特許第6363102号(P6363102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6363102硬質ウレタンフォーム原液組成物、及び断熱施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363102
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】硬質ウレタンフォーム原液組成物、及び断熱施工方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20180712BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20180712BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20180712BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20180712BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20180712BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   C08G18/00 K
   C08G18/76 057
   C09K3/10 D
   E04B1/76 400H
   C08G18/10
   C08G101:00
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-553354(P2015-553354)
(86)(22)【出願日】2014年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2014005988
(87)【国際公開番号】WO2015092988
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-260173(P2013-260173)
(32)【優先日】2013年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 美能留
(72)【発明者】
【氏名】平塚 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 和也
(72)【発明者】
【氏名】友末 洋一
(72)【発明者】
【氏名】服部 泰紀
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−510188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00
C08G 18/10
C08G 18/76
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート成分を含む原液Aと、ポリオール成分を含む原液Bとを混合して硬質ウレタンフォームを形成する二液型の硬質ウレタンフォーム原液組成物であって、
前記原液Bに、混合される前記原液Aと前記原液Bの総重量に対して15重量%以上の無機充填剤を添加するとともに、前記原液Aの粘度ηを1〜100Pa・sに調製し、
前記原液Aと前記原液Bとの混合液がチクソトロピー性を示して、当該混合液の粘度ηが、η(35℃,0.1s−1)≧200Pa・s、η(5℃,100s−1)≦200Pa・sであることを特徴とする硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート成分が、ポリオールを鎖延長剤として、ポリイソシアネートをキャッピング率3〜15%でプレポリマー化したプレポリマーを含む請求項1に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項3】
前記プレポリマーのイソシアネート基の含有率が20〜29%である請求項2に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項4】
前記ポリイソシアネートが、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(クルードMDI)である請求項2又は3に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項5】
前記鎖延長剤としてのポリオールが、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、及びソルビトールからなる群から選ばれる少なくとも一種を開始剤とするポリエーテルポリオールである請求項2〜4のいずれか一項に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項6】
前記原液Aと前記原液Bとを混合して形成された硬質ウレタンフォームの独立気泡率が50%以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項7】
前記原液Aと前記原液Bとを混合して形成された硬質ウレタンフォームの収縮率が10%以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物。
