(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記算出部は、前記CT値変化指標として、前記対象部位よりも上流側の局所血管領域におけるCT値の時間変化を算出し、前記血管断面形状変形指標として、前記上流側の局所血管領域と前記対象部位の下流側の局所血管領域とにおける血管領域の断面形状の変形を算出する、請求項1又は2記載の血管解析装置。
前記算出部は、前記CT値変化指標として、前記対象部位よりも上流側の局所血管領域と前記対象部位の下流側の局所血管領域との間のCT値の空間変化を算出し、前記血管断面形状変形指標として、前記上流側の局所血管領域と前記下流側の局所血管領域とにおける血管領域の断面形状の変化を算出する、請求項1又は2記載の血管解析装置。
血管拡張状態と収縮状態およびその中間状態のCT画像解析および画像追尾による血管形状、血管断面形状変形、CT値変化データに基づき、第1関係モデルとして、血管断面形状変形と内圧と壁厚と無応力状態断面形状と血管材料構成式のうち少なくとも2つ以上のパラメータを含む関係モデルと、第2関係モデルとして、血管狭窄前後の圧力損失と流速と断面形状と血液材料構成式のうち少なくとも2つ以上のパラメータを含む関係モデルと、第3関係モデルとして、CT値と断面形状と流速と造影剤濃度と造影剤材料構成式のうち少なくとも2つ以上のパラメータを含む関係モデルを活用して、血管拡張状態と収縮状態およびその中間状態の血管断面形状変形量と、狭窄前後における血管断面形状変形量と、血管拡張状態と収縮状態およびその中間状態のCT値変化量、および狭窄前後のCT値変化データを入力として、狭窄前後の血管断面での内圧、あるいは、狭窄前後の血管断面での流量もしくは流速もしくは造影剤濃度を同定することを特徴とした血管解析装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る血管解析装置は、
図1に示すように、検出素子が縦横に配列された二次元アレイ型の検出器を備えて検出器およびX線管の連続回転および連続照射により複数の時位相に亘るボリュームデータ(以下単に医用画像という)を発生するいわゆる4D−CTによる造影剤が注入された被検体の血管(血液を含む)に関する複数時位相の医用画像のデータ(1)を解析して、血管壁座標変化、特定血管領域のCT値変化、断面形状変化の抽出し、血管(狭窄部も含む)および血流(造影剤も含んでも良い)の構造・流体解析条件(2)を同定し、狭窄部前後の圧力変化や流量変化、さらには造影剤濃度変化といった狭窄指標(3)を解析することができる。
【0013】
つまり本実施形態では、構造流体解析を行う際に造影剤の濃度勾配(4)をさらに考慮して、狭窄領域の境界条件を同定することで解析精度向上を図っている。
【0014】
本実施形態に係わる血管解析装置は、血管狭窄部の前後で、狭窄部による血流阻害の影響の大きさに依存して、血管断面形状変化およびCT値変化が特徴的な変化を示すことに着目している。
【0015】
ここで、
図2には血管狭窄の血流現象に関わるパラメータの関係を示している。構造・流体解析条件同定処理では、解析対象の血管入口・出口の境界条件(流量、圧力)と、血管壁の材料モデルパラメータ(弾性率)、狭窄部の材料モデルパラメータ(弾性率)、血管壁形状パラメータ(無応力状態の血管形状)、CT値と流量の関係モデルパラメータを同定することを特徴とする。CT値分布や血管断面形状や造影剤濃度や流速分布は相互に依存して変化するため、これらの関係モデルパラメータも考慮して、パラメータを同定することも特徴としている
。
図2に示すように、狭窄前後の圧力損失、圧力比、流速比、造影剤濃度勾配といった狭窄指標を算出するために、3つの関係モデルを、血管拡張状態と収縮状態およびその中間状態のCT画像解析および画像追尾による血管形状、血管断面形状変形、CT値変化データを活用して、血管応力解析、血流解析を活用して準備する。
【0016】
関係モデル1. 血管断面形状変形51と内圧52と壁厚54と無応力状態断面形状53と血管材料構成式55の関係モデル;Func1
関係モデル2. 血管狭窄前後の圧力損失61と流速62と断面形状63,64と血液材料構成式65の関係モデル;Func2
関係モデル3. CT値71と断面形状72と流速73と造影剤濃度74と造影剤材料構成式75の関係モデル;Func3
これらの関係モデルは、各パラメータ間の応答曲面モデル(例えば多項式などの数式)で表現する。
【0017】
例えば、
図3に例示するように、関係モデル1は、血管断面直径の変形量=Func1(圧力、血管弾性率、ポアソン比、無応力状態直径、初期壁厚)、関係モデル2は、血管狭窄前後の圧力損失=Func2(流速、狭窄部直径、血管形状)、関係モデル3は、CT値=Func3(流速、血管断面直径、造影剤濃度)、があげられる。
【0018】
ここで、血管狭窄前後の位置は、狭窄前の位置をA、狭窄後の位置をBと表記する。血管応力解析では、狭窄前のAより前の領域や、狭窄後のBより後の領域も含めて応力解析を行う。一方、血流解析では、入口境界条件が圧力条件の場合には、入口が圧力条件の場合には、狭窄前のAの断面を入口とし、また、出口境界条件が圧力条件の場合には、狭窄後のBの断面を出口とする。入口境界条件が流量あるいは流速分布条件の場合には、狭窄前のAより前の領域を、あるいは、出口境界条件が流量あるいは流速分布条件の場合には、狭窄後のBより後の領域も含めて、血流解析を行う。
【0019】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる血管解析装置及び血管解析プログラムを説明する。
