(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸樹脂(以下、「PGA」ということがある。)やポリ乳酸樹脂(以下、「PLA」ということがある。)等の脂肪族ポリエステル樹脂は、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、これらの脂肪族ポリエステルは、生分解性だけではなく、加水分解性を有しており、様々な分野に使用することが近年積極的に研究されている。
【0003】
脂肪族ポリエステル樹脂の中でも、PGAは、機械的強度に優れるとともに、酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性やアロマバリア性にも優れている。PGAは、高い融点を持ち、溶融成形が可能な耐熱性の材料であることから、実用上優れた生分解性及び加水分解性樹脂として、単独で、または他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。すなわちPGAは、射出成形、押出成形(固化押出成形を含む。)、圧縮成形、ブロー成形等の汎用の樹脂成形方法によって成形品を形成するための成形材料として使用され、例えば、酸化劣化しやすい食品等の包装材や、コンポスト化しやすく環境負荷が小さい包装材等の成形品(具体的にはフィルム成形品等)を形成するための材料として使用されている。
【0004】
さらに、PGAは、その強度と分解性(生分解性及び加水分解性)を活かして、使用後に地中に放置し分解させることが可能な炭化水素資源回収用ダウンホールツールの部材、すなわち炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材(以下、単に「ダウンホールツール部材」ということがある。)としても、期待が広がっている。
【0005】
すなわち、石油(シェールオイルを含む。)や天然ガス(シェールガスを含む。)等の炭化水素資源を地中から回収するためには、油井や採ガス井等の坑井を形成するためのダウンホール(地下掘削坑)が設けられる。掘削は、例えば、泥水を還流しながらドリルにより地層を掘削して竪穴を形成し、その後にパーフォレーションガン等の火薬を内蔵したツールを用いたり、フラクチャリング流体(破砕流体)を地層中に高圧で注入したり(フラクチャリング)して、生産層に穿孔や亀裂を生じさせることにより、石油や天然ガスの生産量を拡大する作業が行われる。ダウンホールの形成または補修のためには、フラックプラグ、ブリッジプラグ、セメントリテイナー、パーフォレーションガン、ボールシーラー、目止めプラグ、パッカー等のツール、すなわち、炭化水素資源回収用ダウンホールツール(以下、単に「ダウンホールツール」ということがある。)を、通常は多数使用して、ダウンホール内に配置することが行われる。ダウンホールツールは、使用後に地上に回収することなく、そのままダウンホール中で崩壊させるか、落下させることにより処分することが多かった。したがって、ダウンホールツールの全体または崩壊促進のための結合部を構成する部材(ダウンホールツール部材に該当する。)を、分解性の材料、例えば分解性ポリマーから形成することも行われている(特許文献1及び2など)。分解性ポリマーの例としては、でんぷんまたはデキストリン等の多糖類;キチン、キトサン等の動物性タンパク質;PLA〔代表的にポリL−乳酸(PLLA)〕、PGA、ポリ酪酸、ポリ吉草酸等の脂肪族ポリエステル;さらにはポリアミノ酸、ポリエチレンオキサイド等が挙げられている。
【0006】
坑井掘削の高深度化が進むにつれて、ダウンホール環境の高温化及び高圧化が進み、例えば、温度66℃(150度Fに相当)、80℃、93℃、121℃及び149℃(300度Fに相当)、さらには200℃近い温度条件のもとで、優れた機械的強度及び分解性並びに耐熱性を有するPGAに対する期待が広がっている。すなわち、PGAは優れた分解性を有するので、成形品の有効厚み(成形品の最大厚みや最大径をいう。)が大きい成形品でも、所望する短時間で分解することができる。
【0007】
他方で、坑井掘削の多様化が進むもとで、従来と比較すると低温度条件のダウンホール環境も現れ、例えば温度66℃以上のダウンホール環境において優れた分解性を有するPGAに対して、温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるものであることが望まれるようになってきた。すなわち、有効厚みが小さい(厚みが薄い、または、小径であることに相当する。)成形品であれば、短時間で分解させることが可能となることがあるが、例えばダウンホールツール部材のように、有効厚みが1mm以上である成形品であって、かつ、所望する短時間で分解できるような成形品が望まれていた。
【0008】
本発明者らは、フラクチャリング流体等の坑井処理流体に配合して用いる、パウダー、ペレット、フィルム、繊維等の形状の成形体を形成するためのポリエステル樹脂組成物として、グリコール酸系樹脂を50質量%以上含むポリエステル樹脂100質量部と、カルボン酸無水物0.5〜50質量部を含有するポリエステル樹脂組成物を提案した(特許文献3)。特許文献3には、成形体として、長径/短径が1.9以下で、累積50重量%平均径が1〜1,000μmであるパウダー、長手方向の長さが1〜10mmであり、かつアスペクト比が1以上5未満のペレット、面積0.01〜10cm
2、厚さ1〜1,000μmのフィルム、及び、長さ/断面径(アスペクト比)が10〜2000で、短径が5〜95μmの短繊維が挙げられ、該繊維を、0.05〜100g/L、好ましくは0.1〜50g/Lの濃度でフラクチャリング流体に含有させることが開示されている。しかしながら、特許文献3には、例えばダウンホールツール部材のように、有効厚みが1mm以上である成形品についての示唆はみられない。
【0009】
したがって、分解性材料である脂肪族ポリエステル樹脂を含有し、有効厚みが1mm以上である成形品であって、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する成形品が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、分解性材料である脂肪族ポリエステル樹脂を含有し、有効厚みが1mm以上である成形品であって、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を進めた結果、分解性材料である脂肪族ポリエステル樹脂を含有し、有効厚みが1mm以上である成形品を、特定量のカルボン酸無水物を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とすることにより、課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明によれば、有効厚みが1mm以上である成形品であって、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする、前記の有効厚みが1mm以上である成形品が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、発明の具体的な態様として、以下(1)〜(6)の有効厚みが1mm以上である成形品が提供される。
(1)温度60℃の水に浸漬するときの分解が開始するまでのリードタイムが40時間以下である前記の有効厚みが1mm以上である成形品。
(2)カルボン酸無水物が、脂肪族モノカルボン酸無水物、芳香族モノカルボン酸無水物、脂肪族ジカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物、芳香族トリカルボン酸無水物、脂環式ジカルボン酸無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する前記の有効厚みが1mm以上である成形品。
(3)ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、短繊維補強材1〜50質量部を含有する前記の有効厚みが1mm以上である成形品。
(4)短繊維補強材は、径が0.1〜1,000μm、アスペクト比が2〜1,000である前記の有効厚みが1mm以上である成形品。
(5)短繊維補強材は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含有する前記の有効厚みが1mm以上である成形品。
(6)短繊維補強材が、集束剤により集束されたものである前記の有効厚みが1mm以上である成形品。
【0015】
