【実施例】
【0095】
本設計方法の実施例として、ブルーベリージャムに混入した異物の視認性を向上させる白色光源の設計を行った。表5に実施例の条件設定を示す。異物が混入している異物混入部が第1観察対象、異物が混入していない異物無し部が第2観察対象に相当する。以下、詳細に説明する。
【0096】
1.設計方法
次の(1)〜(5)に示す手順で設計した。
【0097】
(1)観察環境(観察対象及び背景)のスペクトルの設定
弁別対象である異物混入部ならびに異物無し部の反射率スペクトルは、以下に示す環境の下で実測し、取得した。
【0098】
シャーレにブルーベリージャムを入れ、異物としてブルーベリーの枝10ならびに葉11、そして黒色の石12を、
図4(a)に示すようにジャム中に混入しサンプルを作成し、サンプルの上方から反射率スペクトルの計測を行った。
図4(b)のように、枝10、葉11、及び、石12は、平面視においてシャーレを4分割したうちの3つの領域P1、P2、P3に、それぞれ混入されている。そして、異物はシャーレ底からの厚さ5.25mmのブルーベリージャム上に配置されており、さらに異物を被覆するジャムを1.75mm、3.5mm、5.25mm、7mmの4段階に変化させた。使用したジャムは一般的市販ブルーベリージャム三種である。計測装置は、ケンブリッジ・リサーチ・アンド・インストゥルメンテーション(Cambridge Research & Instrumentation)社製マルチスペクトルイメージング装置Nuance(VIS)、光源にはキノフロ(Kino Flo)社製大型蛍光照明Diva-Lite、白色校正にラブスフェア(Labsphere)社製Spectralon反射板を使用した。計測された分光画像から、異物が混入している部分の反射率スペクトルをそれぞれ抽出し、異物混入部のスペクトル群(第1群)R
1j(l):j={1,2,…,N}とし、対応する異物無し部のスペクトル群(第2群)R
2j(l):j={1,2,…,N}には同じシャーレ中の異物が混入されていない領域Qの反射率スペクトルを割り当てた。つまり、異物無し部のスペクトル群には、同じ反射率スペクトルを葉11、枝10、石12に対応させて三度使用している。シャーレはジャムの各種類につき4個用意したので、N=3(異物の種類)×3(ジャムの種類)×4(ジャムの深さ)×4(シャーレの個数)=144である。計測された被覆ジャム層5.25mm時の反射率スペクトルを
図5に示す。
図5では、縦軸は反射率、横軸は波長であり、異物無し部をBlueberry Jam、葉11、枝10、石12が混入された異物混入部をそれぞれLeaf,Twig,Stoneと表記している。
【0099】
図5に示される長波長帯域の急峻な反射特性は、レッドエッジと呼ばれる植物特有の反射特性である。そのため、葉11や枝10が混入した場合にはこの反射強度が高い。故に、この波長帯に強いエネルギーを持つ光源を用いれば異物の視認性が向上する可能性が高い。
【0100】
この物体を観察する環境として、配置されるジャムの周囲(背景輝度)は波長特性が一様の20%グレーを仮定した。但し、背景輝度は順応作用や明度対比効果に影響するため、異物検査環境に合わせて修正されることが望ましい。
【0101】
(2)LEDのスペクトル設定と組み合わせ構築
実施例では、狭帯域光源としてLEDを仮定しているが、ここでは実測したLEDの放射輝度ではなく、
図6に示されるモデル化された分光特性を使用した。これは後に使用する多波長可変光源の特性を基にしている。
図6の縦軸は放射輝度、横軸は波長である。
【0102】
LEDの分光特性のモデリングは、次式[数24]に示すスプライン関数を用いた。詳しくは、中心波長λ
kを420〜700nmの範囲で5nm刻み、スプライン関数の幅を表すパラメータωを10nmとし、これを[数25]に示すように両隣合わせて3つ重ねたものを使用した。これを言い換えると,ピーク波長が420〜700nmの波長範囲で15nmずつ異なり、各々およそ17.5nmの半値幅の分光放射輝度を持つLEDが存在するという仮定である。なお、中心波長420nmと700nmをのぞくすべてのLEDのピーク波長強度は最大0.37W/sr/m
2/nmとし、両端の二つはそれぞれ0.279W/sr/m
2/nm,0.152W/sr/m
