(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビードコア及び前記ビードコアの外周側に設けられたビードフィラを含む左右一対のビードと、前記一対のビード間に架け渡されたカーカスプライと、前記カーカスプライの内周側に配置されたインナーライナとを有する空気入りタイヤにおいて、
前記インナーライナは、タイヤ子午線方向に耐気体透過性ゴム部と複合体部に区画され、前記耐気体透過性ゴム部がトレッド部に設けられたトレッドゴムより気体透過性が低い耐気体透過性ゴムからなり、前記複合体部が不織布に前記耐気体透過性ゴムを被覆してなり、
前記トレッド部における前記カーカスプライの外周側にコードを配列したベルトを備え、
前記ベルトの内周側に前記耐気体透過性ゴム部が配置され、前記ベルトの幅方向端部から前記ビードにわたって前記複合体部が配置されている空気入りタイヤ。
前記インナーライナは、前記耐気体透過性ゴムからなる耐気体透過性ゴムシートの端部と前記不織布に前記耐気体透過性ゴムを被覆した複合シートの端部とを重ね合わせて、前記耐気体透過性ゴム部と前記複合体部が形成され、
タイヤ幅方向における前記耐気体透過性ゴムシートと前記複合シートと重ね合わせ部分の長さが、前記耐気体透過性ゴム部のタイヤ幅方向の長さの10%以上20%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
前記カーカスプライは、前記ビードコアの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられ、前記ビードのタイヤ幅方向内側に配置されたプライ巻き上げ部を備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す実施形態の空気入りタイヤTは、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、接地面を構成するトレッド部1と、左右一対のビード部3と、トレッド部1とビード部3との間に介在する左右一対のサイドウォール部2とを備えてなる。
【0012】
ビード部3には、環状のビードコア31と、該ビードコア31の外周面に接合一体化されたビードフィラ32とからなるビード30が埋設されている。従って、ビード30は、タイヤTにおいて左右一対に設けられている。ビードコア31は、ビードワイヤを束ねて環状に形成したものである。ビードフィラ32は、ビードコア31よりタイヤ径方向外方に延びる硬質ゴムからなり、先端側ほど幅狭の断面略三角形状をなしている。
【0013】
タイヤTには、一対のビード30間に架け渡されたカーカスプライ4が埋設されている。カーカスプライ4は、トレッド部1から両側のサイドウォール部2を経て、ビード部3に至り、その両端部がビードコア31で巻き上げられて係止されている。そのため、カーカスプライ4は、一対のビードコア31間に跨るトロイド状の本体部41と、本体部41の両側においてビードコア31の周りに巻き上げられたプライ巻き上げ部42とを備える。カーカスプライ4は、補強材としてのカーカスコードを所定の打ち込み本数で平行配列しトッピングゴムで被覆してなり、カーカスコードがタイヤ周方向に対して実質上直角になるように配設され、この例では1枚のプライからなる単層構造をなしている。カーカスコードには、スチールなどの金属コードや、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好適に使用される。
【0014】
カーカスプライ4は、
図2に示すように、その両端部がビード部3において、ビードフィラ32のタイヤ外面側を通ってビードコア31の周りをタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げられ、即ちターンアップされている。このようにして巻き上げられたプライ巻き上げ部42は、ビードコア31及びビードフィラ32からなるビード30のタイヤ幅方向内側において、タイヤ径方向外方に延びている。この例では、プライ巻き上げ部42の先端(タイヤ径方向外端)43は、ビードコア31のタイヤ径方向外端(ビードコア31の外周面)31Aを越えてビードフィラ32に至るまで延在しており、ビードフィラ32のタイヤ径方向外端32Aよりもタイヤ径方向内側で終端している。
【0015】
トレッド部1におけるカーカスプライ4の外周側には、ベルト11が配されている。ベルト11は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して一定角度で傾斜させてなる1枚又は複数枚のベルト層からなり、この例では、タイヤ径方向内側に配置された第1ベルト11Aと、その外周側にハイされた第2ベルト11Bとの2層構造であり、第1ベルト11Aが最も幅の広い最大幅ベルトをなしている。
【0016】
ベルト11の外周側には、有機繊維コードを螺旋状に巻回してなるベルト補強層12を介してトレッドゴム13が設けられている。また、サイドウォール部2におけるカーカスプライ4のタイヤ外面側にはサイドウォールゴム21が設けられている。
【0017】
ビード部3には、ラバーチェーハー6が設けられている。ラバーチェーハー6は、リム組時においてビード部3がリムと接触する部位を被覆しており、具体的には、ビードコア31の周りにおいて、ビード30のタイヤ幅方向外側及びタイヤ径方向内側に位置するカーカスプライ4を被覆するように配置されている。
【0018】
