(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362997
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】乗客コンベアのリニューアル方法
(51)【国際特許分類】
B66B 23/00 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
B66B23/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-220960(P2014-220960)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-88631(P2016-88631A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】三村 一美
(72)【発明者】
【氏名】宇津宮 博文
【審査官】
須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−316346(JP,A)
【文献】
特開平04−179691(JP,A)
【文献】
特開2014−105108(JP,A)
【文献】
特開2000−211868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の一方の床と他方の床との間に懸架されるフレームと、前記フレームの長手方向の両終端部に設けられたフレーム側受梁とを有し、前記一方の床と前記他方の床とのそれぞれに設けられた建築受梁材に前記フレーム側受梁が載置される乗客コンベアのリニューアル方法において、
前記フレーム側受梁はL字型であり、前記フレーム側受梁は垂直となるL字の一方を前記フレームに固定されており、
前記フレーム側受梁に、L字の他方の先端に延長プレートを継ぐことで、前記フレーム側受梁を前記フレームの長手方向に、その継がれた延長プレートの上面の高さを前記フレームの高さでリニューアル前と同一に保って延長するとともに、前記一方の床と前記他方の床とのうち、前記延長部材を設けた側の床をその深さを同一に保って削り、前記延長部材を設けた前記フレーム側受梁を載置するスペースを確保したことを特徴とする乗客コンベアのリニューアル方法。
【請求項2】
前記延長部材は、前記フレーム側受梁における前記フレームの短手方向の一部に取付けられることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアのリニューアル方法。
【請求項3】
前記延長部材を設けた側の床において、前記フレームの短手方向の一部の領域を削ることを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベアのリニューアル方法。
【請求項4】
前記延長部材が延長プレートであり、前記延長プレートが前記フレーム側受梁に溶着されることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアのリニューアル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震性の向上を図った乗客コンベアのリニューアル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアにあっては、一般に、フレーム終端部と建築受梁材とのフレーム長手方向の隙間寸法は、フレームがその長手方向に移動したときに、受梁に衝突してこれを破壊したり、この衝突によりフレーム自身が反対方向の反力を受けて圧縮変形を生じることを防止するために、地震動等の大きさ、その大きさに伴う免震階の変位や上下階床間の想定層間変位角を考慮した許容移動値に、あらかじめ設定してある。一方、フレーム端部に設けられるフレーム側受梁と建築受梁材との掛かり代は、従来、例えば特許文献1に示すように、前述したフレーム終端部と建築受梁材との長手方向の隙間寸法の2倍以上を有するように設定してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−158585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、先般の大地震を契機に乗客コンベアの耐震性の重要性が認識され、既設乗客コンベアにおけるフレーム側受梁と建築受梁材との掛かり代を延長し、耐震性の向上を図るリニューアルが求められることがある。しかしながら、従来、既設乗客コンベアにおけるフレーム側受梁と建築受梁材との掛かり代を延長する方法については特に考慮されておらず、乗客コンベア全体のリニューアル時に、フレーム側受梁と建築受梁材との掛かり代を延長した新設乗客コンベアを設置するというのが現状であり、大がかりな工事と長い工期を余儀なくされるという課題があった。
【0005】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、比較的容易にフレーム側受梁と建築受梁材との掛かり代を延長することのできる乗客コンベアのリニューアル方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、例えば、 建築構造物の一方の床と他方の床との間に懸架されるフレームと、前記フレームの長手方向の両終端部に設けられたフレーム側受梁とを有し、前記一方の床と前記他方の床とのそれぞれに設けられた建築受梁材に前記フレーム側受梁が載置される乗客コンベアのリニューアル方法において、
前記フレーム側受梁はL字型であり、前記フレーム側受梁は垂直となるL字の一方を前記フレームに固定されており、前記フレーム側受梁に、
L字の他方の先端に延長プレートを継ぐことで、前記フレーム側受梁を前記フレームの長手方向に、
その継がれた延長プレートの上面の高さを前記フレームの高さでリニューアル前と同一に保って延長す
るとともに、前記一方の床と前記他方の床とのうち、前記延長部材を設けた側の床をその深さを同一に保って削り、前記延長部材を設けた前記フレーム側受梁を載置するスペースを確保したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フレーム側受梁に、このフレーム側受梁をフレーム長手方向に延長する延長部材を取付けたことにより、比較的容易にフレーム側受梁と建築受梁材との掛かり代を延長するとともに、床を削ることで延長部材を設けたフレーム側受梁を載置するスペースを確保することで、低コストで、かつ短い工期で乗客コンベアの耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用されるエスカレーターの概略構成図である。
【
図2】延長プレートが取付けられる前のフレーム側受梁の要部断面図である。
【
