特許第6362868号(P6362868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6362868高効率ペロブスカイト型太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362868
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】高効率ペロブスカイト型太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
   H01L31/04 112Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-8540(P2014-8540)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-138822(P2015-138822A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2017年1月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『活力ある生涯のためのLast 5X イノベーション』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若宮 淳志
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克
(72)【発明者】
【氏名】村田 靖次郎
【審査官】 嵯峨根 多美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−024588(JP,A)
【文献】 特開平10−316685(JP,A)
【文献】 特開2001−249184(JP,A)
【文献】 特開昭51−107298(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139473(WO,A1)
【文献】 特開昭57−069670(JP,A)
【文献】 特開2002−249456(JP,A)
【文献】 特表2011−501728(JP,A)
【文献】 特開平09−124317(JP,A)
【文献】 Julian Burschka, et al.,Sequential deposition as a route to high-performance perovskite-sensitized solar cells,Nature,英国,2013年 7月18日,Vol. 499,p.316-320
【文献】 Kangning Liang, David B. Mitzi, and Michael T. Prikas,Synthesis and Characterization of Organic-Inorgnaic Perovskite Thin Films Prepared Using a Versatile Two-Step Dipping Technique,Chemistry of Materials,米国,1998年 1月19日,Vol. 10,p.403-411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/02−31/078;
H01L31/18−31/20;
H01L51/42−51/48;
H02S10/00−10/40;
H02S30/00−99/00;
C01G21/16;
C01B9/00−C01B9/08;
B01D11/04;
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化鉛及びアルキルアンモニウムハライドをペロブスカイトの原料として使用し、
ペロブスカイトを含む光吸収層の形成において、溶液法によってペロブスカイトを形成する工程を含むペロブスカイト型太陽電池の製造方法であって、
当該ペロブスカイトの原料としてのハロゲン化鉛は脱水されており、当該脱水されたハロゲン化鉛のカールフィッシャー法により測定した水分含量が200ppm以下であり、
前記溶液法によってペロブスカイトを形成する工程が、下記A又はBの工程を含むものである、ペロブスカイト型太陽電池の製造方法。
A:前記脱水されたハロゲン化鉛を含む溶液を基板上に塗布し、ハロゲン化鉛層を設けた後、得られた基板を、アルキルアンモニウムハライドを含む溶液に接触させ、ペロブスカイトを形成する工程
B:前記脱水されたハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液を基板上に塗布し、ペロブスカイトを形成する工程
【請求項2】
前記ハロゲン化鉛を含む溶液及び前記アルキルアンモニウムハライドを含む溶液、又は前記ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液において、溶媒の水分含量が40ppm以下である、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルキルアンモニウムハライドを、脱水エーテル及び脱水アルコールを用いた二層拡散法により再結晶し、不活性ガス雰囲気下で濾過して得る工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(A)工程において、ハロゲン化鉛を含む溶液がハロゲン化鉛のジメチルホルムアミド溶液であり、アルキルアンモニウムハライドを含む溶液がアルキルアンモニウムハライドのイソプロピルアルコール溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(B)工程において、ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液がジメチルホルムアミド溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
式:PbX
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲン化鉛を真空ラインに接続して減圧しながら、融点以上の温度で加熱する工
得られるペロブスカイトの原料用のハロゲン化鉛についてカールフィッシャー法により測定した水分含量が200ppm以下である、ペロブスカイトの原料用のハロゲン化鉛の製造方法。
【請求項7】
ペロブスカイトの原料としてのハロゲン化鉛を含む溶液であって、
前記ペロブスカイトの原料としてのハロゲン化鉛は脱水されており、当該脱水されたハロゲン化鉛のカールフィッシャー法により測定した水分含量が200ppm以下である、溶液法によってペロブスカイト型太陽電池を製造するために使用される、脱水されたハロゲン化鉛を含む溶液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高効率ペロブスカイト型太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして、太陽光発電が注目を浴びており、太陽電池の開発が進んでいる。その一つとして、低コストで製造可能な次世代型の太陽電池として、ペロブスカイトを光吸収層に用いた太陽電池が急速に注目を集めている。2009年には宮坂らがペロブスカイトを光吸収層に用いた溶液型の太陽電池を報告している(非特許文献1)。また、2012年には固体型のペロブスカイト型太陽電池が高効率を示すことが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
ペロブスカイト型太陽電池の合成方法としては、溶液法(非特許文献3及び4)と共蒸着法(非特許文献5)の大きく二つの方法が知られている。溶液法では、さらにPbIとCHNHIとを1:1の比率で混合した溶液をスピンコートする方法(非特許文献3)と、PbIをスピンコートした後、CHNHIの溶液に浸漬する二段階浸漬法(非特許文献4)とに分けられる。
【0004】
特に溶液法は、印刷法に応用することが可能であるため、高効率のペロブスカイト型太陽電池をより低いコストで製造できることが期待されている。そのため、世界中で実用化にむけた研究開発が行われている。
【0005】
しかしながら、従来の手法では性能のばらつきが極めて大きく、再現性が低いことが知られている。例えば、非特許文献2のサポーティングでは、性能のばらつきが非常に大きく、分布が非常に広い点が指摘されており、光電変換効率の平均は5%程度である。性能のばらつきや低い再現性は、改良を加えた際に性能を比較することを困難なものとし、更なる高効率化のための研究開発を阻害する上、太陽電池の品質のばらつきにも繋がるため、更なる高効率化や実用化に向けて大きな問題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 2009, 131, 6050-6051.
【非特許文献2】Science, 2012, 388, 643-647.
【非特許文献3】Nature Photonics, 2013, 7, 486-491.
【非特許文献4】Nature, 2013, 499, 316-319.
【非特許文献5】Nature, 2013, 501, 395-398.
