(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362624
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】移相器
(51)【国際特許分類】
H01P 1/18 20060101AFI20180712BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
H01P1/18
H01Q13/08
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-557448(P2015-557448)
(86)(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公表番号】特表2016-508697(P2016-508697A)
(43)【公表日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】EP2014052964
(87)【国際公開番号】WO2014125095
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】13155432.1
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517258752
【氏名又は名称】アルカン・システムズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ヤコビ・ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】カラバイ・オーヌル・ハムツァ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンユーアン・フー
【審査官】
岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/043590(WO,A1)
【文献】
特開2007−300432(JP,A)
【文献】
特開2003−008310(JP,A)
【文献】
A.Penirschke et al.,"Moisture insensitive microwave mass flow detector for particulate solids",Instrumentation and Measurement Technology Conference (I2MTC),2010 IEEE,2010年,(ページ番号なし)
【文献】
C.A.Chang et al.,"Analysis and modeling of liquid-crystal tunable capacitors",IEEE Transactions on Electron Devices,2006年 7月,Vol.53,No.7,pp.1675-1682
【文献】
電子情報通信学会 編,「アンテナ工学ハンドブック(第2版)」,オーム社,2008年 7月25日,pp.246-247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
H01Q 1/00−25/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体によって分離されている1つの信号電極(2)と1つの接地電極(1)とによって形成されている平面伝送線路を有し、且つ同調可能な誘電体材料(7)をさらに有する移相器において、
前記平面伝送線路の前記信号電極(2)が、幾つかの要素(4,5)に分割されていて、隣接した複数の要素(4,5)の複数の重畳領域(6)を有し、これらの重畳領域(6)が、同調可能な誘電体材料(7)で充填されている結果、金属・絶縁体・金属型コンデンサを有する同調可能な誘電体部品(バラクタ)が形成されていることを特徴とする移相器。
【請求項2】
前記同調可能な誘電体材料(7)は、液晶材料であることを特徴とする請求項1に記載の移相器。
【請求項3】
前記信号電極(2)の前記幾つかの要素(4,5)は、前記接地電極(1)に対する異なる2つ又はそれより多い離間レベルに配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の移相器。
【請求項4】
前記同調可能な誘電体材料(7)は、異なる2つの離間レベルに配置されている前記信号電極(2)の幾つかの要素(4,5)間の単一で且つ連続する層として配置されていることを特徴とする請求項3に記載の移相器。
【請求項5】
前記同調可能な誘電体材料(7)は、異なる2つの離間レベルにある前記信号電極(2)の隣接した複数の要素(4,5)の複数の重畳領域(6)間の閉じ込められた少なくとも幾つかの層領域として配置されていることを特徴とする請求項3に記載の移相器。
【請求項6】
前記信号電極(2)の前記複数の要素(4,5)は、高周波信号の伝播方向に沿って直線状に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項7】
前記信号電極(2)の前記複数の要素(4,5)は、直線方向に配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項8】
前記信号電極(2)は、前記伝送線路の長さに沿って幾つかの要素(4,5)に分割されていて、
前記幾つかの要素(4,5)は、非同調可能な誘電体基板の、上側上の複数の上側要素(5)として、且つ底側上の複数の底側要素(4)として互い違いに実装されていて、
