【文献】
潤滑油添加剤IV 油性剤と極圧剤,JOURNAL OF JAPAN SOCIETY OF LUBRICATION ENGINEERS,1958年,VOL.3,NO.5,p267-270
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1から6のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物において、ポリグリセロールエーテルの含有量が、当該潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜3重量%である、潤滑剤組成物。
【背景技術】
【0005】
前世紀末以降の自動車の世界的普及は、地球温暖化、汚染、安全保障および天然資源の利用に関する問題、特に、埋蔵石油の枯渇に関する問題を提起している。
【0006】
京都議定書制定後の新たな環境保護基準により、自動車産業は、汚染物質放出量が少なく且つ低燃費の
乗り物を製造することが要求されている。結果として、これらの
乗り物のエンジンには、ますます厳格な技術的制約が課されている。具体的に述べると、それらのエンジンは、より高い温度域でより高速に稼働する一方、燃料の消費量をより少なく抑えることが所望されている。
【0007】
自動車エンジン用の潤滑剤の性質は、汚染物質放出量と燃費との両方に影響を及ぼす。自動車エンジン用の潤滑剤の中でも、省エネルギー潤滑剤または「燃料エコ」潤滑剤と称されるものが、上記の新たな基準を満足するために開発された。
【0008】
具体的に述べると、潤滑剤組成物のエネルギー性能の向上は、その基油に摩擦調整剤、粘度指数向上ポリマー等の特定の添加剤を混合させることによって得られる。
【0009】
摩擦調整剤の中でも、モリブデンを含有する有機金属化合物がよく使用される。良好な耐摩擦性を得るには、潤滑剤組成物中に、十分な量のモリブデンを含ませる必要がある。これら有機金属化合物の中でも、モリブデンジチオカルバメート類が、モリブデン源として最もよく使用される。
【0010】
しかし、これらの化合物には、潤滑剤組成物中に含まれるモリブデン元素の量が過剰になると、沈殿物の形成を引き起こすという短所がある。また、これらの化合物は可溶性に乏しいことから、潤滑剤組成物の性質(特に、その粘度)を変える可能性、さらには、その性質を劣化させる可能性さえある。組成物の粘度が高すぎる場合も、逆に組成物の粘度が十分でない場合も、可動部品の運動、エンジンの易始動性、さらには、エンジンが動作温度に到達した後の当該エンジンの保護に不利な影響を及ぼし、特に、最終的な燃費の増加につながる。
【0011】
また、前述したモリブデンジチオカルバメート類は、灰分の増加をもたらすことから、潤滑剤組成物中に配合される機会が(特に、欧州において)減る可能性がある。
【0012】
さらに、潤滑剤組成物中に摩擦調整剤が含まれていると、当該組成物の耐熱性が低下する場合があり、これによってエンジンの清浄性が低下する可能性がある。
【0013】
モリブデン系化合物の代替品を提供するために、これまでに様々な技術解決策が提案されてきた。
【0014】
特許文献1には、ポリグリセロールエーテルを含有する、燃料経済性が向上した潤滑剤組成物が記載されている。同文献には、さらに、このエーテルに、ポリイソブチレン−コハク酸イミド系のポリマーを組み合わせる構成が記載されている。
【0015】
しかし、特許文献1に記載されたポリグリセロールエーテルは直鎖構造を有している。また、同文献に記載された潤滑剤組成物は、DLC(ダイヤモンドカーボン)タイプの表面等といった、低摩擦係数を特徴とする特定の表面に対して適用されるものである。
【0016】
さらに、特許文献1には、燃料経済性の定量化や、その潤滑剤組成物の耐熱性についての記載が見られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
燃焼経済性基準がますます上げられていることから、潤滑剤組成物中に配合されても当該潤滑組成物を不安定にすることなく燃料経済性を向上させることのできる新規の摩擦調整剤が所望される。
【0019】
また、潤滑剤組成物中に配合されても当該潤滑剤組成物を不安定にすることなく耐熱性を向上させることのできる新規の摩擦調整剤が所望される。
【0020】
本発明の目的の一つは、前述した短所の全て又は一部を解消可能な、摩擦調整剤および当該摩擦調整剤を含む潤滑剤組成物を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、熱に安定であり、かつモリブデン系化合物を実質的に含まない(very little)又は全く含まない潤滑剤組成物を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる他の目的は、モリブデン系化合物を実質的に又は全く含まないにもかかわらず、モリブデン系化合物と同等又はそれを超える摩擦軽減特性を示し、かつ様々な表面(具体的に述べると、異なる化学的性質を有する表面)に対して適用することのできる潤滑剤組成物を提供することである。
【0023】
本発明のさらなる他の目的は、簡単に配合可能な潤滑剤組成物を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる他の目的は、省エネルギーを可能にする潤滑方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以上に鑑みて、本発明は、
−少なくとも1種の基油と、
−下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、
を含む、潤滑剤組成物に関する。
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0028】
本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物は、
−少なくとも1種の基油と、
−下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、
−少なくとも1種の分散剤と、
を含んでいてもよい。
【0029】
【化2】
【0030】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0031】
本発明の他の実施形態において、潤滑剤組成物は、
−少なくとも1種の基油と、
−下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、
−少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する化合物、コハク酸エステル類、およびコハク酸アミドエステル類から選択される、少なくとも1種の分散剤と、
を含んでいてもよい。
【0032】
【化3】
【0033】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0034】
本発明の他の実施形態において、潤滑剤組成物は、
−少なくとも1種の基油と、
−下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、
−少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する化合物、および少なくとも2つの置換コハク酸イミド基を有して且つこれら置換コハク酸イミド基同士が当該置換コハク酸イミド基のうちの窒素原子を有する環の頂点(sommet)でポリアミン基により互いに連結されている化合物から選択される、少なくとも1種の分散剤と、
を含んでいてもよい。
【0035】
【化4】