【非特許文献6】J. Phys. D: Appl. Phys. 2008, 41, 102002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、再現性良くペロブスカイト型太陽電池を製造する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、高効率のペロブスカイト型太陽電池を再現性良く製造するための原料及び当該原料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、水分含量の少ないハロゲン化鉛を用いて、溶液法によりペロブスカイト型太陽電池を製造することで、より再現性が高く高効率ペロブスカイト型太陽電池が得られることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者等は、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。即ち、本発明は下記態様を包含するものである。
【0009】
項1. ハロゲン化鉛及びアルキルアンモニウムハライドを原料として使用し、光吸収層に溶液法によってペロブスカイトを形成する工程を含むペロブスカイト型太陽電池の製造方法であって、
当該ハロゲン化鉛のカールフィッシャー法により測定した水分含量が1000 ppm以下である、ペロブスカイト型太陽電池の製造方法。
【0010】
項2. 前記溶液法によってペロブスカイトを形成する工程が、下記A又はBの工程を含むものである、前記項1に記載の製造方法。
【0011】
A:前記ハロゲン化鉛を含む溶液を基板上に塗布し、ハロゲン化鉛層を設けた後、得られた基板を、アルキルアンモニウムハライドを含む溶液に接触させ、ペロブスカイトを形成する工程
B:前記ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液を基板上に塗布し、ペロブスカイトを形成する工程
項3. 前記ハロゲン化鉛を含む溶液及び前記アルキルアンモニウムハライドを含む溶液、又は前記ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液において、溶媒の水分含量が40 ppm以下である、前記項2に記載の製造方法。
【0012】
項4. 前記アルキルアンモニウムハライドを、脱水エーテル及び脱水アルコールを用いた二層拡散法により再結晶し、不活性ガス雰囲気下で濾過して得る工程をさらに含む、前記項2又は3に記載の製造方法。
【0013】
項5. 前記(A)工程において、ハロゲン化鉛を含む溶液がハロゲン化鉛のジメチルホルムアミド溶液であり、アルキルアンモニウムハライドを含む溶液がアルキルアンモニウムハライドのイソプロピルアルコール溶液である、前記項2〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0014】
項6. 前記(B)工程において、ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液がジメチルホルムアミド溶液である、前記項2〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
項7. 式:PbX
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲン化鉛を減圧条件下、融点以上の温度で加熱する工程、又は
式:PbX
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるハロゲン化鉛を水分含量が40ppm以下の有機溶媒を用いて再結晶を行う工程
を含む、カールフィッシャー法により測定した水分含量が1000ppm以下であるハロゲン化鉛の製造方法。
【0016】
項8. カールフィッシャー法により測定した水分含量が1000ppm以下であるハロゲン化鉛。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法において、水分含量が極めて低いハロゲン化鉛を原料に用いてペロブスカイト型太陽電池を製造することで、より高効率のペロブスカイト型太陽電池を性能のばらつきが少なく製造することができる。
【0018】
また、本発明の方法を用いることで、極めて水分含量が少ないハロゲン化鉛を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ハロゲン化鉛の水分含量を測定する装置の概略を示す図である。
図2】ペロブスカイト型太陽電池のI−V図及び分光感度特性を示す図である。
図3】ペロブスカイト型太陽電池の各種特性のばらつきを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.ペロブスカイト型太陽電池の製造に用いる原料
以下、本発明で使用する原料について説明する。
【0021】
(1.1)ハロゲン化鉛
本発明において原料として用いるハロゲン化鉛は、式:
PbX (1)
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロゲン化鉛であって、水分含量が重量基準で1000 ppm以下であるハロゲン化鉛を言う。より高効率の太陽電池を再現性よく得る観点より、ハロゲン化鉛におけるハロゲン化鉛中の水分含量は重量基準で500 ppm以下であることが好ましく、200 ppm以下であることがより好ましく、150 ppm以下であることが特に好ましい

【0022】
本発明において、水分含量はカールフィッシャー法により、測定することができる。より具体的には、ハロゲン化鉛を融点より高い温度(好ましくは融点付近)に加熱することにより、ハロゲン化鉛中に含有される水分を蒸発させ、蒸発した水分を乾燥させた不活性ガス(例えば、窒素)と共に、カールフィッシャー法の測定に用いる溶液にバブリングを行い、当該溶液中に溶かすことで、測定を行うことができる。例えば、ヨウ化鉛の場合、ヨウ化鉛を、融点を超える温度(例えば、約410℃)に加熱することにより、ヨウ化鉛中に含有される水分を蒸発させることができる。
【0023】
また、ハロゲン化鉛の純度は、金属基準でPbが99重量%以上であることが好ましく、99.999重量%以上であることがより好ましい。ハロゲン化鉛の純度は、差数法によって求めることができる。
【0024】
で示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。光吸収領域をより長波長化し高い短絡電流密度を得るという観点より、ヨウ素原子、塩素原子、又は塩素原子とヨウ素原子の混合であることが好ましく、ヨウ素原子であることが最も好ましい。
