【文献】
野手 翔太, 秋田 純一, 北川 章夫,「マイクロ電子スピン共鳴センサの基礎検討」,映像情報メディア学会技術報告,2007年 6月21日,Vol.31, No.28,pp.13-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インダクタ部と前記発振回路形成部とにより形成される前記発振回路は電圧制御発振器であり、前記素子パラメータは電圧である、請求項1〜3のいずれかに記載の電子スピン共鳴測定装置。
測定対象物に対して第1方向に第1磁場を印加し第2方向に交流磁場である第2磁場を印加することにより、前記測定対象物において発生する電子スピン共鳴のスペクトルである電子スピン共鳴スペクトルを測定する電子スピン共鳴測定装置に用いられる半導体装置であって、
前記第2磁場を発生するインダクタ部と、
前記インダクタ部と接続されて発振回路を形成し、素子パラメータを変化することにより前記第2磁場の周波数を変化させる発振回路形成部と、を備え、
前記電子スピン共鳴スペクトルは、前記第2磁場の周波数に対応する前記発振回路の発振周波数の前記素子パラメータについての関数として表現される、半導体装置。
交流磁場である第2磁場を発生するインダクタ部と、前記インダクタ部と接続されて発振回路を形成し素子パラメータを変化することにより前記第2磁場の周波数を変化させる発振回路形成部と、を備える電子スピン共鳴測定装置における電子スピン共鳴の測定方法であって、
測定対象物に対して第1方向に第1磁場を印加するステップと、
前記素子パラメータを所定の範囲にて変化させながら前記第2磁場を前記測定対象物に対して第2方向に印加するステップと、
前記素子パラメータの各値における前記発振回路の発振周波数を計数するステップと、
前記発振周波数と前記素子パラメータとを関連づけて、前記発振周波数の前記素子パラメータについての関数として表現される前記測定対象物の電子スピン共鳴スペクトルを取得するステップと、
を含む電子スピン共鳴の測定方法。
前記第2磁場が前記測定対象物に印加されていないときの前記発振周波数と前記素子パラメータとの関係を表現するバックグラウンド関数を取得するステップをさらに含む、請求項9に記載の電子スピン共鳴の測定方法。
前記電子スピン共鳴スペクトルと前記バックグラウンド関数との交点を算出して前記測定対象物の電子スピン共鳴角周波数を算出するステップをさらに含む請求項10に記載の電子スピン共鳴の測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
1.第1実施形態
(1)全体構成
第1実施形態に係る電子スピン共鳴測定装置100の構成について説明する。まず、電子スピン共鳴測定装置100の全体構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、電子スピン共鳴測定装置の全体構成を示す図である。電子スピン共鳴測定装置100は、半導体装置1と、磁場印加部3と、素子パラメータ調整部5と、発振周波数計数部7と、制御部9と、を備える。
半導体装置1は、測定対象物Mに対して印加する第2磁場を発生する。第2磁場は、半導体装置1の1の主面上に形成されたインダクタ部11(
図3)から発生する。従って、第2磁場は、半導体装置1の当該1の主面の法線方向に向けて発生する。
【0033】
そのため、電子スピン共鳴を測定する際、測定対象物Mは、半導体装置1の1の主面上に形成されたインダクタ部11に対応する箇所に配置される。なお、第2磁場を測定対象物Mに十分に吸収させるため、測定対象物Mを半導体装置1に配置する際の測定対象物Mの厚み(高さ)はある程度の高さがある方が好ましい。
また、半導体装置1の構成の詳細については、後ほど詳しく説明する。
【0034】
磁場印加部3は、
図1に示すように、例えば、半導体装置1の左右又は上下方向に、半導体装置1を挟むように配置される。その結果、磁場印加部3は、半導体装置1の主面に平行な方向の平行磁場を第1磁場として、測定対象物Mに印加できる。
【0035】
具体的には、
図2に示すように、第2磁場は、半導体装置1(インダクタ部11)の主面の法線方向(第2方向)に向けて伝搬する一方、第1磁場は、半導体装置1の主面に平行な方向、すなわち、第2磁場とは垂直な方向(第1方向)の平行磁場として発生する。
図2は、半導体装置と磁場印加部の線A−A’における断面図である。
なお、第1磁場が発生する第1方向と第2磁場が発生(伝搬)する第2方向とは、垂直の関係にある場合に限られず、半導体装置1及び磁場印加部3の電子スピン共鳴測定装置100への収納効率などを考慮して、任意の角度としてもよい。
【0036】
また、本実施形態において、磁場印加部3から発生する第1磁場は、所定の強度を有する直流磁場である。従って、磁場印加部3としては、例えば、市販の永久磁石などを用いることができる。すなわち、電子スピン共鳴測定装置100においては、磁場の強度を変更するために大規模な電磁石などを特に必要としない。その結果、電子スピン共鳴測定装置100を小規模化できる。
【0037】
素子パラメータ調整部5は、制御部9(後述)から入力した素子パラメータ調整信号に基づいて、半導体装置1に形成された発振回路形成部13(
図3)の素子パラメータを調整する素子パラメータ制御信号を、発振回路形成部13に出力する。本実施形態において、発振回路形成部13の素子パラメータは、電圧信号などのアナログ信号により制御される(すなわち、素子パラメータは電圧であるということもできる)ため、素子パラメータ調整部5としては、例えば、D/Aコンバータ(デジタル−アナログコンバータ)を用いることができる。
【0038】
発振周波数計数部7は、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路において発生する発振波の発振周波数を計数する。また、発振周波数計数部7は、計数した発振周波数を制御部9へ送信する。従って、発振周波数計数部7としては、例えば、周波数カウンターなどを用いることができる。
【0039】
制御部9は、測定対象物Mの電子スピン共鳴を測定する際の測定条件(例えば、第2磁場の周波数走査範囲、及び/又は、素子パラメータの変化走査範囲)に基づいて、素子パラメータを調整するための素子パラメータ調整信号を生成し、素子パラメータ調整部5に出力する。
【0040】
また、制御部9は、発振周波数計数部7から、計数された発振回路の発振周波数fを入力する。その結果、制御部9においては、制御部9において設定された素子パラメータと、入力した発振回路の発振周波数fとを関連づけて、発振周波数fの素子パラメータとしての関数として表現される電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。
なお、制御部9の構成、及び、電子スピン共鳴スペクトルと発振周波数及び素子パラメータとの関係については、後ほど詳しく説明する。
【0041】
(2)半導体装置の構成
次に、半導体装置1の構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、半導体装置の構成を示す図である。半導体装置1は、インダクタ部11と、発振回路形成部13と、外部接続端子15と、を有する。半導体装置1において、インダクタ部11と、発振回路形成部13と、外部接続端子15とは、半導体プロセスなどを用いて、半導体基板の1の主面上に形成されている。
【0042】
インダクタ部11は、例えば、半導体装置1の1の主面上に形成された平面コイルである。インダクタ部11は、発振回路形成部13(後述)と接続されて発振回路を形成している。その結果、インダクタ部11には、発振回路形成部13の素子パラメータにより決定される発振周波数にて変動する電流が流れる。これにより、インダクタ部11は、上記の発振周波数に対応する周波数を有する交流磁場(第2磁場)を、インダクタ部11の空間S内に発生できる。
【0043】
発振回路形成部13は、インダクタ部11と接続されて発振回路を形成する。また、発振回路形成部13は、発振回路形成部13に含まれる電気素子の素子パラメータを変化することにより、インダクタ部11とともに形成される発振回路の発振周波数(インダクタ部11に流れる電流の周波数)を変化可能となっている。すなわち、発振回路形成部13は、素子パラメータを変化することにより、第2磁場の周波数を変化させる。
これにより、高周波信号についての高度な知識を必要とすることなく、測定対象物Mに対して周波数を変化した第2磁場を印加できる。その結果、電子スピン共鳴の測定が簡単になる。なお、発振回路形成部13の構成については、後ほど詳しく説明する。
【0044】
外部接続端子15は、半導体装置1に、半導体装置1を駆動する電源(図示せず)、上記の素子パラメータ調整部5、及び上記の発振周波数計数部7を接続するための接続端子を提供する。
【0045】
