(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記オイル蒸発抑制部は、前記ピストンの上死点と下死点の中間位置よりも前記シリンダヘッド側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の空冷式単気筒エンジン。
前記オイルジャケットと前記ヘッドオイルジャケットは、周方向範囲が同じであって、シリンダ軸方向に連通していることを特徴とする請求項3に記載の空冷式単気筒エンジン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2、3の空冷式の単気筒エンジンは、潤滑用のオイルを冷却に兼用しているため、水冷式の単気筒エンジンに比べて、構造を簡易化でき、製造コスト低減できる。しかしながら、この空冷式の単気筒エンジンでは、潤滑オイルの消費量の低減効果は十分ではなかった。
【0006】
そこで、エンジンを冷却する構成として、シリンダボディの全周とシリンダヘッドに設けられたウォータージャケットに、冷却水の代わりに潤滑オイルを流すことが考えられる。しかしながら、この構成でも、潤滑用のオイルを冷却に兼用することで水冷式に比べて製造コストは低減できるものの、潤滑オイルの消費量の低減効果は十分ではなかった。
【0007】
本発明は、製造コストを抑えつつ、潤滑オイルの消費量をより低減できる空冷式単気筒エンジン、及びこれを備えた鞍乗型車両を提供することを目的とする。
【0008】
本願発明者は、シリンダボディの全周とシリンダヘッドに設けられたウォータージャケットに、冷却水の代わりに潤滑オイルを流した場合に、潤滑オイルの消費量を十分に低減できない理由について検討した。
シリンダボディに形成されるシリンダ孔の内壁面は、周方向に温度ムラが生じやすい。シリンダボディの全周とシリンダヘッドに設けられたウォータージャケットに、潤滑オイルを流した場合、シリンダ孔の内壁面の温度の高くなりやすい部分は、ある程度温度を低下させることができる。しかし、シリンダボディの全周に潤滑オイルを流したことにより、シリンダ孔の内壁面の元々温度が低い部分は逆に温度が高くなってしまう場合がある。そのため、シリンダ孔の内壁面において潤滑オイルの蒸発量が依然多くなって、潤滑オイルの消費量を十分に低減できていないことに気付いた。
【0009】
そこで、本願発明者は、空冷式単気筒エンジンにおいて、以下の構成を有するオイル蒸発抑制を設けることで、製造コストを抑えつつ、潤滑オイルの消費量をより低減することを考えた。
【0010】
本発明の空冷式単気筒エンジンは、ピストンが収容されるシリンダ孔を形成するシリンダ部を備えたシリンダボディと、前記シリンダ孔と共に燃焼室を区画し、前記燃焼室に連通する吸気通路及び排気通路が形成されたシリンダヘッドと、を備える空冷式単気筒エンジンであって、前記シリンダボディの外表面に設けられた複数のフィンを有するフィン部、及び、前記シリンダボディにおける前記フィン部のシリンダ軸線を中心とした周方向範囲よりも小さい周方向範囲に形成され、且つ、前記シリンダ孔の外側に設けられ、内部を
、SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケットを含み、前記シリンダ孔の内壁面における
SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルの蒸発を抑制するオイル蒸発抑制部を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の空冷式単気筒エンジンは、シリンダ孔を形成するシリンダ部を備えたシリンダボディの外表面に設けられた複数のフィンを有するフィン部と、シリンダボディにおけるフィン部の周方向範囲よりも小さい周方向範囲に形成され、且つ、シリンダ孔の外側に設けられ、内部を、
SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケットとを含み、シリンダ孔の内壁面における
SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルの蒸発を抑制するオイル蒸発抑制部を備えている。つまり、本発明のオイル蒸発抑制部は、シリンダボディの外表面に複数のフィンを有するフィン部を設けると共に、シリンダ孔の外側に、潤滑オイルを流すオイルジャケットをシリンダボディに設けるという技術思想と、オイルジャケットの周方向範囲をフィン部の周方向範囲よりも小さく形成するという技術思想によって成り立っている。
ピストンが収容されるシリンダ孔を形成するシリンダ部を備えたシリンダボディと、前記シリンダ孔と共に燃焼室を区画し、燃焼室に連通する吸気通路及び排気通路が形成されたシリンダヘッドとを備えた空冷式単気筒エンジンでは、シリンダ孔の内壁面の温度は周方向にムラが生じやすい。シリンダ孔の内壁面の温度が高温になりやすい周方向一部分にオイルジャケットを設けることにより、当該周方向一部分にフィン部だけを設けてオイルジャケットを設けない場合に比べて、シリンダ孔の内壁面における当該周方向一部分の温度を低下できる。
また、内部を、
SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケットをシリンダボディに設ける場合、オイルジャケットをシリンダボディの全周に設けることが考えられる。しかし、そうすると、シリンダ孔の内壁面の温度が高温になりやすい周方向一部分だけでなく、シリンダ孔の内壁面の温度が比較的低くなりやすい周方向一部分にも、オイルジャケットを設けることになる。シリンダ孔の内壁面の温度が比較的低くなりやすい周方向一部分にオイルジャケットを設けた場合、当該周方向一部分にフィン部を設けてオイルジャケットを設けない場合に比べて、シリンダ孔の内壁面における当該周方向一部分の温度が上昇してしまう。これに対して、本発明では、オイルジャケットの周方向範囲がフィン部の周方向範囲よりも小さい周方向範囲になるように、フィン部とオイルジャケットとを組み合わせてシリンダボディに設けている。そのため、シリンダ孔の内壁面の温度が高温になりやすい周方向一部分にオイルジャケットを設けて、温度が比較的低くなりやすい部分にはオイルジャケットを設けない構成にできる。それにより、オイルジャケットをシリンダボディの全周に設ける場合に比べて、シリンダ孔の内壁面の周方向全域の温度を低下させることができると共に、シリンダ孔の内壁面のうち高温になりやすい周方向一部分の温度をより低下させることができる。
また、シリンダボディにオイルジャケットを設けるため、シリンダヘッドにのみオイルジャケットを設ける場合に比べて、シリンダ孔に近い位置にオイルジャケットを設けることができる。そのため、シリンダ孔の内壁面の温度を効率的に低下させることができる。
【0012】
以上のように、本発明の空冷式単気筒エンジンは、シリンダボディの外表面にフィン部を設けると共に、シリンダボディにオイルジャケットを設けるという技術思想と、オイルジャケットの周方向範囲をフィン部の周方向範囲よりも小さく形成するという技術思想によって成り立つオイル蒸発抑制部を備えることにより、シリンダ孔の内壁面の周方向全域の温度を低下させると共に、内壁面のうち高温になりやすい周方向一部分の温度をより低下させることができる。その結果、シリンダ孔の内壁面における
SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
また、シリンダ孔の内壁面の温度を低下させるために、エンジンが元々備えている潤滑オイルを利用しているため、製造コストの増加を抑えることができる。
したがって、本発明の空冷式単気筒エンジンは、製造コストの増加を抑えつつ、潤滑オイルの消費量を低減できる。
また、潤滑オイルの粘度が低いほど、潤滑オイルは蒸発しやすい。これに対して、本発明の空冷式単気筒エンジンは、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制するオイル蒸発抑制部を備えている。そのため、潤滑オイルとして、SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルを用いても、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制することができる。
また、潤滑オイルの粘度が低いほど、オイルジャケットを流れる潤滑オイルの単時間当たりの流量が多くなり、シリンダ孔の内壁面の温度をより低下させることができる。したがって、潤滑オイルの低温粘度グレードが20Wよりも低いことにより、オイル蒸発抑制部によるシリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制する効果をより高めることができる。
【0013】
本発明の空冷式単気筒エンジンにおいて、前記オイル蒸発抑制部は、前記ピストンの上死点と下死点の中間位置よりも前記シリンダヘッド側に設けられていることが好ましい。
【0014】
シリンダ孔の内壁面は、シリンダヘッドに近い位置が比較的高温となりやすい。本発明では、フィン部とオイルジャケットとを含むオイル蒸発抑制部が、シリンダボディのうちシリンダヘッドに近い位置に設けられるため、シリンダ孔の内壁面のうち高温となりやすい部分の温度をより低下させることができる。したがって、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
なお、本発明において、オイル蒸発抑制部が、ピストンの上死点と下死点の中間位置よりもシリンダヘッド側に設けられるとは、オイル蒸発抑制部の少なくとも一部が、ピストンの上死点と下死点の中間位置よりもシリンダヘッド側に設けられることである。
【0015】
本発明の空冷式単気筒エンジンにおいて、前記オイル蒸発抑制部は、前記シリンダヘッドの外表面に設けられた複数のフィンを有するヘッドフィン部、及び、前記シリンダヘッドにおける前記燃焼室の外側に設けられ、内部を潤滑オイルが充満状態で流れるヘッドオイルジャケットを含むことが好ましい。
【0016】
シリンダヘッドは、シリンダボディよりも高温となり、シリンダヘッドからシリンダボディに熱が伝達される。本発明のオイル蒸発抑制部は、シリンダボディに設けられたフィン部およびオイルジャケットに加えて、シリンダヘッドの外表面に設けられた複数のフィンを有するヘッドフィン部と、シリンダヘッドにおける燃焼室の外側に設けられ、内部を潤滑オイルが充満状態で流れるヘッドオイルジャケットとを有する。そのため、熱源であるシリンダヘッドの温度を低下させて、シリンダ孔の内壁面の温度をより低下させることができる。したがって、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
