【文献】
浅野敏郎 等,テニス・スウィングの解析と定量評価,精密工学会誌,2007年,Vol.73,No.2,281-285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るユーザによるテニスラケットのスイング動作を分析する分析装置、分析システム、分析プログラム及び分析方法について説明する。
<1.分析システムの概要>
図1に示すとおり、本発明の一実施形態に係る分析システム1は、ユーザによるテニスラケット10のスイング動作をサンプリングする撮像システム3と、撮像システム3から送られてくるサンプリングデータに基づいて、ユーザによるテニスラケット10のスイング動作を分析する分析装置2とを有している。本実施形態に係る分析装置2は、ユーザによるテニスラケット10のスイング動作を分析することにより、主として、ユーザが様々なテニスラケット10の中から自分に適したテニスラケット10を選択するための判断材料を提示するための装置である。すなわち、分析システム1は、ユーザが自身に適したテニスラケット10を選択するのを支援するためのシステムであり、主として、テニスラケット10の販売を行うテニス用品店や、テニススクール等に導入される。なお、「スイング」という用語には、グラウンドストロークのみならず、ボレーやサーブ等、テニスラケット10を振る任意の行為が含まれる。
【0022】
本実施形態では、撮像システム3によるユーザのスイング動作の撮影は、
図2に示すテニスコート6内で行われる。撮像システム3による撮影の対象となるのは、プレーヤー7であるユーザがテニスラケット10をスイングし、正面から飛んでくるテニスボールを打ち返す場面である。
【0023】
図2に示すとおり、テニスコート6内には、3次元直行座標系であるX軸、Y軸及びZ軸が定義されている。ここで、X軸は、テニスコート6のサイドライン6Aに平行であり、X軸の正の方向とは、プレーヤー7にとっての自陣60から相手陣62に向かう方向である。Y軸は、テニスコート6のエンドライン6Bに平行であり、Y軸の正の方向とは、相手陣62を向いたプレーヤー7から見て右から左に向かう方向である。Z軸は、鉛直方向に平行であり、Z軸の正の方向とは、鉛直上向きの方向である。このXYZ座標系は、テニスコート6が基準とされた座標系であり、換言すれば、地面が基準とされた絶対座標系である。
【0024】
図3に示すとおり、テニスラケット10は、プレーヤー7が手で握るためのグリップ12と、楕円リング状のヘッド14と、グリップ12とヘッド14とを連結するシャフト16及び一対のスロート18とを有している。また、テニスラケット10は、ヘッド14の内側に縦横に張り渡されたガット13により形成されるフェース11を有している。
【0025】
後述するとおり、本実施形態では、スイング動作時におけるグリップ12及びヘッド14の軌道をトラッキングすることが重要になる。従って、ユーザによるスイング動作の測定に用いられるサンプルのテニスラケット10には、グリップ12及びヘッド14の適当な位置に画像処理時の目印となるマークを付けておくことが好ましい。本実施形態では、
図2に示すように、グリップ12の軸の真ん中付近にマークM1が、ヘッド14の上端(グリップ12の軸の延長線上にある)にマークM2が、ヘッド14の上端よりも少し低い位置(グリップ12の軸の延長線上にない)にマークM3が付与されている。また、画像処理時にこのマークを確実にトラッキングできるように、少なくとも部分的にテニスラケット10を透明に改変してもよい。ただし、この改変は、テニスラケット10の重量等の、テニスラケットとしての機能に影響する属性を実質的に変化させない程度のものとする。
【0026】
<2.各部の詳細>
以下、分析システム2の各部の詳細について説明する。
<2−1.撮像システム>
図1に示すとおり、撮像システム3は、プレーヤー7のスイング動作を三次元的に捉えることができるように、2台のカメラ3A,3Bを有している。カメラ3A,3Bは、高速デジタルカメラであり、それぞれ、各種レンズからなる光学系30A,30Bと、光学系30A,30Bを介して受光する撮像素子31A,31Bと、これらを収容する筐体33A,33Bとを有している。さらに、カメラ3A,3Bは、それぞれ、筐体33A,33B内に、撮像素子31A,31Bによる撮像動作を制御する制御部32A,32Bと、外部装置との通信を可能にする通信部34A,34Bとを有している。カメラ3A,3Bの撮像範囲(画角)やピントは、自陣60内、特にプレーヤー7付近を正確に捉えることができるように調整されている。
【0027】
図4に示すとおり、カメラ3A,3Bは、両者の光軸が互いに直交するように、テニスコート6の近傍に固定されている。より具体的には、カメラ3Aは、撮像方向がYZ平面に直交し、かつ、X軸負方向を向くように、相手陣62側のエンドライン6B付近に配置されており、カメラ3Bは、撮像方向がZX平面に直交し、かつ、Y軸正方向を向くように、自陣60側のサイドライン6A付近に配置されている。特に、カメラ3Bは、被写体となるプレーヤー7が右利きである場合を想定して、Y軸方向に負の側、すなわち、自陣60側から相手陣62側を向いているプレーヤー7にとっての右手側のサイドライン6A付近に配置されている。従って、プレーヤー7が左利きである場合には、カメラ3Bは、撮像方向がZX平面に直交し、かつ、Y軸負方向を向くように配置されることが好ましい。
【0028】
制御部32A,32Bは、CPU、RAM、ROM等からなり、予め格納されているプログラムを実行することにより、それぞれ、カメラ3A,3B全体の動作を制御する。制御部32A,32Bは、通信部34A,34Bを介して相互に通信しながら、撮像素子31A,31Bによる撮像動作を同期させる。なお、通信部34A,34Bは、通信線36を介して相互に接続されている。また、撮像動作は、プレーヤー7によりスイング動作が1回行われる間に、所定の撮影速度(例えば、500〜1000FPS)で繰り返し実行される。その結果、撮像動作の各タイミングにつき、異なる2つ角度からプレーヤー7のスイング動作を捉えた2枚の画像、すなわち、YZ平面に平行な画像(以下、YZ画像)及びZX平面に平行な画像(以下、ZX画像)が撮像される。従って、撮像システム3では、プレーヤー7による1回のスイング動作に対し、同期した2系統の時系列の画像群がサンプリングされる。
