(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363351
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】ガスケットによる密封構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20180712BHJP
H02M 7/48 20070101ALN20180712BHJP
【FI】
F16J15/08 H
!H02M7/48 ZZHV
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-15012(P2014-15012)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140887(P2015-140887A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】丹治 功
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】中岡 真哉
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−052956(JP,A)
【文献】
特開2012−219818(JP,A)
【文献】
特開2002−106717(JP,A)
【文献】
特開2008−095576(JP,A)
【文献】
特開平08−135792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板単体又は表面を弾性体層で被覆した金属板からなり、内外周のそれぞれに縁部を向けた一対の鍔部及びこれらの鍔部の間に形成されたフルビード状のシールビードを有するガスケットが、複数のボルトによって互いに固定される一対のフランジ間に挟み込まれ、前記一対のフランジのうちの一方が、前記シールビードの頂部と密接すると共に、前記シールビードの圧縮に伴ってこのシールビードの裾部を支点として跳ね上がるように変形した前記鍔部のうちの一方の鍔部が当該一方のフランジに圧接するガスケットによる密封構造であって、
前記一方のフランジが他方の鍔部と非接触であることを特徴とする、ガスケットによる密封構造。
【請求項2】
前記一方のフランジの前記シールビードの頂部と密接する面の幅を、他方のフランジの幅よりも狭くすることによって前記他方の鍔部と非接触としたことを特徴とする、請求項1に記載のガスケットによる密封構造。
【請求項3】
前記一方のフランジは、相対的に低剛性側のフランジであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガスケットによる密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管体の接合部やエンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部等において、金属板を基材とするガスケットにより密封を行う構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気マニホールドと排気管あるいは吸気マニホールドと吸気管との接合部等のシール手段としては、金属板を基材とするガスケット、すなわち金属板単体からなるメタルガスケット、あるいはメタルガスケットの表面を弾性体層で被覆したメタル−ラバー複合ガスケットが広く知られている。
【0003】
すなわち
図5(A)に示すように、この種のガスケット100は、金属板単体又は表面を弾性体層で被覆した金属板からなり、内外周の鍔部101,102と、この鍔部101,102の間にエンボス加工により断面形状が頂部103aの両側で互いに対称の山形をなすように打ち出し形成されたフルビード状のシールビード103を有する。そして
図5(B)に示すように、このガスケット100は、互いに対向する接合対象のフランジ200,300間に、シールビード103の頂部103aがフランジ200側を向いた状態で介装されると共に、シールビード103が適当に圧縮されることによって、内部空間S1のガスなどがフランジ200,300間から外部空間S2へ漏れるのを防止すると共に、外部空間S2から内部空間S1への水などの浸入を防止するものである。
【0004】
そしてこの種のガスケット100では、シールビード103は、その頂部103aが一方のフランジ200に対して線接触され、裾部103b,103cがフランジ200,300に対して線接触されることによって、局部的にシール面圧を高めると共に、フランジ200,300の平面度に追随させて良好な密接状態を得るといった、重要な機能を有するものである。なお、金属板を基材としシールビードを有するガスケットの典型的な従来技術としては、下記の特許文献のようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−261755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、燃費向上のためにエンジンや補機類、EV(Electric Vehicle;電気自動車)、HEV(Hybrid Electric