上記のように、半導体装置1がインダクタ部11と発振回路形成部13とを有し、電子スピン共鳴測定装置100において半導体装置1を用いることにより、電子スピン共鳴測定装置100を小規模化できる。
【0046】
なお、
図4に示すように、素子パラメータ調整部5及び発振周波数計数部7が、半導体装置1の1の主面上にさらに形成されていてもよい。すなわち、半導体装置1は、素子パラメータ調整部5と発振周波数計数部7とをさらに有していてもよい。
図4は、素子パラメータ調整部と発振周波数計数部とを有する半導体装置を示す図である。
これにより、電子スピン共鳴測定装置100において、素子パラメータ調整部5及び発振周波数計数部7を個別に備える必要がなくなる。すなわち、
図4に示すように、制御部9と半導体装置1のみにより電子スピン共鳴測定装置100を構成できる。その結果、電子スピン共鳴測定装置100をさらに小規模化できる。
【0047】
また、半導体装置1が発振周波数計数部7をさらに有することにより、電子スピン共鳴測定装置100において、高周波信号を発生させる要素を1の半導体装置1に集約できる。すなわち、半導体装置1の外部に高周波信号を取り出す必要がなくなる。その結果、電子スピン共鳴測定装置100における高周波信号対策が簡単になる。具体的には、半導体装置1を用いた電子スピン共鳴測定装置100において、ケーブルなどを電波吸収材(例えば、アルミホイルなど)で覆ったり、装置間の接続のためのインピーダンス整合を行ったりといった高周波信号対策が不要となる。
【0048】
なお、例えば周波数カウンターにて構成される発振周波数計数部7、及び、例えばD/Aコンバータにて構成される素子パラメータ調整部5の、半導体プロセスなどにより形成される半導体装置1における回路構成は、公知の回路構成を用いることができる。
【0049】
(3)発振回路形成部の構成
次に、発振回路形成部13の構成について、
図5A及び
図5Eを用いて説明する。
図5Aは、容量可変キャパシタを含んだ発振回路形成部の一例を示す図である。
図5Eは、可変抵抗を含んだ発振回路形成部の一例を示す図である。
図5Aに示すように、発振回路形成部13は、容量可変キャパシタ131と、発振持続部133と、電流制御部135と、を有する。容量可変キャパシタ131は、インダクタ部11と並列に接続されている。
【0050】
インダクタ部11と容量可変キャパシタ131とが並列に接続されることにより、LC共振回路が形成される。その結果、インダクタ部11と容量可変キャパシタ131においては、インダクタ部11のインダクタンスLと容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCとにより決定される発振周波数(f=1/(2π(L×C)
0.5))を有する発振信号(発振波)が発生する。
【0051】
また、容量可変キャパシタ131は、その容量(キャパシタンスC)を変化可能となっている。容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを変化することにより、上記のLC共振回路における発振信号の周波数を変化できる。その結果、キャパシタンスCを変化することにより、インダクタ部11から発生する第2磁場の周波数(発振波の周波数に対応)を変化できる。従って、
図5Aに示す発振回路形成部13においては、第2磁場の周波数を変化する素子パラメータは、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCである。
【0052】
本実施形態において、容量可変キャパシタ131は、「バラクタ」と呼ばれる容量可変キャパシタである。バラクタは、例えば、半導体装置1上に形成されたMOS FET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect−Transistor)を用いて構成できる。MOS FETを用いたバラクタとしては、AMOS(Accumulation−Mode MOS)やIMOS(Inversion−Mode MOS)などがある。
【0053】
AMOS構造を有するバラクタは、
図5Bに示すように、半導体装置1の所定の位置に設けられたn型井戸(n−well)1311a中に、不純物をさらに添加してn型井戸よりも電子密度がより高くなった2つの領域1312(
図5Bの「n+」と示した領域)を形成し、当該2つの領域1312間のn型井戸1311a上に、絶縁層1313(例えば、酸化膜)を介してゲート電極1314を形成したMOS構造を用いて形成されるバラクタである。
図5Bは、AMOS構造を有するバラクタを示す図である。
【0054】
AMOS構造のバラクタにおいては、
図5BのMOS構造のより電子密度が高くなった2つの領域1312に正電圧である第1電圧V1が印加され、ゲート電極1314に負電圧である第2電圧V2が印加される。このような電圧がMOS構造に印加されたとき、ゲート電極1314下のn型井戸1311aの領域に存在する電子は、当該n型井戸1311aの領域から上記の2つの領域1312へと移動する。その結果、ゲート電極1314下のn型井戸1311aの領域表面においては、電子が存在しない層(空乏層1315)が形成される。
【0055】
このとき、上記の第1電圧V1と第2電圧V2とが印加された状態にて、ゲート電極1314と領域1312との間に交流信号が印加されていると、当該交流信号に対するキャパシタンスC(C=dQ/dV、Q:充電電荷、V:印加電圧)が、
図5BのキャパシタンスCと直流電圧(V1−V2)の関係を示すグラフのように変化する。このように、AMOS構造のバラクタにおいては、上記の直流電圧である第1電圧V1と第2電圧V2とにより、ゲート電極1314と領域1312との間に印加された交流信号に対するキャパシタンスCを変化できる。
【0056】
一方、IMOS構造を有するバラクタは、
図5Cに示すように、半導体装置1の所定の位置に設けられたp型井戸(p−well)1311b中に、電子密度が高い2つの領域1312a(
図5Cの「n+」と示した領域)と、正孔の密度がp型井戸よりも高い領域1312b(
図5Cの「p+」と示した領域)とを形成し、電子密度が高い2つの領域1312a間のp型井戸1311b上に絶縁層1313を介してゲート電極1314を形成したMOS構造を用いて形成されるバラクタである。
図5Cは、IMOS構造を有するバラクタを示す図である。
【0057】
IMOS構造のバラクタにおいては、
図5CのMOS構造の電子密度が高い2つの領域1312a及び正孔の密度が高い領域1312bに負電圧である第1電圧V1が印加され、ゲート電極1314に正電圧である第2電圧V2が印加される。このような電圧がMOS構造に印加されたとき、ゲート電極1314下のp型井戸1311bの領域に存在する正孔は、p型井戸1311bの領域から離れていく。その結果、ゲート電極1314下のp型井戸1311bの領域表面においては、正孔が存在しない空乏層1315が形成される。
【0058】
このとき、上記の第1電圧V1と第2電圧V2とが印加された状態にて、ゲート電極1314と領域1312a、1312bとの間に交流信号が印加されていると、当該交流信号に対するキャパシタンスC(C=dQ/dV、Q:充電電荷、V:印加電圧)が、
図5CのキャパシタンスCと直流電圧(V1−V2)の関係を示すグラフのように変化する。このように、IMOS構造のバラクタにおいても同様に、上記の直流電圧である第1電圧V1と第2電圧V2とにより、ゲート電極1314と領域1312との間に印加された交流信号に対するキャパシタンスCを変化できる。
【0059】
本実施形態においては、
図5Cに示すIMOS構造を有するバラクタを容量可変キャパシタ131として用いる。ただし、
図5Aに示す発振回路形成部13において、発振持続部133を構成するMOSFETの容量可変キャパシタ131が接続されている側の左右の接点における電位を同じとする必要がある。そのため、本実施形態においては、
図5Cに示したIMOS構造を有するバラクタを2つ直列に接続して、容量可変キャパシタ131とする。
【0060】
具体的には、
図5Dに示すように、2つのIMOS構造を有するバラクタの領域1312a、1312bを2つのバラクタにおいて共通に接続し、2つのバラクタの当該領域1312a、1312bに素子パラメータ制御信号を入力する。また、一方のバラクタのゲート電極1314をインダクタ部11の一端及び発振持続部133の一端に接続し、他方のバラクタのゲート電極1314をインダクタ部11の他端及び発振持続部133の他端に接続する。
図5Dは、本実施形態における容量可変キャパシタンスの構成を示す図である。
【0061】
従って、
図5Dに示す2つのバラクタから構成される容量可変キャパシタ131においては、素子パラメータ制御信号(
図5B及び