【0020】
本実施形態に係る血管解析装置は、医用画像診断装置により発生された医用画像に含まれる血管領域を構造流体解析するためのコンピュータ装置である。本実施形態に係る血管解析装置は、医用画像診断装置に組み込まれていても良いし、医用画像診断装置とは別体のワークステーション等のコンピュータ装置であっても良い。以下、説明を具体的に行うため本実施形態に係る血管解析装置は医用画像診断装置に組み込まれているものとする。
【0021】
本実施形態に係る医用画像診断装置は、被検体をスキャンするための撮像機構を装備する如何なる種類の画像診断装置にも適用可能である。本実施形態に係る医用画像診断装置としては、例えば、X線コンピュータ断層撮影装置(X線CT装置)、磁気共鳴診断装置、超音波診断装置、SPECT装置、PET装置、放射線治療装置等が適宜利用可能である。以下、説明を具体的に行うため本実施形態に係る医用画像診断装置は、X線コンピュータ断層撮影装置であるものとする。
【0022】
図4は、本実施形態に係る医用画像診断装置(X線コンピュータ断層撮影装置)の概略的なブロック構成図である。
図4に示すように、X線コンピュータ断層撮影装置は、CT架台10とコンソール20とを有する。CT架台10は、コンソール20の架台制御部23からの制御に従ってX線で被検体の撮像部位をスキャンする。撮像部位は、典型的には心臓である。CT架台10は、X線管11、X線検出器13、及びデータ収集装置15を有している。X線管11とX線検出器13とは、回転軸Z回りに回転可能にCT架台10に装備されている。X線管11は、造影剤が注入された被検体にX線を照射する。X線検出器13は、X線管11から発生され被検体を透過したX線を検出し、検出されたX線の強度に応じた電気信号を発生する。データ収集装置15は、X線検出器13から電気信号を読み出してデジタルデータに変換する。1ビュー毎のデジタルデータのセットは、生データセットと呼ばれている。複数のスキャン時刻に関する時系列の生データセットは、非接触データ伝送装置(図示しない)によりコンソール20に伝送される。
【0023】
コンソール20は、システム制御部21を中枢として、架台制御部23、再構成装置25、画像処理装置27、入力機器29、表示機器31、及び記憶装置33を有している。架台制御部23は、ユーザにより入力機器29を介して設定されたスキャン条件に応じてコンソール20内の各装置を制御する。再構成装置25は、生データセットに基づいて被検体に関するCT画像のデータを発生する。具体的には、まず、再構成装置25は、生データセットに前処理を施して投影データセットを発生する。前処理としては、対数変換や不均一補正、キャリブレーション補正等が含まれる。次に、再構成装置25は、投影データセットに画像再構成処理を施してボリュームデータとしてのCT画像のデータを発生する。画像再構成アルゴリズムとしては、FBP(filtered back projection)法等の解析学的画像再構成法や、ML−EM(maximum likelihood expectation maximization)法やOS−EM(ordered subset expectation maximization)法等の逐次近似画像再構成等の既存のアルゴリズムが採用可能である。本実施形態において再構成装置25は、時系列の投影データセットに基づいて時系列のCT画像のデータを発生する。CT画像は、造影剤により造影された血管に関する画素領域(以下、血管領域と呼ぶことにする。)を含んでいる。なお、CT画像は、CT値の2次元空間分布を表現するスライスデータであっても良いし、CT値の3次元空間分布を表現するボリュームデータであっても良い。以下、CT画像はボリュームデータであるとする。時系列のCT画像のデータは、記憶装置33に記憶される。
【0024】
画像処理装置27は、時系列のCT画像に基づいて力学モデルを構築して構造流体解析を実行する。画像処理装置27の処理の詳細については後述する。入力機器29は、ユーザからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力機器29としては、キーボードやマウス、スイッチ等が利用可能である。表示機器31は、CT画像や構造流体解析結果等の種々の情報を表示する。表示機器31としては、例えばCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等が適宜利用可能である。記憶装置33は、ハードディスク装置等の種々の記憶媒体により構成される。記憶装置33は、造影剤を注入された被検体を対象とする時系列の投影データや時系列のCT画像データ等の種々のデータを記憶する。例えば、記憶装置33は、時系列のCT画像データをDICOM(digital imaging and communications in medicine)規格に準拠した医用画像ファイル形式で記憶する。また、記憶装置33は、外部機器により収集された医用データを時系列のCT画像データに医用画像ファイル内において関連付けて記憶しても良い。
【0025】
システム制御部21は、中央演算処理装置(CPU:central processing unit)や読み出し専用メモリ(ROM:read only memory)、ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)を有する。システム制御部21は、X線コンピュータ断層撮影装置の中枢として機能する。システム制御部21は、ROMやRAMに記憶されている血管解析プログラムを実行して本実施形態に係る血管構造解析処理を実行する。
