(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362940
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】チェーンレバーの支持装置およびカム軸駆動用チェーン伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
F16H7/08 B
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-136876(P2014-136876)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2016-14427(P2016-14427A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃央
(72)【発明者】
【氏名】中尾 吾朗
(72)【発明者】
【氏名】岸本 拓馬
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−343668(JP,A)
【文献】
特開2004−011780(JP,A)
【文献】
特開2002−070963(JP,A)
【文献】
特開2004−028311(JP,A)
【文献】
特開2011−058552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン(5)の移動を案内するチェーンレバー(10)の一端部にボルト挿入孔(12)を設け、そのボルト挿入孔(12)に挿入されたボルト(13)をエンジンブロック(14)に形成されたねじ孔(15)にねじ係合して固定し、そのボルト(13)を中心にしてチェーンレバー(10)を揺動自在としたチェーンレバーの支持装置において、
前記ボルト(13)が、座付き頭部(13a)の座面に大径軸部(13c)が設けられ、その大径軸部(13c)の先端面にねじ軸部(13d)が設けられた段付きボルトからなり、そのボルト(13)の締め付けによってエンジンブロック(14)に着座される前記大径軸部(13c)の先端面に凹段部(13e)を形成したことを特徴とするチェーンレバーの支持装置。
【請求項2】
前記ボルト挿入孔(12)の内径面と前記ボルト(13)の外径面間に弾性を有する防振部材(16)を組み込んだ請求項1に記載のチェーンレバーの支持装置。
【請求項3】
前記防振部材(16)が、前記エンジンブロック(14)と前記チェーンレバー(10)の対向面間に配置されるフランジ(16b)を有してなる請求項2に記載のチェーンレバーの支持装置。
【請求項4】
前記防振部材(16)を前記ボルト挿入孔(12)の内径面に固着した請求項2又は3に記載のチェーンレバーの支持装置。
【請求項5】
前記防振部材(16)が、ニトリルゴムまたは水素化ニトリルゴムからなる請求項2乃至4のいずれか1項に記載のチェーンレバーの支持装置。
【請求項6】
前記チェーンレバー(10)が、前記チェーン(5)を転がり案内する複数の軸受(6)を備えてなる請求項1乃至5のいずれか1項に記載のチェーンレバーの支持装置。
【請求項7】
クランク軸(1)に設けられたクランクスプロケット(2)とカム軸(3)に設けられたカムスプロケット(4)間にチェーン(5)を掛け渡し、そのチェーン(5)の弛み側チェーン(5a)の外側に一端部を中心にして揺動可能なチェーンレバー(10)を設け、そのチェーンレバー(10)の揺動側端部にチェーンテンショナ(11)の調整力を付与してチェーンレバー(10)をチェーン(5)に向けて付勢し、そのチェーン(5)の張力変化を前記チェーンテンショナ(11)により吸収するカム軸駆動用チェーン伝動装置において、
前記チェーンレバー(10)を請求項1乃至6のいずれか1項に記載の支持装置により支持したことを特徴とするカム軸駆動用チェーン伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーン伝動装置におけるチェーンの張力調整用に用いられるチェーンレバーの支持装置およびカム軸駆動用のチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク軸に取付けられたクランクスプロケットとカム軸に取付けられたカムスプロケット間にチェーンを掛け渡したカム軸駆動用のチェーン伝動装置においては、チェーンにおける弛み側チェーンの一側方に、そのチェーンの走行方向に沿って延びる揺動可能なチェーンレバーを設け、そのチェーンレバーの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷してチェーンを緊張させ、チェーンの弛みやバタツキを防ぐようにしている。