【請求項8】
施工対象物の外表面を複数の成形断熱材で被覆し、前記成形断熱材同士が接合されて一体化された断熱構造を構築するにあたり、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の硬質ウレタンフォーム原液組成物を用いて、前記原液Aと前記原液Bとの混合液を、目地部を形成する前記成形断熱材の突き合わせ面に塗布して、前記成形断熱材を組み付けて、当該混合液が発泡、硬化して前記目地部内の空間全体を充填して前記成形断熱材と一体化することを特徴とする断熱施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性目地充填剤として利用可能な硬質ウレタンフォーム原液組成物、及びそのような硬質ウレタンフォーム原液組成物を発泡性目地充填剤として利用する断熱施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LPG,LNG等の低温流体の輸送配管の断熱構造として、配管の外表面を硬質ウレタンフォームからなる割り筒型の成形断熱材で被覆し、かかる成形断熱材の突き合わせ目地部に硬質ウレタンフォーム原液組成物を現場発泡によって充填し、継目のない一体構造として、次いで、成形断熱材の外表面に防湿材を設け、さらにその外表面に外装材を設けた断熱構造を構築する断熱施工方法が知られている。
【0003】
このような断熱施工方法において、成形断熱材の突き合わせ目地部に硬質ウレタンフォーム原液組成物(合成樹脂発泡原液)を充填する手段として、本出願人は、成形断熱材同士が表面側で接合し、その接合部位から内方に向けて拡開するV字形状に目地部を形成し、かかる接合部位に貼り付けた粘着テープを通して成形断熱材の接合部位にあけた穴部から合成樹脂発泡原液を注入することを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3482150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際の施工現場にあっては、作業者が現場で寸法合わせをして成形断熱材を切り出す場合もあり、成形断熱材の切り口形状がまちまちであると、特許文献1で提案した技術の適用もままならない。このため、成形断熱材の突き合わせ目地部に硬質ウレタンフォーム原液組成物を充填するには、目地部の開口部を粘着テープで目張りして塞いでおいて、目地部内の空間に硬質ウレタンフォーム原液組成物を流し込んで発泡させる注入発泡による充填が広く行われているのが実情である。
【0006】
このような従来技術にあっては、注入した硬質ウレタンフォーム原液組成物が漏れないように、目地部の開口部の全面に粘着テープを貼り付けるだけでなく、硬質ウレタンフォーム原液組成物を発泡、硬化させて目地部に充填した後に、目地部の開口部を塞いだ粘着テープを取り除くといった煩雑な作業が強いられていた。さらに、取り除かれた使用済みの粘着テープは多量の廃棄物となり、その処理にも手間や費用がかかるという問題もあった。
【0007】
また、目地部が下向きに開口している場合には、そのままでは硬質ウレタンフォーム原液組成物を目地部内の空間に流し込むのが困難である。このような場合には、下向きに開口する目地部の開口部を粘着テープで塞ぐとともに、硬質ウレタンフォーム原液組成物を流し込むための流路を、目地部の上方から流し込みができるように別途設ける必要があった。
【0008】
また、他の従来技術としては、目地部に空間を空けずに、成形断熱材の突き合わせ面に接着剤を塗布して、かかる成形断熱材を施工対象物に組み付ける方法も知られており、この方法では目地部の開口部を塞ぐ粘着テープは省略することができる。
しかしながら、この方法では、成形断熱材を組み付けたときに、突き合わされる面同士が接する状態である必要があり、施工現場で作業者が寸法合わせのために成形断熱材を切り出した面は面精度が低いため、接着剤を用いた施工方法を適用することができない。
【0009】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて鋭意検討を重ねたところ、配管などの施工対象物の外表面を成形断熱材で被覆し、成形断熱材同士が接合されて一体化された断熱構造を構築するにあたり、目地部を形成する成形断熱材の突き合わせ面に硬質ウレタンフォーム原液組成物を発泡性目地充填剤として塗布して、かかる成形断熱材を組み付けて、当該原液が発泡、硬化して目地部内の空間全体を充填して成形断熱材と一体化することができれば、上記のような煩雑な作業を省略することができ、目地部の開口部を塞ぐ粘着テープも不要になると考えるに至った。
【0010】
しかしながら、この種の断熱施工方法において一般に用いられる注入発泡用の硬質ウレタンフォーム原液組成物は流動性が高く、目地部を形成する成形断熱材の突き合わせ面に塗布しても垂れ落ちてしまう。
【0011】
