(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363402
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】トーションビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
B60G9/04
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-115004(P2014-115004)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-229372(P2015-229372A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マルフィル フェリペ ワキ
【審査官】
三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−088525(JP,A)
【文献】
特開2005−008123(JP,A)
【文献】
特開2012−111440(JP,A)
【文献】
特表2009−501113(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0059959(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のトレーリングアームと、
軸方向の両端部において各前記トレーリングアームに連結されるトーションビームと、
前記トーションビームの軸方向の両端部において、前記トーションビームの外面と各前記トレーリングアームとに跨って溶接される第1補強部材であって、外縁部が溶接されることによって、前記トーションビームおよび各前記トレーリングアームに対し固定される第1補強部材と、
前記トーションビームの軸方向の両端部において、前記トーションビームの内面と各前記トレーリングアームとに跨って溶接される第2補強部材であって、外縁部が溶接されることによって、前記トーションビームおよび各前記トレーリングアームに対し固定される第2補強部材と、
を備え、
前記第1補強部材は、
前記第2補強部材が前記トーションビームに対し溶接される溶接線で囲まれる範囲の内側に、前記トーションビームのねじれに伴う応力集中が発生する部分が少なくとも位置するように前記トーションビームに対して溶接されると共に、
前記第2補強部材が前記トーションビームに対し溶接される溶接線状部で囲まれる範囲の内側に、当該第1補強部材の全体が位置するように前記トーションビームに対して溶接される
ことを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項2】
請求項1に記載のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記第1補強部材は、
前記第2補強部材が前記トーションビームに対し溶接される溶接線状部で囲まれる範囲の内側に、対になる前記第1補強部材が位置する側の先端部分から前記トーションビームの長手方向に沿って1/4の部分が位置するように前記トーションビームに対して溶接した
ことを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか一項に記載のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記第1補強部材および前記トーションビームは、
これらに跨って形成された切欠部であって、前記トレーリングアームの外面を軸周りに180度以上の範囲で掴む切欠部を備え、前記切欠部を介して前記トレーリングアームと、前記トーションビームおよび前記第1補強部材とが溶接されることを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記トーションビームは、
開口を下方に向けた樋形状に形成されていることを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記第1補強部材は、板部材を曲げ加工して形成されていることを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記第2補強部材は、板部材を曲げ加工して形成されていることを特徴とするトーションビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションビーム式サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
トーションビームの端部に設けた切欠にトレーリングアームの外面を当接させ、その当接した部分を溶接することによって、トレーリングアームにトーションビームを連結したトーションビーム式サスペンションが知られている。しかし、このような構造のトーションビーム式サスペンションは、ロール剛性が弱い。
【0003】
そこで、ガゼットと呼ばれる補強部材を用いてロール剛性を向上させる技術が提案されている(特許文献1)。このガゼットは、トーションビームの両端の外面上に溶接されるものであって、トーションビームの切欠に連続する切欠を有している。
【0004】
この場合、トレーリングアームは、その外面をこの連続する切欠によって形成される切欠部に当接させ、その切欠部が当接した部分を溶接することによって、トーションビームに連結される。
【0005】
このようにすると、トレーリングアームとトーションビームとが強固に連結されることとなるので、ガゼットが用いられていない構造と比較して、ロール剛性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4340480号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このガゼットを備える構成では、ガゼットの先端部分近傍、具体的には、トレーリングアームからトーションビームに向く方向側の端部近傍に、トーションビームのねじりに伴う応力が集中するという問題があった。
【0008】
このような応力集中が発生した場合、その部分からトーションビームに亀裂が入ったり、その部分でガゼットがトーションビームから剥がれたりするといった破壊が発生することが懸念された。
