特許第6363513号(P6363513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363513
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-3567(P2015-3567)
(22)【出願日】2015年1月9日
(65)【公開番号】特開2016-129209(P2016-129209A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 和典
(72)【発明者】
【氏名】袴田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】出口 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】北見 明朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 忠史
【審査官】 多賀 和宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−320005(JP,A)
【文献】 特開2012−028561(JP,A)
【文献】 特開平06−252572(JP,A)
【文献】 特開2013−062282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34−23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー素子が封止されたパワーカードを冷却する冷却器と、前記パワーカードと前記冷却器との間に配置された絶縁板と、を備える冷却装置であって、
前記冷却器の前記絶縁板側の表面および前記絶縁板の前記冷却器側の表面のうちの少なくとも一方の面に、軟質金属により形成された軟質金属層
を備え、
前記軟質金属層の表面に、基油と固体添加剤とを含む放熱グリスが塗布されており、
前記軟質金属層は、厚さが前記固体添加剤の平均粒子径より大きくなるよう形成されている、
冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置に関し、詳しくは、パワー素子が封止されたパワーカードを冷却する冷却器と、パワーカードと冷却器との間に配置された絶縁板と、を備える冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の冷却装置としては、筐体と、アンダーカバーとを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。筐体には、表面にグリスを介して半導体モジュールが取り付けられている。グリスは、熱伝導性の高い材料により形成されている。半導体モジュールは、発熱する半導体チップを内蔵している。アンダーカバーは、筐体の裏面に取り付けられている。冷却装置は、半導体モジュールの熱をグリスを介して筐体やアンダーカバーに放熱することにより、半導体モジュールを冷却している。この装置では、筐体の表面の、半導体モジュールに内蔵された半導体チップと重なる位置に、半導体チップを囲む形状の溝を形成する。半導体チップの発熱で筐体とアンダーカバーの温度が上昇すると、筐体とアンダーカバーの熱膨張率の違いから、筐体が変形する。筐体が変形すると、半導体モジュールと筐体との間の隙間が不均一となり、グリスが押し出されて溝に溜まる。そして、筐体とアンダーカバーの温度が下がり、変形が元に戻ると、溝内に溜まったグリスが筐体表面に出てくる。これにより、筐体と半導体モジュールとの間に空隙が生じて、熱抵抗が増加するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−138113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の冷却装置では、筐体に熱的負荷が繰り返し印加されると、次第にグリスが外に抜けてしまい、筐体と半導体モジュールとの間に空隙が生じてしまう。空隙が生じると、半導体モジュールと筐体との間の熱抵抗が増加し、半導体チップの熱が筐体で放熱しづらくなり、冷却性能が低下してしまう。
【0005】
本発明の冷却装置は、パワーカードに熱的負荷が繰り返し印加されたときにおける熱抵抗の増加を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の冷却装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の冷却装置は、
パワー素子が封止されたパワーカードを冷却する冷却器と、前記パワーカードと前記冷却器との間に配置された絶縁板と、を備える冷却装置であって、
前記冷却器の前記絶縁板側の表面および前記絶縁板の前記冷却器側の表面のうちの少なくとも一方の面に、軟質金属により形成された軟質金属層
を備え、
