(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の近似式および前記第2の近似式は、前記濃度から前記投与量を近似解として求める常微分方程式であり、かつ、前記第1の近似式は、前記第2の近似式よりも高精度に前記投与量を算出し得る常微分方程式であり、
前記送液部は、前記第1の演算結果に基づく投与量で前記送液動作を実施する、請求項1または請求項2に記載の送液ポンプ。
前記動作指示部は、前記第1の演算結果と前記第2の演算結果との間の差が前記所定の値よりも大きいと判断された場合、前記第2の演算部による演算処理を複数回繰り返す旨の動作指令を送信するとともに、1つの前記第1の演算結果に対して複数の前記第2の演算結果を比較する処理を行う旨の動作指令を送信する、請求項3に記載の送液ポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
図1および
図2に示すように、本実施形態に係るシリンジポンプ1は、患者の体内へ所定量の薬剤(薬液)を所定の期間に亘って送液するために使用される薬剤送液用のポンプとして構成されている。シリンジポンプ1は、患者P等の体内へ投与された薬剤の濃度を目標濃度(目標血中濃度や目標効果部位濃度)に到達させ、さらに目標濃度が維持されるように薬剤の投与量を自動的に調整して送液を行う、いわゆるTCIポンプとして構成している。
【0015】
シリンジポンプ1は、静脈麻酔薬等を含む種々の薬剤を患者の体内に送液することができる。適用可能な静脈麻酔薬としては、例えば、プロポフォール、ミタゾラム、及び、レミフェンタニル等を挙げることができる。なお、シリンジポンプ1は、送液対象となる薬剤の種類を切り替えて使用することができる、いわゆる、オープンTCI(Open Target Controlled Infusion)として構成することも可能である。
【0016】
次に、シリンジポンプ1の各部の構成を説明する。
【0017】
図1、
図2に示すように、シリンジポンプ1は、シリンジ200に備えられるシリンジ押子202を矢印T方向に押圧することにより、所定のチューブ203および留置針204を介してシリンジ200内に充填された薬剤を患者Pの生体内へ送液する送液動作を実施する。このとき、シリンジ200のシリンジ本体201は、クランプ5によって動かないようにシリンジポンプ1にセットされる。
【0018】
シリンジポンプ1は、本体カバー2を有する。本体カバー2は、耐薬品性を有する成型樹脂材料により一体成形されている。このため、本体カバー2には、防沫処理構造が備えられており、薬剤等が仮に付着しても、シリンジポンプ1の内部へ薬剤等が侵入するのを防ぐことができる。
【0019】
図1、
図2に示すように、本体カバー2は、上側部分2Aおよび下側部分2Bを有する。
【0020】
上側部分2Aには、表示部3と、操作パネル部4を配置している。
【0021】
下側部分2Bには、シリンジ設定部6と、シリンジ押子202を押すためのシリンジ押子駆動部(「送液部」に相当する)7を配置している。
【0022】
表示部3は、カラー表示することができる画像表示装置であり、例えば、公知のカラー液晶表示装置により構成することができる。表示部3は、日本語表記による情報表記だけでなく、必要に応じて複数の外国語による情報の表示を行うことができる。
【0023】
操作パネル部4は、表示部3の右側に配置している。操作パネル部4には、電源ON/OFFボタン4Fと、動作インジケータ4Aと、各種の操作ボタンを配置している。
図1、
図2には、操作ボタンとして、早送りスイッチボタン4B、開始スイッチボタン4C、停止スイッチボタン4D、メニュー選択ボタン4Eの4つのボタンを配置した例を示している。
【0024】
図1、
図2に示すように、シリンジ設定部6とシリンジ押子駆動部7は、X方向に沿って並べて配置している。シリンジ設定部6には、複数種類の大きさの異なるシリンジ200、300、400(
図3を参照)を選択的に嵌め込むことができ、各シリンジ200、300、400を着脱可能に固定することができる。
【0025】
図1、
図2に示すように、シリンジ設定部6は、シリンジ本体201を収容する収容部8と、クランプ5とを有している。収容部8は、シリンジ本体201を収容する部分である。収容部8は、半円形形状の断面に形成されたX方向に延在する溝により構成している。収容部8のX方向の端部に位置する壁部分には、シリンジ200に連結されるチューブ203を着脱可能に挟み込むためのチューブ固定部9を設けている。
【0026】