図3】延長プレートが取付けられる前のフレーム側受梁の上面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態を示し、延長プレートが取付けられたフレーム側受梁の要部断面図である。
【
図5】第1の実施形態における延長プレートが取付けられたフレーム側受梁の上面図である。
【
図6】第1の実施形態における上階床の削り領域を示す要部断面図である。
【
図7】第1の実施形態における上階床の削り領域を示す上面図である。
【
図8】延長プレートをボルトにより固定した例を示す側面図である。
【
図9】延長プレートを溶着した例を示す側面図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態を示し、上階床の削り領域を示す上面図である。
【
図11】第2の実施形態における延長プレートが取付けられたフレーム側受梁の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。尚、各図および各実施例において、同一又は類似の構成要素には同じ符号を付し、説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
乗客コンベア、例えばエスカレーター1は、
図1に示すように、建築構造物の床、例えば、上階床2と下階床3との間に架設され、上階床2側に位置する上部水平部4a、下階床3側に位置する下部水平部4b、及び上部水平部4aと下部水平部4bとの間に形成される傾斜部4cを有するフレーム4(主枠体、本体枠などと呼ばれる場合もある)を備えており、上部水平部4aの終端部には、上階床2の建築受梁材2aに載置される上部フレーム側受梁5が設けられると共に、下部水平部4bの終端部には、下階床3の建築受梁材3aに載置される下部フレーム側受梁6が設けられている。
【0011】
リニューアル前の既設乗客コンベアにおける上部フレーム側受梁5は、
図2及び
図3に示すように、建築受梁材2aに載置されるものであり、上部フレーム側受梁5と建築受梁材2aとの掛かり代はW1であると共に、上部フレーム側受梁5の水平端部と上階床2端部との間には、所定の隙間寸法W2が形成されている。なお、
図2では、便宜上、上部フレーム側受梁5と建築受梁材2aとの間に介在される高さ調整用のジスピ(間隙材)を省いて記載している。
【0012】
次に、このように構成されたエスカレーター1における耐震性を向上させるためのリニューアル方法について説明する。このように構成されたエスカレーター1にあって、比較的容易にフレーム側受梁5、6と建築受梁材2a、3aとの掛かり代を延長するために第1の実施形態では工夫が施されている。具体的には、
図4及び
図5に示すように、上部フレーム側受梁5に、上部フレーム側受梁5のフレーム長手方向の長さを延長するための延長部材としてフレーム長手方向に延長される延長プレート7を取付けている。なお、第1の実施形態では、上部フレーム側受梁5側を例として説明しているが、下部フレーム側受梁6側も同様の構成としてもよい。
【0013】
第1の実施形態にあっては、
図4及び
図5に示すように、上部フレーム側受梁5に、延長部材としてこの上部トラス受梁5をフレーム長手方向に延長する延長プレート7を取付け、上部フレーム側受梁5と建築受梁材2aとの掛かり代をW1よりも長いW3とし、耐震性の向上を図っている。すなわち、従来の掛かり代は前述したようにW1であるが、これに延長プレート7のフレーム長手方向寸法であるW4が延長され、掛かり代がW3となり耐震性が向上する。このとき、
図2及び
図3に示すように、上部フレーム側受梁5の水平端部と上階床2端部との間に予め形成される隙間寸法W2では、延長プレート7を取付けた上部フレーム側受梁5を収めることができない場合、
図6及び
図7の斜線部A(削り領域)に示すように、予め上階床2を所定のフレーム長手方向寸法W5削り、延長プレート7を取付けた上部フレーム側受梁5を載置するスペースを確保(形成)する。
【0014】
延長プレート7の上部フレーム側受梁5への取付け方法であるが、
図8に示すように、上部フレーム側受梁5にボルト8により固定したり、
図9に示すように、上部フレーム側受梁5に溶接などにより溶着部9を設けて固定したりし、延長プレート7を上部フレーム側受梁5に必要強度を確保するように堅牢に固定している。
【0015】
第1の実施形態によれば、フレーム側受梁5、6に、このフレーム側受梁5、6をフレーム長手方向に延長する延長部材、例えば延長プレート7を取付けたことにより、比較的容易にフレーム側受梁5、6と建築受梁材2a、3aとの掛かり代を延長するとともに、床2を所定のフレーム長手方向寸法削ることで延長部材を設けたフレーム側受梁5、6を載置するスペースを確保することで、低コストで、かつ短い工期で乗客コンベアの耐震性を向上させることができる。
【実施例2】
【0016】
ここで、本発明に係る乗客コンベア装置の第2の実施形態を
図10及び
図11に基づき説明する。
【0017】
第2の実施形態と前述した第1の実施形態の主な相違点は、延長プレート70の取付け領域と、上階床2の削り領域(斜線部B)である。第2の実施形態では、
図10及び
図11に示すように、上部フレーム側受梁5におけるフレーム短手方向(幅方向)の一部、例えば、上部フレーム側受梁5のフレーム短手方向両端部に延長部材として延長プレート70が取付けられている。そして、
図10の斜線部Bで示す削り領域のように、上階床2の一部を削り、延長プレート70を取付けた上部フレーム側受梁5を載置するスペースを確保(形成)する。
【0018】
第2の実施形態によれば、延長部材及び上階床2の削り領域をフレーム短手方向の全体ではなく部分的に設けることで、前述した第1の実施形態に示すものより、延長プレート70を取付けるために行う上階床2の削り領域を狭くすることができ、これによって、建築構造物側の加工作業量を低減し、装置の凡庸性を高めると共に、工期の短縮を図ることができる。
【0019】
以上、本発明の実施例を説明してきたが、これまでの各実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。また、それぞれの実施例で説明した構成は、互いに矛盾しない限り、組み合わせて用いても良い。
【0020】
例えば、乗客コンベアの一例としてエスカレーターを例に説明をしたが、乗客コンベアの他の例として動く歩道に適用してもよい。また、延長部材の一例として延長プレート(例えば平鋼)を例に説明をしたが、延長部材の他の例としてL字鋼などの型鋼を用いてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 エスカレーター
2 上階床
2a 建築受梁材
3 下階床
3a 建築受梁材
4 フレーム
5 上部フレーム側受梁
6 下部フレーム側受梁
7、70 延長プレート
8 ボルト
9 溶着部