(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362704
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】効率的水素放出のために拘束された遷移金属が促進する光触媒系
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20180712BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20180712BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20180712BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20180712BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
B01J31/28 M
B01J35/02 J
B01J37/04 102
B01J37/03 Z
C01B3/04 A
C01B3/04 Z
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-539668(P2016-539668)
(86)(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公表番号】特表2016-536129(P2016-536129A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】IB2014064288
(87)【国際公開番号】WO2015033306
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年1月5日
(31)【優先権主張番号】61/874,063
(32)【優先日】2013年9月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514285966
【氏名又は名称】キング アブドラ ユニバーシティ オブ サイエンス アンド テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】599130449
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【弁理士】
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100133639
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 卓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】タカナベ,カズヒロ
(72)【発明者】
【氏名】イシムジャン,タイイルジャン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ウェイリ
(72)【発明者】
【氏名】デル ゴッボ,シルバノ
(72)【発明者】
【氏名】シュ,ウェイ
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−502148(JP,A)
【文献】
特開2001−239164(JP,A)
【文献】
特開2003−265962(JP,A)
【文献】
特開平10−226779(JP,A)
【文献】
JIN-OOK BAEG,A novel nanoscale semiconductor photocatalyst for solar hydrogen production,SPIE NEWSROOM,2008年 1月 1日,URL,http://dx.doi.org/10.1117/2.1200810.1328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初の半導体光触媒材料を形成するステップと、
前記最初の光触媒材料を、有機配位子を含む第1の溶液に曝し、前記有機配位子が表面に堆積した光触媒材料を形成するステップと、
前記有機配位子が堆積した前記光触媒材料を、金属水溶液に懸濁させ、金属−有機配位子種が堆積した光触媒材料を形成するステップと
を備え、
前記最初の光触媒材料がCdSからなり、
前記有機配位子が1,2−エタンジチオール(EDT)であり、
前記金属水溶液がNi2+からなる
光触媒の製造方法。
【請求項2】
