特許第6363377号(P6363377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6363377-導波方向変換装置及びレーダ装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363377
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】導波方向変換装置及びレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/02 20060101AFI20180712BHJP
   H01P 1/06 20060101ALI20180712BHJP
   H01P 5/103 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   H01P5/02 D
   H01P1/06
   H01P5/103 B
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-78532(P2014-78532)
(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2015-201713(P2015-201713A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】箟 耕治
【審査官】 橘 均憲
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04020431(US,A)
【文献】 特開2000−114802(JP,A)
【文献】 特開2014−007456(JP,A)
【文献】 実開昭63−049801(JP,U)
【文献】 特開2011−223362(JP,A)
【文献】 特開2005−167461(JP,A)
【文献】 実開昭59−187211(JP,U)
【文献】 実開平01−175001(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/02
H01P 1/06
H01P 5/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導波管と、
第2導波管と、
前記第1導波管と前記第2導波管とを連結する中空の連結部と、
前記連結部に配置されている電波伝送体と、
を備え、
前記電波伝送体は、
外導体と、
前記外導体の内部に配置される内導体と、
前記外導体と前記内導体の間に設置され、前記内導体を保持する発泡材と、
を備え、
前記内導体のうち、前記第1導波管側の先端面に接続部が取り付けられ
当該内導体、前記第1導波管おける前記電波伝送体への接続側と反対側の管壁に、前記接続部を介して固定され、
前記第2導波管は、前記第1導波管に対して回転するとき、当該第1導波管に固定されている前記接続部及び前記内導体並びに前記発泡材に対して回転することを特徴とする導波方向変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の導波方向変換装置であって、
前記発泡材が前記内導体と前記外導体の間で圧縮されていることを特徴とする導波方向変換装置
【請求項3】
請求項2に記載の導波方向変換装置であって、
前記外導体は断面円形状の貫通孔を有するように形成され、
前記内導体は断面円形状に形成され、
前記発泡材は断面が環状となるように形成されるとともに、圧縮される前の状態で、その内径は前記内導体の径より小さく、かつ、その外径は前記外導体の前記貫通孔の内径より大きく構成されていることを特徴とする導波方向変換装置
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の導波方向変換装置であって、
前記外導体と前記内導体の間に、前記発泡材として、予め成形された発泡材成形品が配置されていることを特徴とする導波方向変換装置
【請求項5】
請求項4に記載の導波方向変換装置であって、
前記内導体と前記外導体の間には、前記外導体の両端部に1個ずつ前記発泡材成形品が設置されていることを特徴とする導波方向変換装置
【請求項6】
請求項1からまでの何れか一項に記載の導波方向変換装置であって、
前記第2導波管が前記連結部の軸を中心にして第1導波管に対して相対回転することを特徴とする導波方向変換装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の導波方向変換装置であって、
前記第1導波管と前記第2導波管の一端が閉じられており、
前記第1導波管と前記第2導波管の閉じられた側同士が前記連結部で互いに連結されており、