カーカスプライ4の内側には、カーカスプライ4のプライコードを被覆するトッピングゴムやトレッド部1に設けられたトレッドゴム13より気体が透過しにくい耐気体透過性ゴム(例えば、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムなど)を含んで構成され、タイヤの空気圧を保持する空気透過抑制層として機能するインナーライナ5がタイヤ内面の全体にわたって設けられている。
【0019】
インナーライナ5は、耐気体透過性ゴムをシート状に成形した耐気体透過性ゴムシートの端部と、不織布に耐気体透過性ゴムを被覆した複合体シートの端部を重ね合わせて接合したシート状のゴム部材で構成されている。これにより、インナーライナ5は、タイヤ子午線方向Cに耐気体透過性ゴムシートからなる耐気体透過性ゴム部51と、複合シートからなる複合体部52と、耐気体透過性ゴムシートと複合体シートとを重ね合わせてなる重ね合わせ部53とに区画されている。
【0020】
インナーライナ5の複合体部52を構成する複合体シートに用いられる不織布の材質は、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維、脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維)、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリビニルアルコール系繊維、炭素繊維などの有機繊維、金属繊維、ガラス繊維などの無機繊維等が挙げられ、短繊維でも長繊維でもよい。好ましくは、軽量化の観点から有機繊維である。
【0021】
また、不織布の製造方法は特に限定されず、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、エアレイド法などによりウェブを形成する方法が挙げられる。また、ウェブの繊維結合方法として、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法などが挙げられる。
【0022】
複合体シートは、未加硫段階での5%伸張時応力が5.0MPa以上であることが好ましい。5%伸張時応力が5.0MPa以上であることにより、操縦安定性の向上効果を高めることができる。5%伸張時応力は、より好ましくは7.0MPa以上である。5%伸張時応力の上限は特に限定されないが、通常は10.0MPa以下である。
【0023】
複合体シートの目付(単位面積当たりの質量)は、50〜300g/m
2であることが好ましい。目付が50g/m
2以上であることにより、5%伸張時応力の低下を抑えることができる。また、300g/m
2以下であることにより、タイヤ質量への影響を抑えることができる。なお、不織布自体の目付(ゴム材料を塗布する前の不織布の目付)は、例えば10〜100g/m
2でもよく、20〜60g/m
2でもよい。また、ゴム組成物の単位面積当たりの付着量は、例えば10〜300g/m
2でもよく、15〜250g/m
2でもよい。
【0024】
複合体シートの厚みは、例えば0.6〜2.2mmであることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.8mmである。
【0025】
この例では、耐気体透過性ゴム部51は、ベルト11の内周側に配置されており、ベルト11の幅方向端部(最大幅ベルト11Aの幅方向端部)11A1より幅方向内側に位置している。
【0026】
複合体部52は、最大幅ベルト11Aの幅方向端部11A1の内周側からサイドウォール部2及びビード部3にわたって配置されている。つまり、複合体部52のタイヤ径方向外端52Aは、最大幅ベルト11Aの幅方向端部11A1よりタイヤ幅方向内側に位置する。また、複合体部52のタイヤ径方向内端52Bは、例えば、カーカスプライ4のプライ巻き上げ部42よりタイヤ径方向内方に位置することが好ましく、ビードコア31のタイヤ幅方向内側、つまり、ビードコア31のタイヤ径方向外端31Aよりタイヤ径方向内方であってビードコア31のタイヤ径方向内端(ビードコア31の内周面)31Bよりタイヤ径方向外方に位置することがより好ましい。
【0027】
重ね合わせ部53は、耐気体透過性ゴム部51と複合体部52との境界部分をなしているため、最大幅ベルト11Aの幅方向端部11A1よりタイヤ幅方向内側に位置する。この例は、耐気体透過性ゴムシートが複合体シートよりタイヤ内周側に位置するように2種類のシートが積層されている。重ね合わせ部53のタイヤ幅方向の長さLは、耐気体透過性ゴム部51のタイヤ幅方向の長さMの10%以上20%以下であることが好ましい。
【0028】
重ね合わせ部53のタイヤ幅方向の長さLが、耐気体透過性ゴム部51のタイヤ幅方向の長さMの10%以上であることにより、耐気体透過性ゴムシートが複合体シートとの接合部分から気体が透過しにくくなる。また、重ね合わせ部53のタイヤ幅方向の長さLが、耐気体透過性ゴム部51のタイヤ幅方向の長さMの20%以下であることにより、過度な重ね合わせによる重量の増加を抑えることができる。
【0029】
なお、本実施形態における上記各寸法値は、タイヤを正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷の正規状態でのものである。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim"、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" とする。また、正規内圧とは、該規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
【0030】