2/nmとした。これは後に出力光をシミュレートするために使用する多波長可変光源の分光放射輝度を元にした設定である。
【0103】
【数24】
【0104】
【数25】
【0105】
上記のように仮定したLEDの分光放射輝度を用い、白色光を構成する3つのLEDの組み合わせを、全て求めた。
【0106】
(3)観察対象ならびに背景の色の見えの計算
上記(2)で求めた3つのLEDの組み合わせで構築される白色光の分光放射輝度、ならびに、観察対象の反射率スペクトルから、観察対象ならびに背景の色の見えを表すパラメータを求めた。算出方法は上記評価量算出ステップで示したとおりであり、設計光源の輝度が一定値となるように配合強度b
kの正規化を行っている。設計光源の輝度が一定であるため、背景R
b(l)の相対輝度Y
bもまた一定である。順応領域の輝度L
Aは全LEDフル発光時の輝度を基準にその20%に設定した。設計光源の輝度は、このフル発光した場合の輝度を基準としてその割合で設定した。LEDの最大出力に制限があるため、輝度が低い方が最適化の自由度は高く、また装置全体の消費エネルギーも抑えることができる。しかしながら、輝度が低い場合は順応が進まず色弁別能力が低下する。そこで本実施例では10%,20%,30%,50%,70%の5段階について設計を行い、それぞれの色差を評価した。
【0107】
(4)色弁別性の計算
上記(3)で得られた色の見えを表すパラメータから、CIECAM02を用いて色差を求めた。算出方法は上記評価量算出ステップで示したとおりである。
【0108】
(5)LEDの組み合わせ修正(最適化)
評価量すなわち異物混入部と異物無し部との平均色差が最大化されるように、配合強度b
kを最適化した。最適化の方法として山登り法を採用した。この手法の特徴は、ある程度短い時間で局所解に到達することができ、到達する解は初期値から一意に定まるということである。そのため、初期値を変化させながら何度か繰り返すことで良好な解を得ることができる。
【0109】
2.設計結果
以下に、実施例の結果を示す。
【0110】
(1)設計結果
輝度を10%,20%,30%,50%,70%とした場合のそれぞれについて、得られた設計光源スペクトルW
F(λ)を
図7に示す。
図7の縦軸は放射輝度、横軸は波長である。また、輝度を10%,20%,30%,50%,70%とした場合のそれぞれについて、等エネルギー白色光源下での平均色差と、設計光源下での平均色差とを、
図8に示す。
図8では、縦軸は平均色差、横軸は輝度であり、黒丸●は設計光源、黒四角■は等エネルギー白色光源を示し、いずれも左から10%,20%,30%,50%,70%の場合を示す。
【0111】
図8より、設計光源を使用する場合には、同等の輝度をもつ等エネルギー白色光源を使用する場合と比較して、色差が向上していることが分かる。さらに、等エネルギー白色光源を使用する場合は輝度が小さいほど弁別能力が低下するが、対して設計光源は輝度が低い条件において、色差が向上していることが分かる。さらに輝度を低く設定すれば色差が低下すると考えられるが、今回設定した輝度条件に関して言えば低輝度条件において良好な光源が設計可能であったことが分かる。
【0112】
(2)分光画像ならびに多波長可変光源によるシミュレーション
得られた設計光源スペクトルを用いて、光源照射時のブルーベリージャムの見えをシミュレートした。シミュレートの方法として、(i)マルチスペクトルイメージから計算的に求める方法と、(ii)多波長可変光源を用いて設計光源スペクトルと同等のスペクトルを有する光を生成し、実際のサンプルに照射する方法とを用いた。また、(i)では、マルチスペクトルイメージとして、1.(1)で計測したスペクトル収集用の画像を使用した。(ii)では、多波長可変光源として、株式会社ニコン製ELS-VISを使用し、この多波長可変光源で、設計光源スペクトルと同等のスペクトルを有する出力光を生成し、シャーレ中のジャムに石12を混入した評価用のサンプルに照射して、RGBカメラで撮影した。
【0113】
図9は、(i)のマルチスペクトルイメージを用いてシミュレートした画像であり、(a)は等エネルギー白色光源下での見え、(b)は設計光源下での見えを示す。両光源の輝度は同じであるが、明らかに、設計光源下では等エネルギー白色光源下よりも、ジャム中の異物が視認しやすくなっていることが分かる。
