(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363008
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】コンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20180712BHJP
H04R 3/04 20060101ALI20180712BHJP
H04R 3/06 20060101ALI20180712BHJP
H04R 19/04 20060101ALI20180712BHJP
H03F 1/36 20060101ALI20180712BHJP
H03F 5/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
H04R3/00 320
H04R3/04 101
H04R3/06
H04R19/04
H03F1/36
H03F5/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-241573(P2014-241573)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-103765(P2016-103765A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−086895(JP,A)
【文献】
米国特許第04918394(US,A)
【文献】
特開昭52−108106(JP,A)
【文献】
特開2003−204225(JP,A)
【文献】
特開昭61−128615(JP,A)
【文献】
特開2004−221919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H03F 1/36
H03F 5/00
H04R 3/04
H04R 3/06
H04R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサマイクロホンユニットの出力信号がグリッドに入力されてプレートより信号出力されるカソード接地型の第1電子管と、
前記第1電子管のプレートからの出力信号がグリッドに入力されて少なくともカソードより信号出力される第2電子管と、
前記第2電子管のカソードから前記第1電子管のグリッドに対して帰還信号を伝送する帰還素子と、
が備えられたことを特徴とするコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路。
【請求項2】
前記帰還素子がコンデンサ素子により構成されていることを特徴とする請求項1に記載されたコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路。
【請求項3】
前記第2電子管は、プレートおよびカソードにそれぞれ負荷抵抗が接続されて互いに逆相の信号をもたらすPK分割回路を構成し、前記第2電子管のプレートおよびカソードよりコンデンサマイクロホンの平衡出力信号をそれぞれ出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路。
【請求項4】
前記第1と第2の電子管は、双三極電子管により構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載されたコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子管(真空管)を利用したコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサマイクロホンは、対向する振動板と固定極との間の静電容量の変化に基づいて音声信号が生成される。
すなわち、固定極に対向して振動板が配置されたコンデンサマイクロホンは、その静電容量が数十pF前後で、出力インピーダンスがきわめて高いために、インピーダンス変換回路を介して音声信号を取り出すように構成される。
【0003】
このコンデンサマイクロホンには、電界効果トランジスタ(FET)、あるいは電子管(真空管)によるインピーダンス変換回路が用いられる。特にスタジオ集音用のコンデンサマイクロホンには、音質を向上させるために電子管をインピーダンス変換回路に用いた製品が提供されている。
【0004】
電子管を用いたインピーダンス変換回路には、プレート接地型もしくはカソードフォロワ回路と呼ばれる電流増幅回路と、カソード接地型の電圧増幅回路が存在する。
一般にインピーダンス変換回路としてカソードフォロワ回路を用いた場合には、前記したFETを用いたコンデンサマイクロホンに近い音色を持つことが知られている。
一方、インピーダンス変換回路に前記した電圧増幅回路を用いたコンデンサマイクロホンは、カソードフォロワ回路とは異なる「真空管らしい音」と言われる独自の音色を持つ。この音色は根強い人気を得ている。
【0005】
前者のカソードフォロワ回路は、広いダイナミックレンジ(ノイズレベルから歪みが発生するレベルまでの範囲)が得られる。しかし、後者の電圧増幅回路はカソードフォロワ回路に比較して、歪みが発生する信号レベルが低いこと。そのため、電圧増幅回路をインピーダンス変換回路に用いた場合、マイクロホンとしての最大許容入力音圧レベルが低下する。したがって、コンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路として真空管の電圧増幅回路を用いて、広いダイナミックレンジが確保できることが望まれる。
【0006】
そこで、この電圧増幅回路を用いたインピーダンス変換回路においてダイナミックレンジを広げるために、負帰還をかける手段が採用し得る。すなわち、信号源が静電容量型(コンデンサ)であることから、電子管を用いた反転増幅器のプレートからグリッドにコンデンサを接続することで、プレートに生成される信号をグリッドに帰還することができる。
