(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記信号処理手段または前記信号処理手段の外部に前記送信手段の前記送信信号、前記受信手段の前記受信信号、前記信号処理手段の信号処理を同期させる基準信号を発生する信号発生手段と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の干渉型振動観測装置。
さらに、前記観測信号から画像を生成し、前記観測対象の全体画像に前記観測対象中の振動分布を表す画像を重畳する処理を前記コンピュータに実行させるための請求項8に記載の振動観測プログラム。
さらに、前記観測信号から画像を生成し、前記観測対象の全体画像に前記観測対象中の振動分布を表す画像を重畳する処理を前記コンピュータに実行させるための前記振動観測プログラムを記録した請求項10に記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
さらに、前記第1の処理手段に、または前記第1の処理手段の外部に前記送信手段の前記送信信号、前記受信手段の前記受信信号、前記第1の処理手段の信号処理を同期させる基準信号を発生する信号発生手段と、
を備えることを特徴とする、請求項14に記載の干渉型振動観測装置。
さらに、前記プラットフォームの振動が除去された前記観測データから画像を生成し、前記観測対象の全体画像に前記観測対象中の振動分布を表す画像を重畳する処理を前記コンピュータに実行させるための前記振動観測プログラムを記録した請求項23に記載のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
さらに、前記観測データから前記プラットフォームの前記振動を除去して前記画像を修正し、前記観測対象の全体画像に前記観測対象中の振動分布を表す画像を重畳する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項25に記載の振動観測方法。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は、第1の実施の形態に係る振動観測システムの一例を示している。図示した構成は一例であって、斯かる構成に本発明が限定されるものではない。
【0053】
この振動観測システム2には干渉型振動観測装置(以下単に「観測装置」と称する)4が備えられ、
図1では観測装置4がプラットフォーム6に搭載されている。プラットフォーム6はたとえば、ヘリコプターなど、振動や動揺を有する移動体である。したがって、この振動観測システム2では観測装置4を用いて振動や動揺を有するプラットフォーム6から観測対象8の振動を観測するシステムを構成している。
【0054】
観測装置4は電波Fwを媒介として観測対象またはその特定部位の振動を表す観測データを取得して画像を生成し、該画像から固定点を決定し、該固定点の振動解析によりプラットフォーム6の振動や動揺を算出し、振動や動揺を観測データから除去する機能などを備える。振動や動揺を有するプラットフォーム6からの振動計測では、観測データにプラットフォーム6の振動や動揺が加わっているので、その振動や動揺を算出し、観測データからプラットフォーム6の振動や動揺を除去することで、プラットフォーム6の振動や動揺の影響を回避する。
【0055】
観測装置4を搭載するプラットフォーム6は、観測対象8に対してたとえば、上空から観測装置4を対向させる手段であればよく、既述のヘリコプターに限定されない。ドローン、飛行機などの移動体や飛翔体などであってもよい。
【0056】
観測対象8には、高層ビル8−1、家屋8−2、橋梁8−3、ダムなどの建造物、自動車8−4、戦車8−5などの移動体の何れでもよくたとえば、ヘリコプターなどのプラットフォーム6から俯瞰できれば何れでもよい。
【0057】
図2は、観測装置4の一例を示している。この観測装置4では、送信手段10、受信手段12、信号処理手段14および画像表示手段16が含まれる。
【0058】
送信手段10は少なくともひとつの送信アンテナ18を備え、観測対象8に向けて送信信号である電波Fwを送信する。
【0059】
受信手段12は複数の受信アンテナ20を備え、観測対象8からの反射波Rを受け、受信アンテナ20毎に受信信号を生成する。
【0060】
信号処理手段14は処理手段の一例である。この信号処理手段14では、送信信号を生成し、受信手段12の受信信号を処理し、観測データを生成する。この信号処理手段14には第1の処理手段14−1、第2の処理手段14−2が備えられる。
【0061】
処理手段14−1では、受信信号間の位相差からアンテナ面に対する反射波の位相面を求めて反射波の到来方向および信号強度を同定し、その特定方向からの前記反射波の位相変動を算出し、観測対象8またはその特定部位の振動を表す観測データを生成する。これにより、画像表示手段16は、処理手段14−1で得た観測データから画像を生成し、該画像を表示する。
【0062】
処理手段14−2では、画像から固定点を決定し、この固定点の振動解析によりヘリコプター6など、プラットフォームの振動や動揺を算出し、該振動を観測データから除去する。これにより、画像表示手段16に得られる画像は、処理手段14−1で得た観測データからプラットフォームの振動や動揺が除去された画像に修正される。
【0063】
図3は、振動観測の処理手順を示している。この処理手順は本発明の振動観測方法または振動観測プログラムの一例である。
【0064】
この処理手順では、観測装置4を用いて振動計測を行い(S101)、観測データを生成する(S102)。この観測データを用いて画像表示手段16に画像22を表示する(S103)。この画像22は観測対象エリアを表している。
【0065】
この観測対象エリアの画像22から固定点を決定する(S104)。この固定点は画像22から観測対象8以外の部位や固定物をターゲットに選定すればよい。観測対象8およびプラットフォーム6の振動に対して十分長い周期で振動しているものは固定物と見做せる。たとえば、画像22では橋梁画像22−1、建屋画像22−2などが表示されているが、橋梁画像22−1を観測対象とすれば、建屋画像22−2は、観測対象ではなく、橋梁画像22−1に対して十分に振動が小さいと想定できるので、固定点Pのターゲットと成り得る。
【0066】
次に、複数の固定点データを解析する。他の固定点データと相関の無い固定点データは振動している可能性があり、固定点データから除去することで、データ精度を向上することができる
【0067】
決定された固定点Pの振動解析を行い、この振動解析からプラットフォーム6の振動を決定する(S106)。
【0068】
全観測データからプラットフォーム6の振動を除去する(S107)。そして、プラットフォーム6の振動を除去した観測データにより、画像22を修正すればよい。
【0069】
図4は、観測データの画像生成の処理手順を示している。この処理手順には処理手段14−1の振動計測(S101)から画像表示(S103)までの具体的な処理手順が含まれる。この処理手順では、振動計測の開始により、観測対象8に向けて送信信号を送信する(S111)。観測対象8からの反射波を受け、受信アンテナ毎に受信信号を生成する(S112)。
【0070】
反射波の位相面を求めて反射波の到来方向および信号強度を同定し、その特定方向からの反射波の位相変動を算出し、観測対象またはその特定部位の振動を表す観測データを生成する(S113)。この観測データにより画像を生成する(S114)。
【0071】
図5は、観測データ、画像、固定点および処理後の観測データを示している。
図5のA、CおよびDにおいて、横軸は時間、縦軸は振幅である。
【0072】
観測装置4によれば処理手段14−1により、
図5のAに示す観測データが得られる。プラットフォーム6の振動の影響を受け、この観測データにはその振動が含まれる。
【0073】
この観測データによりたとえば、
図5のBに示すように、画像22が得られる。既述したように、画像22は観測エリアを表し、この例では橋梁画像22−1、建屋画像22−2が含まれる。
【0074】
観測対象を橋梁8−3とすれば、この橋梁8−3を表す橋梁画像22−1にはプラットフォーム6の振動が重畳されている。
【0075】
この画像22から固定点Pを決定し、一例として建屋画像22−2を固定点Pに設定する。
図5のCは、固定点Pの振動を示している。この固定点Pの振動を解析し、プラットフォーム6の振動や動揺を決定する。この固定点Pの振動はプラットフォーム6の振動や動揺と見做せる。
【0076】
観測データからプラットフォーム6の振動を除去する処理により、プラットフォーム6の振動や動揺の影響を除いた観測データが得られる。
【0077】
この観測データから振動や動揺を除去した後、
図5のDに示すように、処理後の橋梁8−3の振動が求められる。
【0078】
<プラットフォーム6(移動体)の振動計測および振動補正>
【0079】
図6は、観測対象とプラットフォーム上の干渉型振動観測装置の関係を示している。
【0080】
観測装置4に対し、x軸を観測方向、y軸を観測方向と直交方向とする。mxは観測方向の振動成分、myは観測方向と直交方向の振動成分を表す。
【0081】
観測対象8は一例として橋梁8−3である。この場合、橋梁8−3の梁部に振動点Mがあり、橋桁部に固定点Pがある。橋梁8−3には振動強度スケール24に従って、振動強度を濃淡により表示してある。振動点Mは振動が最も大きい部位、固定点Pは振動が最も少ない部位である。
【0082】
観測期間において、プラットフォーム6から観測対象8(ターゲット)までの観測距離に比べ、振動によるプラットフォーム6の移動量は十分小さいものとする。プラットフォーム6の振動は、観測方向成分mxと、観測方向の成分
mxと直
交する直交方向成分myに分けることができる。直交方向成分myの振動は観測対象8との距離変化に影響しない。そのため、観測画像の位相に影響しない。