前記第1導波管と前記第2導波管のそれぞれに開口部が設けられて、前記開口部を介して、前記連結部が前記第1導波管及び前記第2導波管と連通されていることを特徴とする導波方向変換装置。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の導波方向変換装置であって、
前記連結部が前記電波伝送体の前記外導体として構成されていることを特徴とする導波方向変換装置。
【請求項9】
請求項からまでの何れか一項に記載の導波方向変換装置であって、
レーダアンテナに用いられることを特徴とする導波方向変換装置。
【請求項10】
請求項からまでの何れか一項に記載の導波方向変換装置を備えることを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、外導体と内導体とを備える電波伝送体及び導波方向変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外導体と内導体のインピーダンスを導波管のインピーダンスにマッチングさせるように調整しながら外導体と内導体を形成した構成の導波管変換器が知られている。特許文献1は、この種の導波管変換器を開示する。
【0003】
特許文献1のスロットアレイアンテナにおいて、2つの導波管を結合するために備えられる導波管変換器は、それぞれの導波管の内部に突出するように配置される板状の内側導体を備えている。内側導体は長尺形状を有し、その一部が長手方向と直交する方向に延設されて支持部位が形成されている。この支持部位が一方の導波管の内壁箇所に固定されることで、内側導体を支持する構成となっている。また、上記特許文献1の導波管変換器には、テフロン(登録商標)などの絶縁材が、内側導体を囲繞して保持するように設けられている。
【0004】
上記導波管変換器においては、内側導体が導波管部とインピーダンスマッチングを取るように特定の形状に形成されることで、伝搬可能なマイクロ波の周波数帯域を調整している。特許文献1の導波管変換器は、リターンロスが−30dB以下に設定された場合、帯域が9.38GHz〜9.44GHzの範囲の周波数の電波を2つの導波管の間で伝搬することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−223362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の導波管変換器においては、支持部位を有する複雑な形状に設けられた内導体が必要であるため、製造工数とコストが増加する原因となっている。また、特許文献1の導波管変換器は変換後の電波の伝送方向を変更可能に構成されていないので、例えばレーダ装置のレーダアンテナにおいてアンテナ部の向きを変更可能とするための構成には適用が困難であり、この点で改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、外導体と内導体を容易に形成できるとともに、広帯域の周波数の電波に対応可能であり、第1導波管から第2導波管へ電波を効率よく伝搬することが可能な電波伝送体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の導波方向変換装置が提供される。即ち、この導波方向変換装置は、第1導波管と、第2導波管と、中空の連結部と、電波伝送体と、を備える。前記連結部は、前記第1導波管と前記第2導波管とを連結する。前記電波伝送体は、前記連結部に配置されている。前記電波伝送体は、外導体と、内導体と、発泡材と、を備える。前記内導体は、前記外導体の内部に配置される。前記発泡材は、前記外導体と前記内導体の間に設置され、前記内導体を保持する。前記内導体のうち、前記第1導波管側の先端面に接続部が取り付けられる。当該内導体、前記第1導波管おける前記電波伝送体への接続側と反対側の管壁に、前記接続部を介して固定される。前記第2導波管は、前記第1導波管に対して回転するとき、当該第1導波管に固定されている前記接続部及び前記内導体並びに前記発泡材に対して回転する。
【0010】
これにより、第1導波管の電波を、連結部に配置された電波伝送体を経由して、第2導波管へ伝搬することができる。そして、空気とほぼ同じ誘電率を持つ発泡材を外導体と内導体の間に配置することができるので、伝搬可能な電波の周波数帯域を広くすることができる。従って、広帯域の電波を効率よく伝搬することができる。また、電波伝送体と他の部材を組み合わせるとき、内導体を他の部材に接続部を介して取り付けることで固定することができる。また、内導体の位置ズレによる電波伝搬特性の変動を阻止できる。
【0011】
前記の導波方向変換装置においては、前記発泡材が前記内導体と前記外導体の間で圧縮されていることが好ましい。