また、本発明によれば、前記の有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が提供され、特に、環状部材、ボール、ボールシート及びねじからなる群より選ばれる少なくとも1種である炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が提供される。
【0016】
更にまた、本発明によれば、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する前記の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物が提供され、さらに、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、短繊維補強材1〜50質量部を含有する前記の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物が提供される。そしてまた、本発明によれば、前記の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を使用して、坑井処理を行った後に、炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が分解される坑井掘削方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有効厚みが1mm以上である成形品であって、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする、前記の有効厚みが1mm以上である成形品であることにより、分解性材料である脂肪族ポリエステル樹脂を含有し、有効厚みが1mm以上である成形品であって、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する成形品が提供されるという効果が奏される。
【0018】
また、本発明によれば、前記の有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材であることにより、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が提供されるという効果が奏される。
【0019】
更にまた、本発明によれば、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する前記の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物であることにより、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を形成することができる炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物が提供されるという効果が奏される。そしてまた、本発明によれば、前記の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を使用して、坑井処理を行った後に、炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が分解される坑井掘削方法であることにより、該ダウンホールツール部材が、十分な機械的強度を有する成形品から形成されるものであることによって、フラクチャリング等の坑井処理を確実に行うことができ、さらに、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるので、効率的かつ経済的な坑井掘削方法が提供されるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.脂肪族ポリエステル樹脂組成物
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【0021】
1.脂肪族ポリエステル樹脂
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を形成する脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含有される脂肪族ポリエステル樹脂は、ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂である。
【0022】
(1)ポリグリコール酸樹脂
ポリグリコール酸樹脂(以下、「PGA」ということがある。)は、式:(−O−CH
2−CO−)で表されるグリコール酸繰り返し単位を有する重合体である。PGAとしては、グリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマーであるポリグリコール酸単独重合体に加えて、グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上含むポリグリコール酸共重合体(以下、「PGA共重合体」ということがある。)をも意味する。PGAは、α−ヒドロキシカルボン酸であるグリコール酸を単独で、または他のモノマー(以下、「コモノマー」ということがある。)とともに、脱水重縮合させることにより合成することができる。機械的強度に優れる成形品等を形成するために望まれることがある高分子量のPGAを効率よく合成するために、グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合することにより合成することが行われている。
【0023】
グリコール酸及び/またはその2分子間環状エステルであるグリコリド(以下、総称して、「グリコール酸モノマー」ということがある。)とともに、PGA共重合体を合成するために使用することができるコモノマーとしては、例えば、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等のポリオール化合物;シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等のジカルボン酸;乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸;ラクチド類;β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリメチレンカーボネートなどのカーボネート類;1,3−ジオキサン等のエーテル類;ジオキサノン等のエーテルエステル類;ε−カプロラクタム等のアミド類;さらに、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種類以上などを挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、グリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。グリコール酸モノマーとして、グリコリドを使用して、所望によりグリコール酸とともに使用してPGAを合成する場合、コモノマーとしては、環状モノマーを使用することが好ましく、例えば、乳酸の2分子間環状エステルであるラクチド等の他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルや、ラクトン類などを使用することができる。
【0024】
PGA中のグリコール酸繰り返し単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上であり、グリコール酸繰り返し単位の割合が100質量%であるポリグリコール酸単独重合体でもよい。PGA中のコモノマーに由来する単位の割合は、通常50質量%以下であって、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であり、コモノマーを全く含まないものでもよい。
【0025】
〔重量平均分子量(Mw)〕
PGAの重量平均分子量(Mw)は、通常70,000〜1,000,000の範囲内にあるものが好ましく、より好ましくは100,000〜800,000、更に好ましくは120,000〜500,000、特に好ましくは150,000〜400,000の範囲内にあるものを選択する。PGAの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置を使用して求めるものである。重量平均分子量(Mw)が小さすぎると、耐熱性や強度等の機械的特性が不十分となったり、分解が所望より早く進行して目的を果たすことが困難となったりすることがある。重量平均分子量(Mw)が大きすぎると、成形品の成形が困難となったり、分解性が不足して所望の期間内に所定の分解が生じなかったりすることがある。
