(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
消費電力の変動を誘発する誘因パラメータの時間変化率を誘因変化率とし、当該誘因変化率が予め設定された変化率以下となる前記誘因パラメータの値をパラメータ値としたとき、
前記上限温度決定部は、前記パラメータ値に対応する現実の消費電力及び当該パラメータ値を記憶する記憶部を有するとともに、当該記憶部に記憶された内容に基づいて前記上限温度を決定することを特徴とする請求項3又は4に記載の熱媒体循環システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する「発明の実施形態」は実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的手段や構造等に限定されるものではない。
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、少なくとも符号を付して説明した部材又は部位は、「複数」や「2つ以上」等の断りをした場合を除き、少なくとも1つ設けられている。
【0014】
(第1実施形態)
1.空調システムの構成
1.1 空調システムの概要
本実施形態は、サーバ室や通信機器室等の空調を行う空調システムに本発明に係る熱媒体循環システムを適用したものである。すなわち、本実施形態に係る空調システムは、情報通信技術用機器(以下、ICT機器という。)等の発熱機器に冷却用の空気を供給することにより、複数のICT機器等を冷却する。
【0015】
複数のICT機器1は、
図1に示すように、ラック3に組み付けられた状態でデータセンタ室等に設置される。ラック3は、金属製の棚枠及び柱壁等を組み合わせた枠状の収納棚にて構成されている。
【0016】
ラック3を挟んで一方には、冷風が供給される冷風通路(コールドアイル)3Aが設けられている。冷風は、冷風通路3Aの床下に設けられたダクト空間3Cからラック3側に供給された後、床に設けられた複数の冷風吹出口(図示せず。)から冷風通路3Aに供給される。
【0017】
なお、ラック3を挟んで冷風通路3Aと反対側の通路3Bには、冷風吹出口が設けられていない。当該通路3Bには、冷風通路3AからICT機器1に供給された空気であって、ICT機器1との熱交換を終えた空気が流通する。つまり、通路3Bは、加熱された空気(温風)が流通する温風通路(ホットアイル)となる。
【0018】
空調ユニット5はICT機器1側に供給される冷却風を生成する。複数のICT機器1が設置されたサーバ室等には、少なくとも1台(
図1では、2台)の空調ユニット5が設置されている。
【0019】
各空調ユニット5は、
図2に示すように、室内熱交換器5A、流量調整弁5B及び室内送風機5C等を有するエアーハンドリングユニット(AHU)にて構成されている。室内熱交換器5Aは、熱源装置7から供給される冷水と熱交換対象をなす空気とを熱交換する。
【0020】
熱源装置7は冷熱を生成する。当該冷熱は熱媒体をなす冷水により室内熱交換器5Aに供給される。熱媒体、つまり冷水は、一次ポンプP1及び二次ポンプP2により室内熱交換器5A(空調ユニット5)に供給される。
【0021】
流量調整弁5Bは各室内熱交換器5Aに設けられている。当該流量調整弁5Bは、室内熱交換器5Aに供給する冷水の循環水量を調節する。室内送風機5Cは、ICT機器1側に冷風を供給するとともに、その風量を調節可能な送風機である。
【0022】
熱源装置7は室外に設置されている。熱源装置7にて生成された冷水は、一次ポンプP1にて室内(空調ユニット5)側に供給された後、二次ポンプP2にて各空調ユニット5に分配供給される。
【0023】
バイパス流路L1は、一次ポンプP1の吐出流量と二次ポンプP2の吐出流量とが相違する際に、その流量差を吸収する冷水回路である。例えば、流量調整弁5Bの開度が小さくなり、二次ポンプP2の吐出流量が減少したときには、その減少分はバイパス流路L1を流通する。
【0024】
熱源装置7は、熱源機7A、冷却塔7B及び冷却水ポンプP3等を有して構成されている。熱源機7Aは、フロン等の冷媒を循環させて低温側の熱を高温側に移動させる蒸気圧縮式冷凍機にて構成されている。
【0025】