クランプ5は、図示省略するスプリングによってY2方向(奥行方向)に付勢されている。シリンジ設定部6にシリンジ200をセットする際は、クランプ5をスプリングの力に抗してY1方向(手前方向)に引っ張りつつ、矢印R2方向に90度回転させる。クランプ5を回転させた後、スプリングの力によりクランプ5をY2方向に戻すと、シリンジ本体201を収容部8に収容した状態でクランプ5により固定力を作用させることが可能になる。クランプ5を操作してシリンジ200をシリンジ設定部6から取り外す際は、クランプ5をスプリングの力に抗してY1方向に引っ張りつつ、矢印R1方向に90度回転させる。すると、クランプ5によるシリンジ本体201の固定が解除されて、シリンジ本体201を収容部8から取り外すことができる。
【0027】
シリンジ本体201を収容部8内に収容して固定すると、シリンジ押子202がシリンジ押子駆動部7内に配置される。シリンジ押子駆動部7は、X方向に進退移動可能なスライダ10を有している。スライダ10は、
図2、
図4に示す制御部100からの指令により、シリンジ押子202の押子フランジ205を、シリンジ本体201に対して相対的に押圧する(矢印Tでスライダ10による押圧を示す)。
【0028】
なお、各図に示すX方向、Y方向、Z方向は互いに直交しており、X方向はシリンジポンプ1の長手方向を示し、Y方向はシリンジポンプ1の厚み方向を示し、Z方向はシリンジポンプ1の高さ方向を示している。
【0029】
図3は、シリンジポンプ1に適用可能な複数種類のシリンジを例示する斜視図である。
図1および
図2に示すように、本実施形態においては、最も多くの薬剤を収容することが可能なシリンジ200を適用した例を示している。
【0030】
図3(A)に示すように、シリンジ200は、シリンジ本体201と、シリンジ押子202を有している。シリンジ本体201は、本体フランジ209を有しており、シリンジ押子202は、押子フランジ205を有している。シリンジ本体201には、薬剤の目盛210を設けている。シリンジ本体201の先端に形成した出口部211には、薬剤が流通可能な可撓性を備える所定のチューブ203を着脱可能に接続することができる。シリンジ200は、例えば、50mLの薬剤を収容することができるように構成することができる。
【0031】
図3(B)に示すように、シリンジ300は、シリンジ本体301と、シリンジ押子302を有している。シリンジ本体301は、本体フランジ309を有しており、シリンジ押子302は、押子フランジ305を有している。シリンジ本体301には、薬剤の目盛310を設けている。シリンジ本体301の先端に形成した出口部311には、薬剤が流通可能な可撓性を備える所定のチューブ203を着脱可能に接続することができる。シリンジ300は、例えば、10mL、20mL、30mLの薬剤を収容することができるように構成することができる。
【0032】
図3(C)に示すように、シリンジ400は、シリンジ本体401と、シリンジ押子402を有している。シリンジ本体401は、本体フランジ409を有しており、シリンジ押子402は、押子フランジ405を有している。シリンジ本体401には、薬剤の目盛410を設けている。シリンジ本体401の先端に形成した出口部411には、薬剤が流通可能な可撓性を備える所定のチューブ203を着脱可能に接続することができる。シリンジ400は、例えば、2.5mLまたは5mLの薬剤を収容することができるように構成することができる。
【0033】
なお、シリンジ300およびシリンジ400は、シリンジ200をセットする際の手順と同様の手順により、シリンジポンプ1にセットすることが可能である。
【0034】
次に、
図4を参照して、シリンジポンプ1の電気的な構成例を説明する。
【0035】
図4に示すように、シリンジポンプ1は、装置全体の動作を統括的に制御する制御部100を有している。制御部100は、各処理に応じた所定のプログラムを実行するプロセッサ105と、ROM(読み出し専用メモリ)101と、RAM(ランダムアクセスメモリ)102と、不揮発性メモリ103と、クロック104と、投与量の演算処理を行う第1の演算部108および第2の演算部108と、を有している。
【0036】
プロセッサ105は、CPU(Central Processing Unit)106を備えている。CPU106は、ROM101に予め格納されている各種プログラムをRAM102に読み出して実行することにより、装置各部の制御処理を実現する。CPU106は、後述するように、演算結果の妥当性の判断処理を行う判断部としての機能と、判断結果に応じた各種の動作指令を送信する動作指示部としての機能を備えている。
【0037】
クロック104は、現在時刻の取得や、所定の送液作業の経過時間の計測、送液の速度制御の基準時間の計測等を行う。なお、所定の操作により、クロック104によって取得される現在時刻の修正を適宜行うことが可能になっている。
【0038】