【0026】
〔融点(Tm)〕
PGAの融点(Tm)は、通常185〜245℃であり、重量平均分子量(Mw)、分子量分布、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。PGAの融点(Tm)は、好ましくは190〜240℃、より好ましくは195〜235℃、特に好ましくは200〜230℃である。ポリグリコール酸単独重合体の融点(Tm)は、通常220℃程度である。融点(Tm)が低すぎると、耐熱性や強度等の機械的特性が不十分となることがある。融点(Tm)が高すぎると、成形品の成形性が不足したり、脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含有されるPGAやカルボン酸無水物その他の配合成分の分解が生じたりすることがある。PGAの融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を使用して、窒素雰囲気中で求めるものである。
【0027】
(2)ポリグリコール酸樹脂を50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を形成する脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含有される脂肪族ポリエステル樹脂は、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂である。脂肪族ポリエステル樹脂中のPGAの割合としては、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の分解性が向上するという観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましく、PGAを100質量%含む脂肪族ポリエステル樹脂、すなわち、PGAのみからなる脂肪族ポリエステル樹脂でもよい。
【0028】
脂肪族ポリエステル樹脂は、PGA以外の他の脂肪族ポリエステル樹脂を、50質量%以下の割合で含有することができる。他の脂肪族ポリエステル樹脂の割合は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。他の脂肪族ポリエステル樹脂としては特に制限はないが、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシカプロエート、ポリヒドロキシヘプタノエート、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバレレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどの分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の分解性が向上するという観点から、乳酸系樹脂が好ましい。乳酸系樹脂としては、ポリ乳酸〔ポリL−乳酸(PLLA)、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸(SCPLA)等〕が好ましい。
【0029】
2.カルボン酸無水物
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、先に説明した脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【0030】
カルボン酸無水物としては特に制限はないが、有効厚みが1mm以上である成形品を形成するために脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形加工する際の成形温度に耐えうる耐熱性の観点、及び、脂肪族ポリエステル樹脂との相溶性の観点から、無水ヘキサン酸、無水オクタン酸、無水デカン酸、無水ラウリン酸、無水ミスチリン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸等の脂肪族モノカルボン酸無水物(好ましくは、炭素数6〜20のアルキル基を2個有するもの);無水安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;無水こはく酸、無水マレイン酸等の脂肪族ジカルボン酸無水物(好ましくは、炭素数2〜20の飽和または不飽和の炭化水素鎖を有するもの);無水フタル酸等の芳香族ジカルボン酸無水物;無水トリメリト酸等の芳香族トリカルボン酸無水物;テトラヒドロ無水フタル酸等の脂環式ジカルボン酸無水物;ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物;3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく挙げられる。すなわち、カルボン酸無水物が、これらの群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、環構造を有するカルボン酸無水物がより好ましく、芳香族モノカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物、芳香族トリカルボン酸無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物が更に好ましく、成形加工性の観点から、無水フタル酸、無水トリメリト酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、「BTDA」ということがある。)が特に好ましい。これらのカルボン酸無水物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を形成する脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有することにより、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する成形品が提供される。カルボン酸無水物の含有量が少なすぎると、温度66℃未満のような低温環境において、有効厚みが1mm以上である成形品での分解性が十分に発現しないことがある。カルボン酸無水物の含有量が多すぎると、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形加工性が低下する。カルボン酸無水物の含有量としては、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、1.5〜25質量部が好ましく、2〜20質量部がより好ましい。
【0032】
3.短繊維補強材
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有するとともに、短繊維補強材1〜50質量部を含有することにより、機械的強度が更に向上し、かつ、比較的低温度のダウンホール環境において更に優れた分解性を有する有効厚みが1mm以上である成形品が提供される。
【0033】
短繊維補強材としては、無機短繊維強化材または有機短繊維補強材のいずれも使用することができ、特に限定されず、また、いわゆるウイスカー状の補強材でもよい。例えば、ガラス繊維(チョップドストランド、ミルドファイバー等)、炭素繊維(PAN系やピッチ系)、ホウ素繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、炭化珪素繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化珪素ウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、炭酸カルシウムウイスカー、ワラステナイトウイスカー、硼酸アルミウイスカー等の無機短繊維補強材;アラミド繊維、液晶ポリマー繊維、セルロース系繊維(ケナフ繊維)等の有機短繊維補強材;などが好ましく挙げられる。より好ましくは、短繊維補強材は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものである。
【0034】
