【文献】
内池智広,外4名,施設計画のための生物多様性簡易評価ツールの開発,日本緑化工学会誌,2013年 4月16日,1号 Vol.38(2012)No.1,p.254−257,[2017年11月24日検索],インターネット,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/38/1/38_254/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1モデル式は、人工物からの距離又は人の動線からの距離を環境要素情報の1つとして用いて、前記生物の出現率を算出する式であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生息環境評価システム。
前記第2モデル式は、経路上の緑地からの距離、緑地の高さ、道路の幅及び人工物の高さを環境要素情報の少なくとも1つとして用いて、前記生物の移動予測経路及び移動難易度を算出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の生息環境評価システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1〜
図8を用いて、本発明を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態においては、都市部に計画される庭園(例えば屋上庭園等)の設計についての生息環境を評価する。そして、よりよい生息環境を実現するための設計を支援する。この場合、本実施形態では、設計した庭園(評価対象)における鳥の出現率を用いて評価する。また、鳥の指標種として、例えば、コゲラ、メジロ、シジュウカラを用いることが可能である。
【0015】
図1に示すように、生息環境評価システムとして設計支援サーバ20を用いる。設計支援サーバ20は、入力部30及び表示部40を備えている。入力部30は、各種情報を入力するための入力手段であり、キーボードやポインティングデバイス、記録媒体からデータを取得する入力インターフェイス等により構成される。また、表示部40は、ディスプレイ等、各種情報を出力するための出力手段から構成されている。
【0016】
設計支援サーバ20は、生息環境評価処理や評価に応じた設計変更を行なうためのコンピュータシステムである。この設計支援サーバ20は、制御部21、環境情報記憶部22、モデル式記憶部23、観測結果記憶部24、追跡結果記憶部25、コスト情報記憶部26、設計情報記憶部27、評価結果記憶部28を備えている。
【0017】
制御部21は、CPU、RAM及びROM等のメモリ等を備えた制御手段を有し、生息環境評価処理を実行する。このために生息環境評価プログラムを実行することにより、制御部21は、第1モデル式生成部211、第2モデル式生成部212、解析管理部215、移動経路評価部217及び出現率評価部218として機能する。
【0018】
第1モデル式生成部211は、環境要素情報を用いた多変量解析(例えば、一般的線形モデル等による重回帰分析)によってマイクロハビタット評価モデル式(第1モデル式)を生成する処理を実行する。第1モデル式は、複数の環境変数(パラメータ)を用いて、生物(ここでは鳥)の出現確率を算出する式である。本実施形態では、第1モデル式の環境変数として、樹木の種類に応じた値、樹木の高さ(樹高)、茂みの種類に応じた値、茂みの高さ、茂みの被度、水場からの距離、食物(木の花実)の有無、枯木の密度、人工物の高さ、人工物からの距離、人の動線からの距離等を用いる。
【0019】
図2(a)に示すように、本実施形態において、出現率を算出する第1モデル式を、指標種(本実施形態では、鳥の種類)毎、時期毎に生成する。本実施形態では、時期として、繁殖期前期(4月〜5月)、繁殖期後期(5月〜6月)、越冬期前期(12月〜1月)、越冬期後期(2月〜3月)を用いる。
【0020】
更に、本実施形態では、第1モデル式を、環境要素に応じた要因毎に生成する。ここで、要因として、樹木層、草本層、水辺層及び多要素層を用いる。樹木層の第1モデル式は、樹木に関する環境要素情報(樹木の種類に応じた値、樹木の高さ(樹高))を主要因とした鳥の出現率を算出する。草本層の第1モデル式は、茂みに関する環境要素情報(茂みの種類に応じた値、茂みの高さ、茂みの被度)を主要因とした鳥の出現率を算出する。水辺層の第1モデル式は、水場に関する環境要素情報(水場からの距離)を主要因とした鳥の出現率を算出する。多要素層の第1モデル式は、樹木、茂み、水場以外の環境要素情報(食物(木の花実)の有無、枯木の密度、人工物の高さ、人工物からの距離、人の動線からの距離等)を主要因とした鳥の出現率を算出する。なお、要因毎の第1モデル式には、主要因以外の環境要素情報がその要因に影響する場合には、これら主要因以外の環境要素情報を説明変数として含めてもよい。