【0026】
なお、システム制御部21、画像処理装置27、入力機器29、表示機器31、及び記憶装置33は、血管解析装置50を構成する。本実施形態のように血管解析装置50は、医用画像診断装置(X線コンピュータ断層撮影装置)に組み込まれていても良いし、医用画像診断装置とは別体のコンピュータ装置であっても良い。血管解析装置50が医用画像診断装置とは別体の場合、血管解析装置50は、医用画像診断装置やPACS(picture archiving and communication systems)からネットワークを介して時系列のCT画像等の医用データを収集すれば良い。
【0027】
次に、
図5を参照して、本実施形態に係る動作例を簡単に説明する。なお、本実施形態に係る血管解析装置は、心臓血管や頸動脈、脳動脈等の人体のあらゆる部位の血管を解析対象とすることができる。しかしながら、以下、説明を具体的に行うため本実施形態に係る解析対象は、心臓の血管であるとする。心臓の血管について簡単に説明すると、心臓の血管としては、例えば、冠動脈と大動脈とが挙げられる。冠動脈は、大動脈の冠動脈起始部から始まり心筋表面を走行し、心外膜側から内膜側に入り込む。冠動脈は、心筋の内膜において無数の毛細管に分岐する。分岐後、無数の毛細管は、再び統合して大心静脈を形成し、冠静脈洞に接続する。冠血管系は、他の臓器と異なり、心筋の収縮及び弛緩という力学的変化のなかで、灌流が保障されなければならないという点で特徴的である。
【0028】
冠血流の特徴としては、心筋収縮による機械的血流阻害作用で冠動脈起始部の内圧が高くなる収縮期よりも、左心室拡張期に灌流圧が低下したときに多く流れることである。そのため、正常の冠動脈血流速波形は収縮期と拡張期の二峰性であり、拡張期血流が優位である。肥大型心筋症や大動脈弁狭窄症では収縮期に逆行性波を認め、大動脈逆流症では収縮期順行波が大きくなるなど疾患によって特異的な血流波形を呈することが知られている。また、拡張期の順行性波形は左室拡張機能、特に左室弛緩と密接な関係がある。左室弛緩遅延例では拡張期波形のピークが後ろにずれ、また減速脚がゆるやかになる傾向がある。また、このような症例では、頻拍時には拡張期の冠血流は十分に増大できず、心筋虚血を助長すると考えられる。
【0029】
解剖学的に大動脈起始部から分岐する左右冠動脈に大動脈圧に等しい冠灌流圧(すなわち、冠動脈が分枝する大動脈起始部の圧力)がかかることにより、冠血流が生じる。冠血流を決定するのは大動脈圧である駆動圧とともに冠血管抵抗が重要である。140〜180μm以上の太い冠血管には冠血管低抗の20%程度が存在するのに対し、100〜150μm以下の微小血管には抵抗成分の残りの多くが存在するといわれる。従って、いわゆる冠狭窄などのない場合には抵抗値は冠微小血管の緊張性(トーヌス)に左右される。
【0030】
血管抵抗因子としては、血管特性、動脈硬化、管狭窄、血液粘性、機械的因子があげられる。冠微小血管のトーヌスは、血管特性、心筋代謝(心筋酸素消費)、神経体液性因子、機械的因子、体液因子としての各種の血管作動性物質、血液粘性に規定され、さらに、心肥大、冠動脈硬化などを含めた様々な病変によっても影響され冠循環障害を起こす。
【0031】
冠動脈血流拍動は、冠動脈血流の拍動パターン、心筋収縮による心筋内血流の制御、機械的刺激に対する心筋内血管の反応に影響される。心筋収縮が血流を阻害する機序としては、心筋内圧の上昇、心筋内血管容量の変化、心筋内血管の圧迫が挙げられる。心筋拡張期の血流規定因子には、拡張期の冠動脈圧、拡張期の血管外力、心拍数、心周期に占める拡張期の割合、心筋弛緩が存在する。
【0032】
次に構造流体解析に必要なパラメータの具体的な同定方法について
図6を参照して説明する。同定方法の流れは次の通りである。血管収縮状態1、拡張収縮中間状態2、拡張状態3における狭窄前の断面直径d
in1、 d
in2、 d
in3、狭窄後の断面直径d
out1、 d
out2、 d
out3より次を求める。
P
in1=Func1(d
in1、 E、 d
0)
P
in2=Func1(d
in2、 E、 d
0)
P
in3=Func1(d
in3、 E、 d
0)
P
out1=Func1(d
out1、 E、 d
0)
P
out2=Func1(d
out2、 E、 d
0)
P
out3=Func1(d
out3、 E、 d
0)
0=Func1(d
0、 E、 d
0)
ただしEは血管の硬さパラメータ、d
0は無応力状態の直径である。
ΔP
1= P
in1 − P
out1
ΔP
2= P
in2 − P
out2
ΔP
3= P
in3 − P
out3
狭窄部の内腔形状パラメータをd
pとすると
ΔP
1=Func2(v
1、d
p)
ΔP
2=Func2(v
2、d
p)
ΔP
3=Func2(v
3、d
p)
を求める。
【0033】
流量0のときのCT値をCT0とすると、状態1、2、3のCT値とからv1、v2、v3と CT1−CT0、 CT2−CT0、 CT3−CT0がFunc3の関係を満たすように階層ベイズアルゴリズムで、パラメータE、d
0、d
pを求める。状態1、2、3のそれぞれで得られたd
pと圧力分布の関係から狭窄部の硬さパラメータE
pを構造逆解析により求める。
【0034】
前記の3つの応答曲面モデル(各パラメータの関係式)を、拡張時と収縮時およびその中間状態のCT画像処理データに基づく構造・流体解析により作成し、圧力損失、血管硬さ(弾性率)、流量を推定値として、狭窄部直径と無応力状態直径をパラメータに、階層ベイズ&マルコフ連鎖モンテカルロ法により、観測できる変数から、観測できない変数を得る。