また、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットは、シリンダ軸方向に互いに近い位置に設けられている。そのため、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットが離れた位置に設けられる場合に比べて、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットに潤滑オイルを供給する構成を簡易化でき、製造コストを低減できる。
【0017】
本発明の空冷式単気筒エンジンにおいて、前記オイルジャケットと前記ヘッドオイルジャケットは、周方向範囲が同じであって、シリンダ軸方向に連通していることが好ましい。
【0018】
この構成によると、シリンダ孔の内壁面のうち特に高温になりやすい周方向領域に、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットを設けることで、シリンダ孔の内壁面の温度をより低下させることができる。したがって、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
また、オイルジャケットに潤滑オイルを供給する構成が、ヘッドオイルジャケットに潤滑オイルを供給する構成を兼ねることができるため、製造コストを低減できる。
【0019】
本発明の空冷式単気筒エンジンは、前記シリンダヘッドの少なくとも一部を覆い、空気流入口を有するシュラウドと、前記シュラウド内に前記空気流入口から空気を導入させるファンと、を備え、前記オイルジャケットが、シリンダ軸線に対して前記空気流入口と反対側に設けられていることが好ましい。
【0020】
この構成によると、オイルジャケットが、シリンダ軸線に対してシュラウドの空気流入口と反対側に設けられている。つまり、フィンを設けてもシリンダ孔の内壁面の温度低減効果が低い箇所に、オイルジャケットを設けている。そのため、オイルジャケットとフィン部によって、シリンダ孔の内壁面全体の温度を効率よく低下させることができる。したがって、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0023】
本発明の鞍乗型車両は、車体フレームと、前記車体フレームに搭載されるエンジンと、前記車体フレームの車両幅方向両側に配置される一対のレッグシールドと、を備える鞍乗型車両であって、前記エンジンが、上記本発明の空冷式単気筒エンジンであって、前記フィン部と前記オイルジャケットが、シリンダ軸線の車両幅方向両側で且つ前記一対のレッグシールドの間に配置されることを特徴とする。
【0024】
この構成によると、エンジンは一対のレッグシールドの間に配置される。そのため、仮に、フィン部がシリンダ軸線の車両幅方向両側に設けられた場合、フィン部とレッグシールドとの隙間が小さくなり、フィン部によるシリンダ孔の内壁面の温度低減効果が低くなる。これに対して本発明では、シリンダ軸線の車両幅方向の一方側にのみ、フィン部が設けられ、シリンダ軸線の車両幅方向の他方側には、レッグシールドとの間に隙間を必要としないオイルジャケットが設けられている。そのため、フィン部とレッグシールドとの隙間を大きく確保することができ、フィン部によるシリンダ孔の内壁面の温度低減効果を向上できる。したがって、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0025】
本発明の鞍乗型車両は、車体フレームと、前記車体フレームに搭載されるエンジンと、を備える鞍乗型車両であって、前記エンジンが、上記本発明の空冷式単気筒エンジンであって、前記シリンダ軸線が車両上下方向に延びていることを特徴とする。
【0026】
この構成によると、鞍乗型車両の走行時の風向きはシリンダ軸線に交差する方向となる。そのため、シリンダボディの外表面の周方向位置によって風を受ける程度が大きく異なる。そのため、例えば、風のほとんど当たらない進行方向後側にオイルジャケットを配置するなどして、フィン部とオイルジャケットの周方向位置を調整することでシリンダ孔の内壁面の温度を調整できる。
なお、本発明において、シリンダ軸線が車両上下方向に延びている状態とは、シリンダ軸線が厳密に車両上下方向に延びている場合だけでなく、シリンダ軸線が車両上下方向に対して±45°の範囲で傾斜している場合を含む。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、
図1に示す自動二輪車1のエンジンに本発明の空冷式単気筒エンジンを適用した一例である。なお、以下の説明において、前後方向とは、自動二輪車1の後述するシート8に着座したライダーから視た車両前後方向のことであり、左右方向とは、シート8に着座したライダーから視たときの車両左右方向(車両幅方向)のことである。また、各図面の矢印F方向と矢印B方向は、前方と後方を表しており、矢印L方向と矢印R方向は、左方と右方を表しており、矢印U方向と矢印D方向は、上方と下方を表している。
【0029】
[自動二輪車1の全体構成]
図1に示すように、本実施形態の自動二輪車1は、スクータである。自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4とを備えている。車体フレーム4は、全体として前後方向に延びた形態である。
【0030】
車体フレーム4は、その前部にヘッドパイプ4aを有する。ヘッドパイプ4aには、ステアリングシャフト5が回転可能に挿入されている。ステアリングシャフト5の上端部は、ハンドルユニット6に連結されている。また、ステアリングシャフト5の下端部は、一対のフロントフォーク7に連結されている。フロントフォーク7の下端部は、前輪2を支持している。
【0031】
車体フレーム4の上部には、シート8が支持されている。車体フレーム4のうちシート8よりも前方には、足載せ板9が支持されている。車体フレーム4には、車体フレーム4などを覆う車体カバー10が支持されている。車体カバー10は、足載せ板9の前端と後端から上方に延びる形態を有する。
【0032】
車体フレーム4には、スイング式のエンジンユニット11と燃料タンク(図示せず)が搭載されている。燃料タンクは、シート8の下方に配置されており、シート8と車体カバー10によって覆われている。
【0033】
エンジンユニット11は、エンジン12と、エンジン12の後部に連結された変速機13を備えている。変速機13は、Vベルト式無段変速機である。変速機13は、エンジン12および後輪3の左方に配置されている。エンジン12の前部は、前方と左右両側方から車体カバー10によって覆われている。エンジン12の前端部は、ピボット軸4bを介して車体フレーム4に揺動可能に支持されている。変速機13の後端部は、後輪3を支持している。また、変速機13と車体フレーム4との間にはリヤサスペンション14が取り付けられている。
【0034】
[エンジン12の構成]
エンジン12(本発明の空冷式単気筒エンジン)は、強制空冷式のエンジンである。また、エンジン12は、OHC(Over Head Camshaft)型の4サイクル単気筒エンジンである。
図2および
図3に示すように、エンジン12は、クランクケース20と、クランクケース20の前端部に取り付けられたシリンダボディ21と、シリンダボディ21の前端部に取り付けられたシリンダヘッド22と、シリンダヘッド22の前端部に取り付けられたヘッドカバー23と、シュラウド24を備えている。なお、
図2ではシュラウド24の表示を省略している。また、
図2は、クランクケース20の左側面と、シリンダボディ21、シリンダヘッド22、ヘッドカバー23の断面を表示している。
【0035】
クランクケース20、シリンダボディ21、シリンダヘッド22、およびヘッドカバー23は、鉄よりも熱伝導率の高い軽合金で形成することが好ましいが、鉄またはそれ以外の金属で形成してもよい。この軽合金の具体例としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、アルミニウムとシリコンの合金、アルミニウムとマグネシウムの合金などである。クランクケース20、シリンダボディ21、シリンダヘッド22、およびヘッドカバー23は、例えば鋳造により形成されている。
【0036】
図3に示すように、シュラウド24は、シリンダボディ21全体とシリンダヘッド22全体とヘッドカバー23の後端部を、全周にわたって覆っている。さらに、シュラウド24は、クランクケース20の右側部分を覆っている。シュラウド24のクランクケース20を覆う部分(つまり、シュラウド24の後右部)には、空気流入口24aが形成されている。また、シュラウド24の前部には、空気排出口(図示せず)が形成されている。なお、
図3は、
図2のIII−III線断面図であると共に、
図4のIII−III線断面図でもある。
【0037】
クランクケース20の内部には、左右方向に延びるクランク軸30が収容されている。クランク軸30は、クランクケース20に対して回転可能に支持されている。クランク軸30の左端部は、クランクケース20から突出して変速機13に接続されている。クランク軸30の右端部は、クランクケース20から突出して、ファン31に連結されている。ファン31は、クランク軸30の回転に伴って回転駆動される。ファン31の駆動により、空気流入口24aを介してシュラウド24内に空気が導入されて、導入された空気が空気排出口(図示せず)から排出される。
【0038】
図2に示すように、クランクケース20の下部には、左右方向に延びるオイルパン20aが形成されている。オイルパン20aには潤滑オイルが貯留される。クランクケース20は、オイルパン20aに貯留された潤滑オイルを吸い上げるオイルポンプ32を収容している。潤滑オイルは、このオイルポンプ32により圧送されて、エンジン12内を循環する。潤滑オイルの流れの詳細については後述する。なお、潤滑オイルは、エンジン12の構成要素に含まれる。
【0039】
潤滑オイルは、SAE J300に規定されるSAE粘度分類による低温粘度グレードが、20Wよりも低い。粘度グレードが低いほどオイルの粘度は低い。潤滑オイルのSAE粘度分類による高温粘度グレードは、特に限定されない。Xを0以上20未満の整数、Yを0以上の整数とすると、潤滑オイルのSAE粘度グレードは、XW−Yで表される。潤滑オイルは、ベースオイルと添加物で構成されている。大まかにいうと、潤滑オイルの粘度が低いほど、潤滑オイルの蒸発温度が低く、蒸発しやすい。ベースオイルの種類(例えば鉱物油であるか合成油であるか)や、添加物によっては、潤滑オイルの粘度が同じであっても蒸発温度が異なる場合がある。潤滑オイルの蒸発特性は、例えば、ASTM D6352に準拠したガスクロマトグラフィー模擬蒸留による沸点分布測定法によって取得できる。
【0040】
