特許第6363067号(P6363067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

6363067フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜
<>
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000003
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000004
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000005
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000006
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000007
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000008
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000009
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000010
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000011
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000012
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000013
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000014
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000015
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000016
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000017
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000018
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000019
  • 6363067-フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363067
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】フィブリルセルロースから膜を作製する方法、およびフィブリルセルロース膜
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20180712BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20180712BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20180712BHJP
   C08B 1/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   D21H11/18
   D21H15/02
   D21H27/00 E
   C08B1/00
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-512093(P2015-512093)
(86)(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公表番号】特表2015-519488(P2015-519488A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】FI2013050523
(87)【国際公開番号】WO2013171373
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】20125515
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム−キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM−Kymmene Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】ベッソノフ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】パルタカリ,ヨウニ
(72)【発明者】
【氏名】ラウッカネン,アンッティ
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−168716(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093510(WO,A1)
【文献】 特開平08−302597(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第19627891(DE,A1)
【文献】 国際公開第2011/068023(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/013567(WO,A1)
【文献】 特開平11−300114(JP,A)
【文献】 特開2002−227087(JP,A)
【文献】 特開2007−046196(JP,A)
【文献】 特開平11−323764(JP,A)
【文献】 特開2011−202010(JP,A)
【文献】 特開2003−301395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
C08B 1/00−37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルセルロースから膜を作製するための方法であって、
(a) ナノフィブリルセルロース分散液を濾過層に供給すること、
(b) 液体を、減圧効果によって、ナノフィブリルセルロースの小繊維を通さないが液体を通す濾過層を通してナノフィブリルセルロース分散液から流し出し、膜シートを濾過層上に形成すること、
(c) 濾過層にわたる圧力差で液体を濾過層を通して流出させている間に、
i)膜シート表面と加熱表面との接触によって、もしくは
ii)膜に重ねられる濾布もしくは構造層などの、加熱表面と膜シートとの間に介在する層と、加熱表面との接触によって、膜シートの反対側では加熱表面の接触によって膜シートに熱を加え、加熱表面によって膜シートに圧力も加えられ、前記圧力は、濾布にわたる少なくとも部分的な圧力差をもたらすこと、および
(d) 膜シートを自立ナノフィブリルセルロース膜として濾過層から取り外すこと、または