複数の重畳領域(6)は、前記信号電極(2)の幾つかの区間で1つの上側要素(5)とこれに隣接した底側要素(4)との間に存在し、
これらの重畳領域(6)は、同調可能な液晶材料(7)で充填されていて、これらの重畳領域(6)は、金属・絶縁体・金属型コンデンサを有する同調可能な誘電体部品(バラクタ)を形成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項9】
前記平面伝送線路が、前記信号電極(2)の非重畳区間によって接続されている、直列接続された同調可能な少なくとも2つの誘電体部品を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項10】
前記移相器は、最大誘電率に対する誘電率の同調範囲の比として5%〜30%で定義される比誘電率の同調性を呈する液晶材料(7)を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項11】
前記移相器は、少なくとも1つの制御素子(8)を有し、当該制御素子(8)は、前記信号電極(2)の前記複数の要素(4,5)のうちの幾つかの要素(4,5)に接続されていて、当該制御素子(8)は、前記複数の重畳領域(6)内の前記液晶材料(7)を同調するためにバイアス電圧を伝送することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項12】
前記少なくとも1つの制御素子(8)は、ITO(インジウムスズ酸化物)から成ることを特徴とする請求項11に記載の移相器。
【請求項13】
前記平面伝送線路は、放射素子に結合されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の移相器。
【請求項14】
前記放射素子は、任意に形成されたマイクロストリップパッチアンテナ(9)又はマイクロストリップスロットアンテナであることを特徴とする請求項13に記載の移相器。
【請求項15】
前記平面伝送線路と前記放射素子とが、アパーチャカップリング法を使用することによって結合されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の移相器。
【請求項16】
前記平面伝送線路と前記放射素子とが、近接カップリング法を使用することによって結合されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の移相器。
【請求項17】
前記平面伝送線路と前記放射素子とが、例えば、挿入供給技術を使用して又は垂直方向の相互接続を通じて直接に接続され得ることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項に記載の移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同調可能な少なくとも1つの部品を有する移相器に関する。この移相器は、周波数に依存しない(移相器である)又は周波数に依存する(可変遅延線である)。
【背景技術】
【0002】
無線通信用に確保可能な周波数スペクトルの不足及びより小さい容量におけるより高い機能性に対する要求が、再構成可能な部品に対する需要を増大させる。以下では、高周波(無線周波数)(RF)は、無線信号を搬送し且つ伝送する電波及び交流電流の周波数に相当する約3kHz〜300GHzの範囲内の振動数を意味する。高速高周波(RF)部品を設計するための、例えば、半導体、MEMS又は同調可能な誘電体のような移相器に対して可能な様々な解決策が、装置の要求に応じて存在する。
【0003】
移相器は、再構成可能な電子ビームステアリングアンテナのための重要な構成要素のうちの1つである。
【0004】
以下の文献が、上記の移相器の例として従来の技術から引用されている:
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8,305,259号明細書
【特許文献2】米国特許第8,022,861号明細書
【特許文献3】米国特許第8,013,688号明細書
【特許文献4】国際公開第2012/123072号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0302976号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第5,936,484号明細書
【特許文献7】特開2003−008310号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/073332号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.Goelden, A. Gaebler, M. Goebel, A. Manabe, S. Mueller, and R. Jakoby, “Tunable liquid crystal phase shifter for microwave frequencies,”Electronics Letter, vol. 45, no. 13, pp. 686−687, 2009.
【非特許文献2】O. H. Karabey, F. Goelden, A. Gaebler, S. Strunck, and R. Jakoby, “Tunable 5 loaded line phase shifters for microwave applications,” inProc. IEEE MTT−S Int. Microwave Symp. Digest (MTT), 2011, pp. 1−4.