【0036】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0037】
出願人は、驚くべきことに、潤滑剤組成物中に式(I)で表されるポリグリセロールエーテルを配合することにより、当該組成物の耐摩擦性を向上させることができ、これによって燃料経済性を向上できることを見出した。
【0038】
したがって、本発明は、モリブデン系化合物を全く又は微量しか含まない(全く又は実質的に含まない)にもかかわらず、同等又はそれを超える耐摩擦性および燃料経済性を示す潤滑剤組成物の処方を可能にする。
【0039】
有利なことに、本発明にかかる潤滑剤組成物は、向上した熱安定性を示す。
【0040】
有利なことに、本発明にかかる潤滑剤組成物は、向上した貯蔵安定性を示し、かつ全く又は僅かしか変化しない(全く又は実質的に変化しない)粘度を有する。
【0041】
有利なことに、潤滑剤組成物中に式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルを配合することにより、エンジン(moteur)がアイドリング状態にあるか又は高速稼働しているときに低燃費を実現することができる。
【0042】
一実施形態において、R
1は、炭素数8〜25(好ましくは、炭素数10〜20)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0043】
一実施形態において、nは、2、3、4または5(好ましくは、2、3または4)である。
【0044】
一実施形態において、ポリグリセロールエーテルは、式(I)で表される化合物のうち、
● R
1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物、
● R
1が炭素数18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物、
● R
1が炭素数16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが3である化合物、
● R
1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが4である化合物、および
● R
1が炭素数18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが4である化合物、
から選択される。
【0045】
一実施形態において、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の基油と、下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、から本質的に構成される。
【0046】
【化5】
【0047】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0048】
一実施形態において、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の基油と、少なくとも1種の分散剤と、下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、から本質的に構成される。
【0049】
【化6】
【0050】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0051】
一実施形態において、分散剤は、少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する化合物、コハク酸エステル類、およびコハク酸アミドエステル類から選択される。
【0052】
一実施形態において、分散剤は、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する化合物、および少なくとも2つの置換コハク酸イミド基を有して且つこれら置換コハク酸イミド基同士が当該置換コハク酸イミド基のうちの窒素原子を有する環の頂点でポリアミン基により互いに連結されている化合物から選択される。
【0053】
一実施形態において、分散剤は、下記の式(II)又は下記の式(III)で表される置換コハク酸イミドである。
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
[式中、
● xは、0〜10の整数(好ましくは、2、3、4、5または6)であり、
● yは、2〜6の整数(好ましくは、2、3または4)であり、
● R
2は、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアルキル基、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアリール基、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアリールアルキル基、または炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアルキルアリール基であり、
● R
3およびR
4は、同一又は異なり、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜25の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜12のヒドロキシ化アルケニル基、または炭素数2〜12のアルケニルアミン基である。]
【0057】
一実施形態において、分散剤は、式(II)で表される置換コハク酸イミドのうち、
● R
2がポリイソブチレン基であり、
● R
3およびR
4が水素原子であり、
● xが2であり、
● yが2または3である、
置換コハク酸イミドである。
【0058】
一実施形態において、ポリグリセロールエーテルの含有量は、潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜3重量%(好ましくは、0.5〜2重量%)である。
【0059】
一実施形態において、分散剤の含有量は、潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜10重量%(好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%)である。
【0060】
一実施形態において、質量比(ポリグリセロールエーテルの質量/分散剤の質量)は、5/1〜1/5(好ましくは、2/1〜1/2)である。
【0061】
一実施形態において、潤滑剤組成物は、さらに、清浄剤、耐摩耗剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上ポリマー、流動点改善(降下)剤、消泡剤、増ちょう剤、およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1種の添加剤、を含む。
【0062】
本発明は、さらに、前述した潤滑剤組成物を含むエンジンオイルに関する。
【0063】
本発明は、さらに、前述した潤滑剤組成物の、
乗り物の燃費を減少させるための使用に関する。
【0064】
本発明は、さらに、機械部品の摩擦によるエネルギー損失を減少させる方法であって、機械部品を、前述した潤滑剤組成物に接触させる工程、を少なくとも含む、方法に関する。
【0065】
本発明は、さらに、
乗り物の燃費を減少させる方法であって、前記
乗り物のエンジンの機械部品を、前述した潤滑剤組成物に接触させる工程、を少なくとも含む、方法に関する。
【0066】