前記最初のCdS光触媒材料が合成CdSナノ結晶からなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記有機配位子で前記光触媒材料の表面を確実に飽和させるために十分な時間、前記最初の光触媒材料が前記有機配位子を含む溶液に曝される請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記十分な時間が少なくとも約6時間である請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第1の溶液が1,2−エタンジチオール(EDT)のエタノール溶液である請求項1記載の方法。
【請求項6】
表面に前記有機配位子を有する前記光触媒材料が前記金属水溶液に懸濁される前に濾過される請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記光触媒材料を懸濁させるステップがさらに所定の時間、前記金属水溶液を撹拌するステップを備えた請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記所定の時間が少なくとも6時間である請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記光触媒が(1)H2Sからの水素放出、(2)水分解、(3)CO2還元ができる請求項1記載の方法。
【請求項10】
光触媒材料を準備するステップと、
ドーパント層を形成することなく遷移金属種を前記光触媒材料の表面に取り付けるために有機配位子を用いるステップと
を備え、
前記光触媒材料がCdSであり、
前記有機配位子が1,2−エタンジチオール(EDT)からなり、
前記遷移金属がNi2+からなる
H2Sを水素と硫黄に変換することが可能な光触媒の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属種を取り付けるために前記有機配位子を用いる前記ステップは、
CdS光触媒材料を含む第1の溶液に1,2−エタンジチオール(EDT)を加えて第1の混合物を得るステップと、
前記第1の混合物からCdSの沈殿を得るステップと、
前記CdSを第2の溶液に再び分散させて懸濁液を得るステップと、
前記懸濁液にNi(NO3)2を加えるステップと、
Ni−EDT種が表面に取り付けられたCdS光触媒材料を得るステップと
を備えた請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記第1及び第2の溶液がメタノールからなる請求項11記載の方法。
【請求項13】
H2Sを水素と硫黄に変換することが可能であって、以下の式を有する光触媒。
【化1】
【請求項14】
H2Sから水素を発生させるために基質表面にNi−1,2−エタンジチオール(EDT)複合体を堆積させた光触媒を用いるステップを備え、
前記基質がCdS材料からなる
H2Sから水素を放出するための方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2013年9月5日出願の米国特許仮出願第61/874,063号に基づき優先権を主張し、この結果、その全内容がここに示されるように参照により組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、光触媒材料(半導体光触媒)に関し、より具体的には、光触媒の性能を改善するためにリンカー(有機配位子)によって光触媒表面を金属(例えば、ニッケルイオン又はその他の遷移金属イオン)と繋ぐための方法に関し、それによって、効率的水素放出のための改善された光触媒系と、ほかの光触媒の用途で使用するための別の光触媒系を提供する。
【背景技術】
【0003】
天然ガス操業、及び精製所における水素脱硫工程は、大量の硫化水素(H
2S)を生成する。いくつかの酸性ガス井戸は、30%を超えるH
2Sを含んでいる。H
2Sは、本質的に腐食性であり、パイプラインの保全を妨げる。H
2Sは、水和物構造を誘起し、ガス生産に影響を与える。H
2Sは、有毒で環境上有害であるため、中和されなければならない。
【0004】
現在一般に実施される原油を脱硫する段階において、重質ナフサは、原油蒸留の間にハイドロファイニングを受け、原油中のすべての硫黄含有物は、硫化水素として回収される。現在、H
2Sを無害の元素状態の硫黄に転換するための有力な方法は、クラウス硫黄回収法である。クラウス法は、有毒のH
2Sを中和するために行われる多くの異なった段階を含む。最初に、H
2Sは、アミン抽出を用いて主ガス流から分離される。つぎに、H