図4に示すように、制御部100は、電源スイッチボタン4Aおよびスイッチ111と電気的に通信可能となるように接続している。
【0039】
スイッチ111は、充電池113と制御部100との接続、および電源コンバータ部112と制御部100との接続を切り替えることにより、制御部100への電気の供給源を選択的に変更することを可能にする。なお、充電池113としては、例えば、リチウムイオン電池を使用することが可能である。
【0040】
電源コンバータ部112は、コンセント114を介して商用交流電源115に接続している。
【0041】
図4において簡略化して示すように、シリンジポンプ1が備える収容部8には、一対の検出スイッチ120、121を配置している。各検出スイッチ120、121は、シリンジ200のシリンジ本体201が収容部8内に適切に配置されているかどうかを検知するために設けている。各検出スイッチ120、121が検出した結果は、制御部100へ通知する。
【0042】
クランプセンサ122は、クランプ5の位置を検知するために設けている。クランプセンサ122がクランプ5の位置を検知することにより、シリンジ本体201がクランプ5に確実にクランプされているかどうかを検出することができる。クランプセンサ122が検出した結果は、制御部100へ通知する。
【0043】
シリンジ押子駆動部7のモータ133は、制御部100の指令に基づいてモータドライバ134により駆動されると、送りネジ135を回転させてスライダ10をT方向に移動させる。これにより、スライダ10は、シリンジ押子202を矢印T方向に押圧して、シリンジ本体201内に収容した薬剤を送液する。薬剤は、シリンジ200に接続したチューブ203、およびチューブ203の先端に取り付けた所定の留置針204を通じて患者Pに送液される(
図2を参照)。
【0044】
図4に示すように、早送りスイッチボタン4B、開始スイッチボタン4C、停止スイッチボタン4D、メニュー選択ボタン4Eの各ボタンは、制御部100に電気的に接続している。開始スイッチボタン4Cが押下されると、送液開始の動作指令(制御信号)が制御部100に入力される。また、停止スイッチボタン4Dが押下されると、送液停止の動作指令が制御部100に入力される。
【0045】
図4に示すように、表示部ドライバ130は、制御部100に電気的に接続している。表示部ドライバ130は、制御部100の動作指令により、表示部3を駆動して種々の情報(数値や画像やアイコン等)を表示部3に表示する。
【0046】
図4に示すように、スピーカ131は、制御部100に電気的に接続している。スピーカ131は、制御部100の動作指令により、各種の警報内容等を音や音声により報知する。
【0047】
図4に示すように、制御部100は、通信ポート140を通じて、例えば、デスクトップコンピュータのようなコンピュータ141に対して双方向に通信可能である。コンピュータ141は、薬剤データベース(DB)150に接続している。制御部100は、薬剤データベース150に格納されている薬剤情報MFを、コンピュータ141を介して取得する。制御部100は、取得した薬剤情報MFを不揮発性メモリ103に記憶させることができる。制御部100は、記憶した薬剤情報MFに基づいて、表示部3に薬剤情報MFを表示することができる。なお、薬剤情報MFには、例えば、薬剤の種類、薬剤メーカー、各種の禁忌情報などが含まれる。薬剤情報MFは、病院全体や病棟ごとにまとめて保存しておくこともできる。
【0048】
第1の演算部108および第2の演算部109は、患者Pに投与した薬剤の濃度を目標濃度に維持するための薬剤の投与量を演算する。演算対象となる薬剤の投与量は、送液開始からそれまでに生体内に送液された薬剤の量に基づいて求められる濃度変化のシミュレーションに応じて変化する。
【0049】
濃度変化のシミュレーションは、例えば、薬物動態学に基づく3−コンパートメントモデルを用いて行われる。
【0050】
3−コンパートメントモデルを用いたシミュレーションは、体内を3つの部分(以下、コンパートメント)に分けて濃度の計算を行う。3つのコンパートメントのうちの1つは、血液をモデル化したコンパートメントである。他の2つのコンパートメントは、生体内における筋肉などの血流が豊富な組織と脂肪などの血流が粗な組織をそれぞれモデル化したものである。薬剤は、血液をモデル化したコンパートメントに投与される。そして、血液をモデル化したコンパートメントと、他の2つのコンパートメントとの間で、薬物が所定の移行速度で移動する。また、薬剤は、血液をモデル化したコンパートメントを介して所定の排泄速度で体外に排泄される。薬剤が送液される患者の情報と、送液された薬剤の量、移行速度、及び、排泄速度等の関係から、血中濃度を含む各コンパートメントにおける送液された薬剤の濃度を計算することができる。コンパートメントに、薬剤が適用される部位をモデル化したコンパートメントを含めることで、薬剤が適用される部位の濃度である効果部位濃度をシミュレートすることもできる。例えば、鎮静薬(プロポフォール等)を投与する場合は、効果部位として脳を選択することができ、筋弛緩薬(ミタゾラム等)を投与する場合は、効果部位として神経筋接合部を選択することができる。