本発明は、さらに、下記の式(I)で表されるポリグリセロールエーテルの、潤滑剤組成物中での摩擦調整剤としての使用に関する。
【0067】
【化9】
【0068】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【発明を実施するための形態】
【0069】
(ポリグリセロールエーテル)
本発明にかかる潤滑剤組成物中に含まれるポリグリセロールエーテルは、下記の式(I)で表される化合物である。
【0071】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0072】
一実施形態において、R
1は、炭素数8〜25(好ましくは、炭素数10〜20)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0073】
本発明の一実施形態において、nは、2、3、4または5(好ましくは、2、3または4)である。
【0074】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリグリセロールエーテルは、式(I)で表される化合物のうち、
● R
1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物、
● R
1が炭素数18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物、
● R
1が炭素数16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが3である化合物、
● R
1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが4である化合物、および
● R
1が炭素数18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが4である化合物、
から選択される。
【0075】
好ましくは、ポリグリセロールエーテルは、式(I)で表される化合物のうち、R
1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物から選択される。
【0076】
本発明にかかるポリグリセロールエーテルとして、例えば、Chimex社から販売されているChimexane NV、Chimexane NB、Chimexane NL、Chimexane NA、Chimexane NC等が挙げられる。
【0077】
本発明の一実施形態において、式(I)で表されるポリグリセロールエーテルの含有量は、潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜3重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。
【0078】
本発明の他の主題は、下記の式(I)で表されるポリグリセロールエーテルの、潤滑剤組成物中での摩擦調整剤としての使用に関する。
【0080】
(式中、
● R
1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)
【0081】
潤滑剤組成物中の式(I)で表されるポリグリセロールエーテルについて説明する全ての特性および好適な構成は、式(I)で表されるポリグリセロールエーテルの、潤滑剤組成物中での摩擦調整剤としての使用にも当てはまる。
【0082】
(その他の構成成分)
本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物は、さらに、少なくとも1種の分散剤を含む。
【0083】
具体的に述べると、本発明において「分散剤」とは、潤滑剤組成物の使用時(特に、エンジンオイルの形態での使用時)に発生する酸化副生成物及び未燃焼生成物(すす)で構成される不溶性の固体不純物を、懸濁状態に維持してその除去を確実にする、あらゆる化合物のことを意味する。
【0084】
一実施形態において、分散剤は、少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する化合物、コハク酸エステル類、およびコハク酸アミドエステル類から選択され、好ましくは、少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する化合物から選択される。
【0085】
本発明の好ましい一実施形態において、分散剤は、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する化合物、および少なくとも2つの置換コハク酸イミド基を有して且つこれら置換コハク酸イミド基同士が当該置換コハク酸イミド基のうちの窒素原子を有する環の頂点でポリアミン基により互いに連結されている化合物から選択される。
【0086】
本発明において「置換コハク酸イミド基」とは、少なくとも1つの環の頂点が、炭素数8〜400の炭化水素基によって置換されているコハク酸イミド基のことを意味する。
【0087】
好ましくは、分散剤は、下記の式(II)又は下記の式(III)で表される置換コハク酸イミドである。
【0090】
[式中、
● xは、0〜10の整数(好ましくは、2、3、4、5または6)であり、
● yは、2〜6の整数(好ましくは、2、3または4)であり、
● R
2は、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアルキル基、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアリール基、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアリールアルキル基、または炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアルキルアリール基であり、
● R
3およびR
4は、同一又は異なり、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜25の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜12のヒドロキシ化アルケニル基、または炭素数2〜12のアルケニルアミン基である。]
【0091】
好ましくは、分散剤は、下記の式(II)又は下記の式(III)で表される置換コハク酸イミドのうち、R
2がポリイソブチレン基である置換コハク酸イミドである。
【0092】
好ましくは、R
2は、分子量が800〜2,500g/モルのポリイソブチレン基である。
【0093】
より好ましくは、分散剤は、式(II)で表される置換コハク酸イミドのうち、
● R
2がポリイソブチレン基であり、
● R
3およびR
4が水素原子であり、
● xが2であり、
● yが2または3である、
置換コハク酸イミドである。
【0094】
本発明にかかる分散剤として、例えば、Chevron Oronite社から販売されているOLOA 11000、OLOA 371、Afton社から販売されているHiTEC 644等が挙げられる。
【0095】
本発明の一実施形態において、分散剤[特に、式(II)又は式(III)で表される分散剤]の含有量は、潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。
【0096】
本発明の一実施形態において、質量比(ポリグリセロールエーテルの質量/分散剤の質量)は、5/1〜1/5、好ましくは、2/1〜1/2である。
【0097】
(基油)
本発明にかかる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の基油を含む。基油は、API(米国石油協会)分類のグループ1〜5の基油[あるいは、ATIEL(欧州自動車工業会)分類の等価物)]から選択される一種または混合物(基油混合物)であり得る。