【0083】
振動の観測方向成分mxは、観測装置4と観測対象8との距離変化を生じさせるため、固定点Pからの反射波の位相が変化し、その振動が観測される。
【0084】
観測装置4には画像22が得られ、この画像22には観測装置4の機能により三次元画像と四次元画像が得られる。この画像22を生成する画像信号は、観測対象8の反射点の反射強度と位相を示す複素信号で記録することができる。
【0085】
図7のAおよびBは、三次元出力画像を示している。
【0086】
図7のAに示すように、距離計測機能を持つ一次元アンテナ配置で得られる出力画像では、縦軸(z)に距離、横軸(x)に方位、奥行きに時間軸(t)を表すことができる。時間軸は時刻を表す。時間軸上に複数の画像面26−1、26−2・・・26−nが形成される。
【0087】
図7のBに示すように、CW信号を用いるなどの距離を表す距離計測を行わない格子状、逆T字型、L型、逆T字型などの二次元アンテナ配置で得られる出力画像では、縦軸(y)に仰角、横軸(x)に方位、奥行きに時間軸(t)を表すことができる。同様に、時間軸(t)上に複数の画像面26−1、26−2・・・26−nが形成される。
【0088】
図8は、四次元出力画像を示している。この出力形式は送信信号にパルスやFMCW信号を用いた距離を表す距離計測を行う二次元アンテナ配置の出力画像である。各画素の値fは、縦軸(y)に仰角、横軸(x)が方位、奥行きが距離(z)、さらに時刻(t)により、f(x,y,z,t)で表される。
【0089】
いずれの画像形式であっても、観測対象8の固定点Pの位置(x,y,z)における信号の位相をφ(t)とする。
【0090】
観測装置4が搭載されたプラットフォーム6の観測方向の変位をR(t)、観測装置4の送信波の波長をλ、観測装置4から観測対象8の固定点Pまでの距離をRとすると、この固定点Pの位相φ(t)は次式で表される。
【0092】
画像信号をf(x,y,z,t)とし、この画像信号f(x,y,z,t)からプラットフォーム6の振動を除去する補正をした場合、振動補正後の画像信号をg(x,y,z,t)とすると、固定点Pの観測信号から抽出した位相信号を用いて、
【0093】
【数2】
と表すことができる。この演算によりプラットフォーム6の振動を除去した画像を得ることができる。つまり、画像信号f(x,y,z,t)で得られる第1の画像がプラットフォーム6の振動を除去されて第2の画像に補正される。
【0094】
位置(X1,Y1,Z1)にある観測対象8の振動A(t)は、式(3) から求めたその点の時系列画像信号g(X1,Y1,Z1,t)の位相データ変化から式(4) より求めることができる。この演算により、プラットフォーム6の振動が除去された画像が得られる。
この場合、レーダでは往復距離で計測するので、2分の1波長の変動により2πの位相回転となる。
【0095】
【数3】
但し、argは複素データの偏角を求める関数、unwrapは位相角のアンラッピングを行う関数である。
【0097】
図9は、観測データから生成される画像およびその振動除去の一例を示している。画像22は、プラットフォーム6に搭載された観測装置4に得られたものである。
【0098】
この画像22には観測対象8である橋梁8−3から橋梁画像22−1、他の観測対象8である高層ビル画像22−3が得られている。
【0099】
橋梁8−3の振動観測ではたとえば、橋梁8−3の橋桁部の振動数をプラットフォーム6の振動として橋梁8−3の観測データ(振動データ)から差し引けばよい。
【0100】
また、高層ビル8−1の振動観測ではたとえば、高層ビル8−1の低層部の振動数をプラットフォーム6の振動として高層ビル8−1の観測データ(振動データ)から差し引けばよい。
【0101】
このように観測対象8の近傍にある静止物とみなせるターゲットを観測画像上で識別し、このポイントの観測結果(振動)が、観測装置4が搭載されたプラットフォーム6の振動を表す。
観測対象8の観測データから固定物から得られる振動値を引けば、プラットフォーム6の振動の影響を受けていない観測対象8の観測データ(振動数)が得られる。
【0103】
第1の実施の形態によれば、次の効果が得られる。
【0104】
(1) ヘリコプターや気球などの移動体をプラットフォーム6に用いて観測対象8の振動を観測することができる。観測装置4は安定した地上に設置した場合の観測に比較し、振動観測の自由度が高い。送信アンテナ18から発射された電波は観測対象8で反射され、観測装置4の受信手段12に受信される。送受信号位相から観測対象8の距離を高頻度かつ精密に計測し、観測対象8の振動を観測できる。
【0105】
(2) 観測エリアはたとえば、レーダ画像として表示し、記録することができる。レーダ画像内の各観測対象8を表すターゲットはアジマス、エレベーション、距離の三次元で特定でき、微小距離の時間変化を振動として記録することができる。
【0106】
(3) 観測装置4はヘリコプターや気球などの移動体であるプラットフォーム6に搭載するので、プラットフォーム6が飛行し、移動しながら、観測対象8の振動を連続的に観測できる。これにより、観測装置4の設置が困難な山岳地や、海上、上空から、観測対象8の振動観測をすることができ、振動観測範囲を飛躍的に拡大することができる。
【0107】
(4) ヘリコプターなどの移動体をプラットフォーム6に使用し、このプラットフォーム6に観測装置4を搭載すると、プラットフォーム6の振動や動揺を受け、観測対象8側のたとえば、地上の固定物が振動しているように観測される。この振動は、プラットフォーム6の振動であるから、この振動を計測し、観測データから除去すれば、観測対象8の振動を観測できる。プラットフォーム6の振動を特定できる固定物は、観測対象8の存在する観測エリア内の何らかの固定点Pとなるターゲットを選定すればよい。
【0108】
(5) この振動観測では、固定点とみなせる点をできるだけ多く観測することが望ましい。斯かる多数の固定点データ間の相関をとることで、相関値が低い点は振動している可能性があるないし高いと見なして除外すればよい。これにより、観測データの観測精度を向上させることができる。
【0109】
(6) 固定点Pは観測対象8によって異なる。観測対8や、観測装置4を搭載しているプラットフォーム6の振動に対し、100倍以上の長い周期で振動しているものは固定物とみなすことができる。たとえば、鉄橋、高架橋、高架道路などの建造物では数〔Hz〕から数十〔Hz〕の振動を有する。この場合、鉄筋ビルなどは0.1〔Hz〕以下の振動と考えられ、固定物と見做すことができる。
【0110】
(7) 振動特性を解析すれば、観測対象8を識別可能である。船舶のエンジンやスクリュー振動の計測には、同一の船舶の振動が小さい部分を安定点として利用可能である。船舶の特性識別が可能である。しかしながら、地滑りや地殻変動、ダムなどの大型建造物の微小変位の観測にはそれより低い安定点を確保できない場合には振動観測が困難である。
【0111】
(8) 観測対象8には高いビルなど、風などにより微妙な振動をするもの、住宅など風では振動しないもの、通行車両により振動する橋梁、バス、戦車など、エンジン振動及び走行により振動する物、橋げた、地面、道路の様に振動しない種々のものを選択できる。
【0113】
図10は、第2の実施の形態に係る観測装置4を示している。
図10に示す構成は一例であって、係る構成に本発明が限定されるものではない。
【0114】
この観測装置4は、橋梁などの観測対象8またはその特定の観測部位(ターゲット)に生じる振動観測に用いられる。この振動観測には観測対象8またはそのターゲットに生じる連続した振動、不規則な振動、断続変位などの振動、または変位の観測が含まれる。
【0115】
この観測装置4には、送信部36、受信部群38、信号処理部40が含まれる。送信部36は、たとえば、単一の送信アンテナ18を備え、この送信アンテナ18に送信信号f
Tを出力する。送信アンテナ18から観測対象8に向けて送信波Twが送信される。この送信波Twはたとえば、マイクロ波である。
【0116】
受信部群38は、2以上の受信部38−1、38−2・・・38−nを備える。各受信部38−1、38−2・・・38−nが個別に受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nを備え、観測対象8からの反射波Rwを各受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nで受け、受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nごとに受信部出力信号として受信信号f
Rが得られ、信号処理部40に提供される。
【0117】
信号処理部40は、受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nごとに受信部38−1、38−2・・・38−nで得られた各受信信号を用いて、受信信号間の位相差からアンテナ面に対する反射波の位相面を求めて反射波の到来方向および信号強度を同定し、その特定方向からの反射波の位相変動を算出し、観測対象8またはその特定部位の変位または振動を表す観測信号を生成する。観測対象8は、観測対象8の全体でもよいが、観測対象8における特定の観測部位つまり、ターゲットの振動変位を対象としてもよい。
【0118】
図11は、観測対象8の干渉型振動観測の処理手順の一例を示している。この処理手順は本発明の振動観測プログラムまたは振動観測方法の一例であり、信号処理部40または観測装置4に搭載されたコンピュータによって実行される情報処理の一例である。この振動観測プログラムはたとえば、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に格納される。
【0119】
この処理手順では、送信部36が観測対象8に向けて送信信号f
