容易であり、ワイヤ36の通過が容易となる。ガイド片26の先端部26dは、ワイヤ保持空間17の底部に対して、第3折曲部26cで折り曲げられて平行に近い角度で突出しているため、表皮材止着用クリップ10をワイヤ36から外すときは、先端部26dの延出方向に対して交差する方向に当接し、容易にガイド片26を弾性変形させて外すことができる。ワイヤ保持空間17にワイヤ36が挿通されている時は、先端部26dがワイヤ保持空間17の底部に対して平行に近い角度で突出して位置しているため、ワイヤ36が不用意に外れることを防止することができる。
【0038】
なお、この実施形態の表皮材止着用クリップ10は、
図8に示すように、爪状部18cが異なる形状でガイド片26が短いものでもよい。
図8に示す表皮材止着用クリップ46は、上面14aと反対側の下面14b(係止爪基部14の他面とも言う)には、フック48が設けられている。フック48は、下面14bに対してほぼ直角に下方に延出する延出部48aと、延出部48aの先端から左方向に屈曲して、係止爪基部14に向けて上方に向くように傾斜した爪状部48cとを有する。爪状部48cの端部は爪状部48cの下面である傾斜面48fに対してほぼ垂直な垂直面48dで切断したような形状であり、垂直面48dの上端縁部が先端部48eとなる。先端部48eは、爪状部48cから側方に突出せず、爪状部48cの側面上に位置している。
【0039】
係止爪12には、一体にガイド片50が設けられている。ガイド片50は、係止爪12の突出方向の中間付近に設けられ、係止爪12から離れるにつれて下方に向かう傾斜方向に延出し、係止爪基部14の下面14bの側方付近で第1折曲部50aが設けられ、第1折曲部50aで折り曲げられてフック48の延出部48aに対して平行に垂直方向下方に延出している。そしてフック48の爪状部48cの延出方向の延長線上に第2折曲部50bが設けられ、第2折曲部50bで折り曲げられて、延出部48aと下面14bの境界付近に向かって、第1折曲部50aの延長方向に対して90°より僅かに大きい角度に折り曲げられている。そして折り曲げられたガイド片50の先端部50dは爪状部48cの先端部48eの近傍で所定間隔を開けて離間する位置に達している。ガイド片50の第2折曲部50bと先端部50dの間には、第3折曲部50cが設けられ、第3折曲部50cは爪状部48cの先端部48eから離れる方向に凸となるようにわずかに折り曲げられている。ガイド片50の先端部50dと爪状部48cの先端部48eの間の隙間は、ワイヤ36が挿通されるワイヤ挿通口52となる。
【0040】
ワイヤ挿通口52は、ワイヤ36の直径よりも小さく設定されている。ガイド片50の、第3折曲部50cから先端部50dの間の下側面は、挿通口52に向かって傾斜するガイド面22となる。爪状部48cの先端側の垂直面48dも、ワイヤ挿通口52に垂直に向かうガイド面23となる。ワイヤ挿通口52に向かってガイド面22,23の間隔は徐々に狭くなり、三角形の斜辺状の導入路が形成される。フック48の、延出部48aの先端には、爪状部48cの延出方向と反対方向に向けて突出するフランジ部48bを有し、フランジ部48bの先端部には、治具受け部54が設けられている。
【0041】
クッション材30に表皮材32を張る時、表皮材32に取り付けられた係止用テープ40の係止用端部材42の任意の位置に、表皮材止着用クリップ46を取り付ける。そして、表皮材止着用クリップ46のフック48をワイヤ36に当てて指等で押し、ワイヤ36がワイヤ挿通口52に一致するように表皮材止着用クリップ46を左右に動かす。
図9に示すようにワイヤ36がワイヤ挿通口52よりも図面上の右にある時は、ワイヤ36はフック48のフランジ部48bの傾斜面48fに当たり、表皮材止着用クリップ46を右に移動させることによりワイヤ挿通口52付近に一致させ、ガイドされてワイヤ挿通口52に誘導され、二点鎖線で示すワイヤ36の位置にくる。この状態で表皮材止着用クリップ46を上方から押し付けると、ガイド片50が第2折曲部50bから係止爪基部14に近づくように弾性変形してワイヤ挿通口52が広がり、ワイヤ36がワイヤ保持空間17に入り、係止される。
【0042】
表皮材止着用クリップ46をワイヤ36から外すとき、表皮材止着用クリップ46の治具受け部54に治具を取り付け、引き上げる。すると、表皮材止着用クリップ46にはワイヤ36を中心に回転するようにモーメントが作用し、ワイヤ36は、フック48の爪状部48c先端部48eと、ガイド片50の先端部50dにガイドされてワイヤ挿通口52に位置する。さらに表皮材止着用クリップ46を引き上げると、ワイヤ36がガイド片50とフック48を外側に弾性変形させてワイヤ挿通口52が広げられ、ワイヤ36がワイヤ挿通口52を通過し、表皮材止着用クリップ46はワイヤ36から外れる。
【0043】
この実施形態の表皮材止着用クリップ46によれば、表皮材止着用クリップ10と同様の効果を有するものである。ガイド片50の第2折曲部50bから先端部50dまでのガイド面22が短いので、表皮材止着用クリップ46をワイヤ36から外す作業がしやすいものである。
【0044】
なお、この発明の表皮材止着用クリップは、上記実施の形態に限定されるものではなく、細部形状や寸法等、適宜変更することができる。表皮材止着用クリップの材質や表面の仕上げ、色彩等は自由に選択することができる。表皮材止着用クリップは、一対の係止爪の互いに向かい合う方向に交差する厚み方向の幅は、係止爪と係止爪基部を比較的広くし、フックと治具受け部、ガイド片は比較的狭くしたが、これらは同じ幅であってもよく、或いは逆でもよい。ただし、ガイド片や治具受け部は、変形性能を確保するために幅を狭くする方が好適である。係止爪の先端部を面取りした形状に形成したが、矩形状でもよい。ただし、面取りした形状により係止用端部材との引っ掛かりを軽減することができる。