【0098】
基油または基油混合物は、天然由来のものであっても合成由来のものであってもよい。
【0099】
基油または基油混合物の含有量は、潤滑剤組成物の総質量に対し、少なくとも50質量%としてもよく、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも70質量%、さらに好ましくは少なくとも80質量%である。
【0100】
以下の表に、API分類の各グループの基油をまとめた(APIから1996年12月刊行のNo.1509 Engine Oil Licensing and Certification System appendix E, 14th Edition)。
【0102】
グループ1〜5の基油は、植物由来のもの、動物由来のもの、および鉱物由来のもの(鉱物基油)であってもよい。「鉱物基油」と称される基油には、原油を常圧蒸留や減圧蒸留した後、精製工程(溶剤抽出、脱アスファルト、溶剤脱ろう、水添処理、水素化分解・水素化異性化、水素化仕上げ等)を行うことによって得られるあらゆるタイプの基油が含まれる。
【0103】
本発明にかかる組成物中に含まれる基油は、例えば、カルボン酸とアルコールとの所定のエステルや、ポリαオレフィン等の合成由来の基油(合成基油)であってもよい。ポリαオレフィンを基油として使用する場合、そのポリαオレフィンは、本発明にかかる組成物中に含まれ得る重質ポリαオレフィンとは異なり、例えば、炭素数4〜32のモノマー(例えば、オクテン、デセン等)から得られる、100℃における粘度(ASTM D445規格に準拠した測定値)が1.5〜15cStのポリαオレフィンとされる。
【0104】
合成基油と鉱物基油との混合物が使用されてもよい。
【0105】
好ましくは、本発明にかかる組成物は、100℃での動粘度(KV100)が、国際的なASTM D445規格に準拠した測定値で、4〜25cSt、より好ましくは5〜22cSt、さらに好ましくは5〜13cStとなるように処方される。
【0106】
好ましくは、本発明にかかる組成物は、粘度指数が、140以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは160以上となるように処方される。
【0107】
本発明のさらなる他の主題は、本発明にかかる潤滑剤組成物を含むオイル(好ましくは、エンジンオイル)である。
【0108】
潤滑剤組成物について説明する全ての特性および好適な構成は、本発明にかかるオイルにも当てはまる。
【0109】
一実施形態において、本発明にかかるオイルは、SAE J300分類によるグレードが、100℃での動粘度(KV100)が国際的なASTM D445規格に準拠した測定値で5.6〜12.5cStとなる0W−20〜5W−30である。
【0110】
他の実施形態において、本発明にかかるオイルは、粘度指数が、国際的なASTM D2230規格に準拠した測定値で、130以上、好ましくは150以上、より好ましくは160以上である。
【0111】
好ましくは、エンジンのオイルの処方には、硫黄分が0.3%未満の基油(例えば、グループ3の鉱物基油)、硫黄を含まない合成基油(好ましくは、グループ4の基油)、またはこれらの混合物が使用される。
【0112】
(さらなる種類の添加剤)
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、さらなる種類の添加剤として、少なくとも1種の添加剤を含む。このような添加剤は、耐摩耗剤、極圧剤、酸化防止剤、過塩基性の清浄剤、過塩基性でない清浄剤、粘度指数向上ポリマー、流動点改善剤、前述した分散剤とは異なる種類の分散剤(別種の分散剤)、消泡剤、増ちょう剤、およびこれらの混合物から選択される。これら少なくとも1種の添加剤は、単独でおよび/またはパッケージ添加剤として添加され得る。どの添加剤を選択して添加するかは、潤滑剤組成物の用途によって変わる。潤滑剤組成物の目的に応じてどの添加剤を選択しどのように使用するかは、当業者にとって周知である。
【0113】
本発明の一実施形態において、前記少なくとも1種の添加剤は、エンジンオイル用途に適した添加剤とされる。
【0114】
一実施形態において、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の耐摩耗剤、少なくとも1種の極圧剤、またはこれらの混合物を含んでもよい。耐摩耗剤および極圧剤は、保護対象の摩擦面に吸着されることで保護膜を形成しその表面を保護する。幅広い種類の耐摩耗剤があるが、潤滑剤組成物(特に、エンジンオイル)中に最もよく配合される種類の耐摩耗剤は、含リン系の耐摩耗剤、含硫黄系の耐摩耗剤、例えば、金属アルキルチオホスフェート類、具体的には、亜鉛アルキルチオホスフェート類、より具体的には、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZnDTP)類である。その中でも好適な化合物は、
式:Zn((SP(S)(OR
5)(OR
6))
2
[式中、R
5およびR
6は、同一または異なり、互いに独立して、アルキル基、好ましくは炭素数1〜18のアルキル基である。]で表される化合物である。本発明にかかる潤滑剤組成物中に配合可能な耐摩耗剤として、その他にも、アミンホスフェート類が挙げられる。ただし、これらの添加剤が供給するリンは、灰分の生成につながるので、自動車の触媒システムにとって有害な触媒毒を生じ得る。しかしながら、このような副作用は、アミンホスフェート類を、リンを供さない添加物(例えばポリスルフィド類、具体的には含硫黄オレフィン類)で部分的に置き換えることにより抑えることが可能である。
【0115】
一実施形態において、特に、エンジン用途では、オイル中の耐摩耗剤及び極圧剤の含有量は、エンジンオイルの総質量に対し、0.01〜6質量%、好ましくは0.05〜4質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0116】
本発明の一実施形態において、潤滑剤組成物は、前述した摩擦調整剤とは異なる種類の摩擦調整剤(別種の摩擦調整剤)として、少なくとも1種のさらなる摩擦調整剤を含む。さらなる摩擦調整剤は、金属元素を供給する化合物であってもよいし、無灰化合物であってもよい。金属元素を供給する化合物として、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、
Zn等の遷移金属の錯体が挙げられ、このような遷移金属錯体の配位子は、酸素原子含有炭化水素化合物、窒素原子含有炭化水素化合物、硫黄原子含有炭化水素化合物又はリン原子含有炭化水素化合物であってもよい。無灰摩擦調整剤は、有機由来の摩擦調整剤であり、脂肪酸とポリオールとのモノエステル類、アルコキシ化アミン類、アルコキシ化脂肪アミン類(alkoxylated fatty amines)、脂肪エポキシド類(fatty epoxides)、含ホウ素脂肪エポキシド類(borated fatty epoxides)、脂肪アミン類(fatty amines)、および脂肪酸のグリセロールエステル類から選択され得る。本発明において「脂肪(fatty)」とは、炭素数10〜24の炭化水素基のことを意味する。
【0117】
一実施形態において、潤滑剤組成物中の前記さらなる摩擦調整剤の含有量は、当該潤滑剤組成物の総質量に対し、0.01〜2質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%である。
【0118】