【0051】
送液開始から生体内に送液された薬剤の量は、例えば、シリンジ200のシリンジ本体201の内径と、送りネジ135によってT方向に移動されるスライダ10の送液開始からの移動量とを掛け合わせることで計算できる。
【0052】
第1の演算部108は、濃度の演算処理(シミュレーション)と、薬剤の投与量の演算処理を実施する。第1の演算部108は、これらの演算を、所定の第1の近似式を用いて実施する。計算方法は特に限定されないが、本実施形態においては、第1の近似式としてルンゲ・クッタ法による常微分方程式を用いる。
【0053】
第2の演算部109は、第1の演算部108と同様に、濃度の演算処理(シミュレーション)と、薬剤の投与量の演算処理を実施する。第2の演算部109は、これらの演算を、所定の第2の近似式を用いて実施する。計算方法は特に限定されないが、本実施形態においては、ルンゲ・クッタ法よりも簡便なオイラー法による常微分方程式を第2の近似式として用いる。
【0054】
第1の演算部108および第2の演算部109は、例えば、薬剤の投与量の演算処理を行う専用のハードウェア回路により構成することができる。ハードウェア回路の一例として、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)を使用することができる。FPGAには、ロジックセル、乗算器、RAM等を適宜備えさせることができる。なお、第1の演算部108および第2の演算部109は、FPGA以外のものにより構成することもでき、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、DSP(Digital Signal Processor)などによって構成することも可能である。
【0055】
このように、シリンジポンプ1においては、装置各部に動作指令を送信する機能を担う部分をプロセッサ105により構成する一方で、薬剤の投与量を演算する機能を担う部分を専用のハードウェア回路により構成することで、各処理を並列的に、かつ、高速に実施することを可能にしている。
【0056】
図5には、制御部100の処理内容を説明するためのブロック図を示している。
【0057】
図5に示すように、制御部100は、薬剤の送液動作を実施するにあたり、第1の演算部108が算出した結果(第1の演算結果)をCPU106へ送信する。同様に、第2の演算部109が算出した結果(第2の演算結果)をCPU106へ送信する。CPU106は、各演算結果を比較し、各演算結果の間に所定の値(閾値)よりも大きな差があるか否かを判断する。この際、各演算結果の間に所定の値よりも大きな差があると判断された場合、信号ノイズ(外来ノイズ)や装置各部の経年劣化の影響を受けて、演算処理が適切に行われていない可能性が疑われる。演算処理が適切に行われない例として、一時的に入力されたノイズによる影響を受けて演算処理の一部が実行されずにスキップされてしまうといった演算ミスや、演算処理の一部が複数回実施されてしまうといった演算ミスを挙げることができる。
【0058】
本実施形態においては、第1の演算部108と第2の演算部109により個別に算出された演算結果同士を比較し、その比較結果によって演算処理が適切に行われたか否かを判断する。なお、演算処理が適切に実施されなかった場合、CPU106は、システムエラーが発生しているものと認識して、所定の対応処理(送液動作の制限および/または判断結果の確認)を実施する。対応処理については後述する。
【0059】
図5に示すように、例えば、CPU106は、演算処理が適切に行われていると判断した場合、第1の演算部108へ所定の送液指令を送信する。第1の演算部108は、送液指令を受信すると、演算結果に基づいた投与量での薬剤の送液を開始(または継続)する旨の制御信号をシリンジ押子駆動部7へ送信する。シリンジ押子駆動部7は、この制御信号を受信すると、モータ133を駆動させて、定められた量の薬剤を送液する。
【0060】
前述したように、第1の演算部108は、第2の演算部109が用いる第2の近似式よりも、高精度に近似解を算出し得る第1の近似式により投与量を算出する。したがって、第1の演算部108により算出された量の薬剤を投与することにより、生体内の濃度を目標濃度にするための正確な投与量での送液を実施することができる。つまり、第1の演算部108は、患者Pに実際に送液する薬剤の投与量を計算する一方で、第2の演算部109は、第1の演算部109の演算結果の妥当性を判断するための比較値を算出する検算を行う。