図5Cにおける第1電圧V1に対応)の電圧値を変化させることにより、2つのバラクタのゲート電極1314と領域1312a、1312bとの間の電圧を変化できる。その結果、素子パラメータ制御信号の電圧値により、容量可変キャパシタ131の(発振波に対する)キャパシタンスCを制御できる。
【0062】
すなわち、素子パラメータ制御信号の電圧値により、発振回路形成部13における発振周波数を制御できる。発振回路形成部13のように、素子パラメータ制御信号の電圧値より発振周波数を制御可能な発振回路(発振器)は、電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator、VCO)と呼ばれる。
【0063】
発振回路形成部13とインダクタ部11とにより形成される発振回路を、第1電圧V1と第2電圧V2の差を素子パラメータとしたVCOとして形成することにより、本実施形態の電子スピン共鳴測定装置100においては、電圧を素子パラメータ制御信号として、高周波信号に関する高度な知識を必要とすることなく、より簡単に第2磁場の周波数を変化できる。その結果、電子スピン共鳴の測定が簡単になる。
【0064】
発振持続部133は、容量可変キャパシタ131とインダクタ部11とにより構成されるLC発振回路に接続され、LC発振回路において発振信号を持続的に発振させる。一般的に、インダクタ部11を構成する平面コイルや容量可変キャパシタ131にはエネルギー損失成分(典型的には抵抗)が存在し、容量可変キャパシタ131とインダクタ部11とのみでLC発振回路を形成すると、発振信号(発振波)は減衰(エネルギー損失)する。発振持続部133をLC発振回路に接続して発振信号のエネルギー損失分を補うことにより、LC発振回路において発振信号を持続的に発生できる。
【0065】
電流制御部135は、上記のLC発振回路においてインダクタ部11に流れる電流を制御する。検討の結果、インダクタ部11に流れる電流値によっては、測定対象物Mにおける電子スピン共鳴現象が飽和してしまうことが分かった。
電流制御部135によりインダクタ部11に流れる電流値を制御することにより、測定対象物Mにおける電子スピン共鳴現象が飽和することを抑制できる。その結果、より正確に電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。なお、電流制御部135は、例えば、テール電流源である。
【0066】
なお、変形例として、
図5Eに示すように、可変抵抗131’を含む発振回路形成部13とインダクタ部11とを接続して発振回路を形成してもよい。この場合、素子パラメータは可変抵抗131’の抵抗値である。これにより、可変抵抗131’とインダクタ部11とによりLR発振回路を形成できる。その結果、可変抵抗131’の抵抗値を変更して第2磁場の周波数を変化できる。
図5Eは、可変抵抗を含んだ発振回路形成部の一例を示す図である。
また、この場合、可変抵抗131’は、例えば、FET(Field Effect Transistor、電界効果トランジスタ)などにより形成できる。可変抵抗131’をFETなどのトランジスタにより形成することにより、FETなどのトランジスタ(のゲート電極やベース電極)に印加する電圧を素子パラメータ制御信号として変化することにより、可変抵抗131’の抵抗値を変化できる(すなわち、第2磁場の周波数を変化できる)。
【0067】
(4)制御部の構成
次に、制御部9の構成について、
図6を用いて説明する。
図6は、制御部の構成を示す図である。本実施形態において、制御部9は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memoly)、ハードディスクなどの記憶装置と、各種インターフェースなどを備えたコンピュータである。また、以下に示す制御部9の各機能の一部又は全部は、コンピュータ上にて実行されるプログラムにより実現されていてもよい。また、制御部9の各機能の一部又は全部は、カスタムICなどにより実現されていてもよい。
【0068】
制御部9は、素子パラメータ設定部91と、発振周波数受信部93と、スペクトル取得部95と、同定部97と、を有する。
素子パラメータ設定部91は、上記の発振回路形成部13の素子パラメータの設定値(素子パラメータ調整信号)を素子パラメータ調整部5に送信する。この結果、素子パラメータ調整部5は、素子パラメータ調整信号に基づいて、素子パラメータ制御信号を生成できる。
【0069】
電子スピン共鳴測定装置100において電子スピン共鳴スペクトル及び/又はバックグラウンド関数(後述)を取得する際、素子パラメータ設定部91は、素子パラメータを所定の範囲にて変化させる素子パラメータ調整信号を生成し、出力する。例えば、測定開始時の素子パラメータの値と、測定終了時の素子パラメータの値と、素子パラメータの変化割合(変化時間)を素子パラメータ設定部91にて設定することにより、素子パラメータを所定の範囲にて変化させる素子パラメータ調整信号を生成できる。
【0070】
発振周波数受信部93は、発振周波数計数部7において測定された、上記の発振回路の発振周波数fの測定値を受信する。
スペクトル取得部95は、発振周波数受信部93にて受信した発振周波数fと、素子パラメータ設定部91にて設定された素子パラメータとを関連づけて、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルを取得する。すなわち、スペクトル取得部95は、素子パラメータ調整信号の各信号値(素子パラメータ値)と、上記各信号値(素子パラメータ値)における上記の発振回路の発振周波数とを関連づけて、電子スピン共鳴スペクトルを取得する。これにより、スペクトル取得部95は、電子スピン共鳴スペクトルを、素子パラメータ値と発振周波数データとの集合体として取得できる。
【0071】
これにより、電子スピン共鳴により影響される測定信号(発振周波数)の測定感度を高めることなく、電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。すなわち、電子スピン共鳴測定装置100においては、測定信号の測定感度を高める装置などが不要となる。その結果、電子スピン共鳴測定装置100の構造を単純化できる。
【0072】
また、スペクトル取得部95は、バックグラウンド関数を取得する。バックグラウンド関数は、測定対象物Mに第2磁場が印加されていないときの発振回路の発振周波数(バックグラウンド周波数f
B)と素子パラメータとの関係を表現する関数である。スペクトル取得部95がバックグラウンド関数を取得することにより、スペクトル取得部95は、測定対象物Mの磁化率の変化に起因する発振周波数変化のみを含む電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。
【0073】
同定部97は、スペクトル取得部95から入力した電子スピン共鳴スペクトルを用いて測定対象物Mの同定を行う。本実施形態において、測定対象物Mの同定は、得られた電子スピン共鳴スペクトルから測定対象物Mの電子スピン共鳴角周波数ν(後述)を算出し、算出した電子スピン共鳴角周波数νを用いて行う。なお、電子スピン共鳴スペクトルから測定対象物Mの電子スピン共鳴角周波数νを算出する方法、及び、電子スピン共鳴角周波数νを用いた測定対象物Mの同定方法については後述する。
【0074】
(5)電子スピン共鳴測定装置の動作
I.電子スピン共鳴の測定原理
(i)電子スピン共鳴の原理
次に、本実施形態に係る電子スピン共鳴測定装置100の動作について説明する。まず、電子スピン共鳴の原理について、
図7を用いて説明する。
図7は、電子スピン共鳴の原理を示す模式図である。電子スピン共鳴は、測定対象物Mに磁場を印加する前と後において、測定対象物M中の不対電子の状態が変化することにより発生する。従って、以下においては、測定対象物Mに磁場を印加したときの不対電子の状態を説明しながら、電子スピン共鳴の原理を説明する。
【0075】
測定対象物Mに磁場が印加されていない場合、測定対象物M中に含まれる不対電子は、ランダムな方向を向いている(
図7の(1))。このような測定対象物Mに直流磁場である第1磁場(磁界強度:H
1)が印加されると、不対電子の自転(スピン)の軸が、不対電子のスピンの回転方向によって、平行(
図7では右回りのスピン)又は反平行(
図7では左回りのスピン)に向く。
【0076】
このとき、不対電子は、より高いエネルギー準位E
1に存在するもの(自転軸が第1磁界に対して反平行に向いた電子)と、より低いエネルギー準位E
2に存在するもの(自転軸が第1磁界に対して平行に向いた電子)とに分離する(
図7の(2))。
このとき、より高いエネルギー準位E
1とより低いエネルギー準位E
2との差E
1−E
2は、第1磁場の磁界強度H
1に比例することが知られている。すなわち、E
1−E
2=gβH