【0029】
また、制御部32A,32Bは、それぞれ、通信部34A,34Bを介して分析装置2と相互に通信可能であり、撮像素子31A,31Bにより撮像される時系列の画像群を順次符号化し、符号化された画像データをリアルタイムに分析装置2に転送する。これらの2系統の画像データは、分析装置2において、プレーヤー7によるスイング動作の分析に供される。なお、通信部34A,34Bは、それぞれ、通信線37,38を介して分析装置2に接続されている。なお、画像データは、撮像されるにつれてカメラ3A,3Bから刻々と分析装置2へ送信されるのではなく、カメラ3A,3Bに設けられている所定の記憶部内に一時保存しておき、1本又は複数本のラケット10に対応するスイング動作が終了した段階でまとめて分析装置2へ送信するようにしてもよい。
【0030】
<2−2.分析装置>
分析装置2は、CD−ROM、DVD−ROM、ブルーレイディスク、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体20に格納された分析プログラム22aを汎用のパーソナルコンピュータにインストールすることにより製造される。分析プログラム22aは、撮像システム3によりサンプリングされた2系統の画像データ(サンプリングデータ)を画像処理することにより、ユーザが自分に適したテニスラケット10を選択するための判断材料を表示部34に表示させるためのソフトウェアである。分析プログラム22aは、分析装置2に後述する動作を実行させる。
【0031】
図1に示すように、分析装置2は、制御部21と、記憶部22と、入力部23と、表示部24と、通信部25とを有しており、これらの部21〜25は、バス線等を介して互いに通信可能である。本実施形態では、制御部21は、CPU、ROMおよびRAM等から構成されており、記憶部22は、内蔵又は外付けのハードディスク等から構成されている。分析プログラム22aは、記憶部22内に格納されており、制御部21は、記憶部22から分析プログラム22aを読み出して実行することにより、算出部21a及び作成部21bとして動作する。算出部21a及び作成部21bの動作については、後述する。入力部23は、マウスや、キーボート、タッチパネル等から構成されており、分析装置2に対するユーザからの操作を受け付けるユーザインターフェースである。表示部24は、液晶ディスプレイ等から構成されており、各種画面をユーザに対し表示するユーザインターフェースである。通信部25は、分析装置2をカメラ3A,3B等の外部機器に接続する通信インターフェースである。
【0032】
<3.分析方法>
以下、分析システム1により実現されるスイング動作の分析方法について説明する。
まず、自分に適したテニスラケット10を探しているユーザ自身が、プレーヤー7としてテニスコート6に配置される。そして、このプレーヤー7に対し、相手陣62に配置されたもう一人のプレーヤー又はテニスボールマシーンからテニスボールが連続的に供給される。なお、プレーヤー7に対するボールの供給は、一定方向かつ一定速度とされることが好ましい。プレーヤー7は、ボールを相手陣62に打ち返すように心がけながら、手に持ったラケット10をスイングして、飛んできたボールを連続的に打ち返す。すなわち、分析システム1による分析の対象となるプレーヤー7のスイング動作は、いわゆる素振りではない。
【0033】
そして、撮像システム3により、プレーヤー7が、候補となる異なる種類の複数のラケット10を用いて上述のスイング動作を行う場面が記録される。なお、ここでいう異なる種類のラケットとは、例えば、フレームの大きさや質量等が異なるラケットや、ガット13の種類が異なるラケット等である。本実施形態では、各ラケット10に対し、所定のサンプル数(例えば、5)ずつ、スイング動作の記録がサンプリングされる。これは、同じラケット10での複数回のスイング動作の記録を平均化することにより、ユーザとそのラケット10との相性を正確に評価するためである。また、これにより、特定のラケット10でのスイング動作の安定性を評価することも可能になる。従って、サンプル数は、例えば、3〜10回程度であることが好ましい。なお、本実施形態では、打撃したボールが相手陣62に入らなかったときは、当該スイング動作はサンプル数のカウントから外され、その後の分析の対象とならない。同様に、打撃したテニスボールが相手陣62に入ったとしても、明らかなミスショットであれば、当該スイング動作はサンプル数のカウントから外され、その後の分析の対象とならない。
【0034】
プレーヤー7によるスイング動作中、この様子を撮影した2系統の時系列の画像群に対応する画像データ(サンプリングデータ)が、カメラ3A,3Bから分析装置2へ時々刻々送信される。これを受けて、分析装置2では、これらの2系統の画像データが通信部25により取得され、順次、記憶部22内に蓄積される。
【0035】
分析装置2を操作するオペレータは、例えば、適当なディレクトリ構造を作成する等の方法で、記憶部25内の2系統の画像データを、スイング動作の分類単位毎に整理する。なお、本実施形態におけるスイング動作の分類単位とは、同じラケット10による所定のサンプル数のスイング動作の集合である。また、このとき、ミスショット等に由来する画像データに関しては、分類・整理の対象外とされる。また、ここでいうオペレータとは、プレーヤー7自身であってもよいし、テニス用品店の店員や、テニススクールのコーチ等であってもよい。さらに、この分類・整理の処理は、パターンマッチング等の適当な画像処理アルゴリズムを用いて、制御部21により自動的に実行されるようにしてもよい。