Vehicle;ハイブリッド車)用のインバータ等は、小型・高出力化が進み、これに伴い、インバータ・ユニットを収納するケーシングの収容本体とカバーも小型・軽量化が必須となっており、このようなケーシングの本体とカバーの接合フランジ間に介装されるガスケットについても、フランジの厚みの減少による低剛性化への対応が要求されている。
【0007】
しかしながらガスケット100による従来の密封構造では、
図5(B)に示すように、フランジ200,300を結合する複数のボルト(不図示)による各締結部付近では、各ボルトの軸力によって、シールビード103はその頂部103aが一方のフランジ200に圧接すると共に裾部103b,103cが他方のフランジ300に圧接し、さらに、シールビード103の圧縮に伴って、鍔部101,102がシールビード103の裾部103b,103cを支点として跳ね上がるように変形し、その縁部101a,102aがフランジ200と圧接している。そしてこの場合、フランジ300に対するシールビード103の裾部103b,103cの面圧P
4,P
5による荷重の和は、フランジ200に対するシールビード103の頂部103aと鍔部101,102の縁部101a,102aの面圧P
1,P
2,P
3による荷重の和と等しいため、圧縮に対する反力が大きく、したがって、フランジ200,300の剛性が低いほど、あるいは前記ボルトによる締結部の間隔が長いほど、隣り合う締結部の間ではフランジ200,300の変形が大きくなって(フランジ200,300間の対向距離Xが大きくなって)ボルトの軸力が損なわれ、ガスケット100のシールビード103の圧縮量、言い換えればフランジ200,300に対する面圧が不足し、十分なシール性が確保されないおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、ガスケットによる密封構造において、隣り合うボルト締結部の間での相手フランジの変形に起因するシールビードの圧縮不足によるシール性低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明は、金属板単体又は表面を弾性体層で被覆した金属板からなり、内外周のそれぞれに縁部を向けた一対の鍔部及びこれらの鍔部の間に形成されたフルビード状のシールビードを有するガスケットが、複数のボルトによって互いに固定される一対のフランジ間に挟み込まれ、前記一対のフランジのうちの一方が、前記シールビードの頂部と密接すると共に、前記シールビードの圧縮に伴ってこのシールビードの裾部を支点として跳ね上がるように変形した前記
鍔部のうちの一方の鍔部が当該一方のフランジに圧接するガスケットによる密封構造であって、前記一方のフランジが
他方の鍔部と非接触である。
【0010】
請求項2の発明に係るガスケットによる密封構造は、請求項1に記載された構成において、前記一方のフランジの前記シールビードの頂部と密接する面の幅を、他方のフランジの幅よりも狭くすることによって
前記他方の鍔部と非接触としたものである。
請求項3の発明に係るガスケットによる密封構造は、請求項1又は2に記載された構成において、前記一方のフランジは、相対的に低剛性側のフランジである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るガスケットによる密封構造によれば、一方のフランジが、
他方の鍔部と非接触であることによって、ガスケットの圧縮反力が低減されるので、隣り合うボルト締結部の間でのフランジの変形が抑制され、このためシールに必要な十分な面圧を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るガスケットによる密封構造の好ましい実施の形態において、ガスケットを単体で示す平面図である。
【
図2】本発明に係るガスケットによる密封構造の好ましい実施の形態を、
図1のII−II線の位置で切断して示すもので、(A)は、ガスケットを単体で示す断面図、(B)は、ガスケットをフランジ間で圧縮した状態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るガスケットによる密封構造の好ましい他の実施の形態を示す断面図である。
【
図4】本発明に係るガスケットによる密封構造の好ましい他の実施の形態を示す断面図である。
【
図5】従来技術に係るガスケットによる密封構造の一例を示すもので、(A)は、ガスケットを単体で示す断面図、(B)は、ガスケットをフランジ間で圧縮した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るガスケットによる密封構造の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0014】
まず
図1及び
図2に参照符号1で示すガスケットは、金属板単体又は表面を弾性体層で被覆した金属板からなるものであって、後述のフランジと対応する額縁状に延びている。そしてこのガスケット1は、