【0021】
第2モデル式生成部212は、環境要素情報を用いた多変量解析(例えば重回帰分析)によってエコロジカルネットワーク評価モデル式(第2モデル式)を生成する処理を実行する。第2モデル式生成部212は、指標種毎、時期毎に、第2モデル式を生成する。本実施形態では、時期として、繁殖期(4月〜6月)、越冬期(12月〜3月)を用いる。この第2モデル式は、複数の環境変数(パラメータ)を用いて、指定された緑地から評価対象までに生物が移動する経路(移動予測経路)と、この移動予測経路を移動する際の難易度(移動難易度)とを算出する。本実施形態では、第2モデル式の環境変数として、経路上の緑地からの距離、緑地の高さ、道路の幅、人工物の高さを用いる。ここで、経路上の緑地とは、後述する指定された周辺緑地(指定緑地)から評価対象までの間(経路上)にある緑地のことである。そして、「経路上の緑地からの距離」は、これら緑地からの水平距離(経路上にある緑地が近くにあるか離れているか等の評価値)を用いる。また、「緑地の高さ」は、緑地が樹林又は草地であるかを判定する環境変数として機能する。
【0022】
解析管理部215は、設計に応じた生息環境を評価する処理を実行し、評価した結果である出現率マップを最終設計案として出力する処理を実行する。解析管理部215は、計画地の周辺範囲を特定するための基準距離(例えば半径3km)を記憶している。
【0023】
移動経路評価部217は、第2モデル式を用いて、指定緑地から計画地までの予測移動経路と移動難易度とを算出する。
出現率評価部218は、第1モデル式を用いて、評価対象の庭園内の出現率マップを算出する。
【0024】
環境情報記憶部22には、生物の生息環境に関する環境情報に関するデータが記憶される。本実施形態の環境情報には、緑地情報と、地図上の高低差情報と、地図上の地点に関連付けられた環境要素情報とが含まれる。緑地情報は、地図上において緑地と特定される位置に関する情報であり、衛星データ(近赤外線データを含む測量データ)を解析することにより生成される。高低差情報は、地図上の各位置における高低差に関する情報であり、航空レーザ測量データを解析することにより生成される。環境要素情報は、第1モデル式及び第2モデル式の環境変数として用いる環境要素(樹木の種類に応じた値〜人の動線からの距離、経路上の緑地からの距離、緑地の高さ、道路の幅)に関する情報である。
【0025】
モデル式記憶部23には、第1モデル式生成部211、第2モデル式生成部212によって、それぞれ生成された第1モデル式及び第2モデル式が記憶される。
観測結果記憶部24には、都市部において生物を観測した観測結果に関する情報が記憶されている。この観測結果情報は、鳥を観測した観測地点(地図上の位置)と、この地点における環境要素(出現判定要素)とが、観測条件情報に関連付けられた情報である。ここで、出現判定要素は、鳥の出現に影響を与える環境要素である。この出現判定要素には、第1モデル式において環境変数となる環境要素が用いられる。観測条件情報には、指標種(鳥の種類)と年月日とに関する情報が含まれる。この観測結果は、東京都心部の6ヶ所の緑地について、予め設定された経路を歩いて、指標種の鳥を発見する調査作業によって取得している。なお、この調査を、時期毎に異なる日に5回行なった。
【0026】
追跡結果記憶部25には、都市部において観測された生物の追跡結果に関する情報が記憶されている。この追跡結果情報は、観測された鳥の移動前の移動元地点(地図上の位置)と、移動先(地図上の位置)とが、移動条件情報に関連付けられた情報である。
【0027】
ここで、移動条件情報には、指標種(鳥の種類)と年月日とに関する情報が含まれる。本実施形態では、東京都心部の4ヶ所の緑地について、設定経路を移動して、指標種の鳥を発見したら追跡する作業によって取得した。なお、この調査を、時期毎に異なる日に5回行なった。
【0028】
コスト情報記憶部26には、庭園に用いられる構成要素の価格に関する情報が記憶されている。本実施形態では、構成要素を特定する識別子(構成要素識別子)、各構成要素の特性に対応した価格が記録されている。ここで、特性としては、樹木や茂みの種類及び高さを用いる。
【0029】