【0009】
そこで、本発明は、ガゼットが用いられた構成であって、応力集中部分での破壊が発生しにくく、しかも、ロール剛性を高めることができるトーションビーム式サスペンションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面のトーションビーム式サスペンションは、
一対のトレーリングアーム(2)と、
軸方向の両端部において各前記トレーリングアームに連結されるトーションビーム(3)と、
前記トーションビームの軸方向の両端部において、前記トーションビームの外面と各前記トレーリングアームとに跨って溶接される第1補強部材であって、外縁部が溶接されることによって、前記トーションビームおよび各前記トレーリングアームに対し固定される第1補強部材(4)(ガゼットに相当する)と、
前記トーションビームの軸方向の両端部において、前記トーションビームの内面と各前記トレーリングアームとに跨って溶接される第2補強部材であって、外縁部が溶接されることによって、前記トーションビームおよび各前記トレーリングアームに対し固定される第2補強部材(5)と、
を備え、
前記第1補強部材は、
前記第2補強部材が前記トーションビームに対し溶接される溶接線で囲まれる溶接範囲の内側に、前記トーションビームのねじれに伴う応力集中が発生する部分が少なくとも位置するように前記トーションビームに対して溶接されている。
【0011】
このようにすると、トーションビームにねじれが生じる場合であっても、溶接線で囲まれる溶接範囲の内側は、第2補強部材によってねじれ難くなる。
そして、本発明では、このねじれ難くなった部分で、第1補強部材をトーションビームに溶接しているので、従来、第1補強部材とトーションビームとの溶接部分のうち、トーションビームのねじれに伴う応力集中が発生していた部分への応力の集中が緩和される。
【0012】
また、本発明では、トーションビームのねじれに伴う応力が第1補強部材と第2補強部材とに分散されるので、ロール剛性も向上する。
したがって、本発明のトーションビーム式サスペンションによると、応力集中による破壊が発生しにくくなり、しかも、ロール剛性を高めることができる。
【0013】
尚、溶接線とは、必ずしも一続きの線である必要はなく、線状に形成されているものであればよい。
ところで、第1補強部材とトーションビームとの溶接部分のうち、応力集中が発生する部分は、対になる第1補強部材が位置する側の先端部分からトーションビームの長手方向に沿って1/4の部分に位置することが経験則的に分かっている。
【0014】
そのため、第2補強部材がトーションビームに対し溶接される溶接線状部で囲まれる範囲の内側に、その1/4の部分が位置するようにトーションビームに対して溶接されるようにしてもよい。
【0015】
また、第1補強部材は、第2補強部材がトーションビームに対し溶接される溶接線状部で囲まれる範囲の内側に、第1補強部材の全体が位置するようにトーションビームに対して溶接されるようにしてもよい。
【0016】
次に、第1補強部材およびトーションビームは、これらに跨って形成された切欠部であって、トレーリングアームの外面を軸周りに180度以上の範囲で掴む切欠部を備え、この切欠部を介してトレーリングアームと、トーションビームおよび第1補強部材とが溶接されていてもよい。
【0017】
このようにすると、トレーリングアームとトーションビームとを構造的にも結合することができるので、トレーリングアームとトーションビームとを強固に連結することができる。
【0018】
次に、トーションビームは、開口を下方に向けた樋形状に形成したものを用いてもよい。
このようにすると、板金を曲げ加工することによってトーションビームを形成することができるので、トーションビーム式サスペンションを安価に製造できる。
【0019】
また、このトーションビームを用いると、円柱形状のトーションビームを形成する技術がない地域であっても、板金の曲げ加工によってトーションビームを製造することができるので、トーションビームを現地調達することができる。
【0020】
尚、第1補強部材および第2補強部材についても、板部材を曲げ加工して形成してもよい。
因みに、上記各手段等の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記各手段等の括弧内の符号に示された具体的手段等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態のトーションビーム式サスペンションの斜視図、
図1(B)は、
図1(A)のIB−IB断面図である。
【
図3】
図3(A)は、本実施形態のトーションビーム式サスペンションの平面図、
図3(B)は、本実施形態のトーションビーム式サスペンションの正面図である。
【
図4】本実施形態のトーションビーム式サスペンションの変形例の平面図であり、左側のトレーリングアームとトーションビームとが接続される部分のみを示す部分図である。
【
図5】本実施形態のトーションビーム式サスペンションの変形例の平面図であり、左側のトレーリングアームとトーションビームとが接続される部分のみを示す部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態のトーションビーム式サスペンション1は、
図1(A)に示すように、左右のトレーリングアーム2と、これらトレーリングアーム2を連結するトーションビーム3とを備えている。
【0023】
各トレーリングアーム2は、断面円形の中空状のパイプを曲げ加工して形成されている。左右のトレーリングアーム2は、左右対称に形成されている。
各トレーリングアーム2の一端には、カラー20が溶接により固定されている。各トレーリングアーム2は、このカラー20を介して、図示しない車体に揺動可能に支持される。
【0024】
各トレーリングアーム2の他端には、キャリア21が溶接により固着されている。このキャリア21を介して図示しない車輪が回転可能に支持される。
トーションビーム3は、
図1(B)に示すように、樋形状に形成されており、板部材が折り曲げられて、その断面形状がV字状又はU字状になるように形成されたものである。このトーションビーム3は、車体の下側に向かって開口するように配置される。このため、このトーションビーム3の形状は、鞍型形状とも言われている。
【0025】