冷却塔7Bは、冷媒と熱交換した冷却水を大気及び水のうち少なくとも一方と熱交換させて当該冷却水を冷却する。本実施形態に係る冷却塔7Bは、
図3に示すように、密閉式冷却塔である。当該冷却塔7Bには、室外送風機7C、散水器7D及び室外熱交換器7E等が設けられている。
【0026】
室外熱交換器7Eは、主に大気と冷却水とを熱交換する。室外送風機7Cは、室外熱交換器7Eに大気を送風するとともに、その送風量を調節可能な送風機である。このため、室外送風機7Cの回転数を増減させて送風量を増減させれば、冷却水と大気との熱交換能力を増減させることができる。
【0027】
散水器7Dは室外熱交換器7Eに水を散水する。室外熱交換器7Eに散水されると、散水された水が室外熱交換器7Eから吸熱して蒸発又は温度上昇する。これにより、散水しない場合に比べて冷却水が大きく冷却される。つまり、散水器7Dの作動を制御することにより、冷却水と大気との熱交換能力を調節できる。
【0028】
1.2 空調システムの能力調整装置
室内熱交換器5Aで発生する熱交換能力、つまり室内熱交換器5Aで発生する冷却能力は、流量調整弁5Bの開度、室内送風機5Cの送風量、室内熱交換器5Aに供給される冷水量(二次ポンプP2の送水量)、及び当該冷水の温度(熱源装置7で発生する冷凍能力)によって変化する。
【0029】
熱源装置7で発生する冷凍能力、つまり熱源機7A(蒸気圧縮式冷凍機)で発生する冷凍能力は、冷却塔7Bの冷却能力、冷却水の循環水量等に加えて、蒸気圧縮式冷凍機に設けられた圧縮機の回転数及び膨張弁の開度等によって変化する。冷却塔7Bの冷却能力は、室外送風機7Cの送風量及び散水器7Dの散水量等によって変化する。
【0030】
つまり、流量調整弁5B、室内送風機5C、二次ポンプP2、冷却水ポンプP3、室外送風機7C及び散水器7D等は、室内熱交換器5Aで発生する熱交換能力を調整する能力調整装置として機能する。なお、以下、流量調整弁5B及び室内送風機5C等を総称するときは、能力調整装置という。
【0031】
特に、流量調整弁5Bの開度、室内送風機5Cの送風量及び二次ポンプP2の送水量は、室内熱交換器5Aで冷却された空気の温度、つまり室内熱交換器5Aで発生する熱交換能力に直接的な影響を及ぼすので、流量調整弁5B、室内送風機5C及び二次ポンプP2を総称して吹出空気温度調整装置ともいう。
【0032】
図2に示すように、能力調整装置の作動は統合制御装置10により制御されている。統合制御装置10は、空調機制御部10A、二次ポンプ制御部10B、一次ポンプ制御部10C、熱源制御部10D、冷却水ポンプ制御部10E、及び冷却塔制御部10Fを介して、能力調整装置を構成する各機器を間接的に制御する。
【0033】
空調機制御部10Aは、空調ユニット5、つまり流量調整弁5B及び室内送風機5C等の作動を制御する。二次ポンプ制御部10Bは、二次ポンプP2の作動を制御して空調ユニット5に供給する冷水量を制御する。
【0034】
一次ポンプ制御部10Cは一次ポンプP1の作動を制御する。熱源制御部10Dは、熱源機7A、つまり圧縮機の回転数及び膨張弁の開度等を制御する。冷却水ポンプ制御部10Eは、冷却水ポンプP3の作動を制御して冷却水の循環量を制御する。冷却塔制御部10Fは、室外送風機7Cの送風量及び散水器7Dの散水量等を制御する。
【0035】
なお、統合制御装置10及び各制御部10A〜10Fは、CPU、ROM及びRAM等を有するコンピュータを有して構成されている。制御を実行するためのプログラムは、統合制御装置10及び各制御部10A〜10Fに設けられたROM等の不揮発性記憶部に予め記憶されている。
【0036】
2.統合制御装置等による制御作動
2.1 制御作動の概要
<各制御部の自律制御>
各制御部10A〜10Fは、当該制御部の制御対象を駆動する駆動回路等を有し、当該制御対象を直接的に制御する。統合制御装置10は、各制御部10A〜10Fに制御指令信号を発する。
【0037】
つまり、各制御部10A〜10Fは、統合制御装置10からの制御指令信号を受信した後、その制御指令信号の内容を実現するための具体的な制御を自律的に実行する。統合制御装置10及び各制御部10A〜10Fは、制御モードとして、少なくとも通常制御モード及び省動力制御モードが実行可能である。
【0038】