【0025】
本発明で用いる原料のハロゲン化鉛は、例えば、市販品の高純度のハロゲン化鉛を脱水することで得ることができる。ハロゲン化鉛は、ハロゲン化鉛を減圧下、融点又は融点よりやや高い温度で加熱することにより、ハロゲン化鉛の水分含量を低下させることができる。より具体的には、原料のハロゲン化鉛を減圧条件下、融解させる方法又は蒸留する方法が挙げられる。このように減圧条件下でハロゲン化鉛を融解させることで、比較的短時間でハロゲン化鉛中に含まれる水分を十分に除くことができるため、加熱によりハロゲン化鉛が分解することを防ぐことができると考えられる。
【0026】
減圧条件としては、3 mmHg以下であることが好ましく、0.5 mmHg以下であることがより好ましい。原料のハロゲン化鉛を加熱する際の温度は、ハロゲン化鉛を融解又は蒸留するために必要な温度であればよい。例えば、PbI2を用いる場合には400〜550℃であることが好ましく、405〜500℃であることがより好ましい。また、PbCl2を用いる場合には500〜600℃であることが好ましく、505〜550℃であることがより好ましい。脱水を行う時間は、ハロゲン化鉛が分解せず、水分が十分除去できればよく、選択する温度や減圧の条件に従って適宜設定すればよい。例えば、脱水の時間は、5〜15分程度が好ましい。
【0027】
また、ハロゲン化鉛の脱水方法としては、脱水有機溶媒を用いた再結晶により行うこともできる。無水有機溶媒は、ハロゲン化鉛を再結晶により精製することができる無水有機溶媒であればよい。中でも、ハロゲン化鉛が有機溶媒分子と錯体を形成し、ハロゲン化鉛ジメチルホルムアミド錯体が得られる点及びペロブスカイトの製造時に好ましい溶媒である点より、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0028】
再結晶を行う際、不要な水分が混入することを防ぐためにグローブボックス等の乾燥雰囲気下で再結晶を行うことが好ましい。再結晶の条件は、特に限定されず、例えば、70〜140℃に加熱することでハロゲン化鉛を溶解させた溶液を20〜25℃まで冷やすことにより結晶を得ることができる。
【0029】
ここで再結晶に用いる溶媒の水分含量は、40ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましい。これらの脱水溶媒は、例えば、グローブボックス内等の乾燥した環境下で、市販品に活性化したモレキュラーシーブス3Aを加え、脱水させることにより得ることができる。
【0030】
(1.2)アルキルアンモニウムハライド
本発明において原料として用いるアルキルアンモニウムハライドは、式:
R−NH (2)
(式中、RはC1−3アルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される。
【0031】
式(2)中、Rで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等が挙げられる。ペロブスカイトが三次元構造をもち、より広い波長域で光を吸収する点及び、長い光励起子拡散距離及び等方的な高い電荷移動特性を発現するという点で、Rはメチル基であることが好ましい。
【0032】
で示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。光吸収領域をより長波長化し高い短絡電流密度を得るという観点より、ヨウ素原子又は塩素原子であることが好ましく、ヨウ素原子であることが最も好ましい。
【0033】
アルキルアンモニウムハライドは、市販品又は公知の方法により合成したものを使用することができる。より高効率の太陽電池を再現性よく得る観点より、アルキルアンモニウムハライドは再結晶により精製したものを用いることが好ましい。
【0034】
再結晶は、メタノール等のアルコール及びジエチルエーテル等のエーテルを用いた二層拡散法により行うことが好ましい。ペロブスカイトを形成する際に水分が混入することを防ぐことにより、再現良く高効率ペロブスカイト型太陽電池を製造することができるため、再結晶で使用する溶媒は共に脱水溶媒を用いることが好ましい。
【0035】
2.ペロブスカイト型太陽電池の製造
本発明では、上記した化合物及び溶媒を用いて、ペロブスカイトを溶液法により形成することで、高効率ペロブスカイト型太陽電池を再現性よく製造することができる。
【0036】
本発明は、下記一段階法又は二段階浸漬法により、ペロブスカイトを形成する工程を含む方法によってペロブスカイト型太陽電池を製造するものであれば、特に限定されない。
【0037】
以下、例示的に、第1電極/(正孔)ブロッキング層/光吸収層/正孔輸送層/第2電極となる太陽電池を製造する場合について、より具体的に説明する。
【0038】
(2.1)第1電極
第1電極は、(正孔)ブロッキング層の支持体であるとともに、(正孔)ブロッキング層を介して光吸収層より電流(電子)を取り出す機能を有するものであることから、導電性基板が用いられ、光電変換に寄与する光を透過可能な透光性を有する、透明な導電層からなる。
【0039】
当該透明導電層としては、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)膜、不純物ドープの酸化インジウム(In)膜、不純物ドープの酸化亜鉛(ZnO)膜、フッ素ドープの二酸化錫(FTO)膜、あるいはこれらを積層してなる積層膜等が挙げられる。
【0040】
当該透明導電層は、成形する材料に応じ、公知の成膜方法を用いることにより得られる。
【0041】
また、当該透明導電層は、外部から保護するために、必要に応じて、透光性被覆体により覆われていてもよい。
【0042】
当該透光性被覆体としては、例えば、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド等の樹脂シート、白板ガラス、ソーダガラス等の無機シート、またはこれらの素材を組み合わせてなるハイブリッドシートなどが挙げられる。
【0043】
(2.2)(正孔)ブロッキング層
(正孔)ブロッキング層は、正孔の漏れを防ぐために、設けられる層であり、第1電極と光吸収層との間に設けられる層である。(正孔)ブロッキング層は、酸化チタン等の金属酸化物からなる層であることが好ましく、コンパクトTiO等のn型半導体で電極の表面を緻密に覆った層であることがより好ましい。
【0044】
(正孔)ブロッキング層の膜厚は、例えば、5〜100nmである。(正孔)ブロッキング層の膜厚は、電極への電子注入効率の観点より、5〜50nmであることがより好ましい。
【0045】