【0012】
これにより、圧縮された状態の発泡材の反発力を利用して強力な摩擦力を発生させることで、内導体を、その重力に抗して保持することができる。つまり、内導体の自重等を原因とする当該内導体の位置ズレを防止することができる。
【0013】
前記の導波方向変換装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記外導体は断面円形状の貫通孔を有するように形成される。前記内導体は断面円形状に形成される。前記発泡材は断面が環状となるように形成されるとともに、圧縮される前の状態で、その内径は前記内導体の径より小さく、かつ、その外径は前記外導体の前記貫通孔の内径より大きく構成されている。
【0014】
これにより、発泡材が均一に圧縮されるため、発泡材が発生させる径方向の反発力が周方向で均等になり、内導体に対する調心作用が発揮される。この結果、内導体を、その軸が外導体の軸と一致した位置で保持することができる。
【0015】
前記の導波方向変換装置においては、前記外導体と前記内導体の間に、前記発泡材として、予め成形された発泡材成形品が配置されていることが好ましい。
【0016】
これにより、外導体と内導体の間で合成樹脂等を発泡成形する必要がないため、製造工程が簡単になり、製造コストを低減することができる。また、発泡材を圧縮して配置する場合は、外導体と内導体の間の空間の形状との関係で(外導体と内導体の間に配置される前の)発泡材の形状を設定することで、発泡材の圧縮率、ひいては反発力の大きさをコントロールすることができる。
【0017】
前記の導波方向変換装置においては、前記内導体と前記外導体の間には、前記外導体の両端部に1個ずつ前記発泡材成形品が設置されていることが好ましい。
【0018】
これにより、細長く形成された内導体を、外導体の両端に対応する2か所の発泡材で支えることができる。この2点支持により、内導体を一層安定して設置することができる。また、発泡材の誘電率が空気とほぼ同様であるため、発泡材同士の間に隙間があったり、その隙間が大きかったりしても、全体の誘電率に特に影響を及ぼさない。従って、例えば、市販され広範に流通している所定の厚みの板状の発泡材成形品をカットすることで、簡単に発泡材を得ることができる。これにより、コストを低減することができる。
【0025】
前記の導波方向変換装置においては、前記第2導波管が前記連結部の軸を中心にして第1導波管に対して相対回転することが好ましい
【0026】
これにより、導波管の向きを変更することで、電波の伝搬方向を変化させることが可能となる。
【0027】
前記の導波方向変換装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記第1導波管と前記第2導波管の一端が閉じられている。前記第1導波管と前記第2導波管の閉じられた側同士が前記連結部で互いに連結されている。前記第1導波管と前記第2導波管のそれぞれに開口部が設けられて、前記開口部を介して、前記連結部が前記第1導波管及び前記第2導波管と連通されている。
【0028】
これにより、第1導波管と第2導波管とを、連結部による簡易な構成で連通することができる。
【0029】
前記の導波方向変換装置においては、前記連結部が前記電波伝送体の前記外導体として構成されていることが好ましい。
【0030】
これにより、電波伝送体の外導体を別に設ける必要がなくなり、また、外導体を連結部に固定する構造も省略することができる。従って、導波方向変換装置をシンプルに構成してコストを低減することができる。
【0031】
前記の導波方向変換装置は、レーダアンテナに用いられることが好ましい。
【0032】
これにより、例えばレーダアンテナの可動部と固定部との間で導波管同士を適切に接続できるとともに、レーダアンテナの広帯域化及び高効率化を容易に実現することができる。
【0033】
本発明の第の観点によれば、前記導波方向変換装置を備えるレーダ装置が提供される。
【0034】
これにより、高性能のレーダ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態に係る導波方向変換装置の構成を示す断面図。
図2】本発明の電波伝送体の電波伝搬シミュレーション計算に用いられたモデルを示す斜視図。
図3】電波のリターンロスのシミュレーション計算の結果を示すグラフであり、(a)は誘電体として発泡材を用いた場合の図、(b)は誘電体として従来のテフロンを用いた場合の図。
図4】発泡材を圧縮させながら外導体と内導体の間に取り付ける様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は一実施形態に係る導波方向変換装置1の構成を示す断面図である。
【0037】
