(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6362751
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】切削油の供給方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20180712BHJP
B01J 4/02 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
B01J4/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-177811(P2017-177811)
(22)【出願日】2017年9月15日
【審査請求日】2017年9月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146087
【氏名又は名称】株式会社松浦機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084696
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 直人
(72)【発明者】
【氏名】高▲桑▼ 浩亮
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 隆治
(72)【発明者】
【氏名】荒川 裕史
【審査官】
宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−087741(JP,A)
【文献】
特開平11−028639(JP,A)
【文献】
実開平03−047743(JP,U)
【文献】
実開平05−016112(JP,U)
【文献】
特開2014−176942(JP,A)
【文献】
特開昭60−007927(JP,A)
【文献】
実開昭62−078246(JP,U)
【文献】
特開平02−106250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/10
B01J 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t
1,…,t
i,…,t
nの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nの設定。
c.
切削油タンクの容量をVとし、かつワーク1の切削を行う前の切削油タンクの貯留量をゼロとした場合、
q>q1,…,qi,…,qn
及び、
【数1】
の各不等式を充足し、かつ一定の数値である単位時間当たりの供給量qの設定、及びワーク1,…,i,…,nに対する切削が行われている全期間における切削油タンクに対する継続した前記供給量qによる切削油の供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
【請求項2】
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは2以上の整数であり、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t1,…,ti,…,tnの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q1,…,qi,…,qnの設定。
c.切削油タンクの容量をVとした場合、
(V+q1t1+…+qiti)/(t1+…+ti)
を最小値とし、かつnより小さいi=i0を選択した上で、ワーク1,…,i0が切削されている期間に亘って、切削油タンクに対し、
q’≦(V+q1t1+…+qi0ti0)/(t1+…+ti0)
q’>(q1t1+…+qntn)/(t1+…+ti0)
の各不等式を充足し、かつ一定の数値である単位時間当たりの切削油の供給量q’を設定し、前記供給量q’の下にt1+…+ti0の期間に亘る切削油タンクに対する切削油の供給、及びその後の切削油の不供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq1t1,…,qiti,…,qntnと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
【請求項3】
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは2以上の整数であり、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t1,…,ti,…,tnの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q1,…,qi,…,qnの設定。
c.切削油タンクの容量をVとした場合、
qi”>q1,…,qi,…,qn
(q1”−q1)t1+…+(qi”−qi)ti+…+(qn”−qn)tn≦V
を充足するような切削油タンクに対する各単位時間当たりの切削油の供給量q1”,…,qi”,…,qn”の設定、及び前記各供給量q1”,…,qi”,…,qn”の下に切削油タンクに対するワーク1,…,i,…,nの各切削に対応した切削油の供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq1t1,…,qiti,…,qntnと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
【請求項4】
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは2以上の整数であり、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t1,…,ti,…,tnの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q1,…,qi,…,qnの設定。
c.q1,…,qi,…,qnのうちの最大値qmを選択した上で、q'''>qmを充足するような単位時間当たりの切削油の供給量をq'''の設定、及び前記供給量q'''による切削油タンクに対するワーク1,…,i,…,nの切削の継続に対応する切削油の供給、並びに切削油タンクが切削油によって充満した段階における当該タンクに対する給油の中止、並びに当該中止を原因として、切削油タンク内の切削油の貯留量が最小基準量に至った段階における更なる切削油タンクに対する前記供給量q'''による切削油の供給、及び必要に応じた前記中止及び前記供給の繰り返し。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq1t1,…,qiti,…,qntnと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