エンジン用途の一実施形態では、エンジンオイル中の前記さらなる摩擦調整剤の含有量が、当該エンジンオイルの総質量に対し、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%である。
【0119】
一実施形態において、潤滑剤組成物は、さらに少なくとも1種の酸化防止剤を含む。酸化防止剤は、使用中の潤滑剤組成物(特に、使用中のエンジンオイル)の劣化を遅らせて、具体的には、潤滑剤組成物の劣化に起因するデポジット(堆積物)やスラッジの形成や潤滑剤組成物(特に、エンジンオイル)の粘度増加を抑制する。具体的に述べると、酸化防止剤は、ラジカル抑制剤またはヒドロペルオキシド分解剤として作用する。よく使用される酸化防止剤として、フェノール系の酸化防止剤、アミン系の酸化防止剤、含リン系の酸化防止剤、および含硫黄系の酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤の一部(例えば、含リン系の酸化防止剤や含硫黄系の酸化防止剤)は、灰分の生成につながる場合がある。他方で、フェノール系の酸化防止剤には、無灰のものもあれば、中性金属塩又は塩基性金属塩の形態のものもある。
【0120】
具体例として、酸化防止剤は、ヒンダード(立体障害性)フェノール類、ヒンダードフェノールエステル類、チオエーテル架橋を有するヒンダードフェノール類、ジフェニルアミン類、少なくとも1つのC
1〜C
12アルキル基によって置換されたジフェニルアミン類、N,N’−ジアルキルアリールジアミン類、およびこれらの混合物から選択される。本発明において「ヒンダードフェノール」とは、アルコール官能基が結合した炭素からみて少なくとも1つの隣接炭素が少なくとも1つのC
1〜C
10アルキル基(好ましくはC
1〜C
6アルキル基、より好ましくはC
4アルキル基、さらに好ましくはtert−ブチル基)によって置換されたフェノール基を含む化合物のことを意味する。他の種類の酸化防止剤として、アミン系化合物が挙げられる。任意で、このアミン系化合物は、フェノール系の酸化防止剤と組み合わせて使用されてもよい。
アミン系の酸化防止剤の典型例としては、
式:R
7R
8R
9Nで表される芳香族アミン類が挙げられる。
[式中、R
7は脂肪族基または置換されていてもよい芳香族基であり、R
8は置換されていてもよい芳香族基であり、R
9は水素原子、アルキル基、アリール基または式:R
10S(O)
zR
11で表される基(式中、R
10はアルキレン基またはアルケニレン基であり、R
11はアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、zは0、1または2の整数である)である。]
酸化防止剤として、その他にも、含硫黄アルキルフェノール類、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩などが使用可能である。さらなる他の種類の酸化防止剤として、銅含有化合物が挙げられる。このような銅含有化合物の例として、銅チオホスフェート類、銅ジチオホスフェート類、カルボン酸の銅塩、銅ジチオカルバメート類、銅スルホネート類、銅フェネート類、銅アセチルアセトネート類などが挙げられる。また、コハク酸またはコハク酸無水物の銅(I)塩および銅(II)塩も使用可能である。
【0121】
本発明にかかる潤滑剤組成物は、当業者にとって公知の酸化防止剤であれば、どの種類の酸化防止剤を含んでいてもよい。好ましくは、無灰酸化防止剤が使用される。
【0122】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の酸化防止剤を、当該潤滑剤組成物の総質量に対し、0.5〜2重量%含有する。
【0123】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、清浄剤を含んでもよい。具体的に述べると、清浄剤は、酸化・燃焼の副生成物を溶解させることで金属部品の表面上のデポジット形成を抑える。本発明にかかる潤滑剤組成物中に配合される清浄剤は、当業者にとって周知の清浄剤であればよい。潤滑剤組成物を処方する際によく使用される清浄剤として、親油性長鎖炭化水素と親水性の頭部とを有するアニオン性化合物が挙げられる。これに結合するカチオンは、典型的に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオンである。好ましくは、清浄剤は、カルボン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、スルホン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩(スルホネート類)、サリチル酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩(サリチレート類)、ナフテン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩(ナフテネート類)、ならびに石炭酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩(フェネート類)から選択される。好ましくは、そのアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、またはバリウムである。これらの金属塩は、化学量論量にほぼ等しい量の金属または該化学量論量を超える量の金属を有するものであってもよい。後者の場合の清浄剤は、過塩基性の清浄剤と称される。この過塩基性の清浄剤に過塩基性を付与する余剰の金属は、油に溶解できない金属塩、例えば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩などの形で存在し、好ましくは炭酸塩の形で存在する。
【0124】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、清浄剤を、当該潤滑剤組成物の総質量に対し、2〜4重量%含有する。
【0125】
一実施形態において、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の粘度指数向上ポリマーを含む。具体的に述べると、粘度指数向上ポリマーは、良好な低温度での性能を確保すると同時に高温時の粘度を抑えることを可能にするので、特にマルチグレードのエンジンオイルを処方するのに有用である。このような化合物として、例えば:高分子エステル類;オレフィンコポリマー(OCP);スチレン、ブタジエン又はイソプレンの、水添型又は非水添型の、ホモポリマーまたはコポリマー;ポリメタクリレート(PMA);などが挙げられる。
【0126】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、粘度指数向上ポリマーを、当該潤滑剤組成物の総質量に対し、1〜15質量%含有する。
【0127】
エンジン用途の一実施形態では、本発明にかかるエンジンオイルが、粘度指数向上ポリマーを、当該エンジンオイルの総質量に対し、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは1〜2質量%含有する。
【0128】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の流動点降下剤を含む。具体的に述べると、流動点降下剤は、パラフィン結晶の形成を遅らせることにより、低温時での潤滑剤組成物の挙動を向上させる。流動点降下剤の例として、アルキルポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、アルキル化ポリスチレンなどが挙げられる。