1と表現されることが知られている。上記の式において、βは定数である。また、gは「g値」と呼ばれ、測定対象物Mに特有の定数である。従って、測定された電子スピン共鳴(スペクトル)からg値を算出することにより、測定対象物Mが同定できる。
【0077】
測定対象物Mに第1磁場を印加した状態(
図7の(2)の状態)において、さらに交流磁場である第2磁場を印加したとき、第2磁場がある所定の周波数(電子スピン共鳴角周波数ν(後述))を有する場合に、第2磁場は測定対象物Mに最も吸収される。このとき、測定対象物Mにおいては、より低いエネルギー準位E
2に存在していた不対電子が、より高いエネルギー準位E
1に遷移する(
図7の(3))。
【0078】
これは、第2磁場のエネルギー(hν、h:プランク定数)がエネルギー差E
1−E
2(gβH
1)と一致したとき(すなわち、hν=gβH
1のとき)に、より低いエネルギー準位E
2に存在する不対電子が第2磁場からエネルギーを受けた結果、より高いエネルギー準位E
1に遷移できることにより生じる現象である。
【0079】
上記の式から、第1磁場が所定の強度を有する場合(すなわち、磁界強度H
1が一定値の場合)、上記の電子スピン共鳴角周波数νは、測定対象物Mに固有の値となる。従って、第1磁場を所定の強度を有する直流磁場としておくことにより、第2磁場の周波数がある固有の周波数(電子スピン共鳴角周波数ν)となったときに第2磁場の大きな吸収が生じることを利用して、測定対象物Mの電子スピン共鳴を検出できる。また、第2磁場の周波数をある所定の範囲にて変化し、当該範囲内に上記の固有の周波数(電子スピン共鳴角周波数ν)が存在した場合には、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルを測定できる。
【0080】
(ii)電子スピン共鳴が発振回路に及ぼす影響
次に、測定対象物Mにおいて発生した電子スピン共鳴の、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の動作への影響について説明する。
図7に示すように、第1磁場のみが印加されているときの不対電子のエネルギー状態(またはスピン状態)は、第2磁場が印加されて電子スピン共鳴が発生したときの不対電子のエネルギー状態(スピン状態)から変化している。このような場合、測定対象物Mにおいては、磁化率が変化する。
【0081】
その結果、電子スピン共鳴が発生していない場合と発生している場合において、測定対象物Mが配置されたインダクタ部11のインダクタンスLが変化する。なぜなら、磁化率が変化するに伴い、インダクタ部11の空間Sの透磁率が変化するからである。
【0082】
すなわち、測定対象物Mにおいて電子スピン共鳴が発生していない(または、測定対象物Mがインダクタ部11に配置されていない)場合のインダクタ部11のインダクタンスをL
0とし、電子スピン共鳴の影響を考慮したインダクタンスをLとした場合、電子スピン共鳴の影響を考慮したインダクタンスLは、以下のように表現される。
L=(1+χ
r−jχ
i)L
0
【0083】
上記の式において、χ
rは、電子スピン共鳴の発生に伴う磁化率変化の実数部である。χ
iは、電子スピン共鳴の発生に伴う磁化率変化の虚数部である。jは、虚数(すなわちj
2=−1)である。また、上記のχ
r、χ
iは、第1磁場の磁束密度と第2磁場の周波数(発振回路の発振周波数)との関数である。
ここで、χ
iが十分に小さく無視できると仮定した場合、インダクタ部11のインダクタンスLは、L=(1+χ
r)L
0と近似できる。
【0084】
ここで、測定対象物Mにおいて電子スピン共鳴が発生していない(または、測定対象物がインダクタ部11に配置されていない)場合の発振回路の発振周波数f
nと、電子スピン共鳴を考慮した場合の発振回路の発振周波数f
rとを比較する。
今、
図5Aに示すような、容量可変キャパシタ131を含む発振回路形成部13を用いた場合の発振回路の発振周波数を考える。容量可変キャパシタ131のキャパシタンスをCとすると、電子スピン共鳴が発生していない場合の発振周波数f
nは、以下のように表現される。
f
n=1/(2π×(L
0C)
0.5)
【0085】
一方、電子スピン共鳴を考慮した場合の発振周波数f
rは、以下のように表現される。
f
r=1/(2π×(LC)
0.5)=1/(2π×(L
0C)
0.5×(1+χ
r)
0.5)
すなわち、f
r=f
n/(1+χ
r)
0.5
【0086】
上記のように、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数は、磁化率が変化することにより、磁化率が変化しない(χ
r=0)(電子スピン共鳴が発生していない)ときの発振周波数f
nから変化することがわかる。すなわち、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数を測定することにより、測定対象物Mにおける電子スピン共鳴を検出できる。なお、上記の磁化率が変化しないときの発振周波数f
nは、後述するバックグラウンド周波数f
Bに対応する周波数である。一方、磁化率の影響を考慮した発振周波数f
rは、発振周波数計数部7にて計数される発振周波数の実測値(f)に対応する。
【0087】
(iii)素子パラメータと発振周波数
次に、電子スピン共鳴の影響を考慮した発振周波数と、発振回路形成部13における素子パラメータとの関係について説明する。電子スピン共鳴の影響を考慮した発振周波数と素子パラメータとの関係は、以下に示すχ
rの公知の解析式と、上記のf
r=f
n/(1+χ
r)
0.5との式から導き出される。χ
rの公知の解析式は、以下のように表現される。
【数1】
【0088】
上記の式(数1)において、χ
0、T
1、T
2、γ、及びB
acは定数である。また、ω
0(B)は上記において説明した、電子スピン共鳴が発生するときの条件gβH
1=hνが成立するときのνに2πを掛けた(すなわち、2πν)値である。従って、ここでは、ω
0(B)を電子スピン共鳴角速度と呼び、νを電子スピン共鳴角周波数と呼ぶことにする。上記の電子スピン共鳴角速度ω
0(B)は第1磁場の関数として与えられる。本実施形態においては、第1磁場は一定であるため、電子スピン共鳴角速度ω
0(B)は、(第1磁場の大きさにより決定される)一定値である。さらに、上記の数1において、ωは、発振回路における発振周波数fに2πを掛けた値(角速度)の実測値である。
【0089】
一方、f
r=f
n/(1+χ
r)
0.5の式から、χ
r=(f
n/f
r)
2−1と表現され、また、2πf
n=1/(L
0C)
0.5、2πf
r=ω=2πfであるから、χ
r=1/(L
0C×ω
2)−1とさらに表現できる。ここで、上記の解析式(数1)の右辺と、1/(L
0C×ω
2)−1とが等しいため、ω(=2πf)と容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCとの関係は、以下のように表現できる。
【数2】
【0090】
上記の数2を満たすような発振周波数f(f=ω/(2π))を数値解析法などにより算出することにより、発振回路の発振周波数fのキャパシタンスC(素子パラメータ)についての関数(すなわち、電子スピン共鳴スペクトル)を、
図8に示すように算出できる。
図8は、発振回路の発振周波数(電子スピン共鳴の影響を考慮した発振周波数f(発振周波数の実測値)と電子スピン共鳴の影響を考慮していない発振周波数(バックグラウンド周波数f
B(後述))との差f−f
B)と、キャパシタンスCとの関係を示す図である。
【0091】
なお、数2において、発振回路の発振周波数fが電子スピン共鳴角周波数νと等しくなるとき、L
0C(2πν)
2=1となる。すなわち、ν=1/(2π×(L
0C)
0.5)と表現される。これは、電子スピン共鳴角周波数νが、バックグラウンド周波数f
B(=1/(2π×(L
0C)
0.5))と等しいことを表している。
図8に示した差f−f
BとキャパシタンスCとの関係を表したグラフにおいては、当該グラフと横軸との交点におけるキャパシタンスC
0(電子スピン共鳴キャパシタンスC
0(後述))におけるバックグラウンド周波数f
Bが、電子スピン共鳴角周波数νに対応する。
【0092】
後述するように、
図8における差f−f
BとキャパシタンスCとの関係を表したグラフと横軸との交点は、測定対象物Mに第1磁場及び第2磁場を印加したときに得られる電子スピン共鳴スペクトルと、電子スピン共鳴の影響を考慮しないとき(第2磁場が測定対象物Mに印加されていないとき)の発振回路の発振周波数と素子パラメータとの関係を表すバックグラウンド関数(後述)とを同一座標軸上にプロットした場合の、電子スピン共鳴スペクトルを表すグラフとバックグラウンド関数を表すグラフとの交点(
図11を参照)に対応する。
【0093】