設計情報記憶部27には、設計対象の庭園の設計に関する情報が記憶されている。この情報には、設計対象の庭園の計画地情報及び設計レイアウト情報が含まれる。計画地情報には、この庭園の地図上の位置、大きさ及び方向に関する情報が含まれる。設計レイアウト情報には、ファイル名と、庭園の構成要素と、各構成要素のレイアウト(配置、広さ及び形状)とに関する情報が含まれる。ここで、構成要素として、各構成要素(樹木、茂み、水場、人工物、道路)を特定する識別子と、この構成要素の特性(樹木や茂みの場合であれば種類及び高さ等)に関する情報とが記憶される。
【0030】
評価結果記憶部28には、評価結果に関する情報が記憶されている。この評価結果には、設計対象の庭園における鳥の出現率を2次元で表示した出現率マップが含まれる。この出現率マップは、出現率の高低を示したマップである。ここでは、例えば、出現率が高くなるに従って濃くなるように表現する。更に、この評価結果には、計画地に対して、指定緑地から鳥が来る方向と、その方向の移動難易度とが含まれる。
【0031】
<マイクロハビタット評価モデル式の生成処理>
次に、
図2(b)を用いて、上述したマイクロハビタット評価モデル式(第1モデル式)の生成処理を説明する。
【0032】
設計支援サーバ20の制御部21は、以下の処理を、指標種毎で時期毎に繰り返す。
まず、設計支援サーバ20の制御部21は、環境要素の取得処理を実行する(ステップS1−1)。具体的には、制御部21の第1モデル式生成部211は、観測結果を取得した設定経路における環境要素を、環境情報記憶部22から取得する。
【0033】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、観測結果の取得処理を実行する(ステップS1−2)。具体的には、制御部21の第1モデル式生成部211は、算出対象となる指標種で算出対象時期を観測条件情報とする観測結果を、観測結果記憶部24から取得する。
【0034】
そして、設計支援サーバ20の制御部21は、出現率の多変量解析処理を実行する(ステップS1−3)。具体的には、制御部21の第1モデル式生成部211は、鳥が観測された場所(地点)の目的変数(出現率)を「1」に設定し、その地点の出現判定要素を説明変数として設定する。更に、鳥が観測されなかった場所(地点)の目的変数(出現率)を「0」に設定し、その地点の出現判定要素を説明変数として設定する。そして、第1モデル式生成部211は、説明変数、目的変数を用いて公知の多変量解析(例えば重回帰分析)を行ない、各説明変数(出現判定要素)の係数を算出する。
【0035】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、第1モデル式の生成処理を実行する(ステップS1−4)。具体的には、制御部21の第1モデル式生成部211は、ステップS1−3において算出された各係数を、対応する環境変数に設定した第1モデル式を生成する。そして、第1モデル式生成部211は、生成した第1モデル式をモデル式記憶部23に記憶する。
【0036】
<エコロジカルネットワーク評価モデル式の生成処理>
次に、
図3を用いて、上述したエコロジカルネットワーク評価モデル式(第2モデル式)の生成処理について説明する。ここでは、指標種毎及び時期毎に、生物の出現率を求める。
【0037】
まず、設計支援サーバ20の制御部21は、周辺の緑地情報の取得処理を実行する(ステップS2−1)。具体的には、制御部21の第2モデル式生成部212は、追跡結果を取得した設定経路及びこの周辺の地図情報を、環境情報記憶部22から取得する。そして、第2モデル式生成部212は、設定経路に対する周辺の広い緑地(例えば2ha以上の緑地)の位置を特定する。
【0038】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、高低差情報の抽出処理を実行する(ステップS2−2)。具体的には、制御部21の第2モデル式生成部212は、設定経路及び周辺における高低差情報を、環境情報記憶部22から取得する。
【0039】
そして、以下の処理を、指標種毎で時期毎に繰り返す。
まず、設計支援サーバ20の制御部21は、移動実績の取得処理を実行する(ステップS2−3)。具体的には、制御部21の第2モデル式生成部212は、算出対象となる指標種で算出対象時期を移動条件情報とする追跡結果を、追跡結果記憶部25から取得する。