(正孔)ブロッキング層は第1電極である導電性基板上に形成される。金属酸化物を(正孔)ブロッキング層に用いる場合、既知の方法に従って(非特許文献4および非特許文献6)、スプレーパイロリシスを行うことにより作製することができる。例えば、200℃〜550℃(例えば、450℃)に加熱したホットプレート上に置いた導電性基板に0.05〜0.40Mの金属アルコキシド(例えば、Ti(OiPr)2(acac)2等のチタンアルコキシド)のアルコール溶液(例えば、エタノール溶液等)を用いて吹き付けて作製することができる。その際キャリアガスには0.10〜0.50MPaの窒素を用い、高さ20〜30 cmから水平に毎秒15〜25 cmの速度でエアブラシを移動させ、数分間200℃〜550℃(例えば、450℃)で加熱し、これを繰り返す方法が好ましい。吹付け、加熱を繰り返すことによりブロッキング層の膜厚を調節することが可能であり、好ましくは膜厚5〜100 nmであり、より好ましくは10〜50 nmである。
【0046】
(2.3)光吸収層
光吸収層は、光を吸収し、励起された電子を移動させることにより、光電変換を行う層である。光吸収層は、ペロブスカイトを含む層である。ペロブスカイトは、例えば、式:
RNHPbX (3)
(式中、R、X、Xは上記に同じ。)
で示される化合物を含む。
【0047】
ここで式(3)中、2個のX及び1個のXで示される計3つのハロゲン原子は、光吸収領域をより長波長化し高い短絡電流密度を得るという観点より、3つともヨウ素原子であるか又は塩素原子とヨウ素原子の混合であることが好ましく、3つともヨウ素原子であることが最も好ましい。
【0048】
光吸収層は、上記ペロブスカイトのみの層であってもよいが、(正孔)ブロッキング層との接着性の観点より、メソ酸化チタンや酸化アルミニウム等の金属酸化物及びペロブスカイトを含む層であることが好ましい。金属酸化物を含む場合、光吸収層の詳細な構造は明らかではないが、金属酸化物の酸素原子がペロブスカイトのPb原子に配位することによって、金属酸化物の表面にペロブスカイトが担持又は吸着しているものと考えられる。
【0049】
光吸収層の膜厚は、例えば、50〜1000nmである。光吸収層の膜厚は、光吸収効率と励起子拡散長とのバランスおよび電極で反射した光の吸収効率の観点より、200〜400nmであることがより好ましい。特に、金属酸化物を含む光吸収層とする場合、金属酸化物の層を200〜300nmとすることが好ましい。
【0050】
光吸収層は(正孔)ブロッキング層上に形成される。
【0051】
金属酸化物を含む光吸収層を用いる場合、金属酸化物の懸濁液を(正孔)ブロッキング層上に塗布し、電気炉で加熱することで、金属酸化物の層を形成した後、これを上記一段階法又は二段階浸漬法を用いてペロブスカイトを形成することが好ましい。ペロブスカイトを形成する工程は、乾燥雰囲気下で工程を行うことが好ましく、グローブボックス等の乾燥不活性気体雰囲気下で行うことがより好ましい。その前の工程である金属酸化物の層を形成する際は、大気中で行ってもよい。
【0052】
金属酸化物の懸濁液を塗布する方法としては、スピンコーティングやスクリーン印刷等の方法を用いることができる。懸濁液はエタノール等のアルコール溶媒に金属酸化物を加え、攪拌及び/又は超音波により金属酸化物を分散させることで得ることができる。
【0053】
電気炉で加熱する際の温度は450〜550℃であり、加熱時間は30〜60分であればよい。
【0054】
溶液法によるペロブスカイトの形成方法は、ハロゲン化鉛の溶液とアルキルアンモニウムハライドの溶液とを段階的に塗布する方法(以下、「二段階浸漬法」という)と、ハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドとを含む溶液を塗布する方法(以下、「一段階法」という)とが挙げられる。
【0055】
いずれの方法も、ペロブスカイトを形成する際に水分が混入することを防ぐことにより、再現良く高効率ペロブスカイト型太陽電池を製造することができるため、乾燥雰囲気下で行うことが好ましく、グローブボックス等の乾燥不活性気体雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0056】
二段階浸漬法
二段階浸漬法では、ハロゲン化鉛を溶解させた溶液を、ペロブスカイトを形成する層上に塗布し、加熱乾燥した後、これをアルキルアンモニウムハライドを溶解させた溶液に接触(好ましくは浸漬)させることによって、ペロブスカイトを形成する。
【0057】
ハロゲン化鉛を塗布する方法としては、スピンコーティング、スプレー、真空蒸着等の方法を使用することができるが、多孔質の金属酸化物の内部まで均一に塗布する点でスピンコーティングによって塗布することが好ましい。
【0058】
アルキルアンモニウムハライド溶液に浸漬する時間は、充分量以上のアルキルアンモニウムハライドの付着を防ぐ点で、20〜30秒であることが好ましい。また、アルキルアンモニウムハライド溶液の浸漬の前後に、アルキルアンモニウムハライド溶液に用いた溶媒と同じ溶媒中に1〜数秒浸漬し、洗浄を行うことが好ましい。
【0059】
ハロゲン化鉛を溶解させるための溶媒は、ジメチルホルムアミド等のアミド、γ-ブチルラクトン等のラクトン、ケトン、アルデヒド、カルボン酸等の有機溶媒を用いればよい。中でも、アミド溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミドが特に好ましい。
【0060】
ハロゲン化鉛溶液におけるハロゲン化鉛の濃度は、高い光電変換効率等を得られる点から1.0〜1.1Mであることが好ましい。
【0061】
アルキルアンモニウムハライドを溶解させるための溶媒は、アルコール溶媒を用いればよい。中でも、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0062】
アルキルアンモニウムハライド溶液におけるアルキルアンモニウムハライドの濃度は、0.05〜0.08Mであることが好ましい。
【0063】
これらの溶媒は、ペロブスカイトを形成する際に水分が混入することを防ぐことにより、再現性良く高効率ペロブスカイト型太陽電池を製造することができるため、脱水を行い、水分含量が少ない溶媒を用いることが好ましい。
【0064】
これら脱水溶媒の水分含量は、40ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましい。これらの脱水溶媒は、例えば、グローブボックス内等の乾燥した環境下で、市販品に活性化したモレキュラーシーブス3Aを加え、脱水させることにより得ることができる。
【0065】
一段階法
一段階法では、ハロゲン化鉛及びアルキルアンモニウムハライドを溶解させた溶液を、ペロブスカイトを形成する層上に塗布することによって、ペロブスカイトを形成する。塗布の方法は、スピンコート法が好ましい。