トーションビーム3の軸方向の両端部には、
図2に示すように、切欠30がそれぞれ形成されている。各切欠30は、トレーリングアーム2の外面の形状に沿った円弧状に形成されている。
【0026】
このトーションビーム3には、
図3(A)および
図3(B)に示すように、その軸方向の両端部に、第1補強部材4(ガゼット)と第2補強部材5(リンフォース)とがそれぞれ溶接されている。
【0027】
各第1補強部材4は、プレス加工等により板部材を曲げ加工して、下方に向かって開口する断面U字状に形成されたものであり、トーションビーム3の開口側とは反対側である上側の外面上に溶接される。
【0028】
各第1補強部材4は、
図3(A)に示すように、トレーリングアーム2側からトーションビーム3側(先端側)に向かって、その断面形状の幅が徐々に小さくなるように形成されている。
【0029】
また、各第1補強部材4には、
図2に示すように、トーションビーム3からトレーリングアーム2に向かう側(以下「後端側」という)の端部に切欠40が形成されている。各切欠40は、トレーリングアーム2の外面の形状に沿った円弧状に形成されている。
【0030】
各第1補強部材4に形成された切欠40と、トーションビーム3の軸方向の両端部に形成された各切欠30とは、トレーリングアーム2の外面に沿った連続した切欠部6をそれぞれ形成する。
【0031】
各切欠部6は、トレーリングアーム2の外面を軸周りに180度以上の範囲で掴む大きさに形成されている。
本実施形態では、各切欠部6を介してトレーリングアーム2と、トーションビーム3および第1補強部材4とが当接し、この当接された部分が溶接されることによって、これらが連結されている。
【0032】
また、第1補強部材4は、
図3(A)および
図3(B)に示すように、トーションビーム3に対して板部材の縁部に相当する部分が当接することとなり、その縁部が当接した部分が溶接されることによってトーションビーム3に溶接される。
【0033】
第2補強部材5は、第1補強部材4と同様、プレス加工等により板部材が曲げ加工されたものであり、トーションビーム3の内面のうち上方側の側面に溶接される。
また、第2補強部材5は、第1補強部材4と同様、トレーリングアーム2側からトーションビーム3側に向かって、その断面形状の幅が徐々に小さくなるように形成されている。
【0034】
ただし、第2補強部材5は、第1補強部材4よりも長尺状に形成されており、トレーリングアーム2側からトーションビーム3側に向かう方向の先端部の位置は、第2補強部材5の方が第1補強部材4よりも遠い位置となるように溶接されている。
【0035】
また、第2補強部材5は、第1補強部材4よりも幅広に形成されている。
この第2補強部材5は、トレーリングアーム2およびトーションビーム3に対して板部材の縁部に相当する部分が当接するように配置され、その縁部が当接した部分が溶接されることによってトレーリングアーム2およびトーションビーム3に溶接される。
【0036】
この第2補強部材5は、第1補強部材4よりも幅広で、トーションビーム3の軸方向に沿った長さも長いので、第2補強部材5がトーションビーム3に溶接されたときの溶接線αで囲まれた範囲の内側に第1補強部材4が位置するように溶接される。
【0037】
このため本実施形態のトーションビーム式サスペンション1では、トーションビームにねじれが生じる場合であっても、溶接線αで囲まれた範囲の内側は、第2補強部材5によってねじれ難くなる。
【0038】
そして、第1補強部材4は、このねじれ難くなった部分を介して、トーションビーム3に溶接される。
そのため、このトーションビーム式サスペンション1では、従来、第1補強部材4とトーションビーム3との溶接部分のうち、トーションビーム3のねじれに伴う応力集中が発生していた部分(
図3(A)中に示した応力集中部に相当する部分)への応力の集中が緩和される。
【0039】
また、本実施形態では、トーションビーム3のねじれに伴う応力が第1補強部材4と第2補強部材5とに分散されるので、ロール剛性も向上する。
したがって、本実施形態のトーションビーム式サスペンション1によると、応力集中による破壊が発生しにくくなり、しかも、ロール剛性を高めることができる。
【0040】
[他の実施形態]以上、実施形態について説明したが、特許請求の範囲に記載された発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない
(1)上記実施形態で説明したトーションビーム式サスペンション1はあくまでも一例であり、これに限定されるものではない。
【0041】
(2)上記実施形態では、トーションビーム3として鞍型形状のものを用いた例について説明したが、これ以外の形状(例えば円筒形状)のものでもよい。
(3)上記実施形態では、第1補強部材4の全体が第2補強部材5の溶接範囲の内側に位置する大きさの第1補強部材4および第2補強部材5を用いたが、これに限られるものではない。応力集中が発生する部分が少なくとも溶接範囲内に入っていればよい。
【0042】
例えば、応力集中が発生する部分は、第1補強部材4の先端部から後端側に向かって1/4の部分であるので、
図4に示すように、少なくともこの部分が溶接範囲内に入るようにしてもよい。
【0043】
(4)上記実施形態では、第1補強部材4として先端部が丸みを帯びたものについて説明したが、
図5に示すように、先端部が直線状に形成されていてもよい。
この場合、
前記トーションビームのねじれによって生ずる応力は、先端部の両側の角部βに生ずるので、この角部が第2補強部材5の溶接範囲内に位置させるようにするとよい。
【0044】
(5)上記実施形態では、各切欠部6が、トレーリングアーム2の外面を軸周りに180度以上の範囲で掴む大きさに形成されているものについて説明したが、これに限るものではない。
【0045】
(6)上記実施形態では、切欠40が形成された部分を直接溶接しているが、切欠40に沿ってフランジを設け、そのフランジを溶接して、第1補強部材4をトレーリングアーム2に接合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1… トーションビーム式サスペンション
2… トレーリングアーム
3… トーションビーム
4… 第1補強部材
5… 第2補強部材
6… 切欠部
20… カラー
21… キャリア
30… 切欠
40… 切欠