特許第6363555号(P6363555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6363555-アルミニウム製熱交換器 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363555
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】アルミニウム製熱交換器
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/28 20060101AFI20180712BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20180712BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20180712BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20180712BHJP
   F28F 3/08 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   B23K35/28 310B
   B23K35/22 310E
   C22C21/00 J
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   F28F21/08 A
   F28F3/08 301A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-91103(P2015-91103)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-203233(P2016-203233A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栄三
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
(72)【発明者】
【氏名】柳川 裕
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
【審査官】 光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−112286(JP,A)
【文献】 特開2015−58466(JP,A)
【文献】 特表2014−519413(JP,A)
【文献】 特開2013−123720(JP,A)
【文献】 特開2015−33716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/28
B23K 35/22
C22C 21/00〜21/08
F28F 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形した単一または複数のチューブプレートの端縁部を重合して形成した閉空間にインナーフィンを配設し、チューブプレートの端縁部を重合してなる継手1とチューブプレートにインナーフィンを当接してなる継手2をろう付けして作製された熱交換器で、継手1および継手2にはAl−Si系ろう材が介在し、ろう付けが不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いることなしに行われるものにおいて、インナーフィンが、アルミニウム合金の心材の両面に、Si:9〜13%を含有し、Mg:0.2〜1.2%、Li:0.004〜0.1%、Ca:0.005〜0.03%のうちの1種または2種以上を含有し、さらにCu、Znの1種または2種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、固相線温度が570℃以下で、該固相線温度が前記継手1に介在するAl−Si系ろう材の固相線温度より低いAl−Si系ろう材をクラッドしてなるブレージングシートで構成されていることを特徴とするアルミニウム製熱交換器。
【請求項2】
前記インナーフィンを構成するブレージングシートのアルミニウム合金心材がMg:0.2〜1.3%を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製熱交換器。
【請求項3】
前記インナーフィンを構成するブレージングシートのAl−Si系ろう材がBi:0.004〜0.2%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム製熱交換器。
【請求項4】