図2(A)に示すように、内外周の鍔部11,12と、この鍔部11,12の間にエンボス加工により断面形状が頂部13aの両側で互いに対称の山形をなすように打ち出し形成されたフルビード状のシールビード13を有し、外周側の鍔部11に所定間隔で形成された複数の突片部14には、それぞれボルト挿通孔15が開設されている。
【0015】
そしてこのガスケット1は、
図2(B)に示すように、互いに対向する接合対象のフランジ2,3間に、シールビード13の頂部13aがフランジ2側を向いた状態で介装されると共に、シールビード13が適当に圧縮されることによって、フランジ2,3に所要のシール面圧で密接させ、内部空間S1のガスなどがフランジ2,3間から外部空間S2へ漏れるのを防止すると共に、外部空間S2から内部空間S1への水などの浸入を防止するものである。
【0016】
なお、フランジ2,3は、例えばEVやHEVに搭載されるインバータ等のケーシングの接合部に形成されており、
図1に示す各ボルト挿通孔15と対応する不図示のボルト挿通孔を有し、このボルト挿通孔に挿通される複数の不図示のボルトによって互いに結合され、このボルトの軸力によって、ガスケット1がフランジ2,3間で挟圧されるようになっているものである。
【0017】
フランジ2,3のうち、接合方向の肉厚tが相対的に薄肉で低剛性のフランジ2は、その幅が他方のフランジ3よりも狭く、より詳しくは、
図2(B)に示す組み付け状態において、フランジ2の内周縁2aがガスケット1の内周側の鍔部12の縁部12aより外周側に位置しており、したがってこの鍔部12の縁部12aは、シールビード13の圧縮に伴って変形してもフランジ2と非接触状態に保たれるようになっている。
【0018】
すなわち、フランジ2,3を結合する複数の不図示のボルトによる各締結部付近(
図1に示す各ボルト挿通孔15付近)では、各ボルトの軸力によって、シールビード13はその頂部13aが一方のフランジ2に圧接すると共に裾部13b,13cが他方のフランジ3に圧接し、さらにシールビード13の圧縮に伴って、鍔部11,12がシールビード13の裾部13b,13cを支点として跳ね上がるように変形し、これに伴い外周側の鍔部11の縁部11aはフランジ2と圧接するが、フランジ2の内周縁2aはガスケット1の内周側の鍔部12の縁部12aより外周側に位置しているので、跳ね上がるように変形した内周側の鍔部12の縁部12aは、フランジ2に対して非接触となる。
【0019】
このため、フランジ3に対するシールビード13の裾部13b,13cの面圧P
13,P
14による荷重の和は、フランジ2に対するシールビード13の頂部13aと鍔部11の縁部11aの面圧P
11,P
12による荷重の和と等しく、したがってガスケット1が先に説明した
図5に示すガスケット100と同一の仕様で、かつボルトの軸力も同等とした場合、フランジ2,3との接触部の減少によって、圧縮に対する反力も
図5に示すガスケット100より小さくなり、隣り合うボルト締結部の間でのフランジ2,3の変形が抑制され、すなわちボルトの軸力も損なわれにくく、フランジ2,3間の対向距離Xが
図5に比較して減少してシールビード13の圧縮量が増大するので、十分なシール性を確保することができる。
【0020】
なお、フランジ2の幅を狭くした場合、それによってこのフランジ2の剛性がますます低下して、隣り合うボルト締結部の間でボルトの軸力が損なわれてしまう懸念があるが、実際には、フランジ2は、接合方向の肉厚tが相対的に薄肉とはいっても、この肉厚tは、ガスケット1との比較においては十分に厚いものであるため、幅を狭くすることによる剛性低下の影響を軽微に抑えることができる。
【0021】
図3及び
図4は、本発明に係るガスケットによる密封構造の他の実施の形態を示すもので、このうち
図3に示す実施の形態は、フランジ2におけるフランジ3との対向面の内周部に、内周側ほどフランジ3との対向距離が大きくなるような斜面2bを形成することによって、フランジ2,3間でガスケット1が挟圧された状態において、シールビード13の圧縮に伴って裾部13cを支点として跳ね上がるように変形した内周側の鍔部12の縁部12aが、フランジ2と非接触状態に保たれるようにしたものである。
【0022】
また、
図4に示す実施の形態は、フランジ2におけるフランジ3との対向面の内周部に、フランジ3との対向距離が大きくなるような段差面2cを形成することによって、フランジ2,3間でガスケット1が挟圧された状態において、シールビード13の圧縮に伴って裾部13cを支点として跳ね上がるように変形した内周側の鍔部12の縁部12aが、フランジ2と非接触状態に保たれるようにしたものである。
【0023】
図3及び
図4のようにすれば、フランジ2の幅を他方のフランジ3と同等とすることができるので、フランジ2の剛性低下も微小に抑えることができる。したがって、隣り合うボルト締結部の間でのフランジ2,3の変形が一層抑制され、このためシールに必要な十分な面圧を確保することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 ガスケット
11,12 鍔部
12a 縁部
13 シールビード
2,3 フランジ
2a 内周縁
2b 斜面
2c 段差面