例えば、各空調ユニット5には吹出空気温度センサS1が設けられている。吹出空気温度セサS1は、空調ユニット5から室内に供給される空気、つまり室内熱交換器5Aにて熱交換が終了した空気の温度(以下、熱交換後温度という。)を検出する。
【0039】
空調機制御部10Aは、通常制御モード時においては、吹出空気温度センサS1にて検出された熱交換後温度(以下、吹出空気温度という。)が、統合制御装置10により設定された「目標とする熱交換後温度(以下、目標吹出温度Taoという。)」となるように、流量調整弁5B及び室内送風機5Cを制御する。
【0040】
つまり、空調機制御部10Aは、新たな目標吹出温度Taoが統合制御装置10により設定されない限り、現状の目標吹出温度Taoとなるように空調ユニット5の作動を自律的に制御する。
【0041】
このため、通常制御モード時においては、空調機制御部10Aは、目標吹出温度Taoが低くなるほど、流量調整弁5Bの開度を大きくして室内熱交換器5Aに供給される冷水流量を大きくし、かつ、目標吹出温度Taoが高くなるほど、流量調整弁5Bの開度を小さくして室内熱交換器5Aに供給される冷水流量を小さくする。
【0042】
なお、本実施形態に係る空調機制御部10Aは、目標吹出温度Taoに対して流量調整弁5Bの開度を一義的に決めていない。すなわち、空調機制御部10Aは、現在の吹出空気温度(吹出空気温度センサS1の検出温度)を監視しながら、現在の吹出空気温度と目標吹出温度Taoとが小さくなるように流量調整弁5Bの開度を順次変更する。
【0043】
統合制御装置10は、目標とする室内空気の温度(以下、室内設定目標温度Trsという。)と室温センサS5により検出された室内空気の温度(以下、室温Trという。)との温度差に基づいて目標吹出温度Taoを決定する。
【0044】
具体的には、統合制御装置10は、室温Trが室内設定目標温度Trsより低い場合には、現在の目標吹出温度Taoより高い温度を新たな目標吹出温度Taoとする。室温Trが室内設定目標温度Trs以上の場合には、統合制御装置10は、現在の目標吹出温度Taoより低い温度を新たな目標吹出温度Taoとする。
【0045】
空調機制御部10Aは、サーバ室内の温度(室内温度)を急速に低下させる必要があるとき、つまり、現在の吹出空気温度から目標吹出温度Taoを減じた値が大きくなるほど、室内送風機5Cによる送風量を増大させる。
【0046】
なお、室内熱交換器5Aに供給される冷水の温度及び流量(流量調整弁5Bの開度)が一定の状態で送風量が増大すると、吹出空気温度が上昇する。このため、空調機制御部10Aは、吹出空気温度を目標吹出温度Taoに維持すべく、送風量の増大に応じて流量調整弁5Bの開度を大きくする。
【0047】
一次ポンプ制御部10C及び二次ポンプ制御部10Bは、通常制御モード時においては、統合制御装置10からの流量変更指令を受信しない限り、予め設定された流量(以下、目標冷水循環量Wroともいう。)の冷水が循環するように一次ポンプP1、二次ポンプP2を自律的に制御する。
【0048】
そして、一次ポンプ制御部10C及び二次ポンプ制御部10Bは、統合制御装置10からの流量変更指令を受信したときには、その受信した新たな循環量を目標冷水循環量Wroとして、一次ポンプP1、二次ポンプP2を自律的に制御する。
【0049】
一次ポンプP1又は二次ポンプP2(本実施形態では、一次ポンプP1)の吐出側には、冷水の温度を検出する冷水温度センサS2が設けられている。熱源制御部10Dは、通常制御モード時においては、冷水温度センサS2にて検出された冷水温度(以下、冷水吐出温度という。)が、統合制御装置10により設定された「目標とする冷水吐出温度(以下、目標冷水温度Twoという。)」となるように、熱源機7Aを制御する。
【0050】
つまり、熱源制御部10Dは、新たな目標冷水温度Twoが統合制御装置10により設定されない限り、現状の目標冷水温度Twoとなるように熱源機7Aの作動を自律的に制御する。このため、熱源制御部10D及び熱源機7Aは、冷水の温度を目標冷水温度Twoにするための冷水温度調整装置として機能する。
【0051】
統合制御装置10は、現在の目標吹出温度Taoに基づいて上限冷水温度Thを決定するとともに、上限冷水温度Th以下の範囲で目標冷水温度Twoを決定する。つまり、統合制御装置10は、上限冷水温度Th以下の範囲で目標冷水温度Twoを変更することができる。