【0040】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、移動難易度の多変量解析処理を実行する(ステップS2−4)。この場合、まず、制御部21の第2モデル式生成部212は、移動判定要素の特定処理を実行する。ここで、移動判定要素とは、鳥の移動難易度に影響する環境要素(鳥の移動を困難又は容易にする環境要素)である。この移動判定要素の特定においては、まず、取得した追跡結果の移動元地点及び移動先地点を用いて、鳥が移動した方向にある環境要素と、鳥が移動しなかった方向の環境要素とを特定する。そして、移動した方向に存在する特徴的な環境要素(経路上の緑地からの距離、緑地の高さ、道路の幅、人工物の高さ等)を、移動判定要素として特定する。
次に、第2モデル式生成部212は、特定した移動判定要素を説明変数とし、このときの目的変数(出現率)を「1」に設定し、その逆数を難易度として「1」に設定する。そして、第2モデル式生成部212は、説明変数、目的変数を用いて公知の多変量解析(例えば重回帰分析)を行ない、各説明変数(移動判定要素)の係数を算出する。
【0041】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、第2モデル式の生成処理を実行する(ステップS2−5)。具体的には、制御部21の第2モデル式生成部212は、ステップS2−4において算出された各係数を、対応する環境変数に設定した第2モデル式を生成する。この場合、目的変数(出現率)の逆数が難易度になる。そして、第2モデル式生成部212は、生成した第2モデル式をモデル式記憶部23に記憶する。
【0042】
<生息環境評価処理>
次に、
図4〜
図8を用いて、上述した設計支援サーバ20における生息環境評価処理について説明する。まず、入力部30を用いて、評価を行なう計画地情報のファイル名を指定する。
【0043】
この場合、設計支援サーバ20の制御部21は、計画地情報の取得処理を実行する(ステップS3−1)。具体的には、制御部21の解析管理部215は、指定されたファイル名の計画地情報を、設計情報記憶部27から抽出する。
【0044】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、移動予測経路の評価処理を実行する(ステップS3−2)。ここでは、制御部21の移動経路評価部217は、後述するように、計画地の周辺に存在する指定緑地から計画地までの環境要素情報と第2モデル式とを用いて、鳥の移動予測経路及び移動難易度とを算出する。この処理については、
図6を用いて後述する。
【0045】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、設計レイアウトにおける出現率の評価処理を実行する(ステップS3−3)。具体的には、制御部21の出現率評価部218は、設計レイアウト情報と第1モデル式とを用いて、設計対象の庭園内の鳥の出現率マップを生成する。この処理については、
図7及び
図8を用いて後述する。
【0046】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、評価の出力処理を実行する(ステップS3−4)。具体的には、制御部21の解析管理部215は、設計対象の庭園内における鳥の出現率マップに、ステップS3−2で算出した移動予測経路に応じて計画地に鳥が飛来してくる方向及び移動難易度を合成した評価結果を生成する。この場合、解析管理部215は、時期(繁殖期前期、繁殖期後期、越冬期前期、越冬期後期)毎に評価結果を生成する。そして、解析管理部215は、繁殖期前期の評価結果を含む評価出力画面を表示部40に表示する。この評価出力画面には、表示する評価結果を変更する時期変更ボタンと、設計変更を指示するボタンと、終了を指示するボタンとが含まれる。
【0047】
評価出力画面において、設計変更を指示するボタンが選択された場合、設計支援サーバ20の制御部21は、設計情報記憶部27から、評価を行なった設計レイアウト情報を取得し、この設計レイアウト情報を含む設計変更画面を表示部40に表示する。
【0048】
この設計変更画面において、設計レイアウト情報を変更することができる。例えば、各構成要素のレイアウト(位置、広さや形状)や構成要素の特性(種類や高さ)を変更することができる。この場合、制御部21は、この設計変更画面に、要因毎(樹木層、草本層、水辺層及び多要素層毎)の出現率マップを表示させる。
【0049】