また、短繊維補強材としては、径(D)が好ましくは0.1〜1,000μm、より好ましくは1〜100μm、特に好ましくは5〜20μmであり、アスペクト比(L/D)が、好ましくは2〜1,000、より好ましくは、3〜500、特に好ましくは3〜200であり、通常ミルドファイバーまたはチョップドファイバーと称される短繊維補強材が好ましく用いられる。なお、Lは短繊維補強材の長さ(単位:μm)であり、径(D)及び長さ(L)は、成形品中における短繊維補強材についての値を意味し、通常は、溶融混練後の短繊維補強材について測定する。径(D)が、0.1μm未満では、有効厚みが1mm以上である成形品の機械的強度が十分でないことがあり、1,000μmを超えると、有効厚みが1mm以上である成形品の分解挙動の均一性が失われることがある。アスペクト比(L/D)が、2未満であると、有効厚みが1mm以上である成形品の機械的強度が十分でないことがあり、1,000を超えると成形時の溶融混練により短繊維補強材を脂肪族ポリエステル樹脂中に均一に分散させることが困難となることがある。一般に、アスペクト比(L/D)が増大すると、ダウンホール環境内において有効厚みが1mm以上である成形品の分解が開始するまでの時間(以下、「リードタイム」または「初期抑制期間」ということがある。)が増大する傾向が認められるので、アスペクト比(L/D)の調整によって、リードタイムの増減制御がある程度可能となる。
【0035】
短繊維補強材の取り扱い性を向上する目的や、形成される有効厚みが1mm以上である成形品の機械的強度を高める目的で、短繊維補強材が、集束剤により集束されたものであるようにしてもよい。集束剤としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シランカップリング剤、酢酸ビニル樹脂等のそれ自体従来知られている集束剤の1種または2種以上から選ばれる集束剤を使用することができるが、強度向上効果及び脂肪族ポリエステル樹脂の分子量保持効果の観点から、エポキシ樹脂集束剤の単独または他の集束剤との混合物を用いることが好ましい。特に好ましい組み合わせの例としては、ガラス繊維とエポキシ樹脂集束剤、または炭素繊維とエポキシ樹脂集束剤との組み合わせが挙げられる。集束剤が使用される場合の集束剤の使用量は、集束された短繊維補強材全体の0.1〜10質量%であることが好ましく、0.3〜5質量%であることがより好ましい
【0036】
短繊維補強材は、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、1〜50質量部含有させることが好ましく、より好ましくは5〜45質量部、更に好ましくは10〜40質量部である。短繊維補強材の含有量が1質量部未満では有効厚みが1mm以上である成形品の機械的強度が十分でないことがあり、50質量部を超えると、成形時の溶融混練により短繊維補強材を脂肪族ポリエステル樹脂中に均一に分散させることが困難となることがある。短繊維補強材の含有量を増大すると、リードタイムが増大する傾向が認められ、先に説明したアスペクト比を組み合わせることにより、リードタイムの増減制御が可能となる。
【0037】
4.その他の配合剤
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を形成する脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部、及び所望により短繊維補強材1〜50質量部を含有するものであるが、本発明の目的に反しない範囲で、必要に応じて熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、分解促進剤、分解遅延剤、末端封止剤、染料や顔料等の着色剤等の各種のその他の配合剤を含有することができる。また、脂肪族ポリエステル樹脂以外のその他の樹脂や短繊維補強材以外のその他の充填材を含有することができる。
【0038】
例えば、その他の樹脂としては、脂肪族ポリエステル以外の分解性樹脂を含有してもよく、ポリジオキサノン等のポリエーテルエステル;ポリトリメチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート;ポリα−ピロリドン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン等のポリアミノ酸;及び、これらの共重合体や混合物などが挙げられる。さらに、本発明の目的を損なわない範囲でポリエチレンテレフタレート共重合体等の芳香族ポリエステルを含有してもよく、また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;アクリル樹脂;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類;変性ポリビニルアルコール;エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体等の軟質ポリオレフィン系樹脂;スチレン系共重合体樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;セルロースエステル;ポリウレタン樹脂;フェノール樹脂;メラミン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;シリコーン樹脂;エポキシ樹脂;などを含有してもよい。本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を形成する脂肪族ポリエステル樹脂組成物が、更にその他の樹脂を含有することにより、成形加工性や機械的強度等の特性を調整できることがある。
【0039】
これらその他の配合剤(その他の樹脂を含む。)は、1種単独でもよいし、2種以上を混合して含有することができる。その他の配合剤の含有量は、脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常30質量部以下、多くの場合10質量部以下、好ましくは5質量部以下であり、1質量部以下の含有量でもよく、その他の配合剤の種類によっては0.5質量部以下の含有量でも差し支えない。
【0040】
II.有効厚みが1mm以上である成形品
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、先に説明した脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【0041】
1.成形品
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、有効厚みが1mm以上である限り、成形品の種類、形状及び大きさ、並びに用途等は特に限定されない。例えば、有効厚みが1mm以上である成形品の形状としては、棒状(角棒状、丸棒状を含む。)、板状(シート状、薄板状、厚板状を含む。なお、通常厚みが200μm以下であるフィルムは、本発明の成形品には含まれない。)、球状(楕円球状を含む。)のほか、凸部や凹部を有する前記の形状でもよく、特定の製品形状(例えば、射出成形金型のキャビティ形状によって定められる形状)でもよい。本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、種々の機械部品等として使用することができる。なお、パウダー、ペレット、繊維は、通常本発明の成形品には含まれない。
【0042】
2.有効厚み
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品における有効厚みとは、当該成形品に要求される機能を果たすために必要とされていた寸法を意味し、通常、最大厚みまたは最大径が該当する。例えば、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品が、後に説明する炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を形成するものである場合、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品の形状及び大きさにより定まる最大厚みまたは最大径によって、坑井掘削時における坑井処理流体の流れや、炭化水素資源回収(生産)時における炭化水素資源の流れが阻害される。一方、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品が分解等により消失することにより、有効厚みが1mm以上である成形品の形状及び大きさにより定まる最大厚みまたは最大径に相当する坑井処理流体の流れや炭化水素資源の流れが許容される。したがって、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品によって、閉塞されまたは解放される空間の厚みをもって、成形品の有効厚みということができ、通常は、成形品の最大厚みまたは最大径が該当する。なお、例えば、シート状の成形品のように、厚みと縦横寸法とを有する形状の成形品においては、厚みに対して縦横寸法がはるかに大きいが、先に説明したように、該シートによって、閉塞されまたは解放される空間は、通常シートの厚みに相当する空間であるので、薄いシートである成形品の有効厚みは、該シートの最大厚みに該当し、縦横寸法は有効厚みに該当しない。ただし、例えば、シートの幅(横)寸法の長さに相当する空間が閉塞され解放されるような使用態様である場合には、当該幅(横)寸法が有効厚みに該当するものとなることがある。