【非特許文献3】Onur Hamza Karabey et al., “Continuously Polarization Agile Antenna by Using Liquid Crystal−Based Tunable Variable Delay Lines”, IEEE vol. 61, no. 1, 1. January 2013, page 70−76, ISSN: 0018−926X
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
移相器のようなマイクロ波部品は、マイクロストリップ線路から形成され得る。マイクロストリップ線路は、プリント回路基板技術を使用して製作され得る電気用の平面伝送線路の一種である。この平面伝送線路は、基板として知られた誘電体層によって面状の1つの接地電極から分離されている導体ストリップの形をした1つの電極から構成されている。
【0008】
特許文献1,3に記載されているように、基板が、液晶ポリマー(LCP)によって形成され得る。しかしながら、当該液晶ポリマー材料は、この材料の比誘電率に関して同調可能でない。したがって、同調可能な高周波デバイスの構成にとって適切である同調可能な特長の当該欠如に起因して、液晶ポリマーの使用は、バラクタのような同調可能な装置を設計するためには不便である。
【0009】
液晶(LC)は、固体の結晶体の特徴及び性質のほかに通常の液体の特徴及び性質を呈する。例えば、液晶は、液体のように流れるものの、その分子は、結晶状に配向され得る。液晶ポリマー(LCP)とは違って、液晶(LC)の比誘電率は、例えば、そのLC材料に印加される電圧によって影響され得る。
【0010】
非特許文献1に記載の従来の技術では、複数のシャント液晶バラクタが、コプレーナ導波路に実装されている。このような液晶装置の同調速度が、その接続形態によって影響される。このような装置の知られている欠点のうちの1つは、当該コプレーナ導波路の高い金属損失である。さらに、当該コプレーナ導波路に起因して、当該複数のバラクタが、中央の導体とグラウンド層とをブリッジする複数の浮遊電極としての複数のパッチによって実装されてある。その結果、このような人工的な伝送線路の同調効率の減少及び高い挿入損失が発生する。
【0011】
非特許文献2に記載されているように、複数の液晶バラクタの同調効率が、平行板コンデンサの接続形態を使用することによって向上される。しかしながら、ここでは、これらの液晶バラクタが、1つのスロット線路にシャント状に実装されてある。確かに、マイクロストリップ線路を実装すると、性能がより向上する。何故なら、マイクロストリップ線路は、システムに固有の低い損失を特徴とするからである。
【0012】
したがって、本発明の課題は、従来の技術による移相器の欠点を減らすこと、及び、コンパクトと平面構造との双方を同時に特徴とする、短い応答時間と高い性能とを有する有益な移相器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、1つの誘電体によって分離されている1つの信号電極と1つの接地電極とによって形成されていて、且つ1つの液晶材料をさらに有する移相器において、平面伝送線路の前記信号電極が、幾つかの要素(切片)に分割されていて、隣接した複数の要素で複数の重畳領域を有し、これらの重畳領域が、同調可能な液晶材料で充填されている結果、金属・絶縁体・金属(MIM)型コンデンサを有する同調可能な誘電体部品(バラクタ)が形成されていることを特徴とする移相器に関する。
【0014】
1つの伝送線路(マイクロストリップ線路)が、2つの電極である1つの信号電極と1つの接地電極とによって形成されている。これらの電極の材料は、好ましくはAg、Cu又はAuのような低い抵抗の高周波(RF)電極材料である。同様な導電特性を有するその他の材料又は合金も可能である。当該信号電極が、その長さに沿って、すなわちその伝播方向に沿って幾つかの要素に分割されている。これらの要素は、例えば、複数の上側要素として底ガラスの上面上に実装され、複数の底側要素として上ガラスの底面上に実装されている。平面図において、すなわち信号の伝播方向に対して直角方向に見たときに、連続する1つの信号電極が形成されているように、当該上ガラスと当該底ガラスとが積み重ねられている。