一方、塗料、シーラントなどの非発泡の用途においてはウレタン原液組成物に適当な添加剤を添加することによって、流動性を低下させることは知られている。注入発泡用の硬質ウレタンフォーム原液組成物に対しても同様に添加剤を添加して流動性を低下させることは可能であり、これによって、硬質ウレタンフォーム原液組成物に塗工性を付与して、目地部を形成する成形断熱材の突き合わせ面に塗布する発泡性目地充填剤としての利用を可能にすることが期待できる。かかる観点から、本発明者らは、硬質ウレタンフォーム原液組成物に添加剤として無機充填剤を添加して、その流動性を低下させて発泡性目地充填剤として利用できるように、さらなる鋭意検討を重ねた。
【0012】
その結果、単に、硬質ウレタンフォーム原液組成物に塗工性を付与する目的で無機充填剤を添加しただけでは、良好な硬質ウレタンフォームを形成することができず、例えば、独立気泡率が低下して十分な断熱性が得られなかったり、硬化後の収縮率が大きかったりするなどの問題が新たに生じてしまうことが見出された。そして、本発明者らの鋭意検討により、その原因は、元々の硬質ウレタンフォーム原液組成物の粘度が低いため発泡時に形成される気泡の膜厚が薄く、無機充填剤が気泡の生成を妨げて破泡してしまうことにあることをつきとめた。
【0013】
そこで、本発明者らは、発泡時の気泡の生成が妨げられないようにしつつ、硬質ウレタンフォーム原液組成物に塗工性を付与して発泡性目地充填剤としての利用を可能にするために、硬質ウレタンフォーム原液組成物に対する無機充填剤の添加量と、その粘度との関係に着目して本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、発泡性目地充填剤として利用可能な硬質ウレタンフォーム原液組成物、及びそのような硬質ウレタンフォーム原液組成物を発泡性目地充填剤として利用する断熱施工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る硬質ウレタンフォーム原液組成物は、ポリイソシアネート成分を含む原液Aと、ポリオール成分を含む原液Bとを混合して硬質ウレタンフォームを形成する二液型の硬質ウレタンフォーム原液組成物であって、前記原液Bに、混合される前記原液Aと前記原液Bの総重量に対して15重量%以上の無機充填剤を添加するとともに、前記原液Aの粘度ηを1〜100Pa・sに調製し、前記原液Aと前記原液Bとの混合液がチクソトロピー性を示して、当該混合液の粘度ηが、η(35℃,0.1s−1)≧200Pa・s、η(5℃,100s−1)≦200Pa・sである構成としてある。
【0016】
また、本発明に係る断熱施工方法は、施工対象物の外表面を複数の成形断熱材で被覆し、前記成形断熱材同士が接合されて一体化された断熱構造を構築するにあたり、上記したような硬質ウレタンフォーム原液組成物を用いて、前記原液Aと前記原液Bとの混合液を、目地部を形成する前記成形断熱材の突き合わせ面に塗布して、前記成形断熱材を組み付けて、当該混合液が発泡、硬化して前記目地部内の空間全体を充填して前記成形断熱材と一体化する方法としてある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る硬質ウレタンフォーム原液組成物は、発泡時の気泡の生成が妨げられることなく塗工性が付与され、良好な硬質ウレタンフォームが形成可能な発泡性目地充填剤として利用することができる。
【0018】
また、本発明に係る断熱施工方法によれば、注入発泡による従来技術で強いられていた煩雑な作業を省略することができるとともに、目地部の開口部を塞ぐ粘着テープも不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る断熱施工方法によって構築された断熱構造の一例を示す説明図である。
図2】本発明に係る硬質ウレタンフォーム原液組成物の実施例におけるダレの測定を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る硬質ウレタンフォーム原液組成物、及び断熱施工方法の実施形態について説明する。
【0021】
本実施形態における硬質ウレタンフォーム原液組成物は、ポリイソシアネート成分を含む原液Aと、ポリオール成分を含む原液Bとを混合して硬質ウレタンフォームを形成する二液型の硬質ウレタンフォーム原液組成物である。
【0022】
原液Aに含まれるポリイソシアネート成分としては、公知の多官能性のポリイソシアネート、例えば、芳香族系、脂肪族系、若しくは脂環族系ポリイソシアネート、又はこれらの混合物、若しくはこれらを変成して得られる変成ポリイソシアネートなどを挙げることができる。なかでも、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、又はポリメチレンポリフェニルイソシアネート(クルードMDI)等の芳香族ポリイソシアネートが好ましく、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(クルードMDI)が特に好ましい。
【0023】