Tを送信アンテナ18より送信する(S211)。各受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nで反射波Rwを受け、各受信部38−1、38−2・・・38−nに得られる受信信号f
Rから送信信号f
Tの送信タイミングに同期して既述の受信部出力信号 Y(t) が生成される(S212)。各受信部38−1、38−2・・・38−nから各受信部出力信号Y(t)が信号処理部40に提供され、信号処理部40では観測信号を生成するための信号処理を実行する(S213)。
【0120】
この信号処理(S213)には、受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nごとに各受信部38−1、38−2・・・38−nに得られる受信部出力信号に次の処理が行われる。
【0121】
a)受信部出力信号間の位相差からアンテナ面に対する反射波の位相面を求め、反射波の到来方向および信号強度を同定する。
【0122】
b)その特定方向からの反射波の位相変動を算出し、観測対象8またはその特定部位の振動を表す観測信号を生成する(S214)。
【0124】
以上説明した第2の実施の形態によれば、次の効果が得られる。
【0125】
(1) 二次元または三次元に広がりのある観測対象8には反射器を付す必要がなく、観測対象8から得られた複数の受信信号を用いて観測対象8の振動個所と振動特性を観測できる。このため、大型構造物などの全体または部分の振動状況を把握でき、この振動状況から構造物などの維持管理を迅速かつ正確に行える。しかも、観測信号から振動要因を構造物側にあるか否か、橋梁、高架道路などの構造物では通行や風などの外部要因の有無の判定に用いることができる。
【0126】
(2) 送信アンテナ18からの送信信号f
Tを空間的にスキャニングすることなく、観測対象8の全体に照射し、各受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nをデジタルビームフォーミングすればよく、観測対象8を表す画像を高解像度で実現でき、振動計測を一定時間ごとに画像化できる。これにより、振動観測や変位観測を高精度に行うことができる。なお、FMCWでは周波数をスキャンする。
【0127】
(3) 観測対象8の1または2以上のターゲットの振動特性を、同定された各観測位置からの反射波Rwによる受信信号f
Rを時間列に収集して周波数変換し、解析することにより求めることができ、観測精度を高めることができる。
【0128】
(4) 信号処理部40で生成した観測信号を用いれば、観測対象8またはその特定部位を表す画像を生成し、その振動を可視化することができる。この可視化により、観測対象8およびそのターゲットの振動を視認できる。
【0129】
(5) 観測対象8には地形の他、橋梁、高層ビル、高速道路などの大型建造物を用いることができ、これらの外観形状、その振動または変位を遠隔的に観測できる。
【0130】
(6) 観測対象8やそのターゲットに反射器などの装備を設置する必要がなく、観測対象8に反射器などの付随的な装備が不要であるから、そのための作業も不要となり、振動観測の安全性が高められる。
【0131】
(7) 送信信号f
Tにはたとえば、CW(Continuous Wave )信号、パルス信号、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave :周波数変調連続波)信号などのいずれを用いてもよい。
【0132】
(8) 受信アンテナ列20には複数の受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nをたとえば、一次元配列、二次元配列としてもよく、これらの受信アンテナ配列によって得られる受信信号の信号解析により、観測対象8およびその特定部位の二次元画像または三次元画像を得ることができる。
【0134】
図12は、第3の実施の形態に係る観測装置4を示している。
図12において、
図1と同一部分には同一符号を付してある。
【0135】
この実施の形態の観測装置4では、
図10に示す観測装置4の信号処理部40の出力側に画像表示部46を備え、信号処理部40に得られる観測信号を用いて画像表示部46に観測画像を表示する。画像表示部46は、観測装置4の内部に設置してもよいし、パーソナルコンピュータなどの外部装置を用いて画像表示機能を実現してもよい。
【0136】
図13は、この実施の形態に用いられる受信アンテナ列20の一例を示している。受信アンテナ列20にはたとえば、
図13のAに示すように、一次元配列受信アンテナ20aとして用いてもよいし、
図13のBに示すように、二次元配列受信アンテナ20bとして用いてもよい。二次元配列受信アンテナ20bでは、水平方向に配列された複数の受信アンテナ20−11、20−12、・・・20−1nのアンテナ列と、垂直方向に配列された複数の受信アンテナ20−21、20−22、・・・20−2nのアンテナ列とを備える。これらアンテナ列はたとえば、直交配置とすればよい。
【0137】
これら一次元配列受信アンテナ20a、二次元配列受信アンテナ20bに対し、送信信号方式にはCW信号方式、パルス信号方式、FMCW信号方式の3つの方式の選択が可能である。一次元配列受信アンテナ20a、二次元配列受信アンテナ20bに送信信号方式を組み合わせると、表1に示す振動計測が可能である。
【0139】
FMCW方式およびパルス方式では、方位と観測対象8までの距離で、観測対象8の識別分類が可能であり、同一方向にある複数の観測対象8の同時計測が可能である。
【0140】
そして、この実施の形態では、信号処理部40の出力側に画像表示部46が設置されている。この画像表示部46には信号処理部40から出力される観測信号が提供され、観測対象8とともにその特定部位の振動を表す画像が表示される。画像表示部46にはたとえば、パーソナルコンピュータの画像表示機能やディスプレイを用いればよい。
【0141】
信号処理部40はたとえば、
図14に示すように、コンピュータで構成される。この例では、プロセッサ48、メモリ部50、基準信号生成部52、インターフェース部54、出力部56が備えられる。
【0142】
プロセッサ48は、メモリ部50に格納されているOS(Operating System)や振動観測プログラムを実行する情報処理を含み、振動観測に必要な信号処理や各種機能部の制御などを実行する。
【0143】
メモリ部50はコンピュータで読み取り可能な記録媒体の一例であり、たとえばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を備えればよい。RAMは各種プログラムを実行するためのワークエリアを構成する。ROMはプログラムを記録する手段の一例であり、既述のOSや振動観測プログラムが格納され、振動観測に必要な各種データが格納される。ROMはたとえば、電気的に内容を書き換えることができるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory )、フラッシュメモリなどの半導体メモリであってもよい。
【0144】
また、メモリ部50はRAMやROMに限らずたとえば、磁気ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、SSD(solid state drive )などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体であってもよい。
【0145】
基準信号生成部52はプロセッサ48により制御され、同期信号となる基準信号を発生する。この基準信号が送信部36および受信部38−1、38−2、・・・38−nに提供される。
【0146】
インターフェース部54には受信部38−1、38−2、・・・38−nから出力された受信部出力信号が取り込まれる。出力部56には振動観測プログラムの実行により得られる観測信号が出力される。
【0148】
図15のAは、この観測装置4による振動観測の処理手順を示している。
【0149】
この処理手順では、送信部36から観測対象8に向け、送信アンテナ18から送信信号を送信する(S321)。これにより、観測対象8から反射波が得られ、この反射波を各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nで受け、各受信部38−1、38−2、・・・38−nで受信部出力信号を生成する(S322)。各受信部38−1、38−2、・・・38−nに得られる受信部出力信号は受信部内でデジタル化されており、信号処理部40に提供される。さらに信号処理部40では各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nを二次元配列アンテナ20bとしたときには二次元化処理が行われる(S323)。一次元配列アンテナ20
aを用いた場合には、二次元化処理(S323)を省略すればよい。
【0150】
この処理では、観測装置4の受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nと観測対象8までの距離が近距離か遠距離かの判定を行う(S324)。近距離であれば、参照関数乗算による画像化処理を行い(S325)、遠距離であれば、2DFFT(2-Dimensional Fast Fourier Transform:二次元高速フーリエ変換)処理を用いた画像化処理を行う(S326)。S325またはS326に続き、クリーン処理を行い(S327)、振動解析のための観測時間が終了かを判断する(S328)。L字、またはT字型のように、格子状以外の二次元アンテナ配列を用いた場合、この段階では擬象を含むダーティ画像である。そこでこの擬象を除去するクリーン処理を行う。クリーン処理の処理手順の詳細はたとえば、非特許文献3に記載された処理を行えばよい。