【0052】
なお、本実施形態では、現在の目標吹出温度Taoから予め決められた上限定数k(本実施形態では、7℃〜10℃)を減じた値を上限冷水温度Th(=現在の目標吹出温度Tao−k)として決定される。
【0053】
つまり、本実施形態では、上限冷水温度Thは、室内熱交換器5Aにて冷却された空気(吹出空気)の温度、又は室内熱交換器5Aにて必要とされる冷熱量に基づいて決定されることになる。なお、「室内熱交換器5Aにて必要とされる冷熱量」とは、例えば、ICT機器1の発熱量や建物の外壁からの熱量等である。
【0054】
冷却水ポンプ制御部10Eは、通常制御モード時においては、冷却水の循環量が、統合制御装置10により設定された「目標とする冷却水の循環量(以下、目標循環量Wfoという。)」となるように冷却水ポンプP3を制御する。
【0055】
冷却塔制御部10Fは、冷却塔7Bにて冷却された冷却水の温度が、統合制御装置10により設定された「目標とする冷却水の温度(以下、目標冷却水温度Tcoという。)」となるように冷却塔7Bを制御する。「冷却水の温度」は、冷却水温度センサS3により検出される。
【0056】
なお、通常制御モード時において、熱源機7Aの制御のみでは、冷水吐出温度を目標冷水温度Twoまで冷却することができない場合には、統合制御装置10は、冷却水ポンプ制御部10E及び冷却塔制御部10Fのうち少なくとも一方に対して目標循環量Wfoを増大させる指令、又は目標冷却水温度Tcoを低下させる指令を発する。
【0057】
2.2 省動力制御及び余裕度
<省動力制御モード>
省動力制御モードとは、目標冷水温度Twoを上限冷水温度Th又は上限冷水温度Th近傍温度となるよう変更していくことにより、必要な冷却能力を確保しながら、消費電力の削減を図る制御モードである。
【0058】
<余裕度>
余裕度Aとは、能力調整装置にて調整可能な最大熱交換能力と現実の熱交換能力との差に関するパラメータをいう。なお、本実施形態では、通常制御モード時に自律制御にて各機器が制御されている場合も、余裕度Aが予め決められた閾値以上に維持されるように制御される。
【0059】
例えば、空調ユニット5についての余裕度Aは、下記のいずれかにより定義される。
(1)1−(複数の流量調整弁5Bの平均開度)
(2)1−{(現実の室内送風機5Cの回転数/室内送風機5Cの最大回転数)の平均}
最大回転数:各室内送風機5Cの上限回転数
(3)1/{(吹出空気温度−目標吹出温度Tao)の平均}
(4)1−{(吹出空気温度−目標吹出温度Tao)の平均}/n
n:(吹出空気温度−目標吹出温度Tao)に相当する値であって、予め設定された値
つまり、nは許容温度差(許容乖離温度)を意味する。
(5)1/{(冷水吐出温度−目標冷水温度Two)の平均}
(6)1−{(冷水吐出温度−目標冷水温度Two)の平均}/n
n:(冷水吐出温度−目標冷水温度Two)に相当する値であって、予め設定された値
つまり、nは許容温度差(許容乖離温度)を意味する。
【0060】
2.3 制御作動の詳細
図4は省動力制御モード等の制御フローを示す。本制御を実行するためのプログラムは、統合制御装置10に設けられたROM等の不揮発性記憶部に予め記憶されている。当該プログラムは、統合制御装置10のCPUにて実行される。
【0061】
本制御は、空調システムの起動と同時に起動される。本制御が起動されると、先ず、全て室内送風機5Cの回転数又は送風量が予め決められた閾値以下であるか否かが判定される(S1)。全て室内送風機5Cの回転数又は送風量が予め決められた閾値より大きいと判定された場合には(S1:NO)、再び、S1が実行される。
【0062】
全て室内送風機5Cの回転数又は送風量が予め決められた閾値以下であると判定された場合には(S1:YES)、室温Trが室内設定目標温度Trsより低いか否かが判定される(S3)。
【0063】
室温Trが室内設定目標温度Trs以上であると判定された場合には(S3:NO)、目標吹出温度Taoが所定温度だけ上昇変更された後(S5)、上限冷水温度Thが演算・決定される(S9)。
【0064】
