【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、上述のレーザポインタの如きレーザ発振装置、或いはそれから発振されるレーザを用いない、以下のようなまったく新たな原理に基づくポインタを開発した。
レーザを用いないポインタである以下のような装置は、同種装置、同種製品が存在しないため、便宜上、本願では当該装置を「光ポインタ」と呼ぶことにする。
【0007】
本願発明は、正のパワーを有するレンズである第1レンズと、前記第1レンズの光軸上の、その範囲から出た光が前記第1レンズを通過した後に実際上の平行光となる程度に狭小な範囲である光出射範囲から前記第1レンズに向けて光を照射するようになっている光源系と、前記光源系を内蔵し、前記第1レンズが取付けられるケースと、を有し、所定の対象物に当たった実際上の平行光となった前記光が光点を作るようになっている、光ポインタであって、前記ケースの内周面の少なくとも一部は、光が一定方向に反射することを防止する反射防止面とされている、光ポインタである。
この光ポインタは、レーザを用いない。光源系は光を発するが、光源系が発する光はレーザではない。光源は例えば、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)、或いはEL(Electro Luminescence:エレクトロルミネッセンス)を含んでいる。
本願の光ポインタは、正のパワーを有するレンズである第1レンズを有する。また、この光ポインタにおける光源系は、それから出た光が前記第1レンズを通過した後に実際上の平行光となる狭小な範囲である光出射範囲から前記第1レンズに向けて光を照射するようになっている。第1レンズは、合成して考えたときに正のパワーを有する限り、複数のレンズであっても構わない。第1レンズが一枚の正のパワーを有するレンズである場合、上述の光出射範囲は、第1レンズの焦点に一致する。
正のパワーを有するレンズの焦点におかれた点光源から出て当該レンズに入射した光が平行光となって当該レンズから出るということは、レンズの近軸光線に関して言えば、光学の常識である。本願の光ポインタは、その原理を応用して、光源系の光出射範囲を、それが実際上点光源として機能する程度に狭小な範囲としている。光源系の光出射範囲を、第1レンズの光軸上の、それから出た光が前記第1レンズを通過した後に実際上の平行光となる範囲(第1レンズが一つの正のパワーを有するレンズである場合には第1レンズの焦点)に位置させることで、実際上の平行光を得ることとしている。
それにより、所定の対象物に当たった実際上の平行光となった光は、光ポインタ(より正確には、第1レンズ)から対象物までの距離に関わらず、対象物上に光点を作るから、この光ポインタは、レーザポインタと同様に用いることができる。のみならずこの光ポインタは、レーザを用いないものであるから、レーザポインタにつきまとった危険性が殆どない。
【0008】
このような光ポインタを従来作ることのできなかった理由は、実際上点光源として機能する程度に狭小で、且つ十分な明るさを持つ光源系が従来存在していなかったということに尽きる。正のパワーのレンズを用いて平行光を作る場合には、その平行光の断面の大きさは、光が照射される範囲である光出射範囲(例えば、発光を行う面状の発光面を光源系が有する場合であれば、その発光面が光出射範囲に相当する。)よりも小さくなることはない。しかも、光出射範囲は正確な意味での点ではあり得ないので、第1レンズを通過した光である平行光は実際上の平行光ではあるものの、完全な平行光ではない。大雑把に言えば、第1レンズを通過した光は、対象物までの距離が長くなるにつれその断面が広がっていき、それが対象物に当たったときにできる光点が大きくなり、且つ暗くなる。したがって、十分な明るさを持ち、小さな光出射範囲を有する光源系が存在しなければ、本願の如き光ポインタを作ることはできないのである。
本願発明は、そのような光源系を、その構成の仕方も含めて見出すとともに、それを用いて実際上の平行光を作ったことのみならず、その実際上の平行光を用いればレーザポインタ代用品を得ることができることを明らかにしたところに、その価値がある。
なお、本願では、第1レンズを出た光によって対象物上に作られた光点を、レーザポインタから放たれた光が対象物上に作る光点と同様に利用することができる程度に、第1レンズを出た光が平行である場合には、本願における「実際上の平行光」という条件が満たされるものとする。
【0009】
ところで、本願発明者は上述の如き光ポインタを試作している最中に、第1レンズを通過して実際上の平行光となった光を所定の対象物に当てた場合にできる光点の輪郭が、ぼやけてしまうという現象に気がついた。光点の輪郭がぼやけるという現象は、光ポインタの指し棒としての性能に影響を与えかねない。
