(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363034
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】永久磁石式回転電機およびドラム式洗濯機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
H02K1/27 501D
H02K1/27 501A
H02K1/27 501K
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-37613(P2015-37613)
(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公開番号】特開2016-163379(P2016-163379A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立アプライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小原木 春雄
(72)【発明者】
【氏名】菊地 聡
(72)【発明者】
【氏名】湧井 真一
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 政二
(72)【発明者】
【氏名】坂本 国弘
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 晃
【審査官】
樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−255326(JP,A)
【文献】
特開2014−007803(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/077513(WO,A1)
【文献】
特開2005−253265(JP,A)
【文献】
特開2013−247850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心に形成された複数のスロット内にティースを取り囲むように集中巻の電機子巻線が施された固定子を有し、回転子鉄心に形成された複数の永久磁石挿入孔に永久磁石が納められた回転子が、前記固定子の内周に所定のギャップを介して回転自在に支承された永久磁石式回転電機において、前記回転子鉄心の前記永久磁石の径方向中心軸をd軸、それと電気角で90度離れた軸をq軸とした時、q軸側の回転子鉄心の外周側の一部を凹ませて形成した磁気ブリッジを有し、
該磁気ブリッジは、モールドで支持されており、
該モールドは、
前記磁気ブリッジ径方向外側に位置する外側モールド部と、
前記磁気ブリッジ径方向内側に位置する内側モールド部と、
前記外側モールド部及び前記内側モールド部を連結し、前記回転子の磁気方向端部を含んで位置する端部モールド部と、を有し、
前記モールドは、温度が冷えたときに収縮する性質を有すること
を特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項2】
請求項1記載の永久磁石式回転電機において、前記磁気ブリッジの径方向内周側と前記永久磁石との間に1mm以上2mm未満の隙間を設けたことを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機において、前記永久磁石がU字形状あるいはV字形状を有するフェライト磁石からなることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機において、前記磁気ブリッジの径方向幅
が前記回転子鉄心の板幅より小さい部分を有することを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の永久磁石式回転電機において、前記磁気ブリッジの外周側面に凹凸を設け、該磁気ブリッジとモールド部との接触面積を多くしたことを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機を備えたドラム式洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集中巻固定子を採用した永久磁石式回転電機およびそれを用いたドラム式洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗濯機の回転翼やドラムを駆動する回転電機にはインバータ駆動の永久磁石式回転電機が採用されている。特にドラム式洗濯機において、ダイレクトドライブ方式の回転電機はモータ体格が大きくなり、ひいては洗濯機が重たくなる不具合がある。これに対してベルト駆動方式の回転電機は高速化を図れば図るほど体格が小さくなるメリットがある。しかしながら、磁石回転子の回転子鉄心の強度が問題となり、ベルト駆動方式のメリットを有効活用できなかった。この対策として、回転子の強度を高める方法として、回転子鉄心の両側に配置した端板を介して締結構造体で一体に結合する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、回転子鉄心を内周側と外周側に分割し、その間をモールドすることにより、高速回転に耐えられる回転子が提案されている(特許文献2参)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−195088号公報