【0035】
これら構造流体解析では、造影画像を用いて、その造影剤の濃度勾配をさらに考慮して、狭窄領域の境界条件を同定することでその解析精度向上を図っている。
【0036】
次に、本実施形態に係る構造流体解析処理の詳細について説明する。
図7は、本実施形態に係るシステム制御部21の制御のもとに行われる構造流体解析処理の典型的な流れを示す図である。
図8、
図9は処理の流れをデータ種類から示している。
図9は、
図8の流れに対して構造流体解析を用いている点において相違し、他は同一である。
図10は画像処理装置27を具体的に示している。
【0037】
図7に示すように、構造流体解析処理において、まず、システム制御部21の制御により4Dデータ取得部41により記憶装置33から処理対象の医用画像ファイルが読み出される。医用画像ファイルは、造影剤が注入された被検体に関する時系列のCT画像のデータの他に、血圧データ取得部41で取得された当該被検体に関する血管内腔に関する圧力値のデータ、流量・流速データ取得部43等で取得された血液流量指標の観測値のデータ、及びプラーク指標を含んでいる。CT画像以外ではMRI画像や超音波エコー画像であってもよい。時系列のCT画像のデータは、時系列のCT値の3次元空間分布を表現するデータである。時系列のCT画像は、例えば、1心拍で約20枚、すなわち、約20心位相分のCT画像を含んでいる。
【0038】
システム制御部21は、画像処理装置27に領域設定処理を行わせる(ステップS1)。ステップS1において画像処理装置27は、時系列のCT画像に含まれる血管領域に構造流体解析の解析対象領域を設定する。解析対象領域は、冠動脈に関する血管領域の任意の一部分に設定される。例えばユーザによる入力機器29を介した指示、または、画像処理により血管領域に解析対象領域と同定対象領域を設定する。
【0039】
血管の構造について簡単に説明する。血管は、管状の血管壁を有している。血管壁の中心軸は芯線と呼ばれている。血管壁の内側は内腔と呼ばれている。内腔に血液が流れる。内腔と血管壁との境は血管内壁と呼ばれている。血管壁の外側には心筋等の血管周辺組織が分布している。血管壁と血管周辺組織との境は血管外壁と呼ばれている。血管壁内部にプラークが発生することがある。プラークは、例えば、石灰化した石灰化プラーク、粥状プラーク等に分類される。粥状プラークは、やわらかく、血管内壁が破裂して血栓として血管内部に染み出す危険性があり、不安定プラークと呼ばれることもある。従って、プラークの性状を把握することは臨床的に有用である。プラークの性状や存在領域は、医用画像ファイルに含まれるプラーク指標により特定可能である。プラーク指標は、例えば骨のCT値を基準に正規化したCT値の大きさなどにより相対的に判別することができる。しかしながら、血管内部のプラークの変形特性や硬さを解析するのは容易ではない。
【0040】
ステップS1が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27に時系列のCT画像に画像処理を施させて時系列の血管形態指標、時系列の血管形状変形指標、及びCT値変化指標を計算する。(ステップS2)。時系列の血管形状変形指標は具体的には、画像解析・画像追尾部44により時系列のCT画像に画像解析処理を施すことにより時系列の血管形態指標を算出し、時系列のCT画像に追尾処理を施すことにより算出される。
【0041】
より詳細には、解析処理において、各CT画像から血管領域を抽出し、血管の内腔に関する画素領域(以下、血管内腔領域と呼ぶ)と血管壁に関する画素領域(以下、血管壁領域と呼ぶ)とを特定する。血管形態指標として、血管の芯線に垂直な断面、あるいは血管内腔面に垂直な面が、血管内腔、血管壁、プラーク領域に交わる領域上の複数の画素の3次元座標を特定する。なお、血管形態指標は、3次元座標だけでなく、芯線に垂直な断面における一定角度ごとの血管内腔の半径や直径及び0°の方向ベクトル、あるいは断面における全角度に対する平均面積や平均半径、あるいは、芯線方向に垂直な複数の断面で囲まれた血管内腔容積、あるいは内腔面に垂直な複数断面で囲まれた血管壁容積やプラーク容積等の幾何学的指標でも良い。
【0042】
追尾処理において、ユーザからの入力機器29を介した指示または画像処理により、血管領域や血液や造影剤やプロトンにおける特徴点や特徴形状、代表点、画素等の複数の追跡点を設定する。例えば、血管分岐部や表面の特徴形状などの追跡点集合を設定する。各時刻(各心位相)における追尾処理により得られた追跡点集合の変位データから、力学モデルの血管壁表面あるいは血管壁内部あるいは血管内腔における節点の変位の時間的変化を補間処理などにより算出し、強制変位として与える。また、例えば力学モデルに血管芯線上の節点を定義する。力学モデルの血管壁表面あるいは血管壁内部あるいは血管内腔における節点の変位の時間的変化から、血管の芯線方向に関する伸縮やねじりや曲げに関する変形を抽出し、血管芯線と芯線に垂直な断面における節点の強制変位として与えることで表現しても良い。このように、血管形状変形指標としては、力学モデルにおける各時刻の節点の強制変位データ(強制変位履歴)を特定する。さらに画像解析・追尾処理を説明する。例えば、時系列の医用画像は、1心拍につき20枚のCT画像を含んでいるものとする。すなわち、心位相0%から95%まで5%おきにCT画像が得られているものとする。画像解析・追尾処理部53により血管領域の芯線が抽出される。芯線の形態は、心位相の経過に従って変化している。
