(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一つの態様は、下記一般式(1):
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3、X、a、b及びcは、先に定義したとおりである)
で示される、シロキサン化合物である。ここで、当該シロキサン化合物においては、R
1を含む単位、R
2を含む単位、SiR
32Oで表される単位が上記一般式(1)で示されるとおりに配列している必要はなく、例えばR
1を含む単位とR
2を含む単位との間にSiR
32Oで表される単位が存在していてもよいことが理解される。
【0012】
一般式(1)で示される環状構造を有するシロキサン化合物は、加水分解性基を環状構造中に多く導入することができ、更にそれが位置的に集中しているため、熱伝導性充填剤の処理効率が高くなり、より高充填化を可能にすると考えられる。加えて、上記シロキサン化合物自体の耐熱性が高いため、熱伝導性ポリシロキサン組成物に高い耐熱性を与えることができる。また、特定の理論に束縛されるものではないが、分子中に適切な長さのシロキサン鎖を有することで、熱伝導性充填剤の粒子と相互作用する部分及びシリコーンポリマーと相互作用する部分との距離が適度に抑えられ、熱伝導性充填剤である無機粒子とベースポリマーであるシリコーンポリマーとを適度に媒介する役割を果たし、組成物の粘度が減少するものと考えられる。更に、このようなシロキサン化合物は、例えば、水素基が含有された環状シロキサンと、片末端にビニル基を有するシロキサン、ビニル基と加水分解性基を含有したシラン化合物とを付加反応させることで容易に得ることができるという利点がある。
【0013】
一般式(1)において、R
1は、炭素数1〜4のアルコキシシリル基を含有する加水分解性の官能基であり、より具体的には以下の構造を有する基が例示される。R
1は、ケイ素で直接Xと結合していてもよいが、エステル結合等の連結基により結合していてもよい。R
1としてより具体的には以下の構造を有する基が例示される。
【化4】
なかでも、R
1は、熱伝導性充填剤の処理効率がより向上する傾向にある点から、アルコキシシリル基を2つ以上、特に3つ有する構造の基であることが好ましい。また、原料を得ることが容易である点から、R
1は、メトキシシリル基を含有することが好ましい。
【0014】
R
2は、一般式(2):
【化5】
(式中、R
4、Y及びdは、先に定義したとおりである)で示される基である。
【0015】
一般式(2)において、dの数は10〜50の範囲、好ましくは10〜40の範囲、より好ましくは20〜30の範囲である。この範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能とし、シロキサン化合物自体の粘度を抑えることができ、さらに安定性が向上する。R
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、直鎖状又は分岐鎖状のC
1−12アルキル基、フェニルやナフチル等のアリール基が挙げられる。また、塩素、フッ素、臭素等のハロゲンで置換されていてもよく、そのような基として、トリフルオロメチル基等のパーフルオロアルキル基が例示される。合成が容易であることから、R
4はメチル基であることが好ましい。Yは、炭素数1〜6の1価の炭化水素基である。合成が容易であることから、Yはメチル基であることが好ましい。
【0016】
R
1及びR
2は、基Xを介し、一般式(1)で示されるシロキサンの環状シロキサン部分と結合される。基Xは、炭素数2〜10の2価の炭化水素基であり、−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH(CH
3)−、−CH
2CH(CH
3)CH
2−等のアルキレン基が例示される。合成が容易となる点から、Xは−CH
2CH
2−又は−CH
2CH(CH
3)−であることが好ましい。
【0017】
R
3は、それぞれ独立して、炭素数1〜6の1価の炭化水素基である。各々のR
3は同一でも異なっていてもよい。合成が容易であることから、R
3はメチル基であることが好ましい。
【0018】
aは1以上の整数であり、好ましくは1である。bは1以上の整数であり、1又は2であることが好ましいが、bの値は、上記一般式(1)中に含まれる−SiR
42O−単位の数が20〜60の範囲になるようにdの値と併せて設計されることが好ましい。cは0以上の整数、好ましくは0〜2である。また、a+b+cの和は、4以上の整数であるが、合成が容易であることから4であることが好ましい。
【0019】
以上説明したようなシロキサン化合物の代表例として下記の構造式で示される化合物を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化6】
【0020】
ここで、シロキサン化合物の構造を説明するにおいては、シロキサン化合物の構造単位を以下のような略号によって記載することがある(以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」等ということがある)。