【請求項5】
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは2以上の整数であり、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t1,…,ti,…,tnの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q1,…,qi,…,qnの設定。
c.ワーク1,…,i,…,nの切削を行う前段階における切削油タンクに対する初期基準量の切削油Q0の供給、及びワーク1,…,i,…,nの切削段階における切削油タンクに対する単位時間あたり夫々q1,…,qi,…,qnの切削油の供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq1t1,…,qiti,…,qntnと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
【請求項6】
水溶性切削油を採用した上で、切削油タンク内の切削油の水の含有量が多いほど、切削油タンクに供給する水溶性切削油の濃度を高くし、切削油タンク内の切削油と水の含有比率をあらかじめ指定した濃度に調整する機能を特徴とする請求項1、2、3、4、5の何れか一項に記載の切削油の供給方法。
【請求項7】
請求項3に立脚している請求項6記載の切削油の供給方法において、各ワーク1,…,i,…,nに対応して、水の濃度を調整することを特徴とする切削油の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを切削する工作機械において、当該切削に使用する切削油の切削油タンク及び切削領域に対する供給方法を対象としている。
【背景技術】
【0002】
工作機械によってワークを切削する場合には、切削領域における発熱に対する冷却及び切削抵抗の減少のために、当該切削領域への切削油の供給を必要不可欠とする。
【0003】
ワークに対する切削に対応して切削油の供給量を制御することは、周知である。
【0004】
例えば、特許文献1は、切削長の変化及び切削抵抗に対応して切削領域への切削油の供給量を変化させており(請求項1、2、3)、特許文献2は、切削に必要な駆動モータの負荷に対応して切削領域への切削油の供給量を制御している(要約書)。
【0005】
工作機械においては、切削油タンクを設置し、かつ切削領域に切削油を供給させているが、前記各公知技術は、切削油タンクに正常に切削油が供給されていることを当然の技術的前提としている。
しかしながら、上記技術的前提は、決して当然成立する訳ではない。
【0006】
具体的に説明するに、切削領域に供給される単位時間当たりの切削油の量は、ワーク毎に相違しているが、従来技術の場合においては、1種類又は複数種類のワークを切削する際、各ワークの切削に対応して切削油タンクから適切な切削油の供給を可能とするように、切削油タンクに対して切削油を適切に供給することにつき、格別の技術的工夫が行われている訳ではない。
因みに、特許文献3は、切粉から分離した切削油を切削油タンク3に供給する構成を開示しているが(要約書)、ワークの切削に必要な切削油の量を考慮した上で、切削油タンクに対する切削油の供給量を調整している訳ではない。
【0007】
特許文献4は、第1の切削油タンクと第2の切削油タンクとを略同じ温度とするように調節する構成を開示しているが(請求項1)、ワークの切削に必要な切削油の量を考慮した上で、双方の切削油タンクに対する切削油の供給量を調整している訳ではない。
【0008】
切削油タンクに対する切削油の供給量が十分ではなく、その結果、切削油タンクから流出し、かつ切削領域に供給される切削油の量の方が、前記供給量よりも多い場合には、切削油タンク内の切削油がゼロと化すことを原因として、切削作業を中断しなければならない。
このような中断は、工作機械の作業効率を著しく減殺することにならざるを得ない。
【0009】
上記中断状況を回避するために、切削油タンク内の切削油の量が最小基準量に至った場合には、切削油の供給源から切削油タンクに自動的に切削油を供給し、かつ上記最小基準量を上回る状態とする方法を想定することができる。
【0010】
ワークの切削に必要な切削油の量は、ワークの種類によって相違するが、上記方法においては、当該相違を考慮した場合切削油タンクに対しどのような基準の下に切削油を供給すべきかについては、必ずしも明らかではない。
【0011】
このように、従来技術においては、切削を行うワークの種類によって必要な切削油の量が相違することを考慮した上で、切削油タンク及び切削領域に適切な量の切削油を供給することについては、技術的に有意義な提案が行われていなかったと評価しても過言ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−023651号公報
【特許文献2】特開平6−23612号公報
【特許文献3】特開平8−196826号公報
【特許文献4】特許第5202142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ワークを切削する工作機械において、ワークの種類において必要な切削油の量が相違することに立脚した上で、切削油タンク及び切削領域に対し、切削油を適切に供給する構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の基本構成は、以下の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)からなる。
(1)
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t
1,…,t
i,…,t
nの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nの設定。
c.
切削油タンクの容量をVとし、かつワーク1の切削を行う前の切削油タンクの貯留量をゼロとした場合、
q>q1,…,qi,…,qn
及び、
【数1】
の各不等式を充足し、かつ一定の数値である単位時間当たりの供給量qの設定、及びワーク1,…,i,…,nに対する切削が行われている全期間における切削油タンクに対する継続した前記供給量qによる切削油の供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
(2)
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t
1,…,t
i,…,t
nの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nの設定。
c.