以上の構成を持つ本実施形態によれば、インナーライナ5の一部を構成する複合体部52が、気体が透過しにくい耐気体透過性ゴムで不織布を被覆してなるため、耐気体透過性ゴムがタイヤの空気圧を保持する空気透過抑制層として機能するとともに、不織布が補強層として機能してタイヤの操縦安定性及び耐久性を向上させることができる。そのため、タイヤ重量の増加に伴う燃費性能の悪化を抑えつつ、タイヤの操縦安定性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態では、不織布を含む複合体部52が、トレッド部1のベルト11の幅方向端部からサイドウォール部2を経てビード部3まで設けられているため、トレッド部1に比べて剛性を確保しにくいサイドウォール部2及びビード部3の剛性を高めることができ、タイヤの耐久性や操縦安定性を向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態では、カーカスプライ4をビード部3においてタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げる構造としたことにより、カーカスプライ4にかかる張力分布が変化し、特にトレッド部1のタイヤ幅方向両端部のショルダー領域からタイヤの最大幅位置にかけての張力が高まり高剛性となる。そのため、空気入りタイヤTの操縦安定性を向上することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、カーカスプライ4をビード部3においてタイヤ幅方向Xの外側から内側へ巻き上げるとともに、インナーライナ5をビード30及びカーカスプライ4のプライ巻き上げ部42のタイヤ幅方向内側に配置する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、カーカスプライ4をビード部3においてタイヤ幅方向Xの内側から外側へ巻き上げたり、あるいは、インナーライナ5をビード30とカーカスプライ4の間に配置してもよい。
【0034】
以上、本実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1及び比較例1、2の空気入りラジアルタイヤ(195/65R15)を試作した。これらの各試作タイヤは、インナーライナ5の構成について表1に示す諸元を変更して作製したものであり、インナーライナ5以外の構成は、全て共通の構成とした。
【0037】
具体的には、実施例は、インナーライナ5が耐気体透過性ゴム部51と複合体部52と重ね合わせ部53とからなる
図1に示す断面形状を持つタイヤであり、最大幅ベルト11Aの幅方向端部11A1の内周側からビードコア31のタイヤ径方向外端(ビードコア31の外周面)31Aまでの領域に複合体部52を配設し、重ね合わせ部53のタイヤ幅方向の長さLを25mmとした。
【0038】
比較例1は、インナーライナ5が耐気体透過性ゴム部51のみからなる従来のタイヤである。
【0039】
比較例2は、インナーライナ5がタイヤ子午線方向C全体にわたって耐気体透過性ゴム部51が設けられるとともに、実施例において複合体部52が配設された位置における耐気体透過性ゴム部51とカーカスプライ4との間に複合体部52が配設されたタイヤである。実施例及び比較例2のインナーライナ5に設けられた複合体部52は、いずれも厚みが1.2mm、目付が240g/m
2の複合シートから構成されている。
【0040】
得られた各タイヤについて、耐久性と操縦安定性と耐空気透過性とタイヤ重量を測定評価した。結果を表1,2に示す。各測定評価方法は以下の通りである。
【0041】
(1)耐久性
米国自動車安全基準FMVSS139に耐久試験として定める条件に準拠して、表面が平滑な鋼製で直径1700mmのドラム試験機を用いて行った。タイヤ内圧は220kPa、速度は120km/h、荷重はJATMA規定の最大荷重を基準負荷とし、負荷85%を4時間、負荷90%を6時間、負荷100%を24時間、さらに空気圧を160kPaに落とし、負荷100%で1.5時間走行させた。その後、速度を81km/h、内圧220kPa、負荷120%で6時間走行させた。その後、負荷を140%とし、テストタイヤに故障が発生するまで走行させた。故障が発生するまでの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。数字が大きいほど故障が発生するまでの距離が長く、耐久性に優れることを示す。
【0042】
(2)操縦安定性
内圧220kPaで組み込んだテストタイヤを排気量2000ccの国産セダンに装着し、訓練された3名のテストドライバーが、テストコースを走行し、官能評価した。採点は10段階評価で、比較例1のタイヤを6点とした相対比較にて行い、3人の平均点を比較例1のタイヤを100とした指数で表示した。数字大きいほど操縦安定性が良好である。
【0043】
(3)耐気体透過性
標準内圧をかけたタイヤを温度管理された部屋に1ヶ月間放置して、その後の内圧を測定し、当初の内圧に対する比率(エアー保持率)が97%以上で有れば「○」、97%未満であれば「×」と評価した。
【0044】
(4)タイヤ重量
得られたタイヤの重量を測定し、サイド補強層を設けていない従来例1のタイヤ重量を100とした指数で表示した。数字が小さいほど軽量であることを示す。
【0045】
【表1】
【0046】
結果は、表1に示すとおりであり、実施例では、比較例1と同程度の耐空気透過性を確保しつつ、比較例1に比べて耐久性や操縦安定性が向上していた。また、重量増加についても、従来例2に対して改善されていた。