【0043】
血管芯線上に力学モデルにおける節点P1〜P10が設定されており、各断面上の血管の力学モデルの節点と力学的につながっている。ただし、血液の力学モデルの節点とは独立である。血管の追跡点の変位データをもとに、血管芯線上のP1からP20の節点の変位データを補間などの処理により算出し、各節点に強制変位が設定されているものとする。血管形状変形指標と血管形態指標について説明するため、節点P13と節点P14とにより規定される局所血管領域RAを考える。時刻tにおいて、芯線方向に関する節点P13と節点P14との間の距離がLであり、血管領域の半径がrであるとする。画像解析・追尾処理部53から、節点P13と節点P14の血管芯線方向の伸縮やねじりや曲げといった強制変位を抽出することにより、節点P13の強制変位(3次元空間における移動変位と、芯線方向の回転変位)と節点P14の強制変位(3次元空間における移動変位と、芯線方向の回転変位)を算出する。例えば、ねじり角は、線a及びbから構成される面の法線方向ベクトルcの変化から算出しても良い。
【0044】
追跡点の座標と移動ベクトルとに基づいて、芯線上の各節点の強制変位(3次元空間における移動変位と、芯線方向の回転変位)を算出し、血管形状変形指標を算出する。例えば、隣り合う2つの節点の座標差の時間変化を芯線方向に関する伸縮距離ΔLとして算出する。また各芯線上の節点について、当該節点と当該節点を含む血管領域断面上の他の節点(血管内腔あるいは血管壁あるいはプラーク領域における節点)との間の距離の時間変化を半径方向に関する伸縮距離Δrとして算出する。また、各追跡点について、当該追跡点の近傍の複数の追跡点の座標と移動ベクトルとに基づいて、芯線上の当該節点の芯線方向のねじれ角度Δθを算出する。また血液領域の造影剤やプロトンの画像追尾により、血液流量指標として、流速あるいは芯線方向断面の平均流速あるいは平均流量を算出してもよい。
【0045】
血管形状変形指標は、力学モデルにおける強制変位として利用される。以下、時系列の血管形態指標を形状履歴と呼び、時系列の血管形状変形指標を強制変位履歴と呼ぶことにする。
【0046】
ステップS2が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27に時系列の血管形態指標、時系列の血管形状変形指標、及びCT値変化指標に基づいて解析対象領域に含まれる狭窄部位の周辺の局所血管領域における造影剤の流量変化に起因するCT値変化指標と血管断面形状変形指標とを算出させる(ステップS3)。
【0047】
次にシステム制御部21は、画像処理装置27に構築処理を行わせる(ステップS4)。ステップS4において画像処理装置27の力学モデル構築部55は、形状履歴(時系列の血管形態指標)と強制変位履歴(時系列の血管形状変形指標)と時系列の医用画像(CT画像、MRI画像、超音波エコー画像などのDICOMデータ)とに基づいて解析対象領域に関する力学モデルを暫定的に構築する。力学モデルは、構造流体解析を行うための解析対象領域に関する数値モデルである。
【0048】
ステップS4について詳細に説明する。力学モデル構築においては、まず、医用画像と形状履歴とに基づいて、力学モデル(数理モデル)を解くための形状モデルを構築する。形状モデルは、各時刻における血管領域の幾何学的構造を模式的に表現したものである。形状モデルは、例えば、複数の離散化領域に区分されている。各離散化領域の頂点は、節点と呼ばれる。時刻毎の医用画像に含まれる血管領域と血管形態指標とに基づいて時刻毎の形状モデルを構築しても良いし、特定の時相の医用画像に含まれる血管領域と血管形態指標とに基づいて時刻毎の形状モデルを構築しても良い。また、例えば、初期の負荷状態として、解析対象領域に対応する血管に残留応力が存在しないと仮定する場合、無応力状態の時相として、解析対象領域に対応する血管が最も収縮した時相を無応力状態であると仮定する。
【0049】
形状モデルは、芯線から外側に向けて血管内腔領域、血管壁領域を有している。プラークが存在する場合、血管壁領域にプラーク領域を設けても良い。また、血管周辺組織による血管への影響を考慮する場合、血管周辺組織のダミー要素を血管壁領域の外側に設けても良い。
【0050】
図11に示すように、形状モデルが構築されると、各潜在変数の確率分布や変数範囲から得られる潜在変数のパラメータに関するサンプリング値(例えばマルコフ連鎖モンテカルロ法などによる、各パラメータの組み合わせの集合からのサンプリング)を力学モデルに設定する。例えば解析条件同定部45により大動脈領域R1の大動脈起始部側の末端に入口に関する境界条件の同定対象の領域(以下、境界条件同定領域)を設定し、右冠動脈領域R2の末端と左冠動脈領域R3の末端とに出口に関する境界条件同定領域を設定する。各境界条件同定領域に境界条件の確率分布や変数範囲から得られる境界条件のパラメータに関するサンプリング値を割り当てる。また、大動脈領域R1、右冠動脈領域R2、及び左冠動脈領域R3に材料モデルの同定対象の領域(以下、材料モデル同定領域と呼ぶ)及び負荷条件の同定対象の領域(以下、負荷条件同定領域と呼ぶ)を設定する。各材料モデル同定領域に材料モデルの確率分布や変数範囲から得られる材料モデルのパラメータに関するサンプリング値を割り当て、各負荷条件同定領域に負荷条件の確率分布や変数範囲から得られる負荷条件のパラメータに関するサンプリング値を割り当てる。血管は、流量が0でも残留応力が存在すると言われている。例えば、力学モデル構築処理S4では、流量が0の場合の残留応力を負荷条件の初期値として解析対象領域に割り当てても良い。また、力学モデル構築処理S4では、幾何学的構造に不確定性がある部位に、幾何学的構造の同定対象の領域(以下、幾何学的構造同定領域と呼ぶ)を設定しても良い。なお、幾何学的構造のパラメータは、幾何学的構造の不確定性に関連するばらつき分布パラメータ、あるいは医用画像データに内在するばらつき分布パラメータであり、各CT値のばらつき分布や生体組織の境界閾値のばらつき分布などであってよい。詳細は、後述するが、プラーク領域に材料モデルを設定しても良い。材料モデルの詳細については後述する。