切削油タンクの容量をVとした場合、
(V+q1t1+…+qiti)/(t1+…+ti)
を最小値とし、かつnより小さいi=i0を選択した上で、ワーク1,…,i0が切削されている期間に亘って、切削油タンクに対し、
q’≦(V+q1t1+…+qi0ti0)/(t1+…+ti0)
q’>(q1t1+…+qntn)/(t1+…+ti0)
の各不等式を充足し、かつ一定の数値である単位時間当たりの切削油の供給量q’を設定し、前記供給量q’の下にt1+…+ti0の期間に亘る切削油タンクに対する切削油の供給、及びその後の切削油の不供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
(3)
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t
1,…,t
i,…,t
nの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nの設定。
c.
切削油タンクの容量をVとした場合、
qi”>q1,…,qi,…,qn
(q1”−q1)t1+…+(qi”−qi)ti+…+(qn”−qn)tn≦V
を充足するような切削油タンクに対する各単位時間当たりの切削油の供給量q1”,…,qi”,…,qn”の設定、及び前記各供給量q1”,…,qi”,…,qn”の下に切削油タンクに対するワーク1,…,i,…,nの各切削に対応した切削油の供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
(4)
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t
1,…,t
i,…,t
nの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nの設定。
c.
q1,…,qi,…,qnのうちの最大値qmを選択した上で、q'''>qmを充足するような単位時間当たりの切削油の供給量をq'''の設定、及び前記供給量q'''による切削油タンクに対するワーク1,…,i,…,nの切削の継続に対応する切削油の供給、並びに切削油タンクが切削油によって充満した段階における当該タンクに対する給油の中止、並びに当該中止を原因として、切削油タンク内の切削油の貯留量が最小基準量に至った段階における更なる切削油タンクに対する前記供給量q'''による切削油の供給、及び必要に応じた前記中止及び前記供給の繰り返し。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
(5)
複数種類のワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用する切削油の供給方法。
a.ワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)に対する切削時間t
1,…,t
i,…,t
nの設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合におけるワーク1,…,i,…,nの切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nの設定。
c.
ワーク1,…,i,…,nの切削を行う前段階における切削油タンクに対する初期基準量の切削油Q0の供給、及びワーク1,…,i,…,nの切削段階における切削油タンクに対する単位時間あたり夫々q1,…,qi,…,qnの切削油の供給。
d.ワーク1,…,i,…,nの切削において、切削油の量をq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nと設定したことによる切削領域に対する切削油タンクからの流出による切削油の供給。
【発明の効果】
【0015】
基本構成(1)、(2)、(3)、(4)、(5)に立脚している本発明においては、切削を予定しているワークの種類に対応して、切削領域に供給する切削油を切削油タンクにおける切削油の枯渇を生ぜずに、切削油が残留した状態を維持することによって切削作業を中断せずに継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】基本構成
(1)、(2)、(3)、(4)、(5)の前提となる工程を示すフローチャートである。
【
図2】基本構成
(1)の工程を示すフローチャートである。
【
図3】基本構成
(2)の工程を示すフローチャートである。
【
図4】基本構成
(3)の工程を示すフローチャートである。
【
図5】基本構成
(4)の工程を示すフローチャートである。