このように、本実施形態の電子スピン共鳴測定装置100においては、電子スピン共鳴スペクトルと上記のバックグラウンド関数との交点を算出するという比較的簡単な方法により、電子スピン共鳴角周波数νを算出できる。すなわち、比較的簡単な方法により、測定対象物Mを同定できる。
【0094】
II.電子スピン共鳴スペクトルの取得方法
次に、本実施形態の電子スピン共鳴測定装置100における電子スピン共鳴スペクトルの取得方法について、
図9Aを用いて説明する。
図9Aは、電子スピン共鳴スペクトルの取得方法を示すフローチャートである。以下に説明する電子スピン共鳴スペクトルの取得方法においては、発振回路形成部13として、
図5Aに示す容量可変キャパシタ131を含んだ発振回路形成部13を用いた例を説明する。すなわち、以下の例において、素子パラメータは、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスC、または、素子パラメータ制御信号の電圧値である。
【0095】
電子スピン共鳴スペクトルの取得を開始する際、まず、測定対象物Mが電子スピン共鳴測定装置100に配置される(ステップS1)。具体的には、測定対象物Mは、半導体装置1のインダクタ部11が形成された主面の、インダクタ部11(の空間S)に対応する位置に配置される。なお、本実施形態においては、測定対象物Mの例としてDPPH(1,1−diphenyl−2−picryl−hydrazyl)を用いた。
【0096】
次に、制御部9の素子パラメータ設定部91において、素子パラメータ(本実施形態においては、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスC、または、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを制御する電圧値)の走査範囲を設定する(ステップS2)。素子パラメータの走査範囲は、例えば、走査したい発振回路の発振周波数範囲(すなわち、第2磁場の周波数の走査範囲)から算出できる。
【0097】
その後、測定対象物Mに対して第1方向に、所定の強度を有する直流磁場である第1磁場を印加する(ステップS3)。具体的には、例えば、磁場印加部3である永久磁石が、測定対象物Mを載置した半導体装置1を挟むように、半導体装置1の主面に垂直に配置される(
図1)。その結果、半導体装置1上の測定対象物Mに対して、半導体装置1の主面に平行な方向である第1方向に第1磁場が印加される。
このとき、測定対象物M中の不対電子は、
図7の(2)のような状態となっている。すなわち、測定対象物M中の不対電子が、不対電子のスピンの方向によって、より高いエネルギー準位E1に存在する不対電子と、より低いエネルギー準位E2に存在する不対電子とに分離される。
【0098】
第1磁場を印加後、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路を動作させる。具体的には、発振回路形成部13の素子パラメータ(キャパシタンスC)を、素子パラメータの走査範囲内の所定の値に設定し、インダクタ部11のインダクタンスと素子パラメータ(キャパシタンスC)により決定される発振周波数を有する発振波を発振回路内に発生させる。これにより、インダクタ部11には、上記の発振周波数に対応した周波数を有する交流電流が流れ、その結果、インダクタ部11の空間Sから上記の発振周波数に対応する周波数を有する交流磁場である第2磁場が発生する(ステップS4)。
【0099】
発振回路の発振周波数(第2磁場の周波数)が上記の電子スピン共鳴角周波数νに近い値となった時、測定対象物Mの磁化率が変化し、これにより、インダクタ部11のインダクタンスが、測定対象物Mに第2磁場が印加されていない場合とは異なる値となる。その結果、所定の素子パラメータ値(キャパシタンスC)におけるバックグラウンド周波数f
Bと、当該所定の素子パラメータ値と同じ素子パラメータ値における発振周波数fの実測値とが異なる。すなわち、差f−f
Bが0(に近い値)でなくなる(ただし、電子スピン共鳴角周波数νにおいては0となる)。
【0100】
測定対象物Mに第1磁場と第2磁場とを印加した状態にて、発振周波数計数部7が発振回路の発振周波数を計数する(ステップS5)。次に、制御部9のスペクトル取得部95が、素子パラメータ設定部91から現在の素子パラメータ値を取得し、発振回路の発振周波数を、発振周波数受信部93を介して、発振周波数計数部7から取得する。その後、スペクトル取得部95は、取得した素子パラメータ値と取得した発振周波数とを関連づけて、制御部9の記憶部などに記憶する(ステップS6)。この結果、現在の素子パラメータ設定値と、現在の素子パラメータ設定値における発振回路の発振周波数とが、関連づけられて記憶部などに記憶される。
【0101】
素子パラメータの設定値と、当該素子パラメータの設定値における発振周波数とを関連づけて記憶後、制御部9は、ステップS2にて設定した全走査範囲にて素子パラメータを走査したかどうかを確認する(ステップS7)。
制御部9が全走査範囲にて素子パラメータを走査していないと判断した場合(ステップS7において「No」の場合)、素子パラメータ設定部91が素子パラメータの設定値を次の設定値に変更し(ステップS8)、ステップS4に戻る。
【0102】
これにより、素子パラメータの設定値を設定した全ての走査範囲にて走査するまで、素子パラメータの設定値と当該素子パラメータの設定値における発振周波数とを関連づけて記憶できる。その結果、素子パラメータの各設定値と当該素子パラメータの各設定値における発振周波数とが関連づけられているデータの集合体として、電子スピン共鳴スペクトルを所得できる。
【0103】
上記のステップS1〜S8を実行することにより、第2磁場は、発振回路形成部13の素子パラメータ(キャパシタンスC)を所定の範囲にて変化させながら測定対象物Mに印加されている。これにより、高周波信号についての高度な知識を必要とすることなく、測定対象物Mに対して周波数を変化した第2磁場を印加できる。その結果、電子スピン共鳴の測定が簡単になる。
【0104】
一方、制御部9が全走査範囲にて素子パラメータを操作したと判断した場合(ステップS7において「Yes」の場合)、電子スピン共鳴スペクトルの取得を終了する。その後、必要に応じて、取得した電子スピン共鳴スペクトルを用いて、測定対象物Mの同定及び/又は定量を行う(ステップS9)。なお、ステップS9における測定対象物Mの同定及び/又は定量方法については、後述する。
【0105】
上記のステップS1〜S8までを実行することにより取得された電子スピン共鳴スペクトルの一例を
図10Aに示す。
図10Aは、電子スピン共鳴スペクトルの一例を示す図である。発振回路の発振周波数(GHzオーダー)と比較して、測定対象物Mの電子スピン共鳴に起因した磁化率の変化による周波数変化は小さいため、
図10Aにおいて、電子スピン共鳴に起因する周波数変化が見られていない。
【0106】
電子スピン共鳴に起因する周波数変化を明瞭にするために、
図10Aにて示した電子スピン共鳴スペクトル(発振周波数fの実測値)から、第2磁場が測定対象物Mに印加されていないとき(または、測定対象物Mが半導体装置1に配置されていないとき)の発振回路の発振周波数(バックグラウンド周波数f
B)と素子パラメータ(キャパシタンスC)との関係を表現したバックグラウンド関数を差し引いて、新たな電子スピン共鳴スペクトル(f−f
B)とする。
【0107】
図10Bに示すように、発振周波数fの実測値からバックグラウンド周波数f
Bを差し引いて表現した電子スピン共鳴スペクトル(f−f
B)においては、電子スピン共鳴スペクトルにおいてピークが見られる。
図10Bは、発振周波数の実測値からバックグラウンド周波数を差し引いて電子スピン共鳴スペクトルとした場合の、電子スピン共鳴スペクトルを示す図である。
【0108】
なお、本実施形態において、バックグラウンド関数は、
図9Bに示すように、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルを測定する前に取得する(ステップS1’)。
図9Bは、バックグラウンド関数を取得するステップを含む電子スピン共鳴スペクトルの取得方法を示すフローチャートである。なお、
図9Bに示すステップS2’〜S10’は、それぞれ、
図9Aに示すステップS1〜S9に対応するため、説明を省略する。
【0109】
具体的には、バックグラウンド関数は、(i)素子パラメータを所定の範囲にて変化させながら、第2磁場を測定対象物Mに印加することなく(すなわち、測定対象物Mを半導体装置1上に配置することなく)発生し、(ii)素子パラメータの各値における、第2磁場を測定対象物Mに印加しない(測定対象物Mを半導体装置1上に配置しない)ときの発振回路の発振周波数(バックグラウンド周波数f
B)を計数し、(iii)素子パラメータとバックグラウンド周波数f
Bとを関連づける、ことによる取得される。