シリンダボディ21は、クランクケース20の前端面に接続されている。
図4に示すように、シリンダボディ21は、円筒状のシリンダ部50と、シリンダ部50の外周面から突出して設けられた2つの突出部51、52、チェーン室形成部53、およびフィン部54を備えている。シリンダ部50、突出部51、52、チェーン室形成部53、およびフィン部54は、同一材料で一体成形されている。
【0041】
シリンダ部50には、ピストン33が摺動自在に収容されるシリンダ孔50aが形成されている。シリンダ孔50aの内壁面にはめっき処理が施されていてもよい。
図3に示すように、ピストン33は、コネクティングロッド34を介してクランク軸30に連結されている。
図2に示すように、シリンダ孔50aの中心軸、即ち、シリンダ軸線C1は、前後方向に延びている。詳細には、シリンダ軸線C1は、シリンダ部50の前端(シリンダヘッド22側の端部)が後端(クランクケース20側の端部)より上方に位置するように前後方向に対して若干傾いている。本実施形態では、シリンダ軸線C1の前後方向(水平方向)に対する傾斜角度は、約5度であるが、0度以上45度以下の範囲内であればよい。
【0042】
図4に示すように、シリンダ部50の前面には、シリンダ軸線C1を中心とした周方向に延びる溝部50bが形成されている。
図3に示すように、溝部50bの開口は、シリンダヘッド22の後面によって塞がれている。この溝部50b内を、潤滑オイルが充満状態で流れる。溝部50bは、オイルジャケット50bを構成する。
【0043】
オイルジャケット50bは、シリンダ部50の左側部分と下側部分に形成されている。オイルジャケット50bは、シリンダ軸線C1の方向(A1方向)から見て、時計の約2時の位置から約7時の位置までの範囲に形成されている。オイルジャケット50bは、シリンダ軸線C1に対してシュラウド24の空気流入口24aと反対側に設けられている。オイルジャケット50bは、シリンダ軸線C1を中心とした周方向において、後述する吸気通路62よりも後述する排気通路63に近い位置に設けられる。また、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線C1を中心とした周方向において、後述するチェーン室55の周方向範囲のほぼ全域に形成されている。また、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線C1を中心とした周方向において、排気通路63の周方向範囲の全域に形成されている。
【0044】
オイルジャケット50bは、シリンダ部50の径方向厚さの略中央部に形成されている。オイルジャケット50bのシリンダ軸線C1を中心とした径方向の長さは、周方向およびシリンダ軸線方向(A1方向)にわたって一定である。また、オイルジャケット50bのシリンダ軸線方向(A1方向)の長さは、周方向にわたって一定である。
図3には、上死点にあるピストン33を実線で表示し、上死点と下死点の中間位置にあるピストン33を二点鎖線で表示している。オイルジャケット50bは、ピストン33の上死点と下死点の中間位置よりも、前方(シリンダヘッド22側)に形成されている。
【0045】
シリンダボディ21の前面には、オイルジャケット50bの周方向の両端から略径方向に延びる2つの溝部(以下、連通部という)50c、50dが形成されている。連通部50cは、オイルジャケット50bの右下端と後述するボルト孔52aとを連通させ、連通部50dは、オイルジャケット50bの左上端と後述するチェーン室55とを連通させる。
【0046】
突出部51は、シリンダ部50の外周面の右上部から突出し、シリンダ軸線方向(A1方向)に延びている。突出部52は、シリンダ部50の外周面の右下部から突出し、シリンダ軸線方向(A1方向)に延びている。突出部51、52には、それぞれ、シリンダ軸線方向(A1方向)に貫通するボルト孔51a、52aが形成されている。シリンダヘッド22には、ボルト孔51a、52aとそれぞれ連通するボルト孔(図示せず)が形成されている。シリンダヘッド22の2つのボルト孔51a、52aとシリンダヘッド22の2つのボルト孔には、シリンダボディ21とシリンダヘッド22を連結するための2本のスタッドボルト35が挿通される。ボルト孔51a、52aの径は、それぞれ、挿通されるスタッドボルト35の径よりも大きく、ボルト孔51a、52aの内周面とスタッドボルト35の外周面との間には隙間が生じている。
【0047】
チェーン室形成部53は、シリンダ部50の外周面の左側部分に設けられている。チェーン室形成部53とシリンダ部50の外周面との間には、チェーン室55が形成される。つまり、チェーン室55は、シリンダ部50の外側に形成されている。チェーン室55は、クランクケース20に形成されたチェーン室20bと、シリンダヘッド22に形成されたチェーン室60とを連通させる。チェーン室55、20b、60には、後述するタイミングチェーン44が配置される。
図4に示すように、チェーン室55は、シリンダ軸線方向(A1方向)に直交する断面形状が、上下方向に細長い略矩形状となっている。チェーン室55の上下方向長さは、シリンダ孔50aの直径よりも大きい。チェーン室55の上下方向の中間の位置は、シリンダ軸線C1とほぼ水平に並んでいる。また、チェーン室形成部53には、スタッドボルト36が挿通される4つのボルト孔53aが形成されている。
【0048】
図5(a)〜(d)に示すように、フィン部54は、シリンダボディ21の外周部の周方向一部に形成されている。フィン部54は、シリンダ軸線方向(A1方向)において、シリンダボディ21の前側(シリンダヘッド22側)の略半分の領域に形成されている。フィン部54は、ピストン33の上死点と下死点の中間位置よりもシリンダヘッド22側に形成されている。フィン部54は、シリンダ軸線方向(A1方向)に配列された複数のフィンで構成されている。各フィンは、シリンダ軸線C1を中心とした周方向に延びている。フィン部54は、シリンダボディ21の上面と右面と下面に形成されている。フィン部54は、シリンダ部50の外周面と突出部51、52の外表面から突出している。フィン部54の周方向両端は、チェーン室形成部53の右面に接続されている。本実施形態では、フィン部54は、シリンダ軸線C1を中心とした約200度の範囲に形成されている。したがって、フィン部54は、オイルジャケット50bの周方向範囲よりも大きい周方向範囲に形成されている。また、フィン部54の周方向範囲の一部は、オイルジャケット50bの周方向範囲の一部と重なっている。ファン31によってシュラウド24内に導入された空気がフィン部54と接触することにより、シリンダボディ21はフィン部54から放熱する。
【0049】
シリンダヘッド22は、ガスケット25を介して、シリンダボディ21の前端面に接続されている。ガスケット25は、シリンダボディ21のシリンダ孔50a、オイルジャケット50b、ボルト孔51a、52a、53aおよびチェーン室55のそれぞれと対応する位置に、それぞれとほぼ同じ形状の孔を有する。また、ガスケット25は、鉄よりも熱伝導率の高い材料で形成されていることが好ましいが、それ以外の材料で形成されていてもよい。ガスケット25は、金属で形成されていてもよく、金属以外の材質(例えば合成樹脂)で形成されていてもよい。
【0050】
図3に示すように、シリンダヘッド22の後面において、シリンダ孔50aに対応する位置には、略半球状の凹部61が形成されている。凹部61の後端の径は、シリンダ孔50aの径とほぼ同じである。この凹部61とシリンダ孔50aとピストン33によって、燃焼室26が区画される。
【0051】
図2に示すように、シリンダヘッド22の内部には、燃焼室26と連通する吸気通路62および排気通路63が形成されている。吸気通路62は、シリンダヘッド22の上側部分に形成されている。吸気通路62は、左右方向から見て、凹部61からシリンダヘッド22の上面まで前斜め上向きに延びている。排気通路63は、シリンダヘッド22の下側部分に形成されている。排気通路63は、左右方向から見て、凹部61からシリンダヘッド22の下面まで前斜め下向きに延びている。
図4に示すように、本実施形態の排気通路63は、前方から見て、左右方向に直交する方向に延びている。排気通路63は、前方から見て、凹部61からシリンダヘッド22の下面まで、右方または左方に曲がりつつ下向きに延びていてもよい。吸気通路62は、燃焼室26に空気を導入するための通路である。排気通路63は、燃焼室26で発生した高温の燃焼ガスを排出するための通路である。
【0052】
吸気通路62は、
図1に示すように、吸気管15を介してエアクリーナー(図示せず)に接続されている。吸気管15の途中には、スロットル弁(図示せず)が設けられている。スロットル弁の開度を調整することで、燃焼室26に供給される空気量が調整される。排気通路63は、
図1に示すように、排気管16を介してマフラー17に接続されている。また、排気管16の途中には、三元触媒(図示せず)が配置されている。
【0053】
図3に示すように、シリンダヘッド22の右側部分には、点火プラグ37が配置されている。点火プラグ37の点火部分である先端部は、凹部61に形成された挿通口64から燃焼室26内に露出している。また、上述したように、シリンダヘッド22には、シリンダボディ21のチェーン室55と連通するチェーン室60と、シリンダボディ21の複数のボルト孔51a、52a、53aと連通する複数のボルト孔が形成されている。
【0054】
なお、
図4は、シリンダヘッド22を前方からシリンダ軸線方向(A1方向)に見た断面図である。そのため、
図4には本来は、吸気通路62、排気通路63は現れないが、吸気通路62および排気通路63が配置された上下左右方向の位置に対応する位置に吸気通路62および排気通路63を二点鎖線で表示している。また、凹部61に形成される挿通口64も
図4には本来は表れないが、挿通口64が配置された上下左右方向の位置に対応する位置に挿通口64を二点鎖線で表示している。
【0055】
シリンダヘッド22の前部は、ヘッドカバー23によって覆われている。シリンダヘッド22とヘッドカバー23の内部には、吸気通路62および排気通路63をそれぞれ開閉する吸気バルブ38および排気バルブ39と、吸気バルブ38および排気バルブ39を駆動するための動弁機構40が収容されている。動弁機構40は、左右方向に延びるカム軸41を含んでいる。カム軸41は、シリンダヘッド22に回転可能に支持されている。カム軸41の左端部は、シリンダヘッド22のチェーン室60に配置されている。カム軸41の左端部に設けられたスプロケット42と、クランク軸30の左端部に設けられたスプロケット43には、タイミングチェーン44が巻き掛けられている。タイミングチェーン44は、クランク軸30の回転力を動弁機構40に伝える動力伝達部材である。クランク軸30の回転に伴ってカム軸41が回転することで、吸気バルブ38および排気バルブ39は開閉駆動される。