原液Bに含まれるポリオール成分としては、分子中に2〜8個の水酸基を有するポリオールであって、ポリオール成分全体の平均水酸基価が、好ましくは200〜600mgKOH/g、より好ましくは300〜500mgKOH/g、平均分子量が、好ましくは200〜3000、より好ましくは200〜2000、さらに好ましくは300〜2000、特に好ましくは300〜1000であれば、公知のポリオールを任意に組み合わせて用いることができる。例えば、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ソルビトール、スクロース等を開始剤としてアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオール、フタル酸等の芳香族カルボン酸と多価アルコールとのエステル化により得られる芳香族ポリエステルポリオール、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらのなかでも、原液Aに含まれるポリイソシアネート成分との反応速度が速過ぎず、施工現場での塗布作業が可能な可使時間を確保し易いことから、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールを開始剤としてアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールが好ましい。
【0024】
また、原液Bには、必要に応じて、触媒、整泡剤、難燃剤等を配合することができる。触媒としては、例えば、第3級アミン類、有機金属塩等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。整泡剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。難燃剤としては、例えば、トリスクロロプロピルホスフェート(TCPP)が挙げられる。発泡剤としては、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−プロペン(HFO−1233zd)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテン(HFO−1336mzz)等のハロゲン化炭化水素化合物、又はn−ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン等の炭化水素化合物が挙げられるが、ポリイソシアネートと反応して炭酸ガスを発生する水を用いるのが好ましい。
【0025】
このような組成とされた原液Aと原液Bとを混合して硬質ウレタンフォームを形成するにあたり、原液Aに含まれるポリイソシアネート成分のイソシアネート基と、原液Bに含まれるポリオール成分の水酸基の当量比(NCO/OH)が、好ましくは0.9〜2.0、より好ましくは1.1〜1.5となるように、混合する原液Aと原液Bとの重量比を適宜調整する。
【0026】
また、原液Bには、混合される原液Aと原液Bの総重量に対して15重量%以上、好ましくは15〜45重量%、より好ましくは15〜35重量%の無機充填剤が添加される。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、コロイド状シリカ等の無機化合物が挙げられる。本実施形態で用いる無機充填剤には、原液Aと原液Bとの混合液のチクソトロピー性の調整が容易となるように、粒径を揃えるとともに、必要に応じて、脂肪酸、ロジン酸等の有機酸を用いた表面処理を施してもよい。
【0027】
硬質ウレタンフォーム原液組成物に無機充填剤を添加するのは、その流動性を低下させて塗工性を付与するためであるが、添加した無機充填剤が、発泡時の気泡の生成を妨げてしまうと、良好な硬質ウレタンフォームが形成できなくなってしまうのは前述した通りである。このため、本実施形態では、原液Aの粘度ηを1〜100Pa・sに調製し、原液Bと混合した混合液の粘度を高めて、発泡時に形成される気泡の膜厚が厚くなるようにすることで発泡時に気泡が破泡するのを抑制し、良好な硬質ウレタンフォームが形成されるようにしている。さらに、施工現場で当該混合液を撹拌する際の作業性とのバランスを考慮すると、原液Aの粘度ηは、好ましくは1〜50Pa・s、より好ましくは2〜10Pa・sである。
【0028】
このように、本実施形態にあっては、原液Aの粘度ηを調整した上で、所定量の無機充填剤を添加するが、これによって、原液Aと原液Bとの混合液がチクソトロピー性を示し、当該混合液の粘度ηが、塗工時の粘度を想定した温度35℃、回転速度0.1s−1の条件下での粘度η(35℃,0.1s−1)が200Pa・s以上、好ましくは220Pa・s以上、より好ましくは250Pa・s以上となるように調整する。これとともに、原液Aと原液Bとを混合し、撹拌する際の粘度を想定した温度5℃、回転速度100s−1の条件下での粘度η(5℃,100s−1)が200Pa・s以下、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下となるように調整する。
このようにすることで、原液Aと原液Bとの混合、撹拌に支障を来たすことなく、原液Aと原液Bとの混合液に塗工性を付与することができ、硬質ウレタンフォーム原液組成物の発泡性目地充填剤としての使用を可能にする。
【0029】
なお、原液Aの粘度は、JIS K7117−1に準拠して温度25℃の温度条件下で測定したものとする。また、原液Aと原液Bとの混合液の粘度ηは、両者を所定の比率で混合容器に測り取って30秒間混合撹拌し、混合撹拌を開始してから120秒後にJIS K7117−2に準拠して測定したものとする。
【0030】