前記インナーフィンが、ろう付け前に酸溶液またはアルカリ溶液によりエッチング処理されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム製熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形したチューブプレートで形成した閉空間にインナーフィンを配設し、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用せずにろう付け接合されたアルミニウム製熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
細かな接合部を多数有するアルミニウム製熱交換器、とくに自動車用熱交換器においては、接合方法としてろう付け接合が広く用いられている。アルミニウムをろう付け接合するには、ろう材の表面を覆っている酸化皮膜を破壊して、溶融したろう材を母材あるいは同じく溶融したろう材に接触させることが必要である。酸化皮膜を破壊してろう付けする方法としては、大別して、フラックスを使用してろう付けする方法と、真空中や不活性ガス中でフラックスを塗布せずにろう付けする方法の二種類がある。
【0003】
自動車用熱交換器のろう付け方法として現在主流に行われている方法は、アルミニウムに対して非腐食性のフッ化物系フラックスを塗布し、窒素ガス中でろう付けする方法である。このフッ化物フラックスろう付け法は、真空ろう付け法に比べてろう付け設備費が安く、少ない電力で加熱昇温できるためランニングコストも安く、生産効率も良い。また、Zn拡散を利用した防食処理が可能なため、真空ろう付け法によって製造される熱交換器用の材料をさらに薄肉化できるなど、多くの利点を有している。そのため、現在世界中で生産されている自動車用熱交換器の殆どがフッ化物系フラックスろう付け法により生産されている。
【0004】
近年、フラックスを使用した自動車用熱交換器の問題点が浮き彫りになってきた。熱交換器の小型軽量化によって冷媒通路が年々微細化し、冷媒通路がフラックスの残渣で目詰まりを起こす問題が生じている。また、熱交換器の外面側に表面処理を施す工程で、フラックス残渣を酸などで洗い落とす工程のコスト負担も問題視されるようになっている。一方、ハイブリッド車に搭載されるインバータ冷却器では、電子部品への悪影響の懸念から、フラックスを使用しない真空ろう付け法が採用されているケースもある。さらに、フッ化物系フラックスは材料中のMgと反応してフラックス機能が低下するため、Mgを含有する高強度材料が使用できない欠点も有しており、材料のさらなる薄肉化の障壁にもなっている。
【0005】
このような背景から、フッ化物系フラックスろう付け法の問題点を解消するとともに、フッ化物系フラックスろう付けが有している高生産性(低コスト)と防食処理機能を維持する手段として、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないで接合するろう付け法(通称フラックスレスろう付け)の開発が活発化している。
【0006】
不活性ガス中でフラックスを塗布せずにろう付け接合するためには、材料に添加した成分の作用によって、ろう材表面の酸化皮膜の破壊を促進したり、溶融ろうの表面張力を下げて流動性を高めたりする必要がある。例えば、ブレージングシートのろう材や心材にMgを添加したり、ろう材中にLiやCaなど酸化傾向の高い元素を微量添加したり、ろう材にBiを添加して流動性を向上させたりするなど、様々な手段が提案されている。さらには、ろう付け前に材料表面に形成されている酸化皮膜を酸やアルカリで除去することにより接合性を向上させる提案もある。これらの手法によって、難度の低い継手であれば容易に接合可能となるが、フラックスレスろう付けには共通して次のような問題点がある。
【0007】
例えば、ブレージングシートからなるチューブプレートを成形し、成形したチューブプレートの端縁部を重合し、この重合端縁部をろう付け接合してチューブやカップなど閉空間を有する構造を形成すると、チューブプレートの端縁部を重合してなる継手は、チューブやカップの外部と内部に連通した継手、すなわち、継手の片側が外部に、逆側が内部に面する継手となる。このとき、内部側の閉空間内にインナーフィンが存在すると、チューブプレートの端縁部を重合してなる継手の溶融ろうが、内部に位置するチューブプレートにインナーフィンを当接してなる継手に引き込まれる結果、チューブやカップの外部側の継手にフィレットが形成され難くなる。
【0008】
これは不活性ガス中でのフラックスレスろう付けに共通した問題であり、外部側のフィレット形成を促すために、外部側にフラックスを塗布する対策も取られている。ところが、材料にMgが含有していると、Mgがフラックスと反応してフラックス機能を低下させるため、より多くのフラックスを塗布したり、あるいはMgとの反応による機能低下を防ぐために、Csを含有した高コストのフラックスを塗布することも行われているが、Mgの影響によって外部側のろう付け性が安定しないという難点を払拭することはできない。外部側のフィレット形成能を向上させるために、不活性ガスの純度を上げる(酸素濃度や露点を下げる)方法や、窒素ガスよりもさらに不活性なアルゴンガスを使用する方法もあり、ある程度の効果は認められるが、生産現場では規模的な面あるいはコスト的な面で実現困難であり、しかも、熱交換器の外部側のフィレット形成に対して確実な効果を発揮するには至っていない。このように、外部側にフィレットを安定的に形成させることは、不活性ガス雰囲気中でのフラックスレスろう付けに共通した課題であり、フラックスレスろう付けの実用化を阻んでいる最大の要因でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−233552号公報