【0043】
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、通常最大厚みまたは最大径に該当する有効厚みが1mm以上である。したがって、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品としては、例えば、最大厚みが1mm以上である板状体や角棒状体(断面において、平行する辺の距離、または、頂点から対向する辺に向かう垂線の長さが、最大厚みに該当する。)等が挙げられ、また、最大径が1mm以上である丸棒状体や球状体等が挙げられる。
【0044】
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、通常最大厚みまたは最大径に該当する有効厚みが1mm以上である、厚みのある成形体であるにもかかわらず、例えば温度66℃未満であるような低温度のダウンホール環境においても、所望の短時間で分解することができる。本発明の有効厚みが1mm以上である成形品としては、更に有効厚みが5mm以上の成形品にも適用可能であり、更にまた有効厚みが10mm以上、所望によっては有効厚みが20mm以上または30mm以上、条件等によっては有効厚みが50mm以上の成形品にも適用可能である。本発明の有効厚みが1mm以上である成形品の有効厚みは、上限値が特にないが、所望の短時間で分解が極めて困難となる観点から、通常1,000mm以下、多くの場合500mm以下の範囲とすることが好ましい。
【0045】
3.有効厚みが1mm以上である成形品の製造方法
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、その製造方法が特に限定されず、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有し、所望により更に短繊維補強材1〜50質量部を含有し、更に必要に応じてその他の配合剤を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を、射出成形、押出成形(固化押出成形を含む。)、圧縮成形、遠心成形等の慣用の熱成形法によって、有効厚みが1mm以上である成形品を形成することができる。また、前記の熱成形法によって形成された一次成形品を、必要に応じて切削加工等の機械加工を行うことにより製造される二次成形品として、有効厚みが1mm以上である成形品を形成することができる。例えば、球状の有効厚みが1mm以上である成形品は、射出成形によって球状の成形品を製造することもできるし、また、固化押出成形によって製造した丸棒状の一次成形品を切削加工等の機械加工を行うことにより球状の有効厚みが1mm以上である成形品を製造することもできる。
【0046】
4.有効厚みが1mm以上である成形品の特性
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有し、所望により更に短繊維補強材1〜50質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される有効厚みが1mm以上である成形品であることによって、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるとともに、十分な機械的強度を有する成形品である。本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、所定量のカルボン酸無水物を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されるものであることにより、機械的強度が向上し、または、機械的強度の低下率が小さい(例えば、30%以下、更には20%以下、機械的特性の種類によっては10%以下)という効果を奏することがある。本発明の有効厚みが1mm以上である成形品が、十分な機械的強度を有する成形品であることは、以下に説明するアイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)、引張強度及び曲げ弾性率を測定することにより確認することができる。
【0047】
〔アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)〕
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、以下に説明する試験片によって測定するアイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)が25J/m以上であれば、実用上十分な耐衝撃性を有するということができる。アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)は、ASTM D256(ISO180に対応)に準拠して、ノッチ有り試験片について次のとおりにして測定する。すなわち、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品の耐衝撃性を確認するための試験片として、一軸のフルフライトスクリューを有する射出成形機を使用して成形を行った後、ノッチ加工して、縦63mm、横13mm及び厚み3mmの平板形状の試験片(ノッチ有り)を調製する。調製された試験片について、振り子式衝撃試験機を使用して、常温(温度23℃±1℃)においてノッチ有り試験片の破壊時に吸収される衝撃エネルギーを測定してアイゾット衝撃強さ(n=5の平均値。単位:J/m)を算出する。
【0048】
試験片のアイゾット衝撃強さ(ノッチ有)が小さすぎると、有効厚みが1mm以上である成形品の靱性が不足し、例えば、有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が、坑井掘削に使用する諸部材と接触や衝突した場合に、破砕、破壊や欠けが生じるおそれがある。試験片のアイゾット衝撃強さ(ノッチ有)は、好ましくは28J/m以上、より好ましくは30J/m以上であれば、有効厚みが1mm以上である成形品の耐衝撃性がより優れているということができる。アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)は、特に上限値がないが、概ね200J/m以下である。
【0049】
〔引張強度〕
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、所定の試験片によって測定した引張強度が80MPa以上であれば、実用上十分な引張強度を有するということができる。試験片の引張強度は、JIS K7113に準拠して測定することができる。すなわち、衝撃強さの測定に用いた試験片の調製と同様の条件で射出成形することにより調製した、JIS K7113に規定される形状の試験片(1号試験片)について、常温(温度23℃±1℃)において、速度50mm/分で引張試験を行い、試験片が破断したときの引張応力を測定して強度を算出し、試験片の引張強度とする(n=5の平均値。単位:MPa)。
【0050】
試験片の引張強度が小さすぎると、有効厚みが1mm以上である成形品の引張強度が十分でなく、例えば、有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を、高深度地下の高温環境にあるダウンホール内に配置したり、穿孔やフラクチャリングを行ったりするときなどに、ダウンホールツール部材が破砕したり、破壊や欠けが生じるおそれがある。試験片の引張強度は、好ましくは85MPa以上、より好ましくは90MPa以上であれば、有効厚みが1mm以上である成形品の引張強度がより優れているということができる。引張強度は、特に上限値がないが、概ね300MPa以下である。
【0051】
〔曲げ弾性率〕
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、所定の試験片によって測定した曲げ弾性率が4,000MPa以上であれば、実用上十分な曲げ特性を有するということができる。試験片の曲げ弾性率は、JIS K7111(ISO178に対応)に準拠して測定することができる。すなわち、衝撃強さの測定に用いた試験片の調製と同様の条件で射出成形することにより調製した、縦128mm、横13mm及び厚み3mmの平板形状の試験片について、常温(温度23℃±1℃)において、支点間距離48mm、試験速度1mm/分で曲げ試験を行い、曲げ荷重−たわみ曲線の初期勾配から曲げ弾性率を算出する(n=5の平均値。単位:MPa)。