室温Trが室内設定目標温度Trsより低いと判定された場合には(S3:YES)、目標吹出温度Taoが所定温度だけ低下変更された後(S7)、上限冷水温度Thが演算・決定される(S9)。
【0065】
次に、余裕度Aが演算された後(S11)、余裕度Aが予め決められた閾値以上であるか否かが判定される(S13)。余裕度Aが予め決められた閾値未満であると判定された場合には(S13:NO)、目標冷水温度Twoが低下変更された後(S15)。S1が実行される。
【0066】
余裕度Aが予め決められた閾値以上であると判定された場合には(S13:YES)、目標冷水温度Twoが上限冷水温度Th以下であるか否かが判定される(S17)。目標冷水温度Twoが上限冷水温度Thより高いと判定された場合には(S17:NO)、目標冷水温度Twoが低下変更された後(S15)。S1が実行される。
【0067】
目標冷水温度Twoが上限冷水温度Th以下であると判定された場合には(S17:YES)、目標冷水温度Twoが上昇変更された後(S19)。S1が実行される。
なお、本制御は、上記(5)又は(6)にて余裕度Aが演算される。このため、本実施形態では、S11にて室内熱交換器5Aで必要とされる冷却能力(以下、「必要能力」とう。)が決定された後、S13にて目標冷水温度Twoを現在温度より高くしても必要能力を発揮可能か否かが判断されることになる。
【0068】
そして、必要能力が発揮可能であると判断された場合には、目標冷水温度Twoが現在温度より高くなり、必要能力が発揮不可能であると判断された場合には、目標冷水温度Twoが現在温度より低くなる。
【0069】
3.本実施形態に係る空調システムの特徴
本実施形態では、目標冷水温度Twoは上限冷水温度Th以下の範囲内で決定され、かつ、当該上限冷水温度Thは、室内熱交換器5Aにて冷却された空気(吹出空気)の温度に基づいて決定される。
【0070】
このため、冷却システムは、冷水の温度が上限冷水温度Th又は上限冷水温度Th近傍の温度となるように作動するので、必要な冷却能力を確保しながら、消費電力の削減を図ることが可能な熱媒体循環システムを得ることができ得る。
【0071】
(第2実施形態)
第1実施形態では、室内熱交換器5Aにて冷却された空気の温度、又は室内熱交換器5Aにて必要とされる冷熱量に基づいて上限冷水温度Thを決定した。
【0072】
これに対して、本実施形態では、室内熱交換器5Aにて冷却される前の空気の温度と当該室内熱交換器5Aにて冷却された空気との温度差、及び当該室内熱交換器5Aへの送風量に基づいて上限冷水温度Thを決定するものである。なお、上記の温度差は、室内熱交換器5Aにて処理されている冷熱量を示すパラメータである。
【0073】
(第3実施形態)
上述の実施形態では、上限冷水温度Thを決定する際に用いる上限定数kが固定値であったが、本実施形態では、外気温度や室内熱交換器5Aで必要とされる冷却能力(以下、空調負荷という。)等の「消費電力の変動を誘発する誘因パラメータE」を利用して上限定数kを決定する。
【0074】
<概要>
すなわち、誘因パラメータEの時間変化率を誘因変化率dE/dtとし、当該誘因変化率dE/dtが予め設定された変化率以下となる誘因パラメータEの値をパラメータ値Eoとする。
【0075】
統合制御装置10は、所定時間毎又は目標冷水温度Twoが変更される度に、「パラメータ値Eoに対応する現実の消費電力W及び当該パラメータ値Eo」を、統合制御装置10内の記憶部10G(
図2参照)に記憶していく。そして、統合制御装置10は、誘因パラメータEと消費電力Wと関係を示す情報量が予め決められた要件を満たすときに、上限定数kを再決定するための処理を実行する。
【0076】
<具体例>
以下、誘因パラメータEを外気温度とした場合を例に具体的に説明する。
図5に示すように、目標冷水温度Twoが「外気温度に対応する現実の消費電力Wと外気温度との関係」が変更される度に記憶される(
図6のS21)。
【0077】
次に、統合制御装置10は、外気温度と目標冷水温度Twoを変数項とする重回帰分析方程式(例えば、最小二乗法等)を用いて重回帰分析を実行する(
図6のS23)。その重回帰分析において、残差平方和が所定の閾値以下、又は決定係数が閾値以上となった場合には、統合制御装置10は、消費電力Wが最小となる条件が反映できるような上限定数kを再決定する(