【
図6】基本構成
(5)の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
基本構成(1)
、(2)、(3)、(4)、(5)は、部分的に共通の要件に立脚している。
【0018】
具体的に説明するに、aのプロセスにおいては、切削の対象となる
複数種類のワーク1,…,i,…,n(但し、nは
2以上の整数であ
り、iはi番目のワークの種類を示す。)の各切削時間t
1,…,t
i,…,t
nを設定すると共に、使用する切削油を選択することによって、全プロセスの基本的技術的事項を設定及び選択することに帰する。
【0019】
bのプロセスにおいては、ワーク1,…,i,…,nを切削する場合に、切削領域における単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nを設定しているが、これらの単位時間当たりの供給量は、過去の経験又は事前の実験によって適切な最大値及び最小値を把握し、当該最大値及び最小値の範囲内にて前記q
1,…,q
i,…,q
nを選択することになる。
【0020】
cのプロセスにおいては、a、bの選択及び設定によってワーク1,…,i,…,nに対する切削工程において、切削油タンクからq
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nの量の切削油が流出し、かつ切削領域に供給されているが、切削油タンクにおいて切削油が残留する状態を維持する状態、即ち前記流出を上回る供給を行っている。
従って、ワーク1,…,iに対する切削が行われるまでに切削油タンクに供給する切削油の量をQとした場合には、Q−(q
1t
1+…+q
it
i)>0がi=1〜nの範囲にて成立することを必要不可欠とする。
【0021】
前記不等式が自動的に成立するような
具体的構成については、基本構成
(1)、(2)、(3)、(4)、(5)に即して後述する通りである
。
【0022】
dのプロセスにおいては、cのプロセスに基づく切削油タンクに対する切削油の供給を前提とした上で、aのプロセスによって設定された切削時間t
1,…,t
i,…,t
n及びbのプロセスによって設定された切削油の単位時間当たりの供給量q
1,…,q
iの下に、ワーク1,…,i,…,nの切削に対応して、q
1t
1,…,q
it
i,…,q
nt
nの量による切削油が切削油タンクから流出し、かつ切削領域に供給するという最終段階の工程が実現することに帰する。
【0023】
そして、ワーク1,…,iに対する切削が終了する段階では、(q
1t
1+…+q
it
i)の切削油が切削領域に供給されることになる。
尚、切削油については、通常切削領域に供給された後に、切削屑等を除去した上で再び切削油タンクに戻すという循環処理が行われているが、このような循環において発生する蒸発及び前記除去に際し、切削屑等と一体をなした廃棄処分によって順次減少するが、切削油タンクに対しては、前記のように減少した分を補給して供給されている。
【0024】
基本構成(1)
、(2)、(3)、(4)、(5)において共通するa〜dによる各プロセスは、
図1のフローチャートによって要約することができる。
【0025】
基本構成
(1)は、ワーク1,…,i,…,nの各切削の全期間に亘って、単位時間当たりqという一定量の切削油を供給している。
【0026】
基本構成
(1)においては、
q>q
1,…,q
i,…,q
nが成立するqを選択していることから、
【数1】
が成立し、このような不等式がi=nに至るまで成立することから、切削油タンクにおける切削油が枯渇せずに、切削油タンク内に残存した状態を維持することができる。
【0027】
基本構成
(1)においては、前記不等式の成立によって、ワーク1,…,i,…,nに対する切削が順次行われるに従って、切削油タンクにおける切削油の貯留量が増加することに帰する。
【0028】
基本構成
(1)においては、切削油タンクの容量をVとした場合に、
【数2】
が成立することから、
【数3】
が成立し、切削油タンクに対する供給量と流出量との差は切削油タンクの体積V以下であって、切削油タンクは切削油によって満杯となる可能性はあるも、オーバーフローには至らない。
【0029】
qに関する前記q>q
1,…,q
i,…,q
nの不等式及び[数3]の不等式を考慮するならば、ワーク1,…,i,…,nの切削に際し、
【数4】
という不等式が成立することを必要不可欠としており、基本構成
(1)は、上記不等式の成立を大前提としている。
【0030】
基本構成
(1)は、切削油タンクに対し、定常的に安定した状態にて切削油を供給することを特徴として