【0051】
形状モデルが構築されると、血管狭窄モデル構築部46における力学モデル構築処理S4では、ステップS2において算出された時系列の血管形状変形指標、すなわち、強制変位履歴を形状モデルに割り当てる。潜在変数及び強制変位履歴が割り当てられた形状モデルを力学モデルと呼ぶことにする。
【0052】
本実施形態に係る画像処理装置27は、ステップS4において暫定的に構築された力学モデルを用いて逆解析を施し、力学モデルに設定される潜在変数を統計的に同定する。統計的同定処理は、後述のステップS7において行われる。ステップS5及びS6は、それぞれ統計的同定処理に用いる血管形態指標及び血液流量指標を算出するために設けられている。
【0053】
ステップ4が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27の血管応力解析部47に血管応力解析処理を行わせる(ステップS5)。ステップS5において画像処理装置27の血管応力解析機能は、現段階の力学モデルに血管応力解析を施して時系列の血管形態指標の予測値を算出する。血管形態指標は、既述の血管形態指の何れであっても良いが、例えば、血管芯線方向に関する内腔領域の断面形状指標や血管壁の断面形状指標が用いられると良い。具体的には、内腔領域の断面形状指標は、内腔領域の注目画素の座標値、内腔領域の幾何学的構造パラメータ(内腔領域の半径、内腔領域の直径など)の少なくとも一つである。また、血管壁領域の断面形状指標は、具体的には、血管壁領域の注目画素の座標値、血管壁領域の幾何学的構造パラメータ(血管壁領域の半径、壁領域の直径など)の少なくとも一つである。なお、予測値は、力学モデルに血管応力解析を施して算出された血管形態指標の算出値を意味する。
【0054】
また、ステップ4が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27の血管流体解析部48に血液流体解析処理を行わせる(ステップS6)。ステップS6において画像処理装置27の血液流体解析機能は、暫定的に構築された力学モデルに血液流体解析を施して時系列の血液流量指標の予測値を算出する。血液流量指標は、血流量または流速、あるいはその空間的・時間的な平均値の少なくとも一つである。なお、予測値は、力学モデルに血液流体解析を施して算出された血液流体指標の算出値を意味する。
【0055】
ステップS5及びS6が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27に同定処理を行わせる(ステップS7)。ステップS7において画像処理装置27の統計的同定機能は、ステップS5において算出された血管形態指標の予測値とステップS6において算出された血液流量指標の予測値とが、事前に収集された血管形態指標の観測値と血液流量指標の観測値とに整合するように力学的モデルの潜在変数のパラメータを統計的に同定する。
【0056】
血管形態指標の予測値が血管形態指標の観測値に整合するように潜在変数のパラメータを統計的に同定する。血液流量指標の予測値が血液流量指標の観測値に整合するように潜在変数のパラメータを統計的に同定する。
【0057】
具体的には、ステップS7において、ステップS5において算出された血管形態指標の予測値と観測値とに基づくデータ分布を設定する。データ分布は、例えば、血管形態指標の予測値と観測値との誤差に関する多変量正規分布関数を示す。具体的には、力学モデルにおける各節点あるいは各要素での予測値と観測値の誤差に関する正規分布関数値を算出し、それらの積をデータ分布として統計的同定処理部において設定する。データ分布は、時刻毎に個別に設定されても良いし、複数時刻まとめて設定されても良い。次に、力学モデルの潜在変数に事前分布(事前確率分布)を割り当てる。具体的には、材料モデル、境界条件、負荷条件、及び時系列の形態指標や形状変形指標の不確定性に関連するパラメータの各々に事前分布が割り当てられる。例えば、負荷条件のパラメータの一つである血管内腔に関する圧力値に関する事前分布が割り当てられる。圧力値の取り得る値の範囲(想定範囲)は、経験的に予め限定することができる。これら想定範囲内に限定して内圧値に関するモンテカルロシミュレーションを実行することにより、各離散化領域について内圧値の確率分布、すなわち、事前分布を算出する。また、事前分布として、芯線方向の圧力分布は滑らかであること、また、時間経過に伴う圧力変化が滑らかであること、血流の逆流がないことが観測されている場合には芯線方向の平均的な圧力変化の傾きが負であることを、例えば、多変量正規分布関数により数学的に表現した確率分布を事前分布として設定しても良い。これら想定範囲内に限定して、想定した確率分布に従って、負荷条件のパラメータに関するモンテカルロシミュレーションを実行することができ、力学モデルへ設定するための負荷条件(潜在変数)のサンプリング値を得ることができる。次に、各潜在変数について、事前分布とデータ分布とに統計的同定処理を施すことにより事後分布(事後確率分布)を算出する。統計的同定処理は、例えば、階層ベイズモデルやマルコフ連鎖モデルが挙げられる。そして、各潜在変数について、事後分布の最頻値や平均値等の統計値から各潜在変数のパラメータを同定する。例えば、上述の例の場合、血管内腔圧力値に関する事後分布が算出され、この事後分布から血管内腔圧力値の同定値が算出される。