【0056】
図5(a)〜(d)に示すように、シリンダヘッド22の外表面には、ヘッドフィン部65が設けられている。ヘッドフィン部65は、シリンダ軸線方向(A1方向)に配列された複数のフィンで構成されている。各フィンは、シリンダ軸線C1を中心とした周方向に延びている。ヘッドフィン部65は、シリンダ軸線方向(A1方向)おいて、シリンダヘッド22の後側(シリンダボディ21側)の略半分の領域に形成されている。ヘッドフィン部65は、シリンダヘッド22の右面における点火プラグ37の上下両側に形成されている。ファン31によってシュラウド24内に導入された空気がヘッドフィン部65と接触することにより、シリンダヘッド22はヘッドフィン部65から放熱する。シリンダヘッド22は、鉄よりも熱伝導率の高い軽合金で形成されているため、ヘッドフィン部65によってシリンダヘッド22の温度を低下させやすい。
【0057】
次に、エンジン12における潤滑オイルの流れについて説明する。各図に示す白抜きの矢印と塗りつぶしの矢印は、潤滑オイルの流れの一部を示している。塗りつぶしの矢印は、断面に現れない潤滑オイルの流れを示しており、白抜きの矢印は、断面に現れる潤滑オイルの流れを示している。本実施形態のエンジン12では、潤滑オイルは、エンジン12の摺動部の潤滑のために用いられるだけでなく、シリンダ孔50aの内壁面の温度を下げるためにも用いられる。
【0058】
クランクケース20には、オイルポンプ32から圧送された潤滑オイルを、クランク軸30に供給するための流路と、シリンダボディ21に供給するための流路が形成されている。また、
図3に示すように、クランクケース20には、オイルポンプ32から圧送された潤滑オイルを、ピストン33の裏面(後面)に向けて噴射するための噴射口(オイルジェット孔)20cが形成されている。また、クランク軸30に供給された潤滑オイルは、コネクティングロッド34に形成された噴射口(図示せず)からピストン33およびシリンダ孔50aの内壁面などに向けて噴射される。ピストン33、シリンダ孔50aの内壁面およびクランク軸30に供給された潤滑オイルは、その自重により流れ落ちてオイルパン20aに戻る。なお、凹部61には潤滑オイルはほとんど付着しない。
【0059】
また、シリンダ部50の後面には、クランクケース20から送られてきた潤滑オイルを、ボルト孔51aとスタッドボルト35との隙間、および、ボルト孔52aとスタッドボルト35との隙間に、それぞれ後方から供給するための溝部(図示せず)が形成されている。
【0060】
ボルト孔51aとスタッドボルト35との隙間に後方から流入した潤滑オイルは、シリンダヘッド22に形成されたボルト孔(図示せず)とスタッドボルト35との隙間に流入する。シリンダヘッド22のボルト孔には、バルブ38、39と動弁機構40に潤滑オイルを供給するための複数の分岐路(図示せず)が接続されている。バルブ38、39および動弁機構40に供給された潤滑オイルは、チェーン室55に排出された後、潤滑オイルの自重により流れ落ちてオイルパン20aに戻る。
【0061】
ボルト孔52aとスタッドボルト35との隙間に後方から流入した潤滑オイルは、連通部50cを介してオイルジャケット50bに流入する。この潤滑オイルは、オイルジャケット50bに沿って周方向に流れた後、連通部50dを介してチェーン室55に排出される。チェーン室55に排出された潤滑オイルは、その自重により流れ落ちてオイルパン20aに戻る。オイルジャケット50bを流れる潤滑オイルの温度は、例えば80〜90℃程度である。オイルジャケット50bを流れる潤滑オイルは、シリンダボディ21の熱を奪う。
【0062】
エンジン12は、吸気行程と圧縮行程と燃焼行程と排気行程を順に繰り返す。燃焼行程において燃焼室26で発生した燃焼ガスは、排気行程で排気通路63から排出される。そのため、燃焼ガスによって、シリンダ孔50aの内壁面のうちシリンダヘッド22側の部分と、シリンダヘッド22の凹部61と、排気通路63の内壁面が加熱される。シリンダ部50のうち排気通路63とシリンダ軸線方向(A1方向)に並ぶ部分(即ち、排気通路63の後方の部分)は、シリンダ孔50aの内壁面から伝わる熱と、排気通路63から伝わる熱の両方によって加熱される。
【0063】
図6に示す実施例1のグラフは、本実施形態のエンジン12のシリンダ孔50aの内壁面の周方向位置と温度との関係を示している。
図6のグラフの横軸は、
図4に示すシリンダ軸線C1の真上の位置P1から
図4中の時計回りの角度を示しており、縦軸はその角度位置でのシリンダ孔50aの内壁面の温度を示している。なお、シリンダ孔50aの内壁面の温度とは、具体的には、シリンダ孔50aの内壁面より1.5mm径方向外側の位置の温度である。また、
図6に示す比較例1のグラフは、オイルジャケットを設けず、その他の構成は本実施形態のエンジン12とほぼ同じである場合の結果を示している。また、
図6に示す比較例2のグラフは、本実施形態のオイルジャケットの周方向範囲をシリンダ部50のほぼ全周に変更して、その他の構成は本実施形態のエンジン12とほぼ同じである場合の結果を示している。
【0064】
オイルジャケットを設けない比較例1では、シリンダ孔50aの内壁面は、フィン部54からの放熱によってのみ熱が奪われる。そのため、
図6に示すように、シリンダ孔50aの内壁面のうち、外周側にフィン部54が設けられていないチェーン室55側の部分(位置P1からの角度が90°の部分付近)は高温となる。また、排気通路63側の部分(位置P1からの角度が180°の部分付近)は、その外周側にフィン部54が設けられているものの、燃焼ガスから伝わる熱量が最も多いため、チェーン室55側の部分と同様に高温となる。
【0065】
図6に示すように、オイルジャケットを全周に設けた比較例2では、シリンダ孔50aの内壁面のうち、外周側にフィン部54が設けられていないチェーン室55側の部分は、オイルジャケットを全く設けない比較例1よりも温度が低下する。また、オイルジャケットを全周に設けたことにより、排気通路63側の部分、吸気通路62側の部分、および、チェーン室55と反対側の部分において、シリンダ孔50aの内壁面とフィン部54との間の径方向の熱伝達がオイルジャケットによって遮断されることになる。高温になりやすい部分である排気通路63側の部分は、オイルジャケットによる温度低減効果がフィン部54による温度低減効果よりも高いため、オイルジャケット50bを設けたことにより、オイルジャケットを設けない比較例1よりも温度を低下させることができる。その一方、吸気通路62側の部分およびチェーン室55と反対側の部分は、元々の温度が低いことから、オイルジャケットによる温度低減効果がフィン部54による温度低減効果よりも低いため、オイルジャケットを設けたことにより、オイルジャケットを設けない比較例1よりも温度が高くなってしまう。したがって、比較例2では、シリンダ孔50aの内壁面の温度が周方向に均一化される。
【0066】
これに対して、実施例1(本実施形態)では、オイルジャケット50bを、吸気通路62側の部分およびチェーン室55と反対側の部分には設けずに、排気通路63側の部分およびチェーン室55側の部分に設けている。そのため、オイルジャケットを全周に設けた比較例2と同様の理由により、シリンダ孔50aの内壁面のうちチェーン室55側の部分および排気通路63側の部分は、オイルジャケットを全く設けない比較例1よりも温度を低下させることができる。また、吸気通路62側の部分およびチェーン室55と反対側の部分には潤滑オイルを使用しないため、その分の潤滑オイルを、排気通路63側の部分およびチェーン室55側の部分に使うことができる。その結果、排気通路63側の部分およびチェーン室55側の部分の温度を、オイルジャケットを全周に設けた比較例2よりも低下させることができる。
【0067】
また、吸気通路62側の部分およびチェーン室55と反対側の部分は、上述したように、オイルジャケットによる温度低減効果がフィン部54による温度低減効果よりも低いため、この部分にオイルジャケット50bを設けないことにより、オイルジャケットを全周に設けた比較例2に比べて温度を低下させることができる。また、排気通路63側の部分およびチェーン室55側の部分の温度を、比較例1よりも低下させることができるため、吸気通路62側の部分およびチェーン室55と反対側の部分の部分に、排気通路63側の部分およびチェーン室55側の部分から伝わる熱量を低減できる。そのため、吸気通路62側の部分およびチェーン室55と反対側の部分の温度を、オイルジャケットを全く設けない比較例1よりも低下させることができる。
【0068】
シリンダ孔50aの内壁面の温度が高いほど、内壁面において潤滑オイルが蒸発しやすいため、潤滑オイルの消費量は多くなる。
図16のグラフは、シリンダ孔の内壁面の温度が高いほど、潤滑オイルの消費量が多くなることを実証するグラフである。このグラフは、複数種類のエンジンを用いてテストベンチで測定した結果と、その近似曲線を示している。グラフ中のプロットcは、本実施施形態のエンジン12を用いて測定した結果である。グラフ中のプロットaは、シリンダボディの全周にわたってウォータージャケットが形成され且つファンを有しない水冷式のエンジンにおいて測定した結果である。グラフ中のプロットdは、シリンダボディの全周にわたってオイルジャケットが形成され且つファンを有しない油冷式のエンジンにおいて測定した結果である。グラフ中のプロットbとプロットeは、シリンダボディにオイルジャケットやウォータージャケットが形成されていない、強制空冷式のエンジンにおいて測定した結果である。プロットbとプロットeでは、ファン(31)の構成(例えば羽根の枚数)が違っているため、ファン(31)により発生する空気量が異なる。プロットcとプロットeのファン31の風量は同じである。したがって、プロットcとプロットeで用いたエンジンの違いは、オイルジャケット50bの有無だけである。
【0069】
図16のグラフのプロットa〜eは、所定の運転条件で、所定時間エンジンを運転して測定した結果である。潤滑オイルの消費量は、試験運転の前後のエンジン内の潤滑オイルの重量を比較することで測定した。
図16の縦軸は、単位時間あたりの潤滑オイルの消費量を示している。また、
図16の横軸は、エンジンの運転中のシリンダ孔の内壁面の温度、詳細には、内壁面よりも1.5mm径方向外側の位置の温度を示している。より詳細には、周方向において最も高温となる、排気通路(63)およびチェーン室(55)の近傍の温度を表示している。試験運転時の潤滑オイルの温度は、125±5℃である。また、テストベンチの試験であるため、走行による空気流および自然風はない。
【0070】