また、原液Aの粘度ηを調製するには、必要に応じて、ポリイソシアネート成分として例示したポリイソシアネートをプレポリマー化してもよい。より具体的には、ポリオールを鎖延長剤として、ポリイソシアネートをキャッピング率3〜15%でプレポリマー化するのが好ましく、より好ましくは4〜13%、特に好ましくは5〜10%のキャッピング率でプレポリマー化する。この場合、ポリイソシアネート成分として含まれるプレポリマーのイソシアネート基の含有率が20〜29%であるのが好ましく、より好ましくは22〜29%、特に好ましくは25〜28%である。
【0031】
なお、ポリイソシアネートのキャッピング率は、NCO基100に対して、プレポリマー化によりOH基でキャップしてウレタン結合に変化させた割合を示したものであり、イソシアネート100重量部に対して、a重量部のポリオール(鎖延長剤)を添加した場合を例に挙げると、次式で求められる。
キャッピング率[%]
=(NCO基と反応するOH基の数/NCO基の数)×100
=(a[重量部]/ポリオール当量)/(100[重量部]/イソシアネート当量)×100
ここで、イソシアネート当量、ポリオール当量は、次式で求められる。
イソシアネート当量
=(NCO基の式量/イソシアネートのNCO基含有率[%])×100
ポリオール当量
=(KOHの式量/ポリオール(鎖延長剤)のOH基価)×1000
また、プレポリマーのイソシアネート基の含有率は、同様の例において、次式で求められる。
NCO基含有率[%]
=プレポリマー化前のポリイソシアネートのNCO基含有率[%]×(100−NCO基のキャッピング率[%])/(100[重量部]+a[重量部])
【0032】
ポリイソシアネートをプレポリマー化して原液Aの粘度ηを調製するにあたり、ポリイソシアネートには、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(クルードMDI)を用いるのが好ましい。鎖延長剤としてのポリオールは、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、及びソルビトールからなる群から選ばれる少なくとも一種を開始剤とするポリエーテルポリオールを用いるのが好ましい。
【0033】
また、本実施形態によれば、良好な硬質ウレタンフォームの形成を阻害することなく、硬質ウレタンフォーム原液組成物の発泡性目地充填剤としての使用を可能にするが、原液Aと原液Bとを混合して形成された硬質ウレタンフォームの独立気泡率は、50%以上であるのが好ましく、より好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上である。さらに、原液Aと原液Bとを混合して形成された硬質ウレタンフォームの収縮率は、10%以下であるのが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0034】
また、施工対象物を被覆する成形断熱材に用いる硬質ウレタンフォームとの著しい差異が生じてしまうなどの不都合を避けるために、原液Aと原液Bとを混合して形成される硬質ウレタンフォームの発泡倍率は、4〜10倍であるのが好ましく、より好ましくは5〜8倍であり、硬化後の硬質ウレタンフォームのコア密度は、80〜200kg/mであるのが好ましく、より好ましくは100〜180kg/mである。
さらに、施工作業に支障を来たすことがないように、塗布作業が可能な可使時間が、室温で3分以上であるのが好ましく、より好ましくは5分以上であり、硬化時間は、室温で240分以内であるのが好ましく、180分以内であるのがより好ましい。
【0035】
次に、本実施形態における断熱施工方法について説明する。
なお、図1は、本実施形態に係る断熱施工方法によって構築された断熱構造の一例を示す説明図である。
【0036】
本実施形態における断熱施工方法は、例えば、LPG,LNG等の低温流体の輸送配管の断熱構造などを構築する方法として適用することができる。
より具体的には、先ず、施工対象物である配管1の外周面を被覆できるよう、公知の硬質ウレタンフォーム成形体を割り筒状に成形した成形断熱材2を用意する。次いで、かかる成形断熱材2を所定の大きさに切り出すとともに、配管1の外周面に成形断熱材2を組み付けたときに目地部を形成する成形断熱材2の突き合わせ面に、前述した硬質ウレタンフォーム原液組成物の原液Aと原液Bとの混合液を塗布して、可使時間が経過するまでに成形断熱材2を組み付けて配管1を被覆する。
【0037】
そうすることで、成形断熱材2を組み付けた状態で、その突き合わせ面に塗布された混合液が発泡、硬化し、形成された硬質ウレタンフォーム3が目地部内の空間全体に充填されて成形断熱材2と一体化する。これにより、継目のない一体構造として、施工対象物に対して断熱施工を行うことができる。したがって、注入発泡による従来技術で強いられていた煩雑な作業を省略することができるとともに、目地部の開口部を塞ぐ粘着テープも不要になる。
なお、配管1を被覆する成形断熱材2の外表面には防湿材4を設け、さらにその外表面に外装材5を設けることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0039】
[実施例1]
<原液Aの調製>