【特許文献2】特開2014−050861号公報
【特許文献3】特開平10−180489号公報
【特許文献4】特開2014−217844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フラックスレスろう付けにおける上記の問題点を解消し、熱交換器の外側に位置する外部側継手から熱交換器の内側に位置する内部側継手へのろうの吸引に起因する外部側継手のフィレット形成不良をなくして、熱交換器各部位の接合性を向上させることができるアルミニウム製熱交換器を提供することを目的とする。以下、発明に至った経緯について説明する。フラックスレスろう付けでよく問題となるのは、図1に示すようなプレス成形したチューブプレート2とインナーフィン3で構成される積層型熱交換器1におけるチューブプレート2の端縁部4を重合してなる外部側接合部a(以下、外部側継手)(継手1)のフィレット形成不良である。外部側フィレットの形成不良は、ろう付け雰囲気が悪い(例えば雰囲気中の酸素濃度が高い)場合にも発生するが、ろう付け雰囲気に問題がなくても、チューブプレート2にインナーフィン3を当接してなる内部側接合部b(以下、内部側継手)(継手2)のフィレット形成に伴った内部へのろうの吸引によって発生する。何故内部への溶融ろうの吸引が生ずるのかが本発明の重要な着眼点であり、発明者らは内外部におけるフィレット形成の時間的推移に注目した。
【0011】
Al−Siろう材を用いる継手において、フラックスが塗布された場合には、560℃あたりで溶融したフラックスによって、ろう材の溶融が開始する577℃に至るまでの間にろう材表面の酸化皮膜の他に、相手材の酸化皮膜の破壊も活発に進行する。そのため、ろうが溶融を開始すると、継手の接点では直ちにフィレットの形成が開始され、至近距離に位置する溶融ろうが直ちに継手の間隙を埋めるように供給され、健全にフィレットが成長する(実質的なフィレット形成開始温度は580℃程度)。
【0012】
実際の熱交換器のろう付け加熱においては、熱交換器は炉壁からの輻射伝熱と雰囲気ガスからの熱伝導によって、外部側継手でのフィレット形成が内部側継手よりも先に進行する。やや遅れて昇温した内部側継手でも、外部側継手と同様なプロセスで、至近距離に位置する溶融ろうの供給によってフィレット形成が進行するのであるが、溶融ろうが自由に流動できる温度に達した段階において、仮に内部へのろうの吸引が生じたとしても、その段階では既に外部側継手のフィレット形成はほぼ完了している。一度形成されたフィレットが消失するほどの強い吸引は、例えば急速な冷却による溶融ろう全体での大規模な凝固収縮など、力学的に激しい非平衡が生じた場合にのみ発生する現象であり、一般のろう付けの昇温過程では、一度形成されたフィレットは消失しない。したがって、内部側継手のフィレットの成長に伴って、外部側から内部側へのろうの吸引が生じたとしても、余剰なろうが吸引されるだけであり、外部側継手に健全に形成されたフィレットの形状は維持されるのである。
【0013】
これに対して、フラックスを使用しないフラックスレスろう付けにおいては、ろう材表面の酸化皮膜の破壊は材料中の添加元素の作用によって進行する。ろう付け加熱時にろう材あるいは心材に添加された元素がろう材表面に拡散して酸化皮膜の破壊を促進するため、ろうが溶融する577℃までの間におけるろう材表面の酸化皮膜の破壊はゆっくりと進行し、相手材の酸化皮膜に対する破壊作用は全く発揮されない。ろうが溶融を開始すると、フラックスろう付けと同様に、まず外部側継手の接点で接合が開始されるが、ろう材表面の酸化皮膜の破壊はまだ十分に進行しておらず、相手材の酸化皮膜も殆ど破壊されていないため、外部側継手(継手1)のフィレットの成長はフラックスろう付けに比べてゆっくりと進行することになる。やや遅れて内部側のろうが溶融温度に達すると、内部側継手(継手2)でも接合が開始される。
【0014】
このとき、内部側の狭い空間はアルミニウムで囲われており、内部側の雰囲気中の酸素は内部側のアルミニウム表面の随所を酸化して減少しているため、接合部のろう材表面および相手材の酸化皮膜は外部側に比べて脆弱であると推定される。さらに、内部側継手(継手2)のクリアランスは、高さ方向に弾力性を有するインナーフィン3の特徴から、外部側継手のクリアランスに比べて小さく、実質的に殆ど隙間のない状態である。このため、内部側での酸化皮膜の破壊は外部側に比べて速やかに進行し、内部側継手(継手2)のフィレットの成長も外部側に比べて速やかに進行する。この内部側継手での速やかなフィレット成長によって、溶融ろうの内部への吸引が生ずるのである。外部側継手(継手1)のフィレット形成がまだ完了していない段階で溶融ろうが内部へ吸引されるため、外部側継手(継手1)のフィレットの成長が停止してしまう。その結果、外部側継手(継手1)ではフィレット切れが多発したり、スティッチと呼ばれる不連続なフィレット形成状態がみられることとなる。