また、上述した所定の運転条件とは、エンジンが高負荷で運転され、且つ、混合ガスの空燃比が理論空燃比(空気過剰率λ=1であるとき)となる条件である。ここでの高負荷とは、エンジン回転速度およびスロットル弁の開度(以下、スロットル開度という)が以下の条件を満たすことである。高負荷でのエンジン回転速度は、エンジン回転速度の全領域を3つの領域(低速度域・中速度域・高速度域)に均等に分けたときの中速度域または高速度域に含まれる。高負荷でのスロットル開度は、スロットル開度の全領域を3つの領域(小開度域・中開度域・大開度域)に均等に分けたときの中開度域または大開度域に含まれる。また、運転条件に空気過剰率λ=1が含まれるのは、以下の2つの理由からである。燃料噴射量が多く、空気過剰率λが1を下回ると、過剰燃料の蒸発に伴う冷却のバラツキによって、シリンダ孔の内壁面の温度の再現性が悪くなる。空気過剰率λ=1のときには、エンジン負荷とシリンダ孔の内壁面の温度が明確な比例関係にあり、データの再現性が高い。これが1つ目の理由である。また空気過剰率λが1を下回ると、噴射された燃料の一部が燃焼されずにシリンダ孔内に溜まる。この未燃燃料が潤滑オイルと混じるため、エンジン内の潤滑オイルの重量を正確に測定できなくなる。これが2つ目の理由である。
【0071】
図6の実施例1と比較例1、および、
図16のプロットc、eから明らかなように、本実施形態のエンジン12(実施例1、プロットc)は、オイルジャケット50bを設けない場合(比較例1、プロットe)に比べて、シリンダ孔の内壁面の温度が低い。したがって、本実施形態のエンジン12は、オイルジャケット50bを設けない場合に比べて、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制できる。そのため、
図16に示すように、実施形態のエンジン12(プロットc)は、オイルジャケット50bを設けない場合(プロットe)に比べて、潤滑オイルの消費量を低減できる。
【0072】
言い換えると、
図16の結果から、実施形態のエンジン12(プロットc)は、オイルジャケット50bを設けない場合(プロットe)に比べて、シリンダ孔の内壁面の温度が低く、且つ、潤滑オイルの消費量が少ない。このことから、実施形態のエンジン12は、オイルジャケット50bを設けない場合に比べて、シリンダ孔の内壁面における潤滑オイルの蒸発が少ないといえる。なお、潤滑オイルの消費量は、エンジンを上述した所定の運転条件で運転する前後で測定して得た値であれば、その測定方法の詳細は特に限定されない。
【0073】
なお、本実施形態では、フィン部54とオイルジャケット50bが、本発明のオイル蒸発抑制部に相当する。
【0074】
以上説明した本実施形態のエンジン12は、以下の特徴を有する。
本実施形態のエンジン12は、フィン部54と、このフィン部54の周方向範囲よりも小さい周方向範囲に形成され、且つ、内部を潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケット50bとを含むオイル蒸発抑制部を備えている。オイル蒸発抑制部は、シリンダボディ21にフィン部54とオイルジャケット50bを設けるという技術思想と、オイルジャケット50bの周方向範囲をフィン部54の周方向範囲よりも小さく形成するという技術思想によって成り立っている。
シリンダ孔50aの内壁面の温度は周方向にムラが生じやすい。シリンダ孔50aの内壁面の温度が高温になりやすい周方向一部分にオイルジャケット50bを設けることにより、当該周方向一部分にフィン部だけを設けてオイルジャケットを設けない場合(比較例1)に比べて、シリンダ孔の内壁面における当該周方向一部分の温度を低下できる。
また、オイルジャケット50bは、フィン部54の周方向範囲よりも小さい周方向範囲に設けられる。そのため、シリンダ孔50aの内壁面の温度が高温になりやすい周方向一部分にオイルジャケット50bを設けて、温度が比較的低くなりやすい部分にはオイルジャケット50bを設けない構成にできる。それにより、オイルジャケットをシリンダボディの全周に設ける場合(比較例2)に比べて、シリンダ孔50aの内壁面の周方向全域の温度を低下させることができると共に、シリンダ孔50aの内壁面のうち高温になりやすい周方向一部分の温度をより低下させることができる。
【0075】
また、従来、シリンダヘッドにのみオイルジャケットを設けた空冷式エンジンがある。本実施形態では、シリンダボディ21にオイルジャケット50bを設けるため、この従来の空冷式エンジンに比べて、シリンダ孔50aに近い位置にオイルジャケット50bを設けることができる。そのため、シリンダ孔50aの内壁面の温度を効率的に低下させることができる。
【0076】
以上のように、本実施形態のエンジン12は、シリンダボディ21にフィン部54とオイルジャケット50bを設けるという技術思想と、オイルジャケット50bの周方向範囲をフィン部54の周方向範囲よりも小さく形成するという技術思想によって成り立つオイル蒸発抑制部を備えることにより、シリンダ孔50aの内壁面の周方向全域の温度を低下させると共に、内壁面のうち高温になりやすい周方向一部分の温度をより低下させることができる。そのため、シリンダ孔50aの内壁面に付着した潤滑オイルの蒸発を抑制することができ、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0077】
また、シリンダ孔50aの内壁面の温度を低下させるために、エンジンが元々備えている潤滑オイルを利用しているため、水冷式エンジンに比べて製造コストの増加を抑えることができる。
したがって、本実施形態のエンジン12は、製造コストの増加を抑えつつ、潤滑オイルの消費量を低減できる。
【0078】
また、オイルジャケット50bをシリンダボディ21の周方向一部にのみ設けることで、オイルジャケットをシリンダボディの全周に設ける場合よりも製造コストを抑えることができる。オイルジャケットをシリンダボディの全周に設けると、例えば、シリンダボディの強度の確保やオイルの流路の確保のために、エンジンの構造が複雑になったり、オイルポンプが大型化するためである。
【0079】
また、燃焼室26内で蒸発した潤滑オイルは、燃焼ガスと共に排気通路63を介して排気管16に排出される。排気管16に流入した潤滑オイルは、排気管16の途中に配置された三元触媒(図示せず)を被毒する。本実施形態では、シリンダ孔50aの内壁面に付着した潤滑オイルの蒸発を抑制することで、三元触媒の被毒を抑制できる。
【0080】
また、シリンダ孔50aの内壁面は、シリンダヘッド22に近い位置が比較的高温となりやすい。本実施形態では、オイルジャケット50bは、ピストン33の上死点と下死点の中間位置よりもシリンダヘッド22側に設けられる。そのため、シリンダ孔50aの内壁面のうち高温となりやすい部分の温度をより低下させることができる。したがって、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0081】
また、オイルジャケット50bは、周方向において吸気通路62よりも排気通路63に近い位置に設けられているため、シリンダ孔50aの内壁面のうち高温となりやすい箇所の温度を効果的に低下させることができる。したがって、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0082】
また、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線C1に対してシュラウド24の空気流入口24aと反対側に設けられている。つまり、フィン部54を設けてもシリンダ孔50aの内壁面の温度低減効果が低い箇所に、オイルジャケット50bを設けている。そのため、オイルジャケット50bとフィン部54によって、シリンダ孔50aの内壁面全体の温度を効率よく低下させることができる。したがって、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0083】
従来のエンジンでは、粘度の高い潤滑オイルが使用されていた。具体的には、SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wかそれよりも高い潤滑オイルが用いられていた。潤滑オイルの粘度が高いほど、潤滑オイルの蒸発温度が高く、蒸発しにくい。そのため、従来のエンジンでは、潤滑オイルの蒸発による潤滑オイルの消費は問題とならなかった。
ところが、近年では、燃費向上のために、粘度の低い潤滑オイルがエンジンに使用されるようになった。それにより、潤滑オイルが蒸発しやすくなり、潤滑オイルの消費量が多くなるという問題が発生した。
【0084】
本実施形態のエンジン12は、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制するオイル蒸発抑制部(オイルジャケット50bとフィン部54)を備えている。そのため、潤滑オイルとして、SAE粘度分類による低温粘度グレードが20Wよりも低い潤滑オイルを用いても、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制できる。
また、潤滑オイルの粘度が低いほど、オイルジャケット50bを流れる潤滑オイルの単時間当たりの流量が多くなり、シリンダ孔50aの内壁面の温度をより低下させることができる。したがって、潤滑オイルの低温粘度グレードが20Wよりも低いことにより、オイル蒸発抑制部によるシリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発を抑制する効果をより高めることができる。
【0085】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。但し、上記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。本実施形態は、
図7に示す自動二輪車201のエンジンに本発明の空冷式単気筒エンジンを適用した一例である。以下の説明で用いる前後方向および左右方向の定義は、第1実施形態と同様である。
【0086】
[自動二輪車201の全体構成]
図7に示すように、本実施形態の自動二輪車201は、いわゆるアンダーボーン型の自動二輪車である。自動二輪車201は、前輪202と、後輪203と、車体フレーム204とを備えている。車体フレーム204は、全体として前後方向に延びた形態である。
【0087】
車体フレーム204は、その前部にヘッドパイプ204aを有する。ヘッドパイプ204aには、ステアリングシャフト(図示せず)が回転可能に挿入されている。ステアリングシャフトの上端部は、ハンドルユニット206に連結されている。また、ステアリングシャフトの下端部は、一対のフロントフォーク207に連結されている。フロントフォーク207の下端部は、前輪202を支持している。