図1に示す本実施形態の導波方向変換装置1は、気象用又は船舶用等のレーダ装置が備える図略のレーダアンテナにおいて、向きを変更可能に構成されるアンテナ部(可動部)と、このアンテナ部を支持する指示部材(固定部)と、の間で、導波管を接続する部分に適用されるものである。なお、レーダアンテナ及びレーダ装置の構成は公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0038】
この導波方向変換装置1は、電波伝送体2と、第1導波管3と、第2導波管4と、連結部5と、を備える。導波方向変換装置1は、第1導波管3の電波を、電波伝送体2を経由して第2導波管4に伝搬するように構成されている。
【0039】
電波伝送体2は、第1導波管3と第2導波管4とを繋ぐ連結部5に配置されている。この電波伝送体2は、外導体21と、内導体22と、発泡材23と、を備える。
【0040】
外導体21及び内導体22は、第1導波管3及び第2導波管4と同様に、電気伝導性の高い金属等を材料として構成されている。図1に示すように、外導体21は細長い中空状(具体的には、円筒状)に形成され、その内部に、細長く形成された丸棒状の内導体22が差し込まれている。外導体21には、その軸方向と垂直な平面で切った断面が円形の貫通孔が形成されている。また、内導体22は、その軸方向と垂直な平面で切った断面が円形となるように形成されている。発泡材23は、外導体21の径方向内側かつ内導体22の径方向外側に配置され、外導体21の内部空間の中心位置に内導体22を支持している。
【0041】
発泡材23は、図1に示すように、外導体21の両端部に相当する位置に1個ずつ配置されている。それぞれの発泡材23,23は、高い電気絶縁性を有する合成樹脂(例えばポリエチレン)を発泡成形させることにより得られた成形体を、断面が環状となる形状に打ち抜くことで構成されている。発泡材23の内部には、多数の小さい気泡が、ほぼ均一な大きさ及び密度で形成される。また、それぞれの発泡材23,23は、ある程度の弾性変形が可能に構成されている。
【0042】
2つの発泡材23,23は、外導体21及び内導体22の長手方向で適宜の間隔をあけて配置されている。この結果、2つの発泡材23,23の間であって、外導体21の内側かつ内導体22の外側には、円筒状のスペース24が形成されている。以上により、外導体21及び内導体22の部分に同軸線路が構成されている。
【0043】
本実施形態では、上記の構成とすることにより、発泡材23のうち合成樹脂の部分と、発泡材23に含まれている空気と、スペース24を満たしている空気と、が、電波伝送体2における誘電体として機能する。
【0044】
一般的に、誘電率の大きい誘電体は電波が当たることによって容易に分極されるので、伝送された電波にリターンロスが発生し、この結果、伝送速度が遅くなる。この点、上記の発泡材23には空気を多く含ませることができるので、空気に近い誘電率を持たせることができる。例えば、空気の誘電率が約1.00であるのに対して、本実施形態の発泡材23の誘電率(気泡部分の空気を含む全体的な誘電率)は約1.01である。従って、発泡材23は、低リターンロス、高効率で電波を伝搬することができる。
【0045】
発泡材23の発泡倍率は限定しないが、発明者が試験した結果によれば、10〜30倍程度とするのが好ましい。また、同軸線路の長手方向における発泡材23の寸法も限定されない。例えば、外導体21の全長と一致する長さを有する1個の発泡材23を設置して、スペース24が形成されないような構成としても良い。ただし、本実施形態のように2個の発泡材23,23を互いに間隔をあけて配置すると、内導体22を2点で安定して支持できるとともに、発泡材23のコストも低減できる点で好ましい。
【0046】
本願発明者は、誘電体として上記のような発泡材23を用いることによる効果を示すために、以下のようなシミュレーション実験を行った。
【0047】
シミュレーション計算は、図2に示すモデルを用いて行われた。このモデルにおいて、第1導波管3と、第2導波管4とは、それぞれ角筒状に形成され、互いに90°異なる方向を向いている。第1導波管3と第2導波管4の間は、連結部5を構成する円筒状の外導体21によって接続されている。第1導波管3の内部と第2導波管4の内部とは、連結部5の内部空間を介して連通されている。
【0048】
円筒状の外導体21の内部には、1個の長尺円筒状の誘電体が配置される。この誘電体は外導体21の両端から突出して、その一端は第1導波管3の内壁に接触するまで延び、他端は第2導波管4の内壁に接触するまで延びている。誘電体には貫通孔が形成されており、この貫通孔の内部に内導体22が配置される。内導体22の長さは、外導体21よりは長いが誘電体よりは短く設定されており、その両端部が、第1導波管3や第2導波管4の内部まで突出している。