クルードMDI(三菱樹脂(株)製:RX−200)100重量部に対し、鎖延長剤としてポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−410NE/開始剤ペンタエリスリトール、官能基数4.0、水酸基価410)をキャッピング率10.0%になる量だけ加えて、25℃で4時間反応させてプレポリマー化して原液Aを調製した。
プレポリマーのイソシアネート基の含有率を計算により求めたところ、25.1%であった。また、反応を終了した翌日に、JIS K7117−1に準拠して温度25℃の温度条件下で原液Aの粘度ηを測定したところ、34.55Pa・sであった。
【0040】
<原液Bの調製>
ポリオール成分として、ポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−410NE/開始剤ペンタエリスリトール、官能基数4.0、水酸基価410)9重量部、ポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−3030/開始剤グリセリン、官能基数3.0、水酸基価56)6重量部、整泡剤として、シリコーン系界面活性剤(ゴールドシュミットAG社製:B8404)0.2重量部、難燃剤として、トリスクロロプロピルホスフェート(大八化学工業(株)製:TCPP)3重量部、触媒として、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール(活剤ケミカル社製:ミニコR−9000)0.005重量部、発泡剤として、水0.5重量部、無機充填剤として、炭酸カルシウム(白石工業(株)製:白艶華CCR)16重量部を均一に混合して原液Bを調製した。
【0041】
<混合液の粘度>
原液Aと原液Bとを重量比(A/B)0.75で混合容器に測り取り、これをヘラで30秒間混合撹拌した。混合撹拌を開始してから120秒後にJIS K7117−2に準拠して測定したところ、η(35℃,0.1s−1)=382Pa・s、η(5℃,100s−1)=135Pa・sであった。
このとき、原液Aと原液Bの総重量に対する無機充填剤(炭酸カルシウム)の割合は32.13重量%であった。また、原液Aに含まれるポリイソシアネート成分のイソシアネート基と、原液Bに含まれるポリオール成分の水酸基の当量比(NCO/OH)は、1.23であった。
【0042】
<発泡実験>
原液Aと原液Bとを温度20℃に調温して、重量比(A/B)0.75で原液Aと原液Bとの総重量が約50gとなるように混合容器に測り取った。これをヘラで30秒間混合撹拌した後、約20gの混合液を容積約300ccの透明カップ内に投入した。
発泡中の最大発泡高さ(H)と硬化後の発泡高さ(H)を測定して、収縮率を次式で求めたところ、6.7%であった。
収縮率[%]=(H−H)/H×100
また、硬化後の翌日以降に、発泡体から一辺25mmの立方体のコアフォームを切り出し、ASTM D2856に準拠して、独立気泡率を測定したところ、97.2%であった。
【0043】
<ダレの測定>
原液Aと原液Bとを重量比(A/B)0.75で混合した後、直ちにPUFボードに、厚さtが1mm、高さhが25mmの帯状に混合液を塗布した。混合開始から60秒以内に塗布面を鉛直にして、発泡完了までに混合液がダレ落ちた最大長さDmaxを測定した(図2参照)。
ダレ落ちDの長さが5mm以内を「○」、5〜50mmを「△」、50mm以上を「×」として評価した。その結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2〜11]
原液Aを表1に示すように調製し、表1に示す重量比で原液Bと混合した以外は、実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[比較例1〜21]
原液Aを表2及び表3に示すように調製し、表2及び表3に示す重量比で原液Bと混合した以外は、実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表2及び表3に示す。
なお、比較例16〜21では、クルードMDI(三菱樹脂(株)製:RX−200)をプレポリマー化せずに(鎖延長剤なし)、原液Aとして使用した。また、比較例3,6,11,13,15では、原液Aの粘度が高く原液Bと混合することができなかった。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
[実施例12]
<原液Aの調製>
クルードMDI(住化バイエルウレタン(株)製:44V−22L)100重量部に対し、鎖延長剤としてポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−430/開始剤グリセリン、官能基数3.0、水酸基価400)をキャッピング率7.4%になる量だけ加えて、25℃で4時間反応させてプレポリマー化して原液Aを調製した。
プレポリマーのイソシアネート基の含有率を計算により求めたところ、26.7%であった。また、反応を終了した翌日に、JIS K7117−1に準拠して温度25℃の温度条件下で原液Aの粘度ηを測定したところ、3.4Pa・sであった。
【0050】
<原液Bの調製>
