特許第6363000号(P6363000)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6363000-外科手術用リトラクター 図000002
  • 特許6363000-外科手術用リトラクター 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363000
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】外科手術用リトラクター
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20180712BHJP
   A61B 17/34 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   A61B17/02
   A61B17/34
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-227043(P2014-227043)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-87229(P2016-87229A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年11月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503047869
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤津 和三
(72)【発明者】
【氏名】石川 仁二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 隆
(72)【発明者】
【氏名】太田 守
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 敏仁
【審査官】 吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−508943(JP,A)
【文献】 特開2013−013592(JP,A)
【文献】 特開2006−204472(JP,A)
【文献】 特開2000−287915(JP,A)
【文献】 特開2000−325356(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0310230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂製の円筒管からなり、長さ方向に沿って互いに所定の間隔を存して形成され、X線造影可能な複数の目盛りを備える外科手術用リトラクターにおいて、
該目盛りはイオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層のいずれかからなり、前記イオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層は、前記円筒管の表面に形成された環状溝部に巻き付けられた帯状の金属板上に形成されていることを特徴とする外科手術用リトラクター。
【請求項2】
請求項1記載の外科手術用リトラクターにおいて、前記イオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層は、Zr、Ta又はそれらとC、N、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素との化合物からなることを特徴とする外科手術用リトラクター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の外科手術用リトラクターにおいて、脳神経外科手術用であることを特徴とする外科手術用リトラクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下脳内血腫除去術等の脳神経外科手術等の外科手術に用いられる外科手術用リトラクターに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な脳神経疾患の1つに脳内血腫がある。前記脳内血腫は出血した血液が脳内で塊となったものであり、頭蓋内圧を亢進させる。そこで、生命が危険に晒される場合には、前記脳内血腫を除去することがある。
【0003】
前記脳内血腫を除去する方法のひとつに、内視鏡下脳内血腫除去術がある。前記内視鏡下脳内血腫除去術は、まず、穿頭術により頭蓋骨に形成された直径10mm程度の孔部から脳内血腫まで円筒形のリトラクターを穿刺し、該リトラクターの内部に内視鏡及び吸引管を挿入する。そして、前記内視鏡により患部を観察しながら、前記吸引管により前記脳内血腫を吸引除去する。
【0004】
従来、前記リトラクターとして、透明樹脂からなり外面の長さ方向に沿って目盛りを付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
前記従来のリトラクターによれば、脳に穿刺する際に、外部から前記目盛りを視認することにより、脳表から該リトラクターの先端までの距離を認識することができ、目標とする深さに確実に穿刺することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−325356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来のリトラクターでは、X線照射により患部を三次元的に解析しようとするときに、前記目盛りを造影することができないので、確実な治療が困難になるという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、X線照射により患部を三次元的に解析するときに確実な治療を行うことができる外科手術用リトラクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、透明樹脂製の円筒管からなり、長さ方向に沿って互いに所定の間隔を存して形成され、X線造影可能な複数の目盛りを備える外科手術用リトラクターにおいて、該目盛りはイオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層のいずれかからなり、前記イオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層は、前記円筒管の表面に形成された環状溝部に巻き付けられた帯状の金属板上に形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の外科手術用リトラクターによれば、前記目盛りを備えることにより、体内に穿刺する際に体表から該リトラクターの先端までの距離を目視により確認することができ、目標とする深さに確実に穿刺することができる。また、前記金属層又は金属化合物層からなる目盛りはX線造影可能であるので、X線照射により患部を三次元的に解析するときに、該目盛りにより該リトラクターと患部との相互位置を容易に把握することができ、確実な治療を行うことができる。