【0036】
上述の画像データの分類・整理が終わると、分析装置2は、
図5に示す分析処理を実行可能な状態となる。
図5の分析処理は、オペレータが入力部23を介して所定の操作を行うことにより開始する。
まず、ステップS1では、算出部21aが、記憶部22内の所定のディレクトリを参照して、スイング動作の分類単位の画像データであって、未処理のもの(以下、対象画像データと呼ぶ)を読み出す。
【0037】
続くステップS2,S3では、算出部21aは、2系統の対象画像データを系統毎に時間軸に沿って画像処理することにより、スイング動作に関連する様々な指標を算出する。ここでいう指標とは、テニスラケット10の位置、速度、加速度又は角速度、或いはこれらの値を任意に組み合わせて定義される変数であり、定量的に表されるものであってもよいし、「大」「中」「小」等、定性的に表されるものであってもよい。また、「任意の組み合わせ」とは、係数の掛け合わせや1又は複数回の加減乗除等の演算を行いながら、任意の態様で物理量を組み合わせることを意味する。すなわち、スイングの指標とは、スイング動作時のテニスラケット10の挙動を示す物理量を用いて定義される変数であると考えることもできる。本実施形態における指標は、グリップ速度、グリップ加速度、ヘッド速度、ヘッド加速度、ヘッド速度成分比、スイング軌道及びラケット角速度である。各指標の詳細については、後述する。
【0038】
ステップS2では、直前のステップS3で読み出された対象画像データから、全ての指標を算出するための基礎データとして、時々刻々変化するXYZ座標系におけるグリップ12及びヘッド14の位置座標が特定される。より具体的には、算出部21aは、対象画像データに対応する時系列の画像群に含まれる各画像に対し、その中に写っているグリップ12のマークM1及びヘッド14のマークM2,M3の位置を特定してゆく。ここで、カメラ3A,3Bの撮像範囲は、テニスコート6に対し固定されているため、グリップ12及びヘッド14の画像中の座標は、XYZ座標系における位置座標へ容易に変換される。以下、簡単のため、グリップ12のマークM1の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分を、それぞれ、時間tの関数として、dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t)と表す。また、ヘッド14のマークM2の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分を、それぞれ、時間tの関数として、dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t)と表す。また、ヘッド14のマークM3の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分を、それぞれ、時間tの関数として、dh
X3(t),dh
Y3(t),dh
Z3(t)と表す。しかしながら、実際には、これらの関数dg
X(t)〜dh
Z3(t)は、カメラ3A,3Bの撮影速度(FPS)に応じた時間間隔で時間軸に沿って配列される位置座標の値の集合である。
【0039】
ここで、上述したことから明らかなことであるが、対象画像データには、同じラケット10による所定のサンプル数のスイング動作が記録されている。また、一方の系統の対象画像データは、YZ平面への投影画像を捉えるカメラ3Aに由来するものであり、グリップ12及びヘッド14の位置座標のY軸及びZ軸成分の情報を含んでおり、他方の系統の対象画像データは、ZX平面への投影画像を捉えるカメラ3Bに由来するものであり、グリップ12及びヘッド14の位置座標のZ軸及びX軸成分の情報を含んでいる。従って、例えば、サンプル数が5であるとすれば、位置座標のX軸及びY軸成分としては、それぞれ5個の値が得られ、Z軸成分としては、10個の値が得られる。ここで、Z軸成分に関しては、同じタイミングの2つの値を平均化する、或いは一方を無視することにより、X軸及びY軸成分と同数とする。以上により、ステップS2では、グリップ12及びヘッド14の位置座標の関数dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t),dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t),dh
X3(t),dh
Y3(t),dh
Z3(t)が、サンプル数ずつ得られることになる。
【0040】
続いて、ステップS3では、算出部21aが、ステップS2で算出されたサンプル数ずつの関数dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t),dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t),dh
X3(t),dh
Y3(t),dh
Z3(t)に基づいて、スイング動作に関連する様々な指標を算出する。以下、各指標の具体的な算出方法について、説明する。
【0041】
(グリップ速度)
まず、グリップ速度に関してであるが、算出部21aは、グリップ12のマークM1の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t)をそれぞれ1階時間微分することにより、グリップ12の速度のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数vg
X(t),vg
Y(t),vg
Z(t)を算出する。より具体的には、関数dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t)を構成する各値から時間軸に沿ってその直前の値を引いて、撮影速度を乗じればよい。その後、算出部21aは、下記式により、X軸、Y軸及びZ軸成分の関数vg