また、この設計変更画面においては、コスト比較ボタンが含まれている。このコスト比較ボタンを選択することにより、設計支援サーバ20の制御部21は、変更前及び変更後の設計レイアウトに含まれる構成要素の価格をコスト情報記憶部26から抽出する。そして、制御部21は、変更前及び変更後について、それぞれの構成要素の価格を合計して総コストを算出する。制御部21は、変更前後の価格を設計変更画面に表示する。更に、この設計変更画面には、保存指示ボタン及び再評価ボタンが含まれている。
【0050】
設計変更画面において保存指示ボタンが選択された場合、設計支援サーバ20の制御部21は、設計変更画面に表示されている設計レイアウト情報を取得する。制御部21は、入力部30を介して保存ファイル名を取得し、この保存ファイル名に関連付けて設計レイアウト情報を設計情報記憶部27に記憶する。
【0051】
設計変更画面において再評価ボタンが選択され、設計の変更と判定した場合(ステップS3−5において「YES」の場合)、設計支援サーバ20の制御部21は、上記ステップS3−3以降の処理を繰り返して実行する。
【0052】
一方、評価出力画面に終了指示が入力され、設計を変更しないと判定した場合(ステップS3−5において「NO」の場合)、設計支援サーバ20の制御部21は、最終設計案の出力処理を実行する(ステップS3−6)。具体的には、制御部21の解析管理部215は、ディスプレイに表示されている設計レイアウトを、最終設計案として設計情報記憶部27に記憶する。なお、この最終設計案は、ユーザの指示に応じて外部に出力される。
【0053】
<移動経路の評価処理>
次に、
図5及び
図6を用いて、上述した移動予測経路の評価処理(ステップS3−2)について説明する。
【0054】
ここでは、
図5に示すように、設計対象の庭園の周辺地図を用いて、移動予測経路の評価処理を行なう。
図6に従って、移動予測経路の評価処理を説明する。
ここで、まず、設計支援サーバ20の制御部21は、計画地周辺の緑地情報の取得処理を実行する(ステップS4−1)。具体的には、制御部21の移動経路評価部217は、計画地の地図上の位置から基準距離内にある周辺領域を特定する。そして、解析管理部215は、周辺領域における緑地情報を、環境情報記憶部22から抽出する。本実施形態では、解析管理部215は、計画地から基準距離内の緑地情報を抽出する。
【0055】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、高低差情報の抽出処理を実行する(ステップS4−2)。具体的には、制御部21の移動経路評価部217は、ステップS4−1において特定した周辺領域における高低差情報を、環境情報記憶部22から抽出する。
【0056】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、指定緑地の特定処理を実行する(ステップS4−3)。具体的には、制御部21の移動経路評価部217は、緑地情報を含めた計画地を中心とした周辺領域の地図を表示した緑地指定画面を、表示部40に表示する。この緑地指示画面には、緑地を指定するメッセージと、指定終了ボタンとが含まれる。
【0057】
ここで、ユーザによる地図上の地点の指示を検出した場合、移動経路評価部217は、指定された地点を含む緑地の範囲を特定し、この緑地を指定緑地と特定する。
指定緑地となる緑地の指定が完了して、指定終了ボタンの選択を検知した場合、制御部21の移動経路評価部217は、指定緑地と特定された地点を地図上において特定する。ここで、指定緑地として特定された緑地が複数ある場合には、特定されたすべての指定緑地を特定する。
【0058】
そして、制御部21は、以下の処理を、指定緑地毎、指標種毎及び時期(繁殖期、越冬期)毎に繰り返す。
まず、設計支援サーバ20の制御部21は、第2モデル式を用いて各地点の移動難易度の算出処理を実行する(ステップS4−4)。具体的には、制御部21の移動経路評価部217は、地図上において、処理対象の指定緑地と計画地とを特定し、この指定緑地と計画地との間の領域にある各地点(地図上のグリッド毎)について、第2モデル式を用いて移動難易度を算出する。
【0059】
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、指定緑地から計画地までの移動予測経路と移動難易度の算出処理を実行する(ステップS4−5)。具体的には、制御部21の移動経路評価部217は、指定緑地から計画地までに至る経路のうち、通過するグリッドにおける移動難易度を積算した値が最も低くなる(移動難易度が最も低くなる)移動予測経路を、公知の最短経路問題に対する解決手法(例えば、ダイクストラ法)を用いて特定する。そして、移動経路評価部217は、特定したこの移動予測経路の移動難易度を算出する。次に、移動経路評価部217は、特定した移動予測経路と移動難易度を、評価結果記憶部28に記憶する。