用語である上ガラス及び底ガラスは、その他の適切な材料が排除されることを示すものではない。さらに、幾つかの区間が存在する。これらの区間では、当該信号電極のこれらの上側要素とこれらの底側要素とが重畳している。少なくとも2つのガラス間のこれら重畳領域と、当該信号電極の当該上側要素と当該それぞれの底側要素が、同調可能な液晶材料で充填されている。したがって、各重畳領域が、1つの金属・絶縁体・金属型コンデンサを形成している。この場合、当該絶縁体が、同調可能な液晶材料であるので、この領域は、同調可能な1つの誘電体部品(バラクタ)を形成している。この同調可能な部品は、この移相器を非常にコンパクトに構成することを可能にする。
【0015】
液晶技術に起因して、上記バラクタは、5GHzより高い周波数、好ましくは10GHzより高い周波数向けの半導体のようなその他の技術に比べて低い損失を特徴とする。さらに、マイクロストリップが使用されているので、移相損失が、非特許文献1,2に比べていっそう少なくなる。
【0016】
本発明の1つの実施の形態によれば、上記信号電極の幾つかの要素が、上記接地電極に対する2つ又はそれより多い異なる離間レベルに配置されている。異なる2つの当該レベルが、複数の基板層の2つの表面上に存在し得るので、当該信号電極の幾つかの要素を異なる2つの当該レベルに配置することは、このような装置の簡単で且つ経費を節約する製作を可能にする。3つ又はそれより多い異なる離間レベルは、複雑な構成を可能にする、例えば、隣接した2つの離間レベル間に位置する液晶材料から成る異なる複数の層を可能にする。
【0017】
上記同調可能な液晶材料は、異なる2つの離間レベルに配置されている信号電極の幾つかの要素間の単一で且つ連続する1つの層として配置され得る。この連続する、すなわち途切れない層の境界が、当該幾つかの要素の形成されたカバーとして規定されている当該信号電極の形及び寸法に適合され且つ制限され得る。この連続する層は、多くの場合により大きい接地電極を完全にカバーし得る。多くの用途に対して、この連続する層は、複数の電極又は複数の基板層の隣接した2つの層間に配置され得、これらの誘電体基板層間の空洞を完全に充填し得る。このことは、例えば確立されている液晶ディスプレイ技術を使用することによってこのような配置の迅速で且つ安価な製作を可能にする。
【0018】
しかしながら、同調可能な液晶材料を節約するためには、又は、同調可能な液晶材料から成る閉じ込められた複数の空間領域の別々の制御を可能にするためには、異なる2つの離間レベルにある信号電極の隣接した複数の要素から成る複数の重畳領域間に、当該同調可能な液晶材料を限定された幾つかの層領域として配置することが可能である。
【0019】
上記信号電極の複数の要素をその伝播方向に対して平行に配置すること、例えば、高周波信号の伝播方向に沿って直線状に配置することが、ほとんどの用途に対して有益である。何故なら、当該配置は、あらゆる中断を回避する結果、損失がより少ないからである。必要であるならば又は実施可能であるならば、当該信号電極の複数の要素が、直線状に配置されている。
【0020】
しかしながら、伝送線路に沿った多数のバラクタを必要とする幾つかの用途に対しては、当該伝送線路が、蛇行されてもよい、例えば、N字形に又は螺旋形に蛇行されてもよい。このことは、移相器の物理的寸法よりも遥かに長い伝送線路の長さを可能にする。
【0021】
上記伝送線路に沿った位相シフトは、専ら又は少なくとも主に、金属・絶縁体・金属型コンデンサであり、信号電極に沿って配置されている同調可能な複数のバラクタに起因する。当該信号電極の構造、形及び配置は、当該伝送線路に沿った信号の伝播に対する時間遅延に著しく作用する共振構造に寄与しない。
【0022】
本発明の1つの実施の形態による移相器は、前記信号電極が、前記伝送線路の長さに沿って幾つかの要素に分割されていて、
前記幾つかの要素が、非同調可能な1つの誘電体基板の、上側上の複数の上側要素として、且つ底側上の複数の底側要素として互い違いに実装されていて、
複数の重畳領域が、前記信号電極の幾つかの区間の、1つの上側要素と隣接した1つの底側要素との間に存在し、