【0114】
また、
図11に、(ii)の多波長可変光源を用いて生成した光を照射した結果を示し、
図10に、等エネルギー白色光を照射した結果を示す。両光源の輝度は同じであるが、
図11のほうが明るく映っている。これは、ジャムに吸収されずに反射してくる光が多いためである。結果として、ジャム中の石12の視認性が大きく向上していることが分かる。なお、
図9,
図10,
図11は、いずれも元の画像はカラーであるが、白黒に変換して示している。
【0115】
また、
図10,
図11においては、各サンプルの右横に、白色から濃い灰色までの5段階の無彩色を示す同じグレーチャートが配置され、さらに、グレーチャートの右横に、青、緑、赤、黄色、桃色の5色を示す同じカラーチャートが配置されている。グレーチャートの見えは
図10,
図11でほとんど差がないことから、
図11の多波長可変光源からの光は、
図10の等エネルギー白色光と略同じ白色であり、観察者に疲労感や違和感を与え難いことが分かる。
【0116】
(3)心理物理実験による光源評価
多波長可変光源により設計光源スペクトルと同等のスペクトルの光を上記5種の輝度条件のそれぞれについて生成し、すなわち、多波長可変光源により5種の機能性光源を構成し、これら5種の機能性光源と、同等の輝度を持つ等エネルギー白色光源5種を用いて、異物の検出しやすさを問う主観評価実験を行った。実験にはサーストンの一対比較実験を採用した。具体的には、以下のパラダイムを全組み合わせについて行った。
【0117】
(i)上記計10種の光源から2種の光源を選択
(ii)選択された光源を5秒ずつ(間に消灯1.5sec)照射
(iii)どちらが見分けやすかったかを二肢強制選択
なお、実験には、枝10、葉11、及び石12を同じシャーレのジャム中に混入した評価用のサンプルを使用した。結果は選択確率から求めたZスコアで評価するものとした。
図12は、本評価実験の結果を示すものであり、縦軸は尺度値(Zスコア)、横軸は輝度であり、黒丸●は機能性光源、黒四角■は等エネルギー白色光源を示す。
【0118】
図12より、低輝度の機能性光源が最も高性能であり、さらにいずれの機能性光源も等エネルギー白色光源の尺度値を上回ることが分かる。これは
図8に示した平均色差とも一致する。このことから、CIECAM02を元に求まる色差は、主観的な色弁別性を良好に数値化できていることが確認できる。以上の結果より、本設計方法による機能性光源の設計は、観察者の熟練を要する目視検査のサポートに非常に有効であるといえる。
【0119】
なお、実施例では、多波長可変光源により機能性光源を構成したが、例えば、株式会社東京インスツルメンツ製の波長プログラマブル光源も、任意のスペクトルの光を生成可能であり、機能性光源として使用可能である。このように、本発明の機能性光源は、LED等の狭帯域光源を用いなくても構成可能である。
【0120】
なお、光源色スペクトルを設定するときは、少なくとも3つの狭帯域光源のスペクトルを組み合わせることとする。2つ以下の狭帯域光源のスペクトルの組み合わせでは、光源色スペクトルの光源色を任意に設定できないからである。
【0121】
また、評価量を最適化するとき、評価量が最大となるように最適化することが望ましいが、最大に近くなるように最適化すればよい。すなわち、略最大とは、最大である場合と、最大に近い場合を含む意である。同様に、機能性光源のスペクトルは、設計上のスペクトルである設計光源スペクトルと同じとすることが望ましいが、少なくとも設計光源スペクトルに近似していればよい。すなわち、略同等とは、同じである場合と、近似している場合を含む意である。実用上問題にならない程度に色差が拡大すればよいからである。
【0122】
なお、評価量は、第1観察対象と第2観察対象との間の色差を示す値であればよく、[数23]で計算される平均色差に限られない。
【0123】
〈第2実施形態〉
次に、
図13、14、15に基づいて、第2実施形態に係る検査装置30について説明する。検査装置30は、ブルーベリージャムの異物検出装置として構成されており、2つの機能性光源31と、計測装置に相当するRGBカメラ32と、RGBカメラ32に接続されパーソナル・コンピュータからなる判定部33と、判定部33に接続された排除機構制御ユニット34とを備えている。RGBカメラ32は、RGB値を出力可能な撮像装置である。判定部33は、画像処理部331とデータ処理部332とを備えている。