【0003】
また、チェーンの張り側チェーンに固定のチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドによりチェーンの移動を案内して、バタツキを抑制するようにしている。
【0004】
ここで、特許文献1に記載されたチェーン伝動装置においては、チェーンレバーに複数の転がり軸受を設け、その転がり軸受によってチェーンを転がり案内している。このような転がりによるチェーン案内においては、チェーンの移動抵抗が小さく、トルクの伝達ロスが小さいという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/090139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されたチェーン伝動装置のように、チェーンの案内を転がりとすることでチェーンの屈曲が大きく、音響が悪化するという問題があった。その原因を究明するため種々試験を行ったところ、音響悪化の一因として、転がり軸受と接触する位置のそれぞれでチェーンに折れ曲がりが生じ、転がり軸受の外周に対するチェーンの衝突によりチェーンレバーに振動が生じて、その振動がチェーンテンショナに加わり、エンジンを加振させていることが分かった。
【0007】
さらに、音響悪化の原因をチェーンレバーとチェーンガイドで要因を分析したところ、主要因はチェーンレバーであることが分かった。
【0008】
チェーンの案内には摺動接触によるものがあり、その摺動接触案内によるタイプではチェーンによる衝突が転がり案内する場合に比較して極めて少なく、また、衝突力も弱いため、音響は小さい。したがって、音響は、転がり案内ならではの課題であるということが言えるが、摺動接触するタイプのものでも課題であることには変わりない。
【0009】
ここで、特開平10-274298号公報においては、チェーンガイドの両端部に形成された取付孔の内周とその取付孔に挿入されたショルダーボルトの大径部外周面間に弾性緩衝部材を介在してチェーンが摺動接触する際の振動や騒音の発生を防止する振動、騒音防止対策が提案されている。しかし、チェーンガイドは両端部が固定されて揺動しないため、揺動を必要とするチェーンレバーのピボット部とは必要特性が異なる。通常の弾性緩衝部材をチェーンレバーのピボット部に適用すると、チェーンレバーの揺動が阻害されて摩擦損失が発生し、燃料消費が悪くなるという問題が発生するため、上記公報では、チェーンレバーのピボット部に対する弾性緩衝部材の採用について何も触れていない。
【0010】
また、特開平10-238604号公報には、テンショナレバーのピボットガイド部にカラーを組み込んだレバー支持構造が開示されているが、カラーの材質には触れておらず、振動や騒音の防止対策について何も言及されていない。
【0011】
この発明の課題は、チェーンレバーからエンジンへの振動伝播を抑制し、騒音の低減化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明に係るチェーンレバーの支持装置において、チェーンの移動を案内するチェーンレバーの一端部にボルト挿入孔を設け、そのボルト挿入孔に挿入されたボルトをエンジンブロックに形成されたねじ孔にねじ係合して固定し、そのボルトを中心にしてチェーンレバーを揺動自在としたチェーンレバーの支持装置において、前記ボルト挿入孔の内径面と前記ボルトの外径面間に弾性を有する防振部材を組み込んだ構成を採用したのである。
【0013】
また、この発明に係るカム軸駆動用チェーン伝動装置においては、クランク軸に設けられたクランクスプロケットとカム軸に設けられたカムスプロケット間にチェーンを掛け渡し、そのチェーンの弛み側チェーンの外側に一端部を中心にして揺動可能なチェーンレバーを設け、そのチェーンレバーの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を付与してチェーンレバーをチェーンに向けて付勢し、そのチェーンの張力変化を前記チェーンテンショナにより吸収するカム軸駆動用チェーン伝動装置において、前記チェーンレバーをこの発明に係る上記支持装置により支持した構成を採用したのである。
【0014】