【0088】
車体フレーム204には、一対のスイングアーム216が揺動可能に支持されている。スイングアーム216の後端部は、後輪203を支持している。各スイングアーム216の揺動中心より後方の箇所と車体フレーム204との間にはリヤサスペンション214が取り付けられている。
【0089】
車体フレーム204の上部には、シート208と燃料タンク(図示せず)が支持されている。また、車体フレーム204には、車体フレーム204などを覆う車体カバー210が支持されている。燃料タンクは、シート208の下方に配置されており、シート208と車体カバー210によって覆われている。
【0090】
車体フレーム204および車体カバー210は、ヘッドパイプ204aとシート208の間の部分が低くなっている。これにより、ヘッドパイプ204aとシート208との間で、且つ、車体フレーム204の上方に、スペースが形成されている。このスペースにより、ライダーは車体を跨ぎやすくなっている。
【0091】
車体フレーム204には、エンジンユニット211が搭載されている。エンジンユニット211は、車体フレーム204の下方に配置されており、車体フレーム204に吊り下げられた状態で支持されている。エンジンユニット211の前部は、左右両側方から車体カバー210に覆われている。エンジンユニット211の左右両側には、フットレスト209が配置されている。左右のフットレスト209は、棒状の部材を介して、エンジンユニット211の下面に支持されている。
【0092】
車体カバー210は、車体フレーム204の前方に配置されたフロントカバー270と、フロントカバー270の後端に連結されたボディカバー271と、前輪202の上方および後方に配置されたフロントフェンダー272と、後輪203の上斜め後方に配置されたリヤフェンダー273とを有する。
【0093】
フロントカバー270は、フロントフェンダー272の上方に配置されたフロントカウル部270aと、フロントカウル部270aの下方に配置された左右一対のレッグシールド部270bによって構成されている。フロントカウル部270aは、ヘッドパイプ204aを前方から覆っている。
【0094】
レッグシールド部270bは、フロントカウル部270aの下端から下斜め後方に延びている。レッグシールド部270bは、シート208に着座したライダーの脚の前方に配置される。
図8に示すように、一対のレッグシールド部270bの間には、スペースが形成されている。レッグシールド部270bは、左右方向に垂直な面に対して傾斜している。本実施形態では、一対のレッグシールド部270b(特にレッグシールド部270bの上部および下部)は、後方に向かうほど左右方向に離れるように傾斜している。
【0095】
ボディカバー271の前側下部は、前後方向から見て二股状に形成されている。この二股形状の先端部分をレッグシールド部271aとする。ボディカバー271のレッグシールド部271aは、フロントカバー270のレッグシールド部270bの下部に連結されている。エンジンユニット211の前部の左右側面は、フロントカバー270のレッグシールド部270bの下部と、ボディカバー271のレッグシールド部271aによって覆われている。以下の説明において、フロントカバー270のレッグシールド部270bと、これに連結されるボディカバー271のレッグシールド部271aを合わせたものを、レッグシールドと称する場合がある。
【0096】
[エンジンユニット211の構成]
エンジンユニット211は、自然空冷式のエンジンユニットである。また、エンジンユニット211は、OHC(Over Head Camshaft)型の4サイクル単気筒エンジンユニットである。エンジンユニット211は、本発明の空冷式単気筒エンジンに相当する。
【0097】
図9に示すように、エンジンユニット211は、クランクケース220と、クランクケース220の前端部に取り付けられたシリンダボディ221と、シリンダボディ221の前端部に取り付けられたシリンダヘッド222と、シリンダヘッド222の前端部に取り付けられたヘッドカバー223とを備えている。なお、
図9は、エンジンユニット211の上面図であって、シリンダボディ221のみ断面を示している。
【0098】
クランクケース220には、左右方向に延びるクランク軸230が収容されている。クランク軸230は、クランクケース220に対して回転可能に支持されている。また、クランクケース220には、クランク軸230の右端部に連結された変速機構245が収容されている。なお、
図9では、変速機構245の構成部品の一部のみを破線で表示している。変速機構245が有するドライブ軸246の左端部は、クランクケース220から突出している。ドライブ軸246の左端部には、スプロケット247が設けられている。このスプロケット247と後輪203のスプロケット(図示せず)に、動力伝達部材としてチェーン248が巻き掛けられている。また、クランクケース220には、クランク軸230の左端部に取り付けられたフライホイールマグネト249が収容されている。
【0099】
図示は省略するが、クランクケース220の下部には、潤滑オイルを貯留するオイルパンが形成されている。また、クランクケース220は、オイルパンに貯留された潤滑オイルを吸い上げるオイルポンプ(図示せず)を収容している。潤滑オイルは、このオイルポンプにより圧送されて、エンジンユニット211内を循環する。
【0100】
シリンダボディ221は、クランクケース220の前端面に接続されている。シリンダボディ221は、フィン部254の構成が、第1実施形態のフィン部54と異なっており、その他の構成は、第1実施形態のシリンダボディ21とほぼ同様である。シリンダ軸線C2(シリンダ孔50aの中心軸)は、前後方向に延びている。詳細には、シリンダ軸線C2は、第1実施形態と同様に、シリンダ部50の前端(シリンダヘッド222側の端部)が後端(クランクケース220側の端部)より上方に位置するように前後方向に対して若干傾いている。
図7では、シリンダ軸線C2の前後方向(水平方向)に対する傾斜角度は、約10度であるが、0度以上45度以下の範囲内であればよい。シリンダ部50の内側に配置されるピストン33等の構成は、第1実施形態と同様である。
【0101】
フィン部254は、シリンダボディ221の外周部の周方向一部に形成されている。シリンダ軸線C2を中心とした周方向において、フィン部254の形成範囲は、第1実施形態のフィン部54の形成範囲と同じである。つまり、フィン部254は、周方向において、シリンダボディ221の左面(チェーン室形成部53の外表面)を除く部分に形成されている。したがって、左右方向において、シリンダ軸線C2の左方には、フィン部254の一部が配置され、シリンダ軸線C2の右方には、オイルジャケット50bの一部が配置される。また、本実施形態のフィン部254は、シリンダ軸線C2の方向において、シリンダボディ221のほぼ全域に形成されている。走行中、一対のレッグシールド(270bと271a)の間に前方から流入した空気がフィン部254と接触することにより、シリンダボディ221はフィン部254から放熱する。
【0102】
シリンダヘッド222は、ガスケット25を介して、シリンダボディ221の前端面に接続されている。シリンダヘッド222の後面には、シリンダ孔50aと共に燃焼室26を区画する凹部61が形成されている。本実施形態のシリンダヘッド222の外表面には、ヘッドフィン部は設けられていない。シリンダヘッド222の前部は、ヘッドカバー223によって覆われている。シリンダヘッド222とヘッドカバー223の内部の構成は、第1実施形態とほぼ同様である。
【0103】
本実施形態のエンジンユニット211では、オイルポンプから圧送された潤滑オイルは変速機構245に供給される。この点以外は、エンジンユニット211における潤滑オイルの流れは、第1実施形態とほぼ同じである。本実施形態では、フィン部254とオイルジャケット50bが、本発明のオイル蒸発抑制部に相当する。
【0104】
以上説明した本実施形態のエンジンユニット211は、フィン部254と、このフィン部254の周方向範囲よりも小さい周方向範囲に形成され、且つ、内部を潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケット50bとを含むオイル蒸発抑制部を備えている。そのため、第1実施形態のエンジン12と同様に、製造コストを抑えつつ、シリンダ孔50aの内壁面に付着した潤滑オイルの蒸発を抑制することができ、潤滑オイルの消費量をより低減できる。その他、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態で述べた効果を奏する。
【0105】
また、本実施形態のエンジンユニット211では、フィン部254とオイルジャケット50bが、シリンダ軸線C2の左右方向(車両幅方向)車両幅方向の両側で且つ左右一対のレッグシールド(270bと271a)の間に配置されている。仮に、フィン部254がシリンダ軸線C2の左右両側に設けられた場合、フィン部254とレッグシールド(270bと271a)との隙間が小さくなる。これにより、フィン部254とレッグシールド(270bと271a)との隙間を通過する空気量が低減するため、フィン部254によるシリンダ孔50aの内壁面の温度低減効果が低下してしまう。これに対して本実施形態では、シリンダ軸線C2の右方にのみ、フィン部254が設けられ、シリンダ軸線C2の左方には、レッグシールド(270bと271a)との間に隙間を必要としないオイルジャケット50bが設けられている。そのため、フィン部254とレッグシールド(270bと271a)との隙間を大きく確保することができ、フィン部254によるシリンダ孔50aの内壁面の温度低減効果を向上できる。したがって、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0106】
なお、本実施形態では、フロントカバー270のレッグシールド部270bとボディカバー271のレッグシールド部271aが、本発明のレッグシールドを構成しているが、本発明の一対のレッグシールドは、車体フレーム204およびエンジンユニット211の左右両側に配置されるものであって、且つ、シート8に着座したライダーの脚の前方に配置されるものであれば、形状は特に限定されない。
【0107】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。但し、上記第1実施形態および第2実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。本実施形態は、
図10に示す自動二輪車301のエンジンに本発明の空冷式単気筒エンジンを適用した一例である。以下の説明で用いる前後方向および左右方向の定義は、第1実施形態と同様である。