【0124】
各機能性光源31は、ピーク波長の異なる3つ以上のLEDが配列された基板311と、LEDからの光を混合する拡散板(図示せず。)とを備え、外部電源から電気の供給を受けて白色光を発光する。
【0125】
各機能性光源31は、弁別の対象をブルーベリージャムの異物混入部と異物無し部として、第1実施形態で説明した設計方法により設計されたものである。但し、第1実施形態では、評価量算出ステップにおいて、各サンプルの色の見えを表すパラメータをCIECAM02により算出したが、第2実施形態では、各サンプルに対しRGBカメラ32から出力されると予想されるRGB値を、RGBカメラ32の分光感度特性に基づいて算出する。後述する第3実施形態及び第4実施形態でも同様である。なお、RGBカメラ32の分光感度特性は、予め調べておくものとする。そして、異物混入部と異物無し部とのRGB値の差を表す評価量(例えば、両RGB値間のユークリッド距離)を算出する。
【0126】
機能性光源31、31は、第1移動手段であるベルトコンベヤ35上の所定の撮影領域を照明するように、互いに向き合う方向に少し傾斜されて配置されている。RGBカメラ32は、真上から機能性光源31、31間を通して撮影領域を撮影するように配置されている。ベルトコンベヤ35は、第2移動手段であるベルトコンベヤ37とともに、検査対象であるブルーベリージャム36の移動手段を構成し、ジャム36は、ベルトコンベヤ35上に乗せられて、撮影領域を通ってベルトコンベヤ37上に落下する。撮影領域は、ジャム36とその両側のベルトコンベヤ35部分を含むように設定されている。ベルトコンベヤ35とベルトコンベヤ37との段差部分には、排除機構であるシュータ38が配置されており、シュータ38は排除機構制御ユニット34と接続されている。シュータ38は、上下方向に回動して開閉する扉部381を有し、扉部381が閉鎖されているときは、ジャム36はベルトコンベヤ35からベルトコンベヤ37に落下するが、扉部381が開放されているとき、ジャム36はベルトコンベヤ35から扉部381を伝って排除物ボックス39に排出され、ベルトコンベヤ37に落下しないように構成されている。
【0127】
以上のように構成された検査装置30の動作について説明する。RGBカメラ32は、ベルトコンベヤ35上のジャム36の移動速度に合わせて、ジャム36に未撮影部分が残らないように、所定の時間間隔で繰り返し撮影領域を撮影し、RGB値を含む計測データである撮影画像を、画像処理部331に出力する。
【0128】
図14(a)は、RGBカメラ32の撮影画像の模式図であり、この撮影画像には、ジャム36の画像部分36’と、ベルトコンベヤ35の画像部分35’と、ジャム36中の異物の画像部分10’とが含まれている。画像処理部331は、まず、撮影画像の各部分の濃度値(強度)をRGB値から計算し、予め定められた閾値にしたがって、背景領域である画像部分35’を、撮影画像から除外し、
図14(b)に示すような画像とする。なお、
図14では、除外された部分を黒色で表している。閾値は、ジャム36、ベルトコンベヤ35及び異物の各画像部分が含まれ、それらの各々が画像中のどこに含まれているかが分かっている教師画像を用いて、事前に学習を行うことにより、決定しておく。学習方法として線形判別分析を用いるが、これに限らずサポートベクターマシンなど様々な公知の機械分類手法を使用可能である。
【0129】
次に、画像処理部331は、上記背景領域の除外方法と同様の手法を用いて、ジャム36の画像部分36’と異物の画像部分10’とを閾値に従って判別する。この閾値も予め学習により決定しておく。画像処理部331は、この判別結果に基づいて、画像部分10’に例えば白を、それ以外の部分である画像部分36’、37’に例えば黒をラベル付けする2値化処理を行い、
図14(c)に示すような2値化処理画像を生成し、データ処理部332に出力する。
【0130】
データ処理部332は、