上記のようにしてバックグラウンド関数を取得することにより、バックグラウンド関数を、電子スピン共鳴測定装置100における実測値に基づいて取得できる。
【0110】
または、バックグラウンド関数は、
図9Aに示したステップS1〜S8を実行することにより得られる電子スピン共鳴スペクトルから算出されてもよい。具体的には、バックグラウンド関数は、取得された電子スピン共鳴スペクトルにおいて、測定対象物Mの電子スピン共鳴による影響が少ない部分(電子スピン共鳴による影響が少ない発振周波数(素子パラメータ)範囲)のデータを用いて算出できる。
上記の測定対象物Mの電子スピン共鳴による影響が少ない電子スピン共鳴スペクトルの部分を、「無影響スペクトル部分」と呼ぶことにする。
【0111】
例えば、
図11に示す、発振周波数の容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCとしての関数として表現される電子スピン共鳴スペクトルにおいては、
図11の丸にて囲んだ範囲の電子スピン共鳴スペクトルが、測定対象物Mの電子スピン共鳴(磁化率変化)による影響を受けていない無影響スペクトル部分に対応する。
図11は、無影響スペクトル部分からバックグラウンド関数を算出する方法を模式的に示す図である。
【0112】
無影響スペクトル部分においては、インダクタ部のインダクタンスLは、バックグラウンド関数の取得(算出)時のインダクタンスL
0とほぼ等しい一定値となるため、無影響スペクトル部分において、発振周波数は、素子パラメータ(キャパシタンスC)のみの関数(1/(2π×(L
0C)
0.5)=A/C
0.5(A:定数))となる。このため、例えば、無影響スペクトル部分に含まれる素子パラメータ(キャパシタンスC)の各設定値と上記の各設定値における発振周波数とのデータを用いて、最小二乗法などにより上記の定数Aを算出することにより、バックグラウンド関数を算出できる。
【0113】
上記の無影響スペクトル部分を用いてバックグラウンド関数を算出することにより、バックグラウンド関数を取得するために、測定対象物Mが存在しないときの発振周波数を測定する必要がなくなる。その結果、電子スピン共鳴測定装置における測定回数を減少できる。また、測定対象物Mを半導体装置1に配置しないときの発振周波数の実測値によりバックグラウンド関数を取得する場合と比較して、測定対象物Mが半導体装置1上に配置された場合の磁化率(インダクタ部11のインダクタンス)を考慮してバックグラウンド関数を算出できる。すなわち、より正確なバックグラウンド関数を算出できる。
【0114】
図5Aに示した発振回路形成部13においては、素子パラメータ(素子パラメータ制御信号)として電圧を変化することにより、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを変化している。従って、
図10A及び
図10Bに示す電子スピン共鳴スペクトルは、発振周波数fの電圧の関数として表現されている。しかし、これに限られず、
図10A及び
図10Bに示す電子スピン共鳴スペクトルは、素子パラメータを容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCとして表現し直すこともできる。
【0115】
本実施形態においては、例えば、上記のバックグラウンド関数を用いて容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを算出できる。その他、容量可変キャパシタ131に入力する素子パラメータ制御信号としての電圧と、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCとの関係が分かっている場合には、当該関係を用いて、容量可変キャパシタ131に入力した電圧から、素子パラメータとしてのキャパシタンスCを算出してもよい。
【0116】
発振周波数(f−f
B)のキャパシタンスCとしての関数として表現される電子スピン共鳴スペクトルは、
図12に示すように、
図8における数値解析結果と類似したスペクトルとなっていることが分かる。すなわち、
図12に示す電子スピン共鳴スペクトルにおいて、キャパシタンスCが(電子スピン共鳴発生キャパシタンスC
0(後述)よりも)小さいときに極大値が現れ、(電子スピン共鳴発生キャパシタンスC
0よりも)大きいときに極小値が現れている。
図12は、発振周波数のキャパシタンスとしての関数として表現される電子スピン共鳴スペクトルの一例を示す図である。
【0117】
上記のステップS1〜S8(または、
図9BのステップS1’〜S9’)を実行することにより、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルは、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数と、発振回路形成部13の素子パラメータ(キャパシタンスC)とを関連づけることにより取得される。すなわち、電子スピン共鳴スペクトルは、発振周波数の素子パラメータ(キャパシタンスC)としての関数として取得される。
【0118】
これにより、電子スピン共鳴測定装置100において、電子スピン共鳴により影響される測定信号の測定感度を高めることなく、電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。なぜなら、
図12に示す差f−f
Bは、数百kHzオーダーの大きさを有しており、このように大きな発振周波数変化は、一般的な周波数カウンターを発振周波数計数部7として使用しても、正確に計数できるからである。
【0119】
上記のステップS1〜S8(または、ステップS1’〜S9’)を実行することにより電子スピン共鳴スペクトルを取得後、測定対象物Mの同定及び/又は定量を行う(ステップS9、又は、ステップS10’)。具体的には、
図9Cに示すフローチャートに従って、測定対象物Mの同定及び/又は定量を行う。
図9Cは、測定対象物の同定及び/又は定量方法を示すフローチャートである。
【0120】
測定対象物Mの同定及び/又は定量を開始すると、まず、同定部97が、電子スピン共鳴角周波数νを算出する(ステップS91)。具体的には、
図11に示すように、電子スピン共鳴スペクトル(発振周波数fの実測値)とバックグラウンド関数との交点を算出し、当該交点における発振周波数を電子スピン共鳴角周波数νとする。
【0121】
また、
図12に示すように、発振周波数fの実測値とバックグラウンド周波数f
Bとの差分により電子スピン共鳴スペクトルが表現されているときには、関数f=f
B(又は、関数f−f
B=0)がバックグラウンド関数となる。
例えば、発振周波数fの実測値とバックグラウンド周波数f
Bとの差分により電子スピン共鳴スペクトルが表現されているときには、まず、電子スピン共鳴スペクトルとバックグラウンド関数の交点におけるキャパシタンスC
0(電子スピン共鳴発生キャパシタンスC
0と呼ぶことにする)を算出し、その後、電子スピン共鳴発生キャパシタンスC
0におけるバックグラウンド周波数f
Bをバックグラウンド関数から算出することにより、当該算出されたバックグラウンド周波数f
Bを電子スピン共鳴角周波数νとして算出できる。
【0122】
電子スピン共鳴角周波数νを算出後、同定部97は、測定対象物Mのg値と、必要に応じて電子スピン共鳴スペクトルの振幅を算出する(ステップS92)。
測定対象物Mのg値は、上記に説明した電子スピン共鳴が発生する条件を表す式hν=gβH
1より算出できる。一方、電子スピン共鳴スペクトルの振幅は、バックグラウンド関数から電子スピン共鳴スペクトルの極大値及び/又は極小値までの高さ(差分)から算出できる。または、電子スピン共鳴スペクトルの極大値と極小値との高さ(差分)を2で除算して電子スピン共鳴スペクトルの振幅を算出してもよい。
【0123】
測定対象物Mのg値及び/又は電子スピン共鳴スペクトルの振幅を算出後、同定部97は、上記のg値から測定対象物Mの同定を行う。また、電子スピン共鳴スペクトルの振幅から、測定対象物M中の不対電子数の定量を行う(ステップS93)。
【0124】
上記のステップS91〜S93を実行することにより、取得した電子スピン共鳴スペクトルから、測定対象物Mの同定及び不対電子数の定量を行える。すなわち、取得した電子スピン共鳴スペクトルから、測定対象物Mの反応性や磁性特性などの特性を知ることができる。
【0125】
上記においては、発振周波数fとバックグラウンド周波数f
Bとの差f−f
BのキャパシタンスCに対する関数を電子スピン共鳴スペクトルとしていたが、これに限られない。例えば、(測定対象物Mの設置時の)発振周波数fと、(f
B/f)
2−1との関係を電子スピン共鳴スペクトルとしてもよい。上記にて説明したχ
r=(f
n/f
r)
2−1の式から、(f
B/f)