【特許文献2】国外公開第W2012/011274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の従来技術では、回転子鉄心の強度上で弱い所を改善するのではなく、その組み立て方法等で強度向上を図られているが、フェライト磁石のような保持力が弱く残留磁束密度が小さい永久磁石を用い、高速回転時にも回転子強度を確保することについては言及されていない。特許文献2記載の従来技術では、回転子鉄心を内周側と外周側に分割している関係上、回転子外径を小さく抑えるため、磁石に保持力の大きいネオジム磁石を使用する必要が生じ、コスト高となる問題があった。
【0005】
本発明の目的は、保持力の弱い永久磁石を用いても高速回転にも耐えつつ特性を確保できる永久磁石式回転電機とこれを用いたドラム式洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明
の永久磁石式回転電機は、固定子鉄心に形成された複数のスロット内にティースを取り囲むように集中巻の電機子巻線が施された固定子を有し、回転子鉄心に形成された複数の永久磁石挿入孔に永久磁石が納められた回転子が、前記固定子の内周に所定のギャップを介して回転自在に支承された永久磁石式回転電機において、前記回転子鉄心の前記永久磁石の径方向中心軸をd軸、それと電気角で90度離れた軸をq軸とした時、q軸側の回転子鉄心の外周側の一部を凹ませて形成した磁気ブリッジを有し、該磁気ブリッジは、モールドで支持されており、該モールドは、前記磁気ブリッジ径方向外側に位置する外側モールド部と、前記磁気ブリッジ径方向内側に位置する内側モールド部と、前記外側モールド部及び前記内側モールド部を連結し、前記回転子の磁気方向端部を含んで位置する端部モールド部と、を有し、該モールドは、温度が冷えたときに収縮する性質を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保持力の弱い永久磁石を用いても高速回転にも耐えつつ特性を確保できる永久磁石式回転電機とこれを用いたドラム式洗濯機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態による永久磁石式回転電機の回転子の径方向断面図を示す一実施例である。
【
図2】
図1の永久磁石式回転電機の回転子の部分拡大図である。
【
図3】
図1の永久磁石式回転電機の回転子の外観図である。
【
図4】
図3の永久磁石式回転電機の回転子の斜視図である。
【
図5】
図1の永久磁石式回転電機の回転子のRR断面図である。
【
図6】
図1の永久磁石式回転電機の回転子のQQ断面図である。
【
図7】永久磁石式回転電機の回転子と組み合わさる固定子の断面図である。
【
図9】本発明の効果を説明する強度計算結果である。
【
図10】本発明の固定子と回転子の取り付け位置を示す図である。
【
図11】本発明の他の実施例を示す回転子の径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照し、説明する。
【0011】
図8にはドラム式洗濯機100の一例を示し、防振支持された(図示していない)外槽101が外枠102内に収容されている。そして、外槽101の中には洗濯槽と脱水槽を兼ねるドラム103がドラム回転軸104で水平に支持され、ドラム103内には洗濯物を撹拌するリフタ105と脱水穴として機能する小穴106が多数あけられている。
ガラス等により成形、構成された蓋107は、外槽101内の洗濯水の流出を阻止するために、ベローズ108に密着させている。洗濯物は蓋107を開閉して出し入れさせる。ベローズ108は、可撓性のあるゴムなどで成形され、外枠102の開口部と外101の開口部を水密、かつ柔軟に連結している。
【0012】
ドラム103は、永久磁石式回転電機1の軸端に設けたMプーリー109とベルト110、プーリー111を介して駆動され、洗濯およびすすぎ時には50r/min前後で正逆反転され、脱水運転時には、Mプーリー109とプ−リー111の比にも左右されるが、1000r/min以上で駆動される。
【0013】