【0129】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物は、式(II)又は式(III)で表される分散剤とは異なる種類の分散剤(別種の分散剤)として、少なくとも1種のさらなる分散剤を含む。さらなる分散剤は、式(II)又は式(III)で表される分散剤とは異なるコハク酸イミド類、およびマンニッヒ塩基からなる群から選択され得る。
【0130】
一実施形態において、本発明にかかる潤滑剤組成物中の分散剤の総質量[式(II)又は式(III)で表される分散剤および少なくとも1種のさらなる分散剤も含めた分散剤の質量]は、当該潤滑剤組成物の総質量に対し、0.2〜10質量%である。
【0131】
本発明のさらなる他の主題は、
−基油を50〜90%と、
−式(I)で表されるポリグリセロールエーテルを0.1〜3%と、
を含む、潤滑剤組成物である。
【0132】
基油について説明する全ての特性および好適な構成、ならびに式(I)で表されるポリグリセロールエーテルについて説明する全ての特性および好適な構成は、この潤滑剤組成物にも当てはまる。
【0133】
本発明のさらなる他の主題は、
−基油を50〜90%と、
−式(I)で表されるポリグリセロールエーテルを0.1〜3%と、
−分散剤を0.1〜10%と、
を含む、潤滑剤組成物である。
【0134】
基油について説明する全ての特性および好適な構成、式(I)で表されるポリグリセロールエーテルについて説明する全ての特性および好適な構成、ならびに分散剤について説明する全ての特性および好適な構成は、この潤滑剤組成物にも当てはまる。
【0135】
本発明のさらなる他の主題は、
−基油を50〜90%と、
−式(I)で表されるポリグリセロールエーテルを0.1〜3%と、
−分散剤を0.1〜10%と、
から本質的に構成される、潤滑剤組成物である。
【0136】
本発明のさらなる他の主題は、
−式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、
−少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する、少なくとも1種の分散剤と、
を含む、組成物である。
【0137】
式(I)で表されるポリグリセロールエーテルについて説明する全ての特性および好適な構成、ならびに少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する分散剤について説明する全ての特性および好適な構成は、この潤滑剤組成物にも当てはまる。
【0138】
本発明のさらなる他の主題は、
−式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテルと、
−少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する、少なくとも1種の分散剤と、
−さらなる種類の添加剤として、少なくとも1種の添加剤と、
を含む、組成物である。
【0139】
式(I)で表されるポリグリセロールエーテルについて説明する全ての特性および好適な構成、少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する分散剤について説明する全ての特性および好適な構成、ならびにさらなる種類の添加剤について説明する全ての特性および好適な構成は、この組成物にも当てはまる。
【0140】
一実施形態において、この組成物は、
−式(I)で表されるポリグリセロールエーテルを10〜40%(好ましくは、20〜40%)と、
−少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する分散剤を10〜40%(好ましくは、20〜40%)と、
−さらなる種類の添加剤として、少なくとも1種の添加剤を20〜50%(好ましくは、30〜50%)と、
を含む。
【0141】
一実施形態において、質量比[式(I)で表されるポリグリセロールエーテルの質量:少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する分散剤の質量]は、1:1〜1:65である。
【0142】
本発明の一実施形態では、本発明にかかる潤滑剤組成物を得るために、本発明にかかる前記組成物に、少なくとも1種の基油が添加される。
【0143】
(部品)
本発明にかかる潤滑剤組成物は、少なくとも1つの機械部品または少なくとも1つの機械装置を潤滑することができる。そのような機械部品または機械装置の具体例として、軸受、ギヤ、自在継手、トランスミッション、ピストン/リング/ライナーのシステム、カムシャフト、クラッチ、マニュアルギヤボックス、オートマチックギヤボックス、ロッカーアーム、クランクケース等が挙げられる。
【0144】
本発明のさらなる他の主題は、機械部品の摩擦によるエネルギー損失を減少させる方法であって、機械部品を、本発明にかかる潤滑剤組成物に接触させる工程、を少なくとも含む、方法である。
【0145】
潤滑剤組成物について説明する全ての特性および好適な構成は、機械部品の摩擦によるエネルギー損失を減少させる本発明にかかる方法にも当てはまる。
【0146】
本発明のさらなる他の主題は、
乗り物の燃費を減少させる方法であって、前記
乗り物のエンジンの少なくとも1つの機械部品を、本発明にかかる潤滑剤組成物に接触させる工程、を少なくとも含む、方法である。
【0147】
潤滑剤組成物について説明する全ての特性および好適な構成は、
乗り物の燃費を減少させる本発明にかかる方法にも当てはまる。
【0148】
本発明のさらなる他の主題は、本発明にかかる潤滑剤組成物の、
乗り物の燃費を減少させるための使用である。
【0149】
潤滑剤組成物について説明する全ての特性および好適な構成は、
乗り物の燃費を減少させるための本発明にかかる使用にも当てはまる。
【0150】
前記
乗り物は、2ストローク内燃エンジンまたは4ストローク内燃エンジンを備え得る。
【0151】
前記エンジンは、標準ガソリンが供給されるガソリンエンジンまたは標準ディーゼルが供給されるディーゼルエンジンであり得る。本発明において「標準ガソリン」または「標準ディーゼル」が供給されるエンジンとは、鉱物由来の油(鉱油)(例えば、石油など)を精製することで得られた燃料が供給されるエンジンのことを意味する。また、前記エンジンは、再生可能材料に由来する油に基づく燃料(例えば、アルコール系の燃料、バイオディーゼル燃料など)が供給される(で駆動する)ように改造されたガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンであり得る。
【0152】
前記
乗り物は、軽量車両(light vehicle)(例えば、自動車、自動二輪車など)であり得る。また、前記
乗り物は、重量車両(lorry又はpoids lourd)、建築機械、または船舶であり得る。
【0153】
本発明のさらなる他の主題は、本発明にかかる潤滑剤組成物の、金属部品(好ましくは、軸受における金属部品、ギヤにおける金属部品、または自在継手における金属部品)の摩擦によるエネルギー損失を減少させるための使用である。
【0154】
潤滑剤組成物について説明する全ての特性および好適な構成は、金属部品の摩擦によるエネルギー損失を減少させるための本発明にかかる使用にも当てはまる。
【実施例】
【0155】
以下の実施例を参照することにより、本発明の様々な主題およびそれらの実施態様を、より良く理解することができる。なお、これらの実施例はあくまでも例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0156】
(実施例1:本発明にかかる潤滑剤組成物の摩擦係数の評価)