【0151】
このクリーン処理の後、観測時間の終了前(S328のNO)、S321に戻り、S321からS328までの処理を継続して実行する。この観測時間において、解析する最低振動数の1周期以上の期間に相当する画像を蓄積する。この観測時間が終了すれば(S328のYES)、参照関数乗算処理(S325)または2DFFT処理(S326)の出力に振動処理を施し(S329)、出力される観測信号により画像化処理を行う(S330)。これらの各処理は後述する。
【0153】
観測対象8やそのターゲットの形状、構造により垂直偏波または水平偏波に対し強力な反射特性が知られている。観測対象8の構造によっては、偏波が変換される場合もある。すべての観測対象8やそのターゲットの反射波Rwを計測し、観測対象8の振動や変位の観測精度を上げるには両偏波、変換された偏波も受信可能であることが望ましい。
【0154】
図15のBは、送信アンテナ18および受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nに具備させるポラメトリー機能を示している。送信アンテナ18には水平(H)偏波、垂直(V)偏波の両偏波を切り替えて送信可能とし、受信アンテナ20−1、20−2・・・20−nでは、水平偏波、垂直偏波の同時受信を可能にする。つまり、送受信タイミングでは、繰返し周期ごとに各偏波を交互に送信し、両偏波を同時に受信する。
【0155】
図15のBにおいて、HおよびVの同時受信では、受信系および信号処理部40が同じ数(H系用、V系用)だけ必要になる。H系、V系の信号処理部40から出力される観測信号は画像表示部46で合成され、観測画像が表示されることになる。
【0157】
図16は、CW信号方式の観測装置4−1を示している。
図16において、
図12と同一部分には同一符号を付してある。
【0158】
信号処理部40にある基準信号生成部52は、周波数安定度の高い基準信号を生成し、送信部36、受信部38−1、38−2、・・・38−nに供給する。送信部36のCW信号生成部58は、基準信号生成部52から受けた基準信号を用いて送信周波数のCW信号を生成する。
【0159】
このCW信号は、電力増幅部60で所定レベルに増幅された後、方向性結合器62を通して送信アンテナ18に供給される。このCW信号が送信信号として観測対象8に向けて照射される。
【0160】
送信信号の一部が方向性結合器62で分岐されて分配回路64から各受信部38−1、38−2、・・・38−nに分配される。この送信信号が各受信部38−1、38−2、・・・38−nのローカル信号に使用される。
【0161】
送信アンテナ18から観測対象8に送信信号が照射されると、観測対象8から送信信号により反射波が生じ、この反射波が各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nに入力され、受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nごとに受信信号が得られる。
【0162】
受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nで得られた受信信号は、LNA(Low Noise Amplifier :低雑音増幅器)66で増幅された後、周波数混合器(MIXER)68−1、68−2に加えられる。MIXER68−1では受信信号と、移相器70でπ/2だけ位相をシフトさせた送信信号とをミキシングする。MIXER68−2では受信信号と送信信号とをミキシングする。これにより、複素信号化(I,Q)したローカル信号で中間周波数に周波数変換が行われ、中間周波信号が得られる。各中間周波信号はLPF(Low Pass Filter :低域通過フィルタ)72−1、72−2を通過させた後、中間周波増幅部74−1、74−2で所定レベルまで増幅し、アナログ・デジタル変換器(以下「A/D」と称する)76−1、76−2で基準信号に同期したタイミングでデジタル信号に変換されて前処理部78に提供される。
【0163】
前処理部78では、1回の観測周期分、デジタル信号を積分し、雑音を低減する。これにより、各受信部38−1、38−2、・・・38−nの前処理部78の出力信号が信号処理部40に出力される。
【0164】
図17は、観測対象8における反射体8−11と、送信アンテナ18および受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nのいずれかの関係を示す。この場合、送信アンテナ18および受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nと反射体8−11の距離は、送信アンテナ18と受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−n間の距離に比べて十分大きいとする。
【0165】
ここで、送信アンテナ18から反射体8−11の位置A点までの距離をR
T、同様に受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nから反射体8−11の位置A点までの距離をR
Rとする。
【0166】
反射体8−11が振幅ΔL、振動周期ω
0 で振動しているとする。ここで、振動周期ω
0 はたとえば、1〔kHz〕程度以下の周波数とする。送信周波数をω
c とすると、送信信号f
Tと受信信号f
Rは以下のように表わされる。
【0168】
【数5】
反射体8−11が振動しているとき、各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nで得られる受信信号は、反射体8−11の振動の影響を受け、以下のようになる。
【0169】
【数6】
この受信信号をLNA66で増幅し、複素信号化(I,Q)したローカル信号で周波数変換し、LPF72−1、72−2で低域成分を抽出すると、既述の中間周波信号f
ifは、
【0170】
【数7】
となる。この中間周波信号f
if は、送信周波数ω
c を振動周期ω
0 の振幅で位相変調した信号形式になっている。
【0171】
この中間周波信号を中間周波増幅部74−1、74−2で増幅し、A/D76−1、76−2でデジタル信号に変換する。振動周期ω
0 がたとえば、1〔kHz〕以下のとき、A/D変換の周波数がたとえば、2〔kHz〕であれば、観測対象8の振動を観測できる。2〔kHz〕より高いサンプル周波数でサンプルした場合には、データを前処理部78で積分して2〔kHz〕まで低減させればよい。これにより、S/N(Signal to Noise Ratio :信号対雑音比)を向上させることができる。
【0173】
図18は、パルス信号方式の観測装置4−2を示している。
図18において、
図12と同一部分には同一符号を付してある。
【0174】
信号処理部40にある基準信号生成部52が周波数安定度の高い基準信号を生成し、送信部36および各受信部38−1、38−2、・・・38−nに供給する。
【0175】
この観測装置4−2の送信部36では、基準信号生成部52から提供される基準信号により、チャープ信号生成部80が線形チャープ信号を生成し、キャリア信号生成部82で送信周波数のキャリア信号を生成する。線形チャープ信号は、各MIXER84−1、84−2に加えられる。MIXER84−1では線形チャープ信号とキャリア信号とをミキシングする。MIXER84−2では線形チャープ信号と、移相器86でπ/2だけ位相をシフトさせたキャリア信号とをミキシングする。これにより、送信信号であるチャープパルス信号がキャリア信号で送信周波数に変換され、送信信号が得られる。この送信信号が電力増幅部88で所定のレベルに増幅された後、送信アンテナ18に供給され、観測対象8に向けて照射される。
【0176】
このパルス信号方式では、キャリア信号生成部82で生成されたキャリア信号が分配回路64により各受信部38−1、38−2、・・・38−nに分配される。各受信部38−1、38−2、・・・38−nではこのキャリア信号がローカル信号に使用される。
【0177】
観測対象8からの反射波を各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nで受け、各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nから受信信号が得られる。各受信部38−1、38−2、・・・38−nでは、受信信号がローカル信号により周波数変換され、中間周波信号が得られる。中間周波信号は、所定のレベルまで増幅後、A/D変換器76−1、76−2でデジタル信号に変換される。このパルス信号方式において、各受信部38−1、38−2、・・・38−nは、既述のCW信号方式の観測装置4−1と同様であるので、同一符号を付しその説明を割愛する。
【0178】
このようなパルス信号方式の観測装置4−2では、一般的なレーダと同様にパルス圧縮技術を使用でき、このパルス圧縮技術を用いれば、レンジ分解能を向上させることができる。
【0179】
図19は、パルス信号方式の送信信号の様子を示している。
図19のAは送信信号の周波数変化、
図19のBは送信信号の振幅変化を示している。
【0180】
このパルス信号方式では、送信信号f
T (t)が、チャープ率をkとすると、
【0182】
このパルス信号方式において、CW信号方式の受信信号と同様に
図17に示したように、振動している観測対象8の反射体8−11からの受信信号を求めてみる。
【0183】
送信アンテナ18から反射体8−11の位置A点までの距離をR
T、同様に受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nから反射体8−11の位置A点までの距離をR
Rとする。反射体8−11は振幅ΔL、振動周期ω
0 で振動しているとする。ここで、振動周期ω