【0052】
試験片の曲げ弾性率が小さすぎると、有効厚みが1mm以上である成形品の曲げ特性が十分でなく、例えば、有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を、高深度地下の高温環境にあるダウンホール内に配置したり、穿孔やフラクチャリングを行ったりするときなどに、ダウンホールツール部材が変形して、該部材に要求される機能を発揮できないおそれがある。試験片の曲げ弾性率は、好ましくは4,200MPa以上、より好ましくは4,500MPa以上であれば、有効厚みが1mm以上である成形品の曲げ特性がより優れているということができる。曲げ弾性率は、特に上限値がないが、概ね15,000MPa以下である。
【0053】
〔厚み減少速度〕
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、分解性に優れるものである。有効厚みが1mm以上である成形品の分解性は、厚み10mmの試験片を温度60℃の水中に浸漬したときの厚み減少速度(以下、「成形品の厚み減少速度」ということがある。)が0.02mm/時間以上であることによって、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるものであることを確認することができる。厚み10mmの試験片の厚み減少速度は、以下の方法によって測定する。すなわち、プレス成形により厚み10mmのシート状の試験片を所要数調製する。プレス条件は、温度260℃、予熱7分間、加圧5MPaで3分間とし、プレス後には水冷却板にて急冷する。次いで、温度60℃の1L−オートクレーブ中に、調製した試験片を入れ、水(脱イオン水)を満たして浸漬試験を行う。予め定めた所定時間間隔で浸漬後の試験片を取り出し、断面を切り出して、ドライルーム内に一晩放置し乾燥させた後、試験片の芯部(硬い部分)の厚みを測定して、浸漬前の厚み(当初厚み、具体的には10mmである。)との差から試験片の減少厚みを測定する。異なる浸漬時間により測定した試験片の減少厚みの測定値に基づいて、試験片の減少厚みの時間変化を求め、試験片の減少厚みの時間変化に直線性が認められる範囲における試験片の減少厚みの時間変化から、厚み10mmの試験片の厚み減少速度を算出する(単位:mm/時間)。
【0054】
厚み10mmの試験片の厚み減少速度が小さすぎると、有効厚みが1mm以上である成形品の分解性が十分でなく、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境における分解性が不足し、所望する短時間で分解できるものとならない。厚み10mmの試験片の厚み減少速度は、好ましくは0.022mm/時間以上、より好ましくは0.025mm/時間以上であれば、有効厚みが1mm以上である成形品の分解性がより優れているということができる。厚み10mmの試験片の厚み減少速度は、特に上限値がないが、例えば予期しない早期の分解によりダウンホールツール部材に要求される所定期間のシール機能が発揮されないおそれがあることなどから、概ね0.1mm/時間以下である。
【0055】
〔分解リードタイム〕
本発明の有効厚みが1mm以上である成形品は、好ましくは、温度60℃の水中に浸漬するときの分解が開始するまでのリードタイム(以下、「分解リードタイム」ということがある。)が40時間以下である初期分解性が優れた成形品とすることができる。分解リードタイムは、厚み10mmの試験片を温度60℃の水中に浸漬したときに、表面分解に基づく厚み減少が開始するまでの時間を測定することによって確認することができる。すなわち、先に説明した成形品の厚み減少速度の測定において、厚み10mmの試験片の減少厚みが初めて認められるまでの時間を、成形品の分解リードタイムとする(単位:時間)。成形品の分解リードタイムが40時間以下であれば、有効厚みが1mm以上である成形品が、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた初期分解性を有し、所望する短時間で分解できるものであるということができる。
【0056】
例えば、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材であるボール及び/またはボールシートとして使用する場合、該ボール及び/またはボールシートの分解が開始した時点で、ボールがボールシートとの接触やボールシートによる拘束から解放されることにより、ボールがボールシートから離脱し、ボール及びボールシートによる流体シール(目止め)が速やかに消失する。この結果、石油・ガス等の炭化水素資源の流路が塞がれるリスクがなくなるという効果が奏される。すなわち、ボールシーラー等の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材については、表面が分解を開始するまでの時間を表す分解リードタイムが極めて大きな意義を持つ。
【0057】
厚み10mmの試験片を使用して測定する成形品の分解リードタイムが長すぎると、有効厚みが1mm以上である成形品の分解性が十分でなく、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境において分解が開始するまでに長時間を要し、結果として所望する短時間で分解できるものとならない。成形品の分解リードタイムは、より好ましくは36時間以下、更に好ましくは32時間以下であり、短繊維補強材の含有量等によっても調整可能であって、所望により20時間以下、更には15時間以下(通常、短繊維補強材を含有しない場合である。)であれば、有効厚みが1mm以上である成形品の初期分解性がより優れているということができる。成形品の分解リードタイムは、特に下限値がないが、例えば予期しない早期の分解によりダウンホールツール部材に要求される所定期間のシール機能等が発揮されないおそれがあることなどから、概ね1時間以上である。
【0058】
III.炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材
本発明によれば、先に説明した有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が提供される。有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材としては、フラックプラグ、ブリッジプラグ、セメントリテイナー、パーフォレーションガン、ボールシーラー、目止めプラグ、パッカー等の炭化水素資源回収用ダウンホールツールの一部をなす部材であれば、特に限定されず、例えば、プラグの一部をなす部材としては、マンドレルや、スリップ、ウエッジ及びリング等の環状部材等が挙げられる。また、プラグの一部をなす部材またはボールシーラーを構成するボール及びボールシートが挙げられる。さらに、セメンティングを実施する際に、一時目止め材として使用されるねじも炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材に該当する。したがって、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材としては、環状部材、ボール、ボールシート及びねじからなる群より選ばれる少なくとも1種である炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が好ましく挙げられる。炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材の形状及び大きさは、炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材の種類に応じて、適宜設定することができる。本発明の炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材は、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品として形成され、または、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品を一次成形品として、切削加工等の機械加工等を行うことにより得られる二次成形品として形成されることにより製造することができる。
【0059】