(e) 濾過層を濾過層とナノフィブリルセルロース膜とを含む膜製品の構成層として膜内に保つこととを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
液体は、圧力が加熱表面によって膜シートに加えられている間に減圧効果によって濾布を通って膜シートから流れ出し、前記減圧と、加熱表面によって加えられる圧力とは、共に、濾布にわたる圧力差をもたらすことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体は、圧力が加熱表面によって膜シートに加えられている間に膜シートから濾布を通って少なくとも1つの吸収シートに流れ出し、加熱表面によって加えられる前記圧力は、濾布にわたる圧力差をもたらすことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
膜シートは、ナノフィブリルセルロース分散液が供給されたシート型において自立膜に乾燥させられることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
膜シートは、ナノフィブリルセルロース分散液が供給されたシート型から濾布とともに取り外され、膜シートが自立膜に乾燥させられるプレス機に置かれることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ナノフィブリルセルロース懸濁液は連続層として移動濾布に供給され、連続膜は異なる処理工程の間濾布を移動させることによって連続層を搬送することによって製造され、その後、膜は濾布から分離されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
第1のナノフィブリルセルロース分散液が濾布に最初に供給され、液体がそれから流れ出し、小繊維網状構造体を形成し、その後、小繊維の寸法が第1のナノフィブリルセルロース分散液の小繊維の寸法よりも小さい第2のナノフィブリルセルロース分散液が前記小繊維網状構造体に供給され、液体は前記小繊維網状構造体と濾布とを通って第2のナノフィブリルセルロース分散液から流れ出すことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第2の小繊維分散液の小繊維は、第2の小繊維分散液が濾布に直接に供給された場合に濾布を通過することができる寸法であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
セルロースがアニオン荷電基を含むナノフィブリルセルロース分散液は、そのpHを低下させることによって前処理され、その後、前処理されたナノフィブリルセルロース分散液は低下したpHで濾布に供給されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ナノフィブリルセルロース分散液は、0.1〜10.0%の濃度で濾布に供給されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
膜シートの温度は、膜シートに加えられる熱によって100℃未満に保たれることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
液体は、膜シートに熱を加える前に、減圧効果によって膜シートの両面を通って反対方向に膜シートから流し出されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
熱および圧力は、膜シートの第1面に加えられ、それから膜シートの第2面に加えられることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
膜シートは、ナノフィブリルセルロース分散液から、または膜シートから除去される液体が通る任意の濾過層から取り外され、自立ナノフィブリルセルロース膜を形成することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリルセルロースから膜を作製する方法に関する。本発明は、フィブリルセルロース膜にも関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリルセルロースは、単離されたセルロースミクロフィブリル、またはセルロース原料に由来するミクロフィブリル束を表す。ナノフィブリル化セルロース(NFC)および他の同種の名称としても知られるフィブリルセルロースは、自然界に豊富に存在するポリマーに基づく。フィブリルセルロースは、たとえば、水中において粘性ゲル(ヒドロゲル)を形成するその性質に基づく多くの利用可能性を有する。
【0003】
フィブリルセルロース製造技術は、パルプ繊維の水性分散液の粉砕(または均質化)に基づく。分散液中のフィブリルセルロースの濃度は、典型的には非常に低く、大抵約1〜5%である。粉砕または均質化工程の後、得られたフィブリルセルロース材料は、低濃度の粘弾性ヒドロゲルである。
【0004】
フィブリルセルロースから構造製品を作製することであって、様々な用途、たとえば生分解性を必要とするものなどに使用することができる膜の形態で自立構造として前記構造製品が存在する範囲において水を除去することによってフィブリルセルロースから構造製品を作製することにも関心が集まっている。
【0005】
強い水分保持力は、フィブリルセルロースに典型的なものである。なぜなら、水は、非常に多くの水素結合によって小繊維に結合するからである。その結果、膜の乾燥物質含有量に達するには、長い乾燥時間を必要とする。真空濾過などの従来法は、数時間を必要とすることがある。低濃度のフィブリルセルロース分散液は、膜の表面上に坪量のわずかに異なる薄い膜の形成を促進する。一方、このことは、乾燥の間に除かれるべき水の量を増加させるであろう。
【0006】
アニオン荷電基を含むフィブリルセルロース(アニオン荷電フィブリルセルロース)のようないくつかのフィブリルセルロースグレードに関して、一層高い粘度は、一層長い脱水時間をもたらすさらなる問題である。そのようなアニオン荷電フィブリルセルロースは、たとえば、修飾の結果としてカルボキシル基を含む化学的に修飾されたセルロースであってもよい。N−オキシル媒介触媒酸化によって(たとえば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンN−オキサイドによって)得られたセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電が解離カルボン酸部分に起因するアニオン荷電フィブリルセルロースの例である。
【0007】
遅い速度での機械的水分除去における問題は、たとえば濾過の間に、それ自体の周囲に非常に高密度で不浸透性のナノスケール膜を形成するフィブリルセルロースヒドロゲルの性質であると考えられる。形成されたシェルは、ゲル構造からの水の拡散を妨げ、非常に遅い濃縮速度の原因となる。蒸発も同様であり、外殻形成は、水の蒸発を妨げる。
【0008】