2−1の発振周波数fに対する関数は、磁化率χ
rの発振周波数fの関数であるといえる。
【0126】
従来の電子スピン共鳴スペクトル測定においては、磁化率の周波数に対する関数を電子スピン共鳴スペクトルとしていた場合が多かったため、磁化率χ
r、すなわち、(f
B/f)
2−1の発振周波数fに対する関数を電子スピン共鳴スペクトルとすることにより、電子スピン共鳴測定装置100のユーザは、電子スピン共鳴スペクトルの解析を行いやすくなる。
【0127】
また、上記の電子スピン共鳴測定装置100においては、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを実際に測定することは困難であるため、バックグラウンド周波数f
Bからの算出値を用いている。上記のように、実際に測定可能な発振周波数fを関数としたパラメータを用いて電子スピン共鳴スペクトルを生成することにより、測定困難なパラメータ(本実施形態においては、例えば、キャパシタンスC)を測定することなく、電子スピン共鳴スペクトルを生成できる。また、電子スピン共鳴スペクトルを生成するために必要となる実測データに対する計算の回数も減少できる。
【0128】
上記の
図12に示す電子スピン共鳴スペクトルを生成した同じ実測データを用いると、
図13に示すような、磁化率χ
rを発振周波数fについての関数とした場合の電子スピン共鳴スペクトルが得られる。
図13は、磁化率と発振周波数との関係に基づいた電子スピン共鳴スペクトルの一例である。
【0129】
なお、上記においてフローチャートなどを用いて説明した電子スピン共鳴測定装置100の動作(及び、電子スピン共鳴スペクトルの取得方法)は、本発明の範囲内において、必要に応じて、処理の順番を入れ替えたり、処理自体に対して変更などを加えたりすることができる。
【0130】
(6)実施形態の効果
上記の第1実施形態の効果は、以下のように記載できる。
電子スピン共鳴測定装置100(電子スピン共鳴測定装置の一例)は、磁場印加部3(磁場印加部の一例)と、インダクタ部11(インダクタ部の一例)と、発振回路形成部13(発振回路形成部の一例)と、発振周波数計数部7(発振周波数計数部の一例)と、スペクトル取得部95(スペクトル取得部の一例)と、を備える。
磁場印加部3は、測定対象物M(測定対象物の一例)に対して第1方向に第1磁場を印加する。インダクタ部11は、測定対象物Mに対して第2方向に第2磁場を印加する。第2磁場は交流磁場である。
発振回路形成部13は、インダクタ部11と接続されて発振回路を形成する。また、発振回路形成部13は、素子パラメータを変化することにより第2磁場の周波数を変化させる。発振周波数計数部7は、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数f(発振周波数の一例)を計数する。発振回路の発振周波数fは、第2磁場の周波数に対応する。
スペクトル取得部95は、発振周波数fと素子パラメータとを関連づけて、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルを取得する。電子スピン共鳴スペクトルは、発振周波数fの素子パラメータについての関数として表現される。
【0131】
電子スピン共鳴測定装置100においては、磁場印加部3が測定対象物Mに対して第1方向に第1磁場を印加した状態にて、インダクタ部11が第2磁場を測定対象物Mに対して第2方向に印加する。このとき、発振回路形成部13の素子パラメータを変化させることにより、インダクタ部11から発生する第2磁場の周波数を変化させる。その結果、第2磁場が所定の周波数になった時に、測定対象物Mにおいて電子スピン共鳴が発生する。
【0132】
測定対象物Mに第1磁場と第2磁場とが印加された状態にて、発振周波数計数部7が、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数fを計数する。このとき、発振回路の発振周波数fは、第2磁場の周波数に対応している。その後、スペクトル取得部95が、計数した発振周波数fと素子パラメータとを関連づけて、電子スピン共鳴スペクトルを取得する。
【0133】
電子スピン共鳴測定装置100においては、発振回路形成部13の素子パラメータを変化することにより、測定対象物Mに印加する第2磁場の周波数を変化している。これにより、高周波信号についての高度な知識を必要とすることなく、測定対象物Mに対して周波数を変化した第2磁場を印加できる。その結果、電子スピン共鳴の測定が簡単になる。
【0134】
また、電子スピン共鳴測定装置100においては、スペクトル取得部95が、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数fの、発振回路形成部13の素子パラメータについての関数として電子スピン共鳴スペクトルを取得している。これにより、電子スピン共鳴により影響される測定信号(発振周波数f)の測定感度を高めることなく、電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。すなわち、電子スピン共鳴測定装置100においては、測定信号の測定感度を高める装置などが不要となる。その結果、電子スピン共鳴測定装置100の構造を単純化できる。
【0135】
電子スピン共鳴測定装置100において、発振回路形成部13は容量可変キャパシタ131(容量可変キャパシタの一例)を含んでいる。このとき、素子パラメータは容量可変キャパシタ131のキャパシタンスC(キャパシタンスの一例)である。これにより、容量可変キャパシタ131とインダクタ部11とによりLC発振回路を形成できる。そして、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを変更して第2磁場の周波数を変化できる。
【0136】
電子スピン共鳴測定装置100において、発振回路形成部13は可変抵抗131’(可変抵抗の一例)を含んでいてもよい。このとき、素子パラメータは可変抵抗の抵抗値である。これにより、可変抵抗131’とインダクタ部11とによりLR発振回路を形成できる。その結果、可変抵抗131’の抵抗値を変更して第2磁場の周波数を変化できる。
【0137】
電子スピン共鳴測定装置100において、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路は電圧制御発振器である。このとき、素子パラメータは電圧である。これにより、電圧を素子パラメータ制御信号(制御信号の一例)として第2磁場の周波数を変化できる。
【0138】
電子スピン共鳴測定装置100において、第1磁場は所定の強度を有する直流磁場である。これにより、電子スピン共鳴測定装置100においては、磁場の強度を変更するために大規模な電磁石などが不要となる。その結果、電子スピン共鳴測定装置100を小規模化できる。
【0139】
電子スピン共鳴測定装置100において、インダクタ部11と発振回路形成部13とは、同一の半導体装置1(半導体装置の一例)上に形成されている。これにより、電子スピン共鳴測定装置100を小規模化できる。
【0140】
半導体装置1は、測定対象物Mに対して第1方向に第1磁場を印加し第2方向に交流磁場である第2磁場を印加することにより、測定対象物Mにおいて発生する電子スピン共鳴のスペクトルである電子スピン共鳴スペクトルを測定する電子スピン共鳴測定装置100に用いられる半導体装置である。半導体装置1は、インダクタ部11と発振回路形成部13とを備える。
インダクタ部11は、第2磁場を発生する。発振回路形成部13は、インダクタ部11と接続されて発振回路を形成する。また、発振回路形成部13は、素子パラメータを変化することにより第2磁場の周波数を変化させる。
また、半導体装置1においては、電子スピン共鳴スペクトルは、第2磁場の周波数に対応する発振回路の発振周波数fの素子パラメータについての関数として表現される。
【0141】
発振回路形成部13は、キャパシタンスC(キャパシタンスの一例)が印加する電圧により調整可能なバラクタを含んでいてもよい。これにより、電圧により簡単に発振回路の発振周波数を変更できる。
【0142】
電子スピン共鳴の測定方法は、電子スピン共鳴測定装置100における電子スピン共鳴の測定方法である。電子スピン共鳴測定装置100は、インダクタ部11と発振回路形成部13とを備える。インダクタ部11は、交流磁場である第2磁場を発生する。発振回路形成部13は、インダクタ部11と接続されて発振回路を形成する。また、発振回路形成部13は、素子パラメータを変化することにより第2磁場の周波数を変化させる。
【0143】
電子スピン共鳴の測定方法は、以下のステップを含む。
◎測定対象物に対して第1方向に第1磁場を印加するステップ。
◎素子パラメータを所定の範囲にて変化させながら第2磁場を測定対象物に対して第2方向に印加するステップ。