かかる不具合が生じる原因は幾つかあるが、その原因の一つとして挙げられるのは、本来は光源系から直接第1レンズに向かい第1レンズから光ポインタの外部にそのまま出るべき光のうち、ケースの内部の部品に当たる等して予期せずに発生した迷光の存在である。かかる迷光が、第1レンズを通過して実際上の平行光となった光(或いはその光が作る光点)に影響して、光点の縁がぼやけた状態となるのである。
本願発明では、前記ケースの内周面の少なくとも一部を、光が一定方向に反射することを防止する反射防止面とすることで、まとまった迷光が第1レンズから外に出て行きにくくすることにしている。これにより、光ポインタの指し棒としての性能に影響を与えかねない光点がぼけるという現象を減じることができる。
【0010】
前記反射防止面は、そこに当たった光が様々な方向に反射するようになっており、それにより、光が一定方向に反射することを防止するようにされていても良い。これによりまとまった迷光が存在しにくくなる。これらのような反射防止面は、例えば以下のような構成により実現できる。
その1つ目は、前記ケースは円筒形であり、前記反射防止面には、ネジ切りがされているという構成である。ケースの内周面を雌ねじのように構成することによって、ネジ溝に当たった光が様々な方向に反射することになる。その2つ目は、前記反射防止面は、その表面が荒らされている、という構成である。これも、荒らされたケースの内周面に当たった光を様々な方向に反射するようにするという工夫である。いずれもその加工は難しくなく、コスト的にも大きな問題を生じにくい。
前記反射防止面は、そこに当たって反射する光を減衰させるようになっており、それにより、光が一定方向に反射することを防止するようにされていても良い。この場合には、反射する光自体を減少させることにより、まとまった迷光が存在しにくい状況とする。このような反射防止面は、例えば以下のような構成により実現できる。
その1つ目は、前記反射防止面の表面は、前記光源系からの光を吸収する色となっている、という構成である。光源系からの光を吸収する色は、例えば、光源系の光の色の補色となる色であり、或いは黒色である。その2つ目は、前記反射防止面には、反射防止塗料が塗布されているという構成である。反射防止塗料は、市販のもので構わない。いずれもその加工は難しくなく、コスト的にも大きな問題を生じにくい。
【0011】
ケース内の反射防止面は、ケースの内周面の少なくとも一部に形成されていれば足りる。反射防止面はケースの内周面の全面に形成されていても良い。
例えば、前記反射防止面は、前記ケースの内周面のうち、前記光源系から前記第1レンズに相当する部分の1/2以上の長さに相当する範囲に存在するようになっていても良い。この程度の範囲に反射防止面が存在すれば、まとまった迷光を少なくするという効果は得られる。前記反射防止面は、前記ケースの内周面のうち、前記光源系から前記第1レンズに相当する部分の全長にわたって存在するようになっていても良い。こうすることで、まとまった迷光をかなり少なくすることができる。
【0012】
本願発明の光ポインタにおける前記光出射範囲は、小さければ小さいほど良く、例えば、5mm角よりも小さくされていても良い。光出射範囲は、第1レンズの光軸上にあり、且つ通常は第1レンズの光軸に直交する所定の平面内にある。光出射範囲が5mm角よりも小さいと、光ポインタから対象物までの距離が3m程度離れたときに対象物に平行光を当てることによりできる光点の大きさが30mm角よりも小さくなり(形状を問わず30mm角の中に収まるようになり)、光ポインタをレーザポインタのように用いるために要求される基本的な性能を、充足させやすくなる。なお、レーザポインタが作る光点は例えば直径数mm程度の円等である場合が多く、比較的小さいのが通常である。ここで、レーザポインタが作る光点が小さいのは、照射される光がレーザであること、またレーザ発振器の出力が主に安全上の理由から事実上制限されていることから導き出される結果に過ぎず、レーザポインタの製造者が積極的に、或いは意図的にレーザポインタが作る光点を小さくしているわけではない。本願発明者の研究によれば、むしろ光点がある程度大きい方が、例えば、直径5mmの円を、より好ましくは直径10mmの円を超える程度の方が見易くなるということが判明している。そういった意味では、光ポインタから3m離れたときにおける光点の大きさが30mm角程度となるのはむしろ好ましいといえる。なお、実際上の平行光が対象物に作る光点は、光ポインタから対象物までの距離が長くなればなる程実際上の平行光の断面が大きくなることに基づき大きくなるが、実際上の平行光をより完全な平行光に近づけることができれば、光ポインタが対象物に作る光点は、光ポインタから光点までの距離に関わらず完全に同じになる。第1レンズを含む光学系の設計との兼ね合いになるが、本願発明者の研究によれば、レーザポインタから対象物までの距離によらず、光ポインタが対象物上に作る光点の大きさをユーザがある程度許容できる程度にすることを実現するためには、光出射範囲は、3mm角よりも小さくするのが好ましく、もっと言えば1mm角よりも小さくするのが好ましい。更に言えば、光出射範囲は、例えば、直径3mm以下の円形の範囲に収まるようにするのが好ましく、或いは、直径1mm以下の円形の範囲に収まるようにするのが更に好ましい。