【0066】
一段階法におけるハロゲン化鉛とアルキルアンモニウムハライドの濃度比は、ペロブスカイト層を効率的に形成するという観点より、1:1〜1:4であることが好ましい。
【0067】
一段階法においても、溶媒は、ペロブスカイトを形成する際に水分が混入することを防ぐことにより、再現良く高効率ペロブスカイト型太陽電池を製造することができるため、脱水を行い、水分含量が少ない溶媒を用いることが好ましい。
【0068】
これら脱水溶媒の水分含量は、40ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましい。これらの脱水溶媒は、例えば、グローブボックス内等の乾燥した環境下で、市販品に活性化したモレキュラーシーブス3Aを加え、脱水させることにより得ることができる。
【0069】
(2.4)正孔輸送層
正孔輸送層は、電荷を輸送する機能を有する層である。正孔輸送層には、例えば、導電体、半導体、有機正孔輸送材等の材料を用いることができる。当該材料は、光吸収層から正孔を受け取り、正孔を輸送する正孔輸送材料として機能する。
【0070】
当該導電体や半導体としては、例えば、CuI、CuInSe、CuS等の、1価の銅を含む化合物半導体、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi、MoO、Cr等が挙げられる。好ましくは1価の銅を含む半導体であり、より好ましくは、CuIである。
【0071】
有機正孔輸送材としては、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(spiro-OMeTAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体等が挙げられる。
【0072】
正孔輸送層の膜厚は、例えば、30〜200nmである。正孔輸送層の膜厚は、効率的に正孔のみを受け取り、高い正孔移動度を得る観点より、50〜100nmであることがより好ましい。
【0073】
正孔輸送層は光吸収層上に形成される。正孔輸送層の形成を行う方法は、特に限定されないが、乾燥雰囲気下で行うことが好ましい。
【0074】
例えば、有機正孔輸送材を用いる場合、有機正孔輸送材を含む溶液を、乾燥雰囲気下、光吸収層上にスピンコーティング等の方法により塗布し、50〜100℃で加熱すればよい。
【0075】
(2.5)第2電極
第2電極は、第1電極に対向配置され、前記正孔輸送層と電荷のやりとりが可能な導電性を有するものであることから、導電性基板が用いられる。
【0076】
当該導電性基板としては、例えば、金属基板、導電性部材を含有させた基板、または導電膜が上面に形成された絶縁基板等が挙げられる。
【0077】
当該金属基板としては、当業界で用いられる公知の素材を用いることが可能であり、例えば、白金、チタン、ステンレス、アルミニウム、金、銀、ニッケルなどの金属、またはこれらの合金が挙げられる。
【0078】
当該導電性部材を含有させた基板における、基板としては、例えば、有機樹脂材料または無機材料などの、絶縁材料が挙げられる。具体的には、例えば、有機材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネートなどが、無機材料として、青板ガラス、ソーダガラス、硼珪酸ガラス、セラミックスなどが挙げられる。
【0079】
また、当該基材に含有させる導電性部材としては、例えば、上記の金属基板の素材からなる金属の微粒子や微細線、あるいはカーボンの微粒子や微細線などが挙げられる。
【0080】
当該導電膜が上面に形成された絶縁基板としては、例えば、上記と同様の絶縁材料上に、導電膜をCVC法などにより形成したものが挙げられる。
【0081】
当該導電膜としては、例えば、金属薄膜、透明導電膜、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛よりなる導電膜、または一対のチタン層間にITO層を挟んでなる積層導電膜層などが挙げられる。
【0082】
当該金属薄膜としては、例えば、チタン、ステンレス、アルミニウム、金、銀、銅及びニッケルなどが挙げられる。
【0083】
また、当該透明導電膜としては、例えば、ITO(錫ドープ強化インジウム)及びFTO(フッ素ドープ酸化錫)などが挙げられる。
【0084】
これらの中でも第2電極は、乾燥雰囲気下で電極を形成することができる点から、蒸着等の方法によって、形成することができるものが好ましい。
【0085】
上記層構成以外の構成を有するペロブスカイト型太陽電池についても、同様の方法により、製造することができる。例えば、第1電極/p型有機半導体層/光吸収層/n型有機半導体層/酸化チタン層/第2電極となる太陽電池については、公知の方法により第1電極/p型有機半導体層を得た後、上記方法によりp型有機半導体層の上に光吸収層を形成し、さらに残りの層を形成すればよい。なお、第1電極/p型有機半導体層/光吸収層/n型有機半導体層/酸化チタン層/第2電極となる太陽電池においても、上記した第1電極及び第2電極を同様に用いればよい。ただし、第1電極/p型有機半導体層/光吸収層/n型有機半導体層/酸化チタン層/第2電極となる太陽電池においては、第1電極が正孔と電荷のやり取りを行い、第2電極が電子を取り出す役割をする。
【0086】
3.ペロブスカイト型太陽電池
本発明は、上記方法によりペロブスカイト型太陽電池を製造することによって、再現良く高効率ペロブスカイト型太陽電池を得ることができる。ペロブスカイト型太陽電池の構造は、溶液法によってペロブスカイトを形成する工程を含む方法により製造できるものであればよい。例えば、第1電極/(正孔)ブロッキング層/光吸収層/正孔輸送層/第2電極や、第1電極/p型有機半導体層/光吸収層/n型有機半導体層/酸化チタン層/第2電極となる太陽電池等が挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
<原料化合物及び溶媒>
原料化合物及び溶媒を以下の手法により準備した。
【0089】
(1)溶媒精製方法
モレキュラーシーブス3A (Nacalai tesque、円筒状、Φ1.6mm)を、減圧下300 ℃で4時間乾燥することで活性化した。室温まで冷却し、真空・Arガスライン操作によりアルゴン雰囲気に置換した。すばやくセプタムで蓋をし、グローブボックス(Arガス)内に移した。
【0090】
DMF
シュレンクチューブにDMF (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated)を50 mL入れ、超音波をかけながら、真空・アルゴンラインを用いて減圧、アルゴン置換を3回行った。グローブボックス(Arガス)に移した。