【0049】
本願発明者は、この図2のモデルの誘電体として上記実施形態の発泡材23を用いた場合と、従来のテフロンを用いた場合の両方について、電波伝搬のシミュレーション計算によりリターンロスを求めた。図3には、得られたリターンロスのグラフが、(a)本実施形態の発泡材23が誘電体として使用される場合と、(b)従来のテフロンが誘電体として使用される場合と、で比較して示されている。
【0050】
図3で明らかであるように、本願発明のように発泡材23を用いることで、伝搬可能な電波の周波数帯域を大幅に広げることができる。例えば、リターンロスを−25dBに設定する場合、従来のテフロン(図2(b))では、伝搬可能な電波が9.38GHz〜9.52GHzの範囲内であるのに対し、本実施形態の発泡材23(図2(a))では9.0GHz〜10.0GHzより広い範囲となっており、少なく見積もっても、帯域が単純計算で約7倍に拡大されていることがわかる。
【0051】
ところで、広帯域の電波を伝搬するために、空気を誘電体として使用するのが有効であることが知られている。一方で、インピーダンスマッチングを取って電波を安定的に効率よく伝搬するには、外導体21及び内導体22の位置関係が一定となるように維持することが重要であるが、空気は流動体であるため、内導体22を支持することは不可能である。
【0052】
この点、本実施形態では図4に示すように、その内径が内導体22の径より小さく、その外径が外導体21の内径より大きくなるように形成した、径方向の厚みが周方向で一定である円筒状の発泡材23を圧縮し、外導体21と内導体22の間に配置している。これにより、圧縮方向に弾性変形された発泡材23が反発力を発生させ、この反発力に起因して、外導体21と発泡材23の間、及び、内導体22と発泡材23の間に強い摩擦力が発生する。また、発泡材23の径方向の厚みが一定であり、発泡材23における気泡の大きさ、密度もほぼ均一であるため、圧縮された状態の発泡材23において径方向の反発力が周方向で均等に発生し、内導体22を外導体21の中心に位置させようとする(調心作用)。更に、発泡材23は上記のように弾性変形するものの、当該発泡材23の軸方向の寸法を十分長くすることで、せん断方向の変形は小さくすることができる。以上により、内導体22を、外導体21の内部の中心位置に、その自重に抗して支持することができる。
【0053】
また、本実施形態において発泡材23は、外導体21と内導体22の間で発泡成形するのではなく、所定の厚みで予め発泡成形された、広く市販されている板状の発泡材成形品を必要な形状に打抜き加工することで構成されている。これにより、製造コストを低減できるとともに、製造工程が簡単になる。また、外導体21と内導体22の間に挿入される前(圧縮前)の発泡材23の寸法を適宜定めることで、発泡材23が発生させる反発力をコントロールすることができる。
【0054】
内導体22の一端には、接続部6が設けられている。図1に示すように、接続部6は細長い板状の本体部61を備えており、この本体部61の長手方向は内導体22の長手方向と一致している。本体部61の長手方向一端には、小さな凸状の挿入部62が形成されている。本体部61のうち挿入部62が形成されていない側の端部は、内導体22の先端面に形成した直線状の溝22aに差し込まれ、接着剤などで取り付けられている。また、前記挿入部62は、第1導波管3において電波伝送体2への接続側と反対側の管壁に挿入された状態で固定されている。以上により、内導体22を吊り下げた状態で(第2導波管4の内壁から浮いた状態で)固定することができる。これにより、内導体22の位置ズレ(特に、軸方向の位置ズレ)によって電波伝搬特性が変化するのを回避することができる。
【0055】
上述したとおり、内導体22の重量のうち相当の部分が、発泡材23による摩擦力で支持されている。従って、内導体22を保持する接続部6は、内導体22の重量の全部を支えられるほど頑丈に構成しなくても良いので、構成を簡素化できる。本実施形態において、接続部6は、0.3mmから0.5mmぐらいの厚さの板状に形成されている。また、接続部6の材料としては、ポリカーボネートが採用されている。この材料を使用するのは、ポリカーボネートが電波の伝送に殆ど影響を及ぼさず、加工性もよいからである。ただし、上記の構成に限定されるものではなく、例えば、接続部6の形状は円柱状等でも良く、接続部6の材料はポリカーボネート以外の適宜のものを利用しても良い。
【0056】
図1に示すように、内導体22が、発泡材23で保持され、かつ、接続部6を通して第1導波管3に固定されることで、内導体22を、その軸が外導体21の軸と一致するように位置させることができる。これにより、内導体22を前述の特許文献1のように特別な形状にする必要がないため、製造コストを低減できる。