図6のS25)。
【0078】
これにより、本実施形態では、外気温度や空調負荷が変動した場合であっても、その変動を統合制御装置10が自ら学習しながら、適切な上限定数kを再決定するので、空調システムの消費電力Wの低減を図ることができる。
【0079】
(第4実施形態)
上述の実施形態では、現在の目標吹出温度Taoから上限定数kを減じた値を上限冷水温度Thとしたが、本実施形態は、現在の目標吹出温度Taoに上限係数k1を乗算した値を上限冷水温度Thとしものである。なお、上限係数k1は、固定値又は誘因パラメータEを利用して学習決定した値のいずれであってもよい。
【0080】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、冷熱のみを利用した空調システムに本発明を適したが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、本発明は温熱及び冷熱も利用可能な空調システムにも適用できる。
【0081】
上述の実施形態では、熱媒体として水を用い、かつ、熱交換対象が空気であったが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、例えば、熱交換対象を冷却液とし、当該冷却液をICT機器の放熱部に供給する冷却システムにも適用できる。
【0082】
上述の実施形態では、発熱機器としてICT機器1を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ICT機器に電力を供給するための蓄電池や無停電電源装置等の電力供給機器にも適用できる。
【0083】
上述の実施形態に係る熱源装置7は、冷却塔7Bを備える水冷式であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、空冷式の熱源装置7(熱源機7A)であってもよい。
上述の実施形態に係る空調システムは、ICT機器が設置されたサーバ室の空調を行うものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、オフィスビル用空調システムにも適用可能である。
【0084】
上述の実施形態では、各制御部10A〜10Fが自律制御可能なコントローラにて構成され、かつ、統合制御装置10は各制御部10A〜10Fを統合的に制御する構成であったが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0085】
すなわち、例えば、各制御部10A〜10F及び統合制御装置10を1つのコントローラとして、1つの統合制御装置10にて空調システム(熱媒体循環システム)全体を制御する構成であってもよい。
【0086】
上述の実施形態に係る冷却塔7Bは、密閉式冷却塔であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、開放式冷却塔7Bであってもよい。
上述の実施形態に係る熱源装置7は、冷却塔7Bを有していたが、本発明はこれに限定されるものではなく、冷却塔7Bを廃止し、熱源機7Aの高圧側熱交換器(例えば、凝縮器)を大気にて冷却する方式であってもよい。
【0087】
上述の実施形態に係る空調システムは、ICT機器が設置されたサーバ室の空調を行うものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、オフィスビル用空調システムにも適用可能である。
【0088】
上述の実施形態では、上限冷水温度Thを室内熱交換器5Aの発生する熱交換能力の目標能力として本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上限冷水温度Th以外のパラメータを目標能力としてもよい。
【0089】
上述の実施形態では、蒸気圧縮機式冷凍機にて冷熱を生成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、廃熱が十分に確保可能な場合には、吸着式冷凍機又は吸収式冷凍機にて冷熱を生成してもよい。
【0090】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。