図15に示すように、2値化処理画像において異物の画像部分10’が存在するか否かを判定し(ステップS101)、画像部分10’が存在すれば、排除信号を排除機構制御ユニット34に出力する(ステップS102)。排除信号を受け取った排除機構制御ユニット34は、シュータ38に扉部381を開放する制御信号を出力し、シュータ38は扉部381を開放して、ジャム36を排除物ボックス39に排出する。なお、排除機構制御ユニット34は、ジャム36の異物混入と判定された部分が排出されるのに必要な所定の時間が経過すると、扉部381を閉鎖する制御信号を出力し、これにより扉部381は閉鎖する。
【0131】
例えば赤色の光源下で計測を行った場合、赤色方向への色の変化は検出し難いため、R値は有効に使えない等、白色以外の光源下で計測を行った場合には、RGBカメラ32が出力するR値、G値及びB値を有効に使うことができないが、第2実施形態によれば、白色光源である機能性光源31の下で計測を行うので、すなわち、白色を中心として色の変化を計測することとなるので、RGBカメラ32が出力するR値、G値及びB値の全てを有効に検査結果の判定に用いることができ、検査精度を向上可能である。また、機能性光源31は、同等の輝度を有する等エネルギー白色光源で照明したときよりも弁別対象間の計測値の差が拡大することからも、検査精度を向上可能である。また、検査装置30は、近赤外線、赤外線や多層膜光学フィルタを用いる必要がないので、導入容易である。
【0132】
〈第3実施形態〉
次に、
図16に基づいて、第3実施形態に係る検査装置40について説明する。検査装置40は、検査対象が皮膚であって皮膚疾患を診断する皮膚疾患診断装置として構成されており、2つの機能性光源41と、接写計測用レンズ421が取り付けられたRGBカメラ42と、RGBカメラ42に接続されパーソナル・コンピュータからなる判定部43と、判定部43に接続された装置制御ユニット44とを備えている。RGBカメラ42は、RGB値を出力可能な撮像装置であり、計測装置に相当する。判定部43は、ノイズ・鏡面反射除去部431と、色素分布画像生成部432と、画像統計量計算部433と、症状推定部434と、表示部435とを備えている。
【0133】
各機能性光源41は、ピーク波長の異なる3つ以上のLEDが配列された基板411と、LEDからの光を混合する拡散板(図示せず。)とを備え、外部電源から電気の供給を受けて白色光を発光する。
【0134】
各機能性光源41は、弁別の対象を人の皮膚における疾患部分と疾患無し部分として、第2実施形態で説明した設計方法により設計されたものである。機能性光源41、41は、所定の撮影領域を照明するように、互いに向き合う方向に少し傾斜されて配置されている。RGBカメラ42は、機能性光源41、41間を通して撮影領域を撮影するように配置されている。なお、撮影領域には無色透明の透明板45が配置され、RGBカメラ42は、透明板45を通して皮膚46を撮影するように構成されている。
【0135】
以上のように構成された検査装置40の動作について説明する。RGBカメラ42は、撮影領域内の皮膚46を撮影し、RGB値を含むデータである撮影画像を、ノイズ・鏡面反射除去部431に出力する。
【0136】
ノイズ・鏡面反射除去部431は、例えばガウシアンフィルタや移動平均フィルタ,メディアンフィルタ等の一般的な画像処理用二次元フィルタを用いて、撮影画像からノイズを除去する。次に、ノイズ・鏡面反射除去部431は、撮影画像から、極端に肌色から逸脱し光源色を示す領域を、予め定めておいた閾値に従って除外する。判断には、撮影画像のRGB値を用いる。閾値は、鏡面反射有りの部分と鏡面反射無しの部分とが分かっている教師画像を用いて事前に学習を行うことにより、定めておく。学習手法として線形判別分析を用いるが、これに限らずサポートベクターマシンなど様々な公知の機械分類手法を使用可能である。ノイズ・鏡面反射除去部431は、ノイズ及び鏡面反射を除去した画像を、色素分布画像生成部432に出力する。
【0137】
色素分布画像生成部432は、画像のRGB値をL
*a
*b
*値に変換し、a
*をヘモグロビン分布、L
*をメラニン分布として、それぞれの色素分布画像を生成する(下記参考文献5参照)。なお、下記参考文献6に記載された色素分布算出手法を用いて、色素分布画像を生成することとしてもよい。この手法は、肌画像に対して独立成分分析を適用し、色素成分を取り出すというものである。色素分布画像生成部432は、生成した各色素分布画像を、画像統計量計算部433に出力する。