X(t),vg
Y(t),vg
Z(t)に基づいて、グリップ12の速度の関数vg(t)を算出する。
vg(t)=SQRT(vg
X(t)
2+vg
Y(t)
2+vg
Z(t)
2)
【0042】
続いて、算出部21aは、関数vg(t)に含まれる値の中から、後述する最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tの値を選択し、最大グリップ速度vgとする。
ここで、関数dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t)がサンプル数ずつ存在するため、最大グリップ速度vgも、サンプル数だけ導出される。従って、算出部21aは、サンプル数の最大グリップ速度vgを平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一の最大グリップ速度Vgを算出する。
【0043】
(グリップ加速度)
次に、グリップ加速度に関してであるが、算出部21aは、グリップ12の速度のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数vg
X(t),vg
Y(t),vg
Z(t)をそれぞれ1階時間微分することにより、グリップ12の加速度のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数ag
X(t),ag
Y(t),ag
Z(t)を算出する。より具体的には、関数vg
X(t),vg
Y(t),vg
Z(t)を構成する各値から時間軸に沿ってその直前の値を引いて、撮影速度を乗じればよい。その後、算出部21aは、下記式により、X軸、Y軸及びZ軸成分の関数ag
X(t),ag
Y(t),ag
Z(t)に基づいて、グリップ12の加速度の関数ag(t)を算出する。
ag(t)=SQRT(ag
X(t)
2+ag
Y(t)
2+ag
Z(t)
2)
【0044】
続いて、算出部21aは、関数ag(t)に含まれる値の中から、後述する最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tの値を選択し、最大グリップ加速度agとする。
ここで、関数vg
X(t),vg
Y(t),vg
Z(t)がサンプル数ずつ存在するため、最大グリップ加速度agも、サンプル数だけ導出される。従って、算出部21aは、サンプル数の最大グリップ速度agを平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一の最大グリップ加速度Agを算出する。
【0045】
(ヘッド速度)
次に、ヘッド速度に関してであるが、算出部21aは、ヘッド14のマークM2の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t)をそれぞれ1階時間微分することにより、ヘッド14の速度のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数vh
X(t),vh
Y(t),vh
Z(t)を算出する。より具体的には、関数dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t)を構成する各値から時間軸に沿ってその直前の値を引いて、撮影速度を乗じればよい。その後、算出部21aは、下記式により、X軸、Y軸及びZ軸成分の関数vh
X(t),vh
Y(t),vh
Z(t)に基づいて、ヘッド14の速度の関数vh(t)を算出する。
vh(t)=SQRT(vh
X(t)
2+vh
Y(t)
2+vh
Z(t)
2)
【0046】
続いて、算出部21aは、関数vh(t)に含まれる値の中から最大の値を選択し、最大ヘッド速度vhとする。ここで、関数dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t)がサンプル数ずつ存在するため、最大ヘッド速度vhも、サンプル数だけ導出される。従って、算出部21aは、サンプル数の最大ヘッド速度vhを平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一の最大ヘッド速度Vhを算出する。
【0047】
(ヘッド加速度)
次に、ヘッド加速度に関してであるが、算出部21aは、ヘッド14の速度のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数vh
X(t),vh
Y(t),vh
Z(t)をそれぞれ1階時間微分することにより、ヘッド14の加速度のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数ah
X(t),ah
Y(t),ah
Z(t)を算出する。より具体的には、関数vh
X(t),vh
Y(t),vh
Z(t)を構成する各値から時間軸に沿ってその直前の値を引いて、かつ、撮影速度を乗じればよい。その後、算出部21aは、下記式により、X軸、Y軸及びZ軸成分の関数ah
X(t),ah
Y(t),ah
Z(t)に基づいて、ヘッド14の速度の関数ah(t)を算出する。
ah(t)=SQRT(ah
X(t)
2+ah
Y(t)
2+ah
Z(t)
2)
【0048】
続いて、算出部21aは、関数ah(t)に含まれる値の中から、最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tの値を選択し、最大ヘッド加速度ahとする。ここで、関数vh
X(t),vh
Y(t),vh
Z(t)がサンプル数ずつ存在するため、最大ヘッド加速度ahも、サンプル数だけ導出される。従って、算出部21aは、サンプル数の最大ヘッド加速度ahを平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一の最大ヘッド加速度Ahを算出する。
【0049】
(ヘッド速度成分比)