0 はたとえば、1〔kHz〕程度以下で、送信周波数F
Cと比べて十分に低い周波数とすればよい。
【0184】
この場合、受信信号f
R(t)は次式で表わされる。
【0186】
この受信信号をLNA66で増幅し、キャリア信号を分離し、複素信号化したローカル信号で周波数変換した後、LPF72−1、72−2で低域成分を抽出すると、中間周波信号f
if が得られる。
【0188】
この中間周波信号f
ifを中間周波増幅部74−1、74−2で増幅し、A/D76−1、76−2でデジタル信号に変換し、前処理部78でチャープ信号のパルス圧縮を行った後、信号処理部40に出力する。
【0189】
図20は、前処理部78のパルス圧縮処理を示している。
図20において、Aはパルス圧縮処理、Bはパルス圧縮処理で得られる出力を示している。
【0190】
このパルス圧縮処理は、チャープ信号f(t)および参照関数g(τ) の相関により行われる。参照関数g(τ) はチャープ信号f(t)における送信チャープ関数の共役関数であり、以下の式で表される。
【0193】
各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nにおける受信信号の各レンジに対する処理は、CW信号方式の処理と同じである。ただし、観測対象8と受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nとの距離ごとに反射体8−11の方位検出処理が行われる。これは反射点であってもよい。
【0195】
図21は、FMCW信号方式の観測装置4−3を示している。
図21において、
図12または
図16と同一部分には同一符号を付してある。
【0196】
このFMCW信号方式ではたとえば、FMCWレーダと同様に送信信号周波数を線形FM信号として広帯域に走査してレンジ分解能を向上させることができる。
【0197】
信号処理部40にある基準信号生成部52は、周波数安定度の高い基準信号を生成し、送信部36、受信部38−1、38−2、・・・38−nに供給する。
【0198】
送信部36のFMCW信号生成部90は、基準信号生成部52から提供される基準信号をもとに、送信帯域幅を線形に周波数走査が施されたFMCW信号を生成する。
【0199】
このFMCW信号は、電力増幅部60で所定のレベルに増幅された後、方向性結合器62を通して送信アンテナ18に供給され、送信アンテナ18により観測対象8に向けて照射される。
【0200】
送信信号の一部は分配回路64に加えられ、この分配回路64で各受信部38−1、38−2、・・・38−nに分配される。この送信信号は、各受信部38−1、38−2、・・・38−nでローカル信号として使用される。
【0201】
FMCW信号方式では送信信号に連続波が用いられ、送信信号の送信および受信信号の受信が同時に行われる。送受信を同時に行うため、送信アンテナ18の送信信号が直接波として受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nに廻り込まないように対策する必要がある。たとえば、送信アンテナ18と各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nとの間に距離を設定すればよい。つまり、送信アンテナ18と各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nとが干渉しない程度の間隔を持たせた配置とすればよい。
【0202】
送信アンテナ18により観測対象8に照射された送信信号は観測対象8で反射し、その反射波を受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nで受け、受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nごとに受信信号が得られる。各受信信号は、LNA66で増幅された後、MIXER68でローカル信号(送信信号を分岐し、分配したもの)とミキシングされて周波数変換され、中間周波信号に変換される。この中間周波信号からLPF72で低域成分が抽出され、この低域成分信号が所定のレベルまで中間周波増幅部74で増幅された後、A/D変換器76でデジタル信号に変換され、このデジタル信号が前処理部78に提供される。前処理部78では、提供されたデジタル信号からFFT処理によりレンジ空間に対応した周波数領域を持つデジタル信号に変換される。このデジタル信号が受信部出力信号として信号処理部40に提供される。
【0203】
図22は、送受信信号の様子を示している。
図22において、Aは送受信信号の周波数変化、Bは受信部内のミキサー出力信号の周波数を示している。つまり、送受信アンテナから観測対象点までの往復距離だけ、受信信号が遅れるので、この受信信号遅れにより送信信号と受信信号間に周波数差が生じる。この周波数差がミキサー出力信号の周波数になる。
【0204】
FMCW信号方式の送信信号f
T(t)は、チャープ率をk とすると次式で示される。
【0206】
CW信号方式の受信信号と同様に
図17に示すように、振動している観測対象8の反射体8−11からの受信波を求めてみる。送信アンテナ18から反射体8−11の位置A点までの距離をR
T、同様に受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nから反射体8−11の位置A点までの距離をR
Rとする。
【0207】
反射体8−11は振幅ΔL、振動周期ω
0 で振動しているとする。ここで、振動周期ω
0 はたとえば、1〔kHz〕程度以下で、送信周波数F
Cに比べて十分に低い周波数とすればよい。送信周波数をFc、チャープ率をk とすると、受信信号f
Rは以下のように表される。
【0209】
この受信信号をLNA66で増幅した後、送信信号を分岐したローカル信号で周波数変換し、LPF72で低域部分を抜き出すと、以下のような中間周波信号f
ifとなる。
【0211】
この中間周波信号f
ifを中間周波増幅部74で増幅、A/D76でデジタル信号に変換し、前処理部78では、FMCW信号をFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)により周波数変換することで、各距離の信号成分が抽出される。
【0213】
各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nで得られる受信信号の各レンジに対する処理は既述のCW信号方式での処理と同様である。ただし、このFMCW信号方式では、距離ごとに反射体8−11の方位検出処理を行う。この方位検出処理では、各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nの各受信信号から方位合成を行う。
【0215】
この方位合成について、
図23を参照する。
図23では、単一の送信部36と、6台の受信部38−1、38−2、・・・38−6を用いた観測装置4を想定している。
【0216】
送信アンテナ18から距離R
Tだけ離れた観測対象8に送信信号を照射する。観測対象8から得られる反射波は受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6に受信される。既述のCW信号方式、パルス信号方式、FMCW信号方式のいずれであっても、各受信部38−1、38−2、・・・38−6の出力信号は、観測対象8から送信アンテナ18、受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6までの総距離R により、
【0218】
【数18】
である。式(18)において、n は、受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6に付したアンテナ番号であり、1〜6とする。
【0219】
振動周波数は低いものとし、その値は
図22のAに示す繰返し周期PRT内で一定値とみなせるとすれば、式(18)は、
【0220】
【数19】
に書き換えることができる。これらの受信部38−1、38−2、・・・38−6の出力信号は、信号処理部40で参照関数と相関処理される。これにより、信号処理部40では、方位分解能に応じた信号成分が抽出される。
【0221】
この方位分解能は次のように求めることができる。各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6が等距離d で、1列状態であるとすれば、さらに両端にd/2 の効果があると考えられる。この場合、受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6の実効的な全体の開口長D は、
D=5 ×d +d ・・・(20)
となる。
【0222】
このような全体の開口長D を持つ受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6では、期待できる方位分解能θ
RES は送信信号の波長をλとすると、
θ
RES =λ/D ・・・(21)
となる。送信アンテナ18および各受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6のそれぞれの開口長を等しいものとし、それぞれの開口長をd
0とすると、観測範囲θ
0 は、
θ
0 =λ/d
0 ・・・(22)
で表される。
【0223】
CW信号方式では、距離の分離識別ができないので、一方向に単独の反射点しかない場合に使用可能である。
【0224】
受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6の中心位置から観測範囲θ
0 、距離R
0の扇型線上の点について、方位分解能θ
RES ごとに参照関数g(R,n ,θ) を生成する。この参照関数g(R,n ,θ) は、