【0058】
図12は、階層ベイズモデル及びマルコフ連鎖モンテカルロ法による負荷条件(血管内の平均圧力)に関する事後分布算出と平均内圧の同定とを説明するための図である。
図12に示すように、血管起始部から延びる血管に石灰化プラーク領域と粥状プラーク領域とが設定されているものとする。石灰化プラーク領域は材料モデル同定領域に設定され、粥状プラーク領域に材料モデル同定領域に設定される。血管起始部から血管芯線方向に沿って進むにつれて血管内圧が降下する。血管芯線に沿って複数の節点が設定される。各節点を含む直交断面(節点断面)において内腔内圧の事後分布が算出され、事後分布の最頻値が同定される。なお、血管形態指標の観測値としては、例えば、ステップS2において算出された血管形態指標が用いられる。
【0059】
さらに統計的同定機能は、まず、ステップS6において算出された血液流量指標の予測値と観測値とに基づくデータ分布を設定する。次に、力学モデルの潜在変数に事前分布を割り当てる。例えば、血管に関する材料モデルのパラメータや血液に関する材料モデルのパラメータ、プラークに関する材料モデルのパラメータに関する事前分布が割り当てられる。これら材料モデルのパラメータとしては、例えば、弾性率などの材料モデルパラメータや、血液の構成式における粘性に関するパラメータが挙げられる。材料モデルのパラメータの想定範囲や確率分布は、経験的に予め設定することができる。各離散化領域について材料モデルのパラメータの確率分布、すなわち、事前分布を設定し、これら想定範囲内に限定して、想定した確率分布に従って、材料モデルのパラメータに関するモンテカルロシミュレーションを実行することができ、力学モデルへ設定するための材料モデルパラメータ(潜在変数)のサンプリング値を得ることができる。次に各潜在変数について、事前分布とデータ分布とに統計的同定処理を施すことにより事後分布を算出し、算出された事後分布の統計値から各潜在変数のパラメータを同定する。例えば、上述の例の場合、材料モデルのパラメータに関する事後分布が算出され、この事後分布から材料モデルのパラメータの同定値が算出される。
【0060】
図13は、階層ベイズモデル及びマルコフ連鎖モンテカルロ法による材料モデルパラメータに関する事後分布算出と材料モデルパラメータ(血管壁の等価弾性率)の同定とを説明するための図である。
図13に示すように、血管モデルは、
図12と同様であるとする。材料モデル同定領域に限定して、血管壁の材料モデルのパラメータ(例えば、等価弾性率)の事後分布が算出され、事後分布の最頻値が同定される。
【0061】
なお、血液流量指標の観測値は、例えば、大動脈に送り出される血流量変化であると仮定し、血管形態指標の観測値を、時系列のCT画像から画像処理により計測される左心室の容積変化値(CFA)として用いることができる。造影剤の冠動脈内注入後の造影剤の画像追尾により特徴点の移動量の時間的変化を算出することにより、流速や流量を算出してもよい。また、造影剤の血管芯線方向あるいは時間的な特定領域の濃度変化量を取得し、その濃度変化を各領域の芯線方向距離間隔で除した値や、濃度変化の時間的変化率から、流速や流量を算出してもよい。MRIの場合はプロトンの画像追尾を用い、超音波エコーの場合には、コントラストエコー図法などにより流量を算出する。
【0062】
また、解析対象領域の各画素の座標値が確定値であることを前提としない場合、すなわち、解析対象領域の幾何学的構造に不確定性があると仮定する場合、潜在変数に幾何学的構造を含めても良い。この場合、各節点の座標値の芯線方向に関する所定範囲内の変動、あるいは、解析対象領域の径の所定範囲内の変動を表現した正規分布などの確率分布を事前分布として設定すると良い。この場合、解析対象領域の形状が滑らかであること、また、芯線における節点の順番が不変であるという制約も事前分布として設定しても良い。これら想定範囲内に限定して、想定した確率分布に従って、幾何学的構造のパラメータに関するモンテカルロシミュレーションを実行することができ、力学モデルへ設定するための幾何学的構造の不確定性パラメータ(潜在変数)のサンプリング値を得ることができる。
【0063】
ステップS7が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27に設定処理を行わせる(ステップS8)。ステップS8においてステップS7において算出された潜在変数のパラメータを力学モデルに設定する。
【0064】
ステップS8が行われるとシステム制御部21は、同定終了条件が満たされたか否かを判定する(ステップS9)。ステップS9において同定終了条件が満たされていないと判定した場合(ステップS9:NO)、システム制御部21は、ステップS5、S6、S7、S8、及びS9を繰り返す。ここで、同定終了条件は、同定終了を判定するための指標(以下、同定終了指標と呼ぶ)が規定値に達するか否かにより表現される。同定終了指標としては、例えば、血管形態指標の予測値と観測値との差分値が挙げられる。この場合、システム制御部21は、この差分値が既定値よりも大きい場合、同定終了条件が満たされていないと判定し、差分値が既定値よりも小さい場合、同定終了条件が満たされたと判定する。また、同定終了指標は、例えば、モンテカルロ法のサンプリング点の数でも良い。この場合、システム制御部21は、このサンプリング点の数が既定値よりも小さい場合、同定終了条件が満たされていないと判定し、サンプリング点の数が既定値よりも大きい場合、同定終了条件が満たされたと判定する。同定終了条件が満たされた場合、その時点の最新の力学モデルを最終的な力学モデルに設定する。