IV.炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物
本発明によれば、先に説明した炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を形成するための炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物(以下、「ダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物」ということがある。)が提供される。本発明のダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有することを特徴とし、また更にPGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、短繊維補強材1〜50質量部を含有することを特徴とするダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物である。本発明のダウンホールツール部材用脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、脂肪族ポリエステル樹脂、カルボン酸無水物及び短繊維補強材、さらには、必要に応じて含有することができるその他の配合剤は、先に説明したとおりのものを使用することができ、それらの含有量は先に説明したとおりである。
【0060】
V.坑井掘削方法
本発明によれば、先に説明した炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を使用して、坑井処理を行った後に、炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材が分解される坑井掘削方法(以下、「本発明の坑井掘削方法」ということがある。)が提供される。すなわち、本発明の坑井掘削方法は、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする有効厚みが1mm以上である成形品から形成される炭化水素資源回収用ダウンホールツール部材を使用して、先に説明した種々の坑井処理流体を使用する坑井処理を行った後に、該ダウンホールツール部材を分解する坑井掘削方法である。本発明の坑井掘削方法によれば、該ダウンホールツール部材が、十分な機械的強度を有する成形品から形成されるものであることによって、フラクチャリング等の坑井処理を確実に行うことができ、さらに、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性を有し、所望する短時間で分解できるので、効率的かつ経済的な坑井掘削方法が提供される。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明の有効厚みが1mm以上である成形品であって、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成されることを特徴とする、前記の有効厚みが1mm以上である成形品について具体的に説明する。本発明は、実施例に限られるものではない。脂肪族ポリエステル樹脂または有効厚みが1mm以上である成形品の物性または特性は以下の方法で測定した。
【0062】
〔重量平均分子量〕
脂肪族ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置を使用して求めた。測定条件は以下のとおりとした。
装置:昭和電工株式会社製「Shodex−104」
カラム:2本のHFIP−606Mとプレカラムとして1本のHFIP−Gを直列に接続
カラム温度:40℃
溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液
流速:0.6ml/分
検出器:RI(示差屈折率)検出器
分子量較正:分子量の異なる標準ポリメタクリル酸メチル5種を用いた。
【0063】
〔融点〕
脂肪族ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量計(メトラー・トレド株式会社製DSC−822e)を使用して、窒素雰囲気中で求めた。
【0064】
〔アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)〕
アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)は、ASTM D256(ISO180に対応)に準拠して、ノッチ有り試験片について次のとおりにして測定した。すなわち、一軸のフルフライトスクリューを有する射出成形機を使用して脂肪族ポリエステル樹脂組成物の成形を行った後、ノッチ加工して、縦63mm、横13mm及び厚み3mmの平板形状の試験片(ノッチ有り)を調製した。調製された試験片について、振り子式衝撃試験機(株式会社上島製作所製 荷重40kg、及び、株式会社東洋精機製作所製 荷重120kg)を使用して、常温(温度23℃±1℃)においてノッチ有り試験片の破壊時に吸収される衝撃エネルギーを測定してアイゾット衝撃強さ(n=5の平均値。単位:J/m)を算出した。
【0065】
〔引張強度〕
引張強度は、JIS K7113に準拠して測定した。すなわち、衝撃強さの測定に用いた試験片の調製と同様の条件で射出成形することにより調製した、JIS K7113に規定される形状の試験片(1号試験片)について、材料試験機(株式会社島津製作所製 2tオートグラフAG−2000E)を使用して、常温(温度23℃±1℃)において、速度50mm/分で引張試験を行い、試験片が破断したときの引張応力を測定して強度を算出し、試験片の引張強度とした(n=5の平均値。単位:MPa)。
【0066】
〔曲げ弾性率〕
曲げ弾性率は、JIS K7111(ISO178に対応)に準拠して測定した。すなわち、衝撃強さの測定に用いた試験片の調製と同様の条件で射出成形することにより調製した、縦128mm、横13mm及び厚み3mmの平板形状の試験片について、材料試験機(株式会社島津製作所製 2tオートグラフAG−2000E)を使用して、常温(温度23℃±1℃)において、支点間距離48mm、試験速度1mm/分で曲げ試験を行い、曲げ荷重−たわみ曲線の初期勾配から曲げ弾性率を算出した(n=5の平均値。単位:MPa)。
【0067】
〔厚み減少速度〕
厚み減少速度は、厚み10mmの試験片を使用して以下の方法によって測定した。すなわち、プレス成形により厚み10mmのシート状の試験片を所要数調製した。プレス条件は、温度260℃、予熱7分間、加圧5MPaで3分間とし、プレス後には水冷却板にて急冷した。次いで、温度60℃の1L−オートクレーブ中に、調製した厚み10mmの試験片を入れ、水(脱イオン水)を満たして浸漬試験を行った。予め定めた所定時間間隔で浸漬後の試験片を取り出し、断面を切り出して、ドライルーム内に一晩放置し乾燥させた後、試験片の芯部(硬い部分)の厚みを測定して、浸漬前の厚み(当初厚み、具体的には10mmである。)との差から試験片の減少厚みを測定した。異なる浸漬時間により測定した試験片の減少厚みの測定値に基づいて、試験片の減少厚みの時間変化を求め、試験片の減少厚みの時間変化に直線性が認められる範囲における試験片の減少厚みの時間変化から、成形品の厚み減少速度を算出した(単位:mm/時間)。
【0068】
〔分解リードタイム〕
先に説明した厚み10mmの試験片を使用する厚み減少速度の測定において、試験片の減少厚みが初めて認められるまでの時間を、成形品の分解リードタイムとした(単位:時間)。
【0069】
[実施例1]
脂肪族ポリエステル樹脂として、ポリグリコール酸単独重合体(株式会社クレハ製、Mw:220,000、Tm:225℃。以下、「PGA1」ということがある。)100質量部に対して、カルボン酸無水物として、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)3質量部を配合した脂肪族ポリエステル樹脂組成物から、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS75E)を使用して、アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)測定用の試験片、引張強度測定用の試験片、及び曲げ弾性率測定用の試験片を調製した。また、前記の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から、プレス成形機を使用して、温度60℃の水中における分解性〔以下、「分解性(60℃水中)」と表記することがある。〕を試験するための厚み減少速度及び分解リードタイム測定用の試験片を調製した。調製した試験片について、アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)〔以下、「衝撃強度(ノッチ有)」と表記することがある。〕、引張強度及び曲げ弾性率を測定し、また、分解性(60℃水中)として厚み減少速度及び分解リードタイムを測定した。測定結果を、カルボン酸無水物の含有量〔質量部と、ポリグリコール酸(PGA1)100質量部に対する質量部(以下、「対PGA100」と表記することがある。)とともに、表1に示す。