おり、c、dに対応するプロセスについては、
図2のフローチャートによって要約することができる。
【0031】
基本構成
(2)は、cのプロセスにおいて、切削油タンクの容量をVとした場合、
【数5】
を最小値とするようなi=i
0を選択した上で、ワークi
0の切削に至るまで、切削油を切削油タンクに供給し、その後供給しないという断続的な供給を行っている(但し、i
0≦n−1)。
【0032】
基本構成
(2)においては、
【数6】
【数7】
を充足するような切削油タンクに対する単位時間当たりの切削油の供給量q’を設定している。
【0033】
i=i
0の場合には、前記[数6]の数式が最小であることを考慮するならば、i=i
0に限定しない前記[数6]の数式との間には、
q’≦(V+q
1t
1+…+q
i0t
i0)/(t
1+…+t
i0)
≦(V+q
1t
1+…+q
it
i)/(t
1+…+t
i)
(i=1,…,n−1)
が成立する。
従って、i=1,…,i,…,n−1の範囲にて、
q’(t
1+…+t
i)−(q
1t
1+…+q
it
i)≦V
が成立し、ワーク1,…,i,…,n−1の切削段階において、切削油タンクがオーバーフローすることはあり得ない。
【0034】
しかも、ワークnの切削段階においては、単位時間当たりの供給量q’による切削油タンクへの供給が行われていない以上、全切削工程において、当然切削油タンクのオーバーフローは生じない。
【0035】
[数8]の不等式によって、
q’(t
1+…+t
i0)−(q
1t
1+…+q
it
i+…+q
nt
n>0
が成立することから、切削油タンクにおける切削油が枯渇せずに、切削油タンク内に残存した状態を維持することができる。
【0036】
q’に関する前記[数7]及び[数8]の不等式を考慮するならば、基本構成
(2)においては、
q
1t
1+…+q
it
i+…+q
nt
n<V+q
1t
1+…+q
i0t
i0
の成立、即ち、
q
io+1t
io+1+…+q
nt
n<V
の成立を基本的前提としている。
【0037】
基本構成
(2)は、[数6]の数式を最小値とするi
0がワークの全総数nよりも明らかに小さい場合には、切削油タンクに対する供給を短時間にて済ませることを特徴として
おり、c、dに対応するプロセスについては、
図3のフローチャートによって要約することができる。
【0038】
基本構成
(3)は、切削の対象となるワークiが順次変化することに対応して、切削油タンクに対する単位時間当たりの供給量を変化し得る状態にて供給を行っている。
【0039】
基本構成(4)においては、
q
i">q
1,…,q
i,…,q
n
【数8】
を充足するような各q
i"を各ワークiの切削に対応して、切削油タンクに対し、単位時間当たりの供給量q
i"によって供給を行っている。
【0040】
qとq
1,…,q
iとの間の上記不等式によって、
【数9】
が成立し、切削の開始から中途に至るまでの全中途段階にあるワークiにおいて、切削油タンクの貯留量がゼロとなることはあり得ず、かつこの点は、最終段階であるi=nの場合であっても変わりはない。
【0041】
ワーク1,…,i,…,nに対する切削が順次進行するに従って、切削油タンクの切削油の量は増大するが、前記[数9]の不等式は、切削油タンクに対する供給量及び切削油タンクからの流出量の差が、切削油タンクの容量V以下であることを示しており、切削油タンクにおけるオーバーフローが生じないことを意味している。
【0042】
基本構成
(3)は、切削の対象となるワークの変化に対応して、適宜切削油を適切に供給することを特徴と
しており、c、dに対応するプロセスについては、
図4に示すフローチャートによって要約することができる。
【0043】
基本構成
(4)は、単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nのうちの最大値q
mを選択した上で、切削油タンクに対し、q'''>q
m、即ち前記最大値q
mよりも更に大きな単位時間当たりの供給量の下にq'''の切削油を供給している。
【0044】
個別の作動について説明するに、切削油タンクに対し、単位時間当たりq'''の供給量によって切削油を供給した場合には、切削油タンクを切削油が全容量に至るまで、即ち充満するまで供給される場合があるが、そのような場合には上記供給を中止する。
【0045】
当該中止を原因として、切削油タンク内の切削油は順次減少するが、切削油が最小基準量に至った場合には、改めて切削油タンクに対し単位時間当たりの供給量q'''によって供給を行い、必要に応じて前記中止及び前記供給による作業を繰り返すことに帰する。