【0065】
最終的な力学モデルが構築されると、力学モデル構築機能は、血管形状変形指標の観測値、最終的な力学モデルにおける負荷条件のパラメータ、及び材料モデルのパラメータを関連付けたモデル(以下、関連モデルと呼ぶ)を算出する。関連モデルは、記憶装置33に記憶される。関連モデルは、検索の容易性等のため患者情報や検査情報等に関連付けて記憶されると良い。なお、血管形態指標や血液流量指標の観測値、最終的な力学モデルにおける負荷条件のパラメータ、及び材料モデルのパラメータは、必ずしもモデルの形態で関連付けられる必要はなく、例えば、テーブルあるいはデータベースであっても良い。
【0066】
上記のステップS5乃至S9は、同一の同定法で反復しても良いし、異なる同定法で反復しても良い。異なる同定法で反復する場合、例えば、まず、簡易的力学モデルを利用して潜在変数を暫定的に同定し、次に、連続体力学モデルを利用して潜在変数を正確に同定しても良い。このように統計的同定処理を異なる手法で2段階に分けて行うことにより、潜在変数のパラメータを短時間で収束させることができる。簡易的力学モデルを利用する方法としては、内圧及び外圧を厚肉円筒の材料力学の式と、ハーゲン・ポアズイユ流れ及び修正ベルヌーイの式とを用いる方法が挙げられる。連続体力学モデルを利用する方法としては、FEM構造流体解析が挙げられる。簡易的力学モデルを利用する同定法と連続体力学モデルを利用する同定法との詳細については後述する。
【0067】
ステップS9において同定終了受件が満たされたと判定した場合(ステップS9:YES)、システム制御部21は、画像解析・追尾処理機能に修正処理を行わせても良い(ステップS10)。ステップS10において画像解析・追尾処理機能は、統計的同定法による逆解析で得られた潜在変数のもとで実施した構造流体解析結果(力学的指標の予測値及び血液流体指標の予測値)が観測値(力学的指標の観測値及び血液流体指標の観測値)に整合するように、時系列の医用画像に含まれる血管領域の形状を修正しても良い。表示機器31は、修正後の時系列の医用画像に基づく診断結果を表示する。これにより、血管解析機能は、最終的な力学モデルを考慮した診断結果を表示することができる。あるいは、表示機器31は、逆解析による同定とその構造流体解析により観測結果とが整合しない血管箇所・領域を画面に表示しても良い。例えば、血管の挙動の動きの速い心位相の画像はぼやけることが多く、医用画像をもとにした画像解析により観測した血管形状には誤差が大きい箇所や領域が存在する。比較的、血管の挙動が安定した心位相のデータでは、ノイズが少ない画像から得られる。そのような誤差分布の小さい血管形状データに基づき、誤差が大きな心位相での血管形状を、力学モデルを用いることで、正しく内挿することができ、そのような誤差が大きい血管箇所や領域について、正しく内挿した形状とともに、元データからのばらつき分布とともに、表示することができる。これにより、血管形状表示の安定性を確保できるとともに、形状の不確定性をユーザが認識できる。
【0068】
ステップS10が行われるとシステム制御部21は、画像処理装置27に血管応力解析処理を行わせ、また血管応力解析処理を行わせる。血管応力解析処理は、最終的な力学モデルに血管応力解析を施して時系列の力学的指標の予測値の空間分布を算出する。具体的には、離散化領域毎に力学的指標の予測値が算出される。血液流体解析は、暫定的に構築された力学モデルに血液流体解析を施して時系列の血液流量指標の予測値の空間分布を算出する。具体的には、離散化領域毎に血液流量指標の予測値が算出される。なお、力学的指標または血液流量指標として、FFRが算出されても良い。
【0069】
ステップS11において表示機器31は、時系列の力学的指標の予測値と時系列の血液流量指標の予測値とを表示する。またステップS12において表示機器31は、狭窄部前後の圧力変化や流量変化、さらには造影剤濃度変化といった時系列の狭窄指標を表示する。例えば、表示機器31は、時系列の力学的指標または時系列の血管流量指標、さらに狭窄指標を、時系列の力学モデルを当該値に応じた色で動画的に表示する。このため、表示機器31は、各値とカラー値(例えば、RGB)との関係を示すカラーテーブルを保持している。表示機器31は、値に応じたカラー値をカラーテーブルを利用して特定し、特定されたカラー値に応じた色で当該予測値に対応する離散化領域を表示する。
【0070】
このように解析対象領域の複数の時相に亘る形態指標、形状変形指標、及びCT値変化指標に基づいて解析対象領域に含まれる狭窄部位の周辺の局所血管領域における造影剤の流量変化に起因するCT値変化指標と局所血管領域における血管断面形状変形指標とを算出し、この局所血管領域におけるCT値変化指標と血管断面形状変形指標とに基づいて狭窄部位に関する狭窄指標を高精度に算出することができる。
【0071】
以上の通り、本実施形態によれば、血管(血液を含む)の画像解析と構造流体解析に基づき、狭窄による血流量の変化や圧力損失の変化といった狭窄指標の解析を高精度に行うことができるものである。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。