【0015】
内部への溶融ろうの吸引を抑止するために、本発明においては、インナーフィンを低融点ろう材を両面に配したブレージングシートで構成することを提案する。この構成によれば、内部側継手におけるフィレット形成は外部側継手よりも早い段階から開始され、外部側継手にAl−Siろう材が介在している場合、接合が開始される温度577℃(実質的な接合開始温度は580℃程度)においては、内部側継手(継手2)でのフィレット形成はほぼ完了していることになる。その結果、内部へのろうの吸引が生じることなく、外部側継手(継手1)のフィレットは健全に成長することが可能となる。
【0016】
内部側継手でのフィレット形成を外部側より先に開始するためには、まず、インナーフィンのろう材の固相線温度を下げる必要がある。一般の自動車用熱交換器の外部と内部においては、熱交換器の形態や寸法あるいは昇温速度にもよるが、ろうの溶融段階において、内部に比べて外部の温度が3〜7℃高いのが一般的である。外部側継手のAl−Siろう材の固相線温度は577℃のため、想定される内外部の温度差を7℃と見込むと、インナーフィンに配するろう材の固相線温度を570℃以下にする必要がある。
【0017】
不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いることなしにろう付け接合を可能とし、且つフィレット形成を比較的速やかに進行させるためには、前記のように、ろう材中にMg、Li、Caの少なくとも1種を含有させる必要がある。また、Al−Siろう材の融点を低下させるためには、ろう材へのCuとZnの添加が有効である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記の知見および検討経緯からなされたものであり、本発明の目的を達成するための請求項1によるアルミニウム製熱交換器は、成形した単一または複数のチューブプレートの端縁部を重合して形成した閉空間にインナーフィンを配設し、チューブプレートの端縁部を重合してなる継手1とチューブプレートにインナーフィンを当接してなる継手2をろう付けして作製された熱交換器で、継手1および継手2にはAl−Si系ろう材が介在し、ろう付けが不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いることなしに行われるものにおいて、インナーフィンが、アルミニウム合金の心材の両面に、Si:9〜13%を含有し、Mg:0.2〜1.2%、Li:0.004〜0.1%、Ca:0.005〜0.03%のうちの1種または2種以上を含有し、さらにCu、Znの1種または2種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、固相線温度が570℃以下で、該固相線温度が前記継手1に介在するAl−Si系ろう材の固相線温度より低いAl−Si系ろう材をクラッドしてなるブレージングシートで構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項2によるアルミニウム製熱交換器は、請求項1において、前記インナーフィンを構成するブレージングシートのアルミニウム合金心材がMg:0.2〜1.3%を含有することを特徴とする。
【0020】
請求項3によるアルミニウム製熱交換器は、請求項1または2において、前記インナーフィンを構成するブレージングシートのAl−Si系ろう材がBi:0.004〜0.2%を含有することを特徴とする。
【0021】
請求項4によるアルミニウム製熱交換器は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記インナーフィンが、ろう付け前に酸溶液またはアルカリ溶液によりエッチング処理されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