以下の表1に従って、対照の潤滑剤組成物を調製した。
【0157】
【表2】
【0158】
以下の表2に従って、組成物B(比較例)および組成物C〜E(本発明)を調製した。なお、表中の百分率は「質量%」を意味する。
【0159】
【表3】
【0160】
各組成物の摩擦係数を、キャメロンプリント往復動摩擦試験機TE−77を用いて、キャメロンプリントラボ摩擦試験法により評価した。この試験ベンチは、試験対象の潤滑剤組成物中に浸漬された円筒−平面摩擦計により構成される。試験中は、法線方向の力に対する接線方向の力を計測することにより摩擦係数を監視する。具体的には、円筒(SKF 100C6)(長さ=10mm;および直径=7mm)を、試験対象の潤滑剤組成物中に浸漬された鋼製の平板に押し当てる。各試験ごとに、潤滑組成物の温度を設定する。また、正弦波的な往復運動を、定められた周波数で加える。各試験の試験時間は、100秒間である。
【0161】
3種類の荷重レベル(52N、115Nおよび255N)を用いて調べた。
【0162】
以下の表3に、各組成物A、B、C、DおよびEを用いて得られる、様々な温度、荷重および周波数での摩擦係数値を示す。
【0163】
【表4】
【0164】
上記の結果から、潤滑剤組成物中に、式(I)で表される本発明にかかるポリグリセロールエーテルと、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する分散剤とを組合せて配合することにより、その潤滑剤組成物の摩擦係数を、対照の組成物に比べて顕著に減少できることが分かる。
【0165】
同じく注目すべきは、式(I)で表される本発明にかかるポリグリセロールエーテルを用いて得られる摩擦係数が、モリブデン系の摩擦調整剤を用いて得られる摩擦係数に極めて近い数値、あるいは、それを下回る数値を示す点である。
【0166】
(実施例2:本発明にかかる潤滑剤組成物の燃料経済性の評価)
−対照の組成物Aを99.7重量%と、
−モリブデン系の摩擦調整剤(Adeka社製のSakura−lube 525)を0.3重量%と、
を含む、組成物F(比較例)を調製した。
【0167】
以下の方法に従って、燃料経済性(燃料エコ特性)を、対照の組成物Aと実施例1の組成物Dと組成物Fとの間で評価する:これらの試験は、K9K724エンジンで実施する。このエンジンの各種特性は、下記のとおりである:
4気筒4ストロークターボ過給エンジン;
シリンダ容積:1,461cm
3;
出力:3,750rpmで63kW;および
最大トルク:1,900rpmで200Nm。
【0168】
本試験は、10個の動作ポイントにわたって一連の測定を実行することで構成される(以下の表4を参照)。これら10個のポイントは、NEDC(新欧州ドライビングサイクル)の75%に相当する。
【0169】
【表5】
【0170】
測定は、3つの熱フェーズにかけて行う:
−フェーズ1冷間は、クーラントの温度=40℃(試験対象の潤滑剤組成物の温度=45℃)に相当;および
−フェーズ2熱間は、クーラントの温度=90℃(試験対象の潤滑剤組成物の温度=100℃)に相当。
【0171】
各種流体の管理は、以下のようにして行う:
−燃料の温度を、燃料管理システム(AVL社製のFuel Exact)によって管理し、瞬間的な測定値が得られるようにする;および
−試験対象の組成物の温度を、クーラントを介して車載の熱交換器によって管理する。
【0172】
また、各種流体の温度は、精密に制御する:
−水の温度変化および試験対象の潤滑剤組成物の温度変動は、0.1℃未満とする;および
−燃料の温度変動は、0.1℃未満とする。
【0173】
燃費指数を、総消費(kg/時)および累積時間重み付けから算出し、各フェーズでの向上を百分率(%)で表す。
【0174】
以下の表5に、結果をまとめる。減少率が大きいほど、燃料経済性が高いことを意味する。
【0175】
【表6】
【0176】
上記の結果から、潤滑剤組成物中に、式(I)で表されるポリグリセロールエーテルと、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する分散剤とを組合せて配合することにより、モリブデン系の摩擦調整剤と、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する分散剤との組合せで得られる燃料経済性に匹敵する顕著な燃料経済性が得られることが分かる。
【0177】
(実施例3:本発明にかかる潤滑剤組成物の熱安定性の評価)
以下の表6に従って、組成物G、HおよびI(比較例)、組成物K(比較例)および組成物J(本発明)を調製した。なお、表中の百分率は「質量%」を意味する。
【0178】
なお、表中の記載において、
基油は、ポリαオレフィン;
化合物1は、亜鉛ジチオホスフェート(Lubrizol社製のLZ 1371);
摩擦調整剤2は、モリブデン系の摩擦調整剤(Adeka社製のSakura−Lube 525);
摩擦調整剤3は、モリブデン系の摩擦調整剤(Vanderbilt社製のMolyvan 855);
化合物4は、式(I)で表されるポリグリセロールエーテル(式中、RはC
12アルキル基であり、nは2である)(Chimex社製のChimexane NV);
分散剤5は、置換コハク酸イミド基を有する分散剤(Chevron Oronite社製のOLOA 11000);および
ポリマー6は、水添型のポリジエン(Shell社製のShellvis 261);
である。
【0179】
【表7】
【0180】
組成物G、H、I、JおよびKを、等粘度で互いに比較する。ASTM D445規格に準拠した測定値で、これら各組成物の100℃での動粘度=約8cStとするには、各種構成成分の有無に応じて、基油の含有質量およびポリマー6の含有質量を調節する必要がある。
【0181】
つまり、組成物Gについては、動粘度=約8cStとするのにポリマー6を5重量%に設定する必要があるのに対し、組成物H、I、JおよびKについては、同じ動粘度(約8cSt)とするのにポリマー6を6重量%に設定する必要がある。
【0182】
GFC Lu−27−T−07規格に基づく下記のマイクロコーキング法により、各組成物の熱安定性を測定した(MCTまたはマイクロコーキング試験)。
【0183】
マイクロコーキング法の目的は:
● 潤滑剤組成物の、高温に曝された際にデポジットを形成する傾向(熱安定性)を評価すること;および
● エンジン試験下の潤滑剤組成物の挙動を予測すること。
【0184】
試験対象の潤滑剤組成物を、0.6cm
3の量で、アルミニウム系合金プレート上の溝に配置した後、一端は加熱して(高温ポイント)、他端は所定の温度に設定する(低温ポイント)。
【0185】
これら2つのポイント間の温度を測定することにより、上記溝の2つの端部(両端)間の直線的な熱勾配を推定することができる。
【0186】
試験期間は、標準で90分間である。
【0187】
試験終了後、デポジットの形成温度を決定し、CEC M−02−A−78法に準拠して評価する。
【0188】
以下の表7に、結果をまとめる。MCT値が高いほど、潤滑剤組成物の熱安定性が良好であることを意味する。
【0189】
【表8】
【0190】
上記の結果から、潤滑剤組成物中に、式(I)で表されるポリグリセロールエーテルと、少なくとも1つのコハク酸イミド基を有する分散剤(特に、置換コハク酸イミド基を有する分散剤)とを組合せて配合することにより、その潤滑剤組成物の熱安定性が向上するという利点が得られることが分かる。
【0191】