【0091】
グローブボックス内でサンプル瓶に活性化モレキュラーシーブス3A 10 g、DMF 50 mLを入れ、18時間静置した。メンブランフィルター(PTFE、0.45 μm)で濾過し、脱水したDMFを得た(以下、脱水DMFとする)。
【0092】
カールフィッシャー法によって測定した水分含量は、脱水前が40ppmであったのに対し、脱水後は8ppmであった。
【0093】
イソプロピルアルコール (2−プロパノール)
シュレンクチューブに2−プロパノール (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated)を50 mL入れ、超音波をかけながら、真空・アルゴンラインを用いて減圧、アルゴン置換を3回行った。グローブボックス(Arガス)に移した。
【0094】
グローブボックス内でサンプル瓶に活性化モレキュラーシーブス3A 10 g、2−プロパノール 50 mLを入れ、18時間静置した。メンブランフィルター(PTFE、0.45 μm)で濾過し、脱水した2−プロパノール(以下、脱水2−プロパノールとする)を得た。
【0095】
カールフィッシャー法によって測定した水分含量は、脱水前が20ppmであったのに対し、脱水後は8ppmであった。
【0096】
(2)ハロゲン化鉛
(2−1)減圧精製法
パイレックス(登録商標)製ガラスチューブ(250 mm L φ8 mm)に、PbI2(Aldrich社製, 99.999%, trace metal basis)を3.0 g入れ、真空ラインのゴムホース(8φ)に接続した。これをオイルポンプにて減圧した(0.2mm Hg)。内部を減圧したガラスチューブを電気炉(405 ℃)に入れ、PbI2を溶かし、そのまま10分間オイルポンプにて減圧した。電気炉からガラスチューブを取り出し、室温まで冷却した後、真空ライン操作により、アルゴンガスで戻した。ホースを外して素早くセプタムでフタをして、グローブボックス(Arガス)に入れた。グローブボックス内でPbI2をかき出し、2.9 gのPbI2(減圧精製品)を得た。
【0097】
(2−2)蒸留精製法
パイレックス(登録商標)製のスリ付き(19/24)ガラスチューブ(200 mm L φ20 mm)にPbI2(Aldrich, 99.999%, trace metal basis)を7.5 g入れ、上記(2−1)と同様に装置を組んだ。オイルポンプにて減圧した(0.8 mm Hg)後、ガラスチューブを電気炉(500 ℃)に入れ、PbI2を蒸留した。電気炉からガラスチューブを取り出し、室温まで冷却した後、真空ライン操作により、アルゴンガスで戻した。グローブボックス(Arガス)内で蒸留したPbI2をかき出し、6.8 gのPbI2(蒸留精製品)を得た。
【0098】
(2−3)再結晶精製法
グローブボックス中でPbI2を493 mg (1.07 mmol)量り取り、脱水DMF 1.0 mLを加え、70 ℃で加熱撹拌して溶解させた後、室温まで冷却した。母液をデカンテーションで取り除き、結晶を脱水DMF 0.3 mLで洗った。洗浄液をデカンテーションで取り除き、室温で減圧乾燥することでPbI2・DMF錯体(再結晶精製品)を287 mg (0.537 mmol)得た。構造は単結晶X線結晶構造解析により確認した。
【0099】
(2−4)ハロゲン化鉛中の含有水分量の測定
装置:
カールフィッシャー水分計(AQ-300、平沼産業株式会社製)と、試料の水分を気化するための電気炉を組み合わせて、間接蒸着滴定法により、固体の水分量を測定した。用いた装置の概略図を図1に示す。
【0100】
蒸発させた水分を電解液に導入するための乾燥ガスとして、高純度グレード(京都帝酸株式会社製、純度99.999%)の窒素ガスを用い、濃硫酸 (ナカライテスク、特級、95%)のバブラー(Φ 20 mm、高さ 300 mm)を通してさらに乾燥し、流量計を取り付けて流量を制御して使用した。
【0101】
パイレックス(登録商標)製ガラス管(Φ 25 mm,、長さ 400 mm)からカールフィッシャー装置のガス導入口への連結は、PFAチューブ(Φ 2 mm)を用いて行った(ステンレス製の針は測定を阻害する)。また、カールフィッシャー装置からのガスの出口には塩化カルシウム(ナカライテスク、特級、95%)管をつないだガス抜き管を取り付けた。
【0102】
装置の乾燥と試料の準備:
パイレックス(登録商標)製ガラス管にガラス製ボートを入れ、カールフィッシャー水分計につながずに(テフロン(登録商標)チューブを抜いておく)流量 20 mL/minで窒素ガスを2時間フローして予備乾燥を行った。流量20 mL/minで窒素ガスをフローしながら、ガラス管をセラミックヒーターで410 ℃で10分間加熱した後、室温まで冷却した。ガラス製ボートを取り出し、グローブボックス(Ar)中で上記(2−2)で蒸留精製したPbI2を841 mg 量り取った。ガラス製ボートをガラス管の中に戻し、流量20 mL/minで窒素ガスを10分間フローした。
【0103】
バックグランド測定(測定前):
テフロン(登録商標)チューブをカールフィッシャー水分計に差し込み、装置の安定化を行った後、溶液を撹拌しながら流量20 mL/minで窒素ガスを7分間流し、カールフィッシャー水分計に導入した。窒素ガスの導入を停止し、水分量の測定を行った(測定値181.9 μg:測定前バックグラウンド)。
【0104】
サンプル測定:
装置の安定化を行った後、サンプルの入ったガラス管を410 ℃のセラミックヒーターの中に設置し、溶液を撹拌しながら流量20 mL/minで窒素ガスを7分間導入した(すべて溶解するまで6分30秒程かかった)。窒素ガスの導入を停止し、水分量の測定を行った(測定値 262.7 μg)。
【0105】
バックグランド測定(測定後):
装置の安定化を行った後、サンプルの入ったガラス管を410 ℃のセラミックヒーターの中に入れたまま、溶液を撹拌しながら流量20 mL/minで窒素ガスを7分間バブリングした。窒素バブリングを停止し、測定を行った。(測定値 184.6 μg:測定後バックグラウンド)
測定値からバックグラウンドの平均を差し引き、水分含量79.5 μg(94.5 ppm)を見積もった。
【0106】
同様の方法によって、市販品のPbI2(Aldrich, 99.999% trace metal basis)、上記(2−1)で減圧精製したPbI2及び上記(2−2)で蒸留精製したPbI2についても、水分含量を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