天然(化学的に修飾されていない)、または化学的に修飾されたセルロースにおいて、フィブリルセルロースヒドロゲルの特性が原因で、工業生産に適した短い時間で均一な構造の膜を形成することは、非常に困難である。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、比較的低濃度のフィブリルセルロースを、膜として使用可能である乾燥物質レベルまで乾燥させる新規の方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、工業生産を考慮して好ましい時間内でフィブリルセルロース膜の製造を可能にすることである。
【0010】
前記方法において、膜は、液体媒体のフィブリルセルロース分散液を発端として、液体をフィブリルセルロース小繊維を通さないが液体を通す濾布を通して減圧効果によって最初に流し出し、その後、濾布にわたる圧力差で液体を濾布を通して流出させている間に膜シートの反対側では熱を加えることによって作製される。膜シートが所望の乾燥物質含有量に達したとき、それは、さらに処理する、または保存することが可能である自立膜として濾布から取り外される。
【0011】
流出によって形成された膜シートの反対側に加えられる熱は、加熱された表面との接触(伝導)によって、または膜シート表面の照射(放射熱)によって実現することができる。同時に、水は、濾布の反対側に存在する圧力差によって流れ出る。このことは、加熱された表面とともに膜シートを機械的に減圧、または加圧することによって実現することができる。
【0012】
熱は、形成される膜シートに加えられ、液体の沸点よりも下の範囲までその温度を上昇させ、液体状態で液体の除去を促進する。
【0013】
圧力差が、加熱された表面を用いて膜シートを濾布に対して加圧することによって実現される場合、膜シートから外への液体の最後の流出は、濾布を通って出てくる液体を受けることができる濾布の自由面に対して吸収シートを設置することによって促進することができる。水を受けることができる、吸収パルプシート、吸い取り紙、または乾燥フェルトを使用することができる。そのようなシートは、濾布の自由面に対する層に設置することができる。そのような1枚の吸収シート、または複数のシートは、形成される膜シートからの吸収作用によって液体を除去する。
【0014】
乾燥時間(膜シートの望ましい目標乾燥物質含有量に達する時間)は、顕著に減少させることができる。
【0015】
フィブリルセルロースのいくつかのグレードは、それらの水分保持能力が原因で特に乾燥させることが困難であり、乾燥は、通常の「天然」グレードよりも顕著に長い時間がかかるかもしれない。アニオン荷電基を含むフィブリルセルロースは、特に困難であるフィブリルセルロース分散液の一例である。N−オキシル媒介触媒酸化によって(たとえば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンN−オキサイドによって)得られるセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電フィブリルセルロースの具体例であり、アニオン荷電は、解離カルボン酸部分に起因する。これらのアニオン荷電フィブリルセルロースグレードは、膜の作製のための潜在的出発物質である。なぜなら、高品質のフィブリルセルロース分散液は、化学的に修飾されたパルプから容易に製造されるからである。アニオン荷電フィブリルセルロースグレードは、酸の添加によって分散液のpHを低下させることによって前処理することができる。この前処理は、水分保持能力を減少させる。たとえば、フィブリルセルロース分散液のpHを3未満まで低下させることによって、上述の方法を用いる乾燥時間を減少させることができる。
【0016】
フィブリルセルロースの寸法が小さい場合、それらは、濾布の最少の孔の寸法でさえも、除去される液体とともに濾布を通って流れてもよい。本発明の方法の一実施形態によれば、セルロース小繊維は、第1のフィブリルセルロース分散液を濾布に加えることと、第1のフィブリルセルロース分散液の小繊維を通さない濾布を通る液体の流出によって小繊維網状構造体を形成することとによって、濾液から分離したまま保たれる。この小繊維網状構造体は、続いて加えられる第2のフィブリルセルロース分散液であって、小繊維の寸法が第1のフィブリルセルロース分散液よりも小さい第2のフィブリルセルロース分散液のための補助フィルタの一種としての機能を果たす。第2のフィブリルセルロース分散液の添加後、流出は、一工程で加えられるフィブリルセルロース分散液と同様に進行する。
【0017】
第2のフィブリルセルロース分散液の小繊維の寸法は、濾布の孔寸法に比較して、それらが分散液から流出する液体(濾液)とともに濾布を通過するようなものである。第2のフィブリルセルロース分散液の量は第1のフィブリルセルロース分散液の量よりも多く、それは乾燥膜の重量の大部分を構成する。
【0018】
粒子の寸法(小繊維の寸法)に比較して十分に小さい孔寸法を有する濾布は、実質的に小繊維のない濾液のフィブリルセルロース分散液と、セルロース小繊維とフィブリルセルロース分散液に含まれる可能な他の固形物とからなる濾過された膜シートとを、その浸透特性(カットオフ値)によって分離するために使用することができる。そのような濾布の孔寸法は、マイクロメートル領域にある。濾布は、濾過されたフィブリルセルロース膜シートに付着しない材料で作製される。プラスチックは、濾布の材料として使用することができる。緻密に織られたポリアミド−6,6織物は、使用することができる濾布の一例である。そのようなポリアミド織物は、様々な孔寸法で利用可能であり、フィブリルセルロースの粒子寸法に応じて選択することができる。
【0019】
フィブリルセルロースに熱をもたらす加熱面も、濾過されたフィブリルセルロース膜シートに付着しない。防水剤、およびPTFEなどの耐熱性被覆によって被覆された金属プレートを使用することができる。
【0020】
本発明の方法は、フィブリルセルロース分散液を濾布に加え、所定の順番に従って連続した作業段階を実施することによってシート型において分離した個々の膜を1つずつ連続して製造するために使用することができ、またはフィブリルセルロース分散液を、連続的作業段階の間に形成される膜シートを搬送する移動濾布に加えることによって連続的工程で連続的な膜を製造するために使用することができる。
【0021】
濾布に加えられるフィブリルセルロース分散液の出発濃度は、通常5%以下であり、たとえば0.5〜5.0%の範囲内である。これは製造工程の出口におけるフィブリルセルロースの初期濃度であり、それは繊維性原料の分解によって製造される。しかしながら、フィブリルセルロース分散液は、膜構造のばらつきを避けるために濾布上に均一に分散することを確実にするために、初期濃度(製造工程からの製品の濃度)から好適な出発濃度まで液体で希釈される。フィブリルセルロースグレードの粘度特性に応じて、出発濃度は、高くも低くもすることができ、0.1〜10%の間で変化させることができる。一層高い濃度は、高濃度であっても濾布上に均一に広げることができる低粘度グレードに使用することができる。
【0022】