【0013】
光源系は、光を発する発光体そのものであっても良いし、それに他の部材を加えて構成されていても構わない。発光体は例えば、LED、或いはELである。
本願発明の前記光源系は光を発する発光体を備えており、前記発光体の発光を行う発光面が、前記光出射範囲となっていても良い。多くのLEDは、積層された半導体の側面から光を放出し、放出した光を半導体の背面に置かれた凹面鏡で前方に反射するようになっている。他方、ある種の半導体は、その前面の発光面から前方に向けて光を放出するようになっている。このような半導体を用いる場合であればその前面の発光面を、光出射範囲として用いることができる。ELもその前面の発光面から光を照射するようになっているので、その前面の発光面を光出射範囲として用いることができる。
【0014】
本願発明の前記光源系は、光を発する発光体と、前記発光体から出た光を通過させる開口を有する、前記発光体から出た光を絞るための絞りとを備えており、前記開口の内側が、前記光出射範囲となっていても構わない。
この場合の発光体は、発光面を備えていても良いが、発光面を備えていなくても良い。この場合、発光体から出た光は、絞りの開口で絞られる。その開口を光出射範囲と見做すことができる。かかる絞りを用いることにより、発光面を小さくすることにそれほど努力を払わなくとも、実際上の点光源として機能する狭小な光出射範囲を有する光源系を容易に実現できることになる。
絞りは発光体に近い位置に設けられる方が、発光体からの光が無駄になりにくいから好ましい。絞りは例えば、発光体から2mm以内の位置に設けられていても良い。発光体が発光面を持つのであれば、絞りは発光面から2mm以内の位置に設けられるのが好ましい。更に言えば、絞りは発光体に、或いは発光面に当接させられていても良い。
【0015】
前記絞りの前記開口に沿う縁の断面形状は、その縁に行くほど薄くなるナイフエッジ状とされていても良い。
光ポインタを試作した本願発明者は、対象物に実際上の平行光を照射することで生じる光点の縁が明確でなくぼんやりすることに気がついた。その原因を探ったところ、発光体からの光が、絞りの開口に沿う縁(一般的には、板状の絞りと同じ厚さがある)に当たって反射し迷光が生じることがその一因であることが判明した。絞りの開口に沿う縁の断面形状をナイフエッジ状とすることで、そのような迷光の発生を効果的に防止できるので、本願の光ポインタが作る光点の縁を明確なものとすることができるようになる。
【0016】
絞りの開口の形状はどのようなものでも構わない。絞りの開口の形状は基本的に、光点の形状を決定するものである。絞りの開口の形状を光点として希望する形状とすることで、本願の光ポインタは所望の光点を対象物に生じるものとなる。一般的なレーザポインタを用いて対象物の上に作ることのできる光点の形状としては、円形、星形、ライン状(細い矩形)等が存在するが、開口の形状はそれら各形状と同じものとすることができる。
発光体が発光面を有する場合、絞りの開口の形状は発光面の形状とは異なるものとすることができる。発光体がLED、或いはELである場合には、それらの発光面は通常矩形であろう。その場合、例えば、開口の形状は、円形、星形等にすることも、また発光面の形状とは異なる矩形にすることもできる。
また、絞りの開口の形状、大きさは、開口の全体を、発光体からの光が通過するようなものとするのが基本的な絞りの用い方である。その場合には、絞りの開口の形状と、光点の形状は一致する。絞りの開口のうち発光体からの光が通過しない部分がある場合には、光点はその部分が欠けた形状となる。
【0017】
上述したように、前記光源系は、発光を行う面である発光面を備えている場合がある。その場合、前記発光面は前記第1レンズの光軸に垂直となるようにして、前記第1レンズ方向に臨んでいても良い。
【0018】
本願の光ポインタでは、前記光源系と、前記第1レンズの間に、負のパワーを有する第2レンズが配されていても良い。負のパワーを有するレンズは、それを通過する光源系からの光を更に広げる機能を有する。これは、事実上、第1レンズの焦点の位置を第1レンズに近づけるように作用する。そのような負のパワーを有する第2レンズを光源系と第1レンズの間に配することで、光源系から第1レンズまでの距離を近づけることが可能となるから、光ポインタを小型化するのが容易となる。