(3)ヨウ化メチルアンモニウムの合成と精製法
500 mLの丸底フラスコにHI水溶液 (57 wt%, Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 65.0 mL 492 mmol) に対して、メチルアミンのメタノール溶液 (40%, Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 60.4 mL, 592 mmol) を0 ℃で10分間かけて滴下し、その後2時間撹拌した。生成した白色固体をろ過にて分取した。減圧下60 ℃で24時間乾燥した後、メタノール(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated) に溶かし、溶液の上にエーテル(ジエチルエーテル(Kanto Chemical Co., Ltd., Dehydrated)をさらに有機溶剤精製装置(Glass contour)で精製したもの)を加えて、二層拡散法により再結晶した。
【0109】
得られた無色板状の結晶を、簡易型グローブボックス(N2ガス)中で、ろ過して回収し、減圧下60 ℃で24時間乾燥した。75.6 g (476 mmol)のヨウ化メチルアンモニウムを収率97%で無色板状結晶として得た。その後、不活性雰囲気下を保ったまま、グローブボックス(Arガス)内に移した。
【0110】
以下の操作において、特に明記する場合を除き、本方法により精製したヨウ化メチルアンモニウムを用いた。
【0111】
<ペロブスカイト型太陽電池>
実施例1
25mm x 25 mmのFTO(旭硝子株式会社製:10 Ω/□)を6 M HCl水溶液と亜鉛粉末を用いてエッチングした後、1wt%中性洗剤水溶液、アセトン、2−プロパノール、蒸留水の順に10分ずつ超音波洗浄を行った。エアガンで乾燥し、20分間オゾン洗浄を行った。
【0112】
450℃に加熱した基板上に、75wt% Ti(OiPr)2(acac)2のイソプロピルアルコール溶液をエタノールで40倍に希釈した溶液(0.05 M)を用いてスプレーパイロリシスを行った。キャリアガスには0.5 MPaの窒素を用い、高さ30 cmから水平に毎秒20 cmの速度でエアブラシを移動させ、3分間450℃で加熱した。この吹付け、加熱を3回繰り返した。室温まで基板を冷却した。
【0113】
0 ℃に冷却した蒸留水100 mLとTiCl4 (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級) 440 μLから調製したTiCl4水溶液にオゾン洗浄した基板を浸漬し、70 ℃のホットプレート上で30分撹拌した。室温まで冷却し、取り出した基板を蒸留水で2回洗浄した後、エアガンで乾燥した。
【0114】
電気炉に入れて加熱した(15分かけて500 ℃まで昇温、20分間500 ℃で保温、その後室温まで冷却した)。
【0115】
TiO2ペースト(日揮触媒化成株式会社製、 PST 18NR) 658 mgにエタノール(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated)を 2.30 gを加え、15分間vortex mixerで撹拌した。得られた懸濁液に1時間超音波をかけ、メソポーラスTiO2懸濁液を得た。電気炉から取り出した基板に、メソポーラスTiO2懸濁液をスピンコートした。(5000 r.p.m., 30 s)。エタノール(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated)をしみこませた綿棒でワニ口クリップとFTOガラス基板との接触部分を拭き取り、130 ℃のホットプレートで30分加熱した。
【0116】
基板を電気炉に移し、加熱した(1時間かけて500 ℃まで昇温、500 ℃で30分間保温、室温まで冷却した)。 基板を取り出し、グローブボックス(Arガス)の中に移した。
【0117】
PbI2 (減圧精製品) 465 mgに脱水DMF 1.0 mLを加え、70 ℃に加熱し30分撹拌することで、黄色溶液を得た。
【0118】
ガラス基板を予め70 ℃に加熱しておき、PbI2溶液をスピンコート(6500 r.p.m., 5 s)した。脱水DMFをしみ込ませた綿棒でワニ口クリップとFTOガラス基板との接触部分をふきとり、70 ℃のホットプレート上で1時間加熱した後、室温まで冷却した。
【0119】
グローブボックス (Arガス)中で、ヨウ化メチルアンモニウム 200 mg、脱水2−プロパノール 20 mLを混合し、ヨウ化メチルアンモニウム溶液を調製した。別途準備した脱水2−プロパノール50 mL にPbI2をスピンコートした基板を予め約1秒間浸漬し、取り出してヨウ化メチルアンモニウム溶液中に約20秒間浸漬した。取り出して、脱水2−プロパノール50 mLに約3秒浸漬して洗浄した。取り出してすぐにブロワーで表面の溶媒を乾燥させ、その後70 ℃のホットプレート上で30分加熱することで赤黒色のペロブスカイトを形成した基板を得た。
【0120】
グローブボックス (Arガス) 中で、spiroOMeTAD(Merck, SHT-263) 106 mg, LiTFSI (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級) 13.5 mg, tris[2-(1H-pyrazol-1-yl)-4-tert-butylpyridine]cobalt(III) tris(bis(trifluoromethylsulfonyl) imide)] 12.6 mg、4-t-ブチルピリジン(Aldrich, 96%) 43 μL, クロロベンゼン(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級を蒸留したもの) 1.5 mLを混合し、HTMの溶液を調製した。
【0121】
ペロブスカイトを形成した基板に対して、HTMの溶液をスピンコートした(4000 r.p.m., 30s)。クロロベンゼン(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級を蒸留したもの)をしみ込ませた綿棒でワニ口クリップとFTOガラス基板との接触部分をふきとり、70 ℃のホットプレート上で30分間加熱した。室温まで冷却した。
【0122】
グローブボックス(N2ガス)中の蒸着機を用いて金電極を80 nm蒸着し、セルを作製した。
【0123】
実施例2
PbI溶液の濃度を1.1Mとした他は、実施例1と同様にしてセルを製造した。
【0124】
実施例3
上記(2−2)で蒸留精製したPbI2を用いた他は、実施例1と同様にしてセルを製造した。
【0125】