【0225】
【数20】
で表される。ここで、Rx(R,n ,θ) は送信アンテナ18から距離R 、方位θにある反射点、さらにn 番目の受信アンテナ20−nまでの総距離である。
【0226】
中間周波信号f
if(R ,n)と参照関数g(R ,n ,θ) の共役関数と相関処理することで、方位分解能ごとの信号h(R ,θ) が抽出される。この信号h(R ,θ) は、
【0228】
観測対象8にひとつの観測点としてターゲットを想定すると、このターゲットまでの距離が展開したアンテナの全体の開口長D に比べて遠方であれば、ターゲットまでの送信信号波は無限遠から到来すると考えられる。この場合、参照関数処理はより簡単なFFTに置き換えることが可能である。一般的にはこの距離は遠方界と呼ばれる領域で、展開されたアンテナの全体の開口長をD 、波長をλとすれば、
【0229】
【数22】
となる。この場合、
図24に示すように、各アンテナ間の位相差は、観測対象8までの距離に無関係で受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−6のアンテナ面に対する角度で決定される。中間周波信号f
if(n)をFFT処理すれば、周波数成分h(f)が方位方向の信号に変換される。FFT出力の周波数をf とすると、方位θは、
【0231】
【数24】
となり、観測対象8の反射体の信号を含む特定の方位の信号を時系列に解析することで、観測対象8の振動特性として、その振動周期、振動振幅を求めることができる。
【0232】
<観測対象8の態様と観測装置4を用いた振動観測>
【0233】
観測対象8の態様と振動観測について、
図25、
図26および
図27を参照する。
図25は、なだらかな斜面上に二つの反射点としてターゲットA、Bが存在し、それぞれが方位A、方位Bに存在する場合を示している。
【0234】
図26は、CW信号方式の観測装置4−1を使用し、距離情報を含まない受信系出力を信号処理部40で処理した例を示している。この例では、方位Aと方位Bの各信号成分は各ターゲットA、Bの振動により時間軸上で変化している。
【0235】
図27は、
図25に示すターゲットをパルス信号方式またはFMCW信号方式の受信部38−1、38−2・・・38−nにより、一次元配列受信アンテナ20aを用いて観測した例を示している。
【0236】
この場合、1回観測ごとに方位と距離の二次元空間上にターゲットA、Bがマッピングされ、送受信のくり返し周波数がターゲットA、Bの振動周波数の2倍以上であれば、ターゲットA、Bの振動情報を含む位相データの解析により、観測対象8の振動特性を観測することができる。
【0238】
図28は、一次元配列受信アンテナ20aを用いた観測装置4の一例であり、この観測装置4は既述のCW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式のいずれであってもよい。
図28において、
図12と同一部分には同一符号を付してある。この場合、信号処理部40の出力側にある画像表示部46にはたとえば、パーソナルコンピュータ92が用いられている。パーソナルコンピュータ92のディスプレイ94には観測信号により生成された画像が表示される。この場合、画像表示部46から出力される制御信号が信号処理部40の基準信号生成部52に加えられ、基準信号の生成に用いられる。
【0239】
大型構造物などの観測対象8の高さ方向の位置同定を行う場合には、二次元配列受信アンテナ20bを用いて観測すればよい。観測対象8内にある個々の構造物の位置の同定は、受信アンテナ20−1、20−2、・・・20−nのアジマス(以下「AZ」と称する)角と、エレベーション(以下「EL」と称する)とで行うことができる。
【0240】
図29は、二次元配列受信アンテナ20bを用いた観測装置4の一例であり、この観測装置4も既述のCW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式のいずれであってもよい。
図29において、
図28と同一部分には同一符号を付してある。
【0241】
一次元配列受信アンテナ20aを用いた観測装置4では、
図30のAに示すように、受信部38−1、38−2、・・・38−nから各受信部出力信号を受け、観測対象8が近距離か遠距離かによる設定を行う(S411)。近距離では参照関数乗算処理を行い(S412)、遠距離ではFFT処理を行う(S413)。これらの処理結果に振動処理を行い(S414)、画像化処理を実行する(S415)。これにより、観測対象8およびその特定位置の振動画像が得られる。
【0242】
この場合、一次元配列受信アンテナ20aでは、受信信号を参照関数乗算処理(S412)またはFFT処理(S413)により観測対象8からの反射波の方位を特定することができる。送信部36は、観測対象8に送信信号を発生すると同時に、受信部38−1、38−2・・38−nは送信信号と同期した受信タイミングを制御するためのローカル信号が分配される。そこで、基準信号生成部52は、送信部36、受信部38−1、38−2・・・38−nおよび信号処理部40の各部に同期信号を提供する。信号処理部40の各部は、基準信号生成部52からのタイミング信号を入力として、近距離観測の場合は参照関数乗算を実施し、反射波Rwの各方位を同定する。また、遠距離観測の場合は、FFT処理にて受信部出力信号を周波数変換し、反射波Rwの各方位を同定する。その後、振動処理にて観測対象8の各点の振動特性を算出する。
【0243】
二次元配列受信アンテナ20bを用いた観測装置4では、
図30のBに示すように、受信部38−11、38−12、・・・38−1nから出力される各受信部出力信号、受信部38−21、38−22、・・・38−2nから出力される各受信部出力信号を用いて二次元化処理(S421)を行う。つまり、二次元配列受信アンテナ20bを用いた場合には、縦軸方向に置かれた受信アンテナ20−21、20−22、・・・20−2nの出力信号と横軸方向に置かれた受信アンテナ20−11、20−12、・・・20−1nの出力信号を各アンテナ位置に対応した2次元アドレスのメモリ上に格納することにより二次元配列の出力信号が生成される。この場合、観測対象8が近距離か遠距離かによる設定を行う(S422)。近距離では参照関数乗算処理を行い(S423)、遠距離では2DFFT処理を行う(S424)。これらの処理で得られるダーティ画像にクリーン処理(S425)を行った後、振動処理を行い(S426)、画像化処理を実行する(S427)。これにより、観測対象8およびその特定位置の振動画像が得られる。
【0244】
二次元配列受信アンテナ20bでは、
図29に示すように、アンテナおよび受信系統をL型に配置する。この場合、アンテナおよび受信系統をT型に配置してもよい。いずれの場合も、観測対象8の三次元画像化が可能となる。
【0245】
受信部38−11、38−12、・・・38−1nと、受信部38−21、38−22、・・・38−2nとの動作タイミングは、既述の処理と同様に信号処理部40の基準信号生成部52で生成された基準信号をローカル信号に用いて制御される。また、信号処理部40では二次元化処理により観測対象8の各点の位置の同定並びに振動特性解析が行われる。
【0246】
この場合、送信アンテナ18の送信と受信アンテナ20の受信とが同時刻に行われるため、送信信号が受信側に廻り込まないように、送信アンテナ18と受信アンテナ20とが干渉しない程度に分離設置される。また、観測画像における方位分解能は、最も離れて設置された受信アンテナ列20側のアンテナ間距離により決定される。また観測可能な視野角は、各受信アンテナ列20の各アンテナビーム幅により決定される。
【0247】
したがって、二次元配列受信アンテナ20bを用いた観測処理では、参照関数処理、または二次元FFT処理により決定されたAZ角、EL角と各受信部38−11、38−12、・・・38−16、38−21、38−22、・・・38−26で処理された距離情報を使用し、同定された位置からの反射波の位相履歴をFFT処理による周波数解析により、観測対象8の全体における振動特性が得られる。
【0248】
二次元配列受信アンテナ20bを横軸方向に6基の受信アンテナ20−11、20−12、・・・20−16、縦軸方向に6基の受信アンテナ20−21、20−22、・・・20−26を逆T字に配置した場合を想定する。
【0249】
この場合の受信部38−11、38−12、・・・38−16、38−21、38−22、・・・38−26の各受信部出力信号を二次元化する場合、後述のたとえば、
図35のBに示すように、格子点(n,m)における出力信号が生成される。
【0250】
この場合の出力信号は、パルス方式あるいはFMCW信号方式ではレンジ圧縮後のあるレンジにおける信号強度と位相を表し、反射波の位相面を表しており、一種のホログラムとなっている。この格子点の数は、受信アンテナ20−11、20−12、・・・20−16、20−21、20−22、・・・20−26の縦と横の設置格子点数の積となる。
【0251】
二次元配列受信アンテナ20bにおいて、横軸方向の受信アンテナ列の受信部38−11、38−12、・・・38−16の出力をh
AZ,h
EL、縦軸方向の受信アンテナ列の受信部38−21、38−22、・・・38−26の出力をh
EL(R ,m ,t)とする。ここでn 、m はそれぞれ横軸方向、縦軸方向のアンテナ番号、R は観測対象8とアンテナ間の距離とする。二次元化出力h(m ,n ,R ,t)は
h(m ,n ,R ,t)= h
AZ(R, m
0,n, t) + h
EL(R,m,n
0,t) ・・・(28)
ここで、n
0,m
0はそれぞれ縦方向アンテナの横位置、横方向アンテナの縦位置を示 す。
この二次元データを処理する参照関数は、ターゲット位置から二次元アンテナ配列の各アンテナまでの距離から求められる位相関数となる。
【0254】
【数27】