2Sは、クラウス装置に供給され、以下の2つの段階で変換される。第一段階は、熱処理段階であり、H
2Sは、部分的に空気で酸化される。これは、高温(1000〜1400℃)の反応加熱炉において行われる。硫黄が生成するが、いくらかのH
2Sは未反応で残存し、いくらかのSO
2が生成する。第二段階は、触媒反応段階であり、残存のH
2Sは、低温(約200〜350℃)で触媒によってSO
2と反応し、より多くの硫黄が生成する。触媒は、第二段階で成分が適度な速度で反応するのを助けるのに必要とされる。残念なことに、反応は、最適な触媒を用いた場合であっても完了するまで進行しない。このため、2つ又は3つの段階が用いられ、硫黄はそれらの段階の間に除去される。必然的に、少量のH2Sがテールガスに残存し、この残留物は、その他の微量の硫黄化合物とともに、通常はテールガス装置中で処理される。
【0005】
クラウス法は、高い転換率が得られるものの、硫黄回収工程に付随する多くの欠陥がある。特に、クラウス法は、亜硫酸ガスと硫化水素ガスの触媒反応のみならず、加熱と凝縮の反復のために、膨大なエネルギーを必要とする。その方法は、さらに問題を有しており、例えば、亜硫酸ガスの管理に費用がかかる。加えて、その方法は、H
2Sに含まれるエネルギーを回収できず、強く要望されるH
2を生成できない。
【0006】
触媒反応は、物質が最後に変換や消費されることなく反応物質の化学的転換の速度を変更に関与する工程である。この物質は、活性化エネルギーを減少させることにより反応の速度を増す触媒として知られている。一般的に、光触媒反応は、それ自体が関わることなく化学反応の速度を変更する物質を活性化するために光を用いる反応である。光触媒は、光照射を用いて化学反応の速度を変更可能な物質である。
【0007】
半導体光触媒は、エネルギー帯構造を有し、そこでは伝導帯と価電子帯の構造が禁制帯によって分離されている。バンドギャップと等しいかそれ以上のエネルギーを有する光で光触媒が照射を受けると、価電子帯の電子は、伝導帯に励起され、ホールが価電子帯に生成される。伝導帯に励起された電子は、電子が価電子帯に存在していたときよりも高い還元力を有し、ホールはより高い酸化力を有する。
【0008】
このように、光触媒反応は、特に微粒子の形態の半導体による光吸収と、酸化還元反応を行わせるために分離される励起子の生成を含むプロセスの形で存在可能である。そのプロセスは、太陽光の化学エネルギーへの変換に利用される反応器(装置)へ入射する光のエネルギーを利用して、自由エネルギー正反応(熱力学的に好ましくない反応)を起こすことを許容する。
【0009】
半導体粉末材料を用いた水素の光触媒による放出(発生)は、太陽光エネルギー変換、又はバイオマスに関連した有機性廃棄物や硫化水素などの廃棄物からの回収エネルギーの重要性から、著しい注目を集めている。光触媒反応のための太陽光エネルギーの利用は、可視光線範囲での広範囲に及ぶ吸収のみならず、低資本コストでの大規模適用も要求される。したがって、地殻に豊富に含まれる元素は、光触媒材料の成分となるのに好ましい。貴金属ナノ粒子は、一般的に、水/陽子を還元して水素分子を発生させる良好な電極触媒材料であり、このため、高効率の光触媒として、半導体材料の表面の貴金属ナノ粒子を挙げることができる。高い電極触媒活性を有する従来のものに代わる貴金属の発見は、いまだに待ち望まれている。
【0010】
新たな金属−半導体電子構造を作り出す電荷分離を促進し、目的の酸化還元反応を触媒する電解触媒の性質を促進する理由で、光触媒による水分解を高効率転換で行うためには、光触媒の表面を共触媒で修飾することが不可欠である。多くのナノ材料は、光触媒材料上に装飾(堆積)され、Pt、Pt−Pd(S)、Au、MOS
2、Ag
2Sなどは、光触媒による水素発生を促進することが報告されている。永年、ニッケル基ナノ粒子構造は、光触媒による水分解反応に活性を有することが知られており、適度のサイズ(通常は10nmより大きい)の金属ニッケル粒子は、水素放出の活性部位として利用されるだろうと考えられている。さらなる近年の研究は、ニッケルチオラート錯体が水素放出部位として効果的に働く可能性があることを報告した。
【0011】
これらの進歩にかかわらず、未だに太陽光を基にした水素生産技術の改善が必要とされており、特に、H
2S又はそれを含んだガスを有用な水素と硫黄に同時に変換するための改善された代替プロセスが必要とされている。言い換えると、硫化水素を光触媒で分解して水素と硫黄を得る方法が望まれ必要とされており、それは、実用化される可能性があり、それによって、有害な物質としての硫化水素をより少ないエネルギーで分解して有用な物質としての水素と硫黄を生産することを可能にする。