【0061】
図7には、薬剤の投与量の変化と投与時間の関係が示される。なお、
図7は、説明のために例示するものであり、実際の投与量の変化を示すものではない。
【0062】
図7に示すように、第1の演算部108が算出した第1の演算結果と、第2の演算部109が算出した第2の演算結果とを比較し、その比較結果に基づく演算結果の妥当性の判断は、各演算結果の間の差(差分)dの絶対値に基づいて行うことができる。
【0063】
CPU106は、各演算結果の間の差が、所定の値よりも小さい場合(所定の値未満の場合)は、演算処理が適正に実施されたと判断する。また、各演算結果の間の差が、所定の値よりも大きい場合(所定の値以上の場合)は、演算処理が適正に実施されなかったと判断する。なお、所定の値(閾値)は、製品仕様や対象となる薬剤、患者のパラメータ等に応じて任意に設定することが可能である。
【0064】
また、前述したように、各演算部108、109は異なる近似式を用いて演算を行うため、各演算部108、109へ同時に信号ノイズ等が入力されるような場合、各演算部108、109の演算結果の間の差は比較的大きなものとなる。したがって、同時に信号ノイズ等が入力されるような場合においても演算処理が適切に行われていないことを確実に検出することができる。
【0065】
次に、
図6に示すフローチャートを参照して、送液動作を実施する際に制御部100が実行する処理内容を説明する。
【0066】
まず、投与量の計算に必要なパラメータがCPU106から各演算部108、109へ送信される(ステップS101)。なお、シリンジポンプ1の使用に際して、患者の情報、送液する薬剤の種類、目標濃度といった各パラメータは、例えば、操作パネル部4の操作ボタンを操作することで入力することができる。
【0067】
第1の演算部108は、CPU106から送信されたパラメータを受信する(ステップS111)。同様に、第2の演算部109は、CPU106から送信されたパラメータを受信する(ステップS121)。
【0068】
第1の演算部108は、CPU106から送信されたパラメータを受信した後、投与量の演算(計算)を開始する(ステップS112)。同様に、第2の演算部109は、CPU106から送信されたパラメータを受信した後、投与量の演算(検算)を開始する(ステップS122)。
【0069】
第1の演算部108は、演算処理が終了した後、演算結果をCPU106へ送信する(ステップS113)。同様に、第2の演算部109は、演算処理が終了した後、演算結果をCPU106へ送信する(ステップS123)。各演算部108、109による演算処理は、実質的に同時に開始されるが、演算処理は第2の演算部109の方が短い時間で終了する。これは、第2の演算部109が比較的簡便なオイラー法を用いて演算処理を実施するためである。
【0070】
CPU106は、各演算部108、109から送信された演算結果を受信する(ステップS102)。CPU106は、演算結果を受信した後、各演算結果の間に所定の値よりも大きな差があるか否かの判断を行う(ステップS103)。CPU106は、各演算結果の間に所定の値よりも大きな差がないと判断した場合(ステップS103;NO)、第1の演算部108へ送液指令を送信する(ステップS104)。第1の演算部108は、送液指令を受信すると、演算結果に基づいた投与量の薬剤を送液する旨の制御信号をシリンジ押子駆動部7へ送信する(ステップS114)。シリンジ押子駆動部7は、モータ133を駆動させて、定められた量の薬剤を送液する。演算結果に基づく投与量で薬剤の送液が実施された後、CPU106は、ステップS101の処理を再び開始する。CPU106は、前述した各処理を繰り返すことにより投与量を適宜調整する。
【0071】
CPU106は、各演算結果の間に所定の値よりも大きな差があると判断した場合(ステップS103;YES)、所定の対応処理を実施する(ステップS105)。
【0072】
CPU106は、対応処理として、例えば、送液動作を制限する旨の動作指令を送信する。演算結果を比較した結果、演算処理が適正に行われていないと判断された以降に送液動作を制限することで、誤った投与量で送液が継続されるのを防止することができる。
【0073】
また、対応処理として、例えば、第2の演算部109による演算処理を複数回繰り返す旨の動作指令を送信するとともに、第1の演算部108が演算した1つの演算結果に対して、第2の演算部109が演算した複数の演算結果を比較する処理を行う旨の動作指令を送信することができる。シリンジポンプ1においては、第2の演算部109が比較的簡便なオイラー法を用いて演算処理を実施するため、第1の演算部108が1度の演算処理を終える間に、第2の演算部109は複数回の演算処理を実施することができる。そして、演算結果を複数回比較する、つまり、検算を複数回実施することにより、判断結果の信頼性を高めることができる。