これらの重畳領域が、同調可能な液晶材料で充填されていて、これらの重畳領域が、1つの金属・絶縁体・金属型コンデンサを有する同調可能な1つの誘電体部品(バラクタ)を形成することを特徴とし得る。
【0023】
1つの例示的な実施の形態では、上記信号電極の幾つかの要素を支持している非同調可能な誘電体基板が、Schott AG製の700μmの厚さのボロフロートガラス(ε
r,glass=4.6及び25℃で且つ1MHzのときの損失正接tanδ=0.0037)に選択されている。ある液晶混合物が使用される。この液晶混合物の比誘電率が、表面整合法を用いて同調電圧を印加することによって2.4と3.2との間で連続して同調可能である。この材料の最大誘電損失正接tanδは、全ての同調状態に対して0.006未満である。(金属から金属までの)当該液晶層は、25ms未満である速い応答時間を得るために3μmに指定されている。当該装置は、最大で6.1dBの挿入損失を伴って、20GHzのときに367°の差動位相を提供する。
【0024】
上記の装置のRF性能を定量化するための重要なパラメータは、周波数に依存する性能指数(FoM)である。この性能指数は、全ての同調状態に対する最大差動位相と最高挿入損失との比によって規定されている。
【0025】
よって、上記例示的な実施の形態の性能指数は、20GHzのときに60°/dBである。
【0026】
さらなる1つの実施の形態では、上記平面伝送線路が、信号電極の1つの非重畳区間によって接続されている、直列接続された同調可能な少なくとも2つの誘電体部品を有する。当該伝送線路に沿った信号伝送が、主に且つ基本的に専らバラクタの数及び構造、すなわち当該信号電極に沿って配置されている同調可能な誘電体部品の数及び構造に影響される。当該位相シフトは、同調バイアス電圧を、当該信号電極の隣接した複数の要素の複数の重畳領域間の同調可能な誘電体材料を形成している同調可能な液晶材料、すなわち当該バラクタとして動作する平行板状の同調可能なコンデンサに印加することによって容易に制御され且つ変更される。
【0027】
上記同調は、複数の制御電極によって実行される。これらの電極は、制御素子として作動する。これらの電極は、バイアス線を通じてバラクタを作動させるための異なるバイアス電圧を伝送する。当該バイアス線は、高周波回路に影響しないように好ましくは低導電性の材料から製作されている。このため、低導電性の電極が使用され得る。何故なら、当該低導電性の電極は、高周波信号に対して導電性になるからである。当該バイアス線に対する典型的な材料は、好ましくは、10e5S/m未満の導電率を有するITO(インジウムスズ酸化物)、NiCr(ニッケルクロム)又はその他の幾つかの合金である。
【0028】
さらなる実施の形態では、移相器が、高周波信号を伝送するための放射素子に結合されている。大抵の放射素子は、パッチアンテナとも記される。当該放射素子及び給電線は、多くの場合に誘電体基板上にフォトエッチングされている。当該放射素子、すなわち当該パッチアンテナは、正方形、長方形、薄板(ダイポール)、円形、楕円形、三角形又はその他のあらゆる形として構成されている。
【0029】
さらな実施の形態では、上記放射素子は、任意に形成されたマイクロストリップパッチアンテナ又はマイクロストリップスロットアンテナである。
【0030】
液晶は、同調可能な高周波デバイスを実現するために適している。液晶は、同調可能な誘電体、特に最適化された液晶混合物として、マイクロ波周波数のときに0.006未満の損失正接を伴って高い性能を提供し得る。最大誘電率に対する最小誘電率の同調範囲の比として定義される相対同調性(チューナビリティ)が、好ましくは5%〜30%又は10%〜25%又は15%〜30%又は5%〜14%である。
【0031】
液晶に基づく平面移相器は、希望するアンテナ性能に応じて多くの場合にカスタマイズされている。このため、当該移相器は、挿入損失を減少させるために、ビーム操舵速度を増大させ、広いレンジスキャンを可能にするように構成されていて且つ適合されている。この発明によれば、高周波の用途向けに適合された液晶混合物が使用される。液晶を有する同調可能な高周波部品を実現するための可能性が、
図3中に示されている。