【0070】
[実施例2]
カルボン酸無水物として、BTDA5質量部を配合したことを除いて、実施例1と同様にして、試験片を調製し、衝撃強度(ノッチ有)、引張強度及び曲げ弾性率、並びに、分解性(60℃水中)を測定した。測定結果を、カルボン酸無水物の含有量とともに、表1に示す。
【0071】
[比較例1]
カルボン酸無水物を配合しなかったことを除いて、実施例1と同様にして、試験片を調製し、衝撃強度(ノッチ有)、引張強度及び曲げ弾性率、並びに、分解性(60℃水中)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0072】
[実施例3]
脂肪族ポリエステル樹脂として、ポリグリコール酸単独重合体(株式会社クレハ製、Mw:200,000、Tm:225℃。以下、「PGA2」ということがある。)80質量部に対して、カルボン酸無水物として、BTDA3質量部(PGA2の100質量部に対して、BTDA 3.8質量部に相当する。)、及び、短繊維補強材として、ガラス繊維〔オーエンス・コーニング社製、03JAFT592S、径(D)10μm、溶融混練後のアスペクト比(L/D)30〕20質量部(PGA2の100質量部に対して、ガラス繊維25質量部に相当する。)を配合したことを除いて、実施例1と同様にして、試験片を調製し、衝撃強度(ノッチ有)、引張強度及び曲げ弾性率、並びに、分解性(60℃水中)を測定した。測定結果を、カルボン酸無水物及び短繊維補強材の含有量とともに、表1に示す。
【0073】
[実施例4]
カルボン酸無水物として、BTDA5質量部を配合した(PGA2 100質量部に対して、BTDA 6.3質量部に相当する。)ことを除いて、実施例3と同様にして、試験片を調製し、衝撃強度(ノッチ有)、引張強度及び曲げ弾性率、並びに、分解性(60℃水中)を測定した。測定結果を、カルボン酸無水物及び短繊維補強材の含有量とともに、表1に示す。
【0074】
[比較例2]
カルボン酸無水物及び短繊維補強材を配合しなかったことを除いて、実施例3と同様にして、試験片を調製し、衝撃強度(ノッチ有)、引張強度及び曲げ弾性率、並びに、分解性(60℃水中)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0075】
[比較例3]
カルボン酸無水物を配合しなかったことを除いて、実施例3と同様にして、試験片を調製し、衝撃強度(ノッチ有)、引張強度及び曲げ弾性率、並びに、分解性(60℃水中)を測定した。測定結果を、短繊維補強材の含有量とともに、表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、有効厚みが1mm以上である成形品であって、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される実施例1及び2の有効厚みが1mm以上である成形品は、1)温度60℃の水に浸漬するときの分解が開始するまでのリードタイム(分解リードタイム)が40時間以下、具体的には20時間以下であり、2)温度60℃の水中に浸漬したときの厚み減少速度が0.02mm/時間以上であって、比較例1と比較して分解性が顕著に向上していることが確認され、さらに、3)アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)が25J/m以上であって、比較例1と比較しても実用上支障がない範囲での低下であり、4)引張強度が80MPa以上であって、比較例1と比較して改善がみられ、3)曲げ弾性率が4,000MPa以上であることが分かった。したがって、実施例1及び2の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される有効厚みが1mm以上である成形品は、実用上十分な機械的強度を有し、かつ、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性、特に極めて優れた初期分解性を有し、所望する短時間で分解できるものであることが分かった。
【0078】
これに対して、カルボン酸無水物を含有しない脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される比較例1の有効厚みが1mm以上である成形品は、実用上十分な機械的強度を有するものの、温度60℃の水中に浸漬したときの厚み減少速度が0.02mm/時間未満であり、同じく分解リードタイムが40時間超過であることが分かった。したがって、比較例1の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される有効厚みが1mm以上である成形品は、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においては、優れた分解性を有さず、所望する短時間で分解できないものであることが分かった。
【0079】
また、表1から、有効厚みが1mm以上である成形品であって、PGAを50質量%以上含む脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、カルボン酸無水物1〜30質量部を含有し、更に短繊維補強材1〜50質量部を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される実施例3及び4の有効厚みが1mm以上である成形品は、温度60℃の水中に浸漬したときの分解リードタイムが40時間以下、具体的には32時間以下であって、同じく厚み減少速度が0.02mm/時間以上であり、比較例3と比較して分解性が顕著に向上していることから、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においても優れた分解性、特に優れた初期分解性を有し、所望する短時間で分解できるものであることが確認され、さらに、アイゾット衝撃強さ(ノッチ有り)が94J/mまたは92J/mであって、比較例3と比較して改善がみられ、引張強度が208MPaまたは206MPaであって、比較例3と比較して実用上支障がない範囲での10%未満の低下であり、曲げ弾性率が10,132MPaまたは10,039MPaであることから、優れた機械的強度を有するものであることから、実用上十分な機械的強度を有するものであることが分かった。
【0080】
これに対して、カルボン酸無水物及び短繊維補強材を含有しない脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される比較例2の有効厚みが1mm以上である成形品は、実用上十分な機械的強度を有するものの、温度60℃の水中に浸漬したときの厚み減少速度が0.02mm/時間未満であり、同じく分解リードタイムが40時間超過であることが分かった。したがって、比較例2の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される有効厚みが1mm以上である成形品は、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においては、優れた分解性を有さず、所望する短時間で分解できないものであることが分かった。
【0081】
さらに、短繊維補強材を含有するが、カルボン酸無水物を含有しない脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される比較例3の有効厚みが1mm以上である成形品は、優れた機械的強度を有するものの、温度60℃の水中に浸漬したときの厚み減少速度が0.02mm/時間未満であり、同じく分解リードタイムが40時間超過であることが分かった。したがって、比較例3の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から形成される有効厚みが1mm以上である成形品は、例えば温度66℃未満のような比較的低温度のダウンホール環境においては、優れた分解性を有さず、所望する短時間で分解できないものであることが分かった。