【0012】
これは、サウジアラビアなどの高い年間太陽光照射量を有する地域に位置する産業にとっては特に真実である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、少なくとも一部分において、ここで記載される有機配位子を用いることで、金属(例えば、ニッケルなどの後期遷移金属の金属イオン)を半導体(光触媒)表面に繋ぐ(堆積する)ことによって、光触媒(半導体光触媒)の効率を高めるための方法を対象とする。1つ以上の変形例において、1,2−エタンジチオール(EDT)は、金属錯体(例えば、ニッケル(Ni
2+イオン))を半導体表面(硫化カドミウム(CdS)表面の形態であってもよい)に付着させるための優れた分子リンカー(例えば、有機配位子)として機能する。
【0014】
本発明の光触媒は、H
2S、水分解、CO
2還元から水素を発生させるためなど、多くの様々な応用分野で使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施例によるエタンジチオール−ニッケル種を用いたCdS表面修飾の手順を示す。
【
図2】CdS、CdS−EDT−Ni及びEDT−NiポリマーとCdSのDR紫外可視スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、本発明の一つの目的は、上述の関連技術の欠点を解決し、高い触媒活性を有し、非毒性であって、長寿命を有し、光触媒反応のために可視光を利用可能であって、特に水素生成に有用な、光触媒を提供することである。本発明のもう一つの目的は、光触媒の製造方法を提供することである。
【0017】
ここで説明するように、一つの意図された典型的な応用例において、本発明による光触媒系は、溶液(均一相)に溶解したニッケルイオンの存在を必要とし、それは光触媒反応の間に酸化状態がNi
2+からNi
+に変化する。したがって、ニッケルイオンは、溶液中に残存しなければならず、それが実用を難しくしている。本発明の一つの目的は、したがって半導体光触媒材料の表面上にニッケル錯体を効率的に固定するための方法を提供することであり、それによって、系の光触媒の性能を大幅に向上させることである。本発明の方法は、ここで説明するように半導体表面の修飾によってこのような結果を達成する。
【0018】
本発明は、少なくとも一部分において、ここで記載される有機配位子を用いることで、金属(例えば、後期遷移金属の金属イオン)を半導体(光触媒)表面に繋ぐことによって、H
2Sから水素を生産するための光触媒(半導体光触媒)の効率を高めるための方法を対象とする。H
2Sの中和とその結果としてH
2Sから水素を生産することに本発明の方法を適用することは、光触媒の一つの典型的な応用例となると理解される。硫黄はまた、本発明の半導体光触媒材料を用いたH
2Sの転換の結果として生産される。したがって、本発明がH
2Sからの水素の生産のほかに応用例を有しており、特に、本発明の教示が水分解やCO
2還元などのその他の光触媒の応用例に適用可能であることが評価され理解されるだろう。
【0019】
従来、光触媒の効率は、意図された用途に適した半導体の表面の直接遷移金属ドーピングによって増強されていた。しかし、その方法には制限と欠陥があった。ここで述べられるように、この従来の方法と本発明の方法の間の一つの大きな違いは、本発明によれば、半導体は、従来の直接ドーピング法のようなドーパント層を有していない。
【0020】
光触媒の効率を増強するために従来の金属ドーピング法を用いる代わりに、本発明は、分子レベルで半導体表面を修飾することにより改良された半導体光触媒を提供することに向けられている。より具体的には、分子リンカー(有機配位子など)が、金属錯体(例えば、ニッケル錯体)を半導体光触媒の表面に取り付けるために用いられる。ここで説明するように、この修飾は、例えば繋がれた遷移金属の形態で、H
2Sからの水素の発生の用途に特に適した(しかし、その他の用途は同様に可能である)改良された光触媒材料を与える。本発明の方法は、触媒活性部位の電荷再結合を避け、同等以上の伝導性(従来の方法と材料と関連して)とより効率の高い光触媒作用を達成するために極めて少ない金属(通常は高価である)を必要する。
【0021】
図1は、光触媒材料の性能特性を高めるための本発明による半導体光触媒の表面を主食するための方法を示す。
【0022】
[光触媒材料]
かなり多数の異なった半導体光触媒材料は、意図された用途に適している限り、本発明において使用可能である。例えば、半導体光触媒材料は、限定されるものではないが、CdS、MoS