図3は、様々なバイアス電圧用の同調可能な基板としての、液晶を使用しているインバーテッドマイクロストリップ線路の横断面図である。当該装置は、積み重ねられた2つの基板から構成されている。その上の基板は、マイクロストリップ線路を支持し、その下の基板は、グラウンド層を支持している。薄い液晶層が、当該2つの基板間に封入されている。
【0032】
本発明による移相器は、例えばフェーズドアレイアンテナを提供するために放射素子に組み合わせられ得る。
【0033】
このような組み合わせの第1の実施の形態では、上記平面伝送線路と上記アンテナとが、アパーチャカップリング法を使用することによって結合されている。第2の実施の形態では、当該平面伝送線路と当該アンテナとが、近接カップリング法を使用することによって結合されている。第3の実施の形態では、当該平面伝送線路と当該アンテナとが、例えば、挿入供給技術を使用して又は垂直方向の相互接続を通じて直接に接続されている。
【0034】
以下には、本発明の様々な対象及び特徴が、本発明の限定していない実施の形態を記載している説明及び添付図面中により明瞭に表現されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】典型的な液晶分子及びその温度依存性の概略図である。
【
図2】従来の技術による平面伝送線路の概略図である。
【
図3a】本発明による幾つかの液晶バラクタを有する移相器の概略斜視図である。
【
図3b】本発明による幾つかの液晶バラクタを有する移相器の横断面図である。
【
図3c】本発明による幾つかの液晶バラクタを有する移相器の上面図である。
【
図3d】移相器の信号電極内に配置されている同調可能な液晶バラクタの概略図である。
【
図4a】
図3a〜3dによる移相器内の信号電極の隣接した複数の要素の信号重畳領域の横断面拡大図である。
【
図4b】
図4aに示された液晶バラクタの概略図である。
【
図5】結合アンテナを有する移相器の第1の実施の形態の概略横断面図である。
【
図6】結合アンテナを有する移相器の第2の実施の形態の概略横断面図である。
【
図7】結合アンテナを有する移相器の第3の実施の形態の概略横断面図である。
【
図8】
図3a〜3dによる移相器の異なる構成の概略横断面図である。この場合、信号電極の幾つかの要素が、接地電極に対して異なる複数の離間レベル上に配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0036】
一般に、液晶材料は、異方性である。
図1中の典型的な液晶分子の実例の構造で示されているように、この特性は、当該分子の棒状の形に由来する。ここでは、液晶材料から成る相構造が、温度の上昇と共にどのように変化するかが示されている。
図1には、当該分子と一緒に、対応する異方性誘電特性が示されている。当該材料は、液体であるので、当該分子は、専ら、弱い分子付着を特徴とし、したがって、バルク中の当該分子の配向が変化され得る。当該棒状の形に起因して、バルク中の当該分子が、それら自体で平行に整列する傾向にある。分子の長軸に対して平行な比誘電率が、ε
r,||と表示され、当該長軸に対して直角な比誘電率が、ε
r,Lと表示される。
【0037】
このような液晶材料が、ストリップ状の伝送線路の、信号電極と接地電極との間に配置されている場合、当該伝送線路に沿った無線周波数信号の伝送速度が、当該液晶材料の誘電率によって影響される。
【0038】
信号伝送に対する損失正接tanδ,||及びtanδ,Lが、これらの2つの比誘電率ε
r,||及びε
r,Lに関連している。
【0039】
電界が、例えば、制御電圧を液晶材料に印加することによって生成され得、棒状の形の液晶材料の配向に作用する。すなわち、当該液晶材料の比誘電率が、所定の制御電圧を印加することによって制御され得る。
【0040】
電界を印加することによって制御及び同調され得る同様の特性を有する、すなわち同調可能な比誘電率を有する同調可能な別の誘電材料が存在する。たとえ以下の説明が、同調可能な液晶材料に焦点を合わせているとしても、同調可能な比誘電率を有する多くの異なる材料が、本発明の目的のために使用され得て且つ含まれていることは、当業者によって良好に理解される。
【0041】