【0108】
[自動二輪車301の全体構成]
図10に示すように本実施形態の自動二輪車301は、スポーツタイプの自動二輪車である。なお、本実施形態のエンジンは、オンロード型のモーターサイクルに適用してもよく、オフロード型のモーターサイクルに適用してもよい。自動二輪車301は、前輪302と、後輪303と、車体フレーム304とを備えている。車体フレーム304は、全体として前後方向に延びた形態である。
【0109】
車体フレーム304は、その前部にヘッドパイプ304aを有する。ヘッドパイプ304aには、ステアリングシャフト(図示せず)が回転可能に挿入されている。ステアリングシャフトの上端部は、ハンドルユニット306に連結されている。ハンドルユニット306には、一対のフロントフォーク307の上端部が固定されている。フロントフォーク307の下端部は、前輪302を支持している。
【0110】
車体フレーム304には、一対のスイングアーム316が揺動可能に支持されている。スイングアーム316の後端部は、後輪303を支持している。各スイングアーム316の揺動中心より後方の箇所と車体フレーム304との間にはリヤサスペンション314が取り付けられている。
【0111】
車体フレーム304の上部には、シート308と燃料タンク317が支持されている。燃料タンク317は、シート308の前方に配置されている。また、車体フレーム304には、車体フレーム304などを覆う車体カバー310が支持されている。
【0112】
また、車体フレーム304には、エンジンユニット311が搭載されている。エンジンユニット311は、燃料タンク317の下方に配置されている。エンジンユニット311は、その上端部が車体カバー310で覆われているものの大部分が外部に露出している。エンジンユニット311の左右両側には、フットレスト309が配置されている。左右のフットレスト309は、棒状の部材を介して、エンジンユニット311の下面に支持されている。
【0113】
[エンジンユニット311の構成]
エンジンユニット311は、自然空冷式のエンジンユニットである。また、エンジンユニット311は、OHC(Over Head Camshaft)型の4サイクル単気筒エンジンユニットである。エンジンユニット311は、本発明の空冷式単気筒エンジンに相当する。
【0114】
図11に示すように、エンジンユニット311は、クランクケース320と、クランクケース320の上端部に取り付けられたシリンダボディ321と、シリンダボディ321の上端部に取り付けられたシリンダヘッド322と、シリンダヘッド322の上端部に取り付けられたヘッドカバー323とを備えている。なお、
図11は、エンジンユニット311の上面図であって、シリンダボディ321のみ断面を表示している。
【0115】
クランクケース320の内部の構造は、第2実施形態とほぼ同様である。シリンダボディ321は、クランクケース320の上端面に接続されている。シリンダボディ321は、フィン部354の構成が、第1実施形態のフィン部54と異なっており、その他の構成は、第1実施形態のシリンダボディ21とほぼ同様である。本実施形態では、シリンダ軸線C3(シリンダ孔50aの中心軸)は、上下方向に延びている。詳細には、シリンダ軸線C3は、シリンダ部50の上端(シリンダヘッド322側の端部)が下端(クランクケース320側の端部)より前方に位置するように上下方向に対して若干傾いている。
図10では、シリンダ軸線C3の上下方向に対する傾斜角度は、約20度であるが、0度以上45度以下の範囲内であればよい。シリンダ部50の内側に配置されるピストン33等の構成は、第1実施形態と同様である。
【0116】
本実施形態のエンジンユニット311は、第2実施形態のエンジンユニット211を、左右方向の向きを維持したまま、上下方向および前後方向に傾きを変えた場合に対応している。つまり、本実施形態のエンジンユニット311において第2実施形態と同じ構成のものは、第2実施形態のエンジンユニット211を、左右方向の向きを維持したまま、上下方向および前後方向に傾きを変えた場合と同じ配置位置となっている。したがって、本実施形態では、オイルジャケット50bは、シリンダボディ221の左側部分と前側部分に形成されている。
【0117】
図12に示すように、フィン部354は、シリンダボディ321の外周部のほぼ全周に形成されている。つまり、本実施形態のフィン部354は、シリンダボディ321の左面(チェーン室形成部53の外表面)にも形成されている。また、第2実施形態と同様に、フィン部354は、シリンダ軸線C3の方向において、シリンダボディ321のほぼ全域に形成されている。走行中、自動二輪車301に対して前後方向に流れる空気がフィン部354と接触することにより、シリンダボディ321はフィン部354から放熱する。
【0118】
シリンダヘッド322は、ガスケット25を介して、シリンダボディ321の上端面に接続されている。シリンダヘッド322の下面には、シリンダ孔50aと共に燃焼室26を区画する凹部61が形成されている。シリンダヘッド322の外表面には、ヘッドフィン部365が形成されている。ヘッドフィン部365は、シリンダ軸線C3を中心とした周方向においてシリンダヘッド322のほぼ全域に形成されている。また、ヘッドフィン部365は、シリンダ軸線C3の方向において、シリンダヘッド322のほぼ全域に形成されている。
【0119】
シリンダヘッド322の前部は、ヘッドカバー323によって覆われている。シリンダヘッド322とヘッドカバー323の内部の構成は、第1実施形態とほぼ同様である。本実施形態では、シリンダ軸線C3が上下方向に延びているため、吸気通路62は、シリンダヘッド322の後側部分に形成されており、排気通路63は、シリンダヘッド322の前側部分に形成されている。
【0120】
本実施形態のエンジンユニット311における潤滑オイルの流れは、第2実施形態と同様である。本実施形態では、フィン部354とオイルジャケット50bが、本発明のオイル蒸発抑制部に相当する。
【0121】
以上説明した本実施形態のエンジンユニット311は、フィン部354と、このフィン部354の周方向範囲よりも小さい周方向範囲に形成され、且つ、内部を潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケット50bとを含むオイル蒸発抑制部を備えている。そのため、第1実施形態のエンジン12と同様に、製造コストを抑えつつ、シリンダ孔50aの内壁面に付着した潤滑オイルの蒸発を抑制することができ、潤滑オイルの消費量をより低減できる。その他、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態で述べた効果を奏する。
【0122】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。また、後述する変更例は適宜組み合わせて実施することができる。なお、本明細書において「好ましい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいがこれに限定されるものではない」ということを意味するものである。
【0123】
上記第1および第2実施形態では、シリンダボディ21、221のフィン部54、254は、シリンダ軸線を中心とした周方向において、チェーン室55側の部分以外の部分に設けられているが、フィン部54、254の周方向に関する位置は、これに限定されるものではない。例えば、フィン部54、254をシリンダボディの全周に設けてもよい。
また、上記第3実施形態では、シリンダボディ321のフィン部354は、シリンダボディ321の全周に設けられているが、フィン部354の周方向に関する位置は、これに限定されるものではない。例えば、フィン部354をチェーン室55側の部分以外の部分に設けてもよい。
【0124】
上記第1〜第3実施形態では、シリンダヘッド22、322の外表面にヘッドフィン部65、365が設けられているが、ヘッドフィン部65、365の形成位置(シリンダ軸線を中心とした周方向に関する位置、および、シリンダ軸線方向に関する位置)は、上記第1〜第3実施形態のものに限定されない。また、ヘッドフィン部は設けなくてもよい。
【0125】
上記第1〜第3実施形態では、シリンダ部50のシリンダヘッド22側の端面に溝部を形成することで、オイルジャケット50bを形成しているが、本発明のオイルジャケットの構成はこれに限定されない。例えば
図13に示すシリンダボディ421は、シリンダ孔50aを形成するシリンダ部421aと、シリンダ部421aの外周に配置される本体部421bとによって構成される。本体部421bの内周面のシリンダヘッド222側の端部には、周方向に延びる切欠き450bが形成されている。この切欠き450bとシリンダ部421aの外周面とによって、オイルジャケット421cが形成されている。
【0126】
上記第1〜第3実施形態では、オイルジャケット50bは、シリンダボディ21、221、321のシリンダヘッド22、222、322側の端部に設けられているが、オイルジャケット50bのシリンダ軸線方向に関する位置は、これに限定されるものではない。オイルジャケットは、シリンダ軸線方向において、シリンダヘッドのシリンダヘッド側の端面から、シリンダヘッドと反対側に離れた位置に形成されていてもよい。但し、オイルジャケットは、ピストン33の上死点と下死点の中間位置よりも、シリンダヘッド側に設けることが好ましい。例えば、
図13のシリンダボディ421の本体部421bの内周面に切欠き450bを形成する代わりに、本体部421bの内周面に周方向に延びる溝を形成することで、この変更例は実施可能である。
【0127】
上記第1〜第3実施形態では、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線方向から見て、時計の約2時の位置から約7時の位置までの範囲に設けられているが、オイルジャケット50bのシリンダ軸線を中心とした周方向に関する位置は、これに限定されるものではない。オイルジャケットの周方向範囲が、シリンダボディのフィン部の周方向範囲よりも小さければ、オイルジャケットはどの位置に設けられていてもよい。オイルジャケットは、シリンダ軸線を中心とした周方向において吸気通路62よりも排気通路63に近い位置に設けることが好ましい。
【0128】
上記第1〜第3実施形態では、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線を中心とした周方向において、チェーン室55の周方向範囲のほぼ全域に設けられているが、オイルジャケット50bは、当該周方向範囲の一部分のみと重なる周方向範囲に設けてもよく、当該周方向範囲と重ならない周方向範囲に設けてもよい。
【0129】