次に、ヘッド速度成分比に関してであるが、算出部21aは、下記式により、ヘッド速度成分比iを算出する。
i=vh
Z(T)/vh
X(T)
ここで、Tは、最大ヘッド速度vhが得られる時刻である。なお、スイング動作の開始以降、ヘッド速度vh(t)は徐々に上昇するが、テニスラケット10とテニスボールとのインパクトによって急激に減速する。従って、最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tは、インパクトの直前の時刻であり、プレーヤー7とラケット10との相性を判定するのに適した時刻と考えられる。なお、関数vh
X(t),vh
Z(t)がサンプル数ずつ存在するため、ヘッド速度成分比iも、サンプル数だけ導出される。従って、算出部21aは、サンプル数のヘッド速度成分比iを平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一のヘッド速度成分比Iを算出する。
【0050】
(スイング軌道)
次に、スイング軌道に関してであるが、算出部21aは、まず、t=0(スイング動作の開始時刻)のときの点が原点に一致するように、ヘッド14のマークM2の位置座標のX軸成分の関数dh
X2(t)を平行移動した関数eh
X(t)を算出する。続いて、算出部21aは、ヘッド14のマークM2の位置座標のY軸及びZ軸成分の関数dh
Y2(t),dh
Z2(t)についても同様に平行移動し、それぞれ関数eh
Y(t),eh
z(t)を得る。
【0051】
ここで、関数dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t)と同様、関数eh
X(t),eh
Y(t),eh
Z(t)も、サンプル数ずつ導出される。従って、算出部21aは、まず、各時刻tについて、サンプル数の関数eh
X(t)の値を平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一の位置座標のX軸成分の関数Eh
X(t)を算出する。また、同様に、算出部21aは、スイング動作の分類単位の代表値として、単一の位置座標のY軸及びZ軸成分の関数Eh
Y(t),Eh
Z(t)を算出する。
以上により得られた関数Eh
X(t),Eh
Y(t),Eh
Z(t)は、スイング軌道(スイング動作時のヘッド14の軌道)を表している。
【0052】
(ラケット角速度)
最後に、ラケット角速度に関してであるが、算出部21aは、まず、ヘッド14のマークM2,M3の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t),dh
X3(t),dh
Y3(t),dh
Z3(t)と、グリップ12のマークM1の位置座標のX軸、Y軸及びZ軸成分の関数dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t)とに基づいて、マークM1及びM2を結ぶ線分に対するマークM3の相対的な位置座標の関数f
X(t),f
Y(t),f
Z(t)を算出する。ここで、関数f
X(t),f
Y(t),f
Z(t)は、グリップ12の軸の周りのマークM3の軌跡を示している。算出部21aは、これらの関数f
X(t),f
Y(t),f
Z(t)と、マークM3からマークM1及びM2を結ぶ線分までの距離rとに基づいて、グリップ12の軸の周りのラケット10の角速度であるラケット角速度ω(t)を算出する。
【0053】
続いて、算出部21aは、関数ω(t)に含まれる値の中から、最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tの値を選択し、ラケット角速度ωとする。ここで、関数dh
X2(t),dh
Y2(t),dh
Z2(t),dh
X3(t),dh
Y3(t),dh
Z3(t),dg
X(t),dg
Y(t),dg
Z(t)がサンプル数ずつ存在するため、ラケット角速度ωも、サンプル数だけ導出される。従って、算出部21aは、サンプル数のラケット角速度ωを平均化することにより、スイング動作の分類単位の代表値として、単一のラケット角速度Wを算出する。
【0054】
以上により、ステップS1で選択された分類単位の対象画像データに対し、スイング動作に関連する様々な指標が算出される。そして、算出部21aは、記憶部22内に未処理の分類単位の対象画像データが存在する限り、ステップS1〜S3を繰り返す。これにより、ユーザが試打した各ラケット10に対し、上述の指標のセットが算出される。
【0055】
続くステップS4では、作成部21bにより、これらの指標をそのままで、或いは適宜加工したものを、表形式やグラフ形式等の様々な形式で表示する分析結果画面が作成され、表示部24上に表示される。そして、オペレータにより、入力部23を介して分析結果画面を閉じる指令が入力されると、制御部21は、表示部24上における分析結果画面の表示を終了し、
図5に示す分析処理を終了させる。なお、分析結果画面を作成するための元データは、記憶部22内に保存されたままとなり、オペレータは、入力部23に対し所定の操作を行うことにより、表示部24上に同じ分析結果画面を再度表示させることが可能である。
【0056】
以下、分析結果画面上に表示される各種項目について説明する。
(最大グリップ速度、最大グリップ加速度、最大ヘッド速度、最大ヘッド加速度、ヘッド速度成分比、及びラケット角速度の一覧表)
作成部21bは、
図6に示すような、最大グリップ速度Vg、最大グリップ加速度Ag、最大ヘッド速度Vh、最大ヘッド加速度Ah、ヘッド速度成分比I、及びラケット角速度Wの一覧表T1を分析結果画面上に表示させる。
【0057】