【0138】
画像統計量計算部433は、各色素分布画像から、平均、分散、歪度、尖度、空間周波数等の画像統計量を算出し、症状推定部434に出力する。空間周波数にはガボール・ウェーブレット変換を採用し、あらかじめ設定した振動方向についてそれぞれ周波数成分を計算して、症状推定の指標とする。
【0139】
症状推定部434は、予め、様々な症例について上記の画像統計量を計算し、機械学習を行っておくことで、症状の分類ができるように構成されている。学習手法には、公知の機械学習手法を用いればよく、例えば正準判別分析、サポートベクターマシン、ニューラルネットワークなどがある。症状推定部434は、画像統計量計算部433から受け取った画像統計量に基づいて、症状の分類を行い、その分類を診断結果(検査結果)として、表示部435に出力する。なお、症状推定部434は、画像統計量計算部433から色素分布画像を受け取って、表示部435に出力する。表示部435には、色素分布及び診断結果が表示される。
【0140】
なお、判定部43は装置制御ユニット44に計測開始信号を出力し、それに応じて装置制御ユニット44はRGBカメラ42に画像取得命令信号を出力し、それに応じてRGBカメラ42は撮影を行い、画像取得完了信号を装置制御ユニット44に出力するとともに、計測画像データである撮影画像を判定部43に出力する。
【0141】
また、装置制御ユニット44は、計測開始信号を受け取ったとき、LED制御信号を機能性光源41、41に出力し、これに応じて機能性光源41、41は各LEDを所定の輝度で発光する。なお、検出したい対象に応じて、LEDの選択及び輝度を切り替えられるように構成してもよく、その場合には、LEDの選択及び輝度を切り替えるためのLED制御信号に応じて、ピーク波長が互いに異なるLEDが3つ以上選択されるとともに、それらに対する印加電流が定められる。すなわち、LED制御信号を受信した機能性光源41は、ピーク波長が互いに異なる3つ以上のLEDを選択して、それらが発する光の発光条件を制御し、それらの光を混合することにより、白色光を発光する。
【0142】
第3実施形態によれば、白色光源である機能性光源41の下で計測を行うので、すなわち、白色を中心として色の変化を計測することとなるので、RGBカメラ42が出力するR値、G値及びB値の全てを有効に検査結果の判定に用いることができ、検査精度を向上可能である。また、機能性光源41は、同等の輝度を有する等エネルギー白色光源で照明したときよりも弁別対象間の計測値の差が拡大することからも、検査精度を向上可能である。また、検査装置40は、近赤外線、赤外線や多層膜光学フィルタを用いる必要がないので、導入容易である。
【0143】
なお、第3実施形態の参考文献として、先に挙げた参考文献5、6以外に、下記参考文献7、8、9がある。
【0144】
〈第4実施形態〉
次に、
図17に基づいて、第4実施形態に係る検査装置50について説明する。検査装置50は、検査対象が塗装面であって塗装むらを評価するための装置として構成されており、2つの機能性光源51と、計測装置に相当するRGBカメラ52と、RGBカメラ52に接続されパーソナル・コンピュータからなる判定部53とを備えている。判定部53は、ノイズ・鏡面反射除去部531と、不均一性指標計算部532と、均一性判定部533とを備えている。
【0145】
各機能性光源51は、ピーク波長の異なる3つ以上のLEDが配列された基板(図示せず。)と、LEDからの光を混合する拡散板512とを備え、外部電源から電気の供給を受けて白色光を発光する。
【0146】
各機能性光源51は、弁別の対象を塗装面における塗装むら有り部分と塗装むら無し部分として、第2実施形態で説明した設計方法により設計されたものである。機能性光源51、51は、所定の撮影領域を照明するように、互いに向き合う方向に少し傾斜されて配置されている。RGBカメラ52は、機能性光源51、51間を通して撮影領域を撮影するように配置されている。撮影領域には検査対象である塗装面56が配置される。
【0147】