この参照関数の共役関数と二次元化処理された受信信号の複素乗算和を求め、さらにクリーン処理で擬象を除去することにより、特定方向の特定の距離におけるターゲットの状況を解析することができる。
【0255】
【数28】
一次元処理と同様に観測対象8が遠距離にある場合は、二次元FFT処理(2DFFT)を行うことで、そのターゲットの方向を同定することができる。
【0257】
図32は、パルス方式またはFMCW信号方式の観測装置4において、二次元配列受信アンテナ20bを用いた場合の振動解析例を示している。
【0258】
この場合、観測ごとに方位とEL、距離の三次元の位置情報と共に反射信号の振幅と位相で表されるターゲットの信号が記録される。その各ターゲットの振幅位相情報を時系列に解析することで、観測範囲内の任意の位置の微小変位や、動揺、振動を計測することができる。
【0259】
大型構造物などの観測対象8の任意の点の振動を解析するには、既述の二次元配列受信アンテナ20bを使用し、観測対象8内にある個々の構造物の全ての点の反射波の位相履歴をFFT処理し、周波数解析すれば、観測対象8の全体における振動特性が求められる。
【0261】
図33は、観測画像表示の一例を示している。既述のパーソナルコンピュータ92のディスプレイ94には、信号処理部40の観測データから生成された画像22が表示されている。この画像22上には観測データに含まれる橋梁を表す橋梁画像22−1と、振動を表す振動画像が含まれる。この振動画像の振動はグレースケールによって表され、この振動状態を視覚的に比較認識するためのグレースケールとして振動強度スケール24が表示されている。橋梁画像22−1の濃淡状況は、画像によって橋梁各部の振動強度分布を表している。この例では、濃淡の濃い部分は観測された振動が弱く、淡い部分は振動が強いことを示している。このような画像
22から観測対象8の形状、そのグレースケール表示により観測対象8およびその特定部位における振動態様や変位が可視化され、この例では、濃淡状態から振動形態を視認することができる。
【0263】
図34は、既述のレンジ圧縮処理を含む処理手順の一例を示している。この処理手順では、
図15のAに示す処理手順と同様に、送信(S531)、受信(S532)の処理の後、各受信信号に対してアナログ・デジタル(AD)変換処理が行われる(S533)。このAD変換処理の後、レンジ圧縮処理が実行される(S534)。このレンジ圧縮処理の後、二次元化処理(S535)、近距離・遠距離の判定(S536)、近距離の場合には参照関数乗算処理(S537)、遠距離の場合には2DFFT処理(S538)、クリーン処理(S539)、観測時間の判定(S540)、振動処理(S541)および画像化処理(S542)が実行される。これらの処理は既述の処理(
図15)と同様であり、一次元配列受信アンテナ20aを用いた観測装置4では二次元化処理(S535)とクリーン処理を省略すればよい。
【0265】
参照関数は、
図31に示す各格子点を計測しようとするターゲット位置とすると、その格子点からの反射を受信した場合の受信系の出力信号である。パルス方式、FMCW方式など距離計測を行う場合、レンジ圧縮後のそのターゲット位置のレンジに相当する信号が参照関数となる。たとえば、1点のターゲットを処理するための参照関数は、アンテナが横配列6台。縦配列6台であれば、各アンテナ出力のターゲットがある特定のレンジ出力12データから構成されることになる。画像化しようとするターゲットエリアが左右(方位方向)100m上下(仰角方向)50m、奥行き(距離方向)90mで1m画素間隔の画像を処理するための参照関数のデータ数は100(横)×50(上下)×90(距離)×12(データ数)となる。
【0266】
この参照関数の演算処理では、生成される参照関数と二次元化処理からの出力信号のひとつとを乗算すれば、出力画像エリアの各格子点の出力画像が得られる。ただしこの段階の画像に擬象を多く含んでいれば、この擬象をクリーン処理で除去し、真の画像のみ抽出すればよい。
【0267】
観測対象8が、遠距離にある場合は、二次元FFT処理(2DFFT)で、二次元化処理からの出力信号を二次元FFT処理の後、同様にクリーン処理を行う。これにより、観測対象8からの出力信号の位置が同定される。
【0268】
〈二次元アンテナ配列を用いた振動観測の一例〉
【0269】
図35のAおよびBは、二次元アンテナ配列を用いた振動観測の処理方式の一例を示している。この処理方式では、
図35のAに示すように、観測装置4から観測対象8のたとえば、橋梁8−3に対し、送信波Tmを送信し、橋梁8−3から得た反射波Rmを観測装置4の受信部群38で受信している。この方式は第1の実施の形態ないし第5の実施の形態と同様である。この実施の形態では、受信アンテナ20は複数の受信アンテナをT型配列としたものである。水平方向には受信アンテナ20−31、20−32・・・20−3nが配列され、垂直方向には受信アンテナ20−41、20−42・・・20−4nが配列されている。
【0270】
この実施の形態では、観測装置4には受信信号を二次元情報とするために、H配列受信信号と、V配列受信信号とを用いることにより、
図35のBに示す各格子点(m×n)での受信データが生成される。アンテナがない格子点は0となる。また、近距離の処理では、参照関数も二次元情報とするため、二次元化処理と同様に(m×n)のデータを発生させている。
【0271】
図36は、この実施例の処理手順の一例を示している。この処理手順では、上記実施の形態の二次元化処理を除き、受信データはT字型格子点上にのみ存在する処理としてもよい。この場合、参照関数は受信データと同様にT型型格子点でのみ生成し、受信データとの参照関数の乗算処理を行えばよい。
【0272】
この処理手順では、送信(S621)、受信(S622)を経て二次元化処理(S623)を行う。送信(S621)および受信(S622)は上記実施の形態で説明したので、割愛する。
【0273】
二次元化処理(S623)の後、受信信号をアンテナの受信位置に相当する二次元格子点に対応させる。次に、近距離か遠距離かの判定を行い(S624)、近距離であれば参照関数の演算処理を行い(S625)、遠距離であれば2DFFT処理を行う(S626)。
【0274】
参照関数の演算処理(S625)では既述のm×nの参照関数乗算を行う。そして、S625またはS626の処理を経てクリーン処理(S627)を行い、振動解析のための観測時間が終了したか否かの判定を行う(S628)。観測時間が終了していなければ(S628のNO)、観測時間が終了するまで、S621〜S628の処理を継続して行う。
【0275】
観測時間が終了すれば(S628のYES)、振動処理(S629)、画像化処理(S630)を実行し、この処理を終了する。
【0276】
このような処理手順によれば、参照関数の生成、参照関数の乗算処理演算量を大幅に低減でき、処理精度や性能は上記実施の形態と同様である。
【0278】
この第3の実施の形態によれば、次のいずれかの効果が得られる。
【0279】
(1) 二次元または三次元の広がりを持つ観測対象8の形状の画像化と同時に対象全体の微小な振動およびその振幅の周期などを、レーダ技術により遠隔から且つ非接触で計測できる。
【0280】
(2) この観測装置4やその信号処理によれば、橋梁、ビル、高架道路などの大型建造物が、交通、気象、騒音などによって受ける振動特性を計測し、建造物の強度変化、保守の必要性を判断するための情報を提供できる。
【0281】
(3) 観測対象に向けて信号を送信する1つの送信部36と、観測対象8で反射した反射波Rwを受信する複数の受信部38−1、38−2、・・・38−nと受信した信号を画像化し、更に観測対象8の面的な振動特性を算出する信号処理部40と計測結果を表示する画像表示部46を有する。
【0282】
(4) 二次元的に展開されている構造物を主に計測し、受信アンテナが二次元配列されている場合は、方位と仰角、または方位と仰角と距離で対象点を識別でき、高層ビルや、橋梁、高架道路などの高さ方向に広がりのある建造物などの観測対象8の振動や変位を計測でき、その計測結果を可視化できる。
【0283】
(5) 送信信号がパルス波またはFMCW信号波であれば、レンジ圧縮処理で反射点の距離に分類できる。各受信アンテナ間の位相から対象点の方向で分類し、各方向、距離の対象点の反射強度を画像化、およびその対象点からの信号の位相変化から微小変動や、振動を検出、画像化することができる。
【0284】
(6) 観測対象8が近距離にある場合は、参照関数演算を行って対象点の反射強度と位相を算出し、観測対象8が遠距離にある場合は、FFTで行い、反射波の強度と位相情報を得ることができる。擬象が生じるアンテナ配列の場合には、既述のクリーン処理を行えばよく、これにより擬象を抑えることができる。
【0285】
(7) 送信信号がCW波の場合、各受信部は送信波と同じ信号をローカル信号としたターゲットの反射強度と方位情報を含む出力信号(IQ)が得られる。送信信号がパルス波の場合は、受信部出力は対象点までの伝搬遅延時間だけシフトし、ターゲットの反射強度と方位情報を含む送信波の位相差に相当する出力信号(IQ)が得られる。
【0286】
(8) 送信信号がFMCW信号である場合には、受信信号は送信信号をローカルとして周波変換され、伝搬遅延に相当する周波数成分となる。この成分信号が信号処理部40のFFT処理により周波数領域に変換し、各距離の対象点の反射強度と送信波との位相差に相当する方位情報を含む出力信号(IQ)が得られる。
【0287】
(9) 信号処理部40では、観測対象8が近距離の場合は、参照関数を生成し、受信信号との乗算処理を行う。この参照関数は、観測対象8の距離とAZ角度に応じた位相変位を推定することにより生成する。この参照関数と受信部出力信号の相関演算およびアンテナ配列によってはクリーン処理により観測対象8の位置を特定し、その点の振動特性として、同定された各観測点からの受信信号を時間列収集し、FFT処理により周波数特性が求められる。