前記軟質金属層の表面に、基油と固体添加剤とを含む放熱グリスが塗布されている、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の冷却装置では、冷却器の絶縁板側の表面および絶縁板の冷却器側の表面のうちの少なくとも一方の面に、軟質金属により形成された軟質金属層が設けられている。軟質金属層の表面には、基油と固体添加剤とを含む放熱グリスが塗布されている。パワー素子の発熱とその後の冷却により、パワーカードが変形と元の形状に戻ることとを繰り返すと、放熱グリスの基油が排出されて放熱グリスの厚さが低下する。放熱グリスの厚さが低下し冷却器と絶縁板との距離が短くなると、残留している固体添加剤が軟質金属層に進入するから、冷却器と絶縁板との距離をより短くすることができる。したがって、基油が排出される代わりに空隙が発生するものと比較すると、パワーカードに熱的負荷が繰り返し印加されたときにおける熱抵抗の増加を抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の冷却装置において、前記パワーカードの両面に前記絶縁板と前記冷却器とが積層されている、ものとしてもよい。
【0010】
また、本発明の冷却装置において、軟質金属層は、厚さが固体添加剤の平均粒子径より大きくなるよう形成されている、ものとしてもよい。こうすれば、固体添加剤を軟質金属層に埋没させることができるから、冷却器とパワーカードとの距離をより近づけることができ、熱抵抗の増加をより抑制することができる。ここで、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例として冷却装置を備えるパワーコントロールユニット20の構成の概略を示す外観図である。
図2】PCU20の要部21の断面を示す断面概略図である。
図3】放熱グリス38の構成の一例を説明する説明図である。
図4】軟質金属層36a,36bを備えていない比較例のPCU20に熱的負荷が繰り返し印加された後の様子を示す説明図である。
図5】実施例のPCU20に熱的負荷が繰り返し印加された後の様子を示す説明図である。
図6】変形例のPCUの要部121の断面を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例として冷却装置を備えるパワーコントロールユニット(以下、「PCU」という)20の構成の概略を示す外観図であり、図2は、PCU20の要部21の断面を示す断面概略図である。図1における太線黒矢印は、冷却水の流れる方向を表している。PCU20は、図1図2に示すように、複数のパワーカード22と、パワーカード冷却装置30と、を備えている。PCU20は、図示しない一対の押圧部材により図1における上下方向から荷重をかけられて押圧されている。
【0014】
パワーカード22は、図1図2に示すように、パワー素子と熱拡散板とを有するパワーチップ22aを内蔵している。パワー素子は、昇圧コンバータ,インバータなどを構成するダイオードやIGBTなどである。熱拡散板は、パワー素子からの熱をパワーカード冷却装置30に拡散させている。
【0015】
パワーカード冷却装置30は、図1図2に示すように、複数の冷却器チューブ32と、複数の絶縁板34と、複数の軟質金属層36a,36bと、を備えている。
【0016】
複数の冷却器チューブ32は、熱伝導性の良好な材料(例えば、アルミニウム(Al)など)により形成され、各パワーカード22の両面側に配置されている。冷却器チューブ32内には、冷却水が流通している。冷却器チューブ32内には、伝熱効率を上げるために図示しないフィンが取り付けられている。
【0017】
複数の絶縁板34は、熱伝導性が良好な絶縁材料(例えば、セラミックなど)により形成され、各パワーカード22と各冷却器チューブ32との間に配置されている。
【0018】
軟質金属層36aは、熱伝導率の比較的高い軟質金属(例えば、スズ(Sn)、リチウム(Li)、インジウム(In)など)により、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面に形成されている。軟質金属層36bは、軟質金属層36aと同様に、軟質金属(例えば、スズ(Sn)、リチウム(Li)、インジウム(In)など)により、絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面に形成されている。軟質金属層36a,36bは、1μm以上200μm以下の厚さ、好ましくは、10μm以上50μm以下の厚さとなるよう形成するものとした。
【0019】
放熱グリス38は、軟質金属層36aと軟質金属層36bとの間および絶縁板34とパワーカード22との間に塗布されている。図3は、放熱グリス38の構成の一例を説明する説明図である。放熱グリス38は、シリコン系グリスとして構成されており、シリコンオイルから形成される基油38aと、熱伝導性が良好な固体金属粒子(例えば、酸化亜鉛(ZnO),アルミナなど)から形成される固体添加剤38bと、を含んでいる。固体添加剤38bは、平均粒子径が0.2μm以上10μm以下、好ましくは、1.0μm以上5.0μm以下となるよう形成するものとした。ここで、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径とした。放熱グリス38は、1μm以上100μm以下の厚さ、好ましくは、10μm以上20μm以下の厚さとなるよう形成するものとした。
【0020】
こうして構成されたPCU20では、軟質金属層36a,放熱グリス38,軟質金属層36b,絶縁板34,放熱グリス38を介して冷却器チューブ32でパワーカード22を冷却している。
【0021】