上記のように、チェーンレバーの一端部に形成されたボルト挿入孔の内径面とチェーンレバーの揺動中心となるボルトの外径面間に弾性を有する防振部材を組み込むことにより、チェーンの移動によってチェーンレバーが振動すると、その振動は防振部材の弾性変形により吸収され、エンジンブロックへ伝播される振動が低減される。
【0015】
ここで、防振部材として、ボルト挿入孔に嵌合される筒部の端部にエンジンブロックとチェーンレバーの対向面間に配置されるフランジを設けた構成とすると、チェーンレバーとエンジンブロックの対向部間にフランジの厚みに相当する隙間が形成されて、チェーンレバーをエンジンブロックに対して非接触の状態に保持することができるため、チェーンレバーに負荷される振動のエンジンブロックへの伝播を効果的に防止することができる。
【0016】
また、防振部材をボルト挿入孔の内径面に接着等の手段を介して固着しておくと、チェーンレバーの組付け時、ボルト挿入孔に防振部材を圧入嵌合する手間が省け、組立て性の向上を図ることができる。
【0017】
防振部材の素材をニトリルゴムあるいは水素化ニトリルゴムとすることにより、これらのゴムは摺動性に優れているため、チェーンレバーの揺動が阻害されるのを防止することができる。
【0018】
さらに、ボルトとして、座付き頭部の座面に大径軸部が設けられ、その大径軸部の先端面にねじ軸部が設けられた段付きボルトを採用し、そのボルトの締め付けによってエンジンブロックに着座される大径軸部の先端面に凹段部を形成しておくと、エンジンブロックに対するボルトの接触面積を小さくすることができ、低周波振動の伝播を防ぎ、音響を改善することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明においては、上記のように、チェーンレバーの一端部に形成されたボルト挿入孔の内径面とチェーンレバーの揺動中心となるボルトの外径面間に弾性を有する防振部材を組み込んだことにより、チェーンの移動によってチェーンレバーが振動すると、その振動が防振部材の弾性変形により吸収されるため、エンジンブロックに伝播される振動の低減を図り、騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明に係るカム軸駆動用チェーン伝動装置の実施の形態を示す概略図
【
図3】この発明に係るチェーンレバー支持装置の他の例を示す断面図
【
図4】この発明に係るチェーンレバー支持装置のさらに他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、カム軸駆動用チェーン伝動装置は、クランク軸1の軸端部に取付けられたクランクスプロケット2とカム軸3の軸端部に取付けられたカムスプロケット4間にチェーン5を掛け渡し、上記クランク軸1の回転をカム軸3に伝達して、カム軸3を回転させるようにしている。
【0022】
ここで、チェーン5は、ローラチェーンであってもよく、あるいは、サイレントチェーンであってもよい。
【0023】
クランク軸1は、
図1の矢印で示す方向に回転する。そのクランク軸1の回転によりチェーン5が同図の矢印で示す方向に移動し、上方に向けて移動する部分が弛み側チェーン5aとされ、下向きに向けて移動する部分が張り側チェーン5bとされ、上記弛み側チェーン5aの一側部に張力調整用のチェーンレバー10が設けられている。また、張り側チェーン5bの他側部には移動案内用のチェーンガイド20が設けられている。
【0024】
チェーンレバー10は、チェーン5の移動方向に長く延びる曲線状をなし、その上側に位置する一端部を中心にして揺動自在に支持され、下側の揺動側端部にチェーンテンショナ11の調整力が負荷されて弛み側チェーン5aに向けて付勢されている。
【0025】
チェーンレバー10の支持に際し、
図2に示すように、そのチェーンレバー10の一端部にボルト挿入孔12を設け、そのボルト挿入孔12にボルト13を挿入してエンジンブロック14に形成されたねじ孔15にねじ込み、そのボルト13とボルト挿入孔12間に弾性を有する筒状の防振部材16を組み込んでいる。
【0026】
ここで、ボルト13は、頭部13aに座13bを有する段付きボルトからなり、そのボルト13の大径軸部13cの先端部に設けられた小径のねじ軸部13dがねじ孔15にねじ係合されて締め付けられ、その締め付けによって大径軸部13cの先端面がエンジンブロック14に着座されている。
【0027】