流出する液体は通常、水であり、つまりフィブリルセルロースは、水性フィブリルセルロースであり、セルロース小繊維は通常、たとえば0.5〜5.0%の範囲など5%以下である比較的低い濃度で水中に分散されるが、出発濃度は、0.1〜10%のような一層広い範囲に変えることができる。同様に、フィブリルセルロースは、製造工程から水性フィブリルセルロースとして生じ、水中に懸濁した繊維性出発物質は分解される。フィブリルセルロース分散液の外への液体の流出は、水の場合「脱水」と称することができる。
【0023】
水が、流出する液体であるとき、熱は、好ましくはフィブリルセルロースの温度を少なくとも70℃までであるが100℃未満、たとえば70〜95℃の範囲内まで上昇させる程度で濾布上のフィブリルセルロースに加えられる。予想に反して、100℃を超える温度上昇は、乾燥結果を向上させない。なぜなら、膜シートが大量の水を含むならば、水は乾燥の初期段階で圧力差によって除去され、水は沸騰させてはならないからである。なぜなら、このことは、膜に悪影響を与えるからである。膜シートが十分に乾燥し、圧力差によってシートからさらなる水が抽出可能でなくなったとき、最終的に形成されたシートの小繊維網状構造体に依然として結合している残余の水は、蒸発によって除去することができる。この場合、100℃を超える温度も使用することができる。
【0024】
濾布は、フィブリルセルロースの膜シートに付着しない種類のものである。PET、ポリアミド、およびフッ素重合体のような合成ポリマー材料は、好適な材料である。
【0025】
しかしながら、液体を通過させる間にセルロース小繊維を保持するが、膜シートに付着したままであり、膜製品の一部を形成する濾過層を濾布と同じ目的で使用することができる。この場合、濾過層は、膜シートのセルロース小繊維に付着する材料から作製することができ、それはセルロース繊維などから作製することができる。
【0026】
製造工程を促進するための、または膜の特性を改良もしくは調節するための補助試薬は、フィブリルセルロース分散液に含めることができる。そのような補助試薬は、分散液の液相に可溶であるか、または固体であってもよい。補助試薬は、フィブリルセルロース分散液の製造の間に既に原材料に添加されていてもよく、それを濾布に加える前にフィブリルセルロース分散液に添加されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明は、添付図面を参照して以下に説明される。
図1図1は、一実施形態にかかる本発明の方法を示す。
図2図2は、一実施形態にかかる本発明の方法を示す。
図3図3は、本発明の方法の第2実施形態にかかる加圧工程を示す。
図4図4は、本発明の方法の第3実施形態にかかる乾燥工程を示す。
図5図5は、一実施形態にかかる連続的方法の略図である。
図6図6は、他の実施形態にかかる連続的方法の略図である。
図7図7は、膜に実施された実験の結果を示す。
図8図8は、膜に実施された実験の結果を示す。
図9図9は、膜に実施された実験の結果を示す。
図10図10は、膜に実施された実験の結果を示す。
図11図11は、膜に実施された実験の結果を示す。
図12図12は、膜に実施された実験の結果を示す。
図13図13は、膜に実施された実験の結果を示す。
図14図14は、膜に実施された実験の結果を示す。
図15図15は、膜に実施された実験の結果を示す。
図16図16は、試料から作製されたフィブリルセルロース膜のAFM画像である。
図17図17は、試料から作製されたフィブリルセルロース膜のAFM画像である。
図18図18は、試料から作製されたフィブリルセルロース膜のAFM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、パーセンテージ値は、特に示されない限り、重量(wt/wt)に基づく。ある数値範囲が記載されている場合、範囲は記載されている上限値および下限値も含む。
【0029】
膜の出発材料
出発材料である、フィブリルセルロースは、直径がサブミクロン範囲にあるセルロース小繊維からなる。それは、低濃度でも、自己集合したヒドロゲル網状構造体を形成する。フィブリルセルロースのこれらのゲルは、実際のところ、高度に剪断減粘性であり、チキソトロピックである。
【0030】
フィブリルセルロースは通常、植物起源のセルロース原材料から作製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原料は、特定の細菌の発酵工程から得ることができる。植物材料は、木材であってもよい。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスモミもしくはツガなどの軟材の木、またはカバ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキもしくはアカシアなどの硬材の木、または軟材と硬材との混合物に由来してもよい。非木材材料は、農業残渣、草、または、その他の植物性物質に由来してもよく、たとえば、ワタ、トウモロコシ、コムギ、オートムギ、ライムギ、オオムギ、コメ、アマ、アサ、マニラアサ、サイザルアサ、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、タケ、またはアシに由来する、わら、葉、樹皮、種子、外皮、花、野菜、もしくは果実などである。セルロース原料は、セルロース産生微生物に由来してもよい。微生物としては、アセトバクター(Acetobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属のものであってもよく、好ましくはアセトバクター(Acetobacter)属、より好ましくはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)種、またはアセトバクター・パスツアリヌス(Acetobacter pasteurianus)種である。
【0031】
用語「フィブリルセルロース」は、分離したセルロースミクロフィブリルの集まり、またはセルロース原料に由来するミクロフィブリル束を表す。ミクロフィブリルは典型的には、高いアスペクト比を有し、長さは1マイクロメートルを超え得るのに対して、数平均直径は通常200nm未満である。ミクロフィブリル束の直径も大きくてもよいが、一般的に1μm未満である。最も小さなミクロフィブリルは、通常2〜12nmの直径である、いわゆる基本繊維と同様である。小繊維または小繊維束の直径は、原料および分解方法によって決まる。また、フィブリルセルロースは、いくらかのヘミセルロースを含んでもよく、その量は、植物源によって決まる。セルロース原料、セルロースパルプ、または精製パルプ由来のフィブリルセルロースの機械的分解は、リファイナー、粉砕機、ホモジナイザー、コロイドミキサ、摩擦粉砕機、超音波処理装置、またはマイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーもしくは流動化型ホモジナイザーなどの流動化装置などの適切な機器によって実施される。
【0032】
フィブリルセルロースは、好ましくは植物材料から作製される。別の手段は、非実質植物材料から小繊維を得ることであり、小繊維は第2の細胞壁から得られる。豊富なセルロース小繊維源は、木質繊維である。ナノフィブリル化セルロースは、木材由来の繊維性原料の均質化によって製造されるが、化学パルプであってもよい。上述の機器のいくつかにおける分解は、最大でも50nmである数ナノメートルの直径を有する小繊維を生じ、水中に小繊維の分散をもたらす。該小繊維はさらに小さい寸法にされてもよく、大半の直径が2〜20nmしかない範囲内であってもよい。第2の細胞壁に由来する小繊維は、少なくとも55%の結晶化度で本質的に結晶化される。