成形した単一または複数のチューブプレートの端縁部を重合して形成した閉空間にインナーフィンを配設し、チューブプレートの端縁部を重合してなる継手1とチューブプレートにインナーフィンを当接してなる継手2をろう付けして作製された熱交換器で、継手1および継手2にはAl−Si系ろう材が介在し、ろう付けが不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いることなしに行われるものにおいて、熱交換器の外側に位置する外部側継手(継手1)から熱交換器の内側に位置する内部側継手(継手2)へのろうの吸引による外部側継手(継手1)のフィレット形成不良をなくし、各部位の接合性を向上させることができるアルミニウム製熱交換器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明によるアルミニウム製熱交換器の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による熱交換器としては、例えば、図1に示すように、成形した複数のチューブプレート2の端縁部4を重合して形成した閉空間5にインナーフィン3を配設し、チューブプレート2の端縁部4を重合してなる外部側継手(継手1)と、チューブプレート2にインナーフィン3を当接してなり外部側継手(継手1)より内側に位置する内部側継手(継手2)を、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いることなしにろう付けして作製された熱交換器1がこれに相当し、この他、成形したチューブプレートの凹面同士を向かい合わせるように組み合わせ、内部にコルゲート加工したインナーフィンを配設して、ろう付けすることにより作製された冷媒通路管をそなえた熱交換器など、成形した単一または複数のチューブプレートの端縁部を重合して形成した閉空間にインナーフィンを配設し、チューブプレートの端縁部を重合してなる外部側継手とチューブプレートにインナーフィンを当接してなる内部側継手を有する種々の形態の熱交換器が本発明の熱交換器に相当する。
【0025】
本発明においては、インナーフィンはアルミニウム合金の心材の両面にろう材をクラッドしたものとし、チューブプレートは、アルミニウム合金の心材の両面または片面(多くの場合は内面)にろう材をクラッドしたものとする。チューブプレートの重合端縁部に別の部位のろう、例えばタンク・ヘッダのろうが流れ込む形態の熱交換器においては、チューブプレートとして、ろう材をクラッドしない材料からなるものを適用することもできる。
【0026】
本発明においては、また、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いることなしにろう付けを行うため、チューブプレート、インナーフィンにクラッドするろう材としては、Mg:0.2〜1.2%、Li:0.004〜0.1%、Ca:0.005〜0.03%の少なくとも1種を含有するAl−Si系ろう材を適用する必要がある。Al−Siろう材に所定量のMg、Li、Caの1種以上を含有させることにより、不活性ガス雰囲気中において、フラックスを使用することなしにろう付け接合することが可能となり、且つフィレット形成を比較的速やかに進行させることができる。
【0027】
Mgの含有量が0.2%未満では酸化皮膜破壊の効果が乏しく、1.2%を超えると溶融ろうの表面張力が過度に低下してフィレット形成能に悪影響を及ぼす。Liの含有量が0.004%未満では酸化皮膜破壊の効果が乏しく、0.1%を超えるとLiOが過剰に形成して接合性が悪くなる。Caの含有量が0.005%未満では酸化皮膜破壊の効果が乏しく、0.03%を超えるとCaOが過剰に形成されて接合性が悪くなる。なお、Mg、Li、Caについては、そのうちの1種または2種が前記の添加量でろう材に添加されていれば、他の2種または1種が前記添加量の下限値に満たない量で複合的に添加されていても、ろう付け性を阻害することはなく、ろう付け性を向上する効果を発揮する場合もある。
【0028】
インナーフィンにクラッドするAl−Si系ろう材については、さらに、熱交換器の外部側継手(継手1)から内部側継手(継手2)への溶融ろうの吸引を抑止するため、固相線温度が570℃以下で、この固相線温度が継手1に介在するAl−Si系ろう材の固相線温度より低いものとすることが必要である。そのために、ろう材へのCuとZnの添加が有効である。Al-Siろう材の固相線温度を570℃以下にするには、Cu、Znの単独添加の場合には、最もよく使用されるAl-10%Siろう材において、0.6%以上のCuあるいは3.3%以上のZnの添加が必要である。CuとZnを同時に添加すれば、必要となる添加量の下限値はそれぞれ低くなる。なお、インナーフィンにクラッドするAl−Si系ろう材のSi量は、フィレット形成を速やかに進行させるために、共晶組成に近い成分量である9〜13%が望ましく、この範囲のSi量を有するAl−Si系ろう材において、固相線温度を570℃以下にするための実用的なCu、Znの添加量は、単独添加の場合にはCu:0.5〜5%、Zn:3〜7%、同時添加の場合にはCu:0.3〜4%、Zn:0.5〜5%程度である。
【0029】
インナーフィンにクラッドするろう材の液相線温度も低下させて、インナーフィンのろう材による内部側継手(継手2)のフィレット形成を速やかに進行させることも有効である。このときポイントとなるのは、外部側継手(継手1)に介在しているAl−Si系ろう材であり、このろう材によってフィレットの形成が開始される実質的な温度は580℃程度であるから、内部へのろうの吸引を避けるためには、580℃までにインナーフィンのろう材によって内部側継手(継手2)のフィレット形成を完了させておくことが望ましく、インナーフィンのろう材の液相線温度を580℃以下にするのが望ましい。そのために、ろう材へのCuとZnの添加が有効である。