以上のように構成された検査装置50の動作について説明する。RGBカメラ52は、撮影領域に配置された塗装面56を撮影し、RGB値を含むデータである撮影画像を、ノイズ・鏡面反射除去部531に出力する。
【0148】
ノイズ・鏡面反射除去部531は、第3実施形態のノイズ・鏡面反射除去部431と同様にして、撮影画像からノイズ及び鏡面反射を除去し、その結果の画像を不均一性指標計算部532に出力する。
【0149】
不均一性指標計算部532は、ノイズ・鏡面反射除去部531から受け取った画像から、分散、歪度、尖度、空間周波数等の画像統計量を算出し、均一性判定部533に出力する。
【0150】
均一性判定部533は、均一性の有無を判定する。均一性判定のプロセスは、画像統計量から均一性指標を計算する手順と、その指標と閾値とから均一性の有無を判定する手順とからなる。なお、予め、複数のサンプルについて、均一性を主観的に数値評価した主観評価値とそのサンプルの画像統計量とを取得して、画像統計量から主観評価値を推定する推定式を構築しておく。推定には重回帰分析を使用すればよい。そして、均一性判定部533は、その推定式を用いて、不均一性指標計算部532から受け取った画像統計量に対し、均一性指標である主観評価値を推定する。若しくは、主観評価値を「均一/不均一」の二値とし、画像統計量に対して線形判別分析を適用し、それによって得られる判別スコアを均一性指標としてもよい。そして、均一性判定部533は、均一性指標に基づいて、事前に設定した閾値に従って、均一性の有無、すなわち、塗装むらの有無の判断を行い、その結果を指標とともに表示部(図示せず。)に表示する。この閾値は、教師データとして使用する主観評価値を得たときに、求めておいたものである。
【0151】
第4実施形態によれば、白色光源である機能性光源51の下で計測を行うので、すなわち、白色を中心として色の変化を計測することとなるので、RGBカメラ52が出力するR値、G値及びB値の全てを有効に検査結果の判定に用いることができ、検査精度を向上可能である。また、機能性光源51は、同等の輝度を有する等エネルギー白色光源で照明したときよりも弁別対象間の計測値の差が拡大することからも、検査精度を向上可能である。また、検査装置50は、近赤外線、赤外線や多層膜光学フィルタを用いる必要がないので、導入容易である。
【0152】
なお、機能性光源31、41、51の光源色はいずれも白色としたが、上述した設計方法によれば、任意の色を有する機能性光源を設計可能であり、光源色を周囲の環境に応じた色とすれば、弁別対象間の計測値差が拡大されることと相まって、検査精度を向上させることができる。
【0153】
参考文献を、以下に挙げる。これらの参考文献の内容は、参照によってここに援用される。
【0154】
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〈参考文献4〉CIE,“The CIE 1997 Interim Colour Appearance Model(Simple Version),CIECAM97s”,1998年4月
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〈参考文献7〉Computer-Based Classification of Dermoscopy Images of Melanocytic Lesions on Acral Volar Skin. Iyatomi H, et al. Journal of Investigative Dermatology advance online publication, 2008.
〈参考文献8〉Moncrieff M., Cotton S., Claridge E. and Hall P. Spectrophotometric intracutaneous analysis: a new technique for imaging pigmented skin lesions.Brit. J. Derm. 146(3),448-457, 2002.
〈参考文献9〉Matts PJ, et al, Chromophore mapping: a new technique to characterize aging human skin, in vivo. J Am Acad Dermatol 53(3):86.