M:−Si(CH
3)
3O
1/2
M
H:−SiH(CH
3)
2O
1/2
M
Vi:−Si(CH=CH
2)(CH
3)
2O
1/2
D:Si(CH
3)
2O
2/2
D
H:SiH(CH
3)O
2/2
T:Si(CH
3)O
3/2
Q:SiO
4/2
例えば、前記一般式(2)においてR
4がメチル基であり、Yがビニル基であるような構造は、−D
nM
Viと記述される。ただし、例えばD
H20D
20と記した場合には、D
H単位が20個続いた後D単位が20個続くことを意図するものではなく、各々の単位は任意に配列していてもよいことが理解される。
【0021】
本発明のシロキサン化合物は、当業者に公知の方法又は類似の方法を利用することで調製することができる。一例として、Si−H結合を2つ以上有する環状シロキサンとビニルトリメトキシシランのような不飽和結合を有するアルコキシシランとを反応させ、次いで不飽和結合を有する直鎖状ポリシロキサンと反応させることで、一般式(1)で示される構造のシロキサンを得ることができる。反応条件、精製方法等は当業者であれば適宜選択が可能である。
【0022】
本発明の一態様は、上記シロキサン化合物を含む、熱伝導性充填剤用の表面処理剤である。本発明のシロキサン化合物は、熱伝導性充填剤用の表面処理剤として働き、表面処理された熱伝導性充填剤をベースポリマーであるシリコーンポリマーと混合することで、取扱い性に優れた熱伝導性組成物を与えることができる。以下、当該組成物に含まれる熱伝導性充填剤及びシリコーンポリマーについて説明する。
【0023】
[熱伝導性充填剤]
熱伝導性充填剤としては、一般的に公知の無機充填剤が例示され、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ粉、炭化ケイ素、金属粉体、ダイヤモンド、水酸化アルミニウム、カーボン等が挙げられる。特に好ましいものはアルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミニウム又は炭化ケイ素である。これらの無機充填剤としては、熱伝導性充填剤として利用可能なグレードのものであれば特に制限されず、市販のものを利用することができる。
【0024】
熱伝導性充填剤は、利用可能なグレードのものであれば平均粒子径の大きさに特に制限はないが、平均粒子径が300μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒子径がこの範囲にあるものの中でも、平均粒子径が大きいものを配合すると、充填率を上げることができず、一方、平均粒子径が小さいものでは、粘度が大きくなる傾向があるが、熱伝導性充填材の平均粒子径を適宜選択し、配合することで、目的に適った粘度の組成物を得ることができる。
【0025】
熱伝導性充填剤には、粒子径が相対的に大きな充填剤と、粒子径が相対的に小さな充填剤とを併用することも好ましい。複数種類の粒子径を有する充填剤を併用することによって、相対的に粒子径の大きい充填剤の間隙に相対的に粒子径の小さい充填剤が入り込み、より高充填が可能になる。充填剤は平均粒径によって大粒径(例えば粒子径30μm以上)、中粒径(例えば粒子径1μm以上〜30μm未満)、小粒径(例えば粒子径1μm未満)のものに分類することができ、これらから少なくとも2種類以上、特に3種類を用いることが好ましい。複数種類の異なる粒径を有する充填剤を用いる場合には、それらの配合割合は任意とすることができるが、組成物調製の作業性、得られる組成物の熱伝導性の面から、大粒径の充填剤を30〜70質量%用いることが好ましく、35〜65質量%用いることがより好ましい。大粒径、中粒径、小粒径の3種類の充填剤を用いる場合には、中粒径及び小粒径の充填剤の配合比は、1:40〜40:1の範囲とすることが好ましく、1:7〜7:1の範囲とすることがより好ましい。
【0026】
熱伝導性充填剤に用いられる無機粒子の形状は、特に制限されない。例えば球状、丸み状、不定形の粒子のいずれも用いることができ、更にこれらのうち少なくとも2種類を併用することもできる。無機粒子の形状が丸み状、不定形である場合の平均粒子径は、当業者に公知の方法によって定義される。平均粒子径は、例えば、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用いて、重量平均値(又はメジアン径)等として求めることができる。
【0027】
熱伝導性ポリシロキサン樹脂中の充填剤の配合量は、シロキサン化合物と硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂の全体量100質量部に対し、10〜5000質量部の範囲である。好ましくは50〜4000質量部、より好ましくは100〜3000質量部の範囲において本発明の効果が顕著に発揮される。
【0028】
[シリコーンポリマー]