【0060】
例えば、
図5に示すように、計画地P1の周囲にある緑地が指定緑地G1,G2,G3として指定されたとする。指定緑地G1,G2,G3から計画地P1に鳥が至るための移動予測経路R1,R2,R3が算出される。そして、各移動予測経路R1,R2,R3のそれぞれについて移動難易度が算出される。
【0061】
<設計レイアウトにおける出現率の評価処理>
次に、
図7及び
図8を用いて、上述した設計レイアウトにおける出現率の評価処理(ステップS3−3)について説明する。
【0062】
図7に示すように、設計支援サーバ20の制御部21は、計画地のレイアウト情報の取得処理を実行する(ステップS5−1)。具体的には、制御部21の出現率評価部218は、計画地情報の設計レイアウト情報を特定する。
【0063】
そして、以下の処理を、要因毎で、指標種毎、時期(繁殖期前期、繁殖期後期、越冬期前期、越冬期後期)毎に繰り返す。
次に、設計支援サーバ20の制御部21は、第1モデル式を用いて出現率マップの生成処理を実行する(ステップS5−2)。具体的には、制御部21の出現率評価部218は、特定した設計レイアウト情報の環境要素を変数として第1モデルに代入して、庭園内の各地点における出現率を算出し、この出現率を2次元マップで表示した出現率マップを生成し、一時的に記憶する。
【0064】
そして、設計支援サーバ20の制御部21は、出現率マップの重ね合わせ処理を実行する(ステップS5−3)。具体的には、制御部21の出現率評価部218は、要因毎及び指標種毎に算出した出現率マップにおける各地点の出現率を合計した出現率マップを生成する。
【0065】
例えば、
図8(a)に示すような庭園60を設計する場合を想定する。この場合、要因毎の(複数の)出現率マップを重ね合わせて、総合的に出現率を算出する。
図8(b)においては、各出現率マップを重ね合わせることにより、評価結果としての出現率マップ70を生成する。ここでは、樹木層による出現率マップ71と草本層による出現率マップ72と水辺層による出現率マップ73等を重ね合わせる。
そして、出現率評価部218は、S5−3において生成した時期毎の出現マップを、鳥が出現する時期に関連付けて、評価結果記憶部28に記憶する。
【0066】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、移動予測経路の評価処理(ステップS3−2)、設計レイアウトにおける出現率の評価処理(ステップS3−3)及び評価の出力処理(ステップS3−4)を実行する。これにより、設計対象の庭園における生物の生息環境について、計画地の周辺の状況と、庭園の構成要素を考慮して評価を行なうことができる。従って、都市部に計画する緑地の実情に沿って、生物の生息環境を評価することができる。
【0067】
(2)本実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、鳥を観測したときの要素に関する観測結果情報を用いた出現率の多変量解析処理及び第1モデル式の生成処理を実行する(ステップS1−3,S1−4)。これにより、実際に観測された環境要素を用いて、第1モデル式を生成しているため、この第1モデル式を用いることにより、詳細な環境要素を考慮して、出現率を算出することができる。
【0068】
(3)本実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、鳥が実際に移動したときの要素に関する追跡情報を用いた移動難易度の多変量解析処理及び第2モデル式の生成処理を実行する(ステップS2−4,S2−5)。これにより、実際に観測された鳥の移動判定要素を用いて、第2モデル式を生成しているため、この第2モデル式を用いることにより、詳細な環境要素を考慮して、移動予測経路及び難易度を算出することができる。
【0069】
(4)本実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、指標種毎で時期毎に、第1モデル式に基づく出現率マップと、第2モデル式に基づく移動予測経路及び移動難易度とを算出する。これにより、鳥の種類及び時期毎に出現率を算出するので、生物の種類や季節性を考慮して生息環境を評価することができる。
【0070】