参考例1
25mm x 25 mmのFTO ガラス基板 (旭硝子:10 Ω/□)を6 M HCl水溶液と亜鉛粉末を用いてエッチングした後、1wt%中性洗剤水溶液、アセトン、2−プロパノール、蒸留水の順に10分ずつ超音波洗浄を行った。エアガンで乾燥し、20分間オゾン洗浄を行った。
【0126】
450℃に加熱した基板上に、75wt% Ti(OiPr)2(acac)2のイソプロピルアルコール溶液をエタノールで40倍に希釈した溶液(0.05 M)を用いてスプレーパイロリシスを行った。キャリアガスには0.5 MPaの窒素を用い、高さ30 cmから水平に毎秒20 cmの速度でエアブラシを移動させ、3分間450℃で加熱した。この吹付け、加熱を3回繰り返した。室温まで基板を冷却した。
【0127】
0 ℃に冷却した蒸留水100 mLとTiCl4 (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級) 440 μLから調製したTiCl4水溶液にオゾン洗浄した基板を浸漬し、70 ℃のホットプレート上で30分撹拌した。室温まで冷却し、取り出した基板を蒸留水で2回洗浄した後、エアガンで乾燥した。
【0128】
電気炉に入れて加熱した(15分かけて500 ℃まで昇温、20分間500 ℃で保温、その後室温まで冷却した)。
【0129】
TiO2ペースト(日揮触媒化成, PST 18NR) 658 mgにエタノール (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated) 2.30 gを加え、15分間voltex mixerで撹拌した。得られた懸濁液に1時間超音波をかけ、メソポーラスTiO2懸濁液を得た。電気炉から取り出した基板に、メソポーラスTiO2懸濁液をスピンコートした。(5000 r.p.m., 30 s)。エタノール (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Super Dehydrated)をしみこませた綿棒でワニ口クリップとFTOとの接触部分を拭き取り、130 ℃のホットプレートで30分加熱した。
【0130】
基板を電気炉に移し、加熱した(1時間かけて500 ℃まで昇温、500 ℃で30分間保温、室温まで冷却した)。 基板を取り出し、グローブボックス(Arガス)の中に移した。
【0131】
市販品のPbI2 (Aldrich, 99.999%, trace metal basis) 462 mgに脱水DMF2 mLを加え、100 ℃に加熱、10時間撹拌した。得られた黄色懸濁液を70 ℃まで冷却、静置した。基板を予め70℃に加熱しておき、PbI2懸濁液の上澄みをスピンコート(6500 r.p.m., 5 s)した。脱水DMFをしみ込ませた綿棒でワニ口クリップとFTOガラス基板との接触部分をふきとり、70 ℃のホットプレート上で1時間加熱した。室温まで冷却した。
【0132】
グローブボックス(Arガス)中で、ヨウ化メチルアンモニウム(精製品) 205 mg、脱水2−プロパノール20 mLを混合し、ヨウ化メチルアンモニウム溶液を調製した。別途用意した脱水2−プロパノール 50 mL にPbI2をスピンコートした基板を予め約1秒浸漬し、取り出してヨウ化メチルアンモニウム溶液中に約20秒間浸漬した。取り出して脱水2−プロパノール50 mLに約3秒浸漬することで洗浄した。取り出して、すぐにブロワーで溶媒を乾燥し、70 ℃のホットプレートで30分加熱することでペロブスカイトを形成した基板を得た。
【0133】
グローブボックス(Arガス)中で、spiroOMeTAD(Merck, SHT-263) 106 mg、 LiTFSI (Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級) 13.5 mg、 tris[2-(1H-pyrazol-1-yl)-4-tert-butylpyridine]cobalt(III) tris(bis(trifluoromethylsulfonyl) imide)] 12.6 mg、4-t-ブチルピリジン(Aldrich, 96%) 43 μL、クロロベンゼン(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級を蒸留したもの) 1.5 mLを混合し、HTMの溶液を調製した。ペロブスカイトを形成した基板に対して、HTMの溶液をスピンコートした(4000 r.p.m., 30s)。クロロベンゼン(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., 特級を蒸留したもの)をしみ込ませた綿棒でワニ口クリップとFTOガラス基板との接触部分をふきとり、70 ℃のホットプレート上で30分間加熱した。室温まで冷却した。
【0134】
グローブボックス(N2ガス)中の蒸着機を用いて金電極を80 nm蒸着し、セルを作製した。
<評価>
試験例1
以下、実施例1及び参考例1のセルを用いて、各種測定を行った。
【0135】
JIS C8913:1998 のシリコン結晶系太陽電池セルの出力測定方法に準拠した方法で測定した。ソーラーシュミレーター(分光計器社製 SMO-250III型)に、AM1.5G相当のエアマスフィルターを組み合わせ、2次基準 Si 太陽電池で100mW/cmの光量に調整して測定用光源とし、色素増感型太陽電池セルの試験サンプルに光照射をしながら、ソースメーター(Keithley Instruments Inc. 製,2400型汎用ソースメーター)を使用してI−Vカーブ特性を測定し、I−Vカーブ特性測定から得られた開放電圧(Voc)、短絡電流(Isc)、フィルファクター(FF)を導出した。そして、短絡電流密度(Jsc)、及び光電変換効率(PCE)を以下の式1及び式2を用いて算出した。
【0136】
式1:短絡電流密度(Jsc)(mA/cm)=Isc(mA)/有効受光面S(cm
式2:光電変換効率(PCE)(%)=Voc(V)×Jsc(mA/cm)×FF×100/100(mW/cm
得られた結果を表2および図2に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
試験例2
実施例1と同様の方法により、セルを作成し、各種測定を行うことで、再現性を評価した。その結果を図3に示す。
【0139】
図3の結果からも明らかなとおり、本発明の方法により製造されたセルは、光電変換効率等のばらつきが非常に小さく、再現性が非常に高い。非特許文献2のサポーティングにおいて、統計的に示された光電変換効率の平均値がおよそ5%であることを考慮すれば、本発明の方法は再現性が非常に高い。
図1
図2
図3