ここで、最大グリップ速度Vgが大きいことは、プレーヤー7の腕の力みや手の緩みが少ないことを意味し、従って、当該ラケット10がこのプレーヤー7にマッチしていることを意味する。よって、最大グリップ速度Vgは、当該ラケット10がこのプレーヤー7に適しているか否かの判断材料となる。フィッティングでは、その最大グリップ速度Vgが基準ラケットの最大グリップ速度Vgよりも大きくなるラケット10が、プレーヤー7に推奨される。基準ラケットは、例えば、プレーヤー7が日頃使用しているラケットである。従って、プレーヤー7によるスイング動作の測定時に使用される複数のテニスラケット10(以下、対象ラケット群という)の1つを現在のマイラケットとしておけば、新しいラケット10を現在のマイラケットとの比較により選択することが可能になる。分析結果画面上に表示されるその他の項目についても、同様である。
【0058】
また、最大グリップ加速度Agが大きいことは、プレーヤー7の腕の力みや手の緩みが少なく、しかも、テニスボールに強い打撃を与え得ることを意味し、従って、当該ラケット10がこのプレーヤー7にマッチしていることを意味する。よって、最大グリップ加速度Agは、当該ラケット10がこのプレーヤー7に適しているか否かの判断材料となる。フィッティングでは、その最大グリップ加速度Agが基準ラケットの最大グリップ加速度Agよりも大きくなるラケット10が、プレーヤー7に推奨される。
【0059】
また、最大ヘッド速度Vhが大きいことは、プレーヤー7がテニスボールを強く打撃できていることを意味し、従って、当該ラケット10がこのプレーヤー7にマッチしていることを意味する。よって、最大ヘッド速度Vhは、当該ラケット10がこのプレーヤー7に適しているか否かの判断材料となる。フィッティングでは、その最大ヘッド速度Vhが基準ラケットの最大ヘッド速度Vhよりも大きくなるラケット10が、プレーヤー7に推奨される。
【0060】
また、最大ヘッド加速度Ahが大きいことは、プレーヤー7がテニスボールにより大きい運動エネルギーを与え、強く打撃できていることを意味し、従って、当該ラケット10がこのプレーヤー7にマッチしていることを意味する。よって、最大ヘッド加速度Ahは、当該ラケット10がこのプレーヤー7に適しているか否かの判断材料となる。フィッティングでは、その最大ヘッド加速度Ahが基準ラケットの最大ヘッド加速度Ahよりも大きくなるラケット10が、プレーヤー7に推奨される。
【0061】
また、ヘッド速度成分比Iは、プレーヤー7のスイングタイプと相関する。ここで、一般的に、以下のことが言える。すなわち、ヘッド速度成分比Iの絶対値が大きくかつ正の値であるスイングでは、テニスボールにトップスピンがかかりやすい。このヘッド速度成分比Iの絶対値が大きくかつ負の値であるスイングでは、テニスボールにスライススピンがかかりやすい。このヘッド速度成分比Iの絶対値がゼロに近いスイングでは、テニスボールにスピンがかかりにくい。
【0062】
図6に示すとおり、一覧表T1には、ヘッド速度成分比Iそのものを示す欄に加え、ヘッド速度成分比Iから判断可能なスイングタイプを示す欄が設けられている。従って、一覧表T1を見れば、プレーヤー7のスイングタイプに適したラケット10を選択することが可能になる。なお、スイングタイプは、算出部21aにより、以下のアルゴリズムにより判定される。すなわち、算出部21aは、ヘッド速度成分比Iが0.60以上、0.25以上かつ0.60未満、0.00以上かつ0.25未満、又は0.00未満のいずれの範囲内であるかを判断する。そして、ヘッド速度成分比Iが0.60以上であれば、スイングタイプがトップスピンタイプであると判定され、0.25以上かつ0.60未満であれば、ドライブタイプであると判定され、0.00以上かつ0.25未満であれば、フラットタイプと判定され、0.00未満であれば、スライスタイプと判定される。
【0063】
また、ラケット角速度Wが正の値であることは、フェース11を閉じつつテニスボールを打撃するスイングタイプであることを意味する。なお、ラケット角速度Wは、グリップ12の軸に沿ってヘッド14からグリップ12に向かう方向からラケット10を見た場合の時計回りを、正の方向とする。また、ラケット角速度Wが負の値であることは、フェース11を開きつつテニスボールを打撃するスイングタイプであることを意味する。従って、一覧表T1のラケット角速度Wの値を見れば、プレーヤー7のスイングタイプに適したラケット10を選択することが可能になる。また、一覧表T1には、ヘッド速度成分比Iに基づくスイングタイプの場合と同様に、ラケット角速度Wそのものを示す欄に加え、ラケット角速度Wに基づくスイングタイプを示す欄を設けてもよい。なお、ヘッド速度成分比I及びラケット角速度Wに基づくスイングタイプは、ヘッド速度成分比I及びラケット角速度Wを定性的に評価したものであるから、この意味で、これらのスイングタイプも、スイングの指標であると言える。
【0064】
また、ラケット角速度Wが大きいことは、プレーヤー7によるラケット10の面の操作が多いことを意味し、従って、当該ラケット10がこのプレーヤー7にマッチしていないことを意味する。よって、ラケット角速度Wは、当該ラケット10がこのプレーヤー7に適しているか否かの判断材料となる。フィッティングでは、そのラケット角速度Wが基準ラケットのラケット角速度Wよりも小さくなるラケット10が、プレーヤー7に推奨される。
【0065】
ところで、一覧表T1の複数(
図6では、5つ)の行は、対象ラケット群に1対1で対応している。すなわち、一覧表T1の各行は、スイング動作の上述の分類単位に対応しており、各行には、対応するラケット名を表示する欄が設けられている。従って、一覧表T1は、複数の指標(最大グリップ速度Vg、最大グリップ加速度Ag、最大ヘッド速度Vh、最大ヘッド加速度Ah、ヘッド速度成分比I、及びラケット角速度W)を、それぞれに対応するテニスラケット10に関連付けて同時に表示するデータである。その結果、一覧表T1を縦に見ることにより、オペレータは、対象ラケット群の間で、特定の種類の指標どうしを容易に比較することができる。また、オペレータは、一覧表T1を横に見ることにより、特定のテニスラケット10とプレーヤー7との相性を、以上の複数の種類の指標から総合的に判断することができる。