2、FeS、CoS、NiS、MnS
2、ZnS、ZnS
2、Cu
2S、Rh
2S、Ag
2S、HgS、In
2S
3、SnS
2、PbS、SnS
2、PbS、SnS、TiS、Sb
2S
3などの一つ以上の硫化物を含む。典型的な一実施例において、半導体光触媒材料は、硫化カドミウム(CdS)の形態である。知られているように、硫化カドミウムは、半導体光触媒として機能する直接バンドギャップ半導体であり、太陽光セルやその他の用途の根本要素としてしばしば用いられる。CdS材料は、限定されるものではないが、高結晶性のCdS(CdSナノ結晶)を製造する合成技術などの従来技術を用いて調製される。
【0023】
一つ以上の変形例において、半導体光触媒材料はまた、限定されるものではないが、TiO
2、CoTiO
3、NiTiO
3、CuTiO
3、ZnTiO
3、V
2〇
5、FeO
2、FeO
3、CuO、NiO、Cu
2O、ZnO、SrTiO
3などの一つ以上の酸化物を含む。少なくとも一つの変形例において、半導体光触媒材料は、限定されるものではないが、CdSe、ZnSe、PbSe、Ag
2Se、CuInS
2、CuInGaSe
2、ZnS
2CdSeなどの一つ以上の半導体材料を含んでもよい。
【0024】
[分子リンカー/金属種]
この方法には、ニッケル(後期遷移金属)などの金属(例えば、遷移金属)を半導体光触媒材料の表面に付着させるための分子リンカーの使用が含まれる。本発明の意図される用途に適したその他の遷移金属と関連材料としては、限定されるものではないが、Ag、Au、Pb、Ru、Ir、Cu、Fe、Mn、Co、Pt/Au合金が挙げられる。本出願人は、1,2−エタンジチオール(EDT)が遷移金属錯体を硫化カドミウム表面(半導体材料の表面)に付着させるための優れた分子リンカー(有機配位子)として機能することを見出した。1,2−エタンジチオール(EDT)は、式がC2H
4(SH)
2の無色の液体であって、金属イオンの優れた配位子として作用する。本発明の意図される用途に適したその他の有機配位子(分子リンカー)としては、限定されるものではないが、2−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、11−メルカプトウンデカン酸、メルカプトコハク酸、1,4−ベンゼンジチオール、4,4’−ジメルカプトスチルベン、p−フェニレンジアミン、4−メルカプト安息香酸、2,3−ジメルカプトプロパンスルホン酸ナトリウム一水和物、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジチオール、トリチオシアヌル酸、ビフェニル−4,4−ジチオール、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシランが挙げられる。
【0025】
特に
図1を参照すると、半導体材料、この場合は合成CdSナノ結晶の形成後、半導体材料を、希薄なEDTのエタノール溶液中で処理する。この処理は、CdS表面のEDT種を確実に飽和状態にするため、約6時間などの所定の時間となる。この処理は、
図1のステップ1として示される。
【0026】
図1のステップ2で示されるように、濾過後、CdSナノ結晶を、2MのNi
2+水溶液に懸濁する。溶液を、約6時間などの所定の時間かき混ぜて撹拌する(しかし、撹拌時間は短くても長くてもよい)。処理時間は、特定の用途やその他の操作パラメータによって変化可能であることが理解されるだろう(したがって、処理時間は6時間よりも短くても6時間より長くてもよい)。
【0027】
拡散反射フーリエ変換赤外(DRIFT)スペクトルは、裸のCdS表面が、表面上にCd前駆体に由来する残りの酢酸塩種を有していることを示す。EDTで処理されたCdSサンプルにおいて、非対称/対称なCH伸縮振動に関係する3068、2968、2937、2878cm
−1のシグナルと、代表的な二座の酢酸塩種由来の1550、1432cm
−1のシグナルが小さくなり、EDTの足跡(例えば、CH伸縮の2922cm
−1)の強度は、EDT処理によって増強され、CdSの表面がEDTでうまく修飾されたことを示した。Ni修飾は、EDTの足跡の強度を減少させ、それはEDTを用いたNi種の装飾がうまく行ったことを示す。C/H/Nの元素分析の結果は、炭素の存在が少量で検出されたことを示し、FTIRの結果と一致した。先の結果は、EDT(リンカー)によってニッケルイオン(又はその他の金属イオン)を光触媒表面にうまく拘束したことを示している。
【0028】
光触媒の測定を、異なったEDT量で調製され(