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物は、ベースポリマーであるシリコーンポリマーとして、ポリオルガノシロキサン樹脂を含む。ポリオルガノシロキサン樹脂としては、シリコーングリース、シリコーンゴム等のベースとして用いられるものであれば、直鎖状、分岐鎖状、環状のもの等、その構造に特に限定されることなく用いることができる。また、官能基を導入した変性シリコーンを用いることもできる。例えば、グリースの硬度を変化させる等の目的のために、ポリオルガノシロキサン樹脂は、硬化反応の反応点となるような硬化性官能基を一つ以上有していてもよい。ここで、本明細書において「硬化性官能基」とは、樹脂の硬化反応に関与し得る官能基を指す。硬化性官能基の例としては、ビニル基、(メタ)アクリル基、ケイ素に直接結合した水素基等が挙げられる。これらの硬化性官能基は、硬化性の観点からは、一分子中に2つ以上あることが好ましく、入手又は調製の容易性から、一分子中に2つであることが好ましい。ただし、硬化性官能基の数が一分子中に一つであるような化合物を用いることもできる。また、有する硬化性官能基の数が異なる複数種の化合物を併用することもできる。硬化反応の機構は特に制限されず、付加反応、縮合反応などの、樹脂の硬化に一般的に用いられる方法を採用することができる。
【0029】
付加反応によって硬化する、硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂として、以下の一般式(3):
【化7】
(式中、
R
aは、それぞれ独立して、脂肪族不飽和基であり、
Rは、それぞれ独立して、C
1−6アルキル基又はC
6−12アリール基であり、
nは、23℃における粘度を0.01〜50Pa・sとする数である)で示される、脂肪族不飽和基を含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンが例示されるが、このような構造の樹脂に限定されるものではない。このような直鎖状ポリオルガノシロキサンのなかでも、Rが全てメチルであり、R
aがビニル基であるようなポリオルガノシロキサンが、入手の容易性から好ましく用いられる。
【0030】
硬化性官能基を有するポリシロキサン樹脂の配合量は、熱伝導性充填剤100質量部に対して1〜50質量部の範囲であることが好ましく、3〜40質量部の範囲であることがより好ましい。この範囲とすることで、熱伝導性充填剤の有する高い熱伝導率を損なうことなく、均一な熱伝導性ポリシロキサン組成物を得ることができる。
【0031】
ポリシロキサン樹脂は、付加反応硬化型、縮合反応硬化型などの硬化反応の機構により分類することができる。反応機構により分類した場合には、生産性及び作業性の観点から、付加反応硬化型ポリシロキサンを用いることが好ましい。付加反応硬化型ポリシロキサンとしては、(a)ベースポリマーである不飽和基含有ポリオルガノシロキサン、(b)架橋剤である水素基含有ポリオルガノシロキサン、(c)硬化用触媒である白金化合物、からなるものが知られている。
【0032】
(a)成分の不飽和基含有ポリオルガノシロキサンとしては、1分子中にケイ素原子に結合した有機基のうち、少なくとも平均して0.5個以上の不飽和基が含有されていることが好ましい。不飽和基の数が1分子あたり0.5個より少ないと架橋にあずからない成分が増加するため、十分な硬化物が得られない。不飽和基の数が1分子あたり0.5個以上であれば基本的に硬化物は得られるが、余りに過剰であると硬化物の耐熱性が低下し、本来の目的を達成できなくなってしまうため、0.5〜2.0個の範囲であることが好ましい。不飽和基は、ポリオルガノシロキサンを調製しやすいことからビニル基が好ましい。不飽和基は、分子鎖末端、分子鎖側端、いずれの位置に結合していてもよいが、硬化速度が高まり、硬化物の耐熱性も保てる点から、分子鎖末端にあることが好ましい。
【0033】
不飽和基含有ポリオルガノシロキサンにおけるその他の官能基としては、1価の置換又は非置換の炭化水素基が挙げられ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、ドデシル等のアルキル基;フェニル等のアリール基;2−フェニルエチル、2−フェニルプロピル等のアラルキル基;クロロメチル、3,3,3−トリフルオロプロピル等の置換炭化水素基等が例示される。メチル基又はフェニル基が合成の容易さから好ましい。
【0034】
不飽和基含有ポリオルガノシロキサンの構造は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。また、その粘度は特に制限されないが、23℃における粘度が、0.01〜50Pa・sであることが好ましい。
【0035】
一般的に、不飽和基含有ポリオルガノシロキサンは、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサンと、R
3SiO
0.5(ここで、Rは1価の炭化水素基である)単位を有するオルガノシロキサンとを、アルカリ、酸等の適切な触媒にて平衡化重合させ、その後、中和工程、余剰の低分子シロキサン分を除去することにより得られる。
【0036】