【0019】
光ポインタが対象物上に作る光点は、直径5mmの円を超える方がよく、直径10mmの円を超える方がより好ましいことを既に述べた。それを踏まえて、本願発明は以下のようなものとすることができる。
本願発明の光ポインタは、前記第1レンズから前記対象物までの距離が、前記光ポインタを使用する際に想定される前記第1レンズから前記対象物までの距離である予定距離の範囲内である場合における光点の大きさが、直径5mmの円から少なくともその一部が食み出でるようになっていても良い。予定距離は、光ポインタを使用する際に想定される第1レンズから対象物までの距離である。予定距離は、実際上は、光ポインタの製造販売者が、ユーザに、光ポインタから対象物までの距離はこの範囲とするようにして光ポインタを使用してください、などと取扱い説明書等によって注意喚起を行う距離となろう。予定距離は大抵の場合、数10cmから10m程度の間に収まると予想される。かかる予定距離のすべての範囲に対象物位置する場合において、対象物上に生じる光点が、直径5mmの円から少なくともその一部が食み出でるようなものとなっていれば、その光点は見易いものとなる。
前記第1レンズから前記対象物までの距離が、前記予定距離の範囲内である場合における光点の大きさが、直径10mmの円から少なくともその一部が食み出でるようになっていれば、その光点はなお見易い。
他方、光点が余りにも大きければ、その光点が指し示している場所が不明確になるおそれがある。その意味では、前記第1レンズから前記対象物までの距離が、前記予定距離の範囲内である場合における光点の大きさが、直径60mmの円に収まるようになっているのが好ましい。更に言えば、前記第1レンズから前記対象物までの距離が、前記予定距離の範囲内である場合における光点の大きさが、直径40mmの円に収まるようになっているのがより好ましい。光点の大きさが直径40mmの円に常に収まるのであれば、第1レンズから対象物までの距離が変化しても対象物上に生じる光点の大きさの変化を、それを見る者が気にならない程度に留めることができる。
第1レンズから対象物までの距離が変化しても対象物上に生じる光点の大きさの変化がそれ程生じないようにするには、光点のピント位置までの距離を長くすることが有用であることが本願発明者の研究によって明らかになっている。詳しい理屈は不明であるが、対象物までの距離がピント位置よりも手前である場合には、対象物の表面に生じる光点は対象物が遠くなっても緩やかに大きくなるだけであるが、対象物までの距離がピント位置よりも遠くなった場合には、対象物の表面に生じる光点は対象物が遠くなると急速に大きくなる。したがって、前記光点のピント位置が、前記予定距離よりも遠くなっていれば、第1レンズから対象物までの距離が変化しても対象物上に生じる光点の大きさの変化がそれ程生じないようにすることができる。
【0020】
本願発明の光ポインタの光源系が発光体を有する場合、前記発光体の前方(発光体と第1レンズの間の、多くの場合発光体の直近位置)には、前記発光体が発した光を散乱する、散乱フィルタが配置されていても良い。光ポインタを使用する場合において対象物が、光ポインタのピント位置に存在すると、そこに生じる光点は、発光体のまさに光を発している部分の像を結像させる。例えば、発光体が、発光面を有するLEDである場合、光点には、LEDの発光面に形成された半導体のパターンが浮かび上がることになる。光点のピント位置が、予定距離よりも遠くなっている場合には、対象物がピント位置に丁度位置する状態が普通に生じる。散乱フィルタが存在すれば、光点に発光体のまさに光を発している部分の像が結像されるという事態が生じるのを防止できる。
光源系が絞りを有する場合、前記発光体が発した光を散乱する、前記発光体の前方に位置する散乱フィルタは、前記絞りの前記開口内に配されていても良い。こうすれば絞りの開口を通過する光のすべてを散乱フィルタにより散乱させることができる。前記散乱フィルタ及び前記絞りは、前記発光体が発した光を散乱する機能を有する一枚の板により構成されており、前記板の周辺を、光が透過できないようにすることにより、前記絞りとして機能させることができるようになっていてもよい。散乱フィルタの周縁を絞りとして用いることにより、散乱フィルタと絞りを別々に製造しそれらを組み合せることによるコストを低減できる。例えば、矩形の散乱フィルタの周縁を、その中央に円形の開口が残るようにして、光を通過させない例えば黒色の塗料で被覆すれば、上述の如き一体物の絞り及び散乱フィルタを得られる。