ポリオール成分として、ポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−410NE/開始剤ペンタエリスリトール、官能基数4.0、水酸基価410)15重量部、整泡剤として、シリコーン系界面活性剤(ゴールドシュミットAG社製:B8404)0.2重量部、難燃剤として、トリスクロロプロピルホスフェート(大八化学工業(株)製:TCPP)3重量部、触媒として、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール(活剤ケミカル社製:ミニコR−9000)0.005重量部、発泡剤として、水0.3重量部、無機充填剤として、炭酸カルシウム(白石工業(株)製:Viscoexcel−30)12重量部を均一に混合して原液Bを調製した。
【0051】
<混合液の粘度>
原液Aと原液Bとを重量比(A/B)0.92で混合容器に測り取り、これをヘラで30秒間混合撹拌した。混合撹拌を開始してから120秒後にJIS K7117−2に準拠して測定したところ、η(35℃,0.1s−1)=480Pa・s、η(5℃,100s−1)=21Pa・sであった。
このとき、原液Aと原液Bの総重量に対する無機充填剤(炭酸カルシウム)の割合は20.52重量%であった。また、原液Aに含まれるポリイソシアネート成分のイソシアネート基と、原液Bに含まれるポリオール成分の水酸基の当量比(NCO/OH)は、1.24であった。
【0052】
<発泡実験、ダレの測定>
実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表4に示す。
【0053】
[実施例13〜16]
原液Bを表4に示すように調製し、表4に示す重量比で原液Aと混合した以外は、実施例11と同様にして、混合液の粘度を測定した。その結果を表4に示す。
また、当該混合液について、実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
[比較例22〜24]
原液Bを表4に示すように調製し、表4に示す重量比で原液Aと混合した以外は、実施例11と同様にして、混合液の粘度を測定した。その結果を表4に示す。
また、当該混合液について、実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表4に示す。
【0056】
[実施例17]
<原液Aの調製>
クルードMDI(住化バイエルウレタン(株)製:44V−22L)100重量部に対し、鎖延長剤としてポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−1030/開始剤グリセリン、官能基数3.0、水酸基価160)をキャッピング率6.6%になる量だけ加えて、25℃で4時間反応させてプレポリマー化して原液Aを調製した。
プレポリマーのイソシアネート基の含有率を計算により求めたところ、24.5%であった。また、反応を終了した翌日に、JIS K7117−1に準拠して温度25℃の温度条件下で原液Aの粘度ηを測定したところ、4.8Pa・sであった。
【0057】
<原液Bの調製>
ポリオール成分として、ポリエーテルポリオール(旭硝子(株)製:EL−410NE/開始剤ペンタエリスリトール、官能基数4.0、水酸基価410)15重量部、整泡剤として、シリコーン系界面活性剤(ゴールドシュミットAG社製:B8404)0.2重量部、難燃剤として、トリスクロロプロピルホスフェート(大八化学工業(株)製:TCPP)3重量部、触媒として、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール(活剤ケミカル社製:ミニコR−9000)0.005重量部、発泡剤として、水0.5重量部、無機充填剤として、炭酸カルシウム(白石工業(株)製:Viscoexcel−30)12重量部を均一に混合して原液Bを調製した。
【0058】
<混合液の粘度>
原液Aと原液Bとを重量比(A/B)1.11で混合容器に測り取り、これをヘラで30秒間混合撹拌した。混合撹拌を開始してから120秒後にJIS K7117−2に準拠して測定したところ、η(35℃,0.1s−1)=490Pa・s、η(5℃,100s−1)=25Pa・sであった。
このとき、原液Aと原液Bの総重量に対する無機充填剤(炭酸カルシウム)の割合は18.55重量%であった。また、原液Aに含まれるポリイソシアネート成分のイソシアネート基と、原液Bに含まれるポリオール成分の水酸基の当量比(NCO/OH)は、1.20であった。
【0059】
<発泡実験、ダレの測定>
実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表5に示す。
【0060】
[実施例18〜21]
原液Bを表5に示すように調製し、表5に示す重量比で原液Aと混合した以外は、実施例16と同様にして、混合液の粘度を測定した。その結果を表5に示す。
また、当該混合液について、実施例1と同様にして、発泡実験とダレの測定を行った。その結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、発泡性目地充填剤として利用可能な硬質ウレタンフォーム原液組成物が提供され、そのような硬質ウレタンフォーム原液組成物を発泡性目地充填剤として利用して、種々の施工対象物に断熱施工を行うことができる。
【符号の説明】
【0064】
1 配管(施工対象物)
2 成形断熱材
3 ウレタンフォーム
図1
図2