(b)成分の水素基含有ポリオルガノシロキサンは、Si−H結合を有するシロキサン化合物であり、架橋剤となる成分である。その配合量は、(a)成分の不飽和基1個に対し、ケイ素原子に直接結合した水素原子が0.2〜5.0個となる量である。0.2個より少ないと、硬化が十分に進行せず、5.0個を超えると、硬化物が固くなり、また硬化後の物性にも悪影響を及ぼすことがある。また、1分子に含まれるケイ素原子に結合した水素基数は少なくとも2個以上であることが必要であるが、その他の条件、水素基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されず、また2種以上の水素基含有ポリオルガノシロキサンを使用してもよい。
【0037】
水素基含有ポリオルガノシロキサンは、代表的には、一般式(4):
(R
b)
x(R
c)
ySiO
(4−x−y)/2 (4)
(式中、
R
bは、水素原子であり、
R
cは、C
1−6アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、好ましくはメチル)又はフェニル基であり;
xは、1又は2であり;
yは、0〜2の整数であり、ただし、x+yは1〜3である)
で示される単位を分子中に2個以上有する。
水素基含有ポリオルガノシロキサンにおけるシロキサン骨格は、環状、分岐状、直鎖状のものが挙げられるが、好ましくは、環状又は分岐状の骨格である。
【0038】
(c)成分の白金化合物は、(a)成分の不飽和基と(b)成分の水素基を反応させ、硬化物を得るための硬化用触媒である。この白金化合物としては、塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金ビニルシロキサン錯体、白金リン錯体、白金アルコール錯体、白金黒等が例示される。その配合量は、(a)成分の不飽和基含有ポリオルガノシロキサンに対し、白金元素として0.1〜1000ppmとなる量である。0.1ppmより少ないと十分に硬化せず、また1000ppmを超えても特に硬化速度の向上は期待できない。また、より長いポットライフを得るために、反応抑制剤の添加により、触媒の活性を抑制することができる。公知の白金族金属用の反応抑制剤として、2−メチル−3−ブチン−2−オール、1−エチニル−2−シクロヘキサノール等のアセチレンアルコール、マレイン酸ジアリルが挙げられる。
【0039】
熱伝導性充填剤を配合させた組成物を調製する方法としては、シロキサン化合物とポリシロキサン樹脂と熱伝導性充填剤とを、混練機器を使用しそのまま調製してもよく、あるいはシロキサン化合物と充填剤とを先に混合し表面処理を施した後、ポリシロキサン樹脂へ分散し調製してもよい。また、必要に応じ、加熱、減圧又はその他公知の方法による処理を実施してもよい。また、先に述べた付加反応硬化型ポリオルガノシロキサンを含む場合には、前述の(a)成分を先に配合した樹脂組成物を調製しておき、硬化させる直前に(b)成分及び(c)成分の混合物を添加することもできる。
【0040】
熱伝導性組成物中における一般式(1)で示されるシロキサン化合物の配合量は、熱伝導性充填剤100質量部に対して0.01〜20質量部の範囲である。シロキサン化合物の量をこの範囲とすることで、熱伝導性充填剤の充填性を高めつつ、熱伝導性を高くすることができる。シロキサン化合物の配合量は、より好ましくは0.1〜15質量部の範囲である。また、ベースポリマーとなるポリシロキサン樹脂100質量部に対しては、1質量部以上用いることが好ましい。シロキサン化合物の量がポリシロキサン樹脂に対し1質量部未満であると熱伝導性充填材の表面処理効果が少なくなり、高配合ができなくなる。また過剰であると、硬化後の機械的物性や耐熱性に悪影響を与えるため、より好ましくは0.1〜500質量部の範囲である。
【0041】
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、当業者に公知の顔料、難燃剤、接着付与剤、耐熱付与剤、希釈剤、有機溶剤等を適宜配合することができる。
【0042】
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物は、ポリシロキサン樹脂が硬化性官能基を有する場合には、硬化によりシリコーンゴムとすることができる。ポリシロキサン組成物の硬化反応は、ポリシロキサン樹脂が有する硬化性官能基の種類に応じて適宜選択される方法によって行うことができる。
【0043】
硬化性官能基として、エポキシ基等熱により硬化反応を起こす官能基を有するポリオルガノシロキサンを用いる場合には、熱伝導性ポリシロキサン組成物に熱を掛けることにより硬化することもできる。熱硬化の条件は当業者に公知であるが、熱による硬化反応に用いることができる機器としては、例えば、恒温槽等の当業者に公知の装置が挙げられる。加熱条件は、組成物が適用される部材の耐熱温度に合わせて適宜調整することができ、硬化時間を決めることができる。例えば、40〜100℃の熱を、1分〜5時間の範囲で加えることができる。加熱温度は、操作性の観点から、50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。加熱時間は、硬化工程の簡便さの観点から、5分〜3時間であることが好ましく、10分〜2時間であることがより好ましい。