永久磁石式回転電機1は固定子2と回転子3とから構成される。固定子2は、固定子鉄心4とそれに施された複数のスロット5(図では9個)と、これらのスロット5で分割されたティース6とを備えている。電機子巻線7(U相巻線7A、V相巻線7B、W相巻線7Cからなる)は、複数のスロット5に巻装された集中巻線である。スロット5の下部がスロット開口部8であり、ティース6の下部が固定子2の磁極鉄心9である。
【0014】
回転子3は、回転子鉄心10の外周側に配置されたU字形状の磁石挿入孔11(図では6個)中にフェライト磁石12が納められ、フェライト磁石12の上部にあるのが回転子3の磁極鉄心13であり、磁極鉄心13間を連結しているのが磁気ブリッジ14である。
【0015】
ここで、磁石挿入孔11とU字形状のフェライト磁石12の周方向両端側には隙間15、隙間16を設けている。この隙間15、16は
図1の下部に示すように、永久磁石挿入孔11の中心点から挿入孔11の磁気ブリッジ14の内周側に引いた線のなす角をαとしたとき、磁石12の端側に引いた線のなす角もαであり、その両線間の距離がLとなる。このLの値はガラス20%入りのPBTで射出成形する場合、最低1mm程度が限度である。このLの値を2mmや3mmと大きくした場合、射出成形は問題ないが、磁石の面積が減少するので1mm程度とした。ここではL=1mm程度としたが、L=0.5mmとして磁石12の端面のRを大きくして隙間を1mmとしても問題ない。
【0016】
また、磁極鉄心13の中央には径方向に長い長方形状のスリット17、q軸上には円状のスリット18を設け、射出成形で形成した回転子が
図3である。
図3のPP線でカットしたのが
図1であり、回転子鉄心10の中心位置にあるのがシャフト孔22であり、シャフト孔22に嵌合あるいは焼嵌めされているのがシャフト23である。
図3の斜視図である
図4において、回転子3の外周のモールド部が21、磁極鉄心13の一方の端部のモールド部が24Aであり、モールド部24Aとシャフト23とは接触しないようにモールドされている。もう一方のモールド部24Bも同様である。
【0017】
q軸側鉄心の磁気ブリッジ14上に形成したモールド部21はモールド部24Aと24Bによって隙間15のモールド部および隙間16のモールド部と連結される。これによって、モールド部21を形成し、温度が冷えたときに起こる収縮によってモールド部21にクラックが入るのを防止できる。また、磁気ブリッジ14をモールド部21と隙間15、16のモールド部によって上下から挟んで固定しているため、磁気ブリッジ14の遠心力強度を高めることができる。
【0018】
さらに、スリット17および18もモールド部19および20で成形し、スリット17と2つのスリット18間の角度θ2を60度近傍に、スリット18と2つのスリット17間の角度θ1を120度近傍に設定していることから、このスリット17および18中のモールド部19および20によっても磁極鉄心13が遠心力によって飛び出すのを防止している。
【0019】
図5は
図1のRR断面図であり、永久磁石挿入孔11内の永久磁石12をスリット17内のモールド部19と端部モールド部24A、24Bにより、永久磁石12を保持する構造としている。
【0020】
図6は
図1のQQ断面図であり、スリット18中のモールド部20と回転子鉄心10のq軸側のモールド部21と端部モールド部24A、24Bにより、図示していない磁極鉄心13を保持する構造としている。
【0021】
これらの遠心力強度を計算したのが
図9である。計算回転数は10000r/minである。No.1は磁石挿入孔11にフェライト磁石12をある隙間最小で挿入したものであり、磁気ブリッジ14の厚みは基本0.4mmで、漏れ磁束が多いと特性が足りなくなるので、磁気ブリッジ14の最小厚みを0.2mmにしたものである。強度計算の結果、回転子鉄心10に掛かる最大応力は286MPaとなった。一般に、電磁鋼板の引張強さが36MPaであり、100万回起動停止が繰り返されると、引張強さが1/2の180MPaに低下する。すなわち、No.1の構造は洗濯機などの繰り返し負荷で、最大10000r/min以上の脱水工程が実施されると、回転子鉄心10の強度が低下し、洗濯機では採用できないことになる。
【0022】
次にNo.2の構造は、磁気ブリッジ14の厚みを全て0.4mmにした場合である。結果的には最小厚みを0.2mmから0.4mmへ2倍と大きくしたことにより、回転子鉄心10に掛かる最大応力は244MPaと小さくなることが分かったが、最大10000r/min以上の脱水工程には使用できない。逆に脱水工程での最大回転数が2000r/minの場合には適用可能と言える。
【0023】
次にNo.3はNo.2の構造に対し、回転子3の磁気ブリッジ14の外周と軸方向端部をモールドした場合である。この結果、最大応力は223MPaと小さくなり、ロータ外周モールドは応力低下に効果があるものの、その効果が小さいことが分かった。
