特許第6363523号(P6363523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363523
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】流動化処理土
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/00 20060101AFI20180712BHJP
   E02F 7/00 20060101ALI20180712BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20180712BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20180712BHJP
   C04B 24/42 20060101ALI20180712BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   E02D3/00 101
   E02F7/00 D
   C04B24/32 A
   C04B24/38 D
   C04B24/42 A
   C04B28/02
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-15326(P2015-15326)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-178762(P2015-178762A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-35268(P2014-35268)
(32)【優先日】2014年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安野 浩一朗
(72)【発明者】
【氏名】秋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】江口 信也
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−232949(JP,A)
【文献】 特開2012−017424(JP,A)
【文献】 特開2012−036617(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0229761(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/00
E02F 7/00
C04B 24/32
C04B 24/38
C04B 24/42
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位量が1.2キログラム毎立方メートル以上、かつ、1.7キログラム毎立方メートル以下の分離防止剤と、
単位量が30キログラム毎立方メートル以上、かつ、150キログラム毎立方メートル以下のセメントと、
単位量が950キログラム毎立方メートル以上、かつ、1250キログラム毎立方メートル以下の砂質土または砂と、
単位量が500キログラム毎立方メートル以上、かつ、600キログラム毎立方メートル以下の水または海水と
を含み、
前記分離防止剤は、1%希釈率における粘性が1200ミリパスカル秒以上、かつ、5500ミリパスカル秒以下の範囲内にあるヒドロキシアルキルセルロースを含むとともに、当該分離防止剤の全重量に対する重量百分率が3%以上、かつ、15%以下の、ポリエーテル系またはシリコン系の消泡剤を含む
ことを特徴とする流動化処理土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動化処理土に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事における埋め戻し材や、汚染土壌の封じ込め材、盛り土工法の安定処理材として、流動化処理土が使用されている。例えば、建設現場で発生した泥土、残土、汚泥、または砂に対し、セメント系または石灰系の水硬性材料を添加して水に分散したスラリーが上述した流動化処理土として用いられる。従来の技術では、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライトなどの鉱物を用いる方法があり(特許文献1〜3)、また、分離防止のために消石灰、酸化アルミ、炭酸カルシウムなどの無機材料を使用する方法もある。
【0003】
鉱物を用いる場合、水に浸すための大規模なプラント設備を現地に用意する必要がある。また鉱物の性能にはばらつきが多く、分離抵抗性をもたせるとフロー値が小さくなり、施工時にポンプが詰まるなどの不具合が生じ易い。また、消石灰や酸化アルミなどカルシウム系やアルミニウム系の無機材料を用いると、セメントとの混合時にカルシウムやアルミニウムなどの化学成分が海水中に漏れ出すため、生物環境に悪影響を与えることが問題となる。一方、多量のセメントを混入させたソイルセメントや水中不分離性コンクリートは、一般に24000キロニュートン毎平方メートル程度の強度が実現するのでコンクリート構造物に該当するが、流動化処理土としては適さない場合がある。そこで、流動化処理土にセルロースなどの増粘剤を添加することが検討されている。
【0004】
特許文献4には、カルボキシアルキルセルロース類と水硬性物質とで構成されている泥土改質剤が記載されている。
特許文献5には、セメントなどの水硬性粉体物質、砂・土砂、粘土および水などを配合したソイルセメントに対し、増粘剤として非イオン性水溶性セルロースエーテルを添加、混練した水中盛土材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−246814号公報
【特許文献2】特開2001−140282号公報