【0044】
本発明の熱伝導性ポリシロキサン組成物を硬化させることによって得られるシリコーンゴムは、電子機器、集積回路素子等の電子部品の放熱部材として使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部はすべて質量部を示す。
【0046】
材料の合成
[実施例1]
・重合度20のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物
【化8】
5000mLフラスコ中、トルエン440gとSi−H結合を2つ有する環状シロキサン1992gの溶液に、白金触媒の存在下、ビニルトリメトキシシラン1100gを添加した。120℃で3時間反応を行った。得られた反応液から溶媒を除去し、次いで蒸留を行い、無色液体を得た。
得られた液体75gに直鎖状ビニルポリシロキサン(MD
20M
Viで表されるポリシロキサン:モメンティブ製)300gを添加した。さらに白金触媒を加え、120℃で5時間反応を行い、無色油状物として目的のシロキサンを得た。
FT IR測定により、2850cm
-1付近にメトキシ基由来の吸収ピークを確認した。
1H NMR測定(500MHz、CDCl
3中)では、3.55ppmにメトキシ基由来のシグナルが観測され、0.01ppm付近のケイ素に隣接したメチル基由来のシグナルとの積分比から、D単位数がおよそ20である直鎖状ポリシロキサン構造が1分子あたり1つ導入されていることを確認した。GPC測定の結果では、単分散のピーク(分散度1.13)が確認され、測定された平均分子量は構造式とのよい一致を示した。
【0047】
[実施例2]
・重合度30のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物
【化9】
実施例1で得られた環状シロキサンとビニルトリメトキシシランの反応物である液体77gに直鎖状ビニルポリシロキサン(MD
30M
Viで表されるポリシロキサン:モメンティブ製)450gを添加した。さらに白金触媒を加え、120℃で5時間反応を行い、無色油状物として目的のシロキサンを得た。
FT IR測定により、2850cm
-1付近にメトキシ基由来の吸収ピークを確認した。
1H NMR測定(500MHz、CDCl
3中)では、3.56ppmにメトキシ基由来のシグナルが観測され、0.04ppm付近のケイ素に隣接したメチル基由来のシグナルとの積分比から、D単位数がおよそ30である直鎖状ポリシロキサン構造が1分子あたり1つ導入されていることを確認した。GPC測定の結果では、単分散のピーク(分散度1.15)が確認され、測定された平均分子量は構造式とのよい一致を示した。
【0048】
[実施例3]
・重合度40のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物
【化10】
直鎖状ビニルポリシロキサンとしてのMD
30M
Viで表されるポリシロキサンを、MD
40M
Viで表されるポリシロキサンに代えた以外は実施例2と同様にして、無色油状物として目的のシロキサンを得た。反応が完了し、目的のシロキサンが得られていることは、
1H NMR、FT IR、GPC測定により確認した。
【0049】
[実施例4]
・重合度30のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物(2)
【化11】
環状シロキサンをSi−H結合を3つ有するものに代え、直鎖状ビニルポリシロキサンとしてのMD
30M
Viで表されるポリシロキサンを2倍量用いた以外は、実施例1と同様にして、無色油状物として目的のシロキサンを得た。反応が完了し、目的のシロキサンが得られていることは、
1H NMR、FT IR、GPC測定により確認した。
【0050】
[比較例1]
・重合度70のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物
【化12】
ビニルトリメトキシシランを3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランに代え、直鎖状ビニルポリシロキサンとしてのMD
30M
Viで表されるポリシロキサンを、MD
70M
Viで表されるポリシロキサンに代えた以外は実施例4と同様にして、無色油状物として目的のシロキサンを得た。反応が完了し、目的のシロキサンが得られていることは、
1H NMR、FT IR、GPC測定により確認した。
【0051】
[比較例2]
・重合度200のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物
【化13】
直鎖状ビニルポリシロキサンとしてのMD
30M
Viで表されるポリシロキサンを、MD
200M
Viで表されるポリシロキサンに代えた以外は実施例1と同様にして、無色油状物として目的のシロキサンを得た。反応が完了し、目的のシロキサンが得られていることは、
1H NMR、FT IR、GPC測定により確認した。
【0052】
以下の配合例及び配合比較例にて用いた材料は、以下のとおりである。