【0033】
膜作製工程の出発物質は大抵、上述の繊維性原料のいくつかの分解から直接に得られるフィブリルセルロースであり、分解条件が原因で、水中に比較的低濃度で均一に分散して存在する。出発物質は、0.5〜5%の濃度の水性ゲルであってもよい。この種のゲルは、したがって、膜の本体を形成し、膜の構造的完全性および強度特性をもたらすセルロース小繊維の網状構造体が残存するために除去すべき多量の水分を含む。この網状構造体は、水性ゲルに最初に分散された他の固体を含んでもよいが、セルロース小繊維は、膜の主成分である。
【0034】
液体除去
セルロース小繊維が網状構造体に配置される固体自立膜を形成するために、液体は除去されなければならない。液体は、2つの工程を含む方法によってフィブリルセルロースから除去される。第1工程において、液体は、小繊維を通さない濾布を通ってフィブリルセルロース分散液から減圧によって流出し、依然として多量の液体を含む湿った膜シートの形成をもたらす。第2工程において、濾布にわたる圧力差が維持され、膜シートから流出させている間に膜シートの反対側では熱が加えられる。
【0035】
水がフィブリルセルロース分散液から除去される分散媒体であるときの液体の除去が以下に記載される。水以外の他の液体が分散媒体であるとき、その操作は、同様に実施することができる。
【0036】
図1および2は、改良された実験用シート型1(modified laboratory sheet mold 1)が使用される第1実施形態を示す。この図、および本発明の方法を示す他の図において、様々な構成要素は、一定の縮尺で描かれていない。水性フィブリルセルロース分散液4は、マイクロメートル範囲にある孔を有する濾布3の表面に加えられる。濾布3は、シート型1のワイヤ2によって支えられる。図1に示される第1工程において、濾布3およびワイヤ2を通る、分散液4からの脱水は、濾布3の自由面(フィブリルセルロース分散液4によって覆われていない面)に有効である減圧p1(真空)によってもたらされる。したがって、水は、濾布およびワイヤを通って流れ、分散液4の乾燥物質含有量は、水の除去とともに徐々に増加する。
【0037】
湿った膜シート4が脱水によって濾布上に形成され、濾布3を通る脱水を停止した後、図2に示される第2工程が開始される。加熱体5の表面は、膜シート4の表面に置かれ、膜シートは本体5に接するその全表面を濾布3に対して圧迫され、減圧p1(真空)は、依然として維持される。加熱体5によって生じる圧力は、p2(矢印)で示される。脱水が、圧力p2と減圧p1との組合せ効果によって継続し、その効果によって、濾布にわたる圧力差と濾布を通る膜シートから一層多くの水の除去とがもたらされる。本体5の表面は、膜シート4に熱を伝達し、膜シート4の温度、および特にそれに含まれる水の温度上昇によって脱水を促進する。本体5の温度は、たとえば90℃にすることができる。本体5は、金属でもよい。金属体の接触面は、膜シート4の付着を妨げる薄い被覆、たとえば膜シート4の加熱において用いられる温度に耐性があるPTFEなどで覆われている。図2において、本体5は、金属プレートである。
【0038】
本体5は、それが膜シート4に対して置かれた直後に膜シート4の温度が上昇し始めるように、好ましくは予め加熱される。本体5は、温度が維持されるように加圧の間に外部から加熱される。
【0039】
脱水を好ましい乾燥物質含有量まで進めた後、形成されたセルロース小繊維網状構造体のために自立膜である膜シート4は、濾布3から分離され、型2から取り外される。型2は、その後、次の膜の製造のために使用することができる。
【0040】
図1および2の実施形態において、全ての工程は、同一のシート型2において実施される。図3は、分散液4から濾布3およびワイヤ2を通過する脱水が、図1に従って減圧p1によって最初にもたらされた実施形態を示す。図3は、湿った膜シート4が、濾布3とともにシート型1から取り外され、濾布3の自由面が吸収シート6の表面に接触するように、それが濾布とともに1または複数の吸収シート6上に設置される加圧機7に移される第2工程を示す。吸収シート6は、繊維性材料で作製することができ、その内部に水を受け入れることができる。シート6は、吸収性パルプシート、吸い取り紙、または乾燥フェルトの一片であってもよい。図3によって示されるように、シート6は、水受入体積を増加させるために積み重ねることができる。
【0041】
加熱本体5は、図2と同様な構造および機能を有してもよく、湿った膜シート4の自由面上に設置される。機械的圧力p2は、本体5によって膜シート4に加えられる。脱水は、機械的圧力p2のみによる圧力差によって引き起こされ、膜シート2の外部に絞り出される水は、吸収シート6または複数の吸収シートに濾布3を通って流れ、それは吸収シート6によって保持される。熱は、図1および2の実施形態に示されるように、本体5から膜シート4に伝達される。吸収シート6の下部に、水を高温から低温にするために、湿った膜シート4および吸収シート6を通じて温度勾配が生じるように比較的低い温度を保たれる低温金属表面があってもよい。金属表面の温度は、たとえば25℃、好ましくは20℃未満に調整することができる。本体5の接触面上の非付着性被覆は、5aで示される。好ましい乾燥物質含有量まで脱水が進行した後、膜シート4および濾布3は、加圧機7から取り外され、形成されたセルロース小繊維網状構造体によって自立膜である膜シート4は、プレス濾布3から取り外される。濾布3は、次に、シート型1において新たな膜シート4の形成のために使用することができる。吸収シート、または複数のシート6は、加圧機7から取り外され、乾燥され、加圧機7において再利用される。
【0042】
図3の実施形態において、膜の目標坪量が1平方メートルあたり20グラムであるとき、第1工程(真空による脱水)は、60秒未満である。第2工程(加圧+加熱)は、5分未満である。フィブリルセルロースの分散から始まり、乾燥膜で終わる全作製時間は、10分未満であり、一方、従来法における作製時間は、数時間となることもある。
【0043】
図4は、第1工程が減圧p1(真空)によって図1に示されるように実施された実施形態を示す。形成される膜シート4の反対側に加えられる熱は、図2および3に示される場合のように加熱表面5に接触すること(伝導)によってではなく、膜シート4から離れて設置されるIR加熱装置8による膜シートの自由面の照射(放射熱)によって実現される。機械的圧力は加えられないが、水は減圧p1のみによって生じる圧力差の効果によって濾布3を通って膜シート4から流出する。
【0044】