【0012】
本発明の外科手術用リトラクターにおいて、前記イオンプレーティングにより形成された金属層又は金属化合物層としては、Zr、Ta又はそれらとC、N、Oからなる群から選択される少なくとも1種の元素との化合物からなるものを挙げることができる。
【0014】
本発明の外科手術用リトラクターは、外科手術一般に使用できるが、特に脳神経外科手術用として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の外科手術用リトラクターの構成を示す模式的斜視図。
図2】本発明の外科手術用リトラクターの製造方法を示し、(A)は第1工程、(B)は第2工程、(C)は第3工程をそれぞれ示す模式的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
まず、図1を参照して、本実施形態の外科手術用リトラクター1について説明する。
【0018】
本実施形態の外科手術用リトラクター1は、外科手術一般に使用できるが、特に脳神経外科手術に適している。そこで、以下、外科手術用リトラクター1を脳神経外科手術用リトラクター1として説明する。
【0019】
本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1は、透明樹脂製の円筒管2と、円筒管2の外周面に周方向に沿って形成された複数の帯状の金属層3とを備えている。ここで、金属層3は、円筒管2の外表面に形成された環状溝部(図示せず)に巻き付けられた帯状の金属板(図示せず)上にイオンプレーティングにより、円筒管2の長さ方向に沿って互いに所定の間隔を存して形成されて、X線造影可能な目盛り4を構成している。尚、本実施形態において、金属層3は金属又は金属化合物からなる層を意味する。
【0021】
円筒管2を構成する透明樹脂として、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂を挙げることができる。
【0022】
次に、図2を参照して、脳神経外科手術用リトラクター1の製造方法について説明する。
【0023】
脳神経外科手術用リトラクター1を製造するときには、まず、図2(A)に示すように、円筒管2の内部に金属(例えばステンレス)製の丸棒5を配置する。ここで、円筒管2の内径は丸棒5の外径よりも大きく設定されており、円筒管2と丸棒5との間には空隙Sが形成されている。
【0024】
次に、図2(B)に示すように、円筒管2を加熱することにより熱収縮させ、丸棒5に密着させる。円筒管2は、例えばPFA又はFEPからなり、熱収縮させて丸棒5に密着させることにより、円筒管2の内径を丸棒5の外径に一致させることができる。
【0025】
従って、丸棒5の外径を調整することにより、脳神経外科手術用リトラクター1の内径を容易に所望の寸法とすることができる。脳神経外科手術用リトラクター1の内径は、例えば、内視鏡と吸引管とを同時に挿入できる寸法とすることができる。
【0026】
次に、図2(C)に仮想線で示すように、円筒管2の外周面に周方向に沿って複数の金属層3を形成する。
【0027】
円筒管2の外周面に金属層3を形成するときは、まず、円筒管2の外表面に前記環状溝部を形成し、該環状溝部に前記帯状の金属板を巻き付け、金属層3を形成する部分を除いてマスキングする。次に、前記マスキングが施された円筒管2の外表面に形成された環状溝部に巻き付けられた帯状の金属板(図示せず)上にイオンプレーティングにより、金属層3を形成する。
【0028】
前記イオンプレーティングは、チャンバー内にターゲットとなる金属又は金属化合物と、前記のようにマスキングした円筒管2とを配置し、該チャンバー内の雰囲気を所定の真空度に維持した状態で、該ターゲットに電子ビームを照射してイオン化させる一方プラズマを発生させることにより行うことができる。
【0029】
前記ターゲットとなる金属としては、例えば、Zr、Ta等を挙げることができる。
【0030】
前記雰囲気としては、例えば、アルゴン等の不活性ガスに、二酸化炭素、窒素、酸素等の原料ガスを添加したものを挙げることができる。前記真空度は、例えば、10−3〜10−5Paの範囲とすることが好ましい。
【0031】
前記電子ビームは、例えば、電子銃等により発生させることができる。前記電子銃の出力は、例えば、1.0〜3.0kWの範囲とすることが好ましい。
【0032】
前述のようにして形成された金属層3は、円筒管2の外周面に強固に結合しているため摩擦等により剥落することがなく、X線に対して良好な造影性を示すことができる。
【0033】
本実施形態では、前述のようにして金属層3を形成した後、前記マスキングを除去し、円筒管2から丸棒5を引き抜くことにより、図1に示す脳神経外科手術用リトラクター1を得ることができる。
【0035】
本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1は、X線造影可能な複数の目盛り4を備えているが、さらに脳に穿刺する際に先端となる部分にX線造影可能なエンドマーク(図示せず)を備えていることが好ましい。前記エンドマークは、脳神経外科手術用リトラクター1において、目盛り4と同様にして形成することができる。
【0036】
本実施形態の脳神経外科手術用リトラクター1は、例えば、内視鏡下脳内血腫除去術を行う際に、脳表から脳内血腫の位置まで穿刺され、円筒管2の内部に挿通される内視鏡及び吸引管を脳内血腫に案内する。このとき、脳神経外科手術用リトラクター1は目盛り4を備えるので、外部から目盛り4を視認することにより、脳表から脳神経外科手術用リトラクター1の先端までの距離を認識することができる。従って、脳神経外科手術用リトラクター1を脳内血腫の内部まで、確実に穿刺することができる。
【0037】
また、目盛り4はX線造影可能であるので、X線照射により前記脳内血腫を三次元的に解析するときに、目盛り4により脳神経外科手術用リトラクター1と該脳内血腫との相互位置を容易に把握することができ、確実な治療を行うことができる。目盛り4には、前記エンドマークを基点として目盛り番号を付与してもよい。
【0038】
さらに、脳神経外科手術用リトラクター1は透明樹脂製であるので、前記内視鏡を介して脳室内を観察することができ、出血の有無、脳内血腫の状態、脳内血腫の取り残しの有無等を容易に確認することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…外科手術用リトラクター、 2…円筒管、 3…金属層、 4…目盛り。
図1
図2