【0066】
また、
図6に示すとおり、一覧表T1には、各行に対応するラケット10がプレーヤー7に適しているか否かを示す「推奨ラケット」欄が設けられている。より具体的には、記憶部22内には、各種指標及び後述されるバラツキの値をパラメータとする総合指標の式が記憶されている。そして、作成部21bは、各ラケット10に対応する各種指標及び後述されるバラツキの値を総合指標の式に代入することにより、各ラケット10に対応する総合指標の値を得る。そして、作成部21bは、これらの総合指標の値を所定の閾値と比較することにより、対象ラケット群の中からプレーヤー7に適した1又は複数の特定のラケット10を選択する。そして、作成部21bは、一覧表T1上で、選択された1又は複数のラケット10に対応する行の「推奨ラケット」欄に「〇」の記号を付与し、残りの行の同欄には、「×」の記号を付与する。言い換えると、ここでは、作成部21bは、対象ラケット群の間で、各種指標及び後述されるバラツキどうしを閾値を介して間接的に比較し、その比較の結果を表示している。しかしながら、この態様に代えて又は加えて、対象ラケット群に含まれるラケット10にそれぞれ対応する総合指標の値どうしを直接比較し、その比較の結果として、対象ラケット群に含まれるラケット10のランキング等を表示するようにしてもよい。
【0067】
また、作成部21bは、対象ラケット群に含まれるラケット10どうしを総合指標を用いて比較する上述の態様に代えて又は加えて、対象ラケット群に含まれるラケット10どうしを各種指標の種類毎に比較してもよい。この場合も、作成部21bは、比較の結果として、対象ラケット群に含まれるラケット10の各種指標の種類毎のランキング等を表示することができる。
【0068】
(スイング軌道)
作成部21bは、対象ラケット群に含まれるラケット10にそれぞれ対応する複数のスイング軌道の線図を、分析結果画面上に並べて同時に表示させる。また、これらのスイング軌道の線図の傍には、対応するラケット10の名称(製品番号等)も同時に表示される。従って、これらの線図は、複数の指標(スイング軌道)を、それぞれに対応するラケット10に関連付けて同時に表示するデータであると言える。その結果、これらの線図を見たオペレータは、各ラケット10でのスイングの軌道を知ることができる。また、オペレータは、これらの線図を見ることにより、スイング軌道の観点から、対象ラケット群に含まれるラケット10どうしを容易に比較することができる。
【0069】
また、作成部21bは、対象ラケット群に含まれる各ラケット10に対するスイングの軌道を理想データと比較し、その比較の結果として、対象ラケット群に含まれるラケット10のランキング等を表示してもよい。
【0070】
(ヘッド速度成分比Iのグラフ)
作成部21bは、
図7に示すような、ヘッド速度成分比IのグラフG1を分析結果画面上に表示させる。
グラフG1上には、複数(
図7では、5本)の太線l1〜l5が同時に表示される。ここで、グラフG1において、横軸は、最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tにおける、X軸方向のヘッド14の速度vh
X(T)であり、縦軸は、最大ヘッド速度vhが得られる時刻Tにおける、Z軸方向のヘッド14の速度vh
Z(T)である。従って、グラフG1上の太線l1〜l5の傾きは、ヘッド速度成分比Iを示している。
【0071】
また、グラフG1上の太線l1〜l5は、対象ラケット群に1対1で対応している。すなわち、グラフG1上の太線l1〜l5はそれぞれ、スイング動作の上述の分類単位に対応している。ここで、
図7に示すとおり、グラフG1上には、太線l1〜l5のそれぞれの先端に、互いに異なる形の点P1〜P5が配置されるとともに、グラフG1の傍には、点P1〜P5とラケット10の名称(製品番号等)とを対応付ける凡例G2が同時に表示される。従って、オペレータは、どの太線l1〜l5がどのラケット10に対応しているかを容易に知ることができる。これにより、グラフG1は、複数の指標(ヘッド速度成分比I)を、それぞれに対応するラケット10に関連付けて同時にグラフ表示するデータであると言える。その結果、グラフG1を見たオペレータは、スイングタイプの観点から、対象ラケット群に含まれるラケット10どうしを容易に比較することができる。
【0072】
ところで、グラフG1上には、3本の直線L1〜L3が示される。ここで、これらの直線L1〜L3は、以下の式で表される。
直線L1: vh
Z(T)=0.60*vh
X(T)
直線L2: vh
Z(T)=0.25*vh
X(T)
直線L3: vh
Z(T)=0.00
【0073】
すなわち、直線L1よりも上側は、ヘッド速度成分比Iが0.60以上(トップスピンタイプ)の領域であり、直線L1と直線L2との間は、ヘッド速度成分比Iが0.25以上かつ0.60未満(ドライブタイプ)の領域であり、直線L2と直線L3との間は、ヘッド速度成分比Iが0.00以上かつ0.25未満(フラットタイプ)の領域であり、直線L3よりも下側は、ヘッド速度成分比Iが0.00未満(スライスタイプ)の領域である。すなわち、これらの直線L1〜L3は、グラフG1を見たオペレータが、各ラケット10でのプレーヤー7のスイングタイプを容易に理解できるようにするための補助線となる。また、かかる理解がより容易になるように、直線L1〜L3により分割される4つの領域は、色やパターン等に関し異なる表示態様で示されることが好ましい。
【0074】
また、グラフG1上において、原点から任意の点(vh
X(T),vh
Z(T))までの距離は、Y軸方向のヘッド速度vh
Y(T)がゼロであると仮定されたときのヘッド速度vh(T)(以下、ヘッド速度vh’(T)と呼ぶ)を意味する。従って、
図7に示すように、グラフG1上には、原点(0,0)を中心とする多数の円弧L4,L4,・・・が示されるが、これらの円弧L4,L4,・・・は、グラフG1を見たオペレータが、各ラケット10に対応するヘッド速度vh’(T)の大きさを容易に理解できるようにするための補助線となる。