【特許文献3】特開2012−36617号公報
【特許文献4】特開2007−160258号公報
【特許文献5】特開平6−298558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流動化処理土は、ポンプによって輸送されたり狭い場所に施工されたりするため、流動性が必要となることに加えて、分離抵抗性を有し、さらに再掘削が可能なように硬化後の強度が強くなり過ぎないことが求められる。しかし、上述の特許文献4および特許文献5に記載された技術では、上述した観点から流動化処理土に適した各材料の配合率が示されていなかった。
【0007】
本発明の目的の1つは、分離抵抗性を有しながら硬化後の強度が強くなり過ぎず、適度なフロー値を示し、かつ、大規模な専用プラントを必要としない流動化処理土を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明に係る流動化処理土は、単位量が1.2キログラム毎立方メートル以上、かつ、1.7キログラム毎立方メートル以下の分離防止剤と、単位量が30キログラム毎立方メートル以上、かつ、150キログラム毎立方メートル以下のセメントと、単位量が950キログラム毎立方メートル以上、かつ、1250キログラム毎立方メートル以下の砂質土または砂と、単位量が500キログラム毎立方メートル以上、かつ、600キログラム毎立方メートル以下の水または海水とを含み、前記分離防止剤は、1%希釈率における粘性が1200ミリパスカル秒以上、かつ、5500ミリパスカル秒以下の範囲内にあるヒドロキシアルキルセルロースを含むとともに、当該分離防止剤の全重量に対する重量百分率が3%以上、かつ、15%以下の、ポリエーテル系またはシリコン系の消泡剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流動化処理土は、分離抵抗性を有しながら硬化後の強度が強くなり過ぎず、適度なフロー値を示し、かつ、大規模な専用プラントを必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において流動化処理土は、分離防止剤と、セメントと、砂と、水とを含む。ここで、分離防止剤には、1%希釈率における粘性が1200ミリパスカル秒以上、かつ、5500ミリパスカル秒以下の範囲内にあるヒドロキシアルキルセルロースと、ポリエーテル系またはシリコン系の消泡剤とを含有させる。ここで、上述したいずれかの薬剤剤は、分離防止剤の全重量に対する重量百分率が3%以上、かつ、15%以下になるよう配合される。なお、消泡剤には、他にもオイル系、エマルション系、トリブチル系、界面活性剤系などがあるが、コンクリート構造物に比較して硬化後の強度を弱くする必要があるため、溶出による環境影響を考慮した場合、ポリエーテル系またはシリコン系の消泡剤が望ましい。
【0011】
そして、この流動化処理土に用いられる各材料の単位量は、以下のとおりである。すなわち、分離防止剤の単位量は、1.2キログラム毎立方メートル以上、かつ、1.7キログラム毎立方メートル以下である。セメントの単位量は、30キログラム毎立方メートル以上、かつ、150キログラム毎立方メートル以下である。砂の単位量は、950キログラム毎立方メートル以上、かつ、1250キログラム毎立方メートル以下である。水の単位量は、500キログラム毎立方メートル以上、かつ、600キログラム毎立方メートル以下である。なお、上述した砂は砂質土であってもよい。また、上述した水は、真水であってもよいし、海水であってもよい。
【実施例】
【0012】
(1)分離防止剤の添加量、および分離防止剤における消泡剤の配合率
(a)試料
それぞれ決められた単位量のセメント、水、砂に対し、分離防止剤の添加量と、その分離防止剤における消泡剤の配合率とをそれぞれ変えて試料1〜32を作成し、各試料について28日強度(キロニュートン毎平方メートル(キロパスカル))、空気量(%)、およびブリーディング率(%)を測定した。測定したこれらの結果に基づいて、流動化処理土として好適な強度およびブリーディング率を実現するために必要な分離防止剤の添加量、および分離防止剤における消泡剤の配合率の範囲を求めた。
【0013】
分離防止剤にはヒドロキシアルキルセルロースとして、関東化学株式会社製のメチルセルロースを用いた。このメチルセルロースは、1%希釈率における粘性が1200ミリパスカル秒以上、かつ、5500ミリパスカル秒以下の範囲内にあるヒドロキシアルキルセルロースの一例である。なお、本発明のヒドロキシアルキルセルロースは、メチルセルロースに限られず、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシジエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが適用される。
また、分離防止剤には消泡作用を実施する材料として、試料1〜16では、信越工業株式会社製のシリコン系消泡剤No.3を用い、試料17〜32では、関東化学株式会社製のポリエーテル系消泡剤を用いた。
その他、実験上では、性能の結果に表れない分離防止剤に対して0.2%の市販の防腐剤、防錆剤をそれぞれ添加して用いた。
【0014】
セメントは、高炉B種を用いた。水は真水を用いた。セメントの単位量は60キログラム毎立方メートル、砂の単位量は1120キログラム毎立方メートル、水の単位量は550キログラム毎立方メートルとした。
【0015】
(b)試験方法
28日強度は、JISのA1216−2009「土の一軸圧縮試験方法」に定める「一軸圧縮強さ」を材齢28日の試料に対して行うことで測定した。
【0016】
空気量は、コンクリート標準示方書[規準編]土木学会規準および関連規準(2010年制定)に示す水中不分離性混和剤規格JSCE−D104−2007に準じて試験を実施した。
【0017】