PCU20では、パワーカード22が通電すると、パワーカード22に内蔵されたパワー素子の温度が上昇し、熱拡散板の発熱と膨張とによりパワーカード22が変形する。パワーカード22が変形すると、放熱グリス38の基油38aが押し出されて排出される。パワーカード22の通電がオフされると、熱拡散板の温度低下と収縮によりパワーカード22が元の形状に戻ろうとする。再びパワーカード22が通電すると、パワーカード22の変形により、放熱グリス38の基油38aが排出される。このようにパワーカード22の通電に伴って、パワーカード22に熱的負荷が繰り返し印加されると、放熱グリス38の基油38aが排出され、放熱グリス38の厚さが低下していく。
【0022】
図4は軟質金属層36a,36bを備えていない比較例のPCUに熱的負荷が繰り返し印加された後の様子を示す説明図であり、図5は実施例のPCU20に熱的負荷が繰り返し印加された後の様子を示す説明図である。比較例のPCU20では、熱的負荷がパワーカード22に繰り返し印加されて放熱グリス38の厚さが低下し、固体添加剤38bの粒子径程度の厚さになると、図4に示すように、固体添加剤38bにより冷却器チューブ32と絶縁板34とがそれ以上近づくことができなくなる。更に、パワーカード22に熱的負荷が加わると、基油38aが更に排出され、冷却器チューブ32と絶縁板34との間に空気等が混入して微少な空隙140が発生し、冷却器チューブ32と絶縁板34との間の熱抵抗が増加してしまう。実施例のPCU20では、冷却器チューブ32の表面と絶縁板34の表面に軟質金属層36a,36bを形成し、軟質金属層36a,36bの間に放熱グリス38を塗布したから、図5に示すように、放熱グリス38の基油38aが排出されて放熱グリス38の厚さが低下して冷却器チューブ32と絶縁板34との距離が短くなっていくと、放熱グリス38の固体添加剤38bが軟質金属層36a,36bに進入していく。そのため、放熱グリス38の厚さを固体添加剤38bの粒子径より薄くすることができ、空隙の発生が抑制される。これにより、熱抵抗の増加を抑制することができる。
【0023】
以上説明した実施例のPCU20では、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面および絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面に軟質金属層36a,36bを形成し、軟質金属層36a,36bの表面に放熱グリス38を塗布したから、パワーカード22に熱的負荷が繰り返し印加されたときにおける放熱グリス抜けによる熱抵抗の増加を抑制することができる。
【0024】
実施例のPCU20では、PCU20を使用している途中で放熱グリス38の厚さが低下し、固体添加剤38bが軟質金属層36a,36bに進入していくものとしたが、使用前に、予め、パワーカード22と放熱グリス38と絶縁板34と軟質金属層36bと放熱グリス38と軟質金属層36aと冷却器チューブ32とを積層させた状態で荷重をかけて加圧し、加圧により放熱グリス38の基油38aをある程度排出させると共に固体添加剤38bを軟質金属層36bに進入させて放熱グリス38の厚さを低下させてから、使用するものとしてもよい。こうすれば、使用時にパワーカード22に熱的負荷が繰り返し印加されたときにおける放熱グリス38の厚さの変化が小さくなり、性能の変化が抑制される。これにより、信頼性を向上させることができる。
【0025】
実施例のPCU20では、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面および絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面に軟質金属層36a,36bを形成したが、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面および絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面のうちのいずれか一方の面のみに軟質金属層を設けるものとしてもよい。
【0026】
実施例のPCU20では、パワーカード22の両面に冷却器チューブ32や絶縁板34、放熱グリス38、軟質金属層36a,36bが配置されているものとしたが、パワーカード22の片面のみに冷却器チューブ32や絶縁板34、放熱グリス38、軟質金属層36a,36bが配置されているものとしても構わない。
【0027】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、冷却器チューブ32が「冷却器」に相当し、絶縁板34が「絶縁板」に相当し、放熱グリス38が「放熱グリス」に相当し、軟質金属層36a,36bが「軟質金属層」に相当する。
【0028】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0029】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、冷却装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0031】
20 パワーコントロールユニット(PCU)、22 パワーカード、22a パワーチップ、32 冷却器チューブ、34 絶縁板、36a,36b 軟質金属層、38 放熱グリス、38a 基油、38b 固体添加剤、140 空隙。
図1
図2
図3
図4
図5
図6