これはPG帰還とも呼ばれており、このPG帰還が施されたインピーダンス変換回路は、例えば特許文献1および2などに開示されている。
【0007】
図1は、PG帰還を施したインピーダンス変換回路の例を示したものである。この例においては、T1で示す電圧増幅管のプレートとグリッドとの間に、帰還素子としてコンデンサCpが接続されている。
なお
図1に示す例の回路構成は、帰還回路の構成を除いた全体構成において、後で説明するこの発明に係る実施の形態と同一である。したがって、その全体回路の詳細な説明は、
図2に基づいて後で説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3890301号公報
【特許文献2】特許第4426902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、電圧増幅器を構成する電子管T1のプレートはインピーダンスが高い。そのため、
図1に示すPG帰還回路の構成によると、前記したダイナミックレンジを広げるために帰還量を増加させようとしても、限界がある。
すなわち、たとえインピーダンスの低い帰還素子を用いて帰還量を増加させようとしても、電子管T1のプレートの出力インピーダンスに、帰還素子Cpのインピーダンスが直列接続されたことと等価になるために、十分な帰還量を得ることができない。したがって、回路設計に制限が生ずる。
この問題を解消するには、出力インピーダンスの低い信号源に、帰還素子を接続することが必要となる。
【0010】
この発明は、前記した技術的な観点に基づいてなされたものであり、十分低い出力インピーダンスとした点から初段の電圧増幅管のグリッドに対して帰還信号を加えることで、電圧増幅回路を用いながら、広いダイナミックレンジを確保することができるコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路は、コンデンサマイクロホンユニットの出力信号がグリッドに入力されてプレートより信号出力されるカソード接地型の第1電子管と、前記第1電子管のプレートからの出力信号がグリッドに入力されて少なくともカソードより信号出力される第2電子管と、前記第2電子管のカソードから前記第1電子管のグリッドに対して帰還信号を伝送する帰還素子とが備えられたことを特徴とする。
【0012】
この場合、前記帰還素子がコンデンサ素子により構成されていることが望ましい。
加えて、前記第2電子管は、プレートおよびカソードにそれぞれ負荷抵抗が接続されて互いに逆相の信号をもたらすPK分割回路を構成し、前記第2電子管のプレートおよびカソードよりコンデンサマイクロホンの平衡出力信号をそれぞれ出力する構成を好適に採用することができる。
そして、前記第1と第2の電子管は、好ましくは双三極電子管により構成される。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る前記したコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路によると、カソード接地型の第1電子管により電圧増幅回路が構成される。これにより、電子管による電圧増幅回路特有の音色を持った音声信号を得ることができる。
加えて、出力インピーダンスの低い第2電子管のカソードから、帰還素子を介して第1電子管のグリッドに対して帰還信号を伝送するように構成したので、インピーダンスの低い帰還素子を用いて帰還量を増加させることが可能となる。
これにより、電圧増幅回路を用いて広いダイナミックレンジを確保したコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】従来のPG帰還回路を用いたコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路の例を示した回路構成図である。
【
図2】この発明に係るコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路の実施例を示した回路構成図である。
【
図3】帰還回路が無い場合における周波数応答特性図である。
【
図4】従来のPG帰還回路を用いた場合の周波数応答特性図である。
【
図5】この発明に係る帰還回路を用いた場合の周波数応答特性図である。
【
図6】従来のPG帰還回路を用いた場合の入力レベルに対する全高調波歪率を示した特性図である。
【
図7】この発明に係る帰還回路を用いた場合の入力レベルに対する全高調波歪率を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路について、
図2に基づいて説明する。
符号MUは、コンデンサマイクロホンユニットを等価回路で示している。これは信号源に対してコンデンサCsが直列接続されたものとして表される。すなわち、前記コンデンサCsは、コンデンサマイクロホンユニットを構成する固定極と振動板との間の静電容量に相当し、その容量は前記したとおり数十pF前後となる。
そして、コンデンサマイクロホンユニットMUの一端は、第1電子管T1のグリッドに接続され、また他端はグランドラインとしてのコネクタの端子ピン1に接続されている。
【0016】
前記第1電子管T1のグリッドとグランドラインとの間には、グリッドリーク抵抗R1が接続されている。また第1電子管T1のプレートには抵抗R2とR3の直列回路からなる負荷抵抗が接続されている。また、この負荷抵抗R2は直流動作電源(B電源)を受けるコネクタの端子ピン5に接続されている。
さらに、第1電子管T1のカソードとグランドラインとの間には、カソード抵抗R4が接続されている。これにより第1電子管T1は、カソード接地型の電圧増幅回路を構成している。
【0017】
前記第1電子管T1のプレートには、この第1電子管T1と共に双三極電子管を構成する第2電子管T2のグリッドが直結されている。そして、第2電子管T2のプレートと前記端子ピン5との間には負荷抵抗R5が接続されており、第2電子管T2のプレートは前記負荷抵抗R5を介して前記B電源に接続される。また第2電子管T2のカソードとグランドラインとの間には負荷抵抗R6が接続されている。