ブリーディング率は、JSCE−F522−2007規格に準じて測定した。
【0018】
試料は、上述した3つの測定結果により流動化処理土として使用可能なものを「可」として、使用不可能なものを「不可」として評価した。流動化処理土として使用可能と評価する条件は、28日強度が200キロニュートン毎平方メートル以上、かつ、600キロニュートン毎平方メートル未満であり、空気量が4.5%未満であり、ブリーディング率が1.0%未満であることとした。なお空気量の条件(4.5%未満)はJSCE−D104−2007の空気量に準じて設定した。
【0019】
(c)結果
表1は、消泡剤としてシリコン系消泡剤を用いた試料1〜16についての測定結果を示す表である。試料1、7、12は28日強度が200キロニュートン毎平方メートル未満であり、空気量が4.5%を超えたため不可と評価した。試料6は、ブリーディング率が1.0%以上となったため不可と評価した。
【表1】
【0020】
表2は、消泡剤としてポリエーテル系消泡剤を用いた試料17〜32についての測定結果を示す表である。試料17、23、28は28日強度が200キロニュートン毎平方メートル未満であり、空気量が4.5%を超えたため不可と評価した。試料22は、ブリーディング率が1.0%以上となったため不可と評価した。
【表2】
【0021】
表1および表2の結果から、分離防止剤の添加量1.2キログラム毎立方メートル以上、かつ、1.8キログラム毎立方メートル以下が望ましいことがわかった。また、分離防止剤における消泡剤の配合率は、分離防止剤の全重量に対する重量百分率として3%以上、かつ、15%以下であることが望ましいことが分かった。
【0022】
(2)セメント材料の配合設計
(a)試料
セメントを構成する各材料の配合を変えて試料33〜51および試料52〜73を作成し、各試料についてSS(suspended solids)値(ミリグラム毎リットル)、28日強度(キロニュートン毎平方メートル)、およびフロー値(ミリメートル)を測定した。測定したこれらの結果に基づいて、流動化処理土として好適な不分離度、懸濁物質量、およびフロー値を実現するために必要なセメント材料の配合設計を求めた。なお、試料34〜36は、本発明に必要としない物質として、ベントナイトおよび消石灰を配合した試料である。このベントナイトには、榛名を用いた。
【0023】
また、上述した試験の結果を受けて、ここでは分離防止剤における消泡剤の配合率を、分離防止剤の全重量に対する重量百分率として15%とした。消泡剤には、上述した信越工業株式会社製のシリコン系消泡剤No.3を用いた。ヒドロキシアルキルセルロースには、関東化学株式会社製のメチルセルロース(試薬品)を用いた。
【0024】
(b)試験方法
SS値は、財団法人沿岸技術研究センターの発行となる「軽量混合処理土工法技術マニュアル」に従った方法で測定した。28日強度は、上述のマニュアルにしたがって測定した。フロー値は、日本道路公団規格JHS313−1999「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」に定めるシリンダー法によって測定した。
【0025】
試料は、上述した3つの測定結果により流動化処理土として使用可能なものを「可」として、使用不可能なものを「不可」として評価した。流動化処理土として使用可能と評価する条件は、SS値が100ミリグラム毎リットル未満であり、28日強度が200キロニュートン毎平方メートル以上、かつ、600キロニュートン毎平方メートル未満であり、フロー値が140ミリメートル以上、かつ、220ミリメートル未満であることとした。
【0026】
(c)結果
表3は、試料33〜41および試料52〜58についてのSS値の測定結果と、流動化処理土としての評価を示す表である。SS値に関する評価では、試料35が不可となった。
【表3】
【0027】
表4は、試料33、42〜46、および試料59〜66についての28日強度の測定結果と、流動化処理土としての評価を示す表である。試料42〜46および試料59〜65の28日強度は、いずれも上述した範囲内であったため、流動化処理土としての評価は可となったが、分離防止剤を用いずにセメント量を増やした試料33では、28日強度が14000キロニュートン毎平方メートル程度となったため、流動化処理土としての評価は不可となった。また、150キログラム毎立方メートルを超える200キログラム毎立方メートルにセメント量を増やした試料66では、28日強度が690キロニュートン毎平方メートルとなったため、流動化処理土としての評価は不可となった。
【表4】
【0028】
表5は、試料34〜36、47〜51、および試料67〜77についてのフロー値の測定結果と、流動化処理土としての評価を示す表である。ベントナイトや消石灰などの無機材料を用いた試料34〜36では、硬化後に硬くなり過ぎてフロー値が100ミリメートル程度となったため、流動化処理土としての評価は不可となった。ベントナイトや消石灰などの無機材料を用いていない試料47〜51においても、分離防止剤の添加量を1.8キログラム毎立方メートルとした試料49では、フロー値が140ミリメートル未満となり、施工性の低下が示唆されたため、流動化処理土としての評価は不可となった。その他の試料47,48,50,51についてのフロー値は140ミリメートル以上、かつ、220ミリメートル未満であったため、流動化処理土としての評価は可となった。
一方、試料67〜77については、分離防止剤の添加量を1.8キログラム毎立方メートルとした試料67,70,73のうち、試料70を除いてフロー値が140ミリメートル未満となったため、流動化処理土としての評価は不可となった。しかし、分離防止剤の添加量を1.7キログラム毎立方メートルとした試料74〜77については、いずれもフロー値が140ミリメートル以上、かつ、220ミリメートル未満であったため、流動化処理土としての評価は可となった。
【表5】