【0030】
Al−Siろう材へのCuとZnの添加は、ろう材の融点を低下させるが、液相線温度については、ろう材中のSi量によって大きく異なる。例えばAl−Siろう材が共晶組成のAl-12.6%Siの液相線温度は577℃であり、CuやZnを添加する必要はないが、最も一般的に使用されるAl-10%Siろう材の場合、液相線温度を580℃にするには、Cu、Znの単独添加の場合には、4.2%以上のCuあるいは6.8%以上のZnの添加が必要である。CuとZnを同時添加すれば、必要となる添加量の下限値はそれぞれ低くなる。
【0031】
前記のように、Al-Siろう材にMgを少量添加することにより、フラックスレスろう付けが可能になる。Mgの添加はAl−Siろう材の融点降下にも効果があるが、Mgは酸化皮膜の破壊促進作用を有する一方で、過度に添加すると溶融ろうの表面張力の低下によるフィレット形成不良を誘発し、また、ろう材に過度に添加すると、ろう材表面で独自の酸化物を形成し、酸化皮膜を強固にする背反も生じる。そのため、Mgについては、フラックスレスろう付け性を向上させる目的での添加を主眼とし、融点降下に関しては、悪影響を及ぼさない範囲で補助的に添加するのが好ましい。
【0032】
以上のことから、インナーフィンは、アルミニウム合金の心材の両面に、Si:9〜13%を含有し、Mg:0.2〜1.2%、Li:0.004〜0.1%、Ca:0.005〜0.03%のうちの1種または2種以上を含有し、さらにCu、Znの1種または2種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、固相線温度が570℃以下で、該固相線温度が継手1に介在するAl−Si系ろう材の固相線温度より低いAl−Si系ろう材をクラッドしてなるブレージングシートで構成される。
【0033】
Cu、Znの他、ろう材へのMgの添加も、ろう材の融点降下に直接的に影響し、心材に添加した場合も、ろう付け加熱中にろう材中に拡散してろう材の融点を降下させる効果をもたらす。また、Mgを心材に添加すると、同様な拡散によってろう材表面の酸化被膜破壊にも効果的に作用する。但し、ろう材中に添加する場合と比べて酸化皮膜破壊作用のタイミングが遅れるため、心材へのMg添加だけで、内部側継手(継手2)に速やかにフィレットを形成させるという本発明の目的を達成することは困難である。
【0034】
インナーフィンの心材にMg:0.2〜1.3%を添加したり、インナーフィンのろう材にBi:0.004〜0.2%を添加することにより、接合性をさらに向上させることができる。心材へのMgの添加量が0.2%未満ではインナーフィンの接合性向上の効果が乏しく、1.3%を超えると、溶融ろうによるエロージョンが発生し、接合部のフィレット形成能が下がるとともに、インナーフィンが変形して接合不良を発生するリスクも高まる。また、ろう材へのBiの添加量が0.004%未満ではインナーフィンの接合性向上の効果が乏しく、0.2%を超えると、表面張力が過度に低下して接合性に悪影響を及ぼしたり、酸化皮膜が強固になって濡れ性が低下する。
【0035】
インナーフィン材が、ろう付け前に酸溶液あるいはアルカリ溶液でエッチング処理されることによりさらに接合性を高めたり、フィレット形成能を安定化することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
図1に示すアルミニウム製熱交換器を構成する部材を常法に従って製造した。チューブプレート材として、3003合金(Al−1.2%Mn)の心材の両面にAl-10%Si-0.6%Mgろう材を7%づつクラッドした厚さ0.6mmのブレージングシートを用い、製造したチューブプレート材をプレス成形してチューブ形状とした。インナーフィン材として、表1〜2に示すように、3003合金(Al−1.2%Mn)の心材の両面に各種のろう材を10%づつクラッドした厚さ0.2mmのブレージングシートと、厚さ0.2mmの3003合金(Al−1.2%Mn)単板を用い、製造したインナーフィン材をそれぞれフィン形状に成形した。
【0038】
成形後の部材を脱脂処理し、一部のインナーフィン材については2%弗酸溶液に60秒浸漬してエッチング処理した。前処理した部材を図1に示す熱交換器の構成で組付け、ステンレス鋼製の治具で拘束した。なお、図1に示す熱交換器の紙面前後方向は積層された各段を連結するタンク構造となっており、タンクの両端が開口している。
【0039】
連結された内容積0.4mの予熱室とろう付け室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用し、組付けた試験品を予熱室、ろう付け室の順で装入し、試験品の到達温度を600℃としてろう付け接合した。加熱終了時のろう付け室の酸素濃度は13〜17ppmであった。加熱終了後、予熱室で550℃まで冷却し、その後は炉外で空冷した。