図1のステップ1)、その後ニッケル溶液中に浸漬された(
図1のステップ2)サンプルを用いて、0.5MのNa
2S、0.5MのNa
2SO
3中で行った。ステップ1で少量のEDTにて(例えば、0.01ml以下の1%のEDT溶液を加えて)処理されたサンプルについて、光触媒性能が単調に増加し、CdS表面上でEDT量が飽和しないことが示された。出願人は、より多くのEDTを溶液に加えても(例えば、>0.01ml)、さらに光触媒性能が向上せず、同様の程度であることを発見した。この結果は、CdS微粒子上のEDT吸着の不可逆性と再現可能性の性質と一致し、その後に表面上に同様な量のニッケルを堆積させる。EDT処理なしのNi溶液へのCdSの直接浸漬、又は、Niの固定化なしのEDT処理のみでは、高い水素発生率が得られない。上記に基くと、ニッケルの存在が高性能の光触媒作用のために必須であるのと同様に、EDTは、ニッケルの固定化に必須であった。言い換えると、
図1に示す2つのステップ(ステップ1と2)の実施により、結果が改善され、光触媒の性能が向上する。
【0029】
図2は、(1)550nmにおけるCdSの特徴的な吸収限界を示す裸のCdS、(2)CdS−EDT−Ni(ニッケル−EDTの表面修飾を伴うが、この吸収限界は、ニッケル−EDT種の存在によって影響を受けなかった)、(3)EDT−NiポリマーとCdS(EDT溶液からサンプルの濾過をせずNi源に直接加えると、ニッケル−EDTポリマーが形成され、これが次に550nmにおけるCdSの吸収限界を超えて1000nmに達する追加の吸収を与え、目に見える緑色の粉末を与えた)、を含む様々な種の拡散反射UV−可視スペクトルを示す。しかし、出願人は、光触媒材料としてこのニッケル−EDTポリマーを用いると、水素を発生する結果とはならないことを見出した(すなわち、水素の発生は検出されなかった)。結果として、このポリマーは、H2Sを水素と硫黄に転換する光触媒として使用するためには、それ自体、良い候補ではない。
【0030】
量子効率(QE)の結果も
図2に示されている。その結果は、水素放出の源としてのCdSのバンドギャップ励起と一致して、吸収限界(〜540nm)に従った比較的高いQEを示す。QEは、可視範囲において高く(>10%)、460nmで最大の19.4%であることが分った。
【0031】
別の実験において、サンプルは、従来の含浸法により調製された1重量%Pdで装飾され、このサンプルは、460nmにおいてより高い36%のQEを有し、必要とされるニッケル−EDTの量はずっと少なかった。上記に基づくと、この材料は、特定の用途に用いられる適切な光触媒材料を与える可能性がある。
【0032】
出願人は、こうして1,2−エタンジチオール(EDT)がニッケル錯体(又はその種の他のもの)を硫化カドミウム表面に取り付けるための優れた分子リンカーとして機能することを見出した。Ni(EDT)
2の生成定数は、非常に高く(10
25)、これは、EDTが本発明の優れた分子リンカーとして機能することを可能とする。この分子アプローチを通じた表面修飾は、Ni修飾剤の量がCdS表面に置かれるEDTの量によって基本的に決定されるため、高度に再現可能である。表面に固定化されたニッケルの量が非常に少ないにもかかわらず(例えば、〜0.1重量%)、高度に安定な水素発生(TON
Ni>8000)が硫黄含有水溶液から高率で達成され、可視領域で〜20%の量子効率(QE)に達した。
【実施例】
【0033】
本発明の光触媒材料は、以下の実施例を通じてより詳細に説明される。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
1,2−エタンジチオール(EDT)と硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO
3)
2・6H
2O)をシグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)から購入した。硫化2ナトリウム九水和物(Na
2S・9H
2O,≧98%)と二酢酸カドミウム(II)無水物(Cd(OAc)
2 9H
2O,≧98%)をアクロスオーガニクス(Acros Organics)から購入した。すべての化学品は、さらに精製することなく用いた。CdSナノ結晶の合成では、400mlのNa
2S(0.14M)水溶液と500mlのCd(OAc)
2(0.14M)水溶液を混合し、混合は激しい撹拌の下で行った。およそ24時間の連続的な撹拌の後、溶液を濾過し、固体を脱イオン水で洗浄した。この洗浄ステップを数回繰り返した。得られた黄色の固体を、つぎに100mlの脱イオン水中に分散させ、水熱処理をするためにテフロン被覆のステンレスオートクレーブの中に移した。453Kで3日間加熱した後、黄色の固体を再び濾過し、乾燥するまで真空中に保管した。得られたものの構造は、CdS基質であった。