上記第1〜第3実施形態では、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線を中心とした周方向において、排気通路63の周方向範囲の全域に設けられているが、オイルジャケット50bは、排気通路63の周方向範囲の一部分のみと重なる周方向範囲に設けてもよく、排気通路63の周方向範囲と重ならない周方向範囲に設けてもよい。例えば、オイルジャケットは、シリンダ軸線を中心とした周方向において、吸気通路62と排気通路63の中間の位置に設けてもよい。
【0130】
第3実施形態に上記の変更例を適用した場合、以下の効果を奏する。
第3実施形態では、シリンダ軸線が上下方向に延びている。そのため、走行時の風向きはシリンダ軸線に交差する方向となり、シリンダボディ321の外表面のうち前面(排気通路63側の面)が最も風を受ける。したがって、第3実施形態の変更例として、オイルジャケット50bが、シリンダ軸線を中心とした周方向において排気通路63の周方向範囲と重ならない周方向範囲に設けられた場合、フィン部354によって効率的にシリンダ孔50aの内壁面の温度を低下させることができる。
【0131】
上記第1〜第3実施形態では、シリンダボディ21、221、321のオイルジャケット50bは、シリンダ軸線方向に連続した1つの空間を形成しているが、オイルジャケットは、シリンダ軸線方向に並んで形成された複数の空間を形成していてもよい。例えば、
図13のシリンダボディ421の本体部421bの内周面に、切欠き450bとシリンダ軸線方向に並ぶように、周方向に延びる溝部を形成することで、この変更例は実施可能である。
【0132】
上記第1〜第3実施形態では、シリンダボディ21、221、321のオイルジャケット50bは、シリンダ軸線を中心とした周方向に連続した1つの空間を形成しているが、オイルジャケットは、シリンダ軸線を中心とした周方向に並んで形成された複数の空間を形成していてもよい。
【0133】
上記第1〜第3実施形態では、シリンダボディ21、221、321にのみオイルジャケット50bが設けられているが、例えば
図14および
図15に示すように、シリンダヘッド(522)にも、潤滑オイルが充満状態で流れるオイルジャケット(以下、ヘッドオイルジャケットという)(566a)を設けてもよい。ヘッドオイルジャケットは、凹部61の外側に潤滑オイルを流す構成であれば、位置は特に限定されない。ヘッドオイルジャケットは、例えば
図14および
図15に示すように、シリンダボディ(21)のオイルジャケット(50b)と同じ周方向範囲に設けてもよい。また、ヘッドオイルジャケットは、凹部61とシリンダ軸線方向に重なる領域に設けてもよい。ヘッドオイルジャケットは、シリンダ軸線を中心とした周方向において、吸気通路62よりも排気通路63に近い位置に設けることが好ましい。
【0134】
シリンダヘッドにヘッドオイルジャケットを設ける場合、シリンダヘッドの外表面にヘッドフィン部を設けることが好ましい。これにより熱源であるシリンダヘッドの温度をより低下させることができる。上述したように、凹部61には潤滑オイルはほとんど付着しないため、シリンダヘッドでは潤滑オイルの蒸発はほとんど生じない。しかし、シリンダヘッドは、シリンダボディよりも高温となるため、シリンダヘッドの温度を低下させることにより、シリンダヘッドからシリンダボディに伝わる熱量を低減することができる。そのため、シリンダ孔50aの内壁面の温度をより低下させることができ、潤滑オイルの蒸発を抑制できる。したがって、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0135】
また、シリンダヘッドにヘッドオイルジャケットを設けて、且つ、ピストン33の上死点と下死点の中間位置よりシリンダヘッド側においてシリンダボディにもオイルジャケットを設けた場合には、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットは、シリンダ軸方向に関して近い位置に設けられることになる。そのため、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットが離れた位置に設けられる場合に比べて、オイルジャケットとヘッドオイルジャケットに潤滑オイルを供給する構成を簡易化でき、エンジンを小型化できる。
【0136】
図14のシリンダヘッド522のヘッドオイルジャケット566aは、シリンダボディ21側の面に形成された溝部で構成されている。ヘッドオイルジャケット566aの周方向両端には、径方向外側に延びる2つの連通部566b、566cが形成されている。ヘッドオイルジャケット566aおよび2つの連通部566b、566cは、ガスケット25の孔を介して、シリンダボディ21のオイルジャケット50bおよび2つの連通部50c、50dと、それぞれシリンダ軸線方向に連通している。
【0137】
図15では、ガスケット625が
図14のガスケット25と異なっており、その他の構成は、
図14と同様である。ガスケット625は、オイルジャケット50bと対向する位置に孔が形成されていない。そのため、オイルジャケット50bとヘッドオイルジャケット566aは、ガスケット625により連通が遮断されている。
【0138】
なお、
図15では、ガスケット625は、2つの連通部50c、50dと対応する位置にも孔を有していないが、ガスケット625は、2つの連通部50c、50dの一方または両方と対応する位置に孔を有していてもよい。また、ガスケット625に、オイルジャケット50bの周方向範囲よりも小さい周方向範囲の孔を形成して、オイルジャケット50bの周方向一部とヘッドオイルジャケット566aの周方向一部を、シリンダ軸線方向に連通させてもよい。
【0139】
図14および
図15のように、オイルジャケット(50b)とヘッドオイルジャケット(566a)の周方向範囲が同じ場合、シリンダ孔50aの内壁面のうち特に高温になりやすい周方向領域に、オイルジャケット(50b)とヘッドオイルジャケット(566a)を設けることで、シリンダ孔50aの内壁面の温度をより低下させることができる。したがって、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
また、オイルジャケット(50b)とヘッドオイルジャケット(566a)の周方向範囲が同じであるため、オイルジャケット(50b)に潤滑オイルを供給する構成が、ヘッドオイルジャケット(566a)に潤滑オイルを供給する構成を兼ねることができるため、エンジンをより小型化できる。
【0140】
潤滑オイルの潤滑経路には、潤滑オイルを冷却するオイルクーラーが配置されていてもよい。走行風がオイルクーラーに当たることで、オイルクーラーを通過する潤滑オイルが冷却される。例えば
図17に示すように、オイルクーラー370が、エンジンユニット311より前方且つ上方に配置されて、図示しないパイプを介してエンジンユニット311に接続されていてもよい。また、オイルクーラーは、空冷式単気筒エンジンに直接取り付けられていてもよい。オイルクーラーを設けることで、シリンダ孔50a内に供給される潤滑オイルの温度を低下させることができる。そのため、シリンダ孔50aの内壁面における潤滑オイルの蒸発をより抑制でき、潤滑オイルの消費量をより低減できる。
【0141】
上記第1〜第
3実施形態では、シリンダヘッドに形成された凹部61とシリンダ孔50aの内面とピストン33によって燃焼室26は形成されているが、シリンダヘッドの燃焼室26を形成する部分は凹状でなくてもよい。
【0142】
上記第1〜第3実施形態では、シリンダボディ21、221、321、シリンダヘッド22、222、322、およびヘッドカバー23、223、323は、別部材であるが、これらのいずれか2つまたは3つが一体成形されていてもよい。
【0143】
上記第1〜第3実施形態では、カム軸41に設けられたスプロケット42と、クランク軸30に設けられたスプロケット43にタイミングチェーン44が巻き掛けられているが、クランク軸30の回転をカム軸41に伝達するための構成は上記に限定されない。カム軸41およびクランク軸30に設けられる回転体としてスプロケット42、43の代わりにプーリを設けて、動力伝達部材であるタイミングチェーン44の代わりに、タイミングベルトを用いてもよい。
【0144】
上記第1〜第3実施形態では、吸気通路62および排気通路63は、シリンダ軸線方向から見て上下方向または前後方向とほぼ平行に延びている(
図4等参照)が、吸気通路62および排気通路63の形状は、これに限定されない。
吸気通路62の凹部61に形成される開口端の位置が上記第1〜第3実施形態とほぼ同じであって、且つ、吸気通路62の反対側の開口がシリンダボディの下
面または前
面に形成されていれば、吸気通路62は、シリンダ軸線方向から見て湾曲していてもよく、シリンダ軸線方向から見て上下方向に対して傾斜するように直線状に延びていてもよい。
同様に、排気通路63の凹部61に形成される開口端の位置が上記第1〜第3実施形態とほぼ同じであって、且つ、排気通路63の反対側の開口がシリンダボディの上
面または後
面に形成されていれば、排気通路63は、シリンダ軸線方向から見て湾曲していてもよく、シリンダ軸線方向から見て上下方向に対して傾斜するように直線状に延びていてもよい。
この変更例の場合、オイルジャケット50bは、シリンダ軸線を中心とした周方向において、少なくとも、排気通路63のうちシリンダ孔50aと重なる部分の周方向範囲の全域に形成されていることが好ましい。
【0145】
上記第1〜第3実施形態では、吸気バルブ38は1つだけ設けられているが、吸気通路62が二股形状に形成され、2つの吸気バルブ38が左右方向に並んで設けられていてもよい。排気バルブ39についても同様に2つ設けられていてもよい。
【0146】
上記第1、第2実施形態では、シリンダ軸線方向は、前後方向に延びているが、上下方向に延びていてもよい。
また、上記第3実施形態では、シリンダ軸線方向は、上下方向に延びているが、前後方向に延びていてもよい。
【0147】
上記第1〜第3実施形態のエンジンまたはエンジンユニットは、空冷式のOHC型4サイクル単気筒エンジンであるが、これ以外の空冷式単気筒エンジンに本発明を適用してもよい。なお、本発明において空冷式エンジンとは、冷却方式として少なくとも空冷を有するエンジンという意味である。
【0148】
本発明の鞍乗型車両は、上記第1〜第3実施形態の自動二輪車に限定されるものでなない。なお、鞍乗型車両とは、乗員が鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指している。本発明の鞍乗型車両には、自動二輪車、三輪車、四輪バギー(ATV:AllTerrainVehicle(全地形型車両))、水上バイク、スノーモービル等が含まれる。