図1〜4の実施形態において、フィブリルセルロース分散液は、第1工程において2段階で加えることができる。フィブリルセルロースの小繊維寸法が、小繊維が濾布3を通過する可能性があるほど小さい(寸法が濾布のカットオフ寸法よりも小さい)場合、より大きな小繊維寸法を有する第1フィブリルセルロース分散液が、最初に濾布3に加えられ、この分散液は、減圧p1による脱水後、前記小さい寸法のセルロース小繊維を有する主要フィブリルセルロース分散液について、それが小繊維網状構造体上に加えられたときに補助フィルタとして機能する小繊維網状構造体を形成する。減圧p1による脱水は終了し、脱水の第2工程は図2〜4に示されるように実施することができる。第1フィブリルセルロース分散液の小繊維は、薄い表面層として膜の表面上に残り、主要な小繊維分散液の一層小さな小繊維は、本体と膜の強度特性とを形成する。
【0045】
セルロースが天然セルロースであるフィブリルセルロース分散液の脱水に比べて、セルロースがアニオン荷電セルロースであるフィブリルセルロース分散液の脱水は、さらに一層時間がかかる。なぜなら、水は非常に強くセルロースに結合しているからである。アニオン荷電基を含むフィブリルセルロースは、たとえば、修飾の結果としてカルボキシル基を含む化学的に修飾されたセルロースであってもよい。N−オキシル媒介触媒酸化(たとえば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンN−オキサイド、略語「TEMPO」で知られる)によって得られるセルロース、またはカルボキシメチル化セルロースは、アニオン荷電が解離カルボン酸部分に起因するアニオン荷電セルロースの例である。図1〜4の実施形態がアニオン性基を含むフィブリルセルロースから膜を作製するために使用される場合、全乾燥時間は、アニオン荷電フィブリルセルロースの一層高い水分保持能力と一層高い粘性との主たる要因によって、セルロースが修飾されていないフィブリルセルロースの全乾燥時間の数倍であると予想される。たとえば、目標が1平方メートルあたり20グラムであるとき、第1工程における未修飾フィブリルセルロースの脱水は、60秒未満である(真空状態の開始から膜シート上に目視可能な水がなくなるまでの時間)けれども、同様の条件で同一の目標坪量を有する膜についてアニオン荷電フィブリルセルロースの脱水は、60〜120分間かかることもある。
【0046】
これらのアニオン荷電フィブリルセルロースグレードの脱水特性は、フィブリルセルロース分散液を酸によって前処理することによって大幅に改良することができる。フィブリルセルロースが、塩基として機能するアニオン荷電基(解離形態における酸部分)を含むとき、酸化されたセルロースおよびカルボキシメチル化セルロースの場合と同様に、酸によるpHの低下はこれらの基を非解離形態に変換し、小繊維間の静電反発力は有効ではなくなり、水と小繊維との相互作用は、分散液の脱水を促進するように変えられる(分散液の水分保持能力は低下する)。アニオン荷電フィブリルセルロース分散液のpHは、脱水特性を改良するために4未満、好ましくは3未満である。
【0047】
膜の目標坪量が1平方メートルあたり20グラムであったとき、「TEMPO」酸化パルプから得られたアニオン荷電フィブリルセルロース分散液は、元来(未調整)のpHで約100分間の真空下での脱水時間を必要とした。分散液のpHが脱水前にHClによって2に低下したとき、同一条件における脱水時間は、約30秒であった。つまり、時間は、元来のものの0.5%に減少した。pHが低下したとき、分散液は目に見えるほどに凝集(小繊維のフロックが形成される)し、このことは迅速な脱水の1つの理由であると考えられる。なぜなら、水は一層容易に凝集体の間を流れるからである。
【0048】
分散液の脱水によって第1工程において形成され、pHが低下した膜シートは、図2〜4によって示される方法のいくつかで第2工程において最終乾燥度に乾燥させることができる。乾燥の最終段階の間における膜の裂ける性質は、低いpHにおいて分散液の最初に凝集した構造が原因である可能性があり、乾燥の遮断によって除くことができる。膜シートは、圧力を取り除くために、次に固定せずに置かれ、任意の支持構造(濾布など)から取り外される。その後、乾燥を継続することができる。乾燥の最終段階は、残存水分を除去するために、100℃以上、たとえば105℃において2つの吸収シート(たとえば、吸い取り紙)の間で行うことができる。
【0049】
フィブリルセルロースが酸化パルプから作製される場合によくあることであるが、アニオン荷電フィブリルセルロースの小繊維寸法が濾布の濾過能力(カットオフ寸法)に関して小さ過ぎた場合、前処理されたフィブリルセルロース分散液が添加される前に、補助濾過層は最初に、上述したものと同じ原理で大きな小繊維寸法を有するフィブリルセルロース分散液の形状であってもよい。補助濾過層は、たとえば、化学的には修飾されていない(天然の)、小繊維寸法が大きなフィブリルセルロース分散液などから作製することができる。
【0050】
フィブリルセルロース分散液が濾布3に加えられるとき、それらは、注入によって加えることができ、または分散液の均一層を最初に作製するためのいくつかの他の添加方法を使用することができる。分散液は、たとえば濾布上に噴霧することができる。必要であれば、分散液は、粘度を減少させ、分散液の均一な拡散を向上させるために水で希釈されてもよい。
【0051】
図5は、連続作製方法の一例を示し、連続膜4は、上述の実施形態における濾布の特性を有する移動濾布4の表面上に、幅広ノズル9から供給されるフィブリルセルロース分散液から出発して形成される。フィブリルセルロース分散液は、修飾されていないセルロース、または酸によって前処理されアニオン荷電セルロースを含む上述の任意のグレードであってもよい。濾布は、機械的強度を追加するためにワイヤによって下部を支えることができる。フィブリルセルロース分散液は、濾布3の表面上に連続層を形成し、濾布3がフィブリルセルロースを前方に運ぶ間に図12に示されるものと同じ脱水相を段階的に行う。フィブリルセルロースは、濾布の下部に設置された真空チャンバ1の効果によって減圧p1に最初にさらされ、分散液の脱水と、湿った膜シート4の形成とをもたらし、小繊維網状構造体が形成し始める。真空レベル(減圧p1)は、異なる真空チャンバ内で変化してもよい。膜シート4は、次に濾布3によって、図1および2の実施形態の第2工程(図2)に対応する加圧加熱部に運ばれる。この部において、連続的加熱ベルト5は、いくらかの長さにわたって膜シート4の上面に接触して設置され、この接触領域の反対側において、連続吸収シート6は、濾布3の下部にそれに接触して設置される。ベルト5および吸収シート6の組成は、図1および2の実施形態における組成に対応してもよい。ベルト5は、薄い非付着性被覆、PTFEなどを膜シート4に対向する面上に有する金属シートであってもよい。吸収シート6は、繊維状シートであってもよく、膜シートの外部に押し出される水をその内部に受けることができる。2つ以上のシートは、お互いに重なり合って設置することができる。ベルト5および吸収シート6は、ガイドシュー10,11を通って膜シート4および濾布3の反対側に導かれる。圧力p2は、ベルト5の接触領域にわたって、ガイドシュー10を介して膜シート4に加えられ、濾布3を通って吸収シート6に水を押し出す。また、同一の接触領域にわたって、膜シート4はベルト5によって加熱される。
【0052】
吸収シート6およびベルト5は、膜シートの構造が最終乾燥工程の間に無傷のままであるように濾布3と同じ速度で移動する。ベルト5および吸収シート6は、ローラによって導かれる無限ループを形成する。濾布3も無限ループを形成し、フィブリルセルロース懸濁液の供給点への帰路は示されていない。