特に、上記の結果から、式(I)で表されるポリグリセロールエーテルと、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する分散剤との組合せ(組成物J)は、相乗作用によって得られる熱安定性を呈することがわかり、少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する分散剤単独[式(I)で表されるポリグリセロールエーテルを含まない場合](組成物H)によって得られる熱安定性、および式(I)で表されるポリグリセロールエーテル単独[少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する分散剤を含まない場合](組成物K)によって得られる熱安定性よりも、組成物Jの熱安定性は、顕著に高いことが分かる。
【0192】
注目すべきは、モリブデン系の摩擦調整剤を含む組成物Iが、置換コハク酸イミド基を有する分散剤を含んでいるにもかかわらず、熱安定性が低いことである。
【0193】
同じく注目すべきは、本発明にかかる潤滑剤組成物が、少なくとも1種のモリブデン系の摩擦調整剤を含む組成物に比べて灰分を微量しか又は全く形成しないという利点を有することである。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
−少なくとも1種の基油と、
−下記の式(I)で表される少なくとも1種のポリグリセロールエーテル:
【化14】
(式中、
● R1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)と、
−少なくとも1つの置換コハク酸イミド基を有する化合物、および少なくとも2つの置換コハク酸イミド基を有して且つこれら置換コハク酸イミド基同士が当該置換コハク酸イミド基のうちの窒素原子を有する環の頂点でポリアミン基により互いに連結されている化合物から選択される、少なくとも1種の分散剤と、
を含む、潤滑剤組成物。
〔態様2〕
態様1に記載の潤滑剤組成物において、R1が、炭素数8〜25(好ましくは、炭素数10〜20)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である、潤滑剤組成物。
〔態様3〕
態様1または2に記載の潤滑剤組成物において、nが、2、3、4または5(好ましくは、2、3または4)である、潤滑剤組成物。
〔態様4〕
態様1から3のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物において、ポリグリセロールエーテルが、式(I)で表される化合物のうち、
● R1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物、
● R1が炭素数18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが2である化合物、
● R1が炭素数16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが3である化合物、
● R1が炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが4である化合物、および
● R1が炭素数18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、かつ、nが4である化合物、
から選択される、潤滑剤組成物。
〔態様5〕
態様1から4のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物において、分散剤が、下記の式(II)又は下記の式(III)で表される置換コハク酸イミドである、潤滑剤組成物。
【化15】
(式中、
● xは、0〜10の整数(好ましくは、2、3、4、5または6)であり、
● yは、2〜6の整数(好ましくは、2、3または4)であり、
● R2は、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアルキル基、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアリール基、炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアリールアルキル基、または炭素数8〜400(好ましくは、炭素数50〜200)のアルキルアリール基であり、
● R3およびR4は、同一又は異なり、互いに独立して、水素原子、炭素数1〜25の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜12のヒドロキシ化アルケニル基、または炭素数2〜12のアルケニルアミン基である。)
〔態様6〕
態様5に記載の潤滑剤組成物において、分散剤が、式(II)で表される置換コハク酸イミドのうち、
● R2がポリイソブチレン基であり、
● R3およびR4が水素原子であり、
● xが2であり、
● yが2または3である、
置換コハク酸イミドである、潤滑剤組成物。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物において、ポリグリセロールエーテルの含有量が、当該潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜3重量%(好ましくは、0.5〜2重量%)である、潤滑剤組成物。
〔態様8〕
態様1から17のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物において、分散剤の含有量が、当該潤滑剤組成物の総重量に対し、0.1〜10重量%(好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%)である、潤滑剤組成物。
〔態様9〕
態様1から8のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物において、質量比(ポリグリセロールエーテルの質量/分散剤の質量)が、5/1〜1/5(好ましくは、2/1〜1/2)である、潤滑剤組成物。
〔態様10〕
態様1から9のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物において、さらに、
清浄剤、耐摩耗剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上ポリマー、流動点改善剤、消泡剤、増ちょう剤、およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1種の添加剤、
を含む、潤滑剤組成物。
〔態様11〕
態様1から10のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物を含むエンジンオイル。
〔態様12〕
態様1から10のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物の、乗り物の燃費を減少させるための使用。
〔態様13〕
機械部品の摩擦によるエネルギー損失を減少させる方法であって、
機械部品を、態様1から10のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物に接触させる工程、
を少なくとも含む、方法。
〔態様14〕
乗り物の燃費を減少させる方法であって、
前記乗り物のエンジンの機械部品を、態様1から10のいずれか一態様に記載の潤滑剤組成物に接触させる工程、
を少なくとも含む、方法。
〔態様15〕
下記の式(I)で表されるポリグリセロールエーテルの、潤滑剤組成物中での摩擦調整剤としての使用。
【化16】
(式中、
● R1は、炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
● nは、2〜10の整数である。)