<熱伝導性充填剤>
平均粒子径0.4μmの丸み状アルミナ(スミコランダムAA−04:住友化学製)
<ポリオルガノシロキサン樹脂>
α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.35Pa・s
<表面処理剤:一般式(1)で示されるシロキサン化合物>
実施例1〜4、比較例1〜2で得られたシロキサンを、各々の配合例1〜4及び配合比較例1〜2にて用いた。実施例、比較例と配合例、比較配合例との対応は、表1に示す。以下において、「重合数」とは、シロキサン化合物中に含まれる−Si(CH
3)
2O
2/2−単位(D単位)の数の合計を表す。
<<硬化用組成物>>
<不飽和基含有ポリオルガノシロキサン>
α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.35Pa・s
α−ビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.35Pa・s
<水素基含有ポリオルガノシロキサン>
MD
H20D
20Mで表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:粘度0.03Pa・s
M
HD
20M
Hで表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:粘度0.02Pa・s
<白金触媒>
Pt-M
ViM
Vi錯体(白金の1,2−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体)
<反応抑制剤>
マレイン酸ジアリル(東京化成工業株式会社製)
【0053】
[アルミナのシロキサン化合物による表面処理]
・配合例A
一般式(1)で示されるシロキサン化合物として配合例1〜4及び配合比較例1〜2に対応するシロキサン化合物を各々1質量部、ポリオルガノシロキサン樹脂としてα,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン(粘度0.35Pa・s)又はα−ビニルポリジメチルシロキサン(粘度0.35Pa・s)を所定量、アルミナとしてスミコランダムAA−04を100質量部プラネタリーミキサーにて所定の方法により混練し、アルミナを表面処理した熱伝導性ポリシロキサン組成物Aを得た。得られた組成物Aについて、JIS K6249に準拠して、回転粘度計(ビスメトロン VDH)(芝浦システム株式会社製)を使用して、No.7ローターを使用し、10rpm、1分間で、23℃における粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
・配合例B
配合例Aにて調製した熱伝導性ポリシロキサン組成物A 66.65重量部に、不飽和基含有ポリオルガノシロキサンとしてα,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン(粘度0.35Pa・s)を4.5質量部及び前述した白金‐ビニルシロキサン錯体触媒濃度が白金原子換算で2ppmとなる量、また、熱伝導性ポリシロキサン組成物A 残り66.65重量部に、水素基含有ポリオルガノシロキサンとしてMD
H20D
20M及びM
HD
20M
Hを各々0.7及び1.06質量部ずつ、反応抑制剤としてマレイン酸ジアリルを0.002質量部加え、プラネタリーミキサーにて所定の方法によりそれぞれ混練し、熱伝導性ポリシロキサン組成物B−1及びB−2を得た。得られた組成物B−1及びB−2を所定の割合になるように配合、均一に撹拌した後、内寸6mm(深さ)×60mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型に流し込み、熱風循環式乾燥機を用い、70℃30分で硬化させた。23℃まで硬化物を冷却後、JIS K6249に準拠してTypeE硬度を測定した。また、その硬化物の熱伝導率を、TPS1500(京都電子工業製(株))を用い測定した。また、ポリシロキサン組成物B−1及びB−2を70℃の環境下に3日間置き、23℃まで冷却後、B−1及びB−2を所定の割合になるように配合、均一に撹拌した後、内寸6mm(深さ)×60mm(縦)×30mm(横)のテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型に流し込み、熱風循環式乾燥機を用い、70℃30分で硬化させた。23℃まで硬化物を冷却後、JIS K6249に準拠してTypeE硬度を測定した。そ結果を以下の表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1より、一般式(1)で示される、所定の範囲の重合数により適度な長さのシロキサン鎖構造を有するシロキサン化合物を表面処理剤として用いることにより、取扱いが可能な粘度であり、かつ加速試験においても硬さがほとんど変化しない、安定性に優れた組成物が得られることが示された。一方、一般式(1)で示されるシロキサン化合物を用いない場合には、組成物の硬さが経時的に低下してしまい、安定性の点で問題が残る結果となった。