【0024】
次にNo.4の構造は、磁気ブリッジ14の基準の厚みを0.5mmとし、磁気ブリッジ14の途中にRカットにより、最小厚みを0.4mmにした場合である。結果的には回転子鉄心10に掛かる最大応力は221MPaと2MPaしか小さくならなかったが、磁気ブリッジ14の厚みを増せば最大応力が小さくなるも、最大応力を180MPa以下にするには相当に厚くする必要がある。これでは、磁石の磁束が磁気ブリッジ14を介して漏れ、特性面から採用できない。
【0025】
次にNo.5の構造は、磁気ブリッジ14の内周面とフェライト磁石間に1mm以上2mm未満(望ましくは1mm程度)の隙間を設け、その中をモールドしたものである。この結果、回転子鉄心10にかかる最大応力を127MPaと目標の180MPa以下にできることが判明した。
【0026】
それでは、隙間を2mm、3mmと大きくした場合、図示していないが、124MPa、120MPaと小さくなった。計算条件が10000r/minであるので、180MPa以下を満足できる回転数は、隙間1mmの場合11900r/min、隙間2mmの場合12050r/min、隙間3mmの場合12250r/minとなり、隙間1mmでも回転数を12000r/min程度まで増加できることが分かった。
【0027】
なお、磁気ブリッジ14の外周面やq軸線上にカット部を設け、磁石挿入孔の内周側にR部を設けているために、モールドした後の冷けた時のモールド材のクラック防止にもなる。
【0028】
図10は本発明の固定子と回転子の取り付け位置を示す図である。回転子3の機械的強度を確保しても、図示していないインバータなどの制御装置によって高速回転できなければ永久磁石式回転電機1として効果がない。高速回転させる1つの例として、固定子2の軸方向位置に対し、固定子2の固定子鉄心4の積厚より回転子3の回転子鉄心10の積厚を短くする。さらに固定子鉄心4の軸方向端部より回転子3を飛び出させる。
【0029】
たとえば、固定子鉄心4の積厚を30mm、回転子鉄心10の積厚を25mmとし、さらに回転子3を軸方向にL=5mm飛び出させれば、軸方向反対側にL2=10mmの固定子鉄心4の単独部分ができる。この内周側に回転子3がない固定子4があることによって、リアクタンスドロップX
dIとX
qIが大きく、見かけ上の弱め界磁となり、回転電機を高速回転させても端子電圧を電源電圧程度に押さえ込むことができる。
【0030】
さらに、磁極位置検出25を固定子鉄心4のないところに設置することによって、電機子反作用の影響が小さくなって回転子3の磁極位置を精度よく検出することができる効果がある。
【0031】
磁石形状については
図11に示すように、V字形状の磁石挿入孔26にV字形状のフェライト磁石27を挿入し、本実施形態と同様モールド成形を行えば同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、本願は次の技術的思想を包含する。
(付記1)
固定子鉄心に形成された複数のスロット内にティースを取り囲むように集中巻の電機子巻線が施された固定子を有し、回転子鉄心に形成された複数の永久磁石挿入孔に永久磁石が納められた回転子が、前記固定子の内周に所定のギャップを介して回転自在に支承された永久磁石式回転電機において、前記永久磁石が挿入された前記回転子鉄心の積厚を前記固定子鉄心の積厚より短くするとともに、前記回転子の一部が前記固定子鉄心の端面から飛び出していることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【符号の説明】
【0032】
1・・・永久磁石式回転電機、2・・・固定子、3・・・回転子、4・・・固定子鉄心、5・・・スロット、6・・・ティース、7・・・電機子巻線(U相7A、V相7B、W相7C)、8・・・スロット開口部、9・・・固定子の磁極鉄心、10・・・回転子鉄心、11・・・永久磁石挿入孔、12・・・フェライト磁石、13・・・回転子の磁極鉄心、14・・・磁気ブリッジ、15・・・隙間Aのモールド部、16・・・隙間Bのモールド部、17・・・スリット、18・・・スリット、19・・・スリット17のモールド部、20・・・スリット18のモールド部、21・・・モールド部、22・・・シャフト孔、23・・・シャフト、24・・・軸方向両端部のモールド部、25・・・磁極位置検出、26・・・V字形状磁石挿入孔、27・・・V字形状フェライト磁石、100・・・ドラム式洗濯機、101・・・外槽、102・・・外枠、103・・・ドラム、104・・・ドラム回転軸、105・・・リフタ−、106・・・小穴、107・・・蓋、108・・・ベローズ、109・・・Mプーリー、110・・・ベルト、111・・・プーリー