【0053】
濾布3の速度は、十分な程度の脱水がそれぞれの工程の間に達成されるように、加熱ベルト6の接触領域の長さと真空チャンバ1の長さとに一致する。膜シート4および濾布3が加熱および加圧部から出てくるとき、膜シートは、連続膜として濾布3から分離することができる乾燥物質含有量であり、巻き取るか、または所定の寸法に切断することができる。
【0054】
また、図5は、図4と同じ方法で照射熱による追加の加熱の実現性を示す。膜シート4の自由面は、減圧を加えられる領域において加熱装置8によって加熱される(真空チャンバ1の領域)。IR加熱装置による追加の加熱は、熱および圧力を加えられる領域の後(ベルト5および吸収シート6によって形成される加圧ユニットの後)にも示される。
【0055】
また、図5の装置は、2つまたはいくつかの後述する種類の加圧ユニットを膜シート4の経路に連続的に沿って含むことができる。IR加熱装置8は、加圧ユニットの間に設置することができる。膜シート4がその時点で十分に乾燥している場合、最後のIR加熱装置8は、膜シートの表面温度を100℃より高くすることさえ可能である。
【0056】
図6は、連続法の他の実施形態を示す。この実施形態において、処理は、脱水について両面である。つまり、水は、形成される膜シートの両側に対する減圧によって、2つの濾布3であって、その間にフィブリルセルロース分散液が幅広ノズル9から供給される2つの濾布3を通って最初に濾過される。濾布3は、濾布3の両側に設置された真空チャンバ1とは反対方向に脱水が行われる間、分散液と続いて形成する膜シート4が濾布3の間に留まるように、2つのローラ12によってまとめられる。圧力および温度処理も両面であり、つまり、水は、温度および圧力の効果によって膜シート4から両側に除去される。図6において、このことは、第1濾布3を介して圧力および熱を膜シート4の第1面に最初に加え、第2濾布3を通って第2面に水を除去することによって実現され、その後、圧力および熱は、第2濾布3を介して膜シート4の第2面に加えられ、第1濾布3を通って第1面に水を除去する。図6の配置において、加熱加圧表面および吸収シートによってそれぞれ形成された2つの連続的工程がある。加熱された加圧表面および吸収シートは、第1の加圧機に比較して、第2の加圧機において逆の順番である。図5に示されるように、加圧機は、移動する加熱金属ベルト5と、膜シート4の反対側に吸収シート6と、ガイドシュー10および11とを含む。膜シートの強度が許せば、濾布3は、膜シートの表面が加圧機における加熱表面への直接接触にさらされるように、加圧機の前に膜シート4から離して誘導することができる。
【0057】
また、補助フィルタとして使用される小繊維網状組織の構想は、移動濾布3に大きな寸法のフィブリルセルロース分散液を供給し、小繊維が小さな寸法である主要なフィブリルセルロース分散液の供給地点の前で減圧によってそれを脱水することによって、図5の連続法においても使用することができる。この場合、2つの連続的ノズル9があり、2つの連続的地点で異なる分散液を供給する。
【0058】
図1〜4の実施形態に係る個別の膜の作製方法は、たとえば医学的用途などのための小さな一連の特定膜の作製に使用することができる。最終膜の領域は、初期の濾過が行われる型1の作業領域によって決まる。一層大きな膜は、型1の作業領域、および加圧機7の作業領域の増加によって作製することができる。図5および6の連続作製法は、包装用途、たとえば食品包装用途のための生分解性気体遮断性膜の作製などのための膜の作製に使用することができる。
【0059】
膜が濾布から分離され、その形成中に水が濾過されたとき、フィブリルセルロースからなる自立膜が形成される。しかしながら、濾過を、膜生成物の構造的部分として残る濾過層を通って行うことも可能である。この場合、その脱水の間の濾過層と膜シートとの間の付着は好ましい。濾過層は、この場合、フィブリルセルロースを均一層として保持することができるが、水を通過させる繊維性層、たとえば不織布シートであってもよい。紙は、濾過層として使用することができ、この場合、紙の上面における、フィブリルセルロースからの膜シート形成は、一種の被覆工程であろう。個々の膜を作製するために図1〜4に示される全ての実施形態を使用することができ、この場合、濾布3は、不織シート、または紙などの濾過層によって置き換えられ、全ての処理工程の後、膜に付着したまま保持される。図5の連続的製造方法において、濾布3も、不織層または紙などの濾過層によって置換することが可能であり、この濾過層はフィルタとして機能し、膜シートに付着したままとなる。粗目の裏地が、濾過層の下部を支え、保持することができ、結合された濾過層および膜は、乾燥工程を経るとき、裏地から取り外すことができる。
【0060】
フィブリルセルロースから自立膜になされる膜は、後期において、紙、ボール紙、またはプラスチックフィルムのようなシート形態で他の基板に積み重ねて、たとえば障壁または強度特性などのそれらの特性を向上させることができる。これらのセルロース膜は、厚みを増したフィブリルセルロース膜を形成するために、ともに積み重ねることができる。
【0061】
均一に坪量分散(膜一面にわたって小さな坪量変化)した薄い膜は、本発明の方法によって作製することができる。膜の厚みは、好ましくは50μmを超えず、5〜50μmの範囲である。自立膜が作製される場合、厚みは、十分な強度をそれに与えるために、好ましくは10〜50μmの範囲であり、さらに好ましくは20〜50μmであるが、膜製品において膜層を形成するときは、その厚みを小さくすることができ、5〜40μmの範囲内である。しかしながら、これらの数値は、制限的であるとみなすべきではない。
【0062】
フィブリルセルロースから作製される膜は、セルロース小繊維のみから構成されてもよい。溶解形態、または固体形態で分散液に元来存在するいくつかの補助試薬は、膜に含まれてもよく、それらは、膜の強度特性を損なわない。他の固体試薬の場合、それらは、好ましくはセルロースまたはそれらの誘導体以外の物質であり、フィブリルセルロースは、膜におけるセルロース系固体物質のみである。使用可能である溶解性の物質は、水溶性ポリマーを含む。ラテックスの形態のポリマーも、1つの構成要素として使用することができる。
【0063】
材料
5種の異なるフィブリルセルロースを実験において使用した。試料1は、追加の化学的な前修飾なしに漂白カバノキパルプから作製された。試料2は、試料1と同様であるが、フィブリル化の前にナトリウム型に洗浄した。試料3は、フィブリル化前にカルボキシメチル化した。試料4は、フィブリル化の前にTEMPO触媒酸化によって修飾された。試料5は、フィブリル化の前にTEMPO触媒酸化によって修飾され、フィブリル化後に酸型に変換された。試料1、3、4、および5は、マスコタイプ粉砕機(増幸産業)を用いてフィブリル化され、試料2は、市販のフルイダイザ(マイクロフルイディクス社)を用いてフィブリル化された。それぞれの試料は、表1に記載される。
【0064】
表1 様々なフィブリルセルロース試料の概要