【0035】
室温でCdS(100mg)のトルエン(50mL,>99.9%)溶液を超音波処理した後、さまざまな体積の1%(v/v)EDTのエタノール(無水等級,シグマ−アルドリッチ)溶液をCdS溶液に加えた。得られた混合物を約6時間撹拌し、つぎに遠心分離した。沈殿物をエタノール(20mL)で3回洗浄し、つぎにエタノール(40mL)に再び分散させた。懸濁液にエタノール(10mL)中の5MのNi(NO
2)
2を加え、約1時間撹拌し、つぎに遠心分離した。得られた沈殿物をエタノール(20mL)で3回洗浄し、遠心分離し、50℃の真空下で乾燥し、その結果、緑色を帯びた黄色の固体が定量的収率で生成された。
【0036】
光触媒の試験(ここで説明する)を、循環バッチ反応器ユニットと頂上照射型光触媒反応器を用いて行った。蓄積されたガス状の生成物を、TCDとモレキュラーシーブ5Aカラムを備えたブルカー−450(Bruker−450)ガスクロマトグラフを用いて分析した。使用した光源は、鏡とさまざまなバンドパスフィルターを備えたアサヒスペクトラ(Asahi Spectra)MAX−303(300W Xeランプ)であった。光子の放射照度をEKO LS−100分光放射計を用いて測定したが、それをサポート情報で示す。通常どおり、50mgの光触媒を、25mlの0.5M Na
2S、0.5M Na
2SO
3(アルファアーサー(Alfa Aeser)、98%)中に超音波処理によって十分に浸漬した。反応器を循環系にし、光触媒試験の前に、溶液中に溶解した空気を抜いた。
【0037】
合成した試料を、誘導結合プラズマ発光分析計(ICP−OES)、元素分析(C、H、N)、X線回析(XRD)、UV可視吸収スペクトル、サイクリックボルタンメトリー(CV)、X線光電子分光法(XPS)、透過電子顕微鏡法(TEM)、拡散反射赤外フーリエ変換スペクトル(DRIFTS)によって特性化した。
【0038】
Ni、Cd、Sの量を、バリアン(Varian)720−ESでICP−OESによって測定した。元素分析を、フラッシュ(Flash)2000サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)CHNS/O分析器を用いて行った。生成物のXRDパターンを、ブルカー(Bruker)DMAX 2500 X線回析計でCu Kα放射線(λ=0.154nm)を用いて採取した。UV可視スペクトルを、積分球を備えたJASCO V−670分光光度計で採取した。CV測定を、RRDE−3(アルス(ALS)社)のAuディスク作用電極(3mm)、カーボン紙対電極(トーレ(Toray)TGP−H−60)、Ag/AgCl(KCl飽和)参照電極を有する三電極システムを用いたバイオロジック(Bio−Logic)VMP3電気化学ステーションで行った。測定を、NaOH(99.99%、シグマ−アルドリッチ)で調整された、pHが13の0.5M Na
2SO
4(≧99.99%、シグマ−アルドリッチ)中、Ar雰囲気下で1600rpmの回転速度で行った。XPSスペクトルを、12kVと10mAでMg/Alアノードを用いて、アミカスクラトス(AMICUS KRATOS)から取得した。300kVで動作されるチタンエスティー(TITAN ST)透過型電子顕微鏡を、形態学と粒子サイズ分布を特性付けるために用いた。DRIFTS測定を、窒素流通下にてサーマルサイエンティフィックニコレット(Thermo Scientific Nicolet)6700で実施した。試料を、吸収された水を除去しようと120〜200℃で予備加熱したが、スペクトルはこの処理によって変化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
上記の開示から、本発明の光触媒は高い触媒活性を有し、非毒性であって、光触媒反応に使用される際に可視光を利用可能であって、水素生成などに有用であることが理解されるだろう。
【0040】
本発明は、ここで広く説明され、請求の範囲に記載されるような、構造、方法、その他の本質的な性質から外れることなく、その他の特定の形態で実現可能である。説明された実施例は、すべての点で、説明のためのみであって限定するものではないとみなされるべきである。したがって、本発明の範囲は、前述の説明によってというよりも、請求の範囲によって示される。請求の範囲の意義や同等の範囲に入るすべての変更は、それらの範囲に含まれるものである。