前記負荷抵抗R5とR6の値は、ほぼ同一に設定される。これにより、第2電子管T2のプレートとカソードに互いに逆相でほぼ同一レベルの信号が出力される。すなわち、第2電子管T2とその周辺の部品(負荷抵抗R5とR6)は、PK分割回路を構成する。したがって、このPK分割回路によってコンデンサマイクロホンの平衡出力信号を得ることができる。
【0018】
一方、前記第2電子管T2のカソードから、第1電子管T1のグリッドに対して、コンデンサCkによる帰還素子が接続されている。これにより第1電子管T1は、グリッドに負帰還が加わった電圧増幅回路として作用する。
この場合、前記第2電子管T2のカソードは、その出力インピーダンスが低い。そのため、帰還素子としてのコンデンサCkの静電容量を適宜選択することにより、第1電子管T1による電圧増幅回路に対して十分な負帰還を加えることが可能となる。
すなわち、第2電子管T2のカソードの出力インピーダンスが十分に低いため、帰還路のインピーダンスは、ほぼコンデンサCkのみとなる。このため回路は安定に動作する。
【0019】
また、第2電子管T2のカソードから、第1電子管T1のプレート側の負荷抵抗である抵抗R2とR3の接続中点に対しても、コンデンサC1が接続されている。
このコンデンサC1は、前記抵抗R2とR3の接続中点に対して、第1電子管T1のプレートにおける信号と同位相の信号を与えている。これにより、前記第1電子管T1はブートストラップ回路を構成している。
【0020】
前記第2電子管T2のプレートとカソードには、それぞれ直流カットコンデンサC2,C3が接続されている。これらの直流カットコンデンサC2,C3を介して、トランジスタQ1,Q2のベース電極に、コンデンサマイクロホンの平衡出力信号が供給される。
このトランジスタQ1,Q2は、それぞれエミッターフォロワ回路を構成しており、各コレクタ電極はそれぞれグランドラインに接続されている。
【0021】
そして、トランジスタQ1を含む第1のエミッターフォロワ回路は、バイアス設定抵抗R7.R8を備えている。トランジスタQ1のエミッター電極は、コネクタの端子ピン2にホット側の出力端子として接続されている。
同様にトランジスタQ2を含む第2のエミッターフォロワ回路は、バイアス設定抵抗R9.R10を備えている。トランジスタQ2のエミッター電極は、コネクタの端子ピン3にコールド側の出力端子として接続されている。
【0022】
前記コネクタの端子ピン2および3には、ファントム電源もしくはミキサー回路(図示せず。)からの直流電源が供給される。前記第1と第2のエミッターフォロワ回路は、前記端子ピン2および3に与えられる直流電源によって動作する。
なお、コネクタの端子ピン4は、前記した第1および第2電子管T1,T2(双三極電子管)のヒータ電源(A電源)を受けるものとなる。
【0023】
図3〜
図7は、従来およびこの発明に係るコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路の周波数応答特性、並びに入力レベルに対する全高調波歪率について比較した特性図である。
先ず
図3は、
図1に示す回路構成において、帰還素子Cpが存在しない場合の周波数応答特性、すなわち帰還回路のない電圧増幅器の裸特性を示したものである。この
図3に示された特性によれば、低域周波数に大きな落ち込みが見られる。
【0024】
図4は、電圧増幅管T1に帰還素子Cpを備えた
図1に示す回路構成における周波数応答特性を示したものである。この例においては、PG帰還素子として作用する前記コンデンサCpとして、56pFの容量が用いられている。これはコンデンサマイクロホンユニットMUにおける静電容量Csとほぼ同一の値に設定されている。
この
図4に示された特性によれば、全体のゲインは低下するものの、
図3に示された低域の落ち込みは見られず、全体にフラットな周波数応答特性を得ることができる。
【0025】
図5は、
図2に示したこの発明に係る回路構成における周波数応答特性を示したものである。この
図5に示す例においては、帰還素子Ckとして56pFの容量が用いられている。これは前記したとおりコンデンサマイクロホンユニットMUにおける静電容量Csとほぼ同一の値に設定されている。
この
図5に示された特性によれば、全体のゲインは低下するものの、
図3に示された低域の落ち込みは見られず、全体にフラットな周波数応答特性を得ることができる。
すなわち、周波数応答特性の比較においては、
図1に示したPG帰還による従来のインピーダンス変換回路と、
図2に示したこの発明に係るインピーダンス変換回路とは、共に遜色はないものとなる。
【0026】
そこで、
図1に示した従来のインピーダンス変換回路と、
図2に示したこの発明に係るインピーダンス変換回路とにおいて、入力レベルに対する全高調波歪率を示した特性を比較したものが
図6および
図7に示されている。
すなわち、
図1に示した従来のPG帰還によるインピーダンス変換回路においては、
図6に示されているように、−7dBVを超える入力において急激に全高調波歪率が増加する。このために、マイクロホンに入力される音圧の増加に伴い、急激に音質が変化するという現象が現れる。
【0027】
これに対して
図2に示したこの発明に係るインピーダンス変換回路によると、
図7に示されているように、入力レベルの増加に伴って、全高調波歪率も除々に増加する特性を示している。
したがって、この発明に係るインピーダンス変換回路によると、マイクロホンに入力される音圧が増加しても急激な音質変化の発生を防止することができることになり、広いダイナミックレンジを有するコンデンサマイクロホンのインピーダンス変換回路を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
MU コンデンサマイクロホンユニット
T1 第1電子管
T2 第2電子管
Q1,Q2 トランジスタ
Ck 帰還素子
R1〜R10 抵抗
C1〜C3 コンデンサ
1〜5 端子ピン(コネクタ)