【0046】
q'''とq
mとの関係については、例えば、q'''=αq
m+β(但し、α>1,β≧0)のような線形式による関係を設定することができるが、このような関係に限定される訳ではない。
尚、前記最小基準量については、制御装置が当該最小基準量に至った状態を検出してから、前記供給量q'''による供給が行われるに至るまでの時間差(タイムラグ)をΔtとした場合に、q
m・Δt以上であることを必要不可欠とする。
【0047】
しかしながら、前記最小基準量としては、このようなq
m・Δtではなく、安全のために、t
1,…,t
i,…,t
nのうちの最大時間t
mを選択した上で、q
m・t
mを設定すると良い。
【0048】
基本構成
(4)は、基本構成
(1)〜(3)のような不等式による煩雑な計算を不要とすることに特徴を有して
おり、c、dに対応するプロセスについては、
図5に示すフローチャートによって要約することができる。
【0049】
基本構成
(5)は、ワーク1,…,i,…,nの切削に際し供給される単位時間当たりの切削油の供給量q
1,…,q
i,…,q
nと同等の供給量の下に、切削油タンクに対し、切削時間t
1,…,t
i,…,t
nに対応して切削油を供給する一方、切削が開始される前に、既に予め切削油の初期基準量Q
0を供給している。
【0050】
初期最小基準量Q
0は、理論的には、ワーク1の切削に際し、切削油タンクから単位時間当たりの供給量q
1の下に切削油タンクに切削油を供給する一方、当該切削油タンクから切削領域に対し、前記供給量q
1の下に切削油を供給する際、切削油タンクに供給する時期が切削領域に供給する時期に比し生ずる時間差(タイムラグ)をΔtとした場合、理論的には、q
1・Δt以上であれば済むことに帰する。
【0051】
しかしながら、実際には、初期基準量としては、安全を考慮し、Q
0=q
1・t
1に設定すると良い。
【0052】
基本構成
(5)は、切削領域に対する切削油の供給と同等のペースにて切削油を切削油タンクに供給する点において、供給方法がシンプルである。
即ち、基本構成
(1)、(2)、(3)、(4)のような不等式による技術的前提及び供給量の要件を不要としている。
【0053】
基本構成
(5)は、上記のようなシンプルな供給方法であることを特徴として
おり、c、dに対応するプロセスについては、
図6に示すフローチャートによって要約することができる。
【実施例】
【0055】
実施例は、水溶性切削油を採用した上で、水の含有量が多いほど、切削油タンクに供給する切削油の濃度を高く設定することを特徴としている。
【0056】
水溶性切削油は、油成分と水とを界面活性剤を介して相溶状態としているが、濃度が基準となる値と異なる場合、切削部分における潤滑機能が低下する傾向があることから、実施例においては、切削油タンク内の切削油の水の含有量が多いほど、切削油タンクに供給する水溶性切削油の濃度を高くし、切削油タンク内の切削油と水の含有比率をあらかじめ指定した濃度に調整することで切削領域への切削油濃度を最適な状態としている。
【0057】
ワークの種類によっては、水溶性切削油の適切な水の含有量が異なる場合がある。
このような場合、実施例においては、基本構成
(3)に立脚した上で、各ワーク1,…,i,…,nに対応して、水の含有量を調整しているが、このような調整によって、各ワーク1,…,i,…,nの切削において適切な水の含有量を設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ワークを切削する工作機械の切削領域に対し切削油を継続的に供給させることによって、切削状態を中断することなく維持しうることから、ワークを切削する全工作機械において利用することができる。
【要約】
【課題】ワークの種類において必要な切削油の量が相違することに立脚した上で、切削油タンク及び切削領域に対し、切削油を適切に供給する構成を提供すること。
【解決手段】ワークを切削する工作機械において、以下のプロセスを採用することによって、上記課題を達成し得る切削油の供給方法。
a.各ワークに対する各切削時間の設定、及び使用する切削油の選択。
b.aによって選択された切削油を使用する場合における切削領域に対する単位時間当たりの切削油の供給量の設定。
c.切削油タンクにおける切削油が残留する状態を維持した上で、切削油タンクに対する切削油の供給。
d.各ワークの切削において、切削油の量を前記aによる各切削時間×前記bによる各単位時間当たりの切削量と設定したことによる切削領域に対する切削油の供給。
【選択図】
図1