【0288】
(10) 信号処理部40は、観測対象8が遠距離にある場合は、受信部出力信号を先ず、二次元化処理した後、観測対象各点から反射された時間列受信信号のFFT演算を行い、アンテナ配列によってはクリーン処理を行うことにより観測対象の位置と反射信号を特定し、特定の位置の反射信号を周波数解析することによりその地点の振動特性を算出できる。
【0289】
(11) 画像表示部46は、信号処理部40で生成される観測信号により生成された画像上に、同じく信号処理部40で算出した観測対象各点の振動特性を重ね合わせて画像化できるので、観測対象8の全体振動の状況を可視化できる。
【0290】
(12) 従来のマイクロ波を使用した振動計と異なり反射器を観測対象8に付けることなく、構造物全体の形状の画像化とその画像上へ建造物の振動個所と振動特性を画像表示できる。このため、構造物の全体の振動状況把握を可能にし、構造物の維持管理を迅速かつ正確に行うことができる。
【0291】
(13) 距離情報は、近距離の場合、参照関数との乗算で求め、遠距離の場合は、受信信号をFFTで周波数領域に変換することで求めている。パルス方式、FMCW信号方式では、レンジ圧縮処理を行うことにより求められる。送信アンテナのビームをスキャンすることなく観測対象8の全体に送信波を照射し、受信アンテナから得られる反射波をデジタルビームフォーミングすることにより高解像度の画像と振動計測を一定時間ごとに画像化できる。
【0292】
(14) 観測対象8の各点の位置は、近距離の場合には受信信号と参照関数との乗算により、また、遠距離の場合には受信信号をFFT演算で周波数領域へ変換することで容易に求めることができる。アンテナ配列によっては生じる擬象をクリーン処理で除去できる。
【0293】
(15) 観測対象8の各点の振動特性は、同定された各観測位置からの反射波を時間列に収集し、周波数変換し、解析することにより容易に求めることができる。
【0294】
(16) 観測対象8にレーダ反射器を付けることなく、観測対象8の全体を画像として捉え、時系列観測した受信情報を周波数解析することで、容易に構造物全体の振動特性を画像化することができる。
【0295】
(17) 観測対象8に反射器を取り付けることなく、また、観測対象8の特定部分のみならず観測対象全体が通行または気象などの原因により発している振動を完全非接触で計測することができ、大型橋梁、高架道路などの施設の老朽化対策などの保全管理に利用できる。
【0297】
第3の実施の形態の信号処理部40では、
図14に示すように、プロセッサ48などを備えることにより、振動観測にコンピュータによる情報処理を用いている。これに対し、信号処理部40は、振動観測を実現する既述の各機能をハードウェアで実現してもよい。
【0298】
図37は、第4の実施の形態に係る信号処理部40のハードウェアの一例を示している。
図37に示す信号処理部40ではハードウェアで構成した二次元化部100、近距離・遠距離切替部102、参照関数乗算部104、2DFFT部106、クリーン処理部107および振動処理部108を備える。二次元化部100、近距離・遠距離切替部102、参照関数乗算部104、2DFFT部106および振動処理部108の各機能は、既述した処理をハードウェアで実現しており、その内容に変更がないので、その説明を割愛する。この例は、既述の二次元配列アンテナ20bに対応するものであり、既述の一次元配列アンテナ20aを用いる場合には、二次元化部100は省略すればよい。
【0300】
第4の実施の形態によれば、コンピュータ処理による情報処理によらず、ハードウェアによる直接的な処理で観測対象8の観測画像および振動画像を実現することができる。
【0302】
第5の実施の形態では、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式の観測装置4を詳述している。CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式のいずれで観測装置4を構成してもよいが、これらすべての方式による振動観測を可能にしてもよい。
【0303】
図38は、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式による振動観測を可能にした観測装置4−4を示している。
図38において、上記実施の形態と同一部分には同一符号を付してある。
【0304】
この観測装置4−4では、CW信号送受信部110−1、パルス信号送受信部110−2、FMCW信号送受信部110−3、信号方式切替部112および制御部114が備えられている。
【0305】
CW信号送受信部110−1は、
図16に例示するように、CW信号方式による送受信を行う。パルス信号送受信部110−2は、
図18に例示するように、パルス信号方式による送受信を行う。FMCW信号送受信部110−3は、
図21に例示するように、FMCW信号方式による送受信を行う。
【0306】
信号方式切替部112は、CW信号方式の際、CW信号送受信部110−1からの受信信号を受け、パルス信号方式の際、パルス信号送受信部110−2からの受信信号を受け、FMCW信号方式の際、FMCW信号送受信部110−3からの受信信号を受ける。信号方式切替部112はこれらの受信信号を選択し、信号処理部40に提供する。
【0307】
信号処理部40は、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式による振動観測のための信号処理を行う。
【0308】
画像表示部46は、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式を表す表示とともに、信号処理部40の処理結果である観測信号を受け、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式の画像を表示する。
【0309】
制御部114は、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式の各モードに対応し、選択されたモードに応じてCW信号送受信部110−1、パルス信号送受信部110−2、FMCW信号送受信部110−3のいずれかを動作させ、信号方式切替部112の信号切替、信号処理部40の処理を選択する。制御部114は、コンピュータによって構成すればよい。
【0311】
(1) 第5の実施の形態によれば、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式の各モードを選択的に利用して所望の観測画像を生成することができる。
【0312】
(2) 観測対象8などの観測条件に応じてCW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式の各モードを選択でき、観測条件に影響を受けることなく、最も適した信号方式の選択によって観測精度が高められる。
【0314】
図39は、振動観測システム2の応用例を示している。
【0315】
この応用例では、振動観測システム2を遠隔から会話、通話内容の音声モニターシステムとして利用する。音波を電波で観測することはできないが、振動観測システム2の振動観測を媒介として音声をモニターする。
【0316】
図39に示すように、音声をモニターする観測対象8として、建造物内の任意の居室が選択される。この観測対象8の外部には、プラットフォーム6に搭載されて観測装置4が設置されている。
【0317】
居室内の居住者がたとえば、電話で通話している場合を想定すると、居住者が発する音波により周囲に置かれたテーブル8−101、花瓶8−102、TV8−103、ソファ8−104、タンス8−105、食器なども音波により僅かではあるが、音波の周波数に対応した振動を起こす。
【0318】
観測装置4から電波を居室外から発射し、その反射波を受信すると、その受信信号から振動を遠隔検出することができ、この振動解析により観測対象の会話や、振動状況を検出できる。係る構成によれば、音波としては聴覚で認識できない遠距離、壁で仕切られた空間からの反射波を受信すれば、観測対象8の会話や状況を振動としてモニターすることができる。
【0319】
そして、観測装置4が搭載されたプラットフォーム6に振動があれば、振動していないであろう固定点を設定し、その固定点の振動成分を観測データから減算すれば、音声モニターを正確に行うことができる。
【0321】
a)上記実施の形態では、CW信号方式、パルス信号方式またはFMCW信号方式の信号方式を例示したが、これ以外の信号を用いてもよい。
【0322】
b)観測対象として建造物を例示したが、侵入者などの監視などに利用してもよい。
【0323】
c)上記実施の形態では、信号処理部40の内部に基準信号生成部52を備えているが、本願発明はこれに限定されない。信号処理部40の外部に基準信号生成部52を備え、この基準信号生成部52が生成した基準信号を信号処理部40、送信部36または受信部38−1、38−2・・・38−nに提供してもよい。
【0324】
d)第2の実施形態に係る観測装置4は、第1の実施形態に係る振動するプラットフォーム6に設置されることに限定されるものではない。振動しないプラットフォームに設置されて振動観測が行えることは、言うまでもない。
【0325】
e)上記実施形態では、振動するプラットフォーム6には、ヘリコプターなどの移動体や飛翔体を例示したが、クレーンなどの固定物であっても振動を伴うものであればよく、上記実施形態のプラットフォームに限定されるものではない。
【0326】
以上説明したように、振動または変位の観測装置の最も好ましい実施の形態などについて説明した。本発明は、上記記載に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。