【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例として冷却装置を備えるパワーコントロールユニット(以下、「PCU」という)20の構成の概略を示す外観図であり、
図2は、PCU20の要部21の断面を示す断面概略図である。
図1における太線黒矢印は、冷却水の流れる方向を表している。PCU20は、
図1,
図2に示すように、複数のパワーカード22と、パワーカード冷却装置30と、を備えている。PCU20は、図示しない一対の押圧部材により
図1における上下方向から荷重をかけられて押圧されている。
【0014】
パワーカード22は、
図1,
図2に示すように、パワー素子と熱拡散板とを有するパワーチップ22aを内蔵している。パワー素子は、昇圧コンバータ,インバータなどを構成するダイオードやIGBTなどである。熱拡散板は、パワー素子からの熱をパワーカード冷却装置30に拡散させている。
【0015】
パワーカード冷却装置30は、
図1,
図2に示すように、複数の冷却器チューブ32と、複数の絶縁板34と、複数の軟質金属層36a,36bと、を備えている。
【0016】
複数の冷却器チューブ32は、熱伝導性の良好な材料(例えば、アルミニウム(Al)など)により形成され、各パワーカード22の両面側に配置されている。冷却器チューブ32内には、冷却水が流通している。冷却器チューブ32内には、伝熱効率を上げるために図示しないフィンが取り付けられている。
【0017】
複数の絶縁板34は、熱伝導性が良好な絶縁材料(例えば、セラミックなど)により形成され、各パワーカード22と各冷却器チューブ32との間に配置されている。
【0018】
軟質金属層36aは、熱伝導率の比較的高い軟質金属(例えば、スズ(Sn)、リチウム(Li)、インジウム(In)など)により、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面に形成されている。軟質金属層36bは、軟質金属層36aと同様に、軟質金属(例えば、スズ(Sn)、リチウム(Li)、インジウム(In)など)により、絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面に形成されている。軟質金属層36a,36bは、1μm以上200μm以下の厚さ、好ましくは、10μm以上50μm以下の厚さとなるよう形成するものとした。
【0019】
放熱グリス38は、軟質金属層36aと軟質金属層36bとの間および絶縁板34とパワーカード22との間に塗布されている。
図3は、放熱グリス38の構成の一例を説明する説明図である。放熱グリス38は、シリコン系グリスとして構成されており、シリコンオイルから形成される基油38aと、熱伝導性が良好な固体金属粒子(例えば、酸化亜鉛(ZnO),アルミナなど)から形成される固体添加剤38bと、を含んでいる。固体添加剤38bは、平均粒子径が0.2μm以上10μm以下、好ましくは、1.0μm以上5.0μm以下となるよう形成するものとした。ここで、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径とした。放熱グリス38は、1μm以上100μm以下の厚さ、好ましくは、10μm以上20μm以下の厚さとなるよう形成するものとした。
【0020】
こうして構成されたPCU20では、軟質金属層36a,放熱グリス38,軟質金属層36b,絶縁板34,放熱グリス38を介して冷却器チューブ32でパワーカード22を冷却している。
【0021】
PCU20では、パワーカード22が通電すると、パワーカード22に内蔵されたパワー素子の温度が上昇し、熱拡散板の発熱と膨張とによりパワーカード22が変形する。パワーカード22が変形すると、放熱グリス38の基油38aが押し出されて排出される。パワーカード22の通電がオフされると、熱拡散板の温度低下と収縮によりパワーカード22が元の形状に戻ろうとする。再びパワーカード22が通電すると、パワーカード22の変形により、放熱グリス38の基油38aが排出される。このようにパワーカード22の通電に伴って、パワーカード22に熱的負荷が繰り返し印加されると、放熱グリス38の基油38aが排出され、放熱グリス38の厚さが低下していく。
【0022】
図4は軟質金属層36a,36bを備えていない比較例のPCUに熱的負荷が繰り返し印加された後の様子を示す説明図であり、
図5は実施例のPCU20に熱的負荷が繰り返し印加された後の様子を示す説明図である。比較例のPCU20では、熱的負荷がパワーカード22に繰り返し印加されて放熱グリス38の厚さが低下し、固体添加剤38bの粒子径程度の厚さになると、
図4に示すように、固体添加剤38bにより冷却器チューブ32と絶縁板34とがそれ以上近づくことができなくなる。更に、パワーカード22に熱的負荷が加わると、基油38aが更に排出され、冷却器チューブ32と絶縁板34との間に空気等が混入して微少な空隙140が発生し、冷却器チューブ32と絶縁板34との間の熱抵抗が増加してしまう。実施例のPCU20では、冷却器チューブ32の表面と絶縁板34の表面に軟質金属層36a,36bを形成し、軟質金属層36a,36bの間に放熱グリス38を塗布したから、
図5に示すように、放熱グリス38の基油38aが排出されて放熱グリス38の厚さが低下して冷却器チューブ32と絶縁板34との距離が短くなっていくと、放熱グリス38の固体添加剤38bが軟質金属層36a,36bに進入していく。そのため、放熱グリス38の厚さを固体添加剤38bの粒子径より薄くすることができ、空隙の発生が抑制される。これにより、熱抵抗の増加を抑制することができる。
【0023】
以上説明した実施例のPCU20では、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面および絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面に軟質金属層36a,36bを形成し、軟質金属層36a,36bの表面に放熱グリス38を塗布したから、パワーカード22に熱的負荷が繰り返し印加されたときにおける放熱グリス抜けによる熱抵抗の増加を抑制することができる。
【0024】
実施例のPCU20では、PCU20を使用している途中で放熱グリス38の厚さが低下し、固体添加剤38bが軟質金属層36a,36bに進入していくものとしたが、使用前に、予め、パワーカード22と放熱グリス38と絶縁板34と軟質金属層36bと放熱グリス38と軟質金属層36aと冷却器チューブ32とを積層させた状態で荷重をかけて加圧し、加圧により放熱グリス38の基油38aをある程度排出させると共に固体添加剤38bを軟質金属層36bに進入させて放熱グリス38の厚さを低下させてから、使用するものとしてもよい。こうすれば、使用時にパワーカード22に熱的負荷が繰り返し印加されたときにおける放熱グリス38の厚さの変化が小さくなり、性能の変化が抑制される。これにより、信頼性を向上させることができる。
【0025】
実施例のPCU20では、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面および絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面に軟質金属層36a,36bを形成したが、冷却器チューブ32の絶縁板34側の表面および絶縁板34の冷却器チューブ32側の表面のうちのいずれか一方の面のみに軟質金属層を設けるものとしてもよい。
【0026】
実施例のPCU20では、パワーカード22の両面に冷却器チューブ32や絶縁板34、放熱グリス38、軟質金属層36a,36bが配置されているものとしたが、パワーカード22の片面のみに冷却器チューブ32や絶縁板34、放熱グリス38、軟質金属層36a,36bが配置されているものとしても構わない。
【0027】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、冷却器チューブ32が「冷却器」に相当し、絶縁板34が「絶縁板」に相当し、放熱グリス38が「放熱グリス」に相当し、軟質金属層36a,36bが「軟質金属層」に相当する。
【0028】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0029】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。