(5)本実施形態では、第1モデル式の環境変数として、樹木の種類に応じた値、樹木の高さ(樹高)、茂みの種類に応じた値、茂みの高さ、茂みの被度、水場からの距離、食物(木の花実)の有無、枯木の密度、人工物の高さ、人工物からの距離、人の動線からの距離等を用いる。これにより、様々な要素が影響していると考えられる場所(例えば都市部)の環境要素を考慮して、庭園内の構成要素に基づいて、生息環境を評価することができる。
【0071】
(6)本実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、第1モデル式を、要因毎に生成する。そして、制御部21は、設計変更画面に、要因毎の出現率マップを表示させる。これにより、生息環境をよくするために、優先的に変更させるべき要因を把握することができる。
【0072】
(7)本実施形態では、第2モデル式の環境変数として、経路上の緑地からの距離、道路の幅、緑地の高さ、人工物の高さを用いる。これにより、様々な要素が影響していると考えられる場所(例えば都市部)の環境要素を考慮して、庭園内の構成要素に基づいて、生息環境を評価することができる。
【0073】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の指定緑地の特定処理(ステップS4−3)において、設計支援サーバ20の制御部21は、ユーザによる地図上の地点の指示を検出した場合、この地点を含む緑地を指定緑地と特定した。計画地までの移動予測経路と移動難易度を生成する緑地は、ユーザによる指定に限定されず、設計支援サーバ20が指定するようにしてもよい。具体的には、設計支援サーバ20の制御部21が、計画地の周辺(基準距離以内)に位置し、所定面積(例えば2ha)以上の緑地を、指定緑地として特定してもよい。これにより、効率的かつ漏れを抑制して緑地を指定することができる。
【0074】
・上記実施形態では、第1モデル式を生成するために、都市部において生物が観測された観測結果に関する情報を用いた。また、第2モデル式を生成するために、都市部において観測された生物の追跡結果に関する情報を用いた。都市部であっても、大都市(東京や大阪等)の中心部と、地方の都市部とは、生物の観測結果や追跡結果が異なることもある。そこで、都市部の属性(人口密度、交通量、緑地密度等)に応じた観測結果や追跡結果を取得し、これらに基づいて第1モデル式や第2モデル式を用いてもよい。これにより、都市部の人口密集度や周辺の緑地に応じて、より適切な評価を行なうことができる。
【0075】
・上記実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、設計変更画面を介して手動で設計変更を行なった。これに代えて、設計支援サーバ20の制御部21が、生息環境の評価がより高くなるように、評価対象のレイアウトを変更するようにしてもよい。例えば、設計支援サーバ20の制御部21に、配置変更可能な構成要素の変更可能範囲を記憶させておく。そして、制御部21は、変更可能範囲内において、配置変更可能な構成要素を移動させて、計画地において周辺緑地から飛来する方向に対して出現率が最も高くなるレイアウトを特定する。そして、特定したレイアウトを出力結果として表示部に出力する。
【0076】
・上記実施形態では、設計支援サーバ20の制御部21は、設計対象の庭園内における鳥の出現率マップに、ステップS3−2で算出した移動予測経路に応じて計画地に鳥が飛来してくる方向及び移動難易度を合成した評価結果を含む評価出力画面を表示部40に表示した。評価の出力方法は、これに限定されず、周辺の緑地から計画地への移動の難易度に関する移動難易度と、評価対象である庭園内の構成要素に応じた出現率とを用いて評価できれば、他の方法であってもよい。例えば、設計支援サーバ20の制御部21が、移動予測経路に応じた計画地に対する方向と移動難易度に基づいて、出現率マップに対して重み付けを行なって、補正出現率マップを生成して出力してもよい。また、移動予測経路に応じた計画地に対する方向と移動難易度と、それに対応する出現率マップとから、全体評価値を算出して、これを出力してもよい。
【0077】
・上記実施形態では、生息環境を評価するために、鳥の出現率、移動予測経路及び移動難易度を用いた。生息環境を評価する対象の生物は、鳥に限定されず、緑地から評価対象に至る際に様々な移動予測経路がある生物であればよく、例えば、とんぼ、蝶、蛍等の昆虫であってもよい。また、同種の生物に限らず、鳥や昆虫等、複数種類の生物の出現率、移動予測経路及び移動難易度を用いて評価してもよい。