◎素子パラメータの各値における発振回路の発振周波数を計数するステップ。
◎発振周波数と素子パラメータとを関連づけて、電子スピン共鳴スペクトルを取得するステップ。
【0144】
電子スピン共鳴の測定方法においては、発振回路形成部13の素子パラメータを所定の範囲にて変化させながら第2磁場を測定対象物に印加している。これにより、高周波信号についての高度な知識を必要とすることなく、測定対象物Mに対して周波数を変化した第2磁場を印加できる。その結果、電子スピン共鳴の測定が簡単になる。
【0145】
また、電子スピン共鳴の測定方法においては、電子スピン共鳴スペクトルは、インダクタ部11と発振回路形成部13とにより形成される発振回路の発振周波数fと、発振回路形成部13の素子パラメータとを関連づけることにより取得される。すなわち、電子スピン共鳴スペクトルは、発振周波数fの素子パラメータとしての関数として取得される。
これにより、電子スピン共鳴測定装置100において、電子スピン共鳴により影響される測定信号の測定感度を高めることなく、電子スピン共鳴スペクトルを取得できる。
【0146】
電子スピン共鳴の測定方法は、第2磁場が測定対象物に印加されていないときの発振回路の発振周波数と素子パラメータとの関係を表現するバックグラウンド関数を取得するステップをさらに含んでいる。
これにより、測定対象物Mの電子スピン共鳴による影響を受けない場合の発振回路の発振周波数の素子パラメータとしての関数(バックグラウンド関数)を取得できる。
【0147】
電子スピン共鳴の測定方法は、電子スピン共鳴スペクトルとバックグラウンド関数との交点を算出して測定対象物の電子スピン共鳴角周波数ν(電子スピン共鳴角周波数の一例)を算出するステップをさらに含んでいる。これにより、比較的簡単な方法により電子スピン共鳴角周波数νを取得できる。
【0148】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(A)測定対象物についての他の実施形態
上記の第1実施形態においては、電子スピン共鳴スペクトルを測定する測定対象物Mは1種類であった。しかし、これに限られない。例えば、測定対象物Mに加えて、g値が既知である参照用試料をインダクタ部11が形成された半導体装置1の主面上に配置して、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルと、上記の参照用試料の電子スピン共鳴スペクトルとを同時に測定してもよい。
【0149】
このとき、発振周波数の素子パラメータの関数として得られるデータ(電子スピン共鳴スペクトル)には、測定対象物Mの電子スピン共鳴スペクトルと参照用試料の電子スピン共鳴スペクトルとが含まれる。従って、上記の2つの電子スピン共鳴スペクトルが含まれたデータからは、測定対象物Mの電子スピン共鳴角周波数ν
1と、参照用試料の電子スピン共鳴角周波数ν
2とが算出できる。
【0150】
上記のように2つの電子スピン共鳴角周波数が算出されている際、測定対象物Mの電子スピン共鳴の発生条件はg
sampleβH
1=hν
1(g
sample:測定対象物Mのg値)と表現され、参照用試料の電子スピン共鳴の発生条件はg
refβH
1=hν
2(gref:参照用試料のg値)と表現される。従って、上記2つの式から、さらに、hν
1/g
sample=hν
2/g
refという式が導かれる。その結果、g
sample=g
ref×(ν
1/ν
2)との式がさらに導かれる。
【0151】
参照用試料のg値(g
ref)は既知であるため、測定対象物Mの電子スピン共鳴角周波数ν
1と参照用試料の電子スピン共鳴角周波数ν
2とを算出するだけで、上記のg
sample=g
ref×(ν
1/ν
2)との式を用いて測定対象物Mのg値(g
sample)を算出できる。すなわち、第1磁場の磁界強度H
1が不明であっても、測定対象物Mのg値を正確に算出できる。
【0152】
(B)容量可変キャパシタについての他の実施形態
上記の第1実施形態においては、
図5Aに示した発振回路形成部13に用いられる容量可変キャパシタ131はバラクタであった。しかし、これに限られず、上記の容量可変キャパシタ131は、デジタル制御キャパシタであってもよい。この場合、制御部9からのデジタル信号をアナログ変換することなく、容量可変キャパシタ131のキャパシタンスCを変化できる。
【0153】
(C)発振回路の発振周波数の測定方法についての他の実施形態
上記の第1実施形態においては、発振周波数計数部7により発振回路の発振周波数をそのまま測定していた。しかし、これに限られず、より高感度な測定方法を用いて発振周波数を測定してもよい。
例えば、
図14に示すように、発振周波数計数部7が、固定周波数信号発生部71と、ミキサ部72と、周波数電圧変換部73と、ロックインアンプ74と、信号変換部75と、を有するように構成してもよい。
図14は、他の実施形態の発振周波数計数部の構成を示す図である。
【0154】
固定周波数信号発生部71は、固定の周波数f
LOを有する固定周波数信号を発生する。ミキサ部72は、発振回路形成部13とインダクタ部11とにより形成される発振回路の発振周波数(f
OSC)を有する発振波と、固定周波数信号発生部71からの固定周波数信号とをミキシング(乗算)して、周波数f
OSC−f
LOを有するダウンコンバートされた信号を発生する。
【0155】
周波数電圧変換部73は、ダウンコンバートされた信号の周波数の変化量を電圧信号の変化量に変換し、周波数変換電圧信号を出力する。従って、周波数電圧変換部73は、例えば、PLL回路(Phase Locked Loop回路、位相同期回路)である。
【0156】
ロックインアンプ74は、内部にて生成した参照信号(周波数:f
ref)を素子パラメータ調整部5に出力する。これにより、素子パラメータ調整部5は、入力した参照信号を変調信号として用いて、素子パラメータ制御信号を変調し出力する。
その結果、発振回路形成部13の素子パラメータは、ロックインアンプ74内部にて生成した参照信号に同期して変化する。また、これにより、発振回路の発振周波数(周波数変換電圧信号)には、参照信号に同期して変化する成分が含まれる。
【0157】
また、ロックインアンプ74は、周波数変換電圧信号に含まれる信号のうち、ロックインアンプ74の内部にて発生する参照信号の周波数f
refと同一の周波数にて変化する信号成分を増幅して抽出する(位相敏感検出)。これにより、ロックインアンプ74は、発振回路の発振周波数に含まれる、上記の参照信号に同期して変化する成分を抽出できる。
【0158】
信号変換部75は、ロックインアンプ74から出力されるアナログ信号(発振回路の発振周波数に含まれる、参照信号に同期して変化する成分に対応)をデジタル信号に変換して、制御部9へ送信する。従って、信号変換部75は、例えば、A/D変換器(アナログ−デジタル変換器)である。
【0159】
発振周波数計数部7が上記の構成を有することにより、素子パラメータ制御信号をロックインアンプ74から出力される参照信号により変調し、参照信号に同期して素子パラメータを変化できる。
また、素子パラメータを参照信号により変化させることにより、発振回路の発振周波数に参照信号に同期して変化する成分を含ませることができる。さらに、ロックインアンプ74が、発振回路の発振周波数に含まれる参照信号に同期して変化する成分を抽出することにより、発振周波数に含まれるノイズ成分による影響を極力減少して、発振周波数をより高感度に計数できる。
【0160】
(D)半導体装置についての他の実施形態
上記の第1実施形態においては、半導体装置1は、インダクタ部11と発振回路形成部13とを、それぞれ、1つだけ有していた。しかし、インダクタ部11と発振回路形成部13の個数は1つに限られない。
例えば、複数のインダクタ部11と発振回路形成部13とを半導体装置1に集積化して形成してもよい。この場合、1つのインダクタ部11と対応する発振回路形成部13との組により形成される複数の発振回路のそれぞれにおいて異なる発振周波数にて発振するよう、素子パラメータ制御信号を発振回路形成部13毎に異ならせてもよい。
【0161】
複数のインダクタ部11と発振回路形成部13とを集積化した半導体装置1において、発振回路形成部13毎に素子パラメータ制御信号を異ならせることにより、電子スピン共鳴スペクトルを生成するためのデータを取得するために、素子パラメータ制御信号を所定の範囲内にて走査する必要がなくなる。あるいは、それぞれの素子パラメータ制御信号の走査範囲を狭くできる。すなわち、データ取得時間を大幅に短縮できる。
【0162】
その結果、例えば、一般的に不安定と言われているラジカル(ラジカルは、化学反応過程において一瞬だけ現れるため)を捉える確率を大幅に増加できる。または、化学反応過程におけるラジカルの経時変化(ラジカル数の経時変化、及び/又は、ラジカルの種類の経時変化)を正確に測定できる。