生分解性ポリマーフィルム、Bioskaは、プラスティロール社、フィンランドによって作製された。
脱水時間は、坪量に依存する。
【0065】
膜の坪量が増加するとき、脱水時間は、急激に増加する(R=0.9901)(図7)。それは、真空の開始と、膜上に目視可能な水がない時点との間の時間として測定される。図7のデータ(第1段階の脱水時間と膜の坪量との相関関係)は、試料1のフィブリルセルロースを用いる試験からのものである。アニオンで修飾された試料3および4などの一層高い粘性NFCsが使用されるとき、脱水時間は一層長くなる。20gsmの膜の脱水時間は、天然グレードで60秒未満であるが、試料3および4と同じ坪量では60〜120分間かかることもある。脱水時間は、pHの低下によって減少させることができる。
【0066】
天然フィブリルセルロースから作製された膜の基本特性(試料1)
膜の密度は、1400〜1450kg/mの間で変化した(図8)。これらの値は、かなり高く、膜における孔の体積が非常に小さいことを示唆した。このことは、低い通気性によって支持される。なぜなら、空気は、標準の実験室測定において膜を通過しなかったからである。また、3つの異なるフィルムのAFM画像(図16〜18)から、フィルムの表面構造が非常に平滑で密集したものであることが明らかである。
【0067】
膜の坪量が15〜25gsmに増加したとき、厚みは、10〜17μmに直線的に増加した(図8;異なる坪量を有するフィブリルセルロース膜の厚みおよび密度)。膜の密度は、坪量の増加によって影響されなかった。
【0068】
15〜25gsmの坪量の増加は、引張強度を増加させたが、膜の破断点伸びは、一定であった(図9;試験の一連の膜の、引張強度および破断点伸び)。
【0069】
異なるフィブリルセルロースグレードからの膜
表1に記載されたように、フィブリルセルロース膜は、様々な試料から作製された。異なるフィブリルセルロース試料から作製された膜の引張強度および破断点伸びは、図10に示される。値は、20gsmの膜から測定された。引張強度は、粗い天然グレード(試料1)よりも修飾試料(試料3および4)で一層高かった。破断点伸びは、一方、減少した。図10から、対イオンを天然グレードのナトリウムに変換することが有益である可能性があることが分かる。pHを3に低下させることは、酸化試料の剛性を顕著に増加させた。図11における試料4対試料5を参照のこと(異なるフィブリルセルロース試料から作製された膜の剛性引張強度(tensile stiffness index))。
【0070】
天然フィブリルセルロースからの架橋結合膜
フィブリルセルロース膜の機械的特性は、製造工程において様々な種類の架橋結合を用いることによって改変することができる。たとえば、膜の感湿は、炭酸ジルコニウムアンモニウムを用いる小繊維の架橋結合によって低下させることができる。この方法は、以下のように説明される。
【0071】
これらの試験用の膜は、試料1のフィブリルセルロースで作製された。炭酸ジルコニウムアンモニウム(AZC)は、NFCの30%の濃度に脱水する直前にフィブリルセルロース分散液に加えられた。膜は、10gsmの坪量で作製された。
【0072】
機械的特性は、50%および85%の相対湿度で試験された。架橋結合膜は、環境湿度における変化に対して非感受性であった。剛性強度および破断点伸びが示される図12および13を参照のこと。追加の架橋結合なしに、フィブリルセルロース膜の剛性強度は、高い湿度において顕著に減少する。
【0073】
フィブリルセルロース膜と生分解性プラスチックフィルムとの積層
これらの試験の膜は、試料1を用いて作製された。
【0074】
試験のこのセットにおいて、3つの異なる坪量のフィブリルセルロース膜が作製され、Bioskaプラスチックフィルムに積層された。坪量は、5、10、および20gsmであった。湿った膜フィルムは、減圧によって濾布を通して水を除くことによって最初に形成され、第1段階後、Biosakaフィルムは、シート型上の加圧されていない膜の上面に設置された。次に、膜/Bioskaフィルムの組み合わせは、湿った膜シートとプレートとの間にBioskaフィルムを有する加熱されたPTFE被覆加圧プレートと、膜シートの反対側に接触する吸収シートとによって加圧が図3に示されるように行われる第2段階に移された。加熱された表面の温度は、90℃であった。
【0075】
図14および15に示されるように5つの試験点が存在する。図14において、フィブリルセルロース膜−Bioska積層体の剛性強度および破断点伸び値が示される。Bio試料は、純粋なBioskaフィルムであり、Bio5NFCは、5gsmの膜のBioskaフィルムであり、Bio10NFCは、10gsmの膜を有するBioskaフィルムであり、Bio20NFCは、20gsmの膜を有するBioskaフィルムであり、NFC20試料は、20gsmのフィブリルセルロース膜を表すものである。図15において、同じフィブリルセルロース膜−Bioska積層体の剛性引張強度が示される。したがって、第1点(bio)は、Bioskaフィルムの機械的特性の値であり、最後の点(NFC20)は、20gsmのNFC膜の値を示し、これらの点の間に3つの異なるNFC坪量を有する積層体の値がある。機械的特性は、MTS400装置によって測定された。試料ストリップの長さが10cmではなく5cmであったことを除いて、同じパラメータ(スキャン P−38)が使用された。標準的な装置は、使用されなかった。なぜなら、NFC/Bioskaフィルム積層体は、測定の間に紙の試料とは異なる挙動を示し、標準的な装置は、あるべきデータを記録できなかったからである。
【0076】
紙の試料が投入されるとき、それは破壊するまで引き延ばされる。これらの積層体の場合、Bioskaフィルムが長い時間伸ばされ続けた間に、NFCは、延ばされ、破壊される。積層体におけるNFC膜の坪量が増加したとき、積層体の剛性強度は増加した。Bioska/20gsm NFC積層体の引張強度は、20gsmのNFC膜強度の約50%であったが、Bioskaフィルム単独のものよりも約3倍良好であった(図14)。積層体の破壊点伸びは、NFC膜のものと実質的に同じであった(図14)。積層構造の剛性も、純粋なBioskaフィルムに比べて増加した(図15)。
【0077】
厚紙または紙などのプラスチックフィルム以外の他の構造的材料層は、加熱表面とフィブリルセルロースの湿ったシートとの間に構造的材料層を設置し、脱水のための圧力を加えることによって、フィブリルセルロースの膜シートに類似して積層することができる。
【0078】
図16〜18は、異なる試料から作製されたフィブリルセルロース膜のAFM(原子間力顕微鏡)画像である。図16は、試料1(前修飾されていない漂白カバノキパルプからのフィブリルセルロース)から作製された膜のAFM画像である。図17は、試料2から作製された膜のAFM画像(フィブリル化前にナトリウム型に洗浄された漂白カバノキパルプからのフィブリルセルロース)である。図18は、試料4(フィブリル化前にTEMPO触媒酸化によって修飾された漂白カバノキパルプからのフィブリルセルロース)から作製された膜のAFM画像である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18