【0075】
(ヘッド速度成分比iのバラツキのグラフ)
作成部21bは、ユーザのスイング動作の安定性を評価するべく、
図8〜
図11に示すようなヘッド速度成分比iのバラツキを示すグラフG3を、分析結果画面上に同時に表示させる。グラフG3は、対象ラケット群に含まれるラケット10の数だけ表示される。ここで、グラフG3の縦軸及び横軸の性質は、グラフG1と同様である。また、グラフG3上には、グラフG1と同様の補助線L1〜L4が示される。
【0076】
グラフG3上では、各ヘッド速度成分比iが、グラフG1上でのヘッド速度成分比Iと同様に、1本の太線と1つの点の組で示される。ここで、既に述べたとおり、ヘッド速度成分比iは、特定のラケット10に対し、そのラケット10を用いたスイング動作の回数だけ、すなわち、サンプル数だけ導出される。従って、各グラフG3上には、サンプル数と同数の太線及び点が示される。従って、各グラフG3は、同じラケット10でのスイング動作の記録である複数の指標(ヘッド速度成分比i)を、同時にグラフ表示するデータである。その結果、グラフG3を見たオペレータは、対応するラケット10でのスイング動作のバラツキを直感的に判断することができる。
【0077】
また、作成部21bは、各ラケット10に対するバラツキの値を定量的に算出し、グラフG3の横に同時に表示させる。従って、オペレータは、定量的にもバラツキの度合いを容易に知ることができる。なお、定量的なバラツキの値とは、分散や標準偏差等である。すなわち、ここでは、作成部21bは、各ラケット10に対する複数のヘッド速度成分比iの値どうしを比較し、その比較の結果を表示していると言える。
【0078】
ここで、
図8では、太線が、原点を中心として半径方向にも、周方向にも集まっている。
図9では、太線が、原点を中心として半径方向に集まっているが、周方向にはばらついている。
図10では、太線が、原点を中心として半径方向にばらついているが、周方向に集まっている。
図11では、太線が、原点を中心として半径方向にも、周方向にもばらついている。
【0079】
従って、
図8〜
図11により、以下のことが判断可能である。
(1)
図8に対応するラケット10によるスイングでは、ヘッド速度vh’(T)のバラツキが小さく、スイングタイプのバラツキも小さい。
(2)
図9に対応するラケット10によるスイングでは、ヘッド速度vh’(T)のバラツキは小さいが、スイングタイプのバラツキが大きい。
(3)
図10に対応するラケット10によるスイングでは、ヘッド速度vh’(T)のバラツキは大きいが、スイングタイプのバラツキが小さい。
(4)
図11に対応するラケット10によるスイングでは、ヘッド速度vh’(T)のバラツキが大きく、スイングタイプのバラツキも大きい。
【0080】
以上より、オペレータは、
図8〜
図11のグラフG3を見比べることにより、バラツキの観点から、複数のラケット10どうしを容易に比較することができる。フィッティングでは、ヘッド速度vh’(T)のバラツキについても、スイングタイプのバラツキについてもともに小さい、
図8に対応するラケット10が推奨される。
【0081】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。
<4−1>
本発明に係る分析システムは、上記実施形態のようなテニスラケットのフィッティングの場面だけでなく、ガットの張力のフィッティング、テニスのコーチング等の場面にも適用され得る。前者の例としては、サンプリングデータを、異なる種類のテニスラケットではなく、ガットの張力の異なる複数のテニスラケットに関するものとすればよい。
【0082】
<4−2>
撮像システム3の構成は、上述したものに限定されず、例えば、必要なパラメータを捉えることが可能であれば、カメラの数は1つであってもよいし、精度を増すべく3つ以上であってもよい。また、カメラの配置に関しても、必要なパラメータを捉えることが可能である限り、適宜選択することができる。
【0083】
<4−3>
サンプリングデータをサンプリングする方法は、上述したものに限られず、例えば、テニスコート6に撮像システム3を配置することに加えて又は代えて、テニスラケット10に三軸加速度センサ及び/又は三軸ジャイロセンサを取付け、これらのセンサの出力値から各種指標を算出するようにしてもよい。
<4−4>
撮像システム3から分析装置2へサンプリングデータを送る方法は、上述した態様に限られない。例えば、撮影中、サンプリングデータを撮像システム3に付属のメモリ内に保存しておき、撮影後、適当なタイミングで、このメモリを分析装置2に接続し、サンプリングデータを分析装置2へ取り込むようにしてもよい。
【0084】
<4−5>
比較データを出力する出力部は、ディスプレイの形態に限られず、プロッタ及び/又はプリンタ等であってもよい。
<4−6>
指標の種類は、上述したものに限られず、例えば、スイング動作により打ち返されたテニスボールの位置、速度、加速度及び角速度、並びにこれらの任意の組み合わせであってもよい。また、上記実施形態では、時刻毎のグリップ速度、グリップ加速度、ヘッド速度、ヘッド加速度、ヘッド速度成分比、及びラケット角速度の中から、指標として特に、ヘッド速度が最大となる時刻での値が選択された。しかしながら、別の特定のタイミング、例えば、それぞれの値が最大になる時刻におけるグリップ速度、グリップ加速度、ヘッド速度、ヘッド加速度、ヘッド速度成分比、及びラケット角速度等が選択されてもよい。あるいは、時刻毎のグリップ速度、グリップ加速度、ヘッド速度、ヘッド加速度、ヘッド速度成分比、及びラケット角速度の関数全体を、指標として出力してもよい。
【0085】
<4−7>
サンプリングデータとして、素振りのデータを収集してもよい。
<4−8>
サンプル数は、適宜選択される値であり、例えば、1であってもよい。