【0040】
ろう付け後の試験品の中央部を切断し、外部側継手(継手1)のフィレット形成状態と内部側継手(継手2)のフィレット形成状態を目視判定した。なお、判定対象としたフィレットは、外部側継手については3段の継手1(外周部)の全てとし、内部側継手については切断面における3段の継手2の全てとした。
【0041】
外部側継手(継手1)におけるフィレット形成状態は次のように評価した。
○○○:全周にわたって均一なフィレットを形成
○○:全周にフィレットを形成しているがフィレットがやや小さい
○:全周にフィレットを形成しているが形状がやや不安定
△:フィレット切れが発生
×:全周にわたって殆どがフィレット未形成
【0042】
内部側継手(継手2)におけるフィレット形成状態は次のように評価した。
○○○:すべての接合部が均等で大きなフィレットを形成
○○:すべての接合部に均等なフィレットを形成しているが、
フィレットがやや小さい
○:すべての接合部にフィレットを形成しているが、
フィレットの大きさがやや不安定
△:フィレット未形成部が存在する
×:接合部の殆どがフィレット未形成
【0043】
インナーフィン材にクラッドしたろう材の成分、固相線温度、液相線温度、フィレット形成状態の評価結果を表1〜2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1に示すように、本発明に従って作製された試験品1〜18はいずれも、インナーフィンのろう材が早期に溶融を開始して内部側継手に優先的にフィレットを形成したため、外部側継手から内部へのろうの吸引力が弱まり、その結果、外部側継手(継手1)に切れ目のないフィレットが形成された。
【0047】
試験品3は、ろう材の液相線温度が592℃と高いが、固相線温度が570℃と低いため、内部側継手でのフィレット形成が早期から開始され、それが外部側継手から内部へのろうの吸引力を減じたものと判断された。試験品6は、ろう材のSi量を12%として液相線温度を低下させたため、内部への溶融ろうの吸引力が消滅し、外部側継手のフィレット形成がきわめて健全に行われた。また、内部側継手でも安定して大きなフィレットが形成された。
【0048】
試験品7〜10は、インナーフィンの心材へのMgの添加あるいはろう材へのBi添加によって、内部側継手でのフィレット形成能が向上した。試験品12は、エッチング処理の効果で、内部側継手でのフィレット形成能が向上した。試験品14は、インナーフィンのろう材の液相線温度の低下によって外部側継手でのフィレット形成能が向上した。但し、インナーフィンのろう材へのMg添加量が多いため、内部側継手のフィレット形成能にやや悪影響が出ている。
【0049】
これに対して、表2に示すように、インナーフィン材として3003合金単板を用いた試験品19は、外部側継手のろうが内部へ吸引されて内部側継手にフィレットを形成し、その結果、外部側継手のろうが不足して、外部側継手にフィレット切れを生じた。試験品20、22、24は、インナーフィンのろう材が早期に溶融を開始しても、酸化皮膜の破壊能力が不足しているため、内部側継手にフィレットを形成することができず、その結果、実質的に試験品19と同様に外部側継手のろうが内部へ吸引され、外部側継手にフィレット切れが生じた。
【0050】
試験品21は、インナーフィンのろう材への過剰なMg添加によって、インナーフィンのろうによる内部側継手でのフィレット形成が極小となり、結果的に、外部側継手のろうが内部へ吸引されて内部側継手にフィレットを形成し、外部側継手にフィレット切れが生じた。試験品23、25は、インナーフィンのろう材への過剰なLiあるいはCaの添加でインナーフィンのろう材の酸化皮膜が強固になり、早期に溶融を開始してもフィレットを形成することができず、その結果、外部側継手のろうが内部へ吸引されて、外部側継手にフィレット切れが生じた。試験品26は、インナーフィンのろう材の固相線温度が高いため、実質的に試験品19と同様に外部側継手のろうが内部へ吸引されて、外部側継手にフィレット切れが生じた。
【0051】
試験品27は、インナーフィンの心材への過剰なMg添加によってエロージョンが発生し、インナーフィンが変形してフィレットの未形成部が生じた。試験品28は、インナーフィンのろう材への過剰なBi添加によって酸化皮膜が強固になり、内部側継手のフィレット形成を阻害した。試験品29、30は参考として示すものであり、試験品29は、インナーフィンの心材へのMgの添加量が少ないため、表1に示す試験品5と比較しての改善効果が認められなかった。また、試験品30は、インナーフィンのろう材へのBiの添加量が少ないため、表1に示す試験品5と比較しての改善効果が認められなかった。
【符号の説明】
【0052】
1 アルミニウム製熱交換器
2 チューブプレート
3 インナーフィン
4 チューブプレートの端縁部
5 閉空間
a 外部側継手(継手1)
b 内部側継手(継手2)
図1