【0074】
なお、その他の対応処理として、例えば、スピーカ131から警告音を発音させたり、表示部3に警告画面を表示させたりする旨の動作指令を装置各部へ送信するようにしてもよい。スピーカ131による警告や表示部3による警告は、例えば、送液動作を制限する際に併せて実施されるようにしてもよい。また、送液動作を制限する動作制御とともに、各演算部108、109同士の演算結果の比較を複数回繰り返す処理を実施してもよい。誤った投与量での送液を一旦中断しつつ、検算を複数回実施して計算ミスの発生の有無を検証した後、送液を再開することにより、より一層適正な判断結果に基づいた送液動作を実現することが可能になる。
【0075】
所定の対応処理が実施された後、ステップS101の処理を再び開始する。CPU106は、前述した各処理を繰り返すことにより投与量を適宜調整する。
【0076】
以上、本実施形態に係るシリンジポンプ1によれば、第1の演算部108が第1の近似式により算出した演算結果(薬剤の投与量)と、第2の演算部109が第2の近似式により算出した演算結果(薬剤の投与量)とを比較し、各演算結果の間の差が所定の値よりも大きい場合には、いずれかの演算結果に誤りがあると判断し、誤った投与量で送液動作(誤投与)が実施されるのを防止するための処理を行う。また、各演算部108、109が互いに独立しており、かつ、互いに異なる近似式を用いて演算処理を実施するため、演算結果同士を比較することにより、各演算結果の妥当性を適切に判断することが可能になる。したがって、信号ノイズや装置各部の経年劣化などに起因した誤投与が発生するのを未然に防止することができ、信頼性の高い演算結果に基づく投与量での送液を行うことが可能になる。
【0077】
また、第1の演算部108は、第1の近似式により投与量を演算処理するハードウェア回路により構成されており、第2の演算部109は、第2の近似式により投与量を演算処理するハードウェア回路により構成されており、判断部および動作指示部は、所定のプログラムに基づいて各種の処理を実行するプロセッサ105により構成されているため、装置全体の統括的な動作制御をプロセッサ105により処理させる一方で、各演算部108、109を構成する専用のハードウェア回路において演算処理を実行させることができるため、演算処理を異なる近似式で並行して実施することに伴う処理負担の影響が装置全体の制御に及ぶのを防止することができ、送液ポンプの各部の動作を適切に制御することが可能になる。
【0078】
また、第1の近似式および第2の近似式は、生体内の濃度から投与量を近似解として求める常微分方程式であり、かつ、第1の近似式は、第2の近似式よりも高精度に投与量を算出し得る常微分方程式であり、シリンジ押子駆動部7は、第1の演算結果に基づく投与量で送液動作を実施するように構成されているため、より高精度に算出された投与量で薬剤の送液を行うことができ、薬剤の濃度を目標濃度に好適に到達または維持させることができる。さらに、演算結果の妥当性を判断するための比較対象として用いられる第2の演算結果を算出する第2の近似式として比較的簡便な計算式を採用しているため、演算処理の増加に伴う処理負担を軽減することができる。
【0079】
また、動作指示部は、第1の演算部108が演算した第1の演算結果と第2の演算部109が演算した第2の演算結果との間の差が所定の値よりも大きいと判断された場合、第2の演算部109による演算処理を複数回繰り返す旨の動作指令を送信するとともに、1つの第1の演算結果に対して複数の第2の演算結果を比較する処理を行う旨の動作指令を送信するように構成されているため、演算結果に誤りが発生しているか否かの判断を複数回に亘って実施することにより、判断結果の信頼性をより一層高めることができる。
【0080】
以上、実施形態を通じて本発明に係る送液ポンプを説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0081】
例えば、実施形態の説明においては、薬剤の投与量を演算する演算部として2つの演算部を用いた例を説明したが、演算部の数は2つ以上であれば特に限定されない。より多くの演算部を備えさせることにより、演算処理の妥当性の判断結果の信頼性をより一層高めることが可能になる。
【0082】
また、例えば、実施形態の説明においては、本願発明に係る送液ポンプをシリンジポンプとして構成した例を説明したが、本願発明に係る送液ポンプは、薬剤の投与を目的とする各種のポンプに広く適用することができ、例えば、輸液ポンプなどに適用することも可能である。