【0057】
次に、図1を参照して、本実施形態の電波伝送体2を利用した導波方向変換装置1について説明する。
【0058】
図1に示すように、第1導波管3及び第2導波管4は、上記の電波伝送体2を挟むようにして両側に配置されている。第1導波管3が有する管体の一端は閉鎖部32によって閉じられ、第2導波管4が有する管体の一端は閉鎖部42によって閉じられている。また、第1導波管3の管体において閉鎖部32の近傍に開口部31が形成され、第2導波管4の管体において閉鎖部42の近傍に開口部41が形成されている。2つの開口部31,41は互いに向かい合うように配置されている。
【0059】
図1に示すように、第1導波管3の管体の閉じられた側と、第2導波管4の管体の閉じられた側と、を連結するように、連結部5が設けられている。連結部5は第1導波管3の管体と一体に形成されるとともに、中空の円筒状に形成され、第1導波管3の開口部31と第2導波管4の開口部41を連通している。これにより、第1導波管3と第2導波管4とを連結部5で連通するシンプルな構造が実現されている。
【0060】
連結部5は、前記電波伝送体2の外導体21として機能する外殻51を備えている。図1に示すように、連結部5の一端の外殻51の外周には、軸受7の内輪が嵌められている。軸受7の外輪は、第2導波管4の開口部41の周囲に形成された環状凸部45の内側に嵌められている。軸受7の回転軸線(連結部5の軸線)は、電波伝送体2が備える外導体21及び内導体22の軸と一致している。
【0061】
以上によりロータリジョイントが構成され、第2導波管4が第1導波管3に対して、連結部5の軸を中心にして360°回転することができる。ただし、ロータリジョイントの構成は上記に限定されず、適宜変更することも可能である。
【0062】
本実施形態においては、電波伝送体2が連結部5に設置され、当該連結部5の外殻51が外導体21として機能している。これにより、連結部5の外殻51の内部に外導体を改めて形成することなく、外殻51(外導体21)内に内導体22と発泡材23を設置するだけで、導波方向変換装置1の内部で電波伝送体2を簡単に構成することができる。
【0063】
内導体22の一端は第1導波管3の内部に露出し、他端は第2導波管4の内部に露出している。内導体22が第1導波管3の内部空間33に露出している部分(露出部分221)と、第2導波管4の内部空間43に露出している部分(露出部分222)は、第1導波管3と第2導波管4に対してインピーダンスマッチングが取られる寸法に形成されている。
【0064】
以上の構成により、第1導波管3の内部空間33の電波を、連結部5に配置された電波伝送体2を経由して、第2導波管4の内部空間43に伝搬させることができる。また、第2導波管4が第1導波管3に対し、連結部5の軸を中心にして360°回転することが可能である。これにより、第1導波管3と第2導波管の向きの関係を変化させて、電波を様々な方向に伝送することができる。
【0065】
以上に説明した様に、本実施形態の電波伝送体2は、外導体21と、内導体22と、発泡材23と、を備える。内導体22は、外導体21の内部に配置される。発泡材23は、外導体21と内導体22の間に設置され、内導体22を保持する。
【0066】
これにより、空気とほぼ同じ誘電率を持つ発泡材23を外導体21と内導体22の間に配置することができるので、伝搬可能な電波の周波数帯域を広くすることができる。従って、広帯域の電波を効率よく伝搬することができる。
【0067】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0068】
上記実施形態においては、連結部5が第1導波管3の管体と一体に形成されているが、これに限定されない。例えば、連結部5を第2導波管4の管体と一体に形成し、連結部5と第1導波管3の管体との間に軸受7を配置するように構成しても良い。この場合、内導体22は、第2導波管4に対して接続部6を介して固定すると良い。
【0069】
上記実施形態においては、接続部6は内導体22の一端にだけ配置されているが、これに限定されず、接続部6を内導体22の両端に配置することもできる。
【0070】
上記実施形態では、連結部5が第1導波管3の長手方向と垂直で、かつ、第2導波管4の長手方向とも垂直に設置されている。ただし、連結部5と、第1導波管3や第2導波管4の長手方向と、のなす角が90°でなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 導波方向変換装置
2 電波伝送体
3 第1導波管
4 第2導波管
5 連結部
6 接続部
7 軸受
21 外導体
22 内導体
23 発泡材
51 外殻
61 本体部
62 挿入部
図1
図2
図3
図4