また、ボルト13の大径軸部13cの軸方向長さをLとし、チェーンレバー10の厚さをTとすると、L>Tとされて、ボルト13の締め付けでチェーンレバー10がエンジンブロック14に圧接されることのない寸法関係とされており、その大径軸部13cの外径面とボルト挿入孔12の内径面間に防振部材16が組み込まれている。このとき、防振部材16は径方向に弾性変形する組み込みとされて、大径軸部13cの外径面およびボルト挿入孔12の内径面のそれぞれに密着している。
【0028】
さらに、防振部材16は、チェーンレバー10の揺動運動を阻害することの少ない摺動性に優れた弾性体が採用されている。そのような弾性体として、ニトリルゴム(NBR)や水素化ニトリルゴム(HNBR)を挙げることができる。
【0029】
チェーンレバー10は、シューによってチェーン5を面案内するものであってもよく、あるいは、
図1に示すように、チェーン5の移動方向に間隔をおいて設けられた複数の転がり軸受6のそれぞれによって転がり案内するものであってもよい。
【0030】
チェーンテンショナ11は、複数の取付片11aを有し、その取付片11aがエンジンブロック14にねじ込まれるボルト17の締め付けによってエンジンブロック14に固定されている。
【0031】
チェーンテンショナ11は、プランジャ11bによってチェーンレバー10の揺動側端部をチェーン5に向けて押圧し、上記チェーン5からの押し込み力を油圧ダンパによって緩衝する油圧密封式のものが採用されている。
【0032】
チェーンガイド20は、チェーン5の移動方向に長く延びる曲線状をなし、その両端部がボルト21の締め付けによりエンジンブロック14に固定されている。このチェーンガイド20は、チェーン5を面案内するものが採用されているが、チェーンレバー10と同様に、複数の転がり軸受によって転がり案内するものであってもよい。
【0033】
実施の形態で示すカム軸駆動用チェーン伝動装置は上記の構造からなり、クランクスプロケット2の回転によりチェーン5を移動させてカム軸3を回転させる駆動時、負荷トルクの変動によるチェーン5のバタツキや、転がり軸受6に対するチェーン5の衝突等によってチェーン5が振動すると、その振動はチェーンレバー10の揺動中心部からエンジンブロック14に伝播されることになる。
【0034】
このとき、チェーンレバー10の揺動中心部では、筒状の防振部材16がボルト挿入孔12の内径面およびボルト13の大径軸部13cの外径面に密着する組み込みとされているため、チェーンレバー10が振動すると、防振部材16が弾性変形し、その弾性変形により振動が吸収される。
【0035】
このように、チェーンレバー10が振動すると、その振動は防振部材16の弾性変形により吸収されるため、エンジンブロック14への振動の伝播が低減されることになり、騒音の発生が抑制される。
【0036】
図3は、防振部材16の他の例を示す。この例に示す防振部材16においては、ボルト挿入孔12に嵌合される筒部16aの端部にエンジンブロック14とチェーンレバー10の対向面間に配置されるフランジ16bを設けている。
【0037】
上記のように、防振部材16にフランジ16bを設けておくと、チェーンレバー10とエンジンブロック14の対向部間にフランジ16bの厚みに相当する隙間が形成されてチェーンレバー10をエンジンブロック14に対して非接触の状態に保持することができる。このため、チェーンレバー10に負荷される振動のエンジンブロック14への伝播をより効果的に防止することができる。
【0038】
図4に示すように、ボルト13の締め付けによってエンジンブロック14に着座される大径軸部13cの先端面に凹段部13eを形成しておくと、エンジンブロック14に対するボルト13の接触面積を小さくすることができ、低周波振動の伝播を防ぎ、音響を改善することができる。
【0039】
なお、
図4では、防振部材16を省略しているが、チェーンレバー10のボルト挿入孔12と大径軸部13cとの間に防振部材16を組み込むようにしてもよい。
【0040】
図2および
図3に示す例において、防振部材16をボルト挿入孔12の内径面に加硫接着により固着しておくと、チェーンレバー10の組付け時、ボルト挿入孔12に防振部材16を圧入嵌合する手間が省け、組立て性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 クランク軸
2 クランクスプロケット
3 カム軸
4 カムスプロケット
5 チェーン
6 転がり軸受(軸受)
10 チェーンレバー
12 ボルト挿入孔
13 ボルト
13a 頭部
13b 座
13c 大径軸部
13d ねじ軸部
13e 凹段部
14 エンジンブロック
15 ねじ孔
16 防振部材
16a 筒部
16b フランジ