図2は、マイクロストリップ線路として形成された従来の技術の平面伝送線路を示す。この平面伝送線路は、1つの誘電体基板3から成る層によって分離されている1つの接地電極1と連続する、すなわち途切れない1つの信号電極2とから構成されている。その伝搬方向が、当該信号電極2の方向に沿って存在し且つ矢印によって示されている。
【0042】
図3a、3b及び3cは、本発明による移相器の、斜視図及び横断面図並びに主な部品の概略図である。この移相器は、1つの平面伝送線路を形成している1つの接地電極1と1つの信号電極2とを有する。この信号電極2は、低抵抗の高周波(RF)電極材料から成る幾つかの要素4及び5から構成されている。これらの要素4及び5は、この接地電極1に対して直角を成して異なる2つの離間レベルに配置されている。当該幾つかの要素4,5は、当該伝送線路、すなわち信号電極2の方向によって規定され且つ矢印によって示された伝播経路に沿って整列されている。この信号電極2の当該幾つかの要素4,5は、隣接した複数の要素4,5の複数の重畳領域6を形成するように互いに相対して配置されている。
【0043】
非同調可能な誘電体基板3から成る層、好ましくはガラスが、上記接地電極と上記信号電極との間に存在する。この信号電極2の幾つかの要素4,5間の空間が、同調可能な液晶材料7によって充填されている。複数の重畳領域6が、隣接した各要素4,5間に存在する。上面図から見たときに、すなわち当該接地電極1に対して直角に見たときに、明らかに、連続する1つの信号電極2が形成されているように、当該複数の要素4,5が積み重ねられていて且つ配置されている。非同調可能な1つの誘電体基板の1つの第2層3′が、当該同調可能な液晶材料7の上部に存在する。例えば、当該信号電極2の幾つかの要素4,5が、当該非同調可能な誘電体基板から成る層3及び3′の対応する表面上に印刷又はコーティング又は積層され得る。
【0044】
上記信号電極2の要素4,5は、(
図3b及び3c中だけに示された)高周波(RF)に対して導電性である低導電性の材料、好ましくはITO(インジウムスズ酸化物)から成る複数の制御素子8に接続されている。これらの制御素子8は、上記複数の重畳領域6内の液晶材料7を同調するために印加され得るバイアス電圧を伝送する、すなわち上記平面伝送線路に沿って伝送される高周波(RF)信号の伝送特性に作用する信号電極2の隣接した複数の要素4,5の複数の重畳領域6間に存在する液晶材料7の比誘電率を変更するために印加され得るバイアス電圧を伝送する。
【0045】
上記平面伝送線路に沿った信号伝送の時間遅延、すなわち本発明による移相器の伝送線路に沿って伝送される信号の位相シフトが、上記信号電極2の、上記接地電極1に対して異なる複数の離間レベルに配置されている隣接した複数の要素4,5間の各信号ジャンプに対する連続した複数の時間遅延によって生成される。
【0046】
接地電極1とマイクロストリップのような(例えば、
図2の信号電極2のような)信号電極2との間の同調可能な液晶材料から成る1つの層を有する従来の技術の移相器とは違って、上記総遅延時間は、主に、上記平面伝送線路に沿った信号の伝播中の信号ジャンプの数によって決まる。各信号ジャンプは、対応するその重畳領域6で当該同調可能な液晶材料7を同調することによって変更され得るある一定の時間遅延を引き起こす。合計の遅延時間は、1つの信号ジャンプの短い時間遅延を当該平面伝送線路に沿ったジャンプの数で乗算したものである。
【0047】
したがって、本発明による移相器の平面伝送線路は、少なくとも2つの、しかし好ましくは多数の、直列接続された同調可能な誘電体部品(バラクタ)を有する。これらの誘電体部品は、信号電極2の非重畳区間によって接続されている。当該平面伝送線路の概略図が、
図3d中に示されている。
【0048】
図4a及び4bは、単一バラクタ構造のさらに詳細な横断面図及び対応する概略図を示す、すなわち
図3a〜3d中に示されたような移相器内の、信号電極2の隣接した2つの要素4,5間の重畳領域6と、接地電極1とのさらに詳細な横断面図及び対応する概略図を示す。
【0049】
図5,6及び7は、1つのアンテナパッチ9に結合されている
図3a〜
図3dによる移相器から構成されている放射素子に対する異なる複数の実施の形態を示す。
【0050】
図5では、上記平面伝送線路の信号電極2の幾つかの要素4,5と、上記アンテナパッチ9とが、アパーチャカップリング法を使用することによって結合されている。このように結合させるため、当該アンテナパッチ9は、非同調可能な1つの誘電体基板から成る層10によって接地電極1から分離されている。当該伝送線路に沿って、すなわち当該信号電極2及び接地電極1に沿って伝送されるエネルギーが、当該接地電極1内の近くにある1つのスロット11を通じて結合される。
【0051】
図6では、上記平面伝送線路と上記アンテナパッチ9とが、近接カップリング法を使用することによって結合されている。
【0052】
図7では、上記平面伝送線路と上記アンテナパッチ9とが、挿入供給カップリング法を使用することによって結合されている。
【0053】
図8は、本発明による移相器の異なる実施の形態を示す。上記の実施の形態とは違って、異なる2つの離間レベルに配置されている信号電極2の幾つかの要素4,5のほかに、当該幾つかの要素4,5に追加された幾つかの要素12が、接地電極1に対する1つの第3離間レベルに配置されている。当該追加の要素12は、上記第2離間レベルの要素5が搭載されている表面に対向している非同期可能な誘電体基板から成る層3′のもう1つの表面上に搭載されている。
【0054】
図8の例示的な実施の形態によれば、複数の要素5を有する第2離間レベルを追加の複数の要素12を有する第3離間レベルから分離する層3′が、非同調可能な1つの誘電体基板から製作されているので、追加の複数の要素12と隣接した複数の要素5との間の1つの信号ジャンプに対する時間遅延は変更され得ない。それ故に、複数の要素5と追加の複数の要素12との間に重畳領域6が存在する個所のいずれにも、同調可能な誘電体バラクタが存在しない。したがって、位相シフトを同調できるようにするためには、重畳領域を当該追加要素12と当該要素4との間に形成することが有益であろう。これにもかかわらず、当該追加の信号ジャンプが、これらの信号ジャンプの数だけによって決まる固定された時間遅延を追加する。その結果、例えば、1つのオフセットが、非常に経費節約な方法で生成され得る。
【0055】
図8中に示された移相器とは異なる移相器のさらに別の実施の形態では、異なる3つの離間レベルで重畳している複数の要素の順序が異なる。例えば、最も低い離間レベル上の1つの第1要素4が、最も高い離間レベル上の後続する1つの要素12に重畳していて、中央の離間レベル上のもう1つの要素が後続してもよい。このとき、高周波(RF)信号が、当該最も低い離間レベルから当該最も高い離間レベルにジャンプし、続いて中央の1つのレベルにジャンプし、当該最も低いレベルに戻る。ある一定の時間遅延を引き起こすそれぞれの信号ジャンプが、予め決定され且つ様々な方法で配置され得る結果、当該信号の合計の位相シフトが予め決定され配置され得ることが理解される。同様に、当業者も、垂直方向の複数の相互接続を通じて異なる複数の離間レベル上の幾つかの要素を電気接続し得る。
【0056】
同調可能な誘電体材料から成る1つの第2層を上記信号電極2の幾つかの要素4,5と複数の追加要素12との間に追加することも可能である。このような第2層は、完全に異なる同調可能な誘電体材料から構成されてもよいし又は上記同調可能な液晶材料7から成る第1層に対して使用されているのと同じ液晶材料から構成されてもよい。当該第2層が、液晶材料7から成る当該第1層に等しい場合でも、上記第2離間レベルと上記第3離間レベルとの間の複数の信号ジャンプに対する時間遅延が、異なる複数の制御素子を使用することによって又は異なる1つのバイアス電圧を印加することによって様々に制御され得る。その結果、移相器、すなわち位相シフトを制御するためのさらに多くの可能性が得られる。
【0057】
上記信号電極2の幾つかの要素4,5及び12を接地電極1に対する2つ又は3つより多い離間レベルに配置することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 接地電極
2 信号電極
3 非同調可能な誘電体基板から成る層
4 信号電極2の下離間レベルの複数の要素
5 信号電極2の上離間レベルの複数の要素
6 重畳領域
7 同調可能な液晶材料
8 制御素子
9 アンテナパッチ
10 非同調可能な誘